古今東西、為政者はそしられ、揶揄(やゆ)の対象とされるものだろうが、同じようなパターンの批判が繰り返されると鼻につく。産経新聞自身の反省も込めて少々記しておきたい。自民党が大敗した東京都議選投開票日の2日夜、安倍晋三首相が都内のフランス料理店で会食したことが、やり玉に挙げられている件である。

フランス料理に批判

 「夜の会合に連日行き、一晩で何万もするような高級店に行っている。庶民の感覚とかけ離れている」

 これは、安倍首相に投げかけられた言葉ではない。平成20年10月、当時の麻生太郎首相が記者団から受けた質問である。このころ、麻生氏はホテルのバー通いなどが問題視され、メディアから「庶民感覚がない」「カップラーメンの値段を知らない」などと責め立てられていた。

 今回、安倍首相は同様に「ぜいたくだ」「落選した候補者の気持ちが分からない」などと攻撃された。首相は就任前の24年9月、自民党総裁選決起集会で験担ぎのカツカレー(3500円)をホテルで食べた際にも、テレビのワイドショーなどで散々いじられていたが、そこに、政治の何の本質があるというのか。

 会合場所が安居酒屋だったり、食事がカップめんだったりすれば、政権運営はうまくいくのか。苦い肝をなめ、固い薪の上に寝れば国民の暮らしはよくなるのか。そんな道理はない。

相手は年長の党重鎮

 安倍首相が2日会食した相手は、副総理兼財務相の麻生氏と菅義偉官房長官、甘利明前経済再生担当相の3人の党重鎮である。全員が首相より年長であり、しかも麻生氏は翌3日に新麻生派「志公会」の正式発足を控えてもいた。

 彼らは、第2次安倍政権発足時から安倍首相を支えてきた盟友ではあるが、政治家として今後、しのぎを削るライバルにもなり得る存在であり、一般の損得抜きの友人関係とは異なる。

 会合はそんな相手に、学校法人「加計学園」問題や都議選の不振で苦境にある安倍首相が頭を下げ、改めて協力と結束を依頼する場だった。赤提灯(あかちょうちん)でちょいと一杯やろうという話ではなく、ふさわしい舞台装置が必要だったはずである。

 「安倍首相を力強く支えていくことが国益につながると思っている。安倍政権をど真ん中で支えていくことには一点の曇りもない」

 麻生氏は3日の新麻生派設立記者会見で、こう強調した。

 甘利氏は4日のBS日テレ番組で、2日の会合について「一からやるつもりで結束しようという感じだった」と振り返っている。

メディア不信の元凶

 物事の本質とは関係のない一部分だけを切り取り、その時々の事情も背景も考慮せずに、これが実態だとばかりに強調するメディアの手法は、すでに深刻なメディア不信を生んでいる。

 ジャーナリストの池上彰氏は22年9月、就任後にも行きつけのラーメン店に行った菅直人首相(当時)を「庶民派」だと持ち上げたが、たとえば菅氏の23年6月29日の夜日程は次のようである。

 まず7時21分に東京・赤坂のすし店で会食し、9時16分から東京・六本木の焼き肉店へとはしごし、さらに10時16分からは伸子夫人も合流して、近くのイタリア料理店で11時25分まで1時間以上過ごしている。

 まだ同年3月に起きた東日本大震災の傷痕も生々しい時期に、高級店で飽食の限りを尽くしている。菅氏の健啖(けんたん)家ぶりは極端にしても、メディアは切り取った部分によって、その政治家を庶民派ともどうとでも描ける。無意味で恣意(しい)的な切り取り報道は、大事な点を見えなくする。(論説委員兼政治部編集委員

http://www.sankei.com/premium/news/170714/prm1707140006-n3.html