https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180817-00057054-gendaibiz-pol&;p=1

(略)


 大塚家具のような例は、たぶん、他にもたくさんあるだろう。創業者の経営スタイルを2代目、3代目が改めようとして、失敗してしまう。「正しい路線」を目指しているのかもしれないが、それは「できない話」であることに気が付かないのだ。

 これは政権運営でも、実はまったく同じである。

 いま、永田町では自民党総裁選の行方が焦点になりつつある。出馬が見込まれる2人の候補者は「正しいこと」と「できること」の違いを認識しているかどうか。私の観察では、安倍晋三首相は完全に理解している。だが、対抗馬と目される石破茂・元幹事長はどうかといえば、心もとない。

 たとえば、憲法改正問題である。

 安倍首相は憲法改正について「9条1項(戦争放棄)と2項(戦力の不保持と交戦権の否定)はそのままにして、自衛隊を明文化する」案を提案している。これに対して、石破氏は「2項を破棄して国防軍創設」を唱えている。

 どちらが正しいのかといえば、私は石破氏の案が「正しい」と思う。

 北朝鮮の核・ミサイル問題でも、石破氏は「米軍による核持ち込み」を念頭に置いて、非核三原則の見直しを主張した。核を「持たず、作らず、持ち込ませず」のうち「持ち込ませず」はやめて、正々堂々と米軍に持ち込んでもらう。それで、北の核に対する抑止力にしようという考えだ。

 これも理論的には正しいと思う。だが、真の問題はいずれも「それができるか」なのだ。


いま、できることをやる

 安倍首相が9条改正で自衛隊の明文化を目指すのは、世論の動向や永田町の現実を考えれば「いまは、それが精一杯」であるからだ。国防軍創設などと真正面から言い出せば、強烈な反対に遭うに決まっている。失敗すれば、政権自体が崩壊しかねない。

 それは石破氏も分かっているはずだ。だからこそ、石破氏は「参院選の合区解消や緊急事態条項の創設が先」と言って、9条改正を先送りする意向を示している。それでは、いつまで経っても、9条は改正できないだろう。

 政治家の仕事は「正しいことを主張する」ことではない。それは評論家の仕事だ。政治家は「いまできることをして、少しでも国を正しい方向に導く」ことが仕事である。「正しいこと」と「できること」はまったく別なのだ。

 経営者であれ内閣総理大臣であれ、トップリーダーは置かれた会社や国の現状をしっかり見極めて、その中で「できること」をするのが仕事だ。いくら正しくても、できもしないことに手を付けると、どうなるか。会社も政権も倒れる。これは「失敗の法則」と言ってもいい。

 かつて、たとえば公務員制度改革のような「正しいこと」をしようとした第1次安倍政権は倒れ、いま大塚家具が苦境に陥っている。安倍首相は失敗から教訓を学んだ。久美子社長は失敗の法則に気が付いたかどうか。気が付いたとしても、残念ながら、遅すぎた。

長谷川 幸洋