【近江遥誕生祭】握る手と繋ぐ手
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近江彼方は、私にとって自慢のお姉ちゃんです。
優しいし美人だし、勉強も出来て。それにすっごく料理が上手なんです。
お姉ちゃんが料理をしている姿を眺めるのは、私の生きがい――。それは言い過ぎかも。えへへ。 包丁を握るお姉ちゃんの手は、とってもつよそうです。
職人さんみたいというか、なんというか。
かたいお魚もお姉ちゃんの手にかかれば、あっという間に美味しそうな切り身になっちゃいます。 「遥ちゃんのお魚さんは、骨を抜いておいてあげよ~」
そんなことを言って、優しい手付きで丁寧に一本一本骨を抜いていくお姉ちゃん。
そんな子ども扱いに、私は「大丈夫だよぉ」と抗議。
膨らませたほっぺたは、つっつかれてすぐにしぼんじゃいました。 「ただいま~」
「え? お母さん? 今日は早かったんだねー!」
お母さんは、いつも帰りが遅いです。私たちのために一生懸命働いてくれてるから。
少し肩で息をしながら。それでも優しく微笑みながら。お母さんはカバンを持つのと反対の手をひらひらと振ります。 「今日、近くの公園でお祭りやってるわよ。かなちゃんとはるちゃんも行ってきたら?」
「え、でも……」
はんぶんくらい切り身になったお魚をちらり。早くお姉ちゃんのお料理を食べたいけれど。お祭り、お姉ちゃんと。
……行きたいなあ。 「大丈夫。続きはお母さんが作っておくから」
「そっか~。じゃあ、いこっか遥ちゃん」
「! うん! いくいく!」
思わず、大きな声を出してしまいました。
もしかしたら、嬉しいのが顔に出すぎちゃったのかも。また子どもだと思われたのなら、ちょっとくやしいです。 *
*
*
お祭りには、たくさんの人が集まっていました。多分、佐賀県の人口くらいいます。
お姉ちゃんの手にはりんごあめ。私の手にはわたあめ。
「わたあめって、ふわふわしててお姉ちゃんみたい」って言ったら、「りんご飴って、可愛くて遥ちゃんみたいだね~」だって。うれしいな。 「遥ちゃん、どこか行きたいとこはあるかい?」
「お姉ちゃんと一緒ならどこでもいいよっ。お姉ちゃんは?」
「うーん。彼方ちゃんも、遥ちゃんと一緒ならどこでもいいんだ~」
「これじゃあどこにも行けないよ!」
「えへへ~」
このやり取り、実は何回もしてたり。私たちのお約束みたいなものなんです。
でも、私は本気ですよ? ずっと、ずっとお姉ちゃんと一緒にいたいって思ってます。 「……本当のことを言うとだね」
「え?」
「ちょっとお手洗いに……。行きたいなあ」
「……もうっ」
少しだけ、ドキッとしちゃいました。いえ、私は信じてるんですけどね? お姉ちゃんは私のことをすっごく大事に思ってくれてるって。
本当ですよ? いつも宿題を手伝ってくれるし、私の嫌いなものは入ってるのが分からないように料理してくれるし、時間があればいつも私のライブの動画を見てるし……。 「あれ?」
お姉ちゃんがいません。お手洗い、一人で行っちゃったんだ。
たぶん近くのコンビニだと思います。喉もかわいたし、私も行こうかな。 *
*
*
コンビニです。おトイレに入っているのはお姉ちゃんだと思っていました。
数分後、出てきたのは知らない人……。
はい。はぐれました。
よく来ているコンビニなのに。1日でお姉ちゃんと過ごしている時間より、一緒じゃない時間のほうが長いのに。
なんだか、泣きそうな気持ちです。
スマホ……。そう、スマホがあります。アルバムを開けば、すぐお姉ちゃんに会えます。
いやいや。連絡を取ればいいんですよね。 「あっ」
充電切れ。こんなベタな展開があるんでしょうか。
大丈夫、大丈夫。ここは家から近いコンビニです。お姉ちゃんもすぐに帰ってくるはず。
……どうなんでしょう。私の知ってるお姉ちゃんなら、私を見つけるまで帰ってきません。
お母さんから連絡してもらう! そうだ、それです!
スマホ、充電切れでした。 帰ってからお母さんに連絡してもらう。そうですね、間違いなさそうで
「遥ちゃん」
柔らかな感触。右手を中心に、心が落ち着いていくのを感じます。
「お姉ちゃん……!」
強く握り返した手は、お魚を切っている時と全然ちがって……。
とっても優しい、温かい手でした。
完 彼方ちゃんと遥ちゃんの温もりが伝わってくる神SS
地の文も雰囲気合ってて素晴らしい
乙です! ノレcイ* ¯ ꒳¯*) 遥ちゃんの誕生日が着々と知られてきたようだね〜 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています