※冒頭略

■災害規模被害状況不明にもかかわらず飛び交った翼賛デマゴギー

 10/12日の夕方頃から、関東一円で多数のダムが緊急放流=ただし書き操作=異常洪水時防災操作を行うという緊急報道がなされはじめました。それと同時に毎度毎度の「ダムに感謝しろ」「異常洪水時防災操作は、避難の時間を稼いでくれる感謝しろ」「ダムは無謬」という典型的な人命を著しく危険にさらす嘘が流布されはじめました。

 さらには、完成直後の八ッ場(やんば)ダムが偶然空っぽで、一夜にして満水になったという報道をもとに「八ッ場ダム最高!八ッ場ダムはガンダムだ」という赤面もののデマゴギーが蔓延りました。なかには、「八ッ坂ダム」だの「八ッ橋ダム」などと言う正体不明の怖そうだったり美味しそうなダムまで現れています。

 私はこういう連中を「ダムスキー・デマゴーグ」と命名しています。自室でダムカレー食ってダムカードを千回擦って満足していれば無害なものを、何を嬉々として翼賛デマゴーグになるのか私には理解できません。

■緊急放流(ただし書き操作)は、河川計画の破綻

 まずダムの緊急放流(ただし書き操作)とはなんでしょうか。豪雨によってダム上流の河川水位が上がると、ダムは流量調節によって下流の増水を抑止し、ダム湖に水をためます。ダム湖が満水になる前に増水が収まればダムの洪水調節は成功し、洪水は起こりません。また、降雨が収まれば、ダムはダム湖の水位を下げるための放水を行います。これがダムの洪水調節機能です。だいたい多くは中規模の洪水までは対処できます*が、一方で小規模の洪水では、堤防治水で十分です。
<*ダムのハードウェア、ソフトウェアの設計によっては、大洪水にも対処できるが、設計を超える洪水には耐えられない>

 しかし、洪水調節中にダム湖が満水になると、そのままでは水はダムの堤体を越水し、ダムは電装系などの破壊によって操作不能となり最悪の場合にはダムは崩壊し、鉄砲水で下流を壊滅させます。下流にダムがある場合は、連鎖ダム崩壊を起こして万単位の犠牲が出る可能性もあります。

 これを避ける為に、ダム湖が満水になり、流入水量の減少も見込めない場合、ダムは緊急放流=ただし書き操作をはじめます。ただし書き操作では、流入量と放流量が等しくなるように放流しますので、簡単に言えば、ただし書き操作に入った時点でダムは存在しない状態となると考えれば良いです*。
<*実際には、県営ダムなど自治体運営のダムでは、ただし書き操作であってもできるだけ流量を下げる努力をする傾向がある。また、ただし書き操作になるような状況でもぎりぎりまでマニュアル外の操作でただし書き操作を回避する傾向がある。代表例としては2018年7月7日豪雨や2014年8月3日豪雨における高知県営鏡ダムが有名**で「神職員」が居るとまで噂される>
<** 豪雨の中で鏡ダム越流をギリギリ回避した高知県職員 放流量を巧みに操作2014/08/05高知新聞>

 ただし書き操作は、ダムが治水機能を失うことを意味し、ダムは「ダムを守る」ことに専念します。国交省が「異常洪水時防災操作(ただし書き操作)は下流を守る為に行う」と常に釈明しますが、この正確な意味は、「ダムを守ることによってダム崩壊を阻止し、結果として下流が鉄砲水で万単位の犠牲を出すことを回避する」という意味です。

 従って、ただし書き操作は、基本的に「下流が大洪水で人が死のうと町が沈もうと、ダムのみを守る。」という事を意味します。勿論、ダム崩壊が起きれば鉄砲水で何もかも押し流されて後には何も残りませんから、ただし書き操作を行うこと自体は、きわめて正しいのです。

 ダムは、設計をこえる洪水には対処できず、治水機能を短時間で失います。結果として下流には急激な大洪水が押し寄せて町も何もかも沈み人が死にますが、それは仕方ないのです。ダムとはそういったものです。

 このダムの限界について、国交省は当然知っていますし、ダム管理事務所の職員もただし書き操作をすれば何が起こるかは熟知しています。しかし、多くは中規模の洪水を抑止するというダムの機能の代償として、設計を超える大洪水の時にはダムが治水機能を失い、突然大洪水が起こるというダムの本質的限界について国交省は殆ど説明せず、ダムの意義すら無い小規模洪水について「赫々たる戦果」を広報し続けています。これが「ヒノマルダムPA」という「ヒノマルゲンパツPA」(Japan’s Voo-doo Nuclear Public Acceptance :JVNPA)と同じ詐術です。


2につづく

ハーバービジネスオンライン
2019.10.16
https://hbol.jp/204207/