ルビィ「片割れのジュエル」 1年生編【再】
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※初めに
このssはこちらの話を一部修正したものになります
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1564633163/
以前のものは一度スレが落ちてからだいぶ間が空いてしまい
途中から再開しても内容が分かりづらいだけかと思ったのでこうして一から立て直した次第です
どうかお付き合いいただけると嬉しいです
くらい。
「……ねえ」
こわい。
「ねえ」
…さみしい。
「ねえ、大丈夫? こんなところでどうしたの?」
え?
「お母さんやお父さんは?」
お父、さん…?
「……そう」
「それじゃああなた、名前は?」
名前…? 私の、名前は──
「……よく分かったわ」
「なら…そうね、その名前…私に引き取らせてもらえない?」
どういうこと?
「ごめんなさい、難しすぎたわね…うーんと」
「貴女に新しい名前をあげる」
あたらしい、なまえ…
「ええ、よく聞いてね」
「貴女はこれから────」
……
…
─────
──黒澤家
ルビィ「……」スヤ
「……ぃ…ルビィ…」
ルビィ「……う〜ん…」ムニャ
「ルビィ!」
ルビィ「…………ん…?」 「いい加減起きなさい!」
ルビィ「わぁ!」バタン!
ルビィ「いたた……あ、お姉ちゃんだおはよう」ニマー
ダイヤ「……」
ダイヤ「はあ成程、おはようですか」 ダイヤ「……言葉は正しく、丁寧に」
ルビィ「え?」
ダイヤ「こんにちはって意味」
ルビィ「……あぁ〜」メソラシ
ダイヤ「では次の言葉は?」 ルビィ「ごめんなさい?」
ダイヤ「…よろしい」
ダイヤ「下で花丸さんが待ってます、早く着替えていらっしゃい」
ルビィ「はーい」トテトテ
ダイヤ「全く…」 花丸「……」
タッタッタ
花丸「あっルビィちゃん」
ダイヤ「お待たせしました花丸さん」
ルビィ「お待たせしました」ニコ
ダイヤ「…」ジロッ
ルビィ「あ、あはは…」
花丸「またお寝坊さん?」クスクス
ルビィ「うーん、疲れてたのかなぁ?」
ダイヤ「いいから早く行きなさい、いつまで待たせるつもりですか」
ルビィ「えへへ、ごめんなさい」 ルビィ「それじゃあ行ってきます」
花丸「いってきます」
ダイヤ「はい、いってらっしゃい」
スタスタ
ダイヤ「……あれが、来月から高校生ですか」
ダイヤ「先行きが不安というか何というか……」
ダイヤ「──本当に、あっという間」
……
ルビィ「でも本当にごめんね花丸ちゃん、行こうって言ったのはルビィなのに」
花丸「大丈夫ずら、そんなに待ってなかったから、本当だよ?」
ルビィ「…また、いつもの?」
花丸「そう、いつもの」
ルビィ「…」
花丸「無理はしてないよ、好きだからやってるだけ…マルがそうしたいの」
ルビィ「そっか…なら、大丈夫だね」
花丸「ふふん、心配はご無用ずら! それよりそろそろ着いてもいいような」 ルビィ「そうだねぇ……ん? ねえ花丸ちゃん、もしかしてアレかなぁ?」ユビサシ
花丸「きっとそうずら! 見覚えあるもん!」
ルビィ「結構歩いたねぇ…ってあれ?」
「……」
ルビィ「あの人…」
タッタッタ
花丸「え、ちょっとルビィちゃん?」 「……ふーん」
ルビィ「おはようございます」ヒョコッ
「? それを言うならこんにちはでしょ」
ルビィ「ああそうだった」
「ていうかいきなり話しかけてきたけど、あんた誰よ」
ルビィ「うん、まあそれは置いといて」 「ちょっと」
ルビィ「ねえねえ、何がふーん、なの?」ジッ
「いや、どうしてそんなことを一々答えなくちゃ…」
ルビィ「……」
「……はあ…別に、特に深い意味はないけど…ただ」
ルビィ「ただ?」
「ここが来月から私が通う学校なんだなって、それだけ」 ルビィ「ふーん」
「何がふーん、なのよ? というか何なのさっきから」
ルビィ「えっとね、特に深い意味はないんだけど」
ルビィ「こんな綺麗な人がルビィたちと一緒の学校なんだなぁって、それだけ」ニコ
「……は?」
ルビィ「あっ、あと優しそう」
「はあ!? な、何いきなり恥ずかしいこと言ってんのあんた!?」
ルビィ「え、よく言われないの?」
「今どき漫画でもそんな軟派めいた発言聞かないわよ!」 ルビィ「そうかなあ、本当のことなのに」
「本当のことってねえ……ああ、成程そういうタイプか…」
「いい? あのね、仮に思っていたとしても、そういうのはむやみやたらに言わないほうが…」
花丸「ルビィちゃん! どうしたのいきなり走り出して」ハアハア
ルビィ「うん、綺麗な女の子がいたから」
「言ってるそばから!? 少しは人の話聞きなさいよ!」
花丸「女の子?」
ルビィ「ルビィたちと一緒の学校なんだって」 花丸「へえ〜……」ジーッ
「今度はなに?」
花丸「いや、どこかで会ったことがあるような…」
「また決まったような誘い文句を…人は見かけによらないって本当なのね」ハァー
「あんたら二人ともそんなのとは無縁そうな顔してるくせに、まあ揃いも揃って…「善子ちゃん!」
「……はい?」
花丸「善子ちゃんでしょ、あなた」
善子「…なんで知ってるのよ」 花丸「やっぱり善子ちゃんなんだ!」
ルビィ「知り合いだったの?」
花丸「うん、幼稚園でちょっとだけ」
善子「いや、私は知らないんだけど」
花丸「知らないじゃなくて覚えてない、ね。 マルは思い出したわけだし」 善子「…まあ、確かに一回ここに住んでたことはあるってママは言ってたけど」
善子「よくそんな昔の、しかも短い間のことを覚えていられるわね」
ルビィ「花丸ちゃんは記憶力がいいもんね」
花丸「エッヘンずら」
善子(あっ、これどっちもマイペース側の人間だわ) 善子「…ああそう、なら」
善子「私の記憶に残すためにも、そちらの名前も教えてもらおうかしら」
ルビィ・花丸「え?」
善子「自分の方から話しかけておいて、そのままハイさよならは失礼じゃない?」
善子「それにそっちも、人に名前を尋ねるときはまず自分からでしょ、一般教養」
ルビィ・花丸「ああ〜、確かに」
善子(やっぱり抜けてるわ、この子ら) ルビィ「えっとね、黒澤ルビィっていいます」ペコリ
花丸「国木田花丸です」
善子「なんでこういう時だけ礼儀正しいのあんたら」
善子「まあいいわ、私は津島善子。よろしく」
ルビィ「善子ちゃんね」
花丸「うん善子ちゃん」
善子「なんでどっちもほぼ初対面みたいなものなのにそんな馴れ馴れしいの」 ルビィ「じゃあルビィたちのことも名前で呼んだらいいよ、それならおあいこでしょ?」
善子「違う、そうじゃなくて」
花丸「マルのことは花丸って呼んでほしいずら」
善子「ホントに人の話聞かないわね貴女たち!!」
ルビィ「ねえ、じゃあ善子ちゃんはどうしてほしいの?」
善子「えっ、いや、どうってそう言われると……まあ、何かしら」
ルビィ「?」
善子「じ、地道によろしく…とか?」
ルビィ「ふーん、善子ちゃんってちょっと変だね」クスッ
善子「あんただけには絶対言われたくないわ」 ルビィ「……んー、そうだね」
善子「…? いや、けど名前の呼びかたくらいならそうね、考えておくわ」
ルビィ「えへへ、ありがと。善子ちゃんって優しいんだ?」
善子「…初めのうちから分かったように言うのもねえ」
ルビィ「そうかな? ルビィは最初からずっとそう思ってたけど」 善子「はあ?」
ルビィ「だってルビィの話、ちゃんと聞いてくれてたでしょ?」
善子「……」
ルビィ「あっもうこんな時間だ、そろそろ帰らなくちゃ」
ルビィ「じゃあまたね、善子ちゃん」タッ 善子「…………ねえ」
花丸「ん?」
善子「やっぱりあっちの方が変よね」
花丸「そうだねえ、確かにルビィちゃんは少し変わってるかも」
善子「ほら」
花丸「でもいい子だよ?」
善子「それは、なんとなく分かるけど」 花丸「まあそれを含めても今日の行動にはちょっと驚いたかな」
善子「どうして?」
花丸「ルビィちゃん、かなり人見知りだから」
善子「…私はその事実に今日一番驚いたわ、あれが人見知りだっていうの?」
花丸「うん、初対面だとほとんど話せない」
善子「嘘みたい」
花丸「嘘じゃないよ、だから少し考えたんだけど」
善子「なによ」
花丸「善子ちゃん、前にルビィちゃんと会ったことあるんじゃない?」 善子「……いや、まったく記憶にないんだけど」
花丸「そう? なーんかルビィちゃんも知ってるような感じだったけど…マルの気のせいかな?」
善子「そんなこと言われても…」ウーン
善子「確かにそっちの方がしっくりくるし筋も通ると思うけど、本当に見に覚えがないのよねえ…」
花丸「そっか、あくまでかもしれないの話だしね」 花丸「けど、もしそうじゃなかったら」
善子「なかったら?」
花丸「運命──とかかな? きっと」
善子「…………どっちにしても私は運命に変わりないと思うけど」
花丸「あ、それもそうかも」 善子「しかし、運命ね……また大袈裟な」
花丸「もしかして疑ってる?」
善子「当たり前でしょ」
花丸「だよね、でもそういうの関係なしに仲良くしてくれると嬉しいな」
花丸「あんなルビィちゃん、初めて見たから」
善子「……」
ルビィ「花丸ちゃーん! 早くー!」 花丸「はーい! じゃあマルもそろそろ行くね」
善子「…ちょっと待って」
花丸「ん?」
善子「これ、持っていきなさい」
花丸「これは?」
善子「私の連絡先」
花丸「ありがとう、きっと喜ぶよ」ニコッ
善子「へえ。誰かは知らないけど、それは何よりね」 花丸「またねー」フリフリ
善子「……いい子、ねえ」
善子「なんで連絡先渡したんだろ」
善子「ま、いいけど……さてと。そろそろ私も帰るかしらね」
スタスタ
善子「…あれ、そういえば」
善子「あの子たち、何しにここに来たのかしら?」 ルビィ「ただいまー」
花丸「お邪魔します」
ダイヤ「二人ともおかえりなさい、学校はどうでしたか?」
ルビィ・花丸「え?」
ダイヤ「え? って見に行ってきたのでしょう?」
ルビィ「……なにを?」
ダイヤ「いや、だから学校」 ルビィ・花丸「……」
ルビィ「凄く綺麗な女の子がいたよ」シレッ
ダイヤ「は? 女の子?」
ダイヤ「ちょっと何を言ってるのやら…ねえ花丸さん」
花丸「……」
ダイヤ「花丸さん?」
花丸「…えっと、連絡先もらいました」
ダイヤ「何しに行ったの貴女たち」
それから二週間後…
善子「……」
ルビィ「……」ニコニコ
善子「あのさ」
ルビィ「うん」
善子「一つだけ言っていい?」
ルビィ「はい」
善子「しつこい」
ルビィ「え?」 ルビィ「なにが?」
善子「何がじゃないわよ、ここ数日の間にどれだけあんたの会話に付き合わされたと思っているの」
善子「あと二週間もすれば高校に入って嫌でも顔を合わせるでしょうに」
ルビィ「えへへっ、善子ちゃんといるのは飽きないからねえ」
善子「何がそんなにいいんだか…」
ルビィ「ルビィにもよく分からない」
善子「そこはハッキリさせときなさいよ」 ルビィ「楽しいから別にいいかなぁって」
善子「呑気よねホントに」
ルビィ「あ、じゃあその良いところを見つけるために会ってたっていうのは?」
善子「本人に堂々と後付け宣言するってどうなのよ」
ルビィ「駄目? いいと思ったんだけどなあ…」
善子「……ならもう勝手にすれば? いちいち聞くのも馬鹿らしくなってきたわ」
ルビィ「やった、善子ちゃん大好き」
善子「随分と都合がいいときに出る大好きね」 ルビィ「言おうと思ったから言っただけなのに」
善子「どうだか」
ルビィ「でも善子ちゃん嬉しそうだよね」
善子「……気のせいでしょ」
ルビィ「そうかなぁ? うーん、まあいいや」
善子「そこはいいのね」
ルビィ「それより善子ちゃん、今日はお買い物に行こうよ」 善子「買い物ねえ、服でも見に行くの?」
ルビィ「半分正解」
善子「半分ってどういうことよ」
ルビィ「まあまあ、行ってみれば分かるよ」ニコッ
ルビィ「フフッ楽しみだなぁ…」テクテク
善子「……やっぱり変というか」
善子「何考えてるのか、未だに分からないわあの子」 善子「ま、一緒にいるのは嫌じゃないけど」
ルビィ「善子ちゃーん」
善子「はいはい分かってますって」スタスタ
善子「今そっちに行くからもう少し…ってちょっと! なに先に進んでるの!」
善子「ルビィ! あーもう本当に勝手なんだから! あとで説教してやるわ!」
〜店内〜
ルビィ「ごめんなさい、久しぶりだからワクワクしちゃって」
善子「あのねえ…もし離れて迷子にでもなったらどうするつもりだったのよ」
ルビィ「それは困るかなぁ、善子ちゃんと一緒に行くのが楽しみだったんだもん」
善子「……なら余計落ち着きなさいっての、全く」
ルビィ「はーい」
善子「しっかしアイドルの衣装ねえ…半分正解ってこういうこと」
ルビィ「うん! ルビィね、アイドルが好きなんだぁ」 善子「ふーん、アイドルか…いいんじゃない?」
善子「よくいるもんね、ルビィみたいなちっちゃい子って」
ルビィ「それって可愛いって意味で言ってるの?」
善子「そう捉えられるなら、ある意味向いてるかもね」
ルビィ「ありがとう、でももっと向いてそうな人がいるよ?」
善子「へえ、誰?」
ルビィ「善子ちゃん」 善子「私って、なんでまた」
ルビィ「美人さんだし、スタイルもいいし、何より姿勢が悪くない」
ルビィ「しゃんとしてるって言うのかなぁ、だからね、善子ちゃんなら絶対にスクールアイドル向いてる! って最初見たときに思ったんだぁ」
善子「…はい?」
ルビィ「ざっくり言うとアイドルの資質、みたいな感じかも」
善子「それを初見で……へえ、成程つまり」
善子「あのとき、あんたはそんなアイドル事務所のスカウトみたいな感じで私に話しかけてきたと?」
ルビィ「うーん、分からないけど…多分そうかも」
善子「……」 ルビィ「でも、どうだろう…それだけじゃないような……ん? 花丸ちゃんだ」
花丸「ルビィちゃん! また善子ちゃんとお出かけ?」
ルビィ「そうだよー、今日はね、善子ちゃんに似合う衣装を探そうと思って」
花丸「そっかそっか、善子ちゃんもこんにちは。すっかり仲良くなったね?」
善子「ああ花丸、丁度いい所に」
花丸「ん?」 善子「ちょっとこっち、ルビィはそこで少し待ってて」
ルビィ「うん、別にいいけど」
善子「悪いわねすぐに終わるから、行くわよ」
花丸「…なにがなんだか分からないけど、とりあえず行ってくるね」
ルビィ「はーい、いってらっしゃい」
ルビィ「…何の話だろう?」
……
善子「よし、これくらいでいいわね」
花丸「善子ちゃん、どうしたの急に、何かあった?」
善子「あんた二週間前に私とした会話覚えてる?」
花丸「あの学校の前で会ったときの? 覚えてるけど」
善子「記憶力いいって言ってたものね…じゃあ改めて聞くけど」
花丸「うん」 善子「……何が運命ですって?」ガシッ
花丸「ずら?」
善子「思いっきり個人的願望が含まれていたんだけど!? 何だったのよこの前の意味ありげなやり取りは!」
善子「そういうロマンとは程遠い事実が今しがた! あの子の口から証明されたわよ!」
花丸「いきなり何の話? …ってああ、ルビィちゃんにアイドルのことで何か言われたの?」
花丸「そうだよね、善子ちゃん美人さんだもん」フフッ 善子「なにを?気に笑ってんのよ! あーもう、本当にがっかりだわ……」
花丸「んー? まあ違ってたのは謝るけど、そんなにムキになることかなあ」
善子「ムキっていうか、現実とのギャップっていうか…」
花丸「ぎゃっぷ?」
善子「なんか…違ったから、私が初めてあの子と会ったときに感じたものと」 善子「なにを呑気に笑ってんのよ! あーもう、本当にがっかりだわ……」
花丸「んー? まあ違ってたのは謝るけど、そんなにムキになることかなあ」
善子「ムキっていうか、現実とのギャップっていうか…」
花丸「ぎゃっぷ?」
善子「なんか…違ったから、私が初めてあの子と会ったときに感じたものと」 花丸「違うって?」
善子「だから…確かに変わってはいるけどあの子はもっとこう、純粋で真っ直ぐなもんだと思ってたのに」
善子「向こうからすれば勝手な話かもしれないけど、ね」
善子「でもあまりいないタイプだから運命だなんて聞いたときには疑いもあったけど多少の期待もあったのよ、それなりには。なのにねえ…」ハァ
花丸「……ふうん、だからがっかりだと」 善子「何よ」
花丸「善子ちゃん、推しのスキャンダルがばれたら発狂しそうな考え方してるね」
善子「ちょっと!? どうしてここで具体的かつ的確な追い打ちをするのよ! どんだけえげつないのあんた!」
花丸「ごめんごめん、冗談で言っただけだから気にしないで」
善子「冗談って…悪いけど、洒落ならもう少し小粒で気の利いたものにしてちょうだい……」 花丸「でも善子ちゃんって意外とロマンチストなんだね」
善子「ほっといて」
花丸「まあまあ、理想を求めるのもいいことだよ?」
花丸「ただ、そんな善子ちゃんのために一つ補足させてもらうけど」
花丸「それくらいの理由じゃルビィちゃんは自分から話しかけたりしないよ、精々心の中で思うくらいかな」
善子「え、そんなもんなの?」 花丸「うん、だから落ち込むにはまだ早いんじゃないかな。とは言ってもマルのこの運命説も所詮は個人的願望に過ぎないんだけどね」
善子「はあ……つまり私は最初からあんたたちの"なんとなく"に振り回されたってこと」
花丸「いやあそう聞くとなんだか申し訳なくなってきたずら」
善子「笑いながら言っても説得力ないわよ……まあいいわ、知り合えたことに文句はないわけだし」
善子「ただ、思わせぶりな言い方は今後控えてもらいたいわね」
花丸「善処はします」
善子「その答えじゃどこまでもつのやら分かったもんじゃないわね、取り敢えず戻りましょ。あんまり待たせても悪いし」
花丸「了解ずら〜」 ルビィ「あ、おかえりなさい。長かったね」
善子「少しごたついてね、でも大丈夫、一応解決はしたから」
ルビィ「そっか、花丸ちゃんはこれから用事?」
花丸「うん、もう少し一人で見て回りたいかなって」
ルビィ「わかった、それじゃあ今日はお別れだね」
花丸「うん、またね。善子ちゃんも」
善子「ええ、また」 ルビィ「花丸ちゃんと仲いいんだね」
善子「どうしてそう思うのよ」
ルビィ「前より距離が近かったから」
善子「意外と話しやすいってだけよ」
ルビィ「そこが花丸ちゃんのいいところなんだけどね」
善子「…ま、雰囲気の良さってのはあるかもね。それより」
善子「ねえルビィ、気になってたんだけど。花丸がこういったところに来るのってなかなか珍しいんじゃない?」
ルビィ「ん、なんで?」 善子「いや、あの子はあの子でぼんやりしてるというか」
善子「こういったアイドルものには興味ない気がしてたからちょっとね」
善子「どっちかと言えば、花丸って文学系なイメージだし」
ルビィ「わあ、善子ちゃん鋭いね。大当たり」
善子「やっぱりそうなの? けど、それならどうしてこんなお店になんか」
ルビィ「うーん、気分転換ってやつじゃないかなあ」
ルビィ「…たまーに行きたくなる、とか」
善子「成程ね、気晴らしか」 善子「まあずっとルビィと一緒にいるくらいなんだからアイドルにも興味くらいは持つわよね、そりゃ」
ルビィ「ううん、さっきはああ言ったけど」
ルビィ「アイドルに対する興味だけなら、花丸ちゃんはルビィと会う前からずっと持ってたよ」
善子「へえ…意外。花丸って寺生まれなんでしょ?」
ルビィ「うん」
善子「それに貴女たちも付き合い長いみたいだし」
ルビィ「確かに、あれから結構経ったねえ」
善子「なのにそのルビィに出会う前からって相当よね、何に影響されたのかしら…ちょっと気になるわね」
ルビィ「…………さあ、ルビィは知らないからよく分かんないや」 善子「? そう、なら仕方ないわね」
ルビィ「それより買い物の続きしようよ、あっちでね、善子ちゃんに似合いそうなもの見つけたんだぁ」
善子(……はぐらかされた?)「どんな感じの?」
ルビィ「まずは黒を基調にしたモノクロのドレスがいいかなぁって、全体的に丈は短めでフリルも少ないけど善子ちゃんはスタイルいいからこれくらいでも十分だと思うの」
善子「ずいぶん簡素ね、こんなんでステージ映えとかするの?」
ルビィ「ううんこれはあくまでベースで、必要なものは後から付け足していくの、例えばこういう感じでね。はい、シニヨンに羽を付けてみました」 善子「……」
ルビィ「ね、こういうのが一つあるだけでも…ってどうしたの?」
善子「いや、思った以上に真剣でつい…ね。本当にアイドル好きなんだなって」
ルビィ「ありがとう、ルビィが夢中になれるのってそれくらいしかないから」エヘヘ
善子「良いことだと思うわよ…あーでも、あまり長く付き合わされるのは勘弁願いたいわね」
ルビィ「…で、次は腕のあたりなんだけど──」
善子「そこ、露骨に無視しない」
─
花丸「えっと、ひーふーみー……ぎりぎり足りるかも、良かったあ」
花丸「でもその前にちょっと休憩……ふう、疲れたあ…」ストン
ダイヤ「ここは意外と広いですからね」
花丸「あれ、ダイヤさんいつの間に」
ダイヤ「ええつい先ほど、飲みますか? これ」
花丸「じゃあお言葉に甘えて」ゴクゴク 花丸「うーん、生き返るずらぁ〜…」プハ
ダイヤ「ずいぶん歩き回ったみたいですわね」
花丸「いやいや、マルに体力がないだけだよ」
ダイヤ「どうでしょうかね」
花丸「それよりダイヤさんはどうしてここに? ルビィちゃんのお迎え? ならさっき向こうで善子ちゃんと」
ダイヤ「いえ、多分理由は貴女と同じですわ」
花丸「……珍しいですね」 ダイヤ「ええ、こういうのは花丸さんに任せておこうとも思っていたのですけど、たまにはね」
ダイヤ「それにこの時期になると貴女がここに来ることも分かってましたし、まあ早い話が参考にさせてもらおうと」
花丸「ならないよ、マルは安いものしか買えないから」
ダイヤ「そういった問題では…」
花丸「ないかもね。なら、髪飾り…とかかな」
花丸「最近は、そう思うようになってきた」
ダイヤ「……ええ」 ダイヤ「ありがとうございます花丸さん、良い参考になりましたわ」
花丸「それはよかったずら、じゃあマルはこれで」
ダイヤ「……待ってください」
花丸「まだ何か?」
ダイヤ「…あの、花丸さん」
ダイヤ「その、そろそろ高校生になりますわよね」 花丸「そうだね」
ダイヤ「……」
ダイヤ「貴女……卒業したら、どうするつもりですか?」
花丸「!! …いやだなあダイヤさん、まだ入学すらしてないのに」
花丸「卒業だなんて、気持ちが先走りすぎずら」
ダイヤ「……」
花丸「そんな先のことまで考えてないよ、昔はあった気もするけど」
花丸「今となってはどんな答えが一番いいのか、さっぱり分からないし」 ダイヤ「…そうですわね、確かに」
ダイヤ「余計なことを言いました、今のは忘れてください」
ダイヤ「それでは、帰りにお気を付けて」
花丸「うん、またねダイヤさん」
ダイヤ「……髪飾り」
ダイヤ「簪とか、置いてあるのかしら」
─津島家
善子「…………」
善子母「どう? お口に合うかしら」
ルビィ「はい、とても美味しいです!!」
善子「ねえ」
ルビィ「あ、善子ちゃんおはようー」
善子「なんでうちの食卓に混ざってるの」
ルビィ「早起きなものですから」ズズ…
善子「要するに上がり込んできたってことよね」 善子母「だって善子何回呼んでも起きないし、ずっと外で待たせるのも可哀想でしょ?」
善子「そんなこと言われたって……まだ学校まで全然時間あるでしょ、早すぎなのよ」
ルビィ「確かにそうだね、ちょっと張り切りすぎたかなぁ」
善子「そんなに気分上がるイベントだったかしら入学式って…」
ルビィ「ルビィたちにとっては重要なことだったりするんだよ」
善子「たちねえ……別にいいけど。それよりママ、私の分のご飯ある?」 善子母「ええちょっと待っててね、今用意するから」
ルビィ「ねえ善子ちゃん、善子ちゃんはご飯の前にその寝ぐせをどうにかしたほうがいいと思うよ」
善子「余計なお世話どうも。どっかの誰かと違って今起きたばかりなのよ私は」
ルビィ「ふうん、どこの誰だろうねえ。ごちそうさまでした」
善子母「はいお粗末さまでした」ニコニコ
善子「さあ…少なくとも今分かってるのは」
善子「ここで三文の徳をしているってことくらいかしらね」
─
花丸「……」
「ご挨拶ですか?」
花丸「あ、おはようございます」
黒澤母「おはようございます。今日は一段と早いですね」
花丸「入学式ですから」
黒澤母「フフッ、晴れ舞台ですものね」 黒澤母「そろそろ出ますか?」
花丸「ええまあ、用も済みましたし」
黒澤母「そうですか。ではルビィによろしく伝えておいてください」
黒澤母「あの子、起き上がるなりすぐに家を飛び出していったものだから、ね」
花丸「あはは、よく言っておきます。それでは」
黒澤母「はい。でも花丸さん最後に一つだけ」 花丸「なんでしょうか」
黒澤母「制服、とてもよく似合っていますよ」
黒澤母「それだけです。いってらっしゃい」
花丸「ありがとうございます、いってきます」
黒澤母「……すっかり綺麗になったわね」 ダイヤ「おはようございます、お母様」
黒澤母「あら、ダイヤも来てたの」
ダイヤ「少し前に……今のは、花丸さんですか?」
黒澤母「ええ、久々に先を越されてしまいました」
ダイヤ「今日は入学式ですからね」
黒澤母「みたいですね」 黒澤母「しかし、ともすれば貴女も生徒会長として一仕事あるのでは?」
ダイヤ「大丈夫ですわ、その辺りは問題ありません」
黒澤母「でしょうね、ダイヤはしっかりしてるから」
ダイヤ「というよりも、そうでなければ姉としての示しがつきませんので」
黒澤母「世話の焼ける妹を持つと大変ですね、お姉ちゃんは」クス
ダイヤ「そうですわね……それは変わらない気がします。昔も──今も」 黒澤母「……祈っていきます?」
ダイヤ「いいえ、もう済ませましたから」
黒澤母「あら、私は三番目でしたか」
ダイヤ「どうでしょうね、もしかしたら四番目かもしれませんよ」カサッ
黒澤母「……成程。ねえダイヤ」
ダイヤ「はい」
黒澤母「意外としっかりしてますよね、ルビィは」
ダイヤ「……ですね」
─学校
キーンコーンカーンコーン
善子「はぁーやっと終わったわね」
花丸「やっとって、明日からはもっと長くなるのに」
善子「授業と行事ではまた違うと思うんだけど」
ルビィ「えー、そうかなぁ」
善子「そんなもんよ、まだ授業のほうが気が楽だわ」
善子「さてと…私はもう帰るけど、そっちはどうするの?」 花丸「じゃあマルも一緒に」
ルビィ「うーん、ルビィはいいや」
善子「…聞いた? 今の」
花丸「珍しいね、何かあったの? ルビィちゃん」
ルビィ「うん。スクールアイドル部のほうに行ってみようかなと思って」
善子「行くって…今日の朝に声かけられてしどろもどろになってたクセに?」
ルビィ「うん」
善子「やめておいたら? 私たちと一緒でもあんなんだったのに一人じゃ無理に決まってるでしょ」 ルビィ「でも気になるから、二人は先に帰ってていいよ」
善子「いやいや、またの機会にしときなさいって」
花丸「分かった、じゃあ先に帰ってるね。行こう善子ちゃん」ギュ
善子「ちょっ、いいの?」
花丸「いいの、ほら早く」
善子「ああもう分かったから引っ張るんじゃないわよ」
善子「ルビィ! しっかりやんなさいよ!」
ルビィ「はーい」フリフリ
ルビィ「……まずは挨拶から、うん。挨拶だよね…うん」 善子「──ねえ、見えなくなるまでずっと棒立ちだったんだけど、本当に大丈夫なんでしょうね」
花丸「いや、多分大丈夫じゃないだろうね」
善子「……それなら」
花丸「随分気にするね、そんなにルビィちゃんと帰りたかったの?」
善子「そういうことじゃなくて」
花丸「やらせてあげなよ、心配なのは分かるけど」
善子「…あの子、気が小さいのに妙なところで胆が据わってるわよね」
花丸「好きなものに対して真っ直ぐなんだよ、ルビィちゃんは」
善子「好きなもの、ねえ」 花丸「そういう意味では善子ちゃんもその中に入ってるんだよ?」
善子「……どうだか」
花丸「またそんなこと言って」
善子「いまいちしっくりこないんだもの、それに」
花丸「それに?」 善子「私はてっきり貴女たち二人が上手くいってるものかと思っていたわけだし」
花丸「マルとルビィちゃんが? あはは、それは絶対にありえないずら」
善子「やけにはっきりと言うのね、嫌なの?」
花丸「もちろんルビィちゃんは大好きだけど、そう思われるのはあんまり…ね」
善子「恋愛関係が苦手とか、そういうの?」
花丸「ううん、そうじゃなくて」
花丸「マルにはもう心に決めた人がいるから」
善子「え、嘘…?」
花丸「ほんとほんと」 善子「あんた、見かけによらず中々やるわね…で、その相手って?」
花丸「マルたちと同じ年の子だよ」
善子「へえ、同い年……ならもしかするとこの学校に」
花丸「もし生きていたら、だけどね」
善子「えっ?」
花丸「今はもういないんだ」
善子「……ごめん」
花丸「そんなに気を遣わなくていいよ」
……
花丸「マルね、昔は本当に誰とも話そうとしなかったんだ、いつも本ばかり読んでてね」
花丸「人嫌いっていうか、一人でそうしている時間が好きだったからつい夢中になって」
善子「まあ、らしくはあるわね」
花丸「そんな日が続いた頃、ちょうど家の用事とやらでバッタリと会ったのがその子」
花丸「とっても明るくて天使みたいに可愛くて、まあ少しだけ元気の良すぎるところはあったけど」クス…
花丸「でも、マルの手を引っ張って外の世界に連れ出してくれた、恩人なんだ」
善子「……そう」 花丸「それでね…その子に言われたの、大人になったら結婚しようねって」
善子「結婚?」
花丸「そう、でもその後ダイヤさんに怒られたっけ…ふふっ、小さいときでもダイヤさん真面目だったから」
善子(……ダイヤさん?)
