24年ぶりの円安と物価高が進行する下で行われる7月の参院選は、インフレ懸念を反映して日本銀行の金融政策も争点に浮上している。緩和継続を支持する与党に対し、立憲民主、共産両党が見直しを求めている。国会は15日に閉会し、与野党は事実上の選挙戦に突入する。

 「欧州中央銀行が来月の利上げ方針を決定して、日本だけが金利においては取り残されている状況でさらに円安が進む。この状況をいつまで岸田政権は放置するのか」。立憲民主党の泉健太代表は10日の会見で、金融緩和を維持する政府・日銀の対応を批判した。

円安は輸入価格の上昇をもたらすことから、同党は物価高を「岸田インフレ」と称し、国会で首相や日銀の黒田東彦総裁の姿勢をただしてきた。参院選公約では「異次元の金融緩和」は円安進行と「悪い物価高」をもたらす、として政府・日銀の共同声明見直しに言及する。

  小川淳也政調会長は12日のテレビ番組で、金融政策が参院選の「大きな争点」と明言し、黒田総裁は「そろそろ引き際をお考えになった方がいい」と語った。

岸田文雄首相は2%物価目標を掲げた日銀との共同声明を変更しない考えを表明している。自民、公明両党が了承し、閣議決定した骨太の方針は「今後とも、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を一体的に進める経済財政運営の枠組みを堅持」と明記した。

  他の野党では共産党も緩和継続が「異常円安をもたらし、物価上昇に拍車をかけている」と日銀批判で足並みをそろえるが、国民民主党や日本維新の会は当面、緩和を支持する姿勢だ。金融政策面でも野党の分断が浮き彫りになっている。 

  参院選は22日公示、7月10日投開票の日程で準備が進められている。

東京外国為替市場では13日、円が対ドルで一時1ドル=135円19銭を付け、約24年ぶりの安値を更新した。日米の金利差が一因と指摘されるが、日銀はマイナス金利を含む現行のイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)政策を軸とした金融緩和政策を続ける方針だ。

  自民党の財政政策検討本部が5月にまとめた提言でも「過度に急激な円安への動きは好ましくない」としながらも、安定した円安傾向なら国内投資の回復やインバウンドの増加が期待できるとして「わが国経済へのプラス効果は大きい」と指摘した。菅義偉前首相は参院選立候補予定者の街頭演説会で、「円安を逆手にとった経済対策を行うべきだ」と訴えている。

  一方、円安がもたらす輸入物価の上昇は与党への批判材料となり得る。

共同通信社が11~13日実施した世論調査によると、参院選の投票の際に物価高を考慮するかどうかの質問には「大いに」「ある程度」を合わせ「考慮する」との回答が計71.1%に及んだ。物価高への岸田首相の対応については「評価しない」が64.1%、「評価する」が28.1%。 

  「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と講演で発言した黒田総裁は、立憲民主から追及され撤回に追い込まれた。共同調査では、黒田氏が総裁として「適任だとは思わない」が58.5%で、「適任だと思う」の29.2%を上回った。

  BNPパリバの河野龍太郎チーフエコノミストは10日付リポートで、黒田総裁の発言に注目が集まったのは「物価安定が損なわれる恐れがあると、懸念する人が増えているからである」と分析。日本では、四半世紀を超えて続いてきたゼロインフレが「ノルム(社会規範)」となっており、「それが脅かされる異常な事態が起こり始めたと、多くの人が肌感覚で感じ始めたのだろう」との見方を示した。

ブルームバーグ
2022年6月15日 6:00
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-06-14/RD8HNSDWRGG001