二十八日の米朝首脳会談では拉致問題も取り上げられた。だが、具体的な成果はなく、北朝鮮による拉致被害者家族からは落胆の声も漏れた。 

 田口八重子さん=失踪当時(22)=の兄で家族会代表の飯塚繁雄さん(80)は二十八日夕、埼玉県上尾市の自宅前で報道陣の取材に応じ、「二回目の交渉なので、具体的な結果が出ると思っていたのでがっかりした」と落胆した様子で語った。

 日本政府からの連絡はなく、テレビなどで状況を見守っているという。首脳会談で日本の拉致問題がどう取り上げられたかも心配し、「(話し合われたとしても)どんな雰囲気で、どんなコメントだったのかが見えず、気掛かりだ」と不安な心境を吐露した。

 その上で「北朝鮮は『拉致被害者はいない』とははっきり言っていない。われわれは被害者は生きて待っていると思っている。被害者を早く返してほしいということだけを訴えていく」と述べた。 (森雅貴)

◆横田さん「祈るしかない」

 横田めぐみさん=同(13)=の母早紀江さん(83)は川崎市内で記者会見し「私は長い間、闘ってきた。家族は忍耐強く頑張ってきたので、あとは祈るしかない」と厳しい表情を浮かべた。会談結果は「北朝鮮の要望にそのまま乗らず、とどめてくれたのは良かった」と評価した。

 拉致被害者の蓮池薫さん(61)も「合意に至らず終わったのは意外で残念」とした上で「下手に譲歩した合意よりは真の非核化や拉致問題の(解決に向けた)進展につながる。議題に拉致問題が上がったのは幸いだった」とのコメントを出した。

 「進展を期待したが、非核化が一番の問題なので難しいと思った。いくら訴えても伝わらないのか…」。留学先のスペインで拉致された熊本市出身の松木薫さん=同(26)=の姉斉藤文代さん(73)は無力感を漂わせた。「みんな年をとり、いつまでも待てない」と焦りの色がにじんだ。

 神戸市出身の有本恵子さん=同(23)=の父明弘さん(90)も「長引く交渉を待っていられない。今後は日本が独自に交渉を進めるしかない」と求めた。

東京新聞
2019年3月1日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201903/CK2019030102000129.html