厚生労働省が毎月勤労統計の調査対象入れ替え方法を変更した経緯について、同省関係者が14日、共同通信の取材に「国会でも賃金の話が出ており、何とかしなきゃいけないと思った」と証言した。公正であるべき統計に経済政策を重んじる官邸の意向が反映された疑いが出てきた。2015年、当時の中江元哉首相秘書官に賃金伸び率の低下を説明した同省幹部は「アベノミクスで賃金の動きが注目されている」として急きょ有識者検討会を設け、短期間で結論を出すよう要請していた。

 安倍晋三首相や菅義偉官房長官は13、14両日の衆院予算委員会で「(中江氏は厚労省に)改善の可能性などについて問題意識を伝えた」と答弁していた。

 国会答弁などによると、厚労省の宮野甚一総括審議官と姉崎猛統計情報部長(いずれも当時)は15年3月末、中江氏に直近の統計結果を報告した。15年1月分からは調査対象事業所を入れ替えたことに伴い、過去の結果と比較できなくなる「ギャップ(隔たり)」が生じていた。

 このため厚労省は過去の結果と比べられるよう、前回の入れ替えがあった12年1月からの3年分をさかのぼって修正した。この修正により12〜14年の平均給与額の伸び率(対前年比)はそれまで公表していた数値より0.2〜0.4ポイント低下し、アベノミクスの成果をアピールできない結果となった。

 厚労省で統計を担当していた関係者は取材に「昨日までプラスと言っていたのが、(修正で)翌日から全部変わってしまい、官房長官も『変な統計だ』と言っていた。過去の数字を変えなくて済むやり方の方がいいと思った」と話した。

 厚労省は15年5月中旬に有識者による「毎月勤労統計の改善に関する検討会」を発足させ6月3日に初会合を開催。別の厚労省関係者は取材に、中江氏の意向を受ける形で設置し、急ピッチで会合を開くことになったとの見方を示した。

 検討会は15年9月まで計6回開催したが、立ち消えになった。議論は総務省統計委員会に引き継がれ、18年1月分からは入れ替えに伴う過去分の修正をやめた。

 首相は今月13日の予算委で「私からどうなってるんだと指示したことは全くない」と自身の関与は否定したが、野党は政権の意向が影響したとみて追及を強める構えだ。(共同)

毎日新聞
2月15日 09時42分https://mainichi.jp/articles/20190215/k00/00m/040/008000c.amp