花丸「けどそう言われたことが本当に嬉しくて、だから今でもその約束を覚えてるの」
善子「それで絶対にありえない、か……」
花丸「おかしい?」
善子「どこに笑うところがあるのよ」
花丸「善子ちゃんならそう言ってくれると思った。ありがとうね」 善子「いや、私は別に…」
花丸「ルビィちゃんも同じこと言ってたよマルを変に言う人たちに、何がおかしいの! って」
善子「そういう経験…やっぱりあるのね」
花丸「まあ、家柄的に直接言ってくることはなかったんだけど我慢できなかったみたい。 ルビィちゃん優しいから」
花丸「でもね、マルは思うんだ。 ただ優しいだけじゃそんなこと出来やしないって」 善子「……」
花丸「何かに立ち向かっていける強さがあって初めて出来ることなんだって」
花丸「だから同じ言葉を返した善子ちゃんを見て、やっぱり運命ってあるのかなあって思っちゃった」
花丸「二人ともあまり似てないのに、そういうところそっくりなんだもん」
善子「主観的すぎるでしょ、どういう理屈よ」 花丸「まあそう照れないで」
善子「誰も照れてないっての!」
花丸「あはは、それに今のは理屈じゃないよ」
善子「? じゃあ何よ」
花丸「願望、もっと言うならエゴかな」 善子「エゴ?」
花丸「マルは、あの子と出会った偶然…必然を否定されたくないの」
花丸「本当はね、それだけかもしれない」
善子「……ねえ花丸」
善子「言っておくけど、私自身は貴女を否定するつもりは毛頭ない」
善子「でも証人になってあげるつもりもないわ、その辺りはちゃんと理解してね」 花丸「うん、分かってる」
善子「そう……あと、なんか悪かったわね。そんなつもりなかったのに色々聞いちゃって」
花丸「ううん、こっちも色々聞いてもらってスッキリしたから」
善子「なら、いいんだけど」
善子「…………」
花丸「善子ちゃん?」
善子「ねえ、謝った手前聞きづらいんだけどさ…もう一つ、聞いてもいいかしら?」
花丸「いいけど?」 善子「さっきの話でダイヤさんがどうこう、って言ってたわよね」
花丸「うん」
善子「私はどうしてそこでダイヤさんの名前が出てくるのか、いまいち分からなくて」
善子「ねえ花丸、貴女が言う“その子”って…一体どんな子なの?」
花丸「……そうだね、簡潔に、分かりやすく言うなら…」
花丸「黒い髪のルビィちゃん、ってところかな」
善子「……それ、どういう意味」
花丸「そのうち分かるよ、善子ちゃんがこのままの形でルビィちゃんと関わっていくのなら、ね」 善子「……」
花丸「マルから言えるのはそれだけ、じゃあまたね」
善子「…花丸」
花丸「なに?」クルッ
善子「あまり無理するんじゃないわよ」
花丸「……」クスッ
花丸「そういうところだよ、善子ちゃん」
スタスタ…
善子「小さい頃の約束、か」
善子「まさか、花丸にそんな過去があったなんてね……」
善子(ということは、ずっと前からアイドルに興味があったっていうのも多分その子から……)
善子「……? いや、でもそれ何か、引っかかるような……」
善子(それに引っかかるといえば、さっき花丸の言った黒い髪のルビィっていうのも気になる)
「善子ちゃん」 善子(別に言いたくなければ答えなくても良かったのに……なんでわざわざそんな言い方をしたの?)
善子(そう答えたことに何か意味があったってこと? …いや、仮にそうだとしても)
善子(どうしてそれをルビィで例える必要が……)
「善子ちゃーん」
善子(…さっきまで、花丸は私に対して結構深いところまで話してくれたと思っていたけど)
善子(まだ他に、そのことについて隠していることがあるんじゃ……)
ルビィ「善子ちゃんってば」ヒョコッ 善子「んなぁっ! い、いきなり目の前に現れるんじゃないわよ!」
ルビィ「いきなりでもないけど、そのくらいやらないと気付いてもらえなさそうだったから」
善子「あっ…そう」
ルビィ「まだ帰ってなかったんだね」
善子「まあ色々あったから」 ルビィ「色々って?」
善子「世間一般ではあまりしない世間話をちょっとね」
ルビィ「なにそれ、変なの」クスクス
善子「そういうあんたはどうなのよ」
ルビィ「何が?」
善子「スクールアイドル部」 ルビィ「うん。名前は言ってきたよ」
善子「名前だけって…」
ルビィ「あとこれ、入部届貰ってきた」ハイ
善子「私は入らないわよ」
ルビィ「じゃあルビィが名前書いておくね」
善子「冗談でもそういうことサラッと言うのやめなさい」
ルビィ「本気ならいいの?」
善子「余計に駄目だわ」 ルビィ「うーん、じゃあまた誘うことにする」
善子「やめはしないのね」
ルビィ「だって善子ちゃんや花丸ちゃんと一緒にスクールアイドルやりたいから」
善子「花丸、やると思ってるの?」
ルビィ「やるよ。絶対に」
善子「……」
─善子ちゃんがこのままの形でルビィちゃんと関わっていくのなら─
善子「あのさ、ルビィ」 ルビィ「なに? もしかして入ってくれるの?」ニコッ
善子「…………あー、いいや。それはまた今度にする」
善子「今は、うん。やめておくわ」
ルビィ「えぇ、そんなあ」
善子「また日を改めてってこと。それじゃね」
ルビィ「はーい…」
善子(急がなくてもいずれ答えは出るだろうし……ね)
─
花丸「こんばんは。また来ちゃったずら」
花丸「二回も来るのって結構久しぶりだよね」
花丸「友達にあなたのことを話したらつい……」
花丸「覚えてる? 前に話した善子ちゃんって子」
花丸「そう、ルビィちゃんのお気に入りのね」 花丸「善子ちゃんもルビィちゃんのことがちょっとだけ気になってるみたい、ちょっとだけね」
花丸「本人はそのちょっとも否定してるみたいだけど…ふふっ」
花丸「安心した? ううん、聞いてみただけ」
花丸「うん、だからね。学校も楽しくやれそうだよ」
花丸「それに……いや、これはまだ秘密にしておくずら」
花丸「はい、今日のマルのお話しはここまで。続きは今度ね」
花丸「じゃあ…また来るね、アオちゃん」
……
…
── 黒澤家之墓 ──
本日はここまでです
長いので何日かに分けて投稿していきます おい、家 ◆YmvLytuhUo
つまんねーぞ、死ねよゴミかす ひさびさ
まあ1が好きなようにやればええんじゃね?
変なやつが嫌じゃなきゃ いつまでも汚物垂れ流しオナニー駄文が板に残り続けるぜ 過去作なんか貼っちゃって一流作家にでもなったつもりなのかな?
つまらないし寒いからスレ落とした方いいよ
文章の才能無いと思う ぬしって確かss書いてたコテハンだよな?こんな批判するようなイメージなかったんだが
もしかしてなりすましか?それともマジの本人?
一週間後
──海岸
タッタッタ…
タッタッタッタ……
ダイヤ「……ハア、やっぱり少し鈍っているわね」
「おや、珍しい人がいる。珍しいというか、久しぶり?」
ダイヤ「いつも顔を突き合わせているじゃありませんか、果南さん」
果南「それは学校、ここは砂浜。だよね?」
ダイヤ「ああ、場所の問題でしたか」 果南「分かってたくせに、で? なーんでまた走り込みなんかしてたわけ」
ダイヤ「たまにはいいかと思いまして」
果南「それだけ? 私はてっきり体力作りのためかと」
ダイヤ「何のための体力作りですか」
果南「そりゃもちろんスクールアイドルのでしょ。理由は、うーんそうだなあ」
果南「今になって千歌が部を立ち上げたいときたものだから、そのおかげで居ても立っても居られなくなった……とか?」
ダイヤ「……さあ」
果南「おお、正解みたい」 ダイヤ「…別に、気晴らしですわよ」
果南「戻ってくればいいじゃん、辞めたわけじゃないんだしさ」
ダイヤ「貴女の変わり身が早すぎるんです」
果南「いやいや折角だから流れに乗っておこうと、千歌に誘われたってのもあるけどさ」
果南「鞠莉だってどうせ今年帰ってくるんだし、それなら環境はある程度整っていたほうがいいでしょ」
ダイヤ「確かにそうかもしれませんけど」
果南「それに、スクールアイドルやってればルビィちゃんとの距離も縮まるかもしれないし」 ダイヤ「ルビィですか」
果南「そんな睨まなくても、別に狙ってるわけじゃなしに」
果南「ただほら、未だに苦手意識を持たれてるのも私としてはこう思うところがあるわけで」
ダイヤ「すみません、嫌っているわけではないのですが」
果南「分かってるって、元からそんな性格だもんね。それに……環境もひっどいもんだしさ」
果南「寧ろよくやれてると思うよ」
ダイヤ「……しかし、それでもやるとあの子が決めた以上は乗り越えなければなりません」 果南「手厳しいね…というか、もしかしてそれで入部してないわけ?」
ダイヤ「はい。私がいるとあの子は私に頼ってくるでしょうから、それでは駄目なんです」
果南「ほんと、妹を一番に考えるところは変わってないね。昔からさ」
ダイヤ「……」
果南「そうだ、そのことだけどグループ名もそのまま使わせてもらってるから」
ダイヤ「…ちなみに人数は」
果南「んー、私と千歌と曜とルビィちゃんで四人かな」
果南「あとは目を付けられた二人が近いうちに」 ダイヤ「その二人とは?」
果南「千歌のお気に入りとルビィちゃんのお気に入りさ、長いこと断ってきたと思うけどそれも時間の問題だろうね」
ダイヤ「ああ、成るほど」
果南「しっかし分からないんだよね、すぐに影響を受ける千歌が音ノ木坂出身の梨子ちゃんを付け狙うのはともかくとして」
ダイヤ「言い方」
果南「なんでルビィちゃんはあそこまで善子ちゃんに執着するのかなあ」
ダイヤ「憧れ、もっと言うなら羨望でしょう、あの子が彼女に向ける視線は大体そんな感じですから」
ダイヤ「もっとも、それが何を指しているのかまでは知りませんが」 果南「ふーん、そんなもんか」
果南「まあいいや。とにかくそういうわけだから、ダイヤが戻ってくる頃にはきっと結構な人数になってると思うよ」
ダイヤ「そうですか、ではそれまでの間部のことは任せますわね」
果南「了解。ま、私はリーダーじゃないから陰ながらってやつですかね」
ダイヤ「どちらでも構いませんわよ、ではそろそろ行きますからこれで」
果南「ん、じゃあね」
果南「さてと。もうひとっ走りしてくるかな」
……
─部室
千歌「みんな注目ー! 新しい部員を捕まえてきましたー!」
曜「千歌ちゃん言い方」
千歌「こちら新メンバーの桜内梨子ちゃんです!!」
梨子「よ、よろしくお願いします」
曜「おぉー、遂に陥落」パチパチ
千歌「いやぁ長かったねえ」シミジミ 果南「へえ、噂をすればなんとやら」
ルビィ「果南さん?」
果南「いやいやなんでも」
千歌「これで曲は問題なし! ねえ果南ちゃん、もう活動してもいいよね!?」
果南「そう慌てないの、梨子ちゃんまだ入ったばかりじゃん」
千歌「えー、でもさあ」
果南「そもそもスクールアイドルが何なのかちゃんと教えたの?」 千歌「……言ったよね?」
梨子「いいえ、聞いてないけど」
果南「知らないみたいだね」
千歌「でも音ノ木坂出身だし…」
曜「μ'sのことはあまり詳しくないって言ってたじゃん」
千歌「……」 千歌「梨子ちゃん」
梨子「はい」
千歌「ここから始めよう! きっと大丈夫!」ガシッ
梨子「…ちなみにその台詞は二回目なんだけど、大丈夫?」
千歌「…心配ないって!」
曜「根拠はないよね」
果南「保証もないしね」
梨子「……何ならあるの逆に」チラッ
ルビィ「えっ……えーと、その」 ルビィ「笑顔、ならあると思います」
千歌「おおルビィちゃんいいこと言った! そうだよ笑顔だよ!」ギュッ
ルビィ「ひぁっ……!」
千歌「スクールアイドルでも部活でもそれが一番大事だよね! うん私もそう思う!」ブンブン
ルビィ「は、はい…そうですね」
果南「言った本人の顔引きつってるけど」 千歌「μ'sも言ってた! 笑顔ならいつの日も大丈夫だって!」
ルビィ「それは歌詞です…」
千歌「よし、そうと決まれば早速活動を始めよう! ライブしようライブ!」
果南「おーい、さっきの私の話どこにやったー」
曜「やったというより明後日の方向に向いただけな気が」
千歌「というわけだから梨子ちゃんも曲よろしくね! 最初だからなんかこう、元気出そうなやつ!」
千歌「みんなもよろしくね! 詳細は後日ってことで!」ダッ ルビィ「……行っちゃった」
果南「いやあ、お見それするくらい強引な持っていき方だったね」
梨子「千歌ちゃん、せめてもう少し具体的に言ってほしいわ……何、元気出そうなやつって」
曜「でもやるんだ」
梨子「それはまあ部に入ったわけですし」
曜「そっか、真面目だねー。ちなみに梨子ちゃんは新入部員としてここにどれくらい可能性感じましたか?」
梨子「千歌ちゃんがさっきの話を無しにするくらいかな」
曜「だってさ」
果南「だろうね」
ルビィ(ライブかぁ……)
─
ルビィ「というわけでお誘いにきました」
善子「いや流れが全く分からないのだけど」
ルビィ「別に普通だよ? ライブを見てもらいたいだけだもん」
善子「ああ、誘うってそっちね……てっきり勧誘のほうかと、しつこかったし」
ルビィ「もちろんそれを止めるつもりはないけど」
善子「こら」
ルビィ「でもその前にせっかく決まったライブだから」
ルビィ「善子ちゃんに見てほしいの、ルビィの初めてのステージ」 善子「……そういうことなら、いいけど」
ルビィ「やった。絶対だからね?」
善子「はいはい約束ね。それでいつやるの?」
ルビィ「え?」
善子「だから日時は? 場所は? どれくらいの時間やる予定なの?」
ルビィ「……」
善子「……」
ルビィ「詳細は後日ということで」
善子「…よく勢いだけでここまでやれるわよね貴女たち」 花丸「─へえ、ルビィちゃんたちがライブを」
善子「やるってことしか決めてないのよ? 絶対おかしいわよね」
花丸「でも見に行くんでしょ」
善子「お願いされたから行くだけよ」
花丸「言われなくても知ってたら見に行ってると思うけどね、善子ちゃんは」
善子「…ほっとけないのよ、あの子」 花丸「気持ちは分かるずら」
善子「それに、見てみたいっていうのもきっとあると思う」
善子「好きなことを一生懸命にやるあの子の姿を」
花丸「そっか…」フフッ
花丸「……笑いたいよね、好きなものと向かい合ってるときくらいは」
花丸「それで幸せになれるなら、尚更」
善子「……どうしたの急に」
花丸「ううん、ライブ楽しみだねえって」
善子「……」
─
ルビィ「ただいまー」
ダイヤ「おかえりなさい、遅かったのね」
ルビィ「練習してた」
ダイヤ「今から? 随分気が早いわね、まだほとんど何も決まっていないのに」
ルビィ「ライブやること聞いたの?」
ダイヤ「ええ、果南さんに」
ルビィ「そっか」 ダイヤ「大丈夫なの」
ルビィ「ルビィは楽しみだよ」
ダイヤ「部活は上手くいってる?」
ルビィ「みんな良い人だから大丈夫だよ、梨子さんとは結構話せるし」
ルビィ「ピアノも上手だったんだぁ」エヘヘ
ダイヤ「それならいいのだけど」 ルビィ「うん、いい曲だから楽しみにしててね」
ダイヤ「…そういえば、このことを彼女には伝えたんですか?」
ルビィ「彼女って?」
ダイヤ「津島善子さん」
ルビィ「うん、言ってきたよ」
ダイヤ「そうですわよね、貴女ずいぶん気にいってるみたいだもの」 ルビィ「そうだね」
ダイヤ「何かあったの? 彼女と」
ルビィ「分からない。でもね、多分それだけじゃないと思うの」
ルビィ「ルビィの一目ぼれかもしれないし、ただ一緒にいたからっていうのもあるかもしれない」
ダイヤ「えーと、つまり?」
ルビィ「その何かがあってもなくても、ルビィは善子ちゃんのことが好きってこと」
ルビィ「ううん、好きになっちゃったのかな」 ダイヤ「……そう」
ルビィ「変かな」
ダイヤ「いいえ、全くそうは思いませんわ」
ルビィ「いいと思う?」
ダイヤ「私は応援します」
ルビィ「……じゃあ、一個だけお願いしてもいい?」 ダイヤ「なに?」
ルビィ「ルビィのこと、善子ちゃんに教えてあげてほしいの」
ダイヤ「教えるって……ルビィ、あなた自分が何を言ってるのか」
ルビィ「……」
ダイヤ「……本当に私が言っていいのね?」
ルビィ「お姉ちゃんにしか頼めないよ」
ダイヤ「…なら一つだけ条件。その後の告白はルビィからすること、向こうが行動してくれるまで待っては駄目」
ルビィ「うん、善子ちゃんのこと困らせたくないもん」 ダイヤ「そう……本当に好きなのね、彼女のことが」
ダイヤ「分かりました、では近いうちに話をしておきます」
ルビィ「ありがとう、お姉ちゃん」
ダイヤ「ルビィ」
ルビィ「ん」
ダイヤ「私は信じてますから、頑張ってね」
ルビィ「……うん」
数週間後…
─体育館
千歌「──以上で終わりたいと思います!」
千歌「本日はご来場いただき、ありがとうございました!!」
「ありがとうございました!!」
ワー! パチパチパチパチ
果南「……ふう」
「中々いいじゃない今のリーダーは。元気いっぱいでとってもCuteだし」
「前の堅物とはえらい違い」
果南「そういうあんたの神出鬼没っぷりは少しも変わっていないね、鞠莉」
鞠莉「ハロー果南。元気にしてた?」
果南「まあぼちぼち、ていうか帰ってきてたなら連絡くらいしてよ」
果南「なんの前ぶりもなく会場にいたときはビックリしてフォーム崩しそうになったんだから」 鞠莉「ごめんごめん、ちょっと色々立て込んでてこっちも忙しかったのよ」
鞠莉「それにこんな風に突然来た方がサプライズって感じでいいと思って」
果南「そういうところも相変わらずだね」
鞠莉「それで、ルビィって子はどの子?」
果南「自己紹介見てなかったの? 右端の赤い髪の子だよ」
鞠莉「途中から来たから……ってあの子だったの!? 全然似てないわね」
果南「鞠莉」
鞠莉「……ごめんなさい、今のは失言だったわね」 果南「いいよ、言いたいことは何となく分かってるし」
果南「確かに私から見てもダイヤとは全然違うからね、ルビィちゃんは」
鞠莉「そういえばそのダイヤはどこに行ったのかしら? 色々話そうと思っていたのに」
果南「ダイヤならさっき善子ちゃんを連れてどこか行ったけど」
鞠莉「善子ちゃん?」
果南「ルビィちゃんのお気に入りから、片想いに変わった子だよ。同じクラスのね」
鞠莉「成程、片想い。つまり似た者同士ってことね」 果南「…それはどういう意味かなん?」
鞠莉「そういう意味でしょ。さてと、そろそろ先輩として今のAqoursに挨拶にでも行きましょうかねー」
果南「ふうん、挨拶」
鞠莉「そう、ご挨拶」
果南「鞠莉」
鞠莉「んー?」
果南「うちのアイドルはお触り禁止だからね」
鞠莉「Ohそれは残念……ってあら?」
花丸「……」ワイワイ 鞠莉「ねえ、あのルビィと話してる知り合いっぽい子は?」
果南「ああ、花丸ちゃんね」
鞠莉「へえ、花丸……彼女は部に入ってないから大丈夫よね」
果南「今のところはそうだね」
鞠莉「発育もかなりのものだし、フフッこれは久々にいい感触が味わえ…」
果南「ただ黒澤家全員敵に回すことになるけど、それでもいいって言うなら別に」
鞠莉「……やっぱり先輩は威厳がないと駄目よね、そういうのにはNOtouchってやつ」
果南「いいんじゃない? 今の鞠莉に威厳があるかどうかは些か疑問に思うけどね」
─
善子「なに、いきなりこんなところまで呼び出して」
ダイヤ「善子さんに大事な話がありまして」
善子「私に?」
ダイヤ「ええ、ルビィのことについて」
善子「……ルビィの」
ダイヤ「はい、ですがその前に」
ダイヤ「善子さん、貴女はルビィのことをどう思っていますか?」 善子「どうっていうのは?」
ダイヤ「人として好きなのか、恋愛対象として好きなのか、という意味です」
善子「……そうね、人としてかしら。さっきまでなら」
ダイヤ「さっきですか」
善子「最初は少し心配だった、人ともあまり上手く話せない子がステージで歌うなんてって」
善子「でもいざ始まってみたら、そんなもの少しも感じられなくて……」
善子「一番綺麗だった。誰よりも」 ダイヤ「……」
善子「目を奪われたっていうか何というか……恥ずかしいけど」
ダイヤ「そうですわね、活き活きとしていました」
善子「だからその……好きよ、私は。黒澤ルビィのことが」
ダイヤ「……」
善子「……えっと、それから…」
ダイヤ「いいえ、もう十分です。ありがとうございました」 善子「じゃあ……私に教えてください、ルビィのこと」
善子「私も、もっとあの子のことが知りたい」
ダイヤ「いいでしょう、元よりそのつもりで来ましたから」
ダイヤ「ただ少々気を悪くされるかもしれませんが、どうか最後まで聞いてくださいね」
善子「ええ、分かったわ」
ダイヤ「……では結論から。そして単刀直入に言わせていただきます」
ダイヤ「善子さん、あの子は…ルビィは家の子ではありません」 善子「……えっ…」
ダイヤ「……」
善子「…家の子、じゃない……?」
ダイヤ「はい、もっと正確に言うならば」
ダイヤ「私たち黒澤家とあの子には血の繋がりがないんです」
善子「─!?」
ダイヤ「そうですね、今からおよそ十年ほど前……」
ダイヤ「その頃に黒澤家が養子として引き取った捨て子なんです、ルビィは」 善子「……ルビィが、捨て子…」
ダイヤ「お母様がルビィを連れて帰ってきたときのことは、今でも鮮明に思い出せます」
ダイヤ「私は、最初にあの子を見たとき…言葉の一つすら出てこなかった」
ダイヤ「本当に生き写しかと思うくらい、そっくりだったから」
善子「生き写しって……!! じゃあ…前に花丸が言ってた、黒髪のルビィっていうのは……まさか」
ダイヤ「成程、花丸さんがそのように」
ダイヤ「…ええ、想像の通りですわ。名前は黒澤サファイア」
ダイヤ「私の、血の繋がった実の妹です……外見がルビィと瓜二つの…ね」 善子「黒澤、サファイア…」
ダイヤ「はい、私の両親はなにかと子供に宝石名を付けたがるもので」
善子「もしかしてルビィも?」
ダイヤ「はい、あの子のルビィという名前もここに来てから正式に付けられたものです」
善子「改名したってことよね、本名は?」
ダイヤ「そこまでは……ただ」
善子「ただ?」
ダイヤ「お母様が言うには、とてもすんなり受け入れてくれたと」 ダイヤ「自分の名前に思い入れがなかったというよりかは、諦めたように感じたと話していましたわ」
善子「……捨て子、って言ってたわよね」
善子「ここに来るまではどんな生活を送っていたのか、分かる?」
ダイヤ「聞いた限りの話ですが、拾われる前は父親と二人で暮らしていたそうです」
善子「片親家庭ってこと?」
ダイヤ「ですね、母親がいない理由は死亡か、離婚か…」
ダイヤ「詳しいことは分かりませんが親権などの問題を考えると恐らく前者のほうかと」 善子「どちらにしても酷い話ね、結局は捨てるんだから」
ダイヤ「……ええ、出会ったときは身も心も衰弱しきっていたみたいで」
ダイヤ「もしあのとき、お母様が見つけていなかったら…きっと」
善子「死んでいたかもしれないってことね……」
ダイヤ「はい……」
善子「…………でも」 ダイヤ「え?」
善子「いや、ごめん……こんなこと言うのは失礼だって分かってはいるんだけど」
ダイヤ「……」
善子「けど…ルビィが拾われたのだって、そのサファイアって子に…似てるからで」
善子「だからその、結局は──「親のエゴ」
善子「!」
ダイヤ「ですわよね」
善子「…………はい」 ダイヤ「いいんですよ、皆分かっていることですから…寧ろ、その言葉を聞けて安心しましたわ」
ダイヤ「善子さんはルビィのことを、本当に想ってくれているのですね」
善子「…他人だから、言えることかもしれないわよ」
ダイヤ「でも無関心なら、そんな言葉は出てこないでしょう?」
善子「……」
ダイヤ「お母様も言っていました、あの子の人生は親の都合で変えられているだけだと」
ダイヤ「ただそれでも、だからこそあの子を放っておけなかった、幸せにしてあげたいのだと」
ダイヤ「目を腫らしたまま……」 善子「……」
ダイヤ「もしかしたら、ルビィもそれが分かっているのかもしれませんわね」
ダイヤ「だからあの子は、あの子なりに手探りで自分の幸せを探そうとしている」
善子「幸せ……か」
善子「…ダイヤさん」
ダイヤ「はい」
善子「ありがとう、話してくれて」 善子「正直…今の話を聞くまで勘違いしてたかもしれない、ルビィのこと」
善子「ただのちょっと変わった子なんだって、それだけで……でも」
善子「あの子は強かった。私なんかよりもずっと」
ダイヤ「善子さん…」
善子「私があの子に出来ることなんてちっぽけかもしれないけど」
善子「それでもあの子が困っているなら助けてあげたい、傍にいてあげたい」
善子「同情なんかじゃなくて、大切な人だから」
ダイヤ「……良かった。聞いてくれたのが貴女で」
ダイヤ「善子さん、ルビィのこと…どうかこれからもよろしくお願い致します」
─
ルビィ「それでね、ここで曲が盛り上がるから振りも大きくして……」
花丸「ふむふむ、成程ぉ。流石ルビィちゃんずら」
善子「ずいぶんと熱心なのね」
ルビィ「あれ善子ちゃん、お話し終わったんだ?」
善子「さっき丁度ね」
ルビィ「そっかぁ、じゃあ今度はルビィとお話ししようよ…いいよね花丸ちゃん?」 花丸「うん、待ってる」
ルビィ「えへへっありがとう、それじゃあ善子ちゃん」
ギュッ
ルビィ「ついてきて」
善子「……いいわよ」 鞠莉「あら、何やらそれっぽい雰囲気が」
果南「いつまで野次馬してるの」
鞠莉「そろそろ降りるわよ、ここから先は打ち切りみたいだし」
ダイヤ「驚いた。それなりの配慮は出来ますのね」
鞠莉「What's!? 普通出会い頭にそんな失礼なこと言う!?」
ダイヤ「そうでした、まずはご挨拶から。お久しぶりです鞠莉さん」 鞠莉「ハーイ久しぶり…って挨拶が先とかの問題じゃなくて」
果南「あ、ダイヤおかえり」
ダイヤ「ただいま帰りました」
鞠莉「そしてスルーね、いじけるわよ本当に」
ダイヤ「すみません、このやり取りも懐かしかったものですから」
鞠莉「じゃあ触らせてよ」
ダイヤ「は?」
鞠莉「だって果南がダメダメってうるさいんだもの。私だって懐かしみたいのに」
ダイヤ「本当に変わっていませんわね貴女」
果南「ハグならいいんだけどね別に」 鞠莉「はぁ、お堅い世の中になってしまったわね…ただのスキンシップなのに」
果南「ただのスキンシップならこんなに拒否しないよ、初めての人なら特にね」
ダイヤ「? どういう意味ですかそれは」
鞠莉「あっ」
ダイヤ「鞠莉さん? ……貴女、まさか私たち以外にもそんな気をおこしているわけではないでしょうね」
鞠莉「いやそれは」
果南「うん、Aqoursの新メンバーにちょっとね」
鞠莉「果南!?」
果南「あー、それと花丸ちゃんにも」 ダイヤ「……へえ」
鞠莉「ダ、ダイヤ……? あのー、ダイヤさん?」
ダイヤ「……行きましょうか、果南さん」
果南「いいよ、こっちもちょうど話したいことがあったから」
鞠莉「ちょっ…待って! sorry謝るから! ほんの出来心だったのよ分かるでしょ!? 分からない!?」
鞠莉「まず私の話を聞いて! ねえちょっとそんな早歩きしないで置いていかないで! いやダッシュしろって意味じゃなくて!! ねえ!」
ポツン……
鞠莉「……だいやー、かなーん…」
スタスタ
千歌「…えっと結構聞こえてたけど、大丈夫ですか?」
鞠莉「……とりあえず入部届一枚プリーズ」
─
善子「また随分と離れたわね」
ルビィ「人がいるところで話せるようなことじゃないので、そうでしょ?」
ルビィ「…聞いたんだよね、お姉ちゃんから」
善子「ええ」
ルビィ「あれね、ルビィが頼んだの」
ルビィ「本当は自分の口から言ったほうがいいのかもしれないけど、ルビィだと何をどうやって話せばいいのか分からなくなっちゃうから」
善子「かもしれないわね」
ルビィ「それでもね、知ってほしくて」
善子「どうして?」 ルビィ「それは……」
善子「……」
ルビィ「それは……ね、多分怖かったから」
善子「怖い?」
ルビィ「このまま仲良くなっていったその後に、ルビィの知らないところで善子ちゃんが事情を聞いて」
ルビィ「離れていくのが、怖かったの……みんなそうなんだもん」アハハ
善子「……」 ルビィ「どんなに最初は良くったって……だから」
ルビィ「だからね、善子ちゃんだけはルビィの方からちゃんと言わなくちゃって」
ルビィ「そう、思って……だって」
善子「……」
ルビィ「……だって…」
ルビィ「…初めて、ちゃんと好きになった人だから」
善子「……そう」
善子「ねえルビィ」 ルビィ「うん」
善子「ありがとう、ちゃんと貴女の口から言ってくれて、伝えてくれて」
ダキッ
善子「本当に嬉しかった。だから、もういいわよ」
ルビィ「……ぇ…」
善子「ルビィ、もう我慢しなくていいの。愛想笑いで誤魔化すのはやめなさい」
善子「私の前で無理はしなくていい。素直に言いたいことを言っていいのよ、全部聞いてあげるから」ナデナデ
善子「よく頑張ったわね」
ルビィ「…………っ……」 ルビィ「…………いやだったよ、全部」
ルビィ「お姉ちゃんと比べられることも、サファイアちゃんと比べられることも」
ルビィ「いっつもルビィじゃない、違う人を見ようとしてる周りの目も、いやで」
ルビィ「お友達もいつの間にかルビィから離れてるのが、なんか…分かっちゃうのも…いやで」
ルビィ「本当は…もう誰とも話したくなかった」
善子「うん」 ルビィ「ずっと嫌いだった、花丸ちゃんもお姉ちゃんもお母さんもお父さんも」
ルビィ「大っ嫌いだった!! 本当に嫌いだったんだよ!! なのにっ!!」
善子「……」
ルビィ「それなのに……言えなかったんだよ……」
ルビィ「一番嫌いなときに、嫌いだって、言えなかった」 ルビィ「だからね、もう……出来ないの」
ルビィ「だって……みんなのこと、好きになっちゃったから……」
ルビィ「だから…もう、言えない…っ…!」
ルビィ「それが一番いやだったの! ルビィにも皆にも嘘をついてて!!」
ルビィ「怖かった! 嘘つきだからいつか嫌われるんじゃないかって!」
ルビィ「またいなくなるんじゃないかって!! そんなことばっかり! 自分のことばかり考えてたの!!」 ルビィ「酷いって分かってても! ……だけど……それでも」
ルビィ「それでも…ルビィはね」
ルビィ「…もう……ひとりには、なりたくない…から…っ……」ポロポロ
善子「……」
ルビィ「ずっと…我慢してたの……」
ギュッ
善子「大丈夫」
善子「私、あなたのこと好きよ」
ルビィ「よしこちゃ……うぅっ……わああああああああん!!」
……
…
花丸「あっ」
善子「悪かったわね、待たせて」
花丸「ううん、ルビィちゃんは?」
善子「寝かせてる、疲れてたみたいだから」
花丸「…そっか」 善子「ねえ、スクールアイドル部の人たちはまだいる?」
花丸「今あっちで楽しそうにしてるけど」
善子「そう、じゃあついてきて」
花丸「……?」 鞠莉「ふーん、私がいない間も相変わらずだったのね。果南」
千歌「そうそう、のんびりしてて危機感がないっていうか…前あったテストでも危なかったんだから!」
梨子「それを千歌ちゃんが言う? テスト直前に私に教えてもらいに来た千歌ちゃんが」
千歌「いやーまあ…あはは……」
曜「……」
善子「あの、ちょっといいかしら?」 千歌「あれ? えっとあなたは確か、ルビィちゃんと一緒にいた」
善子「津島善子、こっちは国木田花丸」
花丸「ど、どうも」
千歌「こんちかー! で、私になにか用?」
善子「ええ、入部届を貰いに来たの……二枚」
花丸「えっ」 千歌「おぉ!? ということは」
善子「はい。津島善子、並びに国木田花丸は」
善子「スクールアイドル部への入部を希望します」
花丸「─!!」
善子「以後、よろしく」 千歌「やったー! こっちこそよろしくね! 善子ちゃん花丸ちゃん!」
善子「ええ、それじゃ明日から来るから」
善子「今日の所はさようなら。行きましょ花丸」
花丸「ちょ、ちょっと善子ちゃん!?」
千歌「はいはーいまたねー!」
千歌「すっごい! 今日だけで三人も入っちゃったよ! これがライブの力ってやつ!?」
梨子「うーん、なんか違う気がするけど……」
鞠莉「いいわねえ、若いって」
曜「いや、二つしか年違わないでしょ」
スタスタ…
花丸「ねえ善子ちゃん」
花丸「善子ちゃんってば」
善子「なによ」
花丸「どうしてマルまで入部させたの」
善子「嫌なら断ればよかったでしょ、あの場で」
花丸「そうだけど…」 善子「…事情は大体知ってる、やらない理由なんてないでしょ」
善子「いつまでまごまごしてんのよ」
花丸「……本当はもうちょっとアイドルに詳しくなってから入ろうと思っていたのになあ」
善子「知識だけじゃ意味ないでしょ、経験だってしていかないと」
善子「本当に理解することなんて出来やしないわ。それは私もあんたも同じ」
花丸「…かもしれないね」 花丸「でも、好きな子のためって不純な気がしてならないずら」
善子「でしょうね。けど私も似たようなものだから、お互い様よ」
花丸「フフッ、意外とマルたちも似た者同士だったりするのかな?」
善子「惚れた相手が相手だもの、案外近いところはあるかもしれないわよ」
花丸「あはは、成程。それは確かにそうだね」 花丸「……アオちゃんって呼んでいたんだ」
善子「アオちゃん?」
花丸「サファイアちゃんのこと、聞いたんだよね?」
善子「ああ、そういうこと」
花丸「うん。今でも思い出せるよ、あの頃のことは──」
──
『マルちゃん、おはようー!』
『おはようアオちゃん!』
『? なに、そのアオちゃんって』
『あのね、さふぁいあって日本のわめい? だとあおだまって言うんだって』
『だから、さふぁいあちゃんはアオちゃんずら!』 『……』
『だめ、だった?』
『ううんすっごくいい! そっちのほうが絶対可愛いもん!!』
『アオちゃん、うんアオちゃん! 私これ大好き!』
『よかったあ、喜んでくれて』
『当たり前だよ! でもやっぱりマルちゃんってすごい! 色んなこと知ってるんだもん!』
『そ、そうずら?』 『そうだよ! さすがは私のしょうらいのおヨメさん!!』
『え、えぇっ!? あの話ほんとうだったの?』
『ほんとうのほんとうだよ! マルちゃんはいやなの?』
『いや、じゃないけど…でもダイヤちゃんすごく怒ってたから』
『大丈夫! けっこんするまでに絶対せっとくするから!!』
『おねえちゃんだって私たちのこと好きなんだからむりじゃないもんね!!』 『ね! 一緒にがんばろうよマルちゃん!』
『えへへっアオちゃんが言うとほんとうにそうなる気がしてきたずら』
『あたりまえだよ! ほんきならいつかはむくわれるってお父さんも言ってたもん!』
『私はいつだってほんきなんだから!』
『ふふっそうだね』
『うん、だから今からお姉ちゃんにこのこと言ってくる!』
『また!?』 『また! でもすぐもどってくるよ』
『こんどは大丈夫だから!』
『本当かなぁ……』
『ホントホント!! あっ、そうだそれとね』
『アオちゃんって呼びかたマルちゃんしか使っちゃダメだからね!』
『え、どうして?』
『私とマルちゃん二人だけのヒミツなんだから! とくべつってやつ!』 『とくべつ…』
『じゃあいってきまーす!!』
『あ、うん。いってらっしゃい…』
『……くすっ』
『かわいいなあ。アオちゃん』
──
─
花丸「実際はサファイアの和名は青玉“せいぎょく”だったんだけどね」
花丸「でも、そういう細かい違いに気がついても直す気にはならかったんだ」
花丸「マルにとってのアオちゃんはアオちゃんのままだったから」
善子「……」
花丸「善子ちゃん。マルはね、あの子のそういうところが凄く羨ましくて、憧れてて」
花丸「そして、本当に大好きだったんだよ」ニコッ 善子「みたいね、話してるだけでも幸せそうに見えるわよ今の貴女」
花丸「ん、そうかなあ」
善子「見えるわよ。でもさ」
花丸「でも?」
善子「そんなあんたがよくルビィと親友になれたわよね……きつかったんじゃないの? 色々」
花丸「そう、だね……うん。正直そんな関係になれるとは思っていなかったよマルも」 花丸「まず第一印象が最低だったからね。初めにルビィちゃんに会ったときさ」
花丸「気持ち悪くて吐いたの、本人の目の前でだよ」
花丸「いなくなった人の代わりがすぐに見つかりました。みたいな」
花丸「なんだろう、そういう嫌悪感がきっと物凄かったんだと思う」
花丸「だってどこからどう見てもアオちゃんじゃないのに、そのくせアオちゃんにそっくりで」
花丸「頭がおかしくなりそうだったよ、本当に」
善子「……成程ね、どおりで」 花丸「?」
善子「さっきルビィがさ、言ってたのよ。あんたのこと大嫌いだったって」
善子「それに納得した」
花丸「……そっか、ルビィちゃんが」
花丸「申し訳なかったんだずっと、マルたちはあれだけ酷い仕打ちをしておきながら」
花丸「ルビィちゃんは何も言わない、何も言わせない日々を送らせていたことが」
善子「立場とかの問題ってこと?」
花丸「まあ、ね。あとは本人の我慢強さや気遣い、こっちのほうが割を占めてるんじゃないかな」 花丸「マルや他の人達はさ、それに甘えていたんだよ。ダイヤさんも」
花丸「そのことに気付いたのはマルがたまたまお墓参りに遅れて」
花丸「先にアオちゃんのお墓の前でお参りしながら、一人ボロボロに泣いてるルビィちゃんを見たときだった」
花丸「何をしているんだろうって思った。こんなの、おかしいって」
花丸「そこから先はもう無我夢中で駆け寄って、抱きしめて、一緒にわんわん泣いた。悪者のくせに」
花丸「それまでは自分たちだけが苦しい思いをしていると思い込んでたクセに」
花丸「ごめんね、ごめんねって言葉も、もうどっちに言ってるのか分からなくて」
花丸「ただただ泣き喚くしかなかったんだ。それ以外に、出来ることなんてなかった」 花丸「そのときに思ったの、この子の傍にいたいって」
花丸「一人の女の子として、友達として支えてあげたいって」
善子「……それが親友になるきっかけ、か」
花丸「うん。でも良かった、嫌いだってちゃんと言える人が見つかって」
善子「好きになったからもう言えないともね」
花丸「……本当に参るよね、そういうの聞いちゃうと」 花丸「善子ちゃん、どうして善子ちゃんはマルにそのことを教えてくれたの?」
善子「そうね、まあ本人のためにも控えておくべきだったし、私も言うつもりはなかったんだけど」
善子「逆になったって感じね、ルビィとは」
花丸「逆って?」
善子「あんたのこと好きだったけど、さっきの話聞いてすごいムカついた」
善子「だから言った。それだけよ」
花丸「なるほど、納得ずら」 善子「ええ、でも正直まだイライラしてるから」
善子「ストレス発散にちょっと付き合いなさい」
花丸「というと?」
善子「私の家でゲームするわよ、ルビィと三人で」
花丸「!」
善子「ボッコボコにしてあげるから覚悟しなさい」
花丸「……あはは。それは、怖いねえ」 善子「あんたにゲームの素晴らしさと恐ろしさ、その魅力を骨の髄まで味わわせてやるから覚悟することね」
花丸「うん。でもマルは二人の応援だけでも十分な気がしてきたよ」
善子「はあ? 何言ってんのよ、あんたは」
善子「まだ勝負は始まってもいないでしょうが」スッ
入部届
花丸「……っ…」
善子「やり切りなさいよ、最後まで」
善子「じゃあ私、ルビィを起こしに行ってくるから」
花丸「……うん」クシャッ
花丸「ありがと」ポロポロ 本日はここまでです
また、色々とご指摘がありましたが今のところpixivの方に投稿する予定はありません
こちらの掲示板で続けるつもりです 確か4スレ目とかまで行ってたと思うけど、再開ってことはその後の続きも書いてくれるの?
続き楽しみにしてたSSだったから、そうだったら嬉しい。 ずっと待ってた
もう戻ってこないかと思ってた
ありがとう >>108
何がぬし君をここまでキレさせたのか
そして>>1生きとったんかワレ >>198
はい、今度こそ終わりまで書くつもりで立てました
最初の話から投稿した理由は>>1に書いてある通りです
─
果南「おー、今日はいい風が吹いてるねえ」
ダイヤ「少し生温いですけどね」
果南「そこがいいんだよ」
ダイヤ「それで、話したいこととは何でしょうか?」
果南「善子ちゃんに色々話したんでしょ? そのことでまた考え込んでるんじゃないかと思ってね」
ダイヤ「お節介な人」
果南「世話焼きって言ってよ」 ダイヤ「別に善子さんなら心配ありません、彼女になら安心して任せられます」
果南「へえ、公認か……善子ちゃんもやるねえ」
ダイヤ「茶化すことですか」
果南「いやいや真面目に聞いてますってば」
ダイヤ「どうだか」
果南「ま、でも確かに傍から見ても適任だとは思うけどね、同じ学年だし」
果南「花丸ちゃんとも仲がいいんでしょ? 上手くやれるんじゃないかな」 ダイヤ「花丸さん、ですか」
果南「あーやっぱりそこ気にする」
ダイヤ「何か問題でも?」
果南「あると言えばある。ないと言えばない」
ダイヤ「なんなんですか一体…」
果南「私情ってやつだよ。それよりさ、ようやく鞠莉が帰ってきたわけだけど」
果南「どうすんの? 元リーダー」 ダイヤ「まだしばらくは様子を見ます」
果南「そんなことばかり言ってたらいつの間にか居場所なくなってるかもよ?」
ダイヤ「そのときはそのときですわ、スクールアイドルとは別のあの子たちを手助けする方法を探します」
果南「別の方法って……本気で言ってるの?」
ダイヤ「ええまあ」
果南「ダイヤは本当にそれでいいの、あんなに必死だったのに」
ダイヤ「……」
果南「そもそもダイヤがサファイアちゃんのためにって始めた活動でしょ」
果南「Aqoursって名前を付けたのもそういうことじゃん!」 ダイヤ「……」
果南「確かに私はそんな大層な理由もなくただダイヤに付き合っただけだし」
果南「鞠莉に至ってはどうせ廃校決まってるから自分の卒業までに何か大きなことを成し遂げたいってノリで入ってきたけど」
果南「それでも一年間一緒に続けてきたんだから戻ってきてほしいに決まってるじゃん!」
果南「私たちはダイヤがいないと駄目なんだよ!」
果南「だから鞠莉だって留学することになっても絶対に戻ってくるって私たちに約束したんだ!」
果南「今日のライブ見たでしょ! ルビィちゃんはあれだけの人の前でもしっかり歌えてた! もう十分やっていける!」
果南「それに自分で立ち上げた部活でしょ、はっきり言うけどそれで戻らないのは無責任だよ!」
果南「一体どうしてそこまで迷う必要があるのさ!?」 ダイヤ「……本当にお節介な人ですわね」
ダイヤ「ですが、果南さんの言う通りですわ」
果南「話してよ、理由があるなら」
ダイヤ「……気まずいのです、本音を言うと」
ダイヤ「以前話したルビィのためというのも嘘ではありませんが、それ以上に不安なんです」
ダイヤ「活動を休止し一年以上も離れた上に、今年その存在を知ったばかりの人に部を任せている」
ダイヤ「そんな私が、果たしてあの子たちの指標になるのかと」 果南「何かと思えばそんなこと!? 細かいこと気にしすぎじゃないの?」
ダイヤ「そんなこととはなんですか、気にしすぎでも何でもありませんわ」
果南「あるって、大体休止したのは鞠莉の留学の件があったからなわけで」
果南「部活の方なんて任せるも何も、千歌に目付けられて引っ張り出されたからああいった形になったんだし」
果南「なんでそれくらいのことで一々躊躇うかなあ、もうちょっと別に問題ないでしょってくらいの気軽さでいってもいいんじゃないの?」
ダイヤ「果南さんはそうかもしれませんけれど」
果南「ダイヤもそうしなさいって話」 ダイヤ「……分かりましたわよ、戻ったら伝えてみます」
果南「うんうん、そうこなくっちゃね」
ピロン
果南「ん? 鞠莉からだ……花丸ちゃんと善子ちゃん入部するんだって」
ダイヤ「花丸さんが?」
果南「これはもう入らない理由なんてないよね」 ダイヤ「どういう意味ですかそれは」
果南「どうも何も、花丸ちゃんのことずっと気にかけてたじゃん」
ダイヤ「当然です、花丸さんはあの子にとって唯一の……」
果南「本当にそれだけなの?」
ダイヤ「……なにを根拠に」
果南「いいや、特には」 ダイヤ「……」
果南「……」
ダイヤ「……昔は」
果南「ん」
ダイヤ「昔は、ダイヤちゃんと。 そう呼ばれていたんですよ」
ダイヤ「あの子がいなくなる前はそう……」
──
─
『……今回はお世話になります』
『いえ、こちらの方こそ』
『花丸ちゃんはどちらに?』
『それが……部屋の中に籠りきりでして…』
『そう、ですか………あら、ダイヤ…?』
コンコン
『ダイヤです。マルちゃん、いるのでしょう?』
『……』
『返事をしてください、お願いします!』
『せめて顔だけでも……どうか』
ギィ……
『……』 『! あ、マルちゃ『ダイヤさん』
『──!!』
『マルに何か用ですか?』
『……いいえ、用があるわけではないんです』
『ただ、花丸さんのお体が心配だっただけ。それだけですわ』
『ありがとう。マルなら、大丈夫だから』ニコッ
『じゃあまたね、ダイヤさん』
『はい。また……』
バタン
スタスタ…
『……』
『ダイヤ、おかえりなさい。花丸ちゃんはどうでした?』
『……っ…』
ダキッ
『ダイヤ……?』 『なんでもないと……大丈夫だって……言ってました……!!』
『だからはなまるさんにはっ! 何の心配もありませんわ!!』
『……そうですか、それなら今から私も…』
『そう呼ばないと、いけませんね』
『……ひっく…うぅっ……ああぁぁぁあ……!!』
──
─
果南「……」
ダイヤ「あのとき、察してしまったんです」
ダイヤ「私は、決してあの子のようにはなれないのだと」
ダイヤ「もちろん、誰かに取って代わるなど烏滸がましい話ではありますが」
ダイヤ「それを望んでいる自分も確かにいたのです」
果南「……分かる気がするな、それ」 ダイヤ「本当ですか?」
果南「こんなときに冗談言わないよ」
ダイヤ「それもそうですわね、フフッ」
果南「……で、続きは?」
ダイヤ「ええ、そう願ってはいたのですが」
ダイヤ「されど、彼女が私の傍に来ることはなかった」 ダイヤ「思えばいつもそうだったんです、こうなる以前からずっと」
ダイヤ「そう、私は最初から、常に一歩引いたところであの子たちを見ていた」
ダイヤ「年上だからとか、横槍を入れたくなかったからとか、そんなどうでもいい些細な理由ではなく」
ダイヤ「ただ二人が楽しそうに話している…その光景を見るのが私にとっての幸せで、喜びだったんです」 ダイヤ「だから、それを良しとしていたのは…他でもない自分で、当然の帰結なんですよ」
ダイヤ「彼女はそのことを分かっていて、理解出来ていなかったのは私。これはそういう話なんです」
ダイヤ「お零れをもらっていただけに気が付かなかった、盲目なお姉さんの……ね」
ダイヤ「笑えるお話しでしょう?」 果南「さあ、私はそういうジョークには疎いから何とも言えないし笑えないけど」
果南「ただ……うん、なんだろうな」
果南「ダイヤさ……それ、今でも気にしてる?」
ダイヤ「かもしれません…少なくとも」
ダイヤ「無理だと分かっていても、もう一度、そう呼んでほしいくらいには」 果南「そっか……まったく。重いね、ダイヤは」
ダイヤ「嫌ですか? 重い女は」
果南「いんや、沈むのには慣れてる」
ダイヤ「せめて引き上げてくれると助かるのですけど」
果南「引き上げるさ、本当にもういいっていうのならね」
ダイヤ「……」
果南「けど、自分の意志で留まっている人を無理に引っ張り出すわけにもいかないでしょ」
果南「いや、この場合は戸惑っているのほうが合ってるのかな?」 ダイヤ「…お好きな方でどうぞ」
果南「まあ、どちらにしても踏ん切りがついたときに言いなよ」
果南「そのときは一緒にいるからさ」
ダイヤ「…大分待たせるかもしれません」
果南「分かってるよそんなことは」
ダイヤ「え?」
果南「言ったでしょ重いって、軽々しく振り回せるなんてこっちは思っていないよ」
果南「ただ抱えて歩いていくだけ、それくらいがちょうどいい」 ダイヤ「…ではそのときがきたら、お願いしますわ」
果南「はいよー、いつでもどうぞ」
ダイヤ「なんか少し軽くないですか?」
果南「ん、そうかな」
果南「これでも結構気を遣ってるんだけどなあ…私としては」
ダイヤ「果南さん?」
果南「いやいやなんでも」
果南「ほら、私まで重くなると流石に息苦しいからね、うん」 ダイヤ「そうですか、しかし…」
果南「うん?」
ダイヤ「果南さん、自分から話を振ったとはいえ女性相手に何度も重いなどという発言をするのはいかがなものかと」
果南「あれ、言葉足らずだった?」
ダイヤ「足りないのはデリカシーです」
果南「ああ、そっちのほうね」
ダイヤ「他に何があるんですか…」 果南「さてと、それじゃそろそろ行きますか恋愛事情も聞いたことだし」
ダイヤ「あ、貴女が話せと言ったんでしょう!?」
果南「いやいや私はそんなこと一言も口にしてないけど」
ダイヤ「空気というものがあるでしょう! その場の!」
果南「さあ、どうだったかな」
ダイヤ「果南さん、あなた鞠莉さんに毒されてませんか」
果南「それはあるかもね。流石にあそこまでの野次馬根性はないけど」 果南「あ、そうそう。それとだけどさ」
ダイヤ「はい?」
果南「さっきのこと、やるだけやってみるけど期待はしないでね」
ダイヤ「望み薄ですか」
果南「なかなか加減が難しくてね」
果南「あまり細かくしすぎると意外と引っかかってくれないんだこれが」 >>200
裏でSS作者に粘着して荒らしてる茸らしいよ ダイヤ「…何の話ですか?」
果南「そうだね、こっちの話」
ダイヤ「?」
果南「一つだけ言わせてもらうなら、私にもそう呼ばれたい誰かがいるってこと」
ダイヤ「はあ、よく分かりませんが…」
ダイヤ「果南さんもいつか呼ばれるといいですわね、その人に」ニコ
果南「あはは、この調子だとまだまだ先は長いだろうねえ」
─
鞠莉「あっようやく戻ってきたわね!」
果南「そんなに長いこと話してたつもりはないんだけど」
鞠莉「いいえ長かったわ! 全くマリーの知らないところで何をイチャイチャしてたんだか」
果南「してないってば」
鞠莉「ふーん、まあいいわ」
果南「釈然としないなあ…」
鞠莉「それよりダイヤ、千歌っちがダイヤに話したいことがあるみたいよ」 ダイヤ「? 何でしょう」
千歌「はい! スクールアイドル部を正式に認めてもらいにきました!」
ダイヤ「ああ、そのことですか」
鞠莉「最初から認めてあげればいいのに(仮)とかホントお堅いわよね」
ダイヤ「そこ、お静かに」
千歌「ライブが成功したので! それに作曲出来る人も見つけましたし!」グイッ
梨子「ちょっと千歌ちゃん…」 ダイヤ「みたいですわね」
千歌「これならもう全然大丈夫ですよね!」
ダイヤ「ええ、問題ありませんわ。許可しましょう」
千歌「やったー!」
千歌・ダイヤ「それでですね(!)」
千歌・ダイヤ「……ん?」
千歌「あれ? 何か言いたいことでも」
ダイヤ「いや、お先にどうぞ」 千歌「それでですね! 今日のライブでメンバーも結構集まったことだし」
千歌「しばらくはこの八人でやっていこうかなって思いまして!」バッ
ダイヤ「」ピクッ
鞠莉「あらあら?」
果南「これは…」
ダイヤ「……あの、千歌さん。八人でとはどういう」
千歌「だってこれ以上部員が増えたら、全員をステージに出すのも難しくなってくると思うし」
千歌「そうなると折角入ってくれた人に申し訳ないかなーって」
ダイヤ「成程、筋の通った意見ですわね」 ダイヤ「しかし、しかしですよ…せめてあと一人くらいは入るのではありませんかね。ええ」
千歌「まあ確かにμ'sも九人だったし…出来なくはないですよね、でもあと一人って?」
ダイヤ「そうですわね、例えば私が入ったとしましょう」
千歌「いやいやそれはないですよ!」
ダイヤ「…何故ないと」
千歌「だって生徒会長忙しいじゃないですか!」
鞠莉「……くくっ…即答…」
果南「いやいやまさか、こんなに早く回収されることになろうとは」 ダイヤ「千歌さん? 生徒会長でも部活くらいやりますわよ」
千歌「ダイヤさんやってないじゃないですか」
ダイヤ「以前はやっていました!」
千歌「そのとき生徒会長だったんですか?」
ダイヤ「…ではなかったですけども」
千歌「じゃあ前みたいには出来ないかもしれませんよね?」
果南「あー駄目だこれ、状況証拠が揃いすぎてる」
鞠莉「……ちょっと…千歌っち、貴女本当に面白いわ…くくくっ」
果南「笑っちゃ駄目だよ鞠莉、本人たちは…いたって真剣…フフッ」 ダイヤ「そんなものはやってみなければ分からないでしょう!?」
千歌「でも無理はよくないと思いますよ」
ダイヤ「どうして私のときだけそんなに拒絶するんですか!? 入ってほしくないのですか!」
千歌「そういうわけじゃないですけど……えっと、もしかして入りたいんですか?」
ダイヤ「……いえ、あくまで例えの話なので」
千歌「そうですか、じゃあ無理ってことで」
ダイヤ「」 鞠莉「あはははははは!! 無理って! こっちがもう無理!!」バンバン
果南「素直に言えばいいのにねえ、なんでこう意気地になるのか」
鞠莉「まったくよね」
果南・鞠莉「生徒会長さん。あっははははははは!!」
千歌「え? え? どういうこと?」
ダイヤ「……つまりこういうことです」スッ 千歌「ん? 入部届じゃないですか……あれ?」
ダイヤ「検討しておいてください、では」
ダイヤ「貴女たち、ちょっと来なさい」
果南「あはは、本日二回目だねー」ズルズル
鞠莉「BYE千歌っち。あなた最高だったわ、これからもその調子で頼むわね」ズルズル
千歌「……まいっか、九人目ゲットー!」
梨子「…なんか、無垢って恐ろしいわね」
曜「わかる」
─その夜
善子の家
花丸「さ、流石にもう限界ずら……」
善子「何よ、だらしないわね」
花丸「善子ちゃんがおかしいんだよ」
ルビィ「うん。ルビィもちょっとやりすぎだと思う」
善子「……仕方ないわね、少し休みましょうか」
花丸「露骨すぎない?」
善子「うっさいわね、いいでしょ別に」 ルビィ「よいしょっと」
善子「そして何故あんたは私の布団に潜り込んでるの」
ルビィ「え、駄目なの?」
善子「駄目に決まってるでしょ」
ルビィ「いつもやってることなのに?」
花丸「ん?」
善子「ちょっ……あんた花丸の前でそういうことバラすのやめなさいよ!!」
ルビィ「だって善子ちゃんが」
花丸「へえ…いっつもやってたんだ」ニヤニヤ 善子「ほらもうこうなるから!」
花丸「えー何も言ってないけど」
善子「顔で分かるわよ! ほんっとにもうルビィも何か言ってやりなさいよ……って」
ルビィ「……」スゥスゥ
善子「もう寝てるし…今日どんだけ寝るのよこの子」
花丸「そうは言うけどもう十二時過ぎてるんだよ?」
花丸「善子ちゃんの感覚がおかしいだけずら」
善子「え、なにもうそんな時間なの」 花丸「うん」
善子「あー……夢中になってて全然気が付かなかったわ」
花丸「マルはもう寝るから布団出して」
善子「あんたもあんたで図々しいわね、よいしょっと」
善子「ほら、それ使いなさい、私はルビィと一緒に寝るから」
花丸「はーい」 善子「よっと……はあ、暖かい」
花丸「なんかそれ如何わしく聞こえるからやめて」
善子「なんでよ!」
花丸「あははっ、冗談だよ」
善子「まったくあんたは……」 善子「……しっかし、長い一日だったわね今日は」
花丸「うん、今日だけで色々あったね」
善子「前にさ」
花丸「ずら?」
善子「花丸がサファイアちゃんのことについて話してくれたとき、変だなって思ってたのよ」
善子「なんでルビィの名前が一切出なかったんだろうって、ダイヤさんは出てきたのに」
花丸「ああ、最初に話したやつ?」
善子「そうそう、それね」 善子「そのときはまだ会っていなかったからなんだって納得はしたけど」
善子「なんかさ、不思議で」
花丸「なにが」
善子「どっちもアイドル好きなのが」
花丸「まあアオちゃんは性格的に憧れるのも分かるけど」
善子「ルビィって何でアイドルが好きになったんだろ」
善子「そもそもあの子がどこから来たのかも知らないし、そりゃ言いたくないことや聞かないことだって少なからずあるけど」
善子「私、ルビィのことまだ全然知らないんだなってちょっと思ってね」 花丸「まあ、確かに」
善子(……というか、単にルビィに関わる秘密が多すぎるってだけかもしれないけど)
善子(それにあの子一人だけの問題ってわけでもないし…「東京」
善子・花丸「?」
ルビィ「一回東京のおっきな画面でね、見たことがあるの」
ルビィ「楽しそうに歌って踊っているアイドルを」
ルビィ「それを見ていいなって思って、多分あのとき好きになったんだろうね」
善子「ルビィ、起きてたの?」
ルビィ「ついさっき」 ルビィ「それからはね、よくテレビで音楽の番組とかバラエティとか付けて」
ルビィ「ずーっと見てた気がする、その時間が…ルビィは一番好きだったかな」
ルビィ「あとはずーっと、静かだったから」
善子・花丸「……」
ルビィ「お父さんがいなくなっちゃった後、もう一回だけあそこでアイドルを見てみたいって思って」
ルビィ「それで外に出たんだけど迷っちゃって……その後は、知ってるよね」
善子「黒澤家に拾われた」 花丸「ちょっと善子ちゃん」
善子「そして私に会った、でいいんでしょ?」
ルビィ「はい、そういうことです」エヘヘ
ルビィ「……あ、でもね多分だけど」
ルビィ「その拾われた日、ルビィ善子ちゃんに会ってたと思う」
花丸「えっ」
善子「はい?」
ルビィ「分からないけどね、それだけ」モゾッ 善子「いや…いやいやいやいや、待ちなさいちょっと待ちなさい」
善子「今なんか重要そうなことをさらっと口にした気がするんだけど」
花丸「というか善子ちゃん東京に行ったことあるの?」
善子「あんまり覚えてないけど、一回くらいはあるわよ」
善子「そりゃ家族なら一度は夢の国に行くでしょ、いやあそこは千葉だけど」 花丸「うーん、マルは行ったことないなあ…」
善子「え、ごめん……ってそうじゃなくて!」
善子「東京で会ったかもってどういうことよ、ルビィもっかい起きなさい!」
ルビィ「……」スヤ
花丸「そのうち聞いたら?」
善子「これで思わせぶりだったら、何だったのって話だけどね……」ハァ
……
善子「……」スゥスゥ
花丸「……」スヤスヤ
ルビィ「……」
ルビィ(…言わないほうがいいよね)
ルビィ(少なくとも今は)
──
『ルビィ…?』
『そう、貴女はこれから黒澤ルビィとして生きていくの』
『……』
『……駄目、よね。ごめんなさい、今の話は聞かなかったことに』
『いいよ』 『私、ルビィでもいいよ』
『……本当に?』
『うん。だから』
『私をつれてって、暗くないところに』
『…分かりました。約束しましょう』
スタスタ……
スタスタ……
『……あれ』
『ん?』
『あれも、アイドル?』
『どうでしょうか…私もそちらにはあまり詳しくないので』
『そっか』 『……』
『気になりますか?』
『…ううん』
『そうですか、では』
『うん……?』
ジャラ
『なにこれ、どうぶつ?『あーーーーーっっ!!』
ダダダダッ
『ねえ! その持ってるやつ見せて!!』
『……? はい』
『…やっぱり! ここに落ちてたんだ!』
『?』
『どうやらこの子の落とし物みたいですね、それ』 『そうなの?』
『ええ、まちがいないわ!!』
『じゃあはい、あげる』
『本当に!? いいの!?』
『あなたのものだから』 『ありがとう! 私ね、それずーっと探しててもう見つからないんじゃないかと思ってたんだけど』
『あなたは私の恩人ね!! えへへっ!』
『おんじん……』
『知らないの? 助けてくれた人にはそう言うんだって!』
『テレビで見たことあるわ』 『善子ー、何してるのー』
『今そっちに行くー! じゃあ私もう行かなくちゃ』
ギュッ
『──!』
『拾ってくれて本当にありがとね! それじゃ!』
タタタッ
『行っちゃいましたね』
『うん』
ママー!コレミツカッター!! アラヨカッタワネ!
『……』
ツギモマタイキマショウネ ウン!!
『……』
あなたは私の恩人ね!!
『……そう、だよね』
家族、かぞく。 あれが普通の、家族なんだよね。
お母さんがいて、お父さんがいて、もしかしたらお姉ちゃんもいるかもしれない
きっとそんな家庭が、あの子にはあって。
……いいなあ。
私にも、あればいいのに。
『どうしました?』
『えと、なんでも……?』
貴女はこれから黒澤ルビィとして生きていくの
『…………あ』
『……何か?』
──ああ、そっか。 そうじゃないよね
まだあるんだ、“私”にはなくても
“ルビィ”にならきっと
お母さんがいて、お父さんがいて、もしかしたらお姉ちゃんもいるかもしれない
そんな──家族が。
ルビィには……
『……ううん、ルビィちょっとだけ疲れちゃって』 『……そうですか、なら早く帰りましょう』
『まずは体を洗って、服を着替えて、ご飯を食べて、ゆっくり眠って』
『これからのことは、そのあとでいいから』
『うん……』
『……ねえ』
『はい』
『あなたは、私の恩人?』
『…そうありたいですね』 『そっか、ルビィと一緒だね』
『……もうじき日も暮れます、急ぎましょうルビィ』
『夜になると冷えますから』
『そうだね……帰ろっか』
『お母さん』
──
─
ルビィ(……もっとロマンチックなのが良かったなぁ)
ルビィ「これじゃルビィも、花丸ちゃんのこと言えないよ」
ルビィ(いつか、このことを懐かしいと思えるくらいに時間が経ったら)
ルビィ(そのときまで、傍にいてくれたら……話すよ)
ルビィ「だからそれまで聞かないで……待っててくれる?」ダキッ
善子「……いいわよ、別に」
ルビィ「……ありがとう」
それから一ヶ月後……
─学校、屋上
ダイヤ「──はい今日の練習はここまで!」
千歌「ふう〜疲れたあ……」
果南「でも大分いい感じになってきたと思わない?」
千歌「思う! いやーやっぱりちゃんと仕切ってくれる人がいると違いますなー!」
梨子「誰かさんもそれくらいしっかりしてくれたらね、一応リーダーなんだから」
千歌「そ、それは今学んでる最中だから!」
梨子「本当かしら?」
千歌「ホントだってば!」
ワイワイ
曜「……」
鞠莉「混ざらなくていいの?」
曜「邪魔しちゃ悪いかなって」
鞠莉「ふ〜ん」
曜「なに?」
鞠莉「余計なことばかり考えるタイプなのね曜って」
曜「いや、そういうわけでも……あるかな」
鞠莉「あら、思ったより素直ね」 曜「でもよく分からないというか」
鞠莉「え、嫉妬でしょ?」
曜「え?」
鞠莉「だから、梨子に嫉妬ファイアーでメラメラー! みたいな?」
曜「そこまで過激じゃないと思うけど」
鞠莉「そう? ああでも静かで青い炎のほうが熱いって言うものね」
曜「どんだけ私を内心ヤバい人にしたいの鞠莉ちゃんは」
鞠莉「ソーリー、ちょっとした冗談よ」 鞠莉「まあそれはともかくとして、二人の距離の近さにヤキモキしてる曜ちゃんの件ですけども」
曜「そこで戻ってくるの」
鞠莉「普通に混ざってくればいいのにって私は思うのよね」
曜「普通って言われても、どんな感じでいけばいいのか」
鞠莉「だからいつも通りよ。結局ね、それが一番いいの」
曜「……」 鞠莉「そうねー、もう少し踏み込んだところまで言うと…」
鞠莉「話の流れを切ってしまうんじゃないかとか、邪魔になるとか、それなら行かないほうがいいんじゃないかとか」
鞠莉「そういう余計で後ろめたいことを考えずに接しなさい。といったところかしらね」
曜「……」
鞠莉「気付いていないようで意外と見てるのよ? 千歌っちみたいな子は」 曜「そう、だね……鞠莉ちゃんの言ってることは合ってる、と思う」
曜「ただ、それを踏まえてもあの二人の間って入りづらいんだよね、やっぱり」
曜「というか梨子ちゃんに近付くことがハードル高いとでも言いますか」
鞠莉「梨子のことは嫌い?」
曜「そんなわけないよ、うん。何というか……それは鞠莉ちゃんだけが言った理由だけじゃなくてさ」
鞠莉「うん」
曜「なるべく一緒にいたくないんだよ、あの子。良い匂いがするから」 鞠莉「What's?」
曜「よく分からない、知らないものでも匂いにつられてフラフラーっていっちゃうことあるでしょ」
曜「そしてそういう目的で自分から足を運んだものは大抵好きになってる」
鞠莉「梨子がそうだっていうの?」
曜「うん、だから嫉妬っていうのも間違いじゃないけど、それだけで片づけるのはなんか違う気がする」
鞠莉「……」
曜「多分だけど……私は、あそこに足を踏み入れて慣れてしまうのが怖いのかもね」
曜「いつも隣にいる人が一人から二人に変わってしまうことや、それ以外の……もしもが」
曜「どうしたって頭の中に浮かんでくるから」 鞠莉(物分かりが良すぎるのも、大概困りもの…か)
鞠莉「……なるほどねーっと」グイッ
曜「え?」
鞠莉「千歌っちー! 梨子ー! 曜が二人に言いたいことがあるってー!!」
曜「ちょっと鞠莉ちゃん!?」
千歌「なになにー話したいことって!」ダダダッ
曜「えっと、それは」 千歌「あっ話したいことといえばね! 曜ちゃん、最近梨子ちゃんがまたルビィちゃんとさー!」
梨子「ちょっと千歌ちゃん、曜ちゃんまだ何も言ってないでしょ!」
千歌「あ、あはは…そうでした」
梨子「ね、何かあったの曜ちゃん?」
曜「! いや、まあ……ちょっとね」
ガヤガヤ
鞠莉「ははぁ〜ん、そういうこと」
鞠莉「複雑ねえ、あれはあれで」 果南「鞠莉ー何してるのー」
鞠莉「んー、また相関図がややこしいことになりますなあってね」
果南「またわけのわからないことを……」
鞠莉「So,Crazy でもいずれはそうも言ってられないくらい大変なことになるかもしれないわよ」
鞠莉「恋は人を狂わせるもの……ま、それも今のところは女の勘だけどね」
果南「はあ……?」 果南「ま、いいや。とりあえずダイヤから来週の予定を空けておくようにって」
鞠莉「それはそれは、なんでまた」
果南「PV作成とユニットも分けて作ってみようってことをさ、千歌と話してたみたいで」
果南「それをメンバー全員集めて決めようかって流れなわけ」
鞠莉「はいはい、そういうことね」
果南「随分軽い返事だけど、仕事のほうは大丈夫なの?」
鞠莉「問題ないわよ? 手伝ってくれる人がいれば」 果南「やればいいんでしょ。やれば」
鞠莉「流石果南! そう言ってくれると思ったわ!!」
果南「寧ろ分かってて振ったよね」
鞠莉「そんなこと言わないで、これは美徳よ! モテるわよそういう女の子は!」
果南「せめて実を結んでから聞きたいもんだね、その手の言葉は」
鞠莉「悩ましいわね一方通行って、しかも相手は唐変木ときたものだ」
鞠莉「私からすれば本当に勿体ないわ、本人はもうこんなに熟しているのに目もむけないなんて」ムギュ
果南「手伝う前に訴えるよ」
ワイノワイノ
善子「PVねえ…確かにそろそろ作ってもいい頃よね」
善子「先のイベントのためにも新曲上げて少しでも色んな人に認知させていかないと」
花丸「はえ〜、スクールアイドルってそんなこともやるんだね」
ルビィ「どうだろう、町の宣伝とかも含めたPRって他ではあんまりやらないと思うけど」
ルビィ「普通はグループやメンバーの特徴、魅力をアピールするわけだし」
花丸「ふむふむ、為になるずら」メモメモ
善子「ルビィ、戻ってきてたの」
ルビィ「ついさっき」 善子「ふーん、また梨子さんと話してたんでしょ」
ルビィ「うん」
善子「やけに気が合ってるものね、あなた達」
ルビィ「ルビィがくっついてるだけだよ、梨子さんの声落ち着くから」
善子「へえ、落ち着く」
ルビィ「どうかした?」
花丸「嫉妬だよ嫉妬」
善子「違うわよ!」 善子「ただ、ルビィも誰かと話すのにだいぶ慣れてきたなって」
ルビィ「それは善子ちゃんのおかげだけどね」
善子「私が?」
ルビィ「うん。だって好きな人が見てるといろいろ頑張りたくなるでしょ? だから」
善子「ああ、そう。お役に立てたようで何よりねそれは」メソラシ
花丸「安心したうえに満更でもなさそうだね」
善子「あんたの趣味は人間観察か!! ていうかいちいち横槍入れてくるんじゃないわよ!」 花丸「うーん仕方ない、邪魔ものはここらで退散するずら」
善子「どういう立ち位置で言ってんのよそれは」
花丸「あははっ、またね善子ちゃんルビィちゃん」
ルビィ「ばいばい花丸ちゃん」
善子「はいはいお疲れさま」
善子「全く、余計な気遣って」
ルビィ「余計だったの?」
善子「…いや、言うほどではないけど」 ルビィ「じゃあその厚意に甘えちゃおうよ、ね?」
ルビィ「二人きりで帰るのって久しぶりだもん」
ルビィ(それにきっと花丸ちゃんも、早く報告しに行きたかったんだと思うし)
善子「そうね、最近は三人でとか曜さんととかばかりだったし」
善子「たまにはいいかもね、うん」
善子「よし、アイスでも食べに行きましょうか!」
ルビィ「本当!? 行く行く!」パァッ
善子「目の色変えすぎ、どんだけ食い意地張ってるのよ」フフッ ルビィ「違うよ、善子ちゃんと一緒に食べられるのが嬉しいの」
善子「そうやって持ち上げて奢らせようとしてるんじゃないの? あんたのことだから」
ルビィ「いやー楽しみだねぇ善子ちゃん」
善子「はい確定、そゆとこあるわよねルビィね」
ルビィ「うん、そゆとこある」
善子「開き直るな」 ルビィ「ねえねえ善子ちゃん。ルビィね、バニラとイチゴがいい」
善子「……分けてくれるなら許す」
ルビィ「やった。食べるときはあーんしてあげるからね」
善子「それはいい、結構です」
ルビィ「〜〜♪」
善子「あーもういい、分かった。分かったわよ好きにしなさい」
ルビィ「えへへっ、ありがと善子ちゃん」
善子「どういたしまして……というかその鼻歌、聞いたことないわね。何の曲?」 ルビィ「これ? 次のPVに使う新曲だよ、さっきまで一緒に歌ってたんだぁ」
善子「ふーん、そうなの」
ルビィ「いい曲だよね、ルビィこれ好きなんだ…早く歌ってみたいなぁ」
善子「……」
ルビィ「善子ちゃん?」
善子「ん、そうね。私も好きよ」 善子(やっぱり仲良いわよね、そもそも話せるようになったっていっても私が来る前から梨子さんとはそれなりだったみたいだし)
ルビィ「フンフフーン♪」タンタタンッ
善子(やっぱり相性がいいとかそんな感じかしらね、まあ仲がいいのは悪いことじゃないし)
善子(それで私たちの関係が崩れるわけでもないから、そこまで気にすることでもないけど)
善子「そのときのあの子の笑顔を見てるとなんかねえ…」
ルビィ「笑顔がどうかしたの?」クスッ
善子「! ……ううん、勘違いみたいだから別に気にしなくていいわよ」 ルビィ「そう? ならいいけど」クルッ
善子「……はぁー、本当にもう…」
善子「ねえルビィ」
ルビィ「なにー?」
善子「貴女、ちょろい女って嫌いだったりする?」
ルビィ「いきなり何の話?」キョトン >>200
ここはゴッサムと同じ
早々に他界した者は英雄として崇められ長生きした者は悪に染まってしまう
>>1は負けずに頑張って >>201
返信ありがとう。楽しみにしてる。投下がんばって! >>200
間違えて酉付けたまま書き込んじゃったんだろうな
日頃から荒らししてるということのボロを出してしまったんだろう
─
花丸「……ふう」
黒澤母「最近はこの時間帯に来ることが多くなりましたね」
花丸「ごめんなさい、部活が結構大変で」
黒澤母「責めてなどいませんよ、寧ろ敬服しているんです」
黒澤母「どんなに忙しなくなってもこうして毎日お参りに来て下さる花丸さんのことを」
花丸「いやそんな、褒められるほどのことなんて…マルはしていないですよ」
花丸「ただ好きな子に会いたい、それだけの理由ですから」
黒澤母「あの子が聞いたら喜ぶでしょうね」
花丸「それはもう大喜びで抱きついてくると思いますよ」 黒澤母「……」
花丸「それに影響といっても、別に亡くなって叶えられなかった無念を晴らしたいわけじゃないんです」
花丸「ただ信じてみたくて、アオちゃんが言ってくれた言葉を」
黒澤母「あの子の?」
花丸「マルちゃんは可愛いから絶対アイドルになれる」
花丸「だから私と一緒に世界で一番のアイドルになろうって言われまして」
黒澤母「相変わらず大きく出ましたわね」
花丸「あはは、子供ならみんなそんなものじゃないですか?」 花丸「だけどね小母さん、最初に聞いたときは自信がなかったんです」
黒澤母「ええ」
花丸「だってマルは鈍間だし、いつも本ばかり読んでて人ともそんなに話したことなかったのに」
花丸「そんなマルが人前で歌って踊るアイドルになんてなれるわけない。そう思っていたんです」
花丸「いつも元気で明るくて可愛らしくて、そのうえ皆から愛されてるアオちゃんなら分かるけど、マルじゃ絶対無理だよって」
花丸「そう言ったんですけど、ね」 黒澤母「折れなかったと」
花丸「言っても聞かないところがあるから、アオちゃん」
花丸「でもマルの好きなアオちゃんがそこまで言うんだったら、信じてみたいなって思えて」
花丸「なにより、あの子と一緒にやりたいって気持ちの方が大きかったから」
花丸「だから結局、こっちが先に折れちゃいました」エヘヘ
黒澤母「……」 『ただいまー!』
『ただいま帰りました』
『あら二人ともおかえりなさい』
『聞いておかあさん! あのねあのね、きょうはマルちゃんとアイドルになろうってやくそくしてきたの!』
『アイドル?』
『うん! だってマルちゃんって本をたくさんよんでるから、色んなことしってて、なのにすっごくかわいいんだよ!!』
『だから私思ったの! マルちゃんがアイドルになればむてきになれるって!!』 『へえ、どうしてそう思ったの?』
『ものしりなひとってすごいでしょ? でもアイドルもすごいよね?』
『だったらどっちもできるマルちゃんはすっごくすごいってことになるでしょ!?』
『フフッ、そうですね』
『でしょ!』
『そんな単純な話かしら…?』
『わかってないなあお姉ちゃんは』
『はあ!?』
『ううんお姉ちゃんだけじゃない、みんなわかってない。マルちゃんがどんなにすごいのかってこと!』 『だから私がおしえてあげるの! マルちゃんのすごさを! マルちゃんといっしょにアイドルになってね!』
『私たちはとっぷアイドルになるんだから!!』
『それでテレビにもでて、もっとゆうめいになって!!』
『そしてマルちゃんとけっこんするの!!』
『サファイア! あなた、またそんなこと!』
『だってそれくらいすごくなったら、くろさわけにふさわしいってなるでしょ?』
『相応しい相応しくないのもんだいではありません!! まだ子供のうちからそんな…!』
『お母様もなんとか言ってください!』 『そうね、もし花丸ちゃんがサファイアに相応しい相手になったとしても』
『結婚は大人になるまではお預けでしょうね』
『お母様!?』
『おとなってどれくらい?』
『どれくらい……うーん、そう聞かれると難しいですね』
『見方によって変わるが、最低でも高校卒業くらいはしてからだろうよ』
『話はそれからだな』
『お、お父様まで!』 『こうこう?』
『ああ、もっと分かりやすく言うなら』
『結婚は18歳になるまで我慢しなさいということだよ』
『18さいね! うんわかった!!』
『……あの、私がおかしいのでしょうか』
『いいえ、私たちが変なの』
『はい?』
『知らなかったのダイヤ、私もお父さんも結構ぶっ飛んでいるんですよ? 特にお父さんはね』
『考えてもみてください、普通の親が子供に宝石の名前を付けたりしますか?』
『おい』
『えへへっ! はやくマルちゃんにもこのこと話さなくちゃ!』 黒澤母「……そう、そうですか」
花丸「はい、スクールアイドルをやろうって思ったのも…ただ、見て欲しかったから」
花丸「あの子が信じたマルの一番可愛くて綺麗なその姿を、見せたかっただけ」
花丸「自分で言うのは……ちょっと恥ずかしいけど」
黒澤母「……幸せ者ですね、サファイアは」
花丸「どうでしょう、今までみっともないところも見せちゃいましたけど」
黒澤母「みっともない?」 花丸「前にじっちゃん、ばっちゃんとルビィちゃんで一緒にお参りに行ったときに」
花丸「今まで耐えてきた糸がぷっつり切れたみたいに、自分を抑えきれなくなったときがあったんです」
花丸「疲れていたっていうのもあったのか、前から気にしていたことを思いっきり吐き出したくなる衝動に駆られて……」
花丸「どうしてマルは寺生まれなのに幽霊が見えないの、声が聞こえないの」
花丸「なんでアオちゃんと会えないの、会わせてよって、急に子供みたいに喚いて」
花丸「みんなに心配をかけさせた、そんな日もありましたから」 黒澤母「そういえばアイドルのほうは順調ですか?」
花丸「えっと、ピーブイっていうのを作るみたいです。自分たちを紹介するための映像…みたいな」
花丸「どうしたんですかいきなり」
黒澤母「いえね、最近は家の方でも娘達がその手の話で言い合うものですから」
黒澤母「それに聞くところによると花丸さんも関わっているようなので、つい」
花丸「ああ、成るほど」
黒澤母「…サファイアの影響ですか?」
花丸「無いと言えば嘘になりますけど、やってて楽しいから」
花丸「っていうのも理由にありますよ」 少しずれてしまったので訂正
>>305のレスは
>>294と>>295の間に入ります 黒澤母「……」
花丸「小母さんが思ってるほどいい子じゃないんですよ、マルって」
黒澤母「…みたいですね」
黒澤母「花丸さん」
花丸「はい」
黒澤母「だからといってこの子の前で弱さを隠すのはやめてくださいね」
黒澤母「私や他の者に対してやるのは構いませんがね……PVの完成楽しみにしています、それでは」
スタスタ
花丸「うん…ありがとう、小母さん」
それから一週間後…
ダイヤ「──以上、ここまでがPV完成の大体の流れです」
千歌「基本的にはみんなにそれぞれ分けられた役割をやればいいんだけど」
千歌「手伝えるところがあったり時間に余裕のある人は、他の人に協力してくれると助かるな」
果南「おっけー」
曜「了解であります!」
千歌「というわけで頑張ってみんなでいいものを作ろーっ!!」
オー!!
ダイヤ「さて次はユニット分けのことについてですが」
ダイヤ「まず初めに、一緒になるメンバーで何か要望のある方は……」
千歌「はいはいはいはい!!」バッ
ダイヤ「リーダーが真っ先に手を挙げるのですか…まあいいでしょう、では千歌さん」
千歌「私と曜ちゃんはルビィちゃんと一緒のユニットになりたいです!!」
ルビィ「え?」
曜「ん? 私も?」 ダイヤ「何か理由でもあるのでしょうか」
千歌「最近梨子ちゃんばっかりルビィちゃんと仲良くなっててズルいと思ったからです!」
梨子「えぇ……」
鞠莉「曜、貴女もあれくらいハッキリ言ったほうがいいわよ」
曜「いくらなんでもきっぱり言いすぎでしょ、あれは」
ダイヤ「ルビィはそれで構わないのですか?」
ルビィ「うん、いいけど」
千歌「やったー!」
ダイヤ「まだ決まっていませんわよ」 ダイヤ「他に要望のある方は?」
鞠莉「はーい、じゃあ私からも」
ダイヤ「どうぞ」
鞠莉「私はダイヤ、果南と一緒のユニットになりたくありませーん!」ブッブーデスワー!
ダイヤ「また貴女はそうやって、わざわざ人を煽るような言い方を……!」ピクピク
果南「どうどう、落ち着いて」
鞠莉「そうそう、ちゃんと理由があるから聞いてってば」
ダイヤ「…なら聞かせてもらいましょうか」 鞠莉「せっかくメンバーを分けて組み合わせるんだもの、それなら私はこの機会に普段は関わらないような子と一緒になりたいわね」
ダイヤ「ふむ、一理ありますわね」
果南「意外とまともな理由だった」
鞠莉「失礼ね、というわけで私は組む相手に梨子と善子の二名を希望するわ!」
梨子「私?」
善子「ふーん」ズズッ ダイヤ「なぜ梨子さんと善子さんを選んだのですか? 消去法で自然と?」
鞠莉「ううん、エロいから」
ダイヤ「貴女に少しでも感心した私が馬鹿でした」
鞠莉「ちが、違うわよ!? そういう路線も必要なのよ!」
果南「うん分かった、じゃあ残った花丸ちゃんはこっちが保護させてもらうから」
鞠莉「その認識は間違っているわ果南! セクシー! そうセクシー担当として相応しいと思ったから私は選んだわけで!」
梨子「……大丈夫なのかな本当に」
善子「別に貞操奪われるってわけでもないでしょ、私は別にいいと思うけど」パクッ
梨子「ずいぶんあっさりしてるのね善子ちゃん、というか貞操って…」 花丸「善子ちゃんはルビィちゃんと一緒になれなかったから、もう何でもいいんだよね」
善子「ちょっとそこ誤解を招く言い方やめてくれない!?」
鞠莉「あら振られてしまったのね」
善子「そっちも縁起でもないことを言うな! まだ始まったばかりだわ!」
梨子「え、ちなみにルビィちゃんとはどこまで…?」
善子「なんで急にそわそわし始めたの!? 今そういう話じゃないでしょ!」
果南「そろそろ止めたほうがいいんじゃない? アレ」
千歌「いやー姦しいとはまさにこのことですなー」アハハ
曜・ルビィ「……」
千歌「ん? どしたの二人とも」 ダイヤ「はい静かに! 話を戻しますわよ!」
「はーい」
ダイヤ「はあ……とにかく、ユニットの組み合わせは取りあえずですが決定しました」
ダイヤ「まだ仮ですが、一先ずはこの形で活動していく方針ですのでよろしくお願いします。以上で……」
千歌「以上で今回の部活動会議を終了とさせていただきます! みんなお疲れさま!!」
ダイヤ「……締めの部分だけリーダーらしくするのはやめてもらえます?」
千歌「いや、最後くらいはしっかりしないとほら、立場的に」
ダイヤ「……梨子さんの気持ちがよく分かりましたわ」
スタスタ
果南「でもさ思ったより早く決まって良かったじゃん、さくさく進んだというか」
花丸「ダイヤさんがまとめてくれたからね、昔からそういったのは得意だから」
果南「たしかに」
ダイヤ「…別に、そこまで言われるほどのものでもありませんわ」
鞠莉「照れてる照れてる」
ダイヤ「貴女はいちいち茶化さないでください!」
鞠莉「だってダイヤ可愛いんだもの♪」テヘペロ 善子「しかし、唐突に決まったけど大丈夫なのかしらね。PVはともかくユニットの方は」
鞠莉「あら、善子は私と一緒なのが不安?」
善子「いやそうじゃなくて、ルビィの」
鞠莉「いいわねえ青春、でもまあそこは特に問題ないでしょ」
ダイヤ「ええ、なにせ──」 千歌「かーべーはー!!」
曜「ハイハイハイ!」
ルビィ「壊せるものさー!」
曜「ハイハイハイ!」
千歌「倒せるものさー!」
千歌・ルビィ「自分からもっとチカラを出してよー!」
ハイハイハイ!
ダイヤ「…あんな調子ですから」
善子「いやそれが私は心配なんだけどね」
梨子「勢い余ってライブで歌わなければいいけど…」 善子「ほんと、どんだけスクールアイドル好きなのよあの二人」
善子「スクールアイドルっていうかμ'sだけど」
鞠莉「μ'sといえばわしわしよね」
果南「え、なんですぐそこに直結するの。無理なんだけど」
鞠莉「ちょっと本気で引いてない果南?」
果南「ちょっとっていうか、かなり」
鞠莉「言い直さなくていいわよ!」 果南「ほんと、イミワカンナイ」
鞠莉「そんなこと言わずに、ねえ果南、おねがぁい」
善子「……なんか自然に混ざろうとしてるし、これ以上増えたら収集付かないんだけど」
花丸「まあまあ善子ちゃん」ポン
善子「なによ」
花丸「ファイトだよ!」ズラ!
善子「いい加減にしろあんたら!!」
ワーワーギャーギャー
梨子「……向こうも向こうですけど、こっちはこっちで賑やかですね」クスッ
梨子「少し賑やかすぎる気もするけど……ダイヤさんはどう思います?」
ダイヤ「うーーん」
梨子「?」
ダイヤ「ちょっと寒くないかにゃー?」
梨子(あっ、混ざりたかったんだ)
それからの時間は楽しくもあっという間で
曜「どうかな? ちょっと盛りすぎ?」
ルビィ「下はもう少し軽くして、動きやすくしたほうがいいと思います」
曜「了解! ちゃちゃっと済ませてくるねー!」
果南「買い出し終わったよー! 他に足りないものとかある?」
いつも慌ただしくて、忙しい日々だったけれど
鞠莉「こことここ、あとそっちを修正しておいて、音量も調節しておいた方がいいわね」
善子「ちょっと待って、まずは今やってるのを終わらせて…っと。で、次が……」
ダイヤ「鞠莉さん、資料が出来ましたので申請お願いします」
鞠莉「オッケー、じゃあ二人で話しに行きましょうか」
善子「帰りに甘いものでも買ってきてもらえると助かるわね」
ダイヤ「では、その後少し休憩時間を取りましょうか」
鞠莉「それまでファイトよ善子!」
善子「はいはい、任せなさいって」
それでも、みんなと一緒に過ごす毎日はとても充実したもので
千歌「どうかな?」
梨子「うん、いいと思う。あとはこれにどうメロディを合わせるかってことだけど」
花丸「もう少し言いやすい言葉にしたほうがいいのかな?」
梨子「まずは一度通して歌ってみましょう」
千歌「歌詞にしても曲にしても、それを聞いてから変えていくってことね」
梨子「そういうこと、じゃあ花丸ちゃんよろしくね」
花丸「マルが!? うぅ、緊張するずら……」
私にとって、大切な……とても大切な思い出になっていったの
そしてそれは、きっとこれからも続いていくんだろうなぁ
ずっと続いていけたらいいなあって
そんなことを思いながら、自分の愛する人と一緒に喜んだり、笑いあったり
あぁ、幸せってこういうことなのかなって
このときは、本当にそう思っていたの
…………
あの日がくるまでは
─部室
バンッ
千歌「みんなー! 大ニュースだよっ!!」
千歌「私たちのPVが急上昇ランク4位に入ってる!!」バッ
曜「本当だ凄い伸びてる!」
ルビィ「コメントも沢山来てるよ!」
善子「これはまた初っ端から大目立ちしてくれたわね、ちょっと上手くいきすぎじゃない?」
花丸「善子ちゃん、にやけながら言っても引き締まらないよ」
善子「うるさいわね、嬉しいんだから仕方ないでしょ」 果南「学校でも結構話題になってるみたいだよ、私とか声かけられちゃったし」
ダイヤ「それは果南さん自身の人気によるものも大きいと思いますけど」
果南「別にいいんだけどなあそういうのは」
ダイヤ「何を贅沢なことを言ってるんですか」
果南(いやだから他の人に好かれても意味ないんだって…って流石に今言うのはまずいよね)
鞠莉「内浦に興味を持ったって人もちょくちょくいるみたいよ、いい傾向ね」
梨子「関連でユニットの曲も聞いてもらえてるし、凄いわね」
千歌「うんうん! 頑張ったかいがあったってもんだよ!」 千歌「梨子ちゃんもこれでようやく決心がついたんじゃない?」
善子「何よ決心って」
曜「梨子ちゃんまだお母さんにPV見せていないんだよね、恥ずかしいからって」
善子「そんなのでよく今までステージに立てられたわね」
梨子「それはその、だって家族に見られるのはまた別の話でしょ」
ダイヤ「まあ気持ちは分かりますけど」
ダイヤ「それでも、娘の晴れ舞台なら親は喜んで見てくれると思いますわよ」ズズッ
花丸「同感ずら、きっと梨子さんのお母さんも楽しみにしてると思うよ」モグモグ
果南・鞠莉「……」 梨子「そう、なのかな。ルビィちゃんはどう思う?」
ルビィ「ルビィも見せたほうがいいなあって思います」
ルビィ「梨子さんなら大丈夫だよ、きっと」
千歌「ほら! みんなもこう言ってることだし!」
梨子「うん。じゃあ今日帰ったら、一緒に見ることにするね」 鞠莉「あっ、そうだわ!」
果南「どしたの突然」
鞠莉「ねえ折角だし近いうちに打ち上げパーティでもやらない?」
鞠莉「華々しいデビューの記念にってことで!」
千歌「おぉーいいね!」
善子「記念って……PV完成のときにも似たようなのやったじゃない」
鞠莉「心配しなくてもmoneyはあるから問題ないわ!」
ダイヤ「いやらしいうえに、善子さんはそういう意味で言ったのではないと思うのですけど」
鞠莉「固いこと言わないの! いいのよこんなこと今しか出来ないんだから!」
果南「まあ確かにそれはあるかも」 曜「はいはい! 私ハンバーグが食べたいであります!」
梨子「曜ちゃんまたハンバーグ?」フフッ
ルビィ「あの、お菓子がたくさんあるところがいいです!」
花丸「マルは久しぶりにたい焼きが食べたいずら」
善子「私はチョコレートパフェ、特盛で」
ルビィ「太るよ?」
善子「あんたに言われたくないわ」 果南「もうみんな乗る気満々みたいだね」
ダイヤ「……全く、仕方ありませんわね」ポリポリ
果南「クスッ、仕方ないのはどっちなんだか」
ダイヤ「何か?」
果南「いいや? 折角ならいいもの食べたいよねって話さ、ダイヤもそうでしょ?」
ダイヤ「……やるなら半端はいけませんし」 千歌「よーしそれじゃあ決まりということで!」
千歌「この調子のまま一気に今日の練習も頑張ろーっ!!!」
「おーーっ!!」
鞠莉「調子づかせるのは上手いのよねえ千歌っち」
善子「貴女も大概だと思うけどね私は」
─その帰り道…
千歌「いやー今日は凄かったねー」
千歌「私たちの作ったPVが一気に伸びて、Aqoursの知名度も上がって!」
千歌「それに打ち上げパーティまでやるんだから良いことづくめだよ!」
梨子「そうね、嬉しいけど未だに少し信じられないというか」
曜「分かる、いきなりだったからね。今でもまだドキドキしてるもん」
千歌「私も!」
梨子「なんだ、みんな同じなのね」フフッ 曜「しっかしこの前のお祝いからまだそんなに経ってないのに、またパーティーを開くのは驚いたよ」
曜「前のときも結構豪華だったと思うんだけど」
千歌「うんうん流石は鞠莉ちゃんだよね、羽振りがいいというか、豪勢というか」
曜「鞠莉ちゃんが大胆っていうのもあると思うけど、やっぱりお金持ちのやることは違うなーって感じ」
梨子「まあ私たちとは金銭感覚が違うのは確かかもしれないわね」 千歌「んー、でもさ梨子ちゃんの家も結構なお金持ちだよね」
曜「え、そうなの?」
梨子「いやそれほどでも……あるかな?」
千歌「あるよ! だって東京にいたころは自分の部屋とは別にピアノを弾くための部屋があったんでしょ?」
梨子「うん、あったけど」
曜「へえー凄いねそれは、専用部屋ってことでしょ?」 梨子「まあ元は空き部屋で、取りあえずそこに置かせてもらってたってだけだから」
梨子「私のために特別に用意してもらったってわけじゃないの」
曜「ふーん、そうなんだ」
梨子「いつからだったかなあ、確か小学生になるちょっと前にお母さんが」
梨子「もうあそこは使わないからって」
曜「前は使ってたってこと?」
梨子「かも。でも片付けやら何やらは全部お母さんがやったから元々どんな部屋だったのかは私も分からないわ」
梨子「それがどうかしたの?」 曜「ううん別に。ただなんとなく気になっただけ……かな」
梨子「そっか」ニコッ
曜(だって新しいことくらい聞いておかないと納得いかないじゃん。千歌ちゃんに聞かされるまで私は何も知らなかったわけだし)ムスッ
曜(どうして千歌ちゃんばっかりにそういうこと話すかなあ…………ってあれ?)
曜(……いやいやおかしい、待ってこれおかしいよ、え? なんで千歌ちゃんに対抗意識を燃やしてるの私は)
曜(ん、いつの間にか相手すり替わってませんかこれ?だって私は元々梨子ちゃんにこう思うところがあったわけでなのに今は……あれ?ちょっと待て、待って待ってまっていやでもだからといって別にそれがどうってことでも)
梨子「曜ちゃん?」
曜「いやいやホントに何でもないから! なんでも!!」
梨子「そう? なんかボーっとしてたけど」
曜「気のせいだよ、うん」
曜(取りあえず深く考えないでおこう、多分そこまで考えるほどの意味はない……とそう思うことにしよう。うん) 千歌「でもいいなあ梨子ちゃん、私なんてちょっとうるさくしただけで美渡姉から怒られるんだもん」
梨子「千歌ちゃんはしょっちゅうだものね」
千歌「ホント何かあったらすぐガミガミ言うんだから」
千歌「あーあ、こういうのが妹のつらいところだよねえ」
梨子「その話、美渡さんが聞いたらまた怒るわよ」
千歌「うげー」
梨子(でも、妹……かあ) 曜「うーん…とは言ってもさ、千歌ちゃんの家は旅館だからまた事情が違うんじゃないかな?」
曜「大変だと思うよ、旅館が家だとそういうところって」
千歌「うっ…それはそーかもだけどさあ」
梨子「……」
曜「…梨子ちゃん? どうしたの急に黙っちゃって」
梨子「え…? あ、ううんなんでもないの少し考え事」 曜「?」
梨子「ほら、私にはお姉さんも妹もいないから」
梨子「もしいたら、どうだったんだろうって」
曜「ああ、見てると欲しくなるのわかる。 羨ましくなるよね」
梨子「そうそう、丁度そんな感じ」 千歌「そんなもんかなー……あっ、でもねもしそうなったら梨子ちゃんは断然お姉ちゃんだと思うな!」
梨子「私が?」
曜「雰囲気とかがもうそれっぽいもんね」
梨子「そういう問題かしら……? でもそう言われれば確かに…」ウーン
千歌「あれ、心当たりでもあるの?」
梨子「なんかね、ルビィちゃんと話してるときは妹ってこんな感じなのかなぁとか思うことがときどきあるの」
曜「最初の頃から結構仲良かったもんね、それにルビィちゃんなんてザ・妹!! って感じだし」 千歌「でも残念! 今はルビィちゃんは私たちのものだもんね!!」
梨子「どこで張り合ってるの…というかそんなこと言ったら善子ちゃんが黙っていないわよ」
千歌「む、それは困るかも」
曜「あはは、何にしても梨子ちゃんにはお姉さんが似合うってことだね!」
曜「今の言い方もお姉さんっぽかったし」
梨子「そう? 曜ちゃんが言うならそうかもしれないね」
曜「! ……ははっ、そうでしょそうでしょ」
千歌「えー何それ! 曜ちゃんズルくない!?」
曜「ズルいって何が!?」
梨子(お姉さん、ね……うん。悪くないかも)
……
─梨子の家
梨子「ただいま」
梨子母「おかえりなさい、今日は遅かったのね」
梨子「うん、ちょっと色々あって」
梨子母「部活のこと?」
梨子「そうなの、それでお母さんに見てほしいものがあって」 梨子母「どれ?」
梨子「私たちね、グループとか学校の紹介のためにPVを作って、それをネットに上げてたんだけど…」
梨子「今日ランキングにその私たちのPVが入っていたのよ! ほらこれ」
梨子母「あら凄いじゃない! 千歌ちゃんと、こっちは曜ちゃんね、可愛いー!」
梨子母「他に映っている子達も綺麗な女の子ばかりね、うん梨子もよく綺麗に映ってるわよ」
梨子「あ、ありがとう」 梨子母「うんいいわね、楽しんでるって感じがこっちにも凄く伝わってきて、それに……」
梨子母「それ…に…………」
ルビィ「」チラッ
梨子母「──っ!?」
梨子「どうしたのお母さん?」
梨子母「ねえ梨子、この子って……誰……?」 梨子「え、ルビィちゃんのこと?」
梨子母「ルビィ……? え……いや、でも……まさか…」
梨子「お母さん?」
梨子母「…ううん、何でもないわ。いい曲ね」
梨子「……? ありがとう」
そして季節は変わり……
──夏
千歌「夏だー! 合宿だー!!」
曜「海だー!!」
ダイヤ「海未は私ですが」
ルビィ「サマーウィー♪」
梨子「ハイハイハイ!」
鞠莉「シャイニーーーー!!」
善子「ちょっと待った! なんか後半にいくにつれて可笑しくなってるわよ!!?」 果南「ちなみに今の流れを前回の! ラブライブサンシャイン!! って感じで説明すると」
花丸「マルたちAqoursは以前のPVとユニットライブなどのおかげで知名度も上がり」
花丸「なんと来月東京で行われる、今話題のスクールアイドル達が集まるライブ大会に参加者として招待されることになったずら!」
果南「そこで私たちは自分たちのライブをよりよくするために、夏休みの時間を使って合宿をすることに!!」
花丸「果たしてマルたちは無事に合宿を終えて成長することが出来るのか!? 波乱万丈の予感がするずら!」ハイ!
果南「海だけに!!」タッチ!
善子「何ここ! とうとう突っ込む人間が私しかいなくなったの!? みんな暑さでテンション変になってるでしょ! 少しは落ち着きなさいよ!」
……それからしばらくして
ダイヤ「えーでは、気を取り直しまして合宿の説明を」
善子「ようやくまともになったわね……」
ルビィ「大変だったねぇ善子ちゃん」ハイ
善子「そう思うなら協力くらいしなさいよ…」アリガト
ダイヤ「今回の合宿は十日間にわたって行われます、その間の寝泊まりはあちらに施設がありますので、それを使用してください」
千歌「おー! おっきいねえ!」 ダイヤ「今回は鞠莉さんではなく私たち黒澤家が提供させていただきました」
ダイヤ「基本的に自由に使って構いませんが、中にある貴重品だけは絶対に壊さないようにとのことです」
果南「え、何それこわい」
ダイヤ「常識でしょう、いったい何を恐れているんですか」
果南「だって黒澤家だし」
鞠莉「黒澤家だものね」
ダイヤ「とてつもない偏見を見た気がしますわ」 ダイヤ「とにかく、今回の目的は基礎体力の向上と共同生活によるグループの団結力上昇」
ダイヤ「この二つが特に重要なのでゆめゆめ忘れないように」
鞠莉・曜「ユメを語る言葉より〜ユメを語る歌に……」
ダイヤ「今真面目に話しているのでふざけないでもらえますか」
鞠莉・曜「すみません」
千歌「つまり! みんなで協力して今よりもっと絆を深めようってことだよね、ダイヤさん!」
ダイヤ「ええ、そういうことですわね」
果南・善子「おぉ、こっちのほうが分かりやすい」
ダイヤ「……」ジロッ
果南・善子「すみません」 ダイヤ「はぁ……合宿の開始は明日からです、くれぐれも気を緩め過ぎないように。以上ですわ」
梨子「大変ね、ダイヤさんも……」
花丸「そうだね、けど、それでもやらずにはいられないんだよ」
ルビィ「そこがお姉ちゃんのいいところだもんね」
梨子「ふふっ、そういうの聞くと、ちょっと羨ましくなるわね」
ルビィ「え?」
梨子「ううん、なんでも」ニコッ
─合宿一日目
果南「ワンツースリーフォー! そこ! 3のところでまたバランスズレてるよ!」
善子「ごめんなさい!」
ルビィ「もう一回お願いします!!」
果南「よし! じゃあ初めから通しでやるよ!」 花丸・ダイヤ「はあっ……はあっ………」
曜「頑張れ二人とも! あと一周!」
梨子「あと、一周……ね…」
千歌「梨子ちゃん! 負けないでー!」
曜「あと二周! 梨子ちゃんなら出来るよ!!」
梨子「……っ…!」
鞠莉「花丸ーダイヤー梨子ー! ファイトー!!」 「「「疲れたー!!」」」
果南「みんなお疲れさま!」
ダイヤ「次も…はあっ……このメニューでいくのでしっかり休んでおくように」
千歌「なんでもいいけどお腹空いたよー!」
ルビィ「ルビィも……もうへとへと…」
善子「このあとに料理も自前なんて……」
花丸「生活って大変ずら……」
─合宿六日目
鞠莉「はいはいみんな注目ー! 次のライブのお知らせよ!」
果南「ライブ?」
鞠莉「そ、合宿の最終日にその成果を披露するって体で」
鞠莉「街の人たちを呼んでここでライブをやるの!」
曜「嘘!? もう三日しかないじゃん!」
鞠莉「でも着実に力は付いてきてると思うわよ?」 ダイヤ「それにこの件については前々から話を進めていたことです」
千歌「ラブライブの本選に進むためにも必要なことだからね!」
曜「あれ、千歌ちゃんなんか…」
梨子「ちゃんとリーダーらしくなってる…」
千歌「失礼な! 私だってちゃんと頑張ってるんだよ!」
ダイヤ「ええ、千歌さんはしっかりと成長していっていますわよ」
千歌「えへへ、そうでしょー! ……じゃなかった!」
千歌「とにかく! ライブで使うのは次の予選用に作った曲だから」
千歌「残りの日は練習+楽曲のチェックでもっと忙しくなるのでそこのところよろしく!」
「「おー!」」 果南「ライブかあ、楽しみだねルビィちゃん」
ルビィ「そうですね、頑張らなくっちゃ」
鞠莉「あ、ちなみにこのライブには保護者も呼んでいるから」
梨子「えぇーっ!!? 冗談よね!?」
善子「うわビックリした、急に驚かさないでよ」
千歌「冗談じゃないよ、うん」
梨子「あの、ということは…もしかして……」
鞠莉「もちろん、梨子のお母さんにも声を掛けてるわよ」
ダイヤ「とても楽しみにしておられましたわ」 梨子「あぁ…やっぱりそうなるよね…」
善子「貴女まだ耐性ついてなかったの」
曜「いや多分梨子ちゃんのことだから、映像と生で見られるのは違うとかそういうのじゃない?」
梨子「…曜ちゃん」
千歌「正解っぽいね」
曜「待って! 悪気はないんだって! それに梨子ちゃんライブだとすごい可愛いから全然大丈夫だって!」ガシッ
梨子「……え?」
曜「えっ? なに、何か変なこと言った私?」 果南「出たよ無自覚たらし台詞が」
鞠莉「人のこと言えないでしょ」
千歌「曜ちゃんそういうところあるからねー」
花丸「ん? 今の曜さんおかしなこと言ってた?」
ダイヤ「まあ、花丸さんはそう反応するでしょうね…」
鞠莉「花丸、あれはつまるところloveなのよ」
花丸「あー成程ずら」
曜「ラブ? …………!! ちっがうって! 私はそのほら! 応援として!」 梨子「大丈夫よ曜ちゃん、ちゃんと分かってるから」
曜「えっ」
梨子「みんなもこれ以上曜ちゃんをからかわないの」
「はーい」
梨子「はい、これでよし」
曜(あれ、なんだろう…)
ルビィ「梨子さんって曜さんに甘いよね」
千歌「すごい分かる、えこひいきだよーえこひいきー」
梨子「そこ聞こえてるわよ」 曜(なんか…そんなすんなり理解されるのも、ちょっと複雑なような…)
梨子「全く、いきましょ曜ちゃん」
曜「う、うん行こっか」
善子「…………」
善子「曜」
曜「ん、なーに善子ちゃん?」
善子「まあ、その……頑張んなさいよ、大変でしょうけど」ポン
曜「だから…っ…そういうのじゃないんだってば!」
スタスタスタ……
善子「さて、どうだかねえ……今の貴女、前の私にそっくりよ」
─そして、合宿最終日
千歌「ありがとうございました!!」
「ありがとうございました!!」
ワー! スゴーイ!! イイゾー!
パチパチパチパチ
千歌「ははっ! やったねみんな! 大成功だよ!」 ダイヤ「ええ、全員が素晴らしいパフォーマンスを見せていたと私も思います」
鞠莉「これなら来月の大会やラブライブ予選も問題ないわね!」
ダイヤ「まだ気は抜けませんが、確かに今の私たちなら決して不可能ではありませんわね」
千歌「よぉーし! このまま一気に進むぞー!」
ダイヤ「千歌さん、勢いも大事ですけど」
千歌「分かってる分かってる! まずは休息だよね!」
千歌「みんな今回の合宿お疲れさま! このまま帰るのもよし、遊ぶのもよし」
千歌「頑張った分だけ思いっきり羽目を外しちゃってください! 以上解散!」
ダイヤ「少しメリハリが効きすぎてる気もしますが…構いませんわよね」クス 果南「さてと、全部終わったことだし私は久々に家でゆっくり過ごそうかな」
花丸「マルも寄るところがあるから先に行くね」
花丸・果南「お疲れさま〜」スタスタ
曜「はいお疲れー、よしそれじゃあ私も…」
梨子「待って曜ちゃん」 曜「ほぇ?」
梨子「ちょっと私に付き合ってもらえないかな、せっかくの機会だから」
曜「……私でいいの?」
梨子「曜ちゃんじゃなきゃ駄目なの」
曜「…そういうことなら、お供しますけども」
梨子「決まりね、行きましょうか。二人ともまたね」ヒラヒラ
曜(私じゃなくちゃってどういう意味だろ)スタスタ 善子・ルビィ「さよならー」フリフリ
善子「……さて、どうしましょうか」
ルビィ「どうしようねぇ」
善子「なんかいざ解放されると、何やっていいのか分からない感じあるわよね」
ルビィ「だねぇ」
「……」
ルビィ「うーーん、本当にどうしよっか」
善子「とりあえずさ、一緒に歩かない?」
善子「何するかなんて歩きながらでも考えられるでしょ」 ルビィ「そうだね」
善子「それに、その」
ルビィ「?」
善子「一人は…嫌だし」ギュッ
ルビィ「……えへへっそうだね!」
ルビィ「ルビィも善子ちゃんと一緒がいいな」ニコッ
善子「っ……ほら、それなら私たちもさっさと行くわよ」
ルビィ「照れてる善子ちゃんかわいい〜」
善子「誰も照れていないっての」 梨子母「……」
千歌「あれ、どうかしました?」
梨子母「ううん、何でもないわよ」
梨子母「それより今日は本当にお疲れさま、私ああいうの見るの初めてだったから凄くドキドキしたわ」
梨子母「千歌ちゃん、とっても可愛かったわよ」
千歌「あ、あはは…いやーそれほどでも」 梨子母「お世辞じゃないわよ、みんな一生懸命で……それに」
梨子母「分かったこともあるから」
梨子母「……ねえ千歌ちゃん」
千歌「はい?」
梨子母「…………いいえ、なんでもないわごめんなさい」
梨子母「梨子のこと、これからもよろしくね」 千歌「それはもちろん!」
梨子母「フフッありがとう……じゃあ私、そろそろ行くわね」
千歌「はいっ! 今日は来てくれてありがとうございました!!」ペコリ
梨子母「…………ごめんね、それでも……どうしても」
梨子母「気のせいなら、それが一番いいのにね……」 気になったんだが初見でこのss読んでる人ってどれくらいいるんだろう
見たところ前から追ってた人が多いように感じるけど
─
ルビィ「善子ちゃんとデート♪ 善子ちゃんとデート!」
善子「あんまり大きな声で言わないでよ、恥ずかしいでしょ」
ルビィ「楽しいねぇ善子ちゃん」
善子「聞きなさいよ、まあ否定はしないけど」
ルビィ「次はどこに行こっか?」
善子「そうねえ、そろそろいい時間だしこのまま私の家まで……ってあれ?」
ルビィ「どうしたの善子ちゃん」 善子「ほら、あの先にいる人」
ルビィ「えっと確か梨子さんのお母さんだよね、こんばんはー」
梨子母「こんばんは」
善子「本日は私たちのライブにお越しいただきありがとうございます」ペコリ
梨子母「いいのよそんなに畏まらなくても」
ルビィ「善子ちゃんは真面目ですから」
善子「あのねえ……でも偶然ですね、こんなところで会うなんて」
ルビィ「梨子さんを探してたんですか? それならちょっと前に曜さんと…」
梨子母「いいえ、違うわよ」
梨子母「あなたを待ってたの」
ルビィ「……ルビィを? どうしてですか?」 善子「ほらアレじゃないの、貴女梨子さんと仲がいいから」
善子「きっとその話を聞いて挨拶しに来てくれたのよ」
ルビィ「あっ成程、わざわざ待ってもらってありがとうございます」
ルビィ「梨子さんは綺麗で優しくて、ルビィにとってもお姉さんみたいな存在で」
梨子母「…っ……違うのよ」
ルビィ「違う?」
梨子母「そうだけど、そうじゃないのよ…」
善子「あの、話がよく分からないんですけど」
善子「ならどんな理由でルビィを待っていたんですか?」 梨子母「それは……娘だから」
善子「はい?」
梨子母「あなたが私の実の娘だからよ、ルビィちゃん」
梨子母「いいえ、あかね」
ルビィ「…………え?」
梨子母「貴女の本当の名前はね、黒澤ルビィじゃないの」
梨子母「桜内茜なのよ」 梨子「ごめんね曜ちゃん、買い物に付き合ってもらっちゃって」
曜「気にしないでよ、全然大丈夫だから」
梨子「私いざ新しい服を買うってなると結構迷っちゃって」
梨子「でも曜ちゃんが一緒なら見る目もあるし、すぐ選べるかなって」
曜「あはは、お褒めに与り光栄であります」
曜(私じゃなきゃ駄目ってそういう意味ね……)ハァ
梨子「……やっぱり嫌だった?」
曜「ち、違う違う! 嫌じゃないよ本当に! 寧ろ嬉しかったというか!」 梨子「そう? ならよかった」ニコッ
曜「……かわいい」ポツリ
梨子「え? なに?」
曜「何でもないなんでも! それよりちょっと暗くなってきたねーなんて」
梨子「フフッ、変な曜ちゃん。でも確かにもう日も見えなくなってきてるね」
梨子「やっぱりお店に長居しすぎたかな?」 曜「かもねー、送ってあげようか?」
梨子「一人で大丈夫って言いたいところだけど、折角だしお言葉に甘えちゃおうかな」
梨子「もっと曜ちゃんと話していたいし」
曜「…っ…いやーそう言われると嬉しいねー」
曜(絶対私なんかよりこっちのほうが無自覚たらしだ) 曜「よし、それじゃあもう少しこのまま……ん? ねえねえ梨子ちゃん」
梨子「なに?」
曜「あそこにいるのって梨子ちゃんのお母さんじゃない?」
梨子「本当だ、もう帰ってたと思ったのにどうしたんだろう」
曜「一緒にいるのは……善子ちゃんと、ルビィちゃんだね」
曜「なんか話してるみたいだけど」 梨子「…………ねえ曜ちゃん、何か様子がおかしく見えない? 私の気のせいかな」
曜「……いや、私にもそう見える。あんまり楽しくはなさそうだね」
梨子「もしかしたら揉め事になるんじゃ……」
曜「まさか、いくらなんでもそこまでになることはないでしょ」
梨子「とにかく一回落ち着かせないと」タッ
曜「あっ、ちょっと梨子ちゃん!」 善子「……ルビィが桜内茜っていきなり何言ってるんですか、大丈夫ですか」
ルビィ「…………」ギュゥ
梨子母「……」
善子「……」
善子「あのですね、貴女が何を思っているのかは知りませんけど」
善子「あまりそういった冗談は言わないでもらえますか、彼女が気分を悪くするので」
梨子母「冗談なんかじゃないわ、本気よ」
善子「冗談じゃなくても嫌がってるんです、やめてください」 梨子母「昔、私たちは四人家族で暮らしていたの」
善子「ちょっと…」
梨子母「母親の私と夫と、長女の梨子と次女の茜…この四人でね」
善子「やめてって言ってるでしょ、それに…だったら何だって言うんですか」
梨子母「梨子と茜は一歳違いでね、誕生日も近かったの」
梨子母「梨子が9月の19日生まれ、そして茜は21日生まれ。なんなら母子手帳でも見せましょうか」
善子・ルビィ「!」
梨子母「ルビィちゃん、貴女の誕生日はいつだったかしら?」 ルビィ「9月……21日です」
梨子母「そうよね、プロフィールにもそう書いてあったものね」
善子「…それだけで同一人物? 偶然の可能性だってあるでしょう」
善子「その年の9月21日生まれの女の子なんて、それこそいくらだっている」
梨子母「確かに善子ちゃんの意見も一理あるわね」
梨子母「私の中ではこの時点でほとんど決まっていたんだけど、それでも信じられないって言うなら」
梨子母「もう一つ、決定的な証拠を出しましょう」 善子「……」
梨子母「ルビィちゃんの存在を知った後、梨子に話を聞いたのよ」
梨子母「あの子がルビィちゃんについて知っていることをいろいろとね」
梨子母「そうしたら貴女、幼い頃は東京に住んでいたっていうじゃない」
ルビィ「……それは」
梨子母「その後、事情があって内浦に引っ越してきたって梨子はそう聞かされたらしいんだけど、これって本当のことでいいのよね?」
ルビィ「…はい」
梨子母「そう、ならもう一つ質問いいかしら」 ルビィ「…何ですか」
梨子母「貴女が幼い頃に送っていた東京での生活に母親はいなかった」
ルビィ「っ!?」
梨子母「東京では父親と二人だけで暮らしていた。違う?」
善子「どうしてそこまで知って……!」
梨子母「直接聞いたわけじゃないわ、ただ貴女が桜内茜ならそういう家庭に絶対なってるだろうと思ったのよ」
善子「そ、そんなの証拠じゃないでしょ! ただの憶測だ!」
梨子母「でもあなた達のおかげで今はっきりとした証拠になったわよね」 梨子母「あの子たちがまだ小さい頃私たちは別れて」
梨子母「梨子は私、茜はあの人が引き取る形になった」
梨子母「この事情があったとすれば、さっきの私がそう思っていてもおかしくはないでしょう?」
善子「だからって!」
梨子母「生まれた年と日付と出身地と、育った環境まで一致してるのに」
梨子母「顔だってそっくりなのに、それでも違う人間だって言い切れるの?」 善子「顔がそっくりでも別人の可能性だってないわけじゃない! 貴女の思い違いかもしれないでしょ!」
梨子母「っ!!」
善子「現にそういったケースはあるのよ!! 大体ね証拠が何だの言うけど今更そんなこと聞かされてもはいそうですかなんてこの子が言えるわけ……」
梨子母「親が自分の娘の顔を見間違えるわけがないでしょうっ!!!」
善子「!」
梨子母「もう死んだんじゃないかと思っていたのよ!!」ポロポロ
ルビィ「……っ…!」 梨子母「別れた後、お金は入ってきてたけど連絡は日に日に途絶えていって!!」
梨子母「最後にあったのは彼が行方不明になったっていう報告だけだった!!」
梨子母「彼の親戚に聞いて回っても誰もあの子のことは知らなくて!! あんな小さい子一人だけで生きていけるわけがないのに!!」
梨子母「私が必死にしがみついて二人とも育てればよかったって何回自分を恨んだか!」
梨子母「どれほどもう一度会いたいと思っていたか!その気持ちが貴女に分かるっていうの!!?」
善子「……違うっ…私は、ただ……」 梨子母「そんなに別人だって言うなら確かめてみればいいわ!写真だって持ってきてる!!」
善子「っ!!」
梨子母「貴女とルビィちゃんは特別親しい間柄だっていうわね、それなら分かるんじゃないの!!」
梨子母「ここに写っている子が貴女の傍にいるその子と本当に違うのかどうか!!分かるはずよ!」
善子「……っ…ルビィごめん」
善子「これ見たら……もう、何も言えない」
ルビィ「善子ちゃん………!……ぃたっ……!!」 ──お母さんやお父さんは?
お父、さん…?
お父さんは、どこかにいっちゃったよ。 お母さんも、いないの
……そう。 それじゃああなた、名前は?
名前…? 私の、名前は──あかね。
あかねっていうの。
ルビィ「──!!」 ルビィ「今のって……それじゃあ…」
ルビィ「ルビィは本当に……」
梨子母「はあっ……はぁっ……! これで分かったでしょ」
梨子母「彼女は桜内茜、その子の本当のお姉ちゃんは梨子なのよ」
「何よそれ……」 ルビィ・善子「えっ…」
梨子「お母さんさっきから何言ってるの……ねえ」
梨子「ルビィちゃんが私の妹って……嘘だよね?」
梨子母「梨子……あなたいつから」
梨子「ちゃんと答えてよ!!」
梨子「子供は私一人だけのはずでしょ!!お母さんもそう言ってたじゃない!!」
梨子「だからずっとそう思ってたのに…っ!!なのに!!」
梨子「なんなのその写真!なんで私とルビィちゃんが一緒に写ってるの!!?そんなもの私は知らないわよ!!」
梨子「ちゃんと全部説明してよっ!!」 梨子母「それはっ……」
梨子「……うっ…! いった……頭が……!!」ガクッ
曜「梨子ちゃん!!?」
梨子「……なんでよ……」
梨子「……ぅそだって……言ってよ……」
梨子「……ルビィちゃん」
ルビィ「梨子さん…」 梨子「……っ…もういいわ」スクッ
曜「り、梨子ちゃん…?」
梨子「帰ってお母さん、ここから出てって早く」
梨子「それで家に帰ったら私に隠してきたこと全部言って」
梨子母「……分かったわ、ごめんなさい。あなた達も」
梨子「みんなごめんね、もう…行くから」
善子「…ちょっと、待ってよ……これだけやっておいて…」
梨子母「本当に……ごめんなさい…」
もう死んだんじゃないかと思っていたのよ!!
善子「……っ…」 梨子「曜ちゃんも今日は本当にごめんね……あと、ありがと…」
曜「梨子ちゃん……」
梨子「さよなら」
スタスタ
ルビィ「……ルビィも帰らなくちゃ」
善子「なら私がっ」
ルビィ「……!!」ダッ
善子「ルビィ! 待って!!」
善子「……何よそれ…なんなのよ」 善子「だってさっきまで……全然そんなことなかったじゃない…」
曜「善子ちゃん……」
善子「なんで、こんな…嘘よ」
曜「嘘じゃ、ないの?」
善子「……」
曜「……ねえ……さっきの話、本当なの…?」
善子「そんなの……こっちが聞きたいわよ…」
曜「そう…だよね……」
曜「…ごめん」
─
コンコン
ダイヤ「はいどうぞ」
ガチャ
ルビィ「……」
ダイヤ「ルビィ? 今日は善子さんの家へ泊るはずだったのでは……」
ルビィ「……」ガバッ
ダイヤ「ちょっと……どうしたの」
ルビィ「……ぅ……ひっく……」
ダイヤ「……分かりました、貴女の気が済むまで待つから」ポンポン
ダイヤ「ゆっくり話しましょう」 花丸「どうしたんだろうルビィちゃん…」
ブーッ ブーッ
花丸「はいもしもし、善子ちゃん? 今どこって…お参り終わって、ダイヤさんのところにお邪魔してるけど」
花丸「今ルビィちゃんが帰ってきたところで……え?」
花丸「……」
花丸「……わかった。じゃあ今からそっちに行くね」 花丸「こんばんは」
善子「いらっしゃい、よく来たわね」
花丸「顔、洗ったら? 目真っ赤だよ」
善子「このままでいい」
花丸「…お菓子買ってきたんだけど、あとで食べる?」
善子「……いただくわ、あとで」
花丸「そっか」 善子「……はぁーーっ……んっっとに…」ドサッ
花丸「いつでもいいよ、話すのは」
善子「ごめん」
花丸「気にすることないずら」
善子「………あのさ」
花丸「うん」
善子「……ルビィ…さ……妹、だったんだって」
善子「……梨子さんの」
花丸「!」
…………
花丸「そう…そんなことが、だからルビィちゃん……」
善子「…あんたはさ、どう思う?」
花丸「…どうって何のこと? 梨子さんのお母さんのこと? それとも梨子さんのこと?」
花丸「それでもなくて、ルビィちゃんのこと?」
善子「…色々」
花丸「……そうだね、取りあえず最初に言っておくと」
花丸「マルは梨子さんのお母さんのこと、あまり悪くは言えないかもしれない」 花丸「もしマルがその立場だったら同じことをすると思うから」
花丸「ただ、マルの場合は止めてくれる人がいるかもしれない。それこそダイヤさんや善子ちゃんがね」
花丸「でもその事情を知ってる人間が自分一人だけなら、周りに止めてくれる人はいないわけで」
花丸「分かってくれる人がいないままその生活を送るのには、限界がある……耐えられなくなる」
花丸「平静じゃいられなくなる……それは、マルも経験したことがあるから。分かるんだ」
善子「……」
花丸「善子ちゃんさ……マルに連絡しようと思ったとき、だいぶ迷ったでしょ」
花丸「マルの事情を知ってるから、もしかしたら自分たちの味方にはなってくれないんじゃないか、とかね」 善子「私じゃなくて、ルビィの」
花丸「ほら、そういうところだよ。だから迷っても呼んでくれたんだよね?」
善子「だって……友達でしょ」
花丸「…そうだね、だからね善子ちゃん。さっきはああ言ったけど」
花丸「マルはルビィちゃんの味方だよ、"最終的に"ルビィちゃんがどうなったとしてもね」
花丸「黒澤家にいると言えばそっちに付くし、向こうに戻りたいと言えば向こうを手助けする」
花丸「それ以外なら、応援するほかに出来ることなんてないだろうけど」
善子「それ以外って…?」
花丸「さあ、そこまでは。でも一つだけ言えるのは」
花丸「結局それを決めるのはルビィちゃん次第だってこと」 善子「ルビィ、次第…」
花丸「きっとかなりの時間がかかると思うけどね、それこそ長い時間が…」
花丸「だけど……ちゃんと一人で決められるようにならないと、あの子は一生幸せになれない…そう思うんだ」
花丸「生まれてからずっと、誰かに振り回されてきた人生だから」
善子「……」
花丸「いや、それはマルのエゴか」ズズッ
善子「…普通でしょ、幸せになってほしいって思うのは」
善子「幸せにしたいって、思うのは」 花丸「まあ、ね」
善子「……私、もう少し待ってみる。ルビィが帰ったってことはさ、近いうちに全部知れ渡るってことでしょ」
善子「それは梨子さんのところも同じで……だから、きっとそのことで話し合いになる……と思う」
善子「結果としてどう転ぶかは分からないけど……でも、うん」
善子「今はやめといた方がいいかなって、花丸の話を聞いて思った」
善子「ルビィにも、落ち着かせる時間がないと……ダメだもんね」 善子「私だって、もう嫌なんだから」
花丸「……喋ったら喉渇いたでしょ、飲みなよそれ」
善子「……なにこれ」ゴクッ
花丸「普通のお茶だよ、でも」
花丸「泣くほど苦いでしょ」
善子「! あんた…ふざけんじゃないわよ」
善子「……そんなもの……友達に渡すな……っ…!」ポロポロ
花丸「いいや冗談だよ。ほんの気休め程度の……ね」ズズッ
─千歌の部屋
千歌「──あ、もしもし曜ちゃん? うん。梨子ちゃんなら今寝たところだよ」
『……もしかしてそっちにいるの?』
千歌「そだよー、今日はこっちで泊まりたいって言うからさ」
『そっか』
千歌「いやーそれにしても急に曜ちゃんから梨子ちゃんをお願いなんて連絡がきたと思ったら」
千歌「向こうのお隣さんは帰ってくるなりこっちに聞こえてくるくらい揉めてたし……あまりにも珍しいから志満姉たちもビックリしてたよ」
『聞いたの?』
千歌「……大体は梨子ちゃんから直接」 千歌「流石にちょっと信じられないけど」
『……ごめん』
千歌「なんで曜ちゃんが謝るの?」
『だって私、何も出来なかったから』
千歌「それは仕方ないじゃん」
千歌「私だって話しか聞いてないんだよ、何も出来てないのと一緒だよ」
『……』
千歌「…嫌だよね、なんか」
『…うん』 『……ねえ千歌ちゃん』
千歌「ん?」
『前にさ、みんなでおっきなお葬式に行ったの覚えてる?』
千歌「覚えてるっていうか、あれは忘れてっていうほうが無理だよ」
千歌「果南ちゃんと曜ちゃんが取っ組み合いになってまで喧嘩したのって、あの日くらいだもん」
『あはは…だよね』
『あのときさ、私たちは何も知らなくて。そりゃお葬式には何回か言ったことはあるけどさ』
『でも、いつもと違って会場が大きくて、人もたくさんいて…だから』
『食事も豪華だし、美味しいお菓子がたくさん貰えてラッキーだって、それくらいにしか思ってなかったんだよね』 千歌「そうそう、それで私がはしゃいでいたら怒った果南ちゃんに突き飛ばされて」
『それを見た私が怒って、果南ちゃんにつかみかかって。その後はもう滅茶苦茶だったね』
千歌「私も泣きっぱなしでさ、三人だけボロボロのまま席に座ってて」
『帰りにむしゃくしゃしてこんなところ来なきゃよかった! って言ったら遂に殴られてまた喧嘩』
『あれからしばらく果南ちゃんとは口きかなかったし、ずっと私にとって最悪の日だと思っていたけど』
『今になって思うとさ、最悪なのは私たちの方だったんだよね』
千歌「……ダイヤさんの妹ちゃんのだったんだよね、あの時のって」
千歌「果南ちゃんが怒るのも無理ないよね」 『当時は果南ちゃんと花丸ちゃんくらいしかダイヤさんと関わってなかったからね』
千歌「鞠莉ちゃんも知り合ったのは高校に入ってからだって言うし」
『うん。そう考えるとさ、世界って意外と狭いなーって』
千歌「かもしれないけど、うーーん…どうだろう」
『あはは、どうだろうね』
千歌「…で? どうしてそんな昔の話しようと思ったの?」
『……ちょっと羨ましくて』
千歌「何が?」 『果南ちゃんがさ、あんなに誰かのために怒ってるのを見たの初めてだったから』
『相手が好きな人でもそこまで出来るのって、羨ましいなって』
千歌「? 曜ちゃんも私のために怒ってくれてたじゃん、それとは違うの?」
『そうだけど、私のは友達として好きっていう意味だから』
千歌「果南ちゃんもそうでしょ?」
『いや……違うんじゃないかな、多分』
『何となくだけど分かるというか、同じ立場になったからかもだけど…』
千歌「どういう意味?」
『だからその…なんていうか……恋愛的に、っていうやつ?』 千歌「あぁ〜はいはい。成程なるほど」
千歌「……」
千歌「ええええええーーーーー!!!!」
「千歌ぁ!! 今何時だと思ってんの! 静かにしろっ!!」
千歌「やばっ……え、それってどういうこと曜ちゃん」ヒソヒソ
『どうも何も、そのままの意味で…果南ちゃんはダイヤさんのことが好きなんだよ、きっと』
千歌「し、知らなかった…結構前からなのに」
千歌「え…こ、根拠は? あれでもさっき曜ちゃん同じ立場がどうとかって…まさか!」
『え』
千歌「曜ちゃんも好きな人いるの!!?」ガバッ
『千歌ちゃん声大きいって!!』 千歌「おっとっと危ない危ない……ふぅ〜…いやぁでもそうなのかー」
千歌「いるのかぁ〜私だけかいないの〜」
千歌「だよねー部活だけが青春じゃないもんねー、いいなあ〜…」
千歌「なんかずっと隣にいると思ってた人がいきなり遠い所へ行ってしまったような気持ちだよ今、しかも両隣だよ」
『なんかごめん…』
千歌「いいよ別に、っていうか否定しなかったね。ということはやっぱりいるんだね」
千歌「そっかそっか、あの曜ちゃんが遂に…相手は誰だろう?」 『いや、あくまでかもしれないって話で…まだそうだと決まったわけじゃ…』
千歌「わかった梨子ちゃんだ! そうでしょ!?」
『千歌ちゃん!!!?』
梨子「千歌ちゃん……呼んだ……?」ウトウト
千歌「あ、梨子ちゃん起きたの?」
『ちょっとおおおおおおお!!?』 梨子「…ぅん……」
千歌「あのねー今曜ちゃんとね、梨子ちゃんのことが好きだって話を」
『千歌ちゃんお願いだから黙って! 今だけは!!』
梨子「…曜ちゃんと電話してるの?」
千歌「うん」
梨子「代わって…」
千歌「はいはい代わりまーす」
『ちょっと千歌ちゃん?』
梨子「もしもし曜ちゃん? 梨子です」
『桜内さん!?』 梨子「あのね、私も曜ちゃんのこと大好きだよ」
『……はい?』
千歌「おぉ、これはもしかすると…!」
梨子「あとね、千歌ちゃんのことも大好き」
『……あれ?』
千歌「…おや?」
梨子「私ね、本当に二人に会えてよかったって思ってるの」
梨子「だからね…こんなところに来なきゃよかったなんて、言いたくないんだ」
『……!』
千歌「……」 梨子「それだけ……えへへ…」
千歌「…梨子ちゃん、もう寝たら?」
梨子「ん〜…そうする……おやすみ曜ちゃん」
『うん、おやすみ』
千歌「……聞かなかったことにしておく? 今の」
『言ってなかった、ってことにしよう』
千歌「……だね」
─それから一週間後…
8月
善子の部屋
善子「……」カチカチ
善子「…………飽きた、他のやろ」フゥー
コンコン
善子「はーい」
「お夜食持ってきたよー」
善子「今開けるわ」 善子「あむっ……うん」モグモグ
ルビィ「どう?」
善子「美味しい、料理上手くなったわね」
ルビィ「小母さんに教えてもらいましたから」フフン
善子「あまりおだてないでよ、料理教室開きたいとか言い出すから」
ルビィ「美味しいんだけどなぁ」
善子「家だけで十分よ」パク 善子「しっかしこれだけ出来るようになったんだから、成人したらおつまみとかも作ってもらおうかしら」
ルビィ「一緒に暮らしていたらね」ヨイショ
善子「隣人みたいなパターンもあるでしょ、これ作りすぎたので良かったら〜みたいな」
ルビィ「そういうシチュエーションが好きなの?」
善子「私は幼馴染みより大正義だと思ってる」
ルビィ「善子ちゃんは偶然の出会いから始まる関係好きそうだもんね」
善子「まあ憧れが、ないわけでもないんだけどね」
ルビィ「なにそれ、変なの」クスッ ルビィ「でもそっか、善子ちゃんはそんなにルビィの手料理が食べたいんだ」
善子「似合ってるもの、ルビィにはその姿が」
ルビィ「今寝間着だけどね」
善子「揚げ足取らなくてよろしい」
ルビィ「ねえ見てみて、萌え袖〜」
善子「深夜テンションか」 ルビィ「あんまり眠れないからね」
善子「…明日報告するんでしょ、みんなに」
ルビィ「うん。それが気になって」
善子「分かってくれるわよ、きっと」
ルビィ「…………そうかな」ボソッ
善子「え?」
ルビィ「ううん、だよね。納得して…くれるよね」 善子「そう、前向きに考えましょうよ」
善子「ほらおいで、一緒に寝てあげる」ポンポン
ルビィ「引っ付くなって言わない?」
善子「言わない」
ルビィ「じゃあそっち行く」モゾモゾ
善子「なんかこの狭さにも慣れたわね」
ルビィ「うん」 ルビィ「ねえ善子ちゃんこっち向いて」
善子「なに」
チュッ
ルビィ「一緒に寝てくれるお礼」
善子「珍しいことでもないのに礼なんてする必要ないわよ」
ルビィ「親しき中にもってやつです。それにこっちだって珍しくないでしょ?」
善子「…まあ」
ルビィ「もっと欲しいなら脱いじゃうけど」スル
善子「やめなさい明日は早いんだから」
ルビィ「寝かせないつもりなんだ、エッチだね善子ちゃんは」
善子「どう考えてもあんたの方でしょ」 ルビィ「でも、本当にありがとうね」ギュゥ
善子「はいはいどういたしまして」
ルビィ「おやすみ」
善子「ん」
ルビィ「……あ、そうだ」
善子「さっさと寝なさいよ」
ルビィ「朝ごはん何か食べたいものある?」
善子「……冷やっこ、からし付きで」
ルビィ「お任せください旦那様」
善子「誰が旦那よ」
ルビィ「えっとね、じゃあこっちで。おやすみなさいお嬢様」
善子「お嬢様はあんたでしょ」
─翌日
放課後、部室
ダイヤ「……というわけで両家で話し合った結果」
ダイヤ「ルビィは今まで通り黒澤家で暮らすことに決まりました」
鞠莉「え?」
ダイヤ「どうかしましたか?」
鞠莉「いやなんか思ってたよりも、その、あっさりじゃない?」
果南「それは私も思った」
ダイヤ「意外と上手く話が進んだみたいですからね」
ダイヤ「それも相手側の裁量あってのものですけど」 千歌「えっと、ということは梨子ちゃんのお母さんも」
梨子「うん、納得してくれたみたい。その……ちゃんとした生活も送れてるし」
梨子「悪い教育を受けてきたってわけでもないみたいだから、ね」
梨子「高校も楽しくやってるって分かったわけで…」
梨子「だからその、黒澤さんは親として信頼できるって言ってたし……そうね」
梨子「私もそれを聞いて、うん。安心したけど」
曜「…………」 鞠莉「じゃあ」
花丸「一先ずは納まるところに納まったって形ずら」
ダイヤ「そういうことになりますわね」
「「「…………」」」
鞠莉「な、なーんだ! 良かったじゃない!」
鞠莉「一時はどうなることかとハラハラしたけど、ね果南!」
果南「え、あ、ああそうだね。うん良かった」
果南「やっぱりさ、話せば分かってくれるんだよ。ほらダイヤ私が言った通りでしょ?」
ダイヤ「言っていましたっけ」
果南「あれ言ってなかったっけ? まあとにかく一件落着ってことで、めでたしめでたし」 鞠莉「そうそう! あとは大会に向けて特訓あるのみ! ってね」
善子「それに今月末にはラブライブの一次予選もあるしね」
鞠莉「忙しくなるわよー!」
梨子「あはは、そうだね頑張らないと」
曜「…」
ルビィ「曜さん?」
曜「ん、何でもないよ」
ダイヤ「えー、では明日からはいつもよりも練習量を多めにしていくという方向でいいですわね」
ダイヤ「まずは朝の集合を早めに──」
「いいのかな、それで」
千歌「本当にそれでいいのかな」 ダイヤ「え?」
千歌「え?」
鞠莉・果南「…………」
千歌「…あぁーいやいや、特訓の話ね特訓の」
千歌「うーんでもそうだなあ、やってみないと分からないし」
千歌「まずは一回試してみて大丈夫そうだったら続けてみよっか、ダイヤさんもそれでいい?」
ダイヤ「え、ええ…はい。問題ないかと」 千歌「みんなもいいかな?」
善子「異議なし、ルビィは大丈夫なの。それで」
ルビィ「え、うん。ルビィは別にいいけど」
善子「そう。ならいいわ」
花丸(……)
花丸「右に同じで」
鞠莉「曜と梨子は?」
梨子「私も、いいかな」
曜「…じゃあ取りあえず私も」
果南「……ま、反対する理由もないわけだし?」 千歌「決まりだね、では今日の活動は以上ということで! みんなお疲れさま!」
千歌「明日からまた厳しくなると思うけど……頑張ろー!!」
鞠莉「おーっ! ……あら?」
「「「…………」」」
千歌「え、っと……解散!」
ゾロゾロ…… バタン
千歌「……」
鞠莉「元気出して千歌っち、たまにはこういう日もあるわよ」ポン
千歌「たまに、になるのかな」 鞠莉「……またまたそんなこと言っちゃって!」
鞠莉「今日は色々あったからみんな思うところがあるってだけよ! 明日からはいつもみたいに、ね!」
千歌「言わないほうが良かったのかな、さっきの」
鞠莉「それは、その…気にすることないわよ!」
鞠莉「千歌っちがそんなに気を張る必要ないの」
鞠莉「張るのは千歌っちの胸が大きくなる時だけでいいのよー、なんちゃってテヘペロ♪」
千歌「…ごめん、私ももう帰るね」
鞠莉「あっ、ちょっと千歌っち! ………はぁ」
鞠莉「雲行き、怪しくなってきたわね…」 乙乙
変な奴はスルーで頑張れ
前に何かのスレでぬしが荒らし茸だと見たことあるんだがやはり荒らしだったんだな 梨子「……」
「待って梨子ちゃん!」
梨子「曜ちゃん?」
曜「やっと追いついた、足速くなったね梨子ちゃん」
梨子「私になにか用?」
曜「まあね」
曜「……」フゥーッ
曜「梨子ちゃんさ、さっき嘘ついたでしょ」 梨子「えっ…」
曜「だから嘘だよ、言ったよね?」
梨子「い、言ってないよ」
曜「ふーん、確かに本音を言ってないって意味ではそうかもしれないね」
梨子「だから、嘘なんてついてないって…」
曜「梨子ちゃん、自分が喋ってた時ずっと目線が泳いでいたの気付いてないでしょ」
梨子「!」
曜「ずっと何かから目を逸らそうとしてさ、そのうえ歯切れが悪い話し方だったのも」
曜「本心じゃないけど空気を悪くしないために取り繕った建前だから。違う?」 梨子「ちがっ…大体どうして曜ちゃんがそんなこと分かるの」
曜「梨子ちゃんのこと、ずっと見てきたから」
梨子「何それ、見るだけなら他の人でも」
曜「それに」
曜「私も同じような経験、したことあるから」
曜「梨子ちゃんのせいでね」
梨子「……え?」
曜「だから、分かるんだ」 梨子「私のせいって…どういうこと?」
曜「梨子ちゃんが入部してからかな、千歌ちゃんとどんどん距離が縮まっていくのを見て」
曜「私ずっともやもやしてたんだよね、有り体に言えば嫉妬だよ」
梨子「嫉妬……」
曜「そ。それまでは私が千歌ちゃんの一番近くにいたはずなのに」
曜「急に現れた、しかも出会ったばかりの転校生がさ、いつの間にかそのポジションにいるわけ」
曜「私を差し置いて、奪っておきながらニコニコ笑ってるのも、本当に腹が立ってしょうがなかった」
梨子「……そんなこと、思ってたの…?」
曜「……思ってたよ、ずっと」 曜「今だからはっきり言うけど、私ね、そのとき梨子ちゃんのこと大嫌いだったんだよね」
梨子「……っ……」ジワッ
梨子「そ、っか……曜ちゃん、私のこと…嫌いだったんだ……」
曜「……」
梨子「ごめんね、気付いてあげられなくて……ずっと辛かったんだよね…」ポロポロ
梨子「なのに私、友達だと思い込んでて……馬鹿だね…」
曜「ううん、馬鹿なのは私のほうだよ」
ダキッ
梨子「よ、曜ちゃん…?」 曜「ごめん梨子ちゃん、さっきの嘘」
曜「嫌ってなんかないよ、寧ろ好き。大好き……まあ嫉妬してたのは、本当だけどさ」
梨子「…じゃあ、どうして…?」グスッ
曜「こうでもしないと分かってもらえないんじゃないかって思ったから……でも言いすぎて泣かせたら元も子もないよね」
曜「ごめん」
梨子「曜ちゃんが謝ることないよ、私が……」
曜「ありがとう。でもね梨子ちゃん、私が言いたいのはそういうところなんだよ」 梨子「えっ…」
曜「人に気を遣う、それはいいことかもしれないけどさ」
曜「でも梨子ちゃん、そのために色々我慢しすぎじゃないの」
梨子「……」
曜「自分が余計なことさえ言わなければ、それで全部丸く収まる。だから言わない」
曜「そう考えてるよね」 梨子「どうして」
曜「最初に言ったでしょ、同じような経験したって、嫉妬してたって」
曜「今の梨子ちゃんは少し前の私と一緒なんだよ、本当は嫌なのに我慢して、周りに合わせて、だから」
梨子「そうじゃなくて」
曜「?」
梨子「どうしてそこまで、してくれるの」
曜「……」 曜「梨子ちゃんが辛そうにしているところ、見たくないから」
曜「それだけじゃ駄目かな」ニコッ
梨子「……ううん」
曜「教えてよ、梨子ちゃんが本当はどうしたいのか、どう思ってるのか」
曜「私はそれが聞きたいの」 梨子「……私ね、小さい頃からピアノが好きだったの」
曜「うん」
梨子「みんな嬉しそうに聴いてくれたから、私も弾くのが大好きになったの」
梨子「そして聴いてくれる人の中には…ルビィちゃんもいて」
梨子「すごく喜んでくれたんだ、一緒にピアノを弾いたり歌ったりしたこともあった」
梨子「そうやっていつも傍にいたはずなのに……あの話を聞くまで私の頭の中からそれがすっぽりと抜け落ちてて」 梨子「記憶になくって……ずっと忘れていたのに」
梨子「そんな自分が今更、あの子の本当のお姉さんだなんて……」
梨子「だから返してほしいだなんて、虫のいい話だと思って……だから」
梨子「お母さんがルビィちゃんの件を私に伝えてきたときも、それでいいよって答えちゃったの」
曜「…………」 梨子「でも、でもね曜ちゃん……本当は」
梨子「私……それでいいなんて全然思ってない…!」
梨子「今更他人のふりして接するなんて、そんなの無理だよ…!」
梨子「血が繋がってるのは、私たちの方なのに、なんで」
梨子「私だって……一緒にいたい、あの頃の生活に戻りたいのに」
梨子「また離れるのは嫌だよっ…!」
曜「良かった、それが聞けて」 梨子「曜ちゃん…」
曜「私はさ、正直部外者だし、梨子ちゃんが抱えている悩みも私のとは比べられないくらい難しい問題だけどさ」
曜「でもね、これだけは言える」
曜「…誰にだって、幸せになる権利はあるってこと」
曜「梨子ちゃんにだって、それはちゃんとあるんだよ」
梨子「……うん」 曜「だったらちゃんと言わなきゃ、自分の気持ちを」
曜「隠さないで伝えなきゃ…って、まあ私が言えることでもないかな…うん」
梨子「…クスッ、そうだね」
曜「あっ、やっと笑った」
梨子「曜ちゃんのおかげだよ」
曜「えへへっ、そっか」
曜「……ねえ、聞いて梨子ちゃん」 梨子「はい」
曜「もしさ、梨子ちゃんが何か言ったことで誰かを敵に回しても」
曜「私だけはずっと梨子ちゃんの味方だからね」
梨子「うん」
曜「それでね、もし梨子ちゃんがこの先も上手くいかなくて、幸せになれなかったら」
曜「そのときは私が梨子ちゃんを幸せにする。約束するよ」
梨子「ありがとう、すごく嬉しい」
曜「…言っておくけど冗談じゃないからね?」
梨子「分かってるよ、でも」 曜「でも?」
梨子「ううん、さっきの台詞プロポーズみたいだったから、そこはどうかなあって」クスクス
曜「えっ……? ……あ…!」
梨子「やっぱり気付いてなかったんだ?」
曜「い、いや…いやいやいやいや!! アレはそういうのじゃなくてですね!」
梨子「ん? じゃあさっきの言葉は嘘?」
曜「あーいや、言ったことが嘘ってわけじゃなくて! 違うってことじゃなくてね! だからその……」
梨子「なに?」
曜「うう…もう勘弁してよぉ……!」 梨子「フフッごめんね曜ちゃん、面白かったからつい」
曜「いつからそんなに意地悪になったのさ」
梨子「うーん、今から…かな?」
曜「今って…」
梨子「冗談よ……でも本当にありがとう、おかげで元気もらえた」
曜「それならまあ、いいけど」
梨子「でも咄嗟にあんな台詞が出てくるんだもんねえ、ビックリしちゃった」
曜「まだ言うの!?」 梨子「違う違う、そうじゃなくて」
曜「?」
梨子「やっぱり曜ちゃんはかっこいいねってことよ」ニコ
曜「っ!」
梨子「それじゃあまた明日ね」
曜「うん、また…明日」
曜「……」
曜「……だからさあ」
曜「勘弁してよ、そういうのは…」
……その夜
ルビィ「バイバイ善子ちゃん、送ってくれてありがと」
善子「さっさと寝なさいよー……って保護者か私は」
ルビィ「しかもブーメランだから説得力に欠けるよね」ヒョコッ
善子「さっさと家に入りなさいよ!」
ルビィ「きゃー」バタン
善子「全く、寂しいならそう言えばいいじゃない」
善子「ずっと気にしないふりしてさ」
善子「……本当にこれでいいのか、ね」
善子「そりゃまあ、思わなくはないけど」 善子「……やめやめ、辛気臭くなる」
善子「切り替えましょ。せっかく向こうにお邪魔するんだし」
スタスタ
善子「それにしても、花丸の家に泊まりに行くなんて初めてね」
善子「いつもは私の家に二人が来るからこういうの新鮮かも、確かこの辺りだっけ」
〜〜♪ 〜〜〜♪
善子「…? なんだろ、何か聞こえてくる」
ラララー…♪ … ララ…♪
善子「──歌?」 花丸「ららら〜♪ ららら〜♪」
善子「ふーん、鎮魂歌ってわけでもなさそうね」
花丸「あっ善子ちゃん来てたんだ、ごめんね出迎えられなくて」
善子「それはいいけど、こんな夜更けまで歌の練習?」
花丸「ああ、これは違うの。今日は特別な日だから」
善子「特別って何かあるの?」
花丸「うん。満月」
善子「それと歌がどう繋がるのよ?」 花丸「善子ちゃん、善子ちゃんは満月の日に相手に告白する言葉って何だと思う?」
善子「はあ? そうね、有名どころでいえばやっぱり月が綺麗ですねとかその辺りでしょ」
花丸「だよね。でも」
花丸「そんな月並みの言葉じゃマルはあげられないかな」
善子「元からあげる気ないでしょ、いや貰うつもりもないけど」
花丸「あはは、それもそうずら」 花丸「あいのみかみ〜よ みまえにたつ〜〜♪」
花丸「このいもとせ〜〜を めぐみしゅくし〜♪」
善子「聞いたことあるような歌ね」
花丸「讃美歌429番、愛の御神よ」
花丸「知ってる? 満月の日は半月の日より十倍以上も明るいんだって」
花丸「マルはね、その日にこう言われたの。歌ってくれって」
善子「成程、彼女のことか」
花丸「夜に外に出るといけないのは暗くなるから、でもこんなにも明るいなら一緒にいてもいいよね」
花丸「なんて、それでも危ないのは変わらないのに」 花丸「でも少しの間だけなら許してもらえて、そのときにお願いされたのがさっきの言葉」
善子「そっか、確かに歌なら短い時間でも」
花丸「そこまで考えてなかったとは思うけどね」
花丸「でも特別なことに違いはなくて、そのときだけはね、あの子はマルの隣にいなかったの」
花丸「目の前で聴くのが好きだったから、そう、ちょうどそこがその特等席」
善子「それが、彼女の告白だったってわけ?」
花丸「それ"も"あの子の告白だったんだよ」
花丸「だからマルは歌うんだ、安らぎのために、お月様に向かって」 花丸「話が長くなっちゃったね、そろそろ中に入ろうか」
善子「待った、あと一曲だけ聞かせてよ」
善子「せっかくの機会なんだから、一つくらい最後まで聞きたいわ」
花丸「…何がいい?」クスッ
善子「貴女が歌いたいものでいいわよ」
花丸「いいよ、じゃあね……」
花丸「月がとっても青いから 遠回りして帰ろう〜♪ あの鈴懸(すずかけ)の並木路は〜……」
──
─
…同時間帯、海岸
ダイヤ「ちぎれ雲は風に軽く 空を流れるー……」
果南「懐かしいー小学校のとき歌ったよねそれ、夢をのせて…だっけ?」
ダイヤ「果南さん」
果南「いいの? こんな時間までほっつき歩いて」
ダイヤ「貴女が言えることですか」
果南「まあね」
ダイヤ「いいんです、今夜は満月ですから」
果南「やっぱりそれが理由かー、よいしょっと」 果南「いやー月が綺麗だね」
ダイヤ「そうですわね」
果南「ほら、こっち座りなよ」
ダイヤ「構いませんが」ヨイショ
果南「海が好きだからかな、満月よりもさ、それに照らされる海面を見るのが好きなんだよね私」
ダイヤ「変わっていませんわね、昔もそんなことを言っていたでしょう」
果南「ああそうだっけ、あんまり覚えてない」 ダイヤ「貴女という人は…」
果南「でもダイヤが何かあったら、その度にここに立ち寄るっていうのはよく覚えてるよ」
ダイヤ「!」
果南「だから多分いるんじゃないかなーって」
ダイヤ「…そっちは忘れていませんのね」
果南「それがきっかけで出会ったわけだしね、私達」
果南「でも満月の日に会うのは久々だね」
ダイヤ「かもしれませんわね」 ダイヤ「……」
果南「先に言っておくけど、私は特に何も聞くつもりはないよ」
果南「ただ一個だけ伝えておきたくて」
ダイヤ「何でしょうか」
果南「私さ、ダイヤと一緒にいるこの時間が好きなんだよね」
ダイヤ「どうしたんですか急に」
果南「まあ聞いてって、勿論みんなとワイワイするのも好きなんだけど」
果南「安心できるっていうのかな、なんかさ私にとって一番居心地のいい場所っていうか」
果南「離れたくないって思っちゃうんだよね」 ダイヤ「よくそんな言葉がポンポンと出ますわね」
果南「軽い気持ちで使ってるわけじゃないんだけどなあ、まあいいや」
果南「とにかく、私は今のこの時間がすきで」
果南「ダイヤのことが一番大切なんだって話」
果南「えーとね、つまり私はいつでもダイヤの味方ってこと。何があってもね」
ダイヤ「何があっても…ですか」
果南「……」
ダイヤ「そのことについては深く追求しませんけど、伝えておきたいことというのは」
果南「うん、それだけだよ」 ダイヤ「そうですか、それは頼もしいですわね」
果南「これでも結構本気で言ってるんだけどね」
ダイヤ「分かってますわ……ありがとう、果南さん」
果南「そうそう、そういうのだよ居心地の良さって」
ダイヤ「未だにその感覚は分かりませんけどね」 果南「別にいいよ分からなくても、あっそうだ」
果南「夢で思い出したんだけど、私の歌も聞いてってよ」
ダイヤ「いいですわよ、もう少しここにいたいですから」
果南「嬉しいこと言ってくれるね、それじゃ」
果南「夢よ どうか 覚めないで〜♪」
ダイヤ「ゲームの曲じゃありませんか」
果南「よく分かったね」 ダイヤ「最近善子さんがよく口ずさんでいましたから」
果南「やっぱりそこからね、かくいう私も善子ちゃん経由だけど」
ダイヤ「それでどっぷりハマってしまったと? 呆れた」
果南「あははっ、やっぱり駄目かな?」
ダイヤ「……いえ」
ダイヤ「続きをお願いできますか? 今日は、そんな気分なんです」
果南「……夢よ どうか 覚めないで〜♪」
果南「きみは 願う けれど〜♪」
果南・ダイヤ「夢は いつか 覚めるもの〜……」
ザザーッ ザザーッ……
─それから2日後
千歌「終わったー!」
梨子「はいお疲れさま」
千歌「もう二度とやりたくないよ…というかどうして果南ちゃんたちの勉強会に私たちが混ざる必要あるのさー」
梨子「千歌ちゃんが宿題をやらずに溜め込んでたからでしょ」
千歌「後でやるつもりだったのに」
梨子「後でって…明日には提出するんだけど」
曜「まあまあ、今日で終わらせられたんだしいいじゃん」 果南「何、千歌はもう終わったの?」
千歌「終わったよー」
果南「私はもうちょっとかかりそうかな」カリカリ
千歌「うわー果南ちゃんダメダメだねー」
果南「いやいや三年生の難易度の高さをあまり舐めないほうがいいよ」
鞠莉「ほらそこ手を止めない」
果南「へーい」カリカリ 梨子「鞠莉さんって結構ああいう役向いてるんですね」
ダイヤ「ああ見えて※マルチリンガルですからね彼女は、それに向こうで講師も経験してますし」
ダイヤ「伊達に理事長はやっていませんわよ」
鞠莉「ああ見えては一言多いんじゃないかしら?」
ダイヤ「それは失礼しました」
果南「え、何マルチリンガルって」
千歌「バイリンガルじゃないの?」
曜「うん、違うよ」
曜(ていうかサラッと流したけど鞠莉ちゃんのスペックかなり高くない?)
※数ヶ国語を話せる人のこと、多言語とも呼ばれる 梨子「うん、これなら大丈夫そうかも」
ダイヤ「何がでしょうか?」
梨子「ダイヤさん、少しお話しがあるんですけど付き合ってくれませんか?」
ダイヤ「私、ですか?」
鞠莉「行ってくれば、果南は私が見ておくから」
ダイヤ「それなら構いませんけど」
梨子「こっちです、一緒に来てください」 果南「ふーん、梨子ちゃんとダイヤがお話しねえ…」
曜「邪魔しちゃ駄目だよ」
果南「まだ何も言ってないけど」
果南「それとも私が邪魔したくなるような話を今から二人がするっていうの?」
曜「さあ、どうでしょう」
果南「…曜、もしかして梨子ちゃんに余計なこと吹き込んだとかないよね」
曜「余計かどうかは結果が出ないことには分からないよ」 果南「…私、ちょっと様子見てくる」
鞠莉「駄目よ、まだ終わってないじゃない」
果南「鞠莉!」
鞠莉「そんなに熱くならないの」
鞠莉「まだって言ったでしょ、絶対なんて言うつもりはないわ」
千歌「果南ちゃん、終わったらみんなで一緒に行こうよ。曜ちゃんもそれならいいよね?」
曜「…いいよ、でも様子を見るだけだからね」
鞠莉「OK 覗くのは得意よ、安心して」 千歌「あはは鞠莉ちゃんはいっつもだもんねー!」
鞠莉「そういう千歌っちも中々いい線いってるわよ」
千歌「ホント!?」
鞠莉「ええ♪」
果南「……」
鞠莉「ほら果南、早く行きたかったら手を動かしなさい」
果南「……ふん」
千歌「いやー先生みたいな鞠莉ちゃんもなかなか新鮮ですなー」
曜「……」
千歌(参ったなぁ……どうしたものかこれは)
─
ダイヤ「で、話とは一体何でしょうか?」
梨子「単刀直入に言います、ルビィちゃんのことです」
ダイヤ「…やはりそうでしたか」
梨子「はい、そのことでお願いがあってきました」
梨子「……」スゥー
梨子「ルビィちゃんを、あの子を私たちに引き取らせてもらえませんか」
ダイヤ「!」 ダイヤ「…それは梨子さんのお母様も賛同しているのでしょうか」
梨子「いいえ、私個人の考えです」
ダイヤ「成程、そうですか」
ダイヤ「……」
ダイヤ「なら認めるわけにはいきませんわね」
梨子「……」
ダイヤ「そもそもこの話は既に終わっていることです、もし異論があったのならそのときに言わなければ」
ダイヤ「今更それを貴女が申し上げたところで状況は変わりません、ただ蒸し返すだけです」 梨子「だから黙っていろと?」
ダイヤ「私はあくまで物事を客観的に見たうえで意見を述べているまでです」
ダイヤ「ただ私個人としては梨子さんの気持ちも理解できますし、思うところはあります」
ダイヤ「同じ姉ですからね」
梨子「っ!」
ダイヤ「ですが、それとこれとは話が別──「なんですかそれ」
ダイヤ「え…?」 鞠莉「何とか間に合ったみたいね」コソ
千歌「いや間に合ったのはいいけど、これ」
鞠莉「ええ、かなり不穏な感じね」
曜(…やっぱりそうなるよね、でも)
曜(これでいいんだ、少なくとも梨子ちゃんの気持ちを押し殺してまで)
曜(いい方向に終わらせてめでたしなんて、私は納得いかない)
果南「……ダイヤ」 梨子「同じ姉として共感できるって、本気で言ってるんですか」
ダイヤ「梨子さん…?」
梨子「だったら返してくださいよ、私に」
ダイヤ「待って梨子さん落ち着いてください、何か気に障るようなことがあったなら…」
梨子「ダイヤさんは分かるんでしょう? 妹がいなくなった気持ちが」
ダイヤ「!」
梨子「ルビィちゃんは…私の妹じゃないですか」 ダイヤ「……私の、妹は」
梨子「サファイアちゃんですよね?」
ダイヤ「それだけじゃ──」
梨子「それだけでしょ!!」
梨子「もし違うって言うなら!私の気持ちが分かるなんて軽々しく言わないでよ!」
梨子「代わりを手に入れた貴女に本当の家族を取られた私の気持ちなんて理解出来るわけがないのに!」
梨子「そんな簡単に済ませないでよ!!」
ダイヤ「!!」 梨子「………あ……」
梨子「……ちが…今のは……」
ダイヤ「……すみません」
梨子「…帰ります、ルビィちゃんによろしく伝えておいてください……さようなら」
ダイヤ「……っ……はい」
梨子「……ごめんなさい」ボソッ
シーン
「……」
果南「終わったみたいだね」
果南「いやーあんなに怒る梨子ちゃん初めて見たよ、ねえ三人とも」
千歌「……」
鞠莉「…果南」
果南「あれはちょっと静かにさせる必要があるかな」スクッ
ガシッ
曜「…待った」
果南「なに止めてんの、離しなよ」
曜「いやだ」 果南「あのさあ、それ梨子ちゃんが発言した意味分かったうえで言ってるの?」
果南「流石に少しイラッときたんだけどあの言い放題ぶりには」
曜「意味? 別におかしいこと言ってないよね、本当のことじゃん」
果南「言っていいことと悪いことの区別すらつかないのそちら様はさ」
曜「そっちが都合の悪い事実から目を背けてるから言ってるんでしょ」
果南「…は? 何知った風な口きいてるの」
果南「いるよね、何も知らないくせに偉そうに口出ししてくる人って」
曜「安全圏だからと高を括って上から物言う誰かさんよりマシじゃない?」 鞠莉「ち、ちょっと二人とも」
果南「安全? …いい加減にしなよ本当に、さっきから分かったようなことばかりさあ!」
果南「あの子が、ダイヤがこれまでどれだけ苦労してきたか見てもいないくせにっ!!」
曜「そっちだって梨子ちゃんがどんなに辛い思いをしているかなんて考えたこともないでしょ!!」
曜「口を開けばダイヤさんダイヤさんってふざけないでよ!」
曜「そういう黒澤家中心に話を進める空気があったから梨子ちゃんは誰にも打ち明けられなかったのに!!」 果南「黒澤家中心? それの何が悪いのさ! 今までずっとルビィちゃんを育ててきたのは事実でしょ!」
果南「寧ろどうして今まで放ったらかしにしてた人たちが今更家族目線で物申してきてるのか私は不思議でならないけどね!!」
曜「そっちが奪い取ったからだろ! 勝手な私情で本当の家族から!!」
果南「何を悪者みたいに…っ…捨てた側のくせに被害者面するな!」
曜「!!」
鞠莉「果南! 言いすぎよ!」
鞠莉「曜、貴女もよ! 少しは落ち着きなさい!」
鞠莉「今ここであなた達が対立してどうするの!」 曜「……いや、いいよ鞠莉ちゃん、大丈夫だから」
鞠莉「大丈夫って何がよ! そうじゃないから今…」
曜「もういい、さっきのでもう何を言っても話が通じないんだって分かった」
果南「よく言うね、自分のこと棚に上げて」
曜「そうだね……だから、話し合うのはやめる」
鞠莉「! じゃあ……」
曜「やり方を変えよう」 鞠莉「…え……」
曜「話し合いじゃない方向にしようよ」
鞠莉「よ、曜……? 一回置いときましょうよそれは、また別の機会でいいじゃない…」
鞠莉「まずはお互い冷静になってから…ね、果南?」
果南「へえ、詳しく聞かせてよ…あと鞠莉はちょっと黙ってて」
鞠莉「果南…っ……!」
千歌「……」 曜「結局どんなに言い合っても平行線になるから話し合いは無駄でしかない、だったら」
曜「この揉め事は別の形で白黒はっきりつけるべきだと思う、果南ちゃんもその方がいいでしょ?」
果南「まあね。で、どうやって決着をつけるつもりなの」
鞠莉「ねえ、お願いだから私の話を聞いて…」
曜「再来週、東京でやるライブ大会」
曜「そこで私と果南ちゃん、どっちのパフォーマンスが上か勝負しよう」
鞠莉「っ!!」
千歌「……!」ピクッ 曜「負けたほうは相手側の要求を呑むこと、それでいいよね?」
果南「いいよ、面白そうじゃん」
果南「そこで何も言い返せないくらい叩きのめせばいいんでしょ」
曜「それはこっちの台詞だから」
果南「あっそ、まあ楽しみにしておくよそれなりには」
果南「被害妄想が過ぎる人間の言葉なんか、大した凄味にもなりはしないけどね」
曜「最後までその威勢が続くといいね、それこそ片想いの期間までさ」
果南「! この……言わせておけばっ!」
曜「うるさいな、本気でムカついてるのは私のほうなんだよ…!」
鞠莉「二人とも待っ……「いい加減にしろっ!!!」 曜・果南「!」
千歌「ハアッ…ハァーッ……さっきから大人しく聞いていれば……何が話し合いだ互いの悪口しか言ってないくせに」
千歌「しかも止めようとしてくれてる鞠莉ちゃんのことを尽く無視したり黙ってろだの……何様のつもり…?」
千歌「そのうえライブの大会で勝負……!? しかもそれを面白そうって…」
千歌「…何それ、ねえ」ギリッ
千歌「バッカじゃないの! 何考えてるの! ラブライブをゲームか何かだと思ってるわけ!?」
千歌「そんなつまらないことのために開かれてなんかないんだよ! ねえ何で私たちがそこに呼ばれたのか二人とも本当に分かってる!?」
千歌「次に来る新しい世代の、その代表の一つとして! スクールアイドルAqoursの良さを知ってもらうために!」
千歌「何より会場に来る人達みんなに楽しんでもらうためにそこに行くんだよ!!?」 千歌「大勢の人たちに見てもらって、認めて貰えて、折角みんなでここまで来たのに!!」
千歌「なのにそれを自分たちの勝手な思いつきで滅茶苦茶にするつもりなの!?」
千歌「そんなライブをやったところで誰かが満足すると思う!?」
千歌「ステージも曲もダンスもこのグループも! 二人だけのものじゃないんだよ!!」
千歌「勝負だの要求だのって当事者でもないくせに!!」 曜「それは…」
果南「……」
千歌「……っ……なんでそうなの」
千歌「…がっかりだよ、一番最初に私に付き合ってくれた二人がそんなこと言うなんて」
千歌「もし今の話を梨子ちゃんやダイヤさんが聞いたらどう思うだろうね」
曜・果南「っ!!」 千歌「心配しなくていいよ、今の話は聞かなかったことにしておくから……だけど」
千歌「二人が本番当日でもまだそんなふざけたことを考えてるんだったら、私は絶対に許さない!」
千歌「曜ちゃんも果南ちゃんも本当に許さないからっ!!」ジワッ
千歌「白黒はっきりつける前に少しは頭冷やせ!このバカっ!!」ダッ
鞠莉「千歌っち!」
鞠莉「……」クルッ
曜・果南「…………」
鞠莉「…っ……」タッタッタ 千歌「ああもう本当にあったまきた、なんなの!」スタスタスタ
千歌「信じられない! いくら勢いがあったからって…!」
鞠莉「待って千歌っち!」
千歌「…鞠莉ちゃん、付いてきてたんだ」
鞠莉「あのね千歌っち…その、私が言うのもだけど、さっきのはちょっと言葉として強すぎというか」
鞠莉「二人とも千歌っちにあんな事言われたら、気落ちするんじゃ…」
千歌「そんなことないよ、寧ろあれくらい言わないと」
鞠莉「でも…」
千歌「でもじゃなくて本当にそうなの。大体鞠莉ちゃんは少し優しすぎるよ、自分が傷ついてるのにさ」
鞠莉「……」 鞠莉「それは、私だけじゃないわ…二人だって同じよ」
千歌「みんなのために気を遣うのと、誰か一人のために周りを巻き込むのは全然違うよ」
千歌「今の曜ちゃんと果南ちゃんは周りが見えてなさすぎ、それに」
千歌「私がああ言ったところで、きっと二人は止まらないと思う」
鞠莉「どうして…?」
千歌「昔ね、一回だけ曜ちゃんと果南ちゃんが大喧嘩したことがあってさ」
鞠莉「曜と果南が?」
千歌「サファイアちゃんの葬儀でって言ったら何となく分かるでしょ?」
鞠莉「!」 千歌「原因は私がいつもより大きな葬式だからってはしゃいでたせい」
千歌「それで怒った果南ちゃんが私を突き飛ばして、そのことに怒った曜ちゃんが果南ちゃんにつかみかかって大騒ぎ」
千歌「もう昔の話だからお互いそのことについては何のわだかまりもないし、子供だからで済ませられたけどさ」
千歌「今は違うでしょ」
鞠莉「…」 千歌「最近まで知らなかったけど果南ちゃんがダイヤさんを想う気持ちは変わらないどころか昔よりもっと強くなってると思うし」
千歌「曜ちゃんにも大切な人が出来た」
千歌「いいことだと思うよ、そうなること自体は。けど」
千歌「……」
千歌「あの二人はさ、いつも落ち着いてたり余裕があったりするけど…一度頭に血が上ったら止められなくなるんだよ」
千歌「ああ見えて融通が利かないから、鞠莉ちゃんも知ってるはずだよ」
鞠莉「…ええ、よく知ってる。そのくせ折れない」
千歌「私が一回怒鳴ったくらいで片付くなら、別にそれでいいんだよ」
千歌「だけどあんなので考えを変えるほど、二人にとってはどうでもいい話じゃない」 千歌「他人事じゃないから、自分のことのように相手を想っているから絶対に曲げることはない」
千歌「今は上手く納まったとしても、近いうちに必ずどこかでまた衝突する」
千歌「分かるよ、ずっと一緒にいたんだからそれくらい」
千歌「だから尚更、腹が立つんだ……!」
千歌「あのとき私が余計なことさえ言わなかったら…!」
鞠莉「それは違うわよ千歌っち」ギュッ
鞠莉「きっと千歌っちが言わなくても、遅かれ早かれこうなってたと私は思うわ」 鞠莉「だからそんなに自分を責めちゃ駄目よ」
千歌「分かってるよそんなの! ……わかるけど…!」
鞠莉「……」
千歌「…鞠莉ちゃん、私…悔しいよ…っ」
千歌「ここまで分かってるのに、何も出来ないのが……っ…悔しくてしょうがないよ!!」
鞠莉「……よくやってるわよ、貴女は」サスサス
─
ルビィ「……はっ…はっ……」
ピピピピッ
善子「はいやめ、お疲れさま」カチッ
ルビィ「ふぅ、疲れたぁ……」
善子「よくやるわね本当に」
ルビィ「一人でやるのも大事だから」 善子「ライブねえ…思えばあと二週間か、早いようなそうでもないような」
ルビィ「みんなと過ごせばあっという間だよ、きっと」
善子「そうかしらね」
ルビィ「だって楽しい時間はすぐだっていうし」
ルビィ「みんなもライブは楽しみにしてるはずだもん、初めて大きな会場でやるんだし」
善子「まあね」
ルビィ「善子ちゃんは落ち着いてるよね」
善子「実感が湧いてないだけよ、楽しみにはしてるわ」 ルビィ「そっか、ならよかった」
善子「絶対成功させましょうね」
ルビィ「うん! じゃあそろそろ帰ろっか」
善子「ええ」
プツン
ルビィ「…あれ?」
善子「どうしたの」 ルビィ「靴ひもが切れた」ホラ
善子「激しい運動しすぎたんじゃないの」
ルビィ「そうかも、それか善子ちゃんの不幸がうつったか」
善子「失礼ね、そんなわけないでしょ」
ルビィ「えへへっごめんなさい」
ルビィ「あっそうだ! なら次はお買い物に行こう!」
ルビィ「一緒に選んでくれるでしょ?」
善子「あーはいはい、お供しますとも」
ルビィ「約束だよ?」
善子「ええ、約束ね」
……それから
一日
千歌「曜ちゃん梨子ちゃんおはよー!」
曜「おはよう千歌ちゃん!」
梨子「おはよう」
千歌「あっ果南ちゃんとダイヤさんおはよう!」
曜・梨子「!」
果南「おはよ」
ダイヤ「千歌さんは相変わらず元気ですわね」フフッ ダイヤ「……梨子さんも、おはようございます」
梨子「……ええ、どうも」
果南「行こうかダイヤ」
ダイヤ「もうですか?」
果南「別に急ぐ理由もないんだけどさ」
曜「話すこともないでしょ」
曜・果南「……」 梨子(千歌ちゃん、あの二人どうしたの。喧嘩でもしたの?)ヒソヒソ
千歌「あー! そういえば私教室でやることがあるんだった! 早く行かなくちゃ!」
千歌「じゃあ二人ともまた後でねー!」
ダイヤ「あ、はい」
梨子「ちょっと千歌ちゃん!?」
曜「…ま、そういうことだから」
果南「早く行けば」
曜「言われなくてもそうするけど」 ダイヤ「果南さん……曜さんと何かあったのですか?」
ダイヤ「随分と空気が重く感じましたが」
果南「いいや、大したことじゃないよ」
果南「それよりダイヤのほうこそ梨子ちゃんに対して気まずそうだったけど?」
ダイヤ「それは……」
果南「余計な詮索は無しでいこうよ、お互いにさ」
果南「さてと、私たちもぼちぼち行きますか」
ダイヤ「……果南さん」
三日
千歌「はいはい! まずは準備運動からー!」
千歌「今日はいつもと違うペアでやってみよー!」
曜「梨子ちゃん、一緒にやろうよ」
善子「ちょっといきなり趣旨が違うじゃない」
曜「放っておくと危なそうだからさ」
善子「何が危ないっていうのよ」
果南「ほっとけば、過保護先輩のことなんて」
果南「私はルビィちゃんとでも組むかな」 梨子「!」
曜「待った、ルビィちゃんとは私が組むから」
果南「どうしたのさコロコロ意見変えて」
曜「別にいいでしょ、いつもと違うんだから」
ルビィ「あ、あの」
千歌「いやー! ルビィちゃん人気だねー!」
千歌「じゃあそこは三人一組でやろっか!」
ルビィ「え、はい」
果南「よかったね、入れて貰えて」
曜「九人いるんだから自然とそうなるでしょ」 千歌「私は善子ちゃんと!」
善子「よろしく」
梨子・ダイヤ「……」
ダイヤ「なら、私は花丸さんと」
花丸「ダイヤさんと一緒なんて久しぶりだね」
鞠莉「最後は私と梨子ね、よろしくー!」
梨子「よろしくお願いします」
鞠莉「そんなに固くならなくてもいいわよ♪」 千歌「はいそれじゃ始め!」
ダイヤ「……あの、花丸さん」
花丸「なに? ダイヤさん」
ダイヤ「その、ルビィのことなんですけど…」
ダイヤ「あの子は……」
花丸「…」
ダイヤ「……いえ、何でもありません」
花丸「そっか」 曜・果南「……」
ルビィ「…えーっと」
ルビィ「曜さん、次のライブの衣装だけど」
曜「ああアレ? あのまま続けていいんじゃないかな」
ルビィ「そ、そっか。うん分かった」
ルビィ「果南さんはその、部活以外にやってる練習とか」
果南「あーランニングは毎日欠かさずやってるよ」
ルビィ「あ、そうですか」
「…………」
ルビィ(……あれ、こんなに…静かだったっけ…?)
千歌「……」
五日
千歌「えー今後の活動についてだけど」
千歌「秋に差し掛かるっていうこともあって、月をイメージした衣装とかどうかな?」
鞠莉「それなら夜にライブとか見映えがいいわよね」
千歌「そうそう! 他になにか意見とかある人ー!」
曜・梨子「……」
果南・ダイヤ「……」
ルビィ「紅葉だから赤をメインにするとかどうでしょう?」
花丸「あとは京都を意識して和風とか」 千歌「あーいいねえ、曲もそろそろカッコいい感じのが欲しいもんね」
善子「和ロックみたいな?」
千歌「そこは考え中だけどね、梨子ちゃんはどう思う?」
梨子「……え? ああ、いいんじゃないかしら」
千歌「…他の三人は?」
曜「いいと思うよ」
果南「いいんじゃない、それで」
善子「ちょっとあなた達、真面目に聞きなさいよ」 千歌「善子ちゃん、いいから」
善子「だけど」
ダイヤ「…まあ確かに、今までになかった和を取り入れるというのはありですわね」
鞠莉「決まりね、千歌っち」
千歌「そだね、じゃあ次のライブは和風を意識したものでみんなよろしく」
「「「はーい」」」
千歌(……あぁ……)
千歌(早く帰りたいなあ…)
そして、七日後……
千歌「はい今日の練習はここまで、みんなお疲れさま」
曜「お疲れー、行こう梨子ちゃん」
梨子「…そうだね」
果南「さ、帰ろ帰ろ。ダイヤはどうする?」
ダイヤ「私は生徒会の仕事が残ってますから」
果南「ふーん。じゃあお先」
千歌「……私も家の手伝いがあるから早く帰らないと」
鞠莉「そういえば私もまだ書類を片付けてなかったわね」
ゾロゾロ
善子「え、ちょ……っと。え?」
善子「…ねえ千歌、最近思うんだけどさ」
千歌「なに」クルッ
善子「その…なんかみんな、帰るの早くない? 素っ気ないっていうか」
千歌「別に毎回遅くまでいる必要ないんじゃないかな、練習をサボってるわけじゃないんだしさ」
善子「それはそうかもしれないけど、ねえ?」
花丸「うん……」
ルビィ「なんからしくないというか、それにラインの会話も最近淡泊すぎる気がするし…」 千歌「らしさって何?」
ルビィ「え…それは、えっと……前はもっと明るかった、気がするから」
ルビィ「Aqoursもそうだけど、千歌さんもこのところあまり元気そうじゃないから……心配で」
千歌「……」ハァー
千歌「ならさ、自分たちで盛り上げてみればいいんじゃない?」
千歌「私ばかりに任せないでさ、色々やってみればいいじゃん」
善子「千歌、貴女本当にどうしたのよ。そんな突き放すような言い方今までしなかったじゃない」
千歌「疲れたんだよ、もう」 善子「疲れたって、確かにみんなのまとめ役は大変だと思うし」
善子「ライブも来週控えてるからそのプレッシャーもあるだろうし、気持ちは分かるけど」
千歌「けど何? 善子ちゃんに私の何が分かるっていうの」
善子「なっ……少なくとも最近メンバーの間でギクシャクしてるから」
善子「それで千歌が気をかなり遣ってるのは見てて分かるわよ」
千歌「だからそれ分かってるなら自分たちでどうにかする気はないのって話でしょ」
善子「そうだけどそんな言い方するなんて貴女らしくないって言ってるのよ」 千歌「え、何で私が文句言われなくちゃいけないの」
善子「いや文句じゃなくて…っ…」
ルビィ「ルビィたちは千歌さんのことが心配なんだよ、だから……えっと」
花丸「悩みがあるなら相談に乗るくらいは出来るはずだし」
千歌「悩みってさぁ……誰のせいでこんなことになってると思ってるの」
花丸「誰のせいって……」
千歌「…知ってるくせに、そうやって気付いてないふりするんだ」
千歌「いいよね花丸ちゃんは、そうやって傍観者気取っていざという時だけ口を挟めば」
千歌「それでいい扱いされるんだからさ」
花丸「!」 ルビィ「千歌さん、言いすぎだよ」
千歌「ルビィちゃんもさ、少しラクしすぎじゃない?」
千歌「いっつも正しい側に立とうとして、いつも周りに守ってくれる人がいて、それってどうなの?」
善子「ちょっと、いい加減にしなさいよ」
千歌「ほらね、来たでしょ」
善子「あのねえっ」
千歌「あーもういいよそういうの、本当にさ。うんざりするほど見たから」 善子「千歌!」
千歌「そんなに文句があるなら来なよ、全部教えてあげるから」
善子「…いいわよ、行ってやろうじゃないの」
ルビィ「善子ちゃん…」
善子「ごめん、私ちょっと外すから」
善子「今日は二人だけで帰って」
ルビィ・花丸「……分かった」
千歌「……ばっかみたい、これだから嫌になるよ」
千歌「愛だの恋だのを一番に考える人は」
善子「……早く行きましょう」
─
善子「で、誰のせいでこんなことになってるわけ?」
千歌「いきなりきたね」
善子「そうじゃないと話し進まないでしょ」
千歌「なら言わせてもらうけど」
千歌「……」
千歌「善子ちゃんさ、本当にこのままルビィちゃんと関わっていくつもりなの?」 善子「……また嫌な言い回しね」
千歌「でも分かるでしょ、私が何を言いたいのか」
善子「……」
千歌「おかしいよあそこ、いるだけで息苦しくて…胸が張り裂けそうになる」
千歌「曜ちゃんも梨子ちゃんも、果南ちゃんもダイヤさんも、みんな」
千歌「ルビィちゃんがそこにいるだけで、空気が変わって…」
善子「やめてよ! ルビィは何もしてない! あの子が悪いわけじゃないでしょ!!」
千歌「何もしてなかったら何もやらなくていいわけ!?だったら私だってもう何もやらないよ!?」
千歌「いいのそれで!?ねえ!!」 千歌「直接手を下してなかったら大丈夫なの!?だから私たちは関係ありませんって!」
千歌「何それ!可笑しいでしょそんなの!私が言いたい台詞なんだよそれはっ!!」
千歌「ルビィちゃんが悪くないってそんなこと私だって分かってるよ!!」
千歌「だけどもう嫌なんだよ!これ以上見てられない!」
千歌「誰も笑ってなくて!いつも辛そうで!お互いに傷つけあって!…それでっ!!」
千歌「そんなもの毎日、見せられ、たら…さぁ……」
千歌「………どうしたらいいのか、わたし、わからないもん」
善子「……」
千歌「いやだよ、もう」
……
善子「ただいま」ガチャ
ルビィ「おかえりなさい」
善子「来てたの」
ルビィ「いたほうがいいと思って」
善子「……そうね」 ルビィ「どうだったの、千歌さんとの話」
善子「何もなかったわよ」
ルビィ「……本当に? 嘘じゃなくて?」
善子「本当に何もないから」
ルビィ「……ルビィのせいなんでしょ、千歌さんが可笑しくなったのって」
ルビィ「ううん、千歌さんだけじゃない。曜さんも果南さんも梨子さんもお姉ちゃんもみんな…」
ガシッ
善子「ルビィ」
善子「あれは全員緊張してるだけよ」 ルビィ「嘘」
善子「ルビィ、もう一回だけ言うわよ」
善子「何も なかった いいわね?」
ルビィ「……そうだね、みんな、疲れてるんだよね」
ルビィ「ごめんね、気が付かなくて」
善子「……」 『……ごめんなさい、貴女がそこまで追い詰められてることに気が付けなくて』
『……』
『私も、花丸と相談して何か出来ることがないか探すから』
『少しでも千歌の負担を減らせるように努力するから』
『やっぱりルビィちゃんには、言わないんだね』
『……』
『言えるわけないじゃない……だって……』 善子(貴女のせいで人間関係滅茶苦茶になって空気が最悪だ)
善子(ルビィがトラブルの元で全ての元凶になってるだなんて)
善子(言えるわけがない…この子はずっとそれで悩まされてきたのに)
善子(やっと見つけた居場所で、自分の大好きな人たちが)
善子(そのことで問題になっているなんて…たとえ勘付いていたとしても)
善子(それだけは口に出したら駄目なんだ……何より私が言ってしまったら)
善子(本当に、全部終わってしまう)
ピロンッ
善子(ライン……)スッ
千歌[結局言わなかったんでしょ]
[ええ]
千歌[これで分かった?]
千歌[どんなに不満があっても、どんなに理屈を並べても]
千歌[そうするしかないんだってこと]
善子「…………」
[おやすみ]
─翌週、東京
千歌「着いたぞー! 東京ーーーっ!!」
花丸「未来ずらーーっ!」
ダイヤ「千歌さんはともかくとして、花丸さんもここのところ元気ですわね」
花丸「え、そ、そうかな?」
善子「花丸は東京に行ったことなかったっていうし、普通じゃない?」
花丸「そう、そうなんだよ! いやぁドキドキするずら」
ダイヤ「はあ、そうでしたか」 鞠莉「梨子はどう? 久々の東京は」
梨子「離れてから半年も経ってないけど、そうだね」
梨子「懐かしい感じがする」
鞠莉「それだけ内浦に馴染んだってことね!」
梨子「かもしれませんね」フフッ
果南「……」
ダイヤ「果南さん、どうかしました?」
果南「いや、まあ、それは事実だからなーって」
ダイヤ「…何の話ですか」
千歌・曜「……」 鞠莉「はいはいじゃあお話しはこれくらいにして!」
鞠莉「大会の説明を千歌っちよろしく!」
千歌「あ、うん」
千歌「大会の開始は午後1時からで、関係者の入場がその一時間前だから」
千歌「もうそろそろ会場に入らなくちゃだね」
千歌「ちなみに私たちAqoursはライブの披露が10組中5組目だから、前半のトリってことになるのかな一応」
善子「へえ、大抜擢じゃない!」
千歌「うーん、でもなんでここまでになったのかいまいち分からないんだよねー」
ダイヤ「千歌さん、それは─」
「それは恐らくあなた達が大きな期待をされているからだと思いますよ」 千歌「え?」
聖良「初めましてAqoursのみなさん、Saint Snowの鹿角聖良といいます、こちらは妹の理亞」
理亞「……」
千歌「初めまして! 今日はよろしくお願いします!」
聖良「ええこちらこそ、とは言っても初めてではない方もいるんですけどね」
千歌「?」
ダイヤ「ええ、確か以前東京でお会いしたことがありました」
果南「ああ、そういえば……あの時のか!」 善子「どういうこと?」
鞠莉「私たちがまだ一年生のときに三人でスクールアイドルをやっていた頃、今みたいに東京の会場に呼ばれたことがあって」
鞠莉「そこで偶然出会ったのが、彼女だったのよ」
聖良「ええ、そんなところです」
鞠莉「でもよく覚えていたわね、私たちのこと」
聖良「貴女たちには前から目を付けていましたから」
聖良「それこそ一年の頃から、未熟ながらも他のスクールアイドルにはない強みが貴女たちにはあった」 聖良「最後までパフォーマンスを崩さない運動能力とそれを維持するための基礎体力」
果南「……」
聖良「大勢を魅了する、抜きん出た歌唱力」
鞠莉「……」
聖良「そして何が何でも高みに昇りつめようと意気込むその信念」
ダイヤ「……」
聖良「それを見たときに思ったんです、いつかこの人たちが私たちの最大の強敵になるのだと」
聖良「結果あなた達はこうしてまた私たちの前に現れた、数々の成功を収めて」
聖良「私の予想よりも遥かにいい形で、PVを見たときにそれを確信しました」 鞠莉「随分評価してくれてるのね、私たちのこと」
聖良「私だけではありませんよ、だからこその期待なんです」
ルビィ「でもあの、嬉しいです…スクールアイドルの中でも一目置かれるSaint Snowの聖良さんにそう言ってもらえるなんて」
善子「知ってたの?」
ルビィ「その界隈じゃ知らない人はいないくらいの有名人だよ」
理亞「へえ、少しは話の分かる人もいたの」
善子「はあ!?」
花丸「どうどう、善子ちゃん抑えるずら」
聖良「理亞も、すみません妹はあまり会話が得意ではないので」 ルビィ「いえ、あの、全然大丈夫です!」
聖良「なら良かった、今日はお互い頑張りましょう」
聖良「ではまた会場で、理亞」
理亞「……」
理亞「そっちがどれくらい期待されてるのか知らないけど、一番会場を盛り上げるのは私と姉様だから」
聖良「理亞! すみませんこの子なりの激励ですから、ほら」
理亞「……」ジッ
ルビィ「……?」
理亞「……ふん」 千歌「……行っちゃった。なんか、凄かったなあ」
曜「礼儀正しい人だったね、それでいて風格もあるっていうか」
善子「けど妹のほうは愛想悪すぎじゃないの? ずーっと澄ました顔してさ」
花丸「同類?」
善子「喧嘩売ってんのあんたは!」
ルビィ「まあまあ、きっとそんなに悪気はないと思うよ」
ルビィ「自分たちに自信があって、お姉さんを本当に尊敬しているから出た言葉だと思うし」
善子「…ま、ルビィがそう言うなら別にいいんだけどさ」 千歌「よーしあそこまで言われたんだ、期待に応えられるように頑張ろう!」
千歌「頼むよみんな! 私たちもSaint Snowの二人に負けないくらい会場を盛り上げよーっ!」
「おーっ!」
千歌「……本当に頼むよ皆」ボソッ
梨子「…? 千歌ちゃん今なにか言った?」
千歌「さあそうと決まれば早く行こう!」
千歌「はっはー! 会場の一番乗りは私なのだー!!」ダッ
曜「お、競争? なら私も負けないよ!」ダッ
鞠莉「ほら! 私たちも行くわよ果南!」グイ
果南「えっ何で」ズルズル 花丸「じゃあマルも!」
善子「まあ準備運動がてらにはいいでしょ」
ルビィ「そうだね! よーいスタート!」
ダイヤ「え、あの」
梨子「ちょっとみんな?」
ダダダダッ
ダイヤ・梨子「……小学生みたい(ですか)」クスッ
ダイヤ・梨子「え……?」
ダイヤ「……私たちも行きましょうか」
梨子「……そうですね」
……
会場、控室
ワーーーーーー!!! キャーーーーー!!
曜「すっごい歓声…こんなに盛り上がるなんて」
梨子「あそこに私たちも今から行くんだよね」
善子「ええ、気を引き締めていかないとね」 「ありがとうございましたー!!」
パチパチパチパチ!!!
鞠莉「前のグループが終わったみたい」
花丸「いよいよだね、頑張ろうねルビィちゃん」
ルビィ「うん!」
千歌「……よし、行こうみんな」
「それでは次が前半戦ラストの一組! スクールアイドルAqoursでーす!」
ワアアアアアアアアアア!!
千歌「みなさん初めまして! リーダーの高海千歌です! よろしくお願いします!!」
千歌「それでは早速聞いてください! 君のこころは輝いてるかい?」
────
〜〜♪ ……♪
千歌「ありがとうございました!」ペコ
「ありがとうございました!」
パチパチパチパチ…
「Aqoursのみなさん、ありがとうございましたー!」
「それではここで少しの休憩です、次の開始は30分後に……」
ルビィ「……」
善子「…ルビィ? どうかしたの貴女」
ルビィ「ううん、なんでもない」 果南「いやー結構上手くいったんじゃないかな」
曜「そうだね、反応も悪くはなかったと思うし」
ダイヤ「ミスもありませんでしたし」
梨子「今までの練習の成果が出たってことだよね」
千歌「そう、かもね」
ダイヤ「何だか歯切れが悪いですわね、千歌さんらしくない」
千歌「え、いやいやそんなことないよ! 凄くよかったよ! うん!」 聖良「お疲れさまでした」
千歌「あっ聖良さん!」
聖良「その様子だと満足のいくライブが出来たようですね」
ルビィ「……」
千歌「……まあ、はいそれは」
聖良「……成程そうですか」
聖良「あなた達はともかく"他"は本当にそう思ってるんですね、よく分かりました」
千歌「え?」
理亞「程度が低いって言ってるの、そんなことすら気付かないなんて」
理亞「姉様、この人たち馬鹿?」 善子「それがいの一番に言う台詞? 出す態度? もう少し考えてからもの言いなさいよ」
ルビィ「善子ちゃん、待って」
善子「何で止めるのよ、あの子明らかに私たちのこと舐めてるわよ」
理亞「当然でしょ、尊敬するところがない」
善子「このっ…あんたねえ!」
鞠莉「善子、いいから落ち着きなさい」
善子「けど!」
聖良「理亞もやめなさい、それはこの大会が終わった後からでいいでしょう」 果南「…まるで大会が終わった後なら言っていいみたいな口ぶりだね」
曜「もしその言葉が本当なら、私たちも今のは聞き捨てならないんですけど」
梨子「曜ちゃん」
ダイヤ「果南さんも」
聖良「そう受け取ってもらっても構いませんよ、今は揉め事を起こしたくないというだけですから」
ダイヤ「…一つ聞いても宜しいでしょうか? 何故急にそこまでの敵意を私たちに」
聖良「それは是非本人が気付いてほしいものですね、ですがまあ」
聖良「どのみち最後にはそれが結果として現れると思いますよ」 千歌「観客の投票、ですか」
聖良「ええ、でもその前に」
聖良「私たちのライブを見ていただければ、分かりますよ」
聖良「スクールアイドルとしての差がね、行きましょう理亞」
理亞「はい姉様」
スタスタ
果南「……何あれ、感じ悪」
善子「全くね、お姉さんの方も最初は良い人かと思ってたのに」
曜「私たちの何が駄目だったっていうのさ」 花丸「まあまあ三人とも、折角ライブを見てくれって言われたんだし」
花丸「それを見てから判断してもいいんじゃないかな?」
果南「…まあ、あそこまで言うなら相当自信はあるんだろうしね」
鞠莉「そうそうどうせ最後までいるんだから、見物しないと勿体ないわよ」
善子「その物見遊山的な考えは見習いたいわね」
鞠莉「あらどうも、とにかくここであーだこーだ言っても始まらないんだから、ね?」
曜「…分かったよ」
千歌(……Saint Snowのライブ)
ルビィ(スクールアイドルの差……)
─30分後…
「皆さん大変長らくお待たせいたしました!! これより後半戦を開始します!」
「開幕早々ステージに上がるのはSaint Snowーーーーー!!」
ウオオオオオ!! キタアアアアアアア!!!
キャーーーーー!! セイラサーーーーーーーン!!!
リアチャーーーーーーン!!!
善子「すごい人気……流石はその界隈の有名人ね」
鞠莉「でも妹ちゃんのほうはまだ一年生でしょ? なのにもうこんなにファンがいるのね」
ルビィ「今年ソロでやってきた聖良さんがグループを組むって聞いて、注目してたファンの人も多かったから多分それもあると思うな」
曜「なるほど」 ダイヤ「あとはその実力」
梨子「彼女たちがどれだけのパフォーマンスを見せるのかってところね」
果南「あれだけ大口叩いたんだ、どれだけ凄いライブか見物……」
「最高だと言われたいよ 真剣だよ」
「We gotta go!」
果南「!!」
花丸「……カッコいいずら」 「夢は夢でも簡単に届かない」
「特別なもの目指そうじゃないか」
「そのためだから泣いたりしない」
「敵は誰? 敵は弱い自分の影さ わかるでしょう?」
鞠莉「何一つズレがないわね、動きだすタイミングが完璧……それでいて無駄がない」
鞠莉「格の違いってこういうことなんでしょうね」
善子「なに冷静に負けを認めてるのよ!」 鞠莉「仕方ないでしょ私たちの出番はもう終わっちゃったんだから」
鞠莉「これを見て気合い入れても意味がないもの」
果南「悔しいけど実力は本物なのは分かったしね、そこは受け入れるべきだよ」
善子「それはそうかもだけどそんなあっさり認めていいわけ!?」
曜「そうだよ! それに姉妹なんだからあれくらい出来てもおかしく……っ」
梨子「……」
ダイヤ「……」
曜「……いや、なんでもない」
果南(…馬鹿曜。だから言わなかったんだ私は) 「最高だと言われたいよ!」
Dance now! Dance now!
ルビィ「……普通に実力だよあれは、姉妹とかそんなの関係ない」
善子「ルビィ?」
ルビィ「確かに相性とかはあるかもしれないけど、それだけでレベルの高い人に合わせるなんて出来ないよ」
ルビィ「あの子は、理亞ちゃんはあそこまで行くのに途轍もない努力をして……それが結果に結びついてるだけ」
ルビィ「善子ちゃんも分かるでしょ?」 善子「……分かるけど、でも…」
善子(それじゃあまるで私たちが努力していない、成果が出ていないみたいじゃないか)
「遠くの光へもっとBaby!」
「一緒に跳びたいもっとBaby!」
「ふるえる指先知ってても 見ないで」
千歌「……」
「大切なのは SELF CONTROL!!」
……
…
曜「終わったね、大会」
梨子「うん、気付いたらあっという間だったね」
花丸「あとは結果を待つだけだけど、千歌ちゃん遅いなあ」
ダイヤ「手続きとか挨拶とか色々あるのでしょう、ほら噂をすれば」
千歌「みんなお待たせ! 投票結果の紙貰ってきたよ!」タッ
果南「お疲れ、確かそれって参加グループしか貰えないんだっけ」 千歌「そうそう、会場では一位のグループしか発表されないんだけど」
千歌「こっちではどのグループにどれだけの票数が入ったか見れるわけなのだ!」
ダイヤ「重要なのはここですわねSaint Snowのお二人が一位なのはともかくとして」
ダイヤ「今の私たちがどのあたりの位置にいて、何人に支持されているのか」
千歌「それじゃあ発表するね、まず観客からの投票数は全部で1374票」
千歌「1位Saint Snow 461票」
曜「すごっ……全体の3分の1も取ってるの!?」 千歌「2位からは結構僅差だね……189票、151票、123票……」
千歌「……9位、64票」
善子「えっ、私たち最下位…?」
梨子「千歌ちゃん、票数は?」
千歌「……」
ダイヤ「…千歌さん?」
千歌「……10位Aqours 0票」
果南「……!?」
曜「ゼロ……票? 嘘でしょ、あんなに票があって……」
曜「私たちのグループには1票も入ってないの? 嘘だよね、ねえ?」 聖良「観客の皆さんはしっかりとライブを見て評価しているということですよ」
聖良「だからこその0票、つまりあなた達を見て良かったと感じた人はあの場に一人もいなかったわけです」
千歌「…聖良さん」
果南「終わって早々挑発しにくるなんて、よほど余裕があるんだね」
聖良「松浦さん、あなたは何か勘違いをしていますね」
果南「私が? 何を?」
聖良「文句を言いたいのは私だけじゃないんですよ。寧ろ私たちがその代表として言いに来たといってもいい」 梨子「代表って?」
理亞「みんな気を遣って言っていないだけ、あなたたちが惨めになるから遠慮してる」
聖良「ですが私たちが述べたら少しは溜飲も下がるでしょう」
聖良「トップにいる者の発言は常に責任を伴う、しかしそれ故の説得力がありますので」
ダイヤ「…理由は分かりました、それで文句というのは」
聖良「簡潔にはっきり言いましょうか、スクールアイドルAqoursのライブが最低だった」
「!!」
聖良「0票になる理由なんてこれしかないでしょう」 鞠莉「ちょっ…いくらなんでもそれは──」
聖良「その要素として」
聖良「全員の息が合ってない、タイミングはバラバラ、全体的に安定しない声量、ぎこちないちぐはぐな動き」
聖良「そして何より、観客のことを見ていない人間がいる」
「!?」
聖良「スクールアイドルにおいて、これは一番やってはいけないことですよ」
善子「見てないなんてそんなこと!」
聖良「無いと言い切れるんですか、本当に?」
聖良「貴女はそうでも他はどうなんでしょうね、観客の皆様が間違っているとでも?」
善子「う……」 理亞「…個人の能力が高いのは認める、でもそれだけ」
聖良「たとえ個々の能力が優れていても噛み合わなければ意味がないんですよ」
聖良「その結果がこれです、恐らく私を含めて誰もが思ったことでしょう」
聖良「期待外れだったと」
ルビィ「……」
聖良「黒澤さん、確か三人で活動していた頃は貴女がリーダーを務めていましたよね?」
ダイヤ「はい」 聖良「私は貴女のことを教養のある人だと思っていましたけど、意外と人を見る目がないんですね」
聖良「黒澤さん、貴女がリーダーを続けていた方が良かったんじゃないですか?」
千歌「っ!!」
果南「……ちょっと待ちなよ、さっきから黙って聞いてれば」
曜「流石に失礼すぎませんか? 何か知った風な口利いてますけど、あなたに千歌ちゃんの何が分かるって言うんですか」
千歌「曜ちゃん、果南ちゃん、いいから」
曜・果南「いいやよくない!」
聖良「……ええ、何も知りませんよ? 少なくとも貴女たちと同程度には」 果南「は? 私たちが何も知らないって!? 冗談も大概にしなよ!」
曜「私たちは千歌ちゃんがスクールアイドルをやるって決めたときからずっと一緒にいたんだ!」
曜「千歌ちゃんがどれだけ頑張ってここまで来たのか…それは私たちが一番よく知ってる! 勝手なこと言わないでよ!!」
聖良「一番長い付き合いでその体たらくですか、それでよく啖呵が切れたものですね」
聖良「誰よりも足を引っ張っていたのは他でもない、貴女たち二人なのに」
曜「なっ……!」
果南「どういう意味さ!」 聖良「そこまで言わないと分かりませんか? 本当に愚かですね」
聖良「そもそも曲の始まりからしてズレているんですよこのグループは、それは何故かと言ったら」
聖良「貴女たちが最初から周りに合わせず個人主義の身勝手なパフォーマンスを行っていたからです」
聖良「私が私がと自分の欲を剥き出しに、我先にと相手を出し抜くことしか考えていないようなその傲慢さを」
聖良「隠すどころか曝け出して、そんな自分に酔っている。最悪ですよ」
聖良「さっきのもそうです、彼女を押しのけて自分たちの意見を通そうとした。恐ろしく身勝手な振舞です」
聖良「本人にその自覚がないのが尚のこと質が悪い」
聖良「この際なのではっきり言わせてもらいますが先程の…いえ今のあなた達は害悪以外の何者でもありません」
曜・果南「!!」
聖良「ただ熱くなりたいだけなら銭湯にでもいってきたらどうですか? そちらの方が気分が良くなると思いますよ」 聖良「まあ冗談はさておき、これで分かったでしょう」
聖良「ステージ上にいたAqoursがどれほどみっともない存在だったか」
聖良「がっかりですよ、本当に。一体どうしてそうなってしまったんですか」
聖良「以前までは出来ていたじゃないですか」
千歌「……」
聖良「メンバー内で問題でもありましたか、いや仮にそうだとしても」
聖良「ライブに私情を持ち込まないでくださいよ」
梨子・ダイヤ「……」
聖良「張り合いなんて以ての外です、あなた達の自己満足のために」
聖良「私たちはここに呼び出されたわけじゃない」
曜・果南「……」 聖良「そして問題があると分かっていながら、諍いになることを恐れ、それらを指摘しない人」
鞠莉「……」
聖良「見てみぬふりをしてやり過ごそうとする人」
善子・花丸「……」
聖良「酷いですね、あまりにも杜撰で…歪なメンバー構成だ」 聖良「ただ、実際のところは分かりませんよ、直接この目で見たわけではありませんから。ですが」
聖良「問題が浮彫りのまま事が起きたということは、おそらく間違ってもいないのでしょう?」
聖良「だから先程の言葉を訂正するつもりはありません、そしてそのうえで言わせてもらいます」
聖良「……ふざけるのもいい加減にしてください」
聖良「何なんですかあなた達は、このグループは」
聖良「一体なんのために、スクールアイドルをやっているんですか」
ルビィ「!」
聖良「……あなた達は、最低です」 理亞「馬鹿にしないで」
理亞「ラブライブは遊びじゃない!」
「…………」
理亞「……ふん」
ルビィ「……そんなことない」
理亞「…は?」
ルビィ「馬鹿になんてしてないよっ!!」
ルビィ「ルビィたちは……っ……遊びでなんかやってない!!真剣にやってきたんだ!!」
善子「ルビィ……」 理亞「それが馬鹿にしてるっていうの」
理亞「真剣にやってる人たちが、あんなライブするわけない」
理亞「私と姉様をあなたたちなんかと一緒にしないで!」
ルビィ「!」
聖良「行きましょう理亞。これ以上ここにいても時間の無駄だわ」
理亞「……」
ルビィ「……」
理亞「ええ、帰ろう姉様」
─内浦
千歌「……」
「あっ帰ってきた!」
千歌「!」
「お疲れ様ー! 大会どうだった?」
「上手くいった?」
千歌「…あははっ! それはもうバッチリだよ!」 「へーすごーい! 流石だね!」
「ずっと練習してきたんだもん、当然でしょ!」
千歌「っ……」
「それもそっかー! ははははっ」
「でも本当に凄いよ! その大会ってあの人達も来てたんでしょ」
「今年話題の二人組の……」
「Saint Snowね」
「そうそうそれ! そんな人たちとも一緒にライブ出来ちゃうんだから私たちの誇りだね千歌は!」
「どこ目線で話してるのよあんたは」
アハハハハ!! 千歌「……あーみんなごめん、私達ちょっと疲れてるからさ。ここらへんで」
「あっ、そうだよねごめん。長々と引きとめちゃって」
千歌「いいのいいの」
「じゃあまた明日ねー!」
千歌「はいはーい! またねー!!」
「…………」
千歌「……なんか言えばよかったじゃん、真剣にやってきたんならさ」
千歌「後ろめたいことなんて一つもないじゃん」
ルビィ「え……」
千歌「なんで黙ってたの、ねえ」 千歌「それって結局私たちのライブが誰かに褒められるようなものじゃなかったって認めたようなものでしょ」
梨子「ちょっと待ってよ千歌ちゃん、何もルビィちゃんにそんなこと言わなくても」
ダイヤ「これは私達全員の責任ですし…」
千歌「…なら言えるんだね、責任があるってことは」
千歌「自分たちの何が悪かったか言えるってことだよね?」
梨子「いや……」
ダイヤ「……それは」
千歌「はぁーっこれだよもう…」 千歌「じゃあ私から言おうか? 私は結局本番当日までメンバー全員をまとめきれなくてライブを失敗させてしまった」
千歌「これはリーダーである私の責任だよね、だからこそさあ」
千歌「今ここではっきりさせる必要があるんだよ、一体何が原因でこうなったのかってことをさ」
千歌「確かめないといけないわけ、問題解決のために。分かるよね?」
梨子・ダイヤ「……」
千歌「答えてよ早く、ほら!」
果南「千歌、ちょっと落ち着きなって、今はまださ…」
曜「そうだよ、今それについて言わなくても」
千歌「今はってなんだよ!」
曜・果南「!」 千歌「それが言えるんだったらどうしてライブのときもそうしてくれなかったの!?」
千歌「言ったよね私! 頼むよって! 頭冷やしなよって!!」
千歌「なのに実際はどうなの!? 二人は聖良さんに何言われた!?」
千歌「二人が一番足を引っ張ってたって! そう言われたよね!?」
千歌「私があれだけ言ったのに……っ…結局ここまで引っ張っておいて今更どの口が言うの!」
千歌「何も出来てなかったくせに私たちは落ち着いてるみたいな顔するなっ!!」 ダイヤ「…どういうことですか、果南さん……引っ張っていたって」
ダイヤ「一体何があったんですか」
梨子「曜ちゃんも、私に何か隠してることでもあったの、そのことで」
鞠莉「梨子、ダイヤ……それは」
千歌「もう言おうよ鞠莉ちゃん、いい加減さ」
千歌「どうせ本人たちは口を開こうとしないよ」
鞠莉「けど…」
千歌「そこが鞠莉ちゃんの悪いところだよね、空気が重くなると思いきった発言をしない、出来ない」
鞠莉「!」
千歌「前はそれでも良かったかもしれないけどさ、もう無理でしょここまで来ると」 千歌「で、花丸ちゃんと善子ちゃんはいつまでそうして黙ってるわけ?」
千歌「あれかな、私たちの大好きなルビィちゃんが傷つかなければそれでいいってやつかな」
善子「ちがっ……!」
花丸「マルたちはその! この流れをどうにかしたくて……」
千歌「だから、無理なんだってそれは」
千歌「時間が経つとどうしようもなくなることってあるんだからさ、ね。ルビィちゃん?」
ルビィ「千歌さん……やっぱり、そうなの…?」
ルビィ「全部、ルビィが悪いの……?」
千歌「……」 千歌「……まず曜ちゃんと果南ちゃんが対立したきっかけはさ、梨子ちゃんとダイヤさんにあるの」
梨子「え……」
ダイヤ「それってまさか…」
千歌「梨子ちゃんとダイヤさんが揉めてた一部始終を見てたからさ、それを見た二人がそのことで別の言い争いをしてたってわけ」
梨子・ダイヤ「──!」
曜・果南「……」
千歌「だからこんなに拗れてるの、このグループは。色んなところでぐちゃぐちゃになってるから」
千歌「でも、そもそもの原因は一つしかないの。皆それのせいで……傷ついてるんだよ」
千歌「……その原因が」
善子「千歌、待って!」
千歌「ルビィちゃんなんだよ」
ルビィ「!!」 ルビィ「……」
ルビィ「…………」
ルビィ「……………………」
ルビィ「そ、っか」
ルビィ「そう、だったんだ」
千歌「……」
ルビィ「だよね、梨子さんとお姉ちゃんが揉める理由なんてそれ以外ないし」
ダイヤ「ルビィ……」
梨子「ルビィちゃん…」 ルビィ「善子ちゃんや花丸ちゃんがルビィに隠すことなんて、それくらいしか、ないもんね」
ルビィ「うん。だよね、そうだよね」
ルビィ「それなら、ルビィのせい以外、あり得ないし……っ」
ルビィ「だから、ライブも」
ルビィ「……」
ルビィ「っ……!!」ダッ
花丸「ルビィちゃん!」
善子「ルビィ!!」ダッ ルビィ「はぁっ……はぁっ……!」タッタッタ
善子「ルビィ! 待ってよ!」パシッ
ルビィ「……離してよ」
善子「嫌よ! 離さない!」
善子「今貴女を一人になんて出来るわけないでしょ!!」
ルビィ「うるさい! 一人のほうが良かったんだ!! ずっと!!」
善子「そんなことない! だって私は──!」
ルビィ「じゃあ少しは嬉しそうにしてよっ!! 笑ってよ!」 ルビィ「一人じゃ駄目なんて嘘つかないでよ!!」
善子「嘘じゃない!!」
ルビィ「じゃあ何でみんなそんな顔するの! そんな目で見るの!」
ルビィ「みんなの傍にいていいなら! なんでっ!!」
ルビィ「誰も私に大丈夫って言ってくれないの!!」
善子「──!?」 ルビィ「私はここにいていいんだって! ここにいてほしいんだって!!」
ルビィ「なんで誰も言ってくれないの!!」
善子「ルビィ、貴女…!」
ルビィ「私は! 私はただっ!!」
ルビィ「ここにいたかっただけなのに!! スクールアイドルを……」
ルビィ「みんなと一緒にやりたかっただけなのに!!」
善子「!!……ぁ……」 ルビィ「………なんで……」
ルビィ「なんで、出来ないのかなぁ…」
ルビィ「人を笑顔にさせるのが、アイドルなのに」
ルビィ「私がいると、誰も……笑わないんだよ」
ルビィ「こんなんじゃ何にもなれないよ、私」
善子「そんなこと、ないから」
ルビィ「善子ちゃんだってそうだよ」 善子「違う! 私は、違うわよっ…」
ルビィ「でももう、見てないよ」
ルビィ「善子ちゃんの笑った顔」
善子「……っ…」
ルビィ「楽しかったけどね、それでも……本当だよ?」クスッ
ルビィ「けど、これからは……分かんないや」
善子「……ルビィ?」 ルビィ「……」
ルビィ「…………ねえ、善子ちゃん」
ルビィ「私、生まれてこないほうが良かったのかな」
善子「っ!!」
ルビィ「──ううんごめん、聞かなかったことにして、今のは」
ルビィ「じゃあね、もう帰るから」
善子「待ってルビィ!それなら私も…っ…」ギュッ
ルビィ「ほっといてよ!!」 ルビィ「……おねがいだから、もう…こないでよ」ポロポロ
ルビィ「わたしをひとりにさせてよ」
善子「…………」
パッ
ルビィ「………ごめん…もう、いくね」
ルビィ「さようなら」スタスタ 善子「…………」
善子「……何よ、それ……」
善子「…………っ……ぅぐ……」
善子「……あああぁあぁ……!!」
善子「何でなのよおおおおおお!!」
ダッ 善子「なんでそうなのよいつも!!」
善子「いつもあの子が!何で!!」
善子「分かってたのに!!私は!」
善子「知ってたのに!全部!!」
善子「全部!! 全部!! 全部ッ!!」
バンッ
善子「ハーッ…ハーッ…!!」
花丸「あ、善子ちゃ……」
善子「全部……私達のせいじゃないかっ!!」 ダイヤ「善子さん、急に何を…」
善子「ルビィが!あの子がさっき何て言ったのか!分かる!?」
善子「生まれてこなければ良かったって!!そう言ったのよ!!」
「!!!」
善子「ふざけるんじゃないわよ!!いい加減にしなさいよ!!」
善子「それが!あんたらが姉の立場を得てまで!誰かを庇い立てしてまで!!」
善子「言わせたかった言葉なのか!!」
善子「最初にユニットに誘ったのは誰よ!小さい頃から一緒にいたのは誰よ!血が繋がってるのは誰よ!」
善子「あの子を幸せにしたいって言ったのは…誰なのよ!!」 善子「それだけ近くにいた奴らが!気付きもしないで追い込んで!追い詰めて……っ!!」
善子「そんな言葉……っ……言わせるの、やめなさいよぉ…っ…」ポロポロ
善子「……うぅっ……うぁぁあああ……!!」
「…………」
千歌「……そう、だね。もう今日のことで言い合うのはやめるよ……だって」
千歌「私達全員に、それを言う資格はないから」
──
ルビィ「……」
── 黒澤家之墓 ──
ルビィ「…………ねえ」
ルビィ「もし、ね。もしもだよ?」
ルビィ「私と…あなたが、入れ替わっていたら」
ルビィ「こんなことには、ならなかったのかな?」
ポツ……ポツ……
ルビィ「そこにいるのが、私で……ここにいるのがっ…あなたで…」
ルビィ「それなら……」
ルビィ「みんな幸せに、なれたのかなぁっ……!」
ザーッ ザーッ
ルビィ「……わたし……っ…なりたかった…!」
ルビィ「あなたみたいに……なりたかった!!」
ルビィ「……ひぐっ……うぁぁ…ああああああああああ!!!!」
それから…
善子「花丸ー。ルビィのノルマ終わったから来たわよー」
花丸「お疲れ様、今日は早かったね」
善子「別の用事があるんだって、で? 用って何よ」
花丸「ゲーム一緒にやりたいなあって」
善子「はあ? もうすぐラブライブの予選だっていうのに?」
花丸「うん」
善子「何考えてんのよ」 花丸「マルも上手くなったら、見てるだけじゃなくて一緒に出来るかなって」
花丸「今は無理でも、いつか三人で楽しく、遊べるのかなって」
善子「……分からないじゃない、そんなの」
花丸「分からないからやるんだよ、だって」
花丸「今のルビィちゃん、昔の頃に戻ってるもん」
花丸「淡々とやるべきことだけやって、心に厚い壁を張って、一人で塞ぎこんでる」
花丸「でも、それを破るきっかけを作ってくれたのは善子ちゃんだから、今度もきっと…」 善子「……」
花丸「多分みんな何が正解かなんて、分からないと思うけど」
花丸「昔と何も変わらないまま終わっていくのは、嫌だな」
善子「…そうね」
善子「じゃあ私の家に来なさいよ、最近滅多に人が来なくて窮屈していたところだったし。丁度いいわ」
花丸「……」
花丸「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうずら」
──
曜「お邪魔しまーす」ガチャ
梨子「あれ、今日はただいまって言わないんだ?」
曜「……一応私の他にもお客さんがいるもんで」
梨子「お客さんって?」
果南「え、何。曜って梨子ちゃんの家に来た時ただいまとか言ってるの」
ダイヤ「いや、まあ…アリでしょう、そういうのも」
梨子「果南さんに、ダイヤさん…珍しいですね」
ダイヤ「ええ、今日はお二人にお願いしたいことがありまして」 梨子「お願いって、何ですか?」
ダイヤ「鞠莉さんのことです」
曜「鞠莉ちゃんの?」
果南「鞠莉がスクールアイドル部に入った理由は知ってるでしょ」
曜「元から廃校が決まってるからせめて自分の在学中までに大きな功績を学校に残したい、だったっけ」
果南「そう、そんな感じ」
ダイヤ「ですから今流行りのラブライブで優勝すれば大きな注目を浴びると思って私たちに関わってきたのでしょうね」
ダイヤ「今思えば打算的な考えです……けれど」
果南「それだけで今もまだここに居座るわけがないんだよ……本気だったんだ」 果南「だけどそれを私たちが引っ掻き回した……本来あの子はこの件と無関係なのに」
梨子「……」
ダイヤ「お願いします、今度のラブライブ予選……私たちに協力してください」
果南「頼むよ……この通りだから」ペコ
曜「果南ちゃん…」
梨子「……頭を上げてください、私、そこまでされるほどのものじゃないですから」
梨子「問題を起こしたのは、私も同じだし」 曜「それに、私たちもそのことでお願いしようと思ってはいたんだよね」
曜「千歌ちゃんのこと考えたらさ…これ以上ってわけにもいかないし」
ダイヤ「だったら「ただ」
梨子「それで本当に上手くいくのかなって考えて、言えなかったんです」
曜「今まで普通に出来ていたことがさ、ここまでしないと出来ないものになってる時点で」
曜「チームとしては、未完成だって言ってるようなものだし」
果南「いや、だからってこのまま何もしないのも違うでしょ」
曜「それは、そうだけどさ……分からないんだよ」
果南「……そんなの、私だってそうだよ」 「……」
梨子「……ごめんなさい、ダイヤさん」
ダイヤ「え…?」
梨子「私がもっと、貴女の立場に立って考えることが出来ればよかったのに」
梨子「最後まで上手くいかなくて……それに」
梨子「今でも、貴女になんて言っていいのか、どう接していいのか」
梨子「私には、分からないの」
曜・果南・ダイヤ「!!」
梨子「…? どうしたの皆」 果南「…いや、何でもないよ。とにかくさ、私たちが言いたかったのはそれだけだから」
果南「またね、今度は余計なこと考えないし、足も引っ張らないように努力するからさ」
果南「その、なんだろう……上手くいくといいよね、ライブ」
梨子「……はい」
果南「いや、しなくちゃいけないんだけどさ、そうじゃなくてもっとこう私が言いたいのは…」
ダイヤ「果南さん、いいから帰りますわよ」
果南「でも」
ダイヤ「みなまで言わなくとも、お二人には伝わっているはずです」
果南「……全部?」
ダイヤ「半分程度かと」 果南「それ駄目じゃん」
ダイヤ「ではお邪魔しました。ほら行きますわよ」
果南「ちょっとダイヤってば! いいの本当に!?」
バタン
梨子「行っちゃったね、曜ちゃんはどうする?」
曜「ここにいたい」
梨子「…最近冷えてきたよね、ココア作ってくるから待ってて」
曜「……ん」 梨子「どう?」
曜「おいしい」
梨子「ならよかった」
曜「……さっきさ」
梨子「うん」
曜「梨子ちゃん、ダイヤさんにどう接したらいいのか分からないって言ったでしょ?」
梨子「言ったけど、それが?」
曜「あれ聞いたとき、ちょっとビックリしたんだよね。だってその前に私さ……」 果南「いやーそれにしても、まさか梨子ちゃんがダイヤと同じこと言うなんてね」
ダイヤ「ええ、私も驚きました」
果南「ま、二人は考え方似てるところあるから、おかしくないとは思うけどさ」
ダイヤ「私からすれば果南さんと曜さんも同じようなものですわよ」
果南「かもね。けど、だからかな」
果南「どうしてこんなに噛み合わないんだろうって、みんな考えてることは一緒のはずなのに」
ダイヤ「ええ、私もそう思います……だからこそ」
ダイヤ「歯痒いのです。今と、それが続くかもしれないこれからが」
果南「ダイヤ……」
ダイヤ「せめて少しずつでも何かを変えていけたら、元に戻せられるのでしょうか」
果南「さあ…どうだろうね」
──
千歌「……」モグモグゴクゴク
鞠莉「いきなり電話がかかってきて、何事かと思えば」
千歌「ぷはーっ! 生き返ったー! ごちそうさま!!」
鞠莉「食欲旺盛ねえ、千歌っちは」
千歌「糖分摂取は大事だからね! 頭を使うためにも!」
鞠莉「ふーん、それで私に集りにきたってわけね」
千歌「いやーまあ……はい」
鞠莉「で、そんなになるまで何考えてたの?」
千歌「んーとねAqoursのこと、リーダー辞めるかどうかとか」
千歌「そんな感じかなー」 鞠莉「……辞めるの?」
千歌「迷ってるんだ、どっちにすればいいのか」
千歌「責任を取って辞めるべきか、責任を取らなくちゃいけないから続けるべきなのか」
鞠莉「好きな方でいいんじゃないかしら」
千歌「そんなので済ませていいのかな」
鞠莉「だって千歌っちはAqoursが好きだから適当な答えを出したくないんでしょう?」
鞠莉「ならそれにきちんと向き合うためにも、自分の気持ちに正直になるのがいいと私は思うけど」
千歌「……」
鞠莉「私は続けるわよ、ここで成し遂げるまではね」 千歌「鞠莉ちゃんは、凄いね」
鞠莉「引くに引けなくなっただけだから褒められるほどのものじゃないわよ」
鞠莉「それに千歌っちの言葉を借りて言うなら、これが私の責任の取り方なのよ」
鞠莉「好きだからやめたくないっていうのが本心だけどね」
千歌「そっか……うん、分かった」
千歌「じゃあ取りあえず、次の予選が終わるまでは保留にしておく」
鞠莉「そうね、それがいいと思うわ」 千歌「……鞠莉ちゃんはさ」
鞠莉「ええ」
千歌「いけると思う?」
鞠莉「やってみないと分からないわ……今はそう言うしかないでしょう?」
鞠莉「良くも悪くも、ね」
千歌「だね、ここで無理を言うのは…よくないもんね」
千歌「どんなに望み薄でもさ……私、やっぱり諦めたくないから」
鞠莉「…私もよ」
──
ピピピピッ
ルビィ「…あ、もうこんな時間」
ルビィ「えっと走った距離は…うん、伸びてる」
ルビィ「明日は、ダンスの練習にしよう」
ルビィ「予選まであと一週間だから、頑張らなくちゃ…」タッ
ルビィ(もっと、もっと、もっと……) ルビィ「……」
ピタッ
ルビィ「やって、どうするんだろう」
ルビィ「違う、やらなくちゃいけないんだ。だから私は」
ルビィ(……でも)
ルビィ(“やりたい”には、なってないんだよね)
ルビィ「……私、本当は何がしたいのかな」
ルビィ「……やめよう、今は、ライブに集中しなくちゃ」タッ
(次は、次こそは)
……
…
しかし、その決意も空しく
スクールアイドルAqoursはラブライブ一次予選にて敗退、理由は言うまでもない
そして私たちはこれ以降、九人で活動することはなくなった。
上級生の今後の進路に向けて活動を自粛というのが表向きの理由だが
ただ単に、気まずかっただけなのかもしれない。
因みに今年度のラブライブの優勝者はSaint Snow
他を寄せ付けない圧倒的な実力差で、見事その栄光を手にした。
一方で私たちは全てが終わった後で、この有り余った時間をどう使うべきか
そのことだけにただ心血を注いでいたような、そんな気がする。
ラブライブがどうでもよくなったわけじゃない、スクールアイドルに興味がなくなったわけでもない
少し、距離が空いただけ。
けれどそのせいか、心もあまり、揺さぶられなくなってしまって
確かにそこにはあるのに
再び燃え上がることもなく、かといって消し去ってしまうには惜しいほどの情熱の欠片は
ただただ心の片隅につっかえたまま、ふすふすと燻り続けていた。
何も変わらず、何も変えられず、時間だけが過ぎていって
日は進み、年を跨ぎ、季節が移り、いつか来るはずの終わりはもうすぐそこまで迫っている
そのことすら、どこか他人事のようで。
他人……結局そうなんだろうか、血が繋がっていなかったらそれは自分にとって
ただの他人なんだろうか
分からない、今ではどの考えが正しいのか
私には、なにもわからない。
…………
今は四月。 上級生はたったの一言も私たちに残すことなく去っていき
そして──浦の星女学院での二度目の春が桜と共にやってくる
桜は見る者によってその美しさが変わるというが
ただひらひらと、喧騒も何もなくなった過去の居場所を、まるで主張するかのように漂い続けるその花びらは
私にとってはただただ空虚で、まるで鏡を見ているような錯覚にすら陥った。
──何者でもない自分がそこにいるかのような、親近感さえ湧くほどに
それがたとえ気の迷いであろうとなかろうと
偶像であると慮るような欠片は、今もまだ目の前にあるのだから。
黄昏の桜を通り過ぎ、踏み入れた先はいつもと少し違った景色
校舎の中は前よりも広々とした、伸びやかな空間で
それでいて、少し窮屈に感じた。
…………
春は出会いと別れの季節、新たな出会いがあるからこそ日々の出来事は色づいていく。
それが青春というものなんだろう
私の場合はそうだった、けれども
ここはまだ、灰色のままだ。 白と黒ですらない
何もかもが中途半端で、不意にどこかで混ざりあってしまったような
そんな、鉛みたいな居場所にいつの間にかなってしまっていた。
おもい。故に離れられない
今は四月。 後輩は、先輩にはなれなかった。
話の続きですが、そちらは4月初めに投稿する予定です
ここまでお付き合いいただきありがとうございました >>636
4月初めに立てると言いましたが投下量的に少しばかり長引きそうなので
早めに次スレのほう立てさせていただきました
一応こちらにも誘導として貼っておきますのでよろしくお願いいたします
ルビィ「片割れのジュエル」 フェスライブ編【再】
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1648549909/ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています