老後の頼りになるはずだった年金。国の検証の結果、約30年後には現在より2〜3割目減りすることがわかった。政府は制度が100年持続可能だと安心ばかり強調するが、もはや信用できない。私たちにできるのは死ぬまで働き、生活費を切り詰め、自力でお金をためること。“年金サバイバル”を生き抜こう。

 厚生労働省は8月27日、年金財政検証の結果を公表した。公的年金の100年先までの見通しを5年に1度チェックするものだ。

 厳しい財政状況が改めて示されたが、安倍政権は年金制度は100年先でも安心だとする。支払う年金額を抑えるので制度自体は維持できるかもしれないが、年金だけでは暮らしていけないのは明白だ。安倍政権は老後資産の「2千万円不足」問題を否定し、さらに、年金だけでは暮らしていけない事実まで覆い隠そうとしている。私たちは2度だまされるかもしれないのだ。

 年金に詳しい社会保険労務士の北村庄吾さんはこう解説する。

「自分自身で老後の備えをしないと、暮らしが立ち行かなくなることがより明らかになりました。『相当甘い』経済条件の前提なのに、想定した六つすべてのケースで年金額が大きく目減りします。年金で老後の生活費をどこまで賄えるかを、これまで以上に知っておく必要があります」

 ではどれだけ目減りするのか。検証では、平均的な収入で40年働いた会社員と専業主婦の2人家庭を「モデル世帯」に設定。経済成長率や物価・賃金上昇率、運用利回りといった条件を変えて、年金額の見通しを出している。

 ここでキーワードになるのが「所得代替率」という年金水準を示す指標だ。受け取り始める時点の年金が、その時点の現役世代の平均的な手取り収入の何%にあたるかを示す。数値が低くなれば、それだけ価値が目減りすることになる。

 モデル世帯の夫婦2人が2019年度に65歳で年金を受け取り始めるときの額は月22万円。所得代替率は61.7%。自営業者らが入る国民年金だけだと額は13万円、所得代替率は36.4%だ。

 高成長が続き働く人も増える楽観的なケースでも、所得代替率は46年度に51.9%まで下がり、年金は約2割目減りする。国民年金だけの人は約3割も目減りしてしまう。

 マイナス成長が続く悲観的なケースはさらに深刻だ。52年度には国民年金の原資となる積立金が枯渇。現役世代が納める年金保険料と国庫負担だけで賄うことになり、所得代替率は53年度には37.6%まで低下。年金額は約4割、国民年金だけだと実に半分ぐらいまで目減りする。

 標準的な場合の年齢ごとの年金額の見通しは、どの年齢でも、受け取り始めてから目減りし続ける。

 検証結果のように年金が2〜3割も目減りすれば、老後の生活は苦しい。ここで思い出されるのは、老後の生活資金は2千万円不足するという問題。

 金融審議会の報告書では、総務省の家計調査をもとに、夫65歳以上、妻60歳以上の無職高齢夫婦世帯が平均寿命まで20〜30年間生きる場合、計1300万〜2千万円の蓄えの取り崩しが必要だと指摘した。

 年金だけでは老後の生活が成り立たないという「不都合な真実」に、政府は報告書の受け取りを拒否。安倍晋三首相自ら年金制度の安心をアピールした。

 今回の検証結果を見ると、不足額は2千万円どころではないことがわかる。仮に年金の目減り分だけ家計の赤字が増えるとすると、取り崩しが必要な額は1千万円以上増えて、3千万円を上回るケースも想定される。

 年金を頼りに暮らしていこうと思っていた人たちにとっては、将来の不安が高まる。国民年金だけしか入っておらず、保険料の未納期間があるような人はなおさらだ。第一生命経済研究所の副主任エコノミスト、星野卓也さんは、ロストジェネレーションとも呼ばれる「団塊ジュニア」の世代が心配だという。

「この世代は2040年前後には年金を受け取り始めますが、十分もらえない人が増えると予想されます。蓄えがなくなる人や、働けなくなる人も想定されます。社会保障制度の充実を考える必要があります」

 国民年金は満額でも1人当たり月6万5008円(19年度)しかもらえない。年金だけで生活できないとなれば、蓄えがなく働けない高齢者らは、生活保護に頼らざるを得なくなる。

2につづく

2019.9.9 07:00 週刊朝日
https://dot.asahi.com/wa/2019090600060.html