せつ菜「スカーレットの衝動」
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私、優木せつ菜は、吸血鬼である。
吸血鬼と言っても、ちょっと力が強いのと、傷の治りが速いくらいで、これといって特殊な能力はない。
身体を蝙蝠に変化させたり、空を飛んだり、魔法でも使えたりすれば、アニメやラノベのキャラみたいでかっこいいのだけれど。
自分が吸血鬼ってわかったのは、ちょうど三か月前くらい。同好会の練習中、外でランニングをしている時のことだった。
歩夢「いったた……」
かすみ「わっ! 歩夢先輩!? 大丈夫ですか!?」
歩夢「転んじゃったみたい……」
愛「うわー、結構すりむいちゃってるね。誰か絆創膏持ってない?」
彼方「彼方ちゃん持ってるよ〜」
愛「カナちゃんナイス! じゃあどっかで洗おっか」 歩夢「あ、菜々ちゃん」
ドクンと心臓が鳴って、私の中の怪物が騒ぎ始める。彼女の血を吸えと捲し立てる。
歩夢さん、どうしてここに……!
いや、クラスが違うとはいえ、歩夢さんは私と同じ普通科の生徒。同好会以外で、今まで顔を合わせることなんて、何度もあったはずだ。
しかし、今はまずい。
歩夢「今から同好会行くんだけど、一緒に行かない?」
菜々「……生徒会の、用事がある、ので」
とっさに目をそらし、嘘をつく。お願いだから、気付かないでいて。 歩夢「そっか」
菜々「……では」
歩夢「待って」
菜々「……何ですか?」
歩夢「菜々ちゃん、もしかして」
やめて、それ以上は。
歩夢「体調悪い? まさか、もう吸いたかったりする?」
私の顔を覗き込んでくる。また、あの匂いが。
菜々「い、いえ、だいじょうぶ、でs——」
歩夢「菜々ちゃん!?」 ——
目を覚ますと、心配そうな、でも少し怒ったような顔をした歩夢さんがそばにいた。保健室のベッド。一週間前と同じことになってしまった。
歩夢「あ、起きた? 大丈夫?」
菜々「……大丈夫、じゃなさそうです」
眼鏡をかけながらそう答える。はっきりとした視界で見ても、歩夢さんの心までは読み取れない。
歩夢「そうだよね。よだれ、垂れてるもん」
菜々「えっ!?」
歩夢「嘘。出てないよ」
歩夢「やっぱり、お腹空いてるんだね」
菜々「う、噓ついたんですか!?」
歩夢「そうだね。ついたのは、菜々ちゃんもだけど」
菜々「あ……」 歩夢「一か月は大丈夫って言ったよね」
菜々「……それは本当です。今までは確かにそうでした」
菜々「たぶん、血の味を覚えてしまったから、吸いたくなるペースが速くなったのでしょう」
歩夢「ふーん。そうなんだ」
普段とは明らかに違う声色。疑われているのは間違いないだろう。
歩夢「じゃあ、生徒会の用事があるって言ったのは?」
菜々「……それは」
歩夢「嘘だよね。侑ちゃんに聞いたよ。今日は休むつもりだったんだよね?」
菜々「……はい」 歩夢「…………私じゃ、頼りない?」
菜々「そんなことありません!」
歩夢「じゃあどうして侑ちゃんにだけ伝えたの?」
歩夢「やっぱり、私なんか……」
菜々「……これ以上、歩夢さんを傷つけたくないからです」
歩夢「菜々ちゃん、電話のときも言ってたけど、傷つけたくないって、何?」
菜々「その、血を吸うのが、負担になると思って」
歩夢「いつ私がそんなこと言ったの?」
歩夢「私は菜々ちゃんなら、血を吸われてもいいんだよ」
歩夢「欲しいなら、今だって……」
そう告げると歩夢さんは、おもむろに制服を脱ぎ始めた。 歩夢「ねえ、吸ってよ」
歩夢「美味しかったんでしょ。私の血」
歩夢「満足するまで、吸ってよ」
詰め寄ってくる歩夢さん。ベッドの上には、逃げ場なんてもうなくて。
歩夢「菜々ちゃん」
優しく包み込まれた。体温も、鼓動も、吐息も伝わる距離。私の力であれば、簡単に振りほどけるはずなのに、微塵も抵抗できない。
歩夢さんの血が、歩夢さんが、欲しくてたまらない。 菜々「…………本当に、いいんですか?」
噛みついてしまう前に、もはや理性とも呼べないようなもので私の怪物を抑え込み、そう聞く。
ダメって言ってほしい。私を否定して、拒絶してほしい。そうしてくれれば、引き返せそうな気がしたから。
けれども、歩夢さんは——
歩夢「そう言ってるじゃない」
私を倒すのは、聖水でも、太陽の光でも、銀の弾丸でもなかった。
歩夢さんの笑顔。それだけで充分だった。 菜々「歩夢さん……! ごめんなさい……!」
髪の毛をかきあげて、剝き出しになった首筋に噛みつく。すると、糖分をたっぷり蓄えた桃のような香りが私を包んだ。その香りに誘われるままに、皮膚を貫き、吸血を始める。
菜々「……んく、……ごくっ……ごくっ」
歩夢「……はぁっ! ……んっ! ……あっ!」
以前吸った時より、歩夢さんの声が激しくなっているような気がする。けれども、歩夢さんを気遣っている余裕なんてなかった。
どうして……どうしてこんなに美味しいの。
その味は、重くのしかかる罪悪感も、その裏にひっそりと隠れている背徳感も、全て吹き飛ばしてしまうほどで。 歩夢「ななちゃんっ……! ななちゃんっ……!」
私を掴む手に力が入ってくる。求められているみたいで、私の情欲がますます燃え上がる。
歩夢「……やぁっ! あんっ! ……ああっ!」
歩夢さん。歩夢さん。この時だけは、私の、私だけの物。
歩夢「…………な、なちゃ」
名前を呼ぼうとしたであろう、消え入るようなか細い声を聞くまで、私は歩夢さんを摂取し続けた。 ——
菜々「大丈夫ですか? 歩夢さん」
歩夢「……う、うん」
明らかにぐったりしている。吸い過ぎてしまったのかもしれない。
菜々「……大丈夫そうじゃないですね」
菜々「やっぱり、人間から血を吸うのはやめることにします」
菜々「歩夢さんも、私が吸いたい時には近づかないでください」
歩夢「だ、だめ」
菜々「ダメも何もないでしょう。歩夢さん、ふらふらじゃないですか」
歩夢「菜々ちゃんは、私の血しか……吸っちゃだめ、なの」
縋りつくように、私に抱き着いてくる。
歩夢「私なら、大丈夫だから」
歩夢「心配なら、ご飯もいっぱい食べて、たくさん血を作るから」
歩夢「私の血だけ、吸って」 菜々「……どうして」
菜々「どうしてそんなにしてくれるんですか?」
私がそうこぼすと、歩夢さんと目が合った。綺麗な瞳。普段は曇ることのないそれに、今は迷いの色も混じっているような気がして。
その瞳の奥の感情も全部知りたい。見つめていれば、少しは分かるのかな。
炎のような熱い色がかすかに見えた時、歩夢さんが口を開いた。 血を吸った相手がどうなるみたいな話は伝わってないのかな 歩夢「…………菜々ちゃんが、好きだから」
歩夢「菜々ちゃんのためなら、なんでもしたいの」 菜々「……っ!」
歩夢「な、ななちゃ——」
菜々「私も好きです! 大好きです!」
恋しくて、愛しくて、大好きすぎて、抱きしめずにはいられなかった。
歩夢「……私も大好き!」 ——
歩夢「菜々ちゃん。そろそろいい?」
菜々「あ、はい! すみません」
歩夢「ほら、ここ保健室だし、そろそろ出なきゃ」
菜々「そうですね」
歩夢「人が来なくてよかったよ」
菜々「この後はどうしますか? 歩夢さんは……」
歩夢「今日は練習できないかな」
菜々「ですよね……すみません」
歩夢「いちいち謝らないで。私が吸っていいって言ったんだから」
菜々「でも……」
歩夢「そうだなあ……じゃあ、家まで送ってくれる?」
歩夢「私、倒れちゃうかもしれないから」
菜々「分かりました。お供します」
歩夢「ふふっ、お願いね♪」 ——
菜々「それでは、行きましょうか」
歩夢「ねえ」
菜々「なんですか?」
歩夢「……手、繋いで?」
歩夢「……ほら、倒れちゃったときのために」
嘘だ。歩夢さんは繋ぎたいだけなのだろう。欲張りなのに、ちょっぴり恥ずかしがり屋さん。そんなところがとってもいじらしい。
菜々「あはは、そこまで気が回りませんでした。そうしましょう」
でも、恥ずかしがりなのは、たぶん、歩夢さんだけじゃなくて。
菜々「……」
歩夢「……」
……私たち、付き合う前は、どういう風に話していたんだっけ。
分からないけれど、気まずさは感じなかった。
ほころんでいる口元や、温度を伝えてくれる手が、言葉にせずとも、これでいいんだよって肯定してくれているから。 温かい沈黙を二人で共有しながら歩いていく。
しばらく歩いて、歩夢さんの家がだいぶ近くなった時、ふとあることを思い出した。
菜々「歩夢さん。私の眷属になってくれませんか」
歩夢「……けんぞくって、何?」
菜々「吸血鬼が血を分けた人間のことです」
菜々「眷属を作れば、他の人の血は吸えなくなりますが、その眷属一人の少しの血だけで生きていけるそうです」
吸血鬼についてお母さんから話してもらった時、眷属についても聞いていた。
先祖の中には、大切な人を眷属にして、その人だけから血をもらうって人もいたらしい。
歩夢「じゃあ、私、せつ菜ちゃんの眷属になるよ」
菜々「……提案した私が言うのもなんですが、眷属になったらずっと私に血をあげないといけないんですよ」
菜々「だから、一度しっかり考えてから決めてほしいんです」
歩夢「うーん……」
歩夢「それって、ずっと一緒に居られるってことでしょ?」
歩夢「それなら大丈夫だよ。私、菜々ちゃんのこと大好きだから」
菜々「…………歩夢さんにはかないませんね」 ——
私の両親が出かける予定の日と、同好会の練習のない日が重なった日。
二人で決めたその日に、歩夢さんが私の家に来た。
私の大切な人で、大好きな人。
今日、私は彼女を眷属にする。
歩夢「よろしくね、せつ菜ちゃん」
眷属化といっても私の血を飲むだけでいいから、大仰な準備なんかは必要ない。もし両親がかえってきた時のために、儀式は自分の部屋で行うことにした。
せつ菜「はい。では、さっそく始めますね」
ナイフで左手の掌を切り付ける。鋭い痛みと引き換えに、自分の血がコップに溜まっていった。
歩夢「痛くないの……?」
せつ菜「痛いですけど、すぐ治りますから大丈夫ですよ」
せつ菜「それを言うなら、吸血はどうなんですか?」
歩夢「噛まれるときは痛いけど、吸われてるときは痛くないかな」
せつ菜「そうなんですか……」 せつ菜「……やっぱり、嫌だったらやめてもいいんですよ」
歩夢「もう! まだそんなこと言うの?」
歩夢「私のことが好きなら、私の言うこと、信じてよ」
歩夢「それに、せつ菜ちゃんも言ってくれたでしょ」
歩夢「始まったのなら……!」
まっすぐに突き出された右手。自信たっぷりな笑顔。
ああ。本当に、歩夢さんにはかなわない。
せつ菜「貫くのみ、ですね」
歩夢「うん!」 歩夢さんにコップを手渡す。まじまじと見つめてから、私の顔を見て一言。
歩夢「いただきます」
ごくり、ごくりと、一息に飲んでいく。
歩夢「ぷはっ……」
歩夢「ごちそうさまでした」
歩夢「私、せつ菜ちゃんの眷属になったんだね」
せつ菜「はい。気分はどうですか? 血を飲んだので、具合が悪くなったりするかもしれません」
歩夢「うーん。むしろ、ぽかぽかしていい気分かも」
そう言うと、歩夢さんは牙を見せて笑ってみせた。
…………え、牙? 血を吸われたら吸血鬼になるのはよくあるけど血を飲ませて仲間を増やすのか 歩夢「初めて飲んだけど、血ってとっても美味しいんだね」
歩夢「せつ菜ちゃん。もっともらっていい?」
せつ菜「え、あ、歩夢さ——」
やんわり押し倒された。今の歩夢さんはどこかおかしい。
歩夢「ねえ、せつ菜ちゃん」
歩夢「ちょうだい?」
服に手をかけ、強引に脱がせようとしてくる。私の力でも振りほどけないほどの膂力に驚きを禁じ得ない。
せつ菜「分かりました! あげます、あげますから、落ち着いてください!」
歩夢「はあい」
会話はできるようで、ひとまず安心。おそらく、眷属化した歩夢さんは、吸血鬼になってしまったのだろう。それなら、血をあげれば大丈夫かな。 手早く上の服を脱いで、下着だけの状態になる。美味しそうに見えるように、素肌を見せつけ、そこから吸うように促す。
せつ菜「……どうぞ」
歩夢「うふふ。じゃあ、いただきます」
長い髪を優しくよけてから、私の首元に噛みついてきた。
せつ菜「いっっ……!」
声を上げてしまいそうなほどに痛い。歩夢さん、毎回これに耐えていたんだ。
ぐっと深いところまで刺さった後、ゆっくりと牙が抜かれた。これから吸血されるのだろう。
歩夢さんが言うには、痛いのはここまでらしいけど…… 歩夢「ちゅっ……ちゅうう……」
せつ菜「ひぅ!?」
身構えていた身体を襲ったのは、引き裂くような痛みではなく、痺れるような快楽だった。
歩夢「こくっ…………こくっ…………」
せつ菜「……っあ! ……はっ!」
味を確かめるかのように、ちびちびと飲み始める。歩夢さんが私を吸う度に、桃色の刺激が責め立ててくる。
歩夢「ぢゅうう……ごくっ……ごくっ」
せつ菜「あっ♡ あんっ♡ ああっ♡」
気に入られたのか、吸う勢いが強くなった。押し寄せる快楽の波に溺れる。 歩夢「んん……ちゅうう……」
跳ねる身体を捕まえられる。快感の逃げ場がなくなり、声が抑えられない。
せつ菜「んあっ♡ や、やっ♡」
歩夢「ごきゅっ……ごきゅっ……」
せつ菜「ああっ♡ だ、だめっ♡」
搾り取られる。優木せつ菜を。歩夢さんの物にされてしまう。中川菜々も。
歩夢「せつ菜ちゃん、気持ちいい?」
せつ菜「あ……あゆむ、さん……」
歩夢「ふふっ。吸血って、気持ちいいでしょ?」
歩夢「これからは私も、せつ菜ちゃんを気持ちよくさせてあげられるね♡」
せつ菜「……は、はい♡」 歩夢「……あ、垂れちゃいそう。もったいない」
歩夢「ちゅっ」
せつ菜「ひゃうっ!?」
歩夢「んふふ〜」
口づけされて、舐められて、溶けてしまいそうで。
歩夢「ちゅ……れろ……んむ……」
せつ菜「あっ♡ ああっ♡」
めちゃくちゃになってしまった思考回路は、一つのことしか考えられなくなっていた。
もう一度、あの強烈な快感が欲しい。あれでトドメを刺して欲しい。
どうすればいいのか、なんて考える前に身体が動いていた。
魅了の魔法は使えないけれど、今の歩夢さんを魅了することならできる。 せつ菜「……あゆむさん」
せつ菜「わたしのち、すってください♡♡♡」
歩夢「もちろん♡」
そう言うと、歩夢さんは、深く、長く、しっとりと私の口にキスをして…………
歩夢「せつ菜ちゃん。大好きだよ♡♡♡」
最後に見たのは、淫靡に、妖艶に、可憐に笑う歩夢さんだった。 ——
あの後、いろいろ確認したら、やっぱり、歩夢さんは眷属になったと同時に、吸血鬼になってしまったらしい。
眷属が吸血鬼になったって事例は、お母さんに聞いても分からなかったけど、歩夢さんの体調も、衝動の高まる頻度も全く問題ないので、心配はないだろう。
眷属にした歩夢さんの方が、もともと吸血鬼だった私より力が強いのは……なんだか複雑だけど。
あれから、私たちは、人に見つからないところで吸い合うようになった。
食事のため以上に、快楽のために血液を交換し合う。なんてちょっとおかしいと思うけれど、これが私たちの愛の形だと思うと、結構悪くないかも。 歩夢「菜々ちゃん? 今、いい?」
菜々「ええ!? ここ生徒会室ですよ!?」
歩夢「お腹空いちゃったんだもん」
菜々「嘘つかないでください。昨日もあげたじゃないですか」
歩夢「えへへ、ばれちゃった」
菜々「バレバレです」
菜々「そもそも、お互いに眷属なんですから、こんなにする必要ないんですよ?」
歩夢「でも好きでしょ? 吸うのも、吸われるのも」
菜々「……まあ、そうですけど」 歩夢「あ〜、菜々ちゃんの血が欲しいな〜」
歩夢「……だめ?」
菜々「…………」
菜々「……ちょっとだけなら」
歩夢「やったあ! 菜々ちゃん大好き!」
菜々「すぐ終わらせてくださいね。誰かに見られたらまずいので」
歩夢「菜々ちゃんも声抑えてね。昨日ぐらいだと丸聞こえだから」
菜々「も、もう!」
歩夢「うふふ♡」
こういう時、私たちは、世界で一番幸せな二人だなって思う。だって…………
信頼で、愛情で、恋慕で、そして、緋色の衝動で——繋がっているから。
おわり お読みいただきありがとうございました。クリアファイルマガジンの歩夢ちゃんのコメントを見て、歩夢ちゃん眷属概念が見たくなったので書きました。
アニメ二期が楽しみですね。
過去作です。
せつ菜「私、最近変わったと思いませんか?」歩夢「え?」
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1645530166/l50
せつ菜「歩夢さんへの誕生日プレゼントは私です!」
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1646060937/
歩夢「せつ菜ちゃんってさ、ショートケーキみたいだよね」
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1647096793/ おつおつ!
お互いに快楽の為に血を吸い合うのが溜まりませんね
ありがとうございました!! またせつぽむ書いて おつ
ふたりとも吸血鬼になったのはある意味最高に強固な婚約だ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています