ダムの下流に居る人は、ダムの緊急放流=ただし書き操作を行うという緊急報道がなされたら、直ちに6m以上の高所(場合によっては10m以上の高所)に避難をはじめる必要があります。ダムの緊急放流(ただし書き操作)というものはそれほどまでの緊急事態を意味します。実際、12日から13日にかけての緊急放流を予告する報道の中には、きわめて緊迫した状態を訴えるものが多々ありました。

 肱川大水害では、ダム下流域80kmの沿線住民には、このきわめて重要な「ダムの限界」が全く共有されていませんでした。これが長年にわたる「ヒノマルダムPA」最悪の成果です。説明会では、御用学者達によるお手盛りの「有識者会合」を根拠として「知らない方がおかしい」「住民の心構えが足りない」と解釈するほかない、とんでもない暴言が国交省側から幾度も飛び出し、市民の怒りの火に油を注ぎました。

 勿論、ただし書き操作に入っても下流が持ちこたえることは多々あります。しかし、ただし書き操作は河川計画(治水計画)の破綻を意味しており、まさに運任せの状態です。この運任せがダム災害という結果となったのが昨年の2018年7月7日西日本大水害です。筆者は、このうち肱川大水害について現在も取材を継続しており、HBOLにてその実態を報告しています。

 こういうまさに人命の関わるときになると、「ダムスキー・デマゴーグ」が跋扈し、醜悪なダム・デマゴギーを垂れ流しはじめます。まさに殺人風説者です。

 ただし書き操作は、それによって市民に甚大な犠牲を強いる結果となることが自明であっても、さらなる大規模な大災害を避ける為、ダムを守る為に行わなければならないという点で原子炉過酷事故における「ベント」ときわめて酷似しています。

 福島核災害においても「ベント」に追い込まれ、しかも失敗して爆発したり破裂した原子炉について「感謝しろ」、「良くやった」、「馬鹿は黙ってろ」という暴言が匿名の「ヒノマルゲンパツ酷死(こくし)」様達や、ごく一部ではあれ業界関係者によって大量に流布されましたが、「ただし書き操作」という多数の人命に関わる切迫した緊急事態において垂れ流されたデマゴギーも同等に深刻であり、「ダムスキー・デマゴーグ」も「ヒノマルゲンパツ酷死」同等に醜悪で有害です。

 10月14日に報じられたところによると、同時多発的にただし書き操作に陥った関東一円の6カ所ダムは、事前の放流による水位低下を行っていなかったとのことです*。これは多目的ダムの治水ダムとしての運用上の致命的な欠陥を意味します。ダムの治水機能と利水機能は、本質的に相反する矛盾した存在で、事前放流の失敗による異常高水(たかみず)や渇水(かっすい)はこれまでにも数限りなく生じてきたことです。
<*ダム緊急放流、水位調節は実施されず 国交省、対応調査へ2019/10/14 神奈川新聞

 これは、現場の国交省技官に無意味かつ過大な負担となっています。矛盾し、合理性から著しく乖離した長年の極端なダム偏重治水行政による宿痾です。そのうち自殺者を出しかねない、このような愚劣で歪んだ前例踏襲政策からは脱却せねばなりません。

詳しい内容はWEBで

<取材・文・図版/牧田寛>