しずく「刹那に伝う涙の雫」
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「「「お疲れ様でした!」」」
演劇部部長「はい、お疲れ様。気を付けて帰ってね」
「疲れたねー」
「でも、仕上がってきたよね」
「いい感じ」
しずく「……」
しずく「…部長、少しお時間いいですか?」
演劇部部長「ん?どうしたの?」
しずく「お聞きしたいことがあります」
演劇部部長「いいけど。恋愛相談?」
しずく「!?、ち、ちがいますよっ///」
演劇部部長「ありゃ、違うか。今日の様子からしててっきり…」
しずく「…今日の私、そんなに違います?」
演劇部部長「うん。なんか実際経験してきたかのような感じはあるかな」
しずく「……そういうわけではないんですけど、まぁいろいろありまして」 しずく「部長は誰かに告白されたことはありますか?」
演劇部部長「…やっぱり恋愛相談?」
しずく「違いますっ。私の話じゃないんです」
演劇部部長「ふうん…まぁいいけど。あるよ」
しずく「!…それを受けたことは?」
演劇部部長「ないかな」
しずく「…その、断るときってどういう気持ちになります?」
演劇部部長「…一応聞くけど、真面目に聞いてるんだよね?」
しずく「…すみません、本当は聞くようなことじゃないのは分かってます」
演劇部部長「ううん、そうだよね。変なこと言ってごめん」
演劇部部長「もちろん申し訳ない気にはなるよ」
演劇部部長「でもそれだけ。それ以上のことは考えない」
しずく「え?」 演劇部部長「二人の関係性にもよると思うけど」
演劇部部長「お互い引きずってもいいことはないよ」
演劇部部長「だから私は気にしない。忘れてあげるとまでは言えないけど」
演劇部部長「あと、振った人が振られた人にできることなんてないからね」
演劇部部長「同情も失礼だしそういうのは友達が励ましてあげないと」
しずく「……」
演劇部部長「冷たいって思う?」
しずく「いえ、分かる気がします」
演劇部部長「そ?よかった」
しずく「ありがとうございました。私もそろそろ帰ります」
演劇部部長「うん、お疲れ様」
演劇部部長(………ふむ) しずく「…」テクテク
しずく(部長の言ってたことは分かる)
しずく(同情なんてしちゃいけないし、できることもない)
しずく(きっとそれはせつ菜さんも分かってる)
しずく(誰も居なくなった後に涙を流すのは多分別の理由がある)
しずく(気を遣うにしては度が過ぎてるし…)
ガラッ
しずく「?」
女生徒D「…」ダッ
しずく「きゃっ」
女生徒D「!、す、すみませ…っ」ポロポロ
しずく「あ、い、いえ…」
タッタッタ…
しずく(……今の子、泣いてた)
しずく(この光景前も見た…もしかして…) ―――空き教室から飛び出した女の子が走り去り
―――空いた扉からは聞き覚えのある声のすすり泣きが漏れる
―――この前とは違ってはっきり聞こえる
しずく(…ごめんなさいせつ菜さん、やっぱり無理です)
しずく(私には知らないふりはできません)
―――泣いた分だけ元気を分けてあげたらいい?
―――隠しきれなくなってから助けてあげる?
―――それじゃあ遅い
―――気持ちが分からないから、できることがないからって
―――目の前で泣いてる人を放ってはおけないよ しずく「せつ菜さん」
せつ菜「!?」
しずく「…」スタスタ
せつ菜「な、え、なんで、ここに」ツー
しずく「…」スタスタ
せつ菜「あ、これは、なんでもなくて…」ゴシゴシ
しずく「もう、見ていられませんよ…」ダキッ
せつ菜「…っ」
しずく「せつ菜さんの気持ち全てを分かってはあげられないかもしれません」
しずく「でもお願いですから、一人で泣くのだけはやめてください」
せつ菜「…だって、私が泣くのは、おかしいじゃないですか…」グスッ
しずく「…」ギュッ
せつ菜「ごめんなさい…ごめんなさいっ…」
・
・
・ せつ菜「知ってたんですね…私のこと」
しずく「…たまたまなんです」
しずく「先日、せつ菜さんが校舎裏で告白されているところを見てしまって」
せつ菜「…」
しずく「でも、その後何もなかったかのように練習に来て」
しずく「かと思えば、練習後に一人で泣いて…」
しずく「本当は辛いのに、平気なふりをしてるんだと思ったら、私もう…」
しずく「ごめんなさい。本当は知られたくないことだったんですよね」
せつ菜「…しずくさんが電話をくれたのも同じ日でしたね」
しずく「……はい」
せつ菜「……」
しずく「…怒ってますか…?」オドオド
せつ菜「…逆です。私の事、そんなに気遣ってもらえてるとは思わなくて」ニコ
しずく「……」 しずく「やっぱり、理由は話してもらえないんですか?」
しずく「私にできることはありませんか…?」
せつ菜「…同好会が5人だった時の事、覚えてますか?」
せつ菜「あの時の私は、自分の『好き』の気持ちに間違いはないと思ってました」
せつ菜「ですが、それがかすみさんの『好き』を否定していたと知って」
せつ菜「自分のしていることが何なのかよく分からなくなって、前に進めなくなりました」
しずく「……」
せつ菜「でも侑さんに、皆さんに救ってもらえました」
せつ菜「好きの形が違ったとしても否定しなくて済むのなら」
せつ菜「もう二度と誰かの好きを否定するような自分にはなりたくなかったのに」
せつ菜「告白をされ、断るたびに、相手の人の悲しむ顔を見るたびに」
せつ菜「あの時のかすみさんの悲痛な表情が重なってしまうんです」
せつ菜「あぁ、私はまた誰かの『好き』を否定してるんだって」
せつ菜「否定しながら、見ないふりして、平気で自分の大好きだけを叫ぶんです」 せつ菜「そもそも振った側が被害者面して、何様なんでしょうね…」
せつ菜「本当に泣きたいのは相手の人だというのに」
せつ菜「失礼な話ですよね…自分でも馬鹿な事言ってる自覚はあります」
せつ菜「何と言おうと、結局は断ったことへの罪悪感なんですから」
しずく「そんな、こと…」
しずく(ないとは言えない。安易に分かるだなんて言えない)
しずく(気にしすぎ、考えすぎ、仕方ないことだって言ったって響かない)
しずく(人一倍『好き』の気持ちを大事にするせつ菜さんだからこそ悩んでしまう)
しずく(思っていた以上に、私はせつ菜さんのことを分かってあげられない)
―――歩み寄れば寄るほど気付かされる
―――心の距離は想像以上に遠くて
せつ菜「だからせめて皆の前では笑っていたいんです」
せつ菜「普段通りのスクールアイドル優木せつ菜でいなきゃいけないんです」
しずく(……そんなの寂しいよ)ウルッ
せつ菜「…ごめんなさい。やっぱり困らせてしまいますよね」 この前もしずせつ書いてた人かな?
ハイペースな新作助かる しずく「っ、私のことは構いません!困ってるのはせつ菜さんのほうじゃないですか!」
しずく「でも、無理に聞いておいて、この体たらくで、私のほうこそごめんなさい…」
せつ菜「…しずくさんは本当に優しいんですね」
せつ菜「あなたみたいな人にそこまで想ってもらえるだけでも十分です」
せつ菜「ありがとうございます」ニコッ
しずく「でも…私は何もできなくて…」ウルウル
せつ菜「何もしずくさんまで泣く事ないじゃないですか」ナデナデ
しずく「だって…だって…!」
・・・・・・
女生徒B「…どんまい」ポンポン
女生徒A「…そりゃ、無理だよね…分かってたけど、辛いなぁ…」ポロポロ
女生徒C「…あんたはがんばったよ。帰り、どこか寄って行こ」
女生徒A「…うん」
・・・・・・
しずく(さっき振られた子もきっと友達や家族が慰めてくれるけど)
しずく(一人理解されない悲しみを抱えるせつ菜さんの涙は誰が拭ってくれるの?) ―――何も言えない私と、何も言わずに隣に座るせつ菜さん
―――私が慰めに来たはずなのに、また逆に気を遣わせてしまった
―――どうしよもない虚無感と静寂の中、下校時刻のチャイムが鳴る
せつ菜「…そろそろ帰りましょうか」
しずく「…はい」
せつ菜「もう、そんな気にしないでくださいって!私は大丈夫ですから!」
しずく「……分かりました」
しずく(せつ菜さんはこういう雰囲気になるのが分かってたから隠してたんだよね)
しずく(私、から回ってばっかりだ…)
せつ菜「うーん…あ、そういえば文化祭でやる劇の台本を見せてほしいです!」
しずく「え?」
せつ菜「見せてくれるって約束してくれたじゃないですか!」
しずく「あ、そうでしたね」ゴソゴソ
しずく「どうぞ」スッ
せつ菜「ありがとうございます!」 しずく「持って帰ってゆっくり読んでください」
せつ菜「よろしいんですか?」
しずく「もう頭に入ってますから」
せつ菜「え、これ全部ですか!?」
しずく「え、まぁ…」
せつ菜「すごいです!さすがはしずくさんですね!」
しずく「お、大袈裟ですよ///」
せつ菜「いいえ、謙遜しないでください」
せつ菜「スクールアイドルも演劇もこなせるしずくさんのこと、尊敬してるんですよ?」
しずく「…ありがとうございます///」
せつ菜「えへへ、今夜の楽しみができました!」ペカー
しずく(…ふふ、楽しそう) しずく「せつ菜さんってお芝居には興味ないんですか?」
せつ菜「好きではありますよ。機会があるならやってみたいです」
せつ菜「ただ、やるからには本気でやりたいのですが」
せつ菜「基本スクールアイドルと生徒会がありますから…」
しずく「そうですか…残念です」
しずく「せつ菜さん絶対演劇向いてると思うので…」
せつ菜「そうでしょうか。そう言ってもらえるのは嬉しいですが」
しずく「そうなんです!本当は演劇部に引き込みたいくらいなんですから!」ガシッ
せつ菜「わ、ちょ、落ち着いてください!」
しずく「あっ…///」スッ
せつ菜「…ふふっ、好きなことで熱くなるところ、私たちそっくりですね」
しずく「そうですね///」
――――
―――
―― 翌日・演劇部
しずく「…え…当日出られない?」
演劇部部長「…ごめん。本当に急でどうしようもなくて」
部員A「え、どうするの」
部員B「だって私たち全員役あるから代役はムリだよ」
部員C「中止…?」
演劇部部長「最悪中止になっちゃうけどそれは避けたい」
演劇部部長「今日までのみんなの努力を無駄にしたくない」
部員A「でも…」
演劇部部長「…そこでしずく、代役に当てはない?」
しずく「…え、私ですか?」
演劇部部長「しずくの相手役になるから、まずはしずくに聞きたい」
演劇部部長「あまり本番まで時間がないから難しいと思うけど…」
しずく「……」
しずく「…あります。少し待ってください」
・
・
・ しずく「…もしもし、せつ菜さん?」
せつ菜『はい。どうしました?』
しずく「昨日、台本は読んでもらえました?」
せつ菜『あ、はい!思った通りすごく面白かったです!』
せつ菜『本番も見に行きますからね!』
しずく「…見るのではなく、出てみませんか?」
せつ菜『…え?』
しずく「せつ菜さん言ってましたよね、機会があるならやってみたいって」
せつ菜『…あぁ、昨日の話ですか?それが何か…?』
しずく「お願いがあります。私と一緒に演劇やってほしいです」
せつ菜『…はい?』
しずく「ワケあって1人代役が必要になってしまって」
しずく「せつ菜さんにそれをお願いしたいんです」 せつ菜『なるほど…でも文化祭まで時間があまりありませんが…』
しずく「そこは私も、他の演劇部の皆さんも全力でサポートします」
せつ菜『それなら、少しやってみたいですね』
しずく「本当ですか?よかった…」
せつ菜『ちなみに私の役は?』
しずく「ユウコちゃん役です」
せつ菜『は!?いやいや、超重要な役じゃないですか!!』
せつ菜『やっぱり無理です!そんな大事な役私にはできません!』
しずく「だ、大丈夫ですよ、せつ菜さんならできますよ。私が保証します」
せつ菜『う…いや、それでもちょっと…責任重すぎます…』
しずく「…無理を承知で頼んでます。お願いします」
しずく「私、せつ菜さんと演劇やりたいです」
しずく「誰にでも頼めることじゃないんです。せつ菜さんだから…」
せつ菜『っ…その言い方は、ちょっとズルいです』 せつ菜『そこまで言われたら、私も応えないわけにはいきませんね…』
しずく「…ありがとうございます!」パァ
せつ菜『お芝居に関しては右も左も分からないので、助けてくださいね?』
しずく「もちろんです。任せてください」
しずく「せつ菜さんを完璧な役者に育て上げてみせます!」
せつ菜『あ、あはは、お手柔らかに…』
しずく「とりあえず演劇部の部室に来てもらえますか?」
せつ菜『分かりました。すぐに行きます』
・
・
・
コンコン
ガチャ
せつ菜「失礼します…」ソー
部員「「「え!?優木せつ菜ちゃん!?」」」
せつ菜「えっ」ビクッ 部員A「うそ、本物?」
部員B「せつ菜ちゃんが代役なの?」
ザワザワ
せつ菜「しずくさん!伝えてくれてなかったんですか!?」
しずく「そのほうが皆さん驚くと思って」クスッ
せつ菜「そんなサプライズはいりませんよ!」
演劇部部長「はいはい、みんな落ち着いて」
演劇部部長「優木さん、ごめんなさい。急に無理を頼んでしまって」
せつ菜「いえいえ。むしろ私なんかに務まるか心配ですけど…」
演劇部部長「私たちもできるだけ教えるし、しずくの推薦なら問題ないと思ってるよ」
演劇部部長「とりあえず、一度演技をやってみせてくれる?」
せつ菜「は、はい。えっと、どうしたら…?」
しずく「私が相手になります。このシーンの掛け合い、いけます?」
せつ菜「んん…台本見ながらならなんとか…」
演劇部部長「うん、じゃあ好きなタイミングでどうぞ」 しずく「私はユウコちゃんのことが一番なの!ユウコちゃんは違うの!?」
せつ菜「そんな言い方やめてよ!私だって…!」
せつ菜「私はアユミのことずっと見てたから…知ってるから」
せつ菜「アイドルになりたいって夢を大事にしたくて―――!」
しずく「でも、でも…!私もうどうしたらいいか分からないよ…っ」
せつ菜「…っ」ギュッ
演劇部部長「……」
せつ菜「ど、どうでしょうか…」
演劇部部長「…優木さん、経験者じゃないんだよね?」
せつ菜「は、はい」
演劇部部長「正直驚いてる。想像以上の演技力だよ」
せつ菜「本当ですか?よかったです!」
しずく「……♪」フフン
演劇部部長「なんでしずくが誇らしげなの?」 しずく「でもさすがせつ菜さんです、信じてました!」ダキッ
せつ菜「!?///」
しずく「やっぱり私の目に狂いはありませんでした!」ギュッ
せつ菜「…あの、ちょっと、近いです///」
演劇部部長「やたら仲いいね。息合ってたし実は二人で練習してたんじゃないの?」
しずく「…そういうわけじゃないんですけど」チラッ
せつ菜「あはは…まぁいろいろと」チラッ
しずく(息合ってる、か…ちょっと嬉しいな…)
しずく(少しはせつ菜さんに近づけた気がして)
演劇部部長「まぁこれなら安心して任せられるね」
演劇部部長「細かいところをこれから一緒に詰めていこっか」
せつ菜「はい!がんばります!」
――――
―――
―― 本番前日
せつ菜「部長さん、ここは…で、あってますか?」
演劇部部長「んー、そうだね…」
しずく(いよいよ明日。あっという間だったな…)
しずく(正直、部長から代役の話が出たときはチャンスだと思っちゃった)
しずく(演劇をやってみたいというせつ菜さんのこともあったし)
しずく(何よりせつ菜さんが心配で傍に居たいと思う私)
しずく(結局何かできるわけではなかったけど)
しずく(目の届く範囲にいて、笑ってくれている姿を見て安心する)
しずく(なんだかせつ菜さんを独り占めしたいみたい…私、へんなの)
演劇部部長「しずく」
しずく「…あ、はい?」
演劇部部長「最後に軽く合わせておしまいにしよう」
・
・
・ 演劇部部長「それじゃあお疲れ様」
せつ菜「お疲れ様です!」
演劇部部長「主役2人の打ち合わせは任せるけど、早めに帰って休んでね」
しずく「はい」
ガチャ
バタン
せつ菜「はぁー…」
しずく「お疲れ様です。…もう、明日ですね」
せつ菜「はい!大変でしたけどあっという間でした!」
せつ菜「役になりきるってすごく楽しいですね!」
しずく「…余計に演劇部に引き込みたくなりました。どうですか?」
せつ菜「あはは。何度言われても無理ですよ?」
しずく「…ねぇせつ菜さん、お願いします…♡」ピトッ
せつ菜「!?///」 しずく「せつ菜さんのこと、私にください♡」
せつ菜「―――っ…へ、変な雰囲気出さないでください!///」
しずく「なんのことでしょう?私は普通にお願いしてるだけですよ」
せつ菜「…ほんと、しずくさんって時々そういうところありますよね」
しずく「せつ菜さん、キスシーンだけすごく苦手そうだったので」
しずく「落とすならこれしかないと思いまして♪」
せつ菜「フリと分かっていても、あんなに顔近づけると流石に…」
しずく「逆によく平気ですね…」
しずく「動きとして小さいのもありますが、この話の大事なシーンですからね」
しずく「お客さんもフリなのはもちろん承知でしょうけど」
しずく「本当にしてるように見せるのが役目ですから」
せつ菜「そうですね…未だに慣れてませんが、なんとか頑張ります」 >>58
すみません訂正
しずく「逆によく平気ですね…」
↓
せつ菜「逆によく平気ですね…」 せつ菜「ふぅ…喉乾いちゃいました」
ゴクゴク
しずく「あっ…」
せつ菜「?」
しずく「そっち、私の飲みかけ…」
せつ菜「ぶっ!!///」ビチャッ
しずく「きゃっ」
せつ菜「けほっ、す、すみません!かかってませんか!?」
しずく「い、いえ、私は大丈夫です。変な事言ってすみません」
しずく「せつ菜さんこそ大丈夫ですか?」
せつ菜「…っ///、大丈夫です、何か拭くもの持ってきます!」
ダッ
しずく「あ、はい…」
バタン しずく(…鞄とか濡れてないかな)
―――とりあえず机の上を軽く確認し、拭きやすいように物をどける
―――せつ菜さんの鞄を持とうとして手が滑り、落としてしまう
―――筆記用具や教科書が軽く散らばる
しずく(あ、しまった。拾わないと…)
しずく(あれ、これ…)ドキッ
―――教科書の下に隠れて落ちていた生徒手帳
―――その隙間から軽くはみ出る小さな写真
しずく(…私の…顔写真…)ドクン、ドクン
―――生徒手帳に想い人の写真を挟んでおくと成就する
―――ひっそりと噂される、そんな恋のおまじない
しずく(嘘…せつ菜さんが、私の事を…?)バクン、バクン ガチャ
しずく「!!」
せつ菜「持ってきまs―――ぇ」バサッ
―――雑巾を落とし固まるせつ菜さん
―――生徒手帳を持って固まる私
せつ菜「…中、見ました?」
しずく「…あ、あの!これは…!」
せつ菜「―――っ」バッ
―――素早く私から手帳を奪い、鞄を引ったくり走り去る
―――声をかけることも追いかけることもできない
―――私は何度、せつ菜さんの心に土足で踏み込むんだろう
―――やることすべてが裏目に出る しずく(よりによって恋の話の演劇で、その相手は私)
しずく(…せつ菜さん、どういう気持ちでこの役を演じてたんだろう)
・・・・・・
しずく「お願い、あなたの事が欲しいの…今だけでいいの」ズイッ
せつ菜「いや―――!///」バッ
しずく「…もう、そろそろ慣れてもらえませんか?」
せつ菜「…ご、ごめんなさい…///」
・・・・・・
しずく(あれはただ恥ずかしいだけじゃなくて)
しずく(自分の気持ちを必死に抑えて…)
・・・・・・
せつ菜「だからせめて皆の前では笑っていたいんです」
せつ菜「普段通りのスクールアイドル優木せつ菜でいなきゃいけないんです」
・・・・・・
しずく(私の前では本心を我慢しないでほしかったのに)
しずく(一番我慢させてたのは私で…) しずく(知らなかったとはいえ、たまたまとはいえ、急にせつ菜さんに近づいて)
しずく(結果、せつ菜さんが全く望まない形での本人への露呈)
・・・・・・
せつ菜「否定しながら、見ないふりして、平気で自分の大好きだけを叫ぶんです」
・・・・・・
しずく(もしかして、そういうことだったの?)
しずく(あの話の真の理由は…自分の特別な『好き』だけを貫くことが許せなくて)
しずく(自分の気持ちを諦めようとして、泣いてたの?)
しずく(…なに、それ…)
―――やっと、本当の心に届いたと思ったのに
―――今度こそ、私にできることは何もなくなった
――――
―――
―― 劇当日・講堂
「うわ、人埋まってる…」
「緊張してきたね」
「なんとかなるっしょ。練習通りやるだけだよ」
しずく「……」
せつ菜「……」
しずく「…あの」
せつ菜「昨日はごめんなさい。急に逃げたりして」
せつ菜「できれば、今だけでも忘れてください」
しずく「…」
せつ菜「とりあえず、今日の演劇のことだけ考えましょう!」
しずく「…はい」
・
・
・ しずく「―――そんなことどうだっていいの!」
しずく「私は、あなたと一緒に居られないならアイドルなんて―――!」
せつ菜「…ダメだよ。アイドルの話をするアユミの顔は凄くキラキラしてた」
せつ菜「アレが嘘なわけない。私はアユミと、アユミのファンを裏切れない」
しずく「私はユウコちゃんのことが一番なの!ユウコちゃんは違うの!?」
せつ菜「そんな言い方やめてよ!私だって…!」
せつ菜「私はアユミのことずっと見てたから…知ってるから」
せつ菜「アイドルになりたいって夢を大事にしたくて―――!」
しずく「でも、でも…!私もうどうしたらいいか分からないよ…っ」
せつ菜「…っ」ギュッ
しずく「お願い、あなたの事が欲しいの…今だけでいいの」スッ
せつ菜「アユミ……」
しずく(……)グッ
―――ここでキス、のフリ。顔を近づける
―――観客には見えないけれど、触れ合いそうなくらい近づけて… せつ菜「…っ」ポロ…
しずく「―――!」
・・・・・・
演劇部部長「ここで優木さんが涙を流せたら、文句無しなんだけどなぁ」
せつ菜「すみません、流石に泣く演技はできません…」
しずく「まぁまぁ、そこは仕方ないですよ部長」
演劇部部長「あはは、冗談だよ。そこまで求めちゃ酷だよね」
・・・・・・
―――この涙は本物だ
―――私が見たくなくて
―――私が拭ってあげたかった涙
―――それを、私が流させてる
―――お願い、もう一秒だって見たくないの
しずく「ごめんなさい―――」ボソッ
せつ菜「ぇ―――んっ!?」
―――きっと間違ってる
―――でも、触れ合ってはいけないわずかな距離さえ
―――私には我慢できなかった ―――客席からは影になって見えないと思う
―――舞台袖の部員の皆さんには見えてたかもしれない
―――でももうそんなこと考えられる余裕はなかった
せつ菜「ぁ…なんで…」ポロポロ
しずく「ごめんなさい…ごめんなさい…」ギュッ
せつ菜「私の気持ち、知ってるくせに…っ」グスッ
―――そこまで言った後、涙を止め、表情を整え、役に戻る
―――私はただ、せつ菜さんの心をぐちゃぐちゃにかき乱しただけ…
せつ菜「…今日だけ、だからね。こんなの…」
しずく「ごめん…ごめんね…わがまま言って…」
せつ菜「…でも、嬉しかったよ。アユミ、私も好き…」
「ほんとに泣いてる…こっちまでもらい泣きしそう」
「キス、本当にしてたように見えちゃった…なんかドキドキしたね」
「流石にフリでしょ…フリだよね?」
――――
―――
―― 数日後・演劇部
しずく「…」ボー
演劇部部長「しずく」
しずく「…」
演劇部部長「しずくってば」
しずく「あ、はい、なんでしょう」
演劇部部長「…いや、最近毎日こっち来てるけど、同好会はいいの?」
しずく「…大丈夫ですよ」
演劇部部長「…はぁ。大丈夫なら大丈夫そうな顔して言ってくれる?」
しずく「……」
演劇部部長「優木さんと何かあったんでしょ?」
しずく「え…なんでそれを…」
演劇部部長「他の子から聞いたよ。なんか劇終わった後2人とも様子が変だったって」
しずく「…」 演劇部部長「…あと、普通に演劇部員としてダメ」
しずく「えっ」
演劇部部長「文化祭前のしずくはどこいっちゃったのよ」
演劇部部長「今のしずくの演技よりそこらの人のほうが気持ち入ってるよ」
演劇部部長「何させても心ここにあらず、って感じ」
しずく「…すみません」
演劇部部長「だから、しばらくこっち来るの禁止」
演劇部部長「そっちの事情解決してきなよ。いつまでもこのままじゃよくないでしょ?」
しずく「…そうですね…すみません、行ってきます」スッ
ガチャ
バタン
演劇部部長「ふぅ…がんばりなよ…」 同好会部室前
しずく(…ふぅ…よし)
―――それから、せつ菜さんに電話をして
―――まだ学校内に居るとのことだったから部室に残ってもらって
―――覚悟を決めて、扉を開く
ガチャ
しずく「お待たせしました。突然すみません」
せつ菜「いえ…私も、少しお話したかったところです」
しずく「…まずは、本当にごめんなさい」
せつ菜「……」
しずく「手帳の件はわざとではなかったんです…と言っても仕方ないでしょうけど」
しずく「いえ、そんなことはどうでもいいんですよね…」
せつ菜「すみません、もう、単刀直入に聞きます」
せつ菜「どうして、キスしたんですか…?」
せつ菜「泣いている私に、同情、したんですか…?」 しずく「……うまく言葉にできる自信はありませんが、正直に言います」
しずく「私はずっと、初めてせつ菜さんの涙を見た時から」
しずく「あなたの泣き顔は見たくないって思ったんです」
しずく「でもその時はせつ菜さんの気持ちが全然分からなくて」
しずく「こっそり探るような真似をして、無理に近づきました」
しずく「何も分からないけど、せめて傍にいて、涙を拭うくらいできるって思って」
しずく「そうしてあなたの事を知れば知るほど、どうしようもない自分に気が付いて」
しずく「終いには、私があなたを泣かせてしまいました」
しずく「本当にごめんなさい。全部全部、私の勝手な好意の押し付けでした」
しずく「最初は同情だったかもしれません。一人で泣くなんて寂しいじゃないですか」
しずく「でも、これだけは聞いてください」
しずく「―――私は、同情でキスはしません」ギュッ
せつ菜「…!」 しずく「気が付いたらせつ菜さんの事ばかり考えて」
しずく「せつ菜さんが傍に居ないと、心が寂しくて、どうしようもないんです」
しずく「またわがまま言ってすみません。でも、傍に居させてください」
せつ菜「…私は…」
しずく「私はせつ菜さんのように、心を晴れやかにしてあげることはできません」
しずく「でも、一緒に傘に入って止むまで待つくらいは多分、できます」
せつ菜「…やめてください…私にそんな言葉かけて…私は我慢しなきゃいけなくて…」
しずく「なら、私の大好きを否定するんですか?」
せつ菜「っ…なんですかそれ…」
せつ菜「本当に、あなたって人は…ズルいです…酷い人です」
せつ菜「私の大好きな人の『好き』を、否定できるわけないじゃないですか…!」グスッ
しずく(結局最後まで本当の意味で悩みを解決してはあげられなかったかもしれない)
せつ菜「…しずくさん、私も、大好きです」ニコッ
しずく(それでも、この笑顔を守れるのは私だけ、なんて、自惚れかな…?)
――――
―――
―― 後日・演劇部
バタン!
しずく「部長!」
せつ菜「部長さん!!」
演劇部部長「うわ、何?びっくりした」
しずく「何?じゃありません!」
せつ菜「なんですかこの台本!!!」バシン!
『刹那に伝う涙の雫』
演劇部部長「最近、なんかいい話思いついちゃって。これがどうかした?」
しずく「とぼけないでください!これ、私たちのことですよね!?」
演劇部部長「え?どうかなぁ」
せつ菜「白々しいですよ!!役名が雪菜と雫って、隠す気ゼロじゃないですか!!」
せつ菜「おかしいと思ったんですよ!大体この間の劇も、侑さんと歩夢さんモチーフで!」
演劇部部長「しずくがよく言うからさ。スクールアイドルは演劇の勉強になるって」
演劇部部長「だからあなたたちのこと見てたら、なんともドラマ性のある日常だったから」
しずく「部長…あなたって人は…」 演劇部部長「その劇やってみたくない?」
しずく「やりませんよ!冗談言わないでくださいっ」
演劇部部長「えぇ、適任なのにな…配役そのままいけるよ?」
せつ菜「そりゃあ私たちの話ですからね!!!」
演劇部部長「なんなら、もう1回人前でキスできるチャンスだよ?」
しずく・せつ菜「!?!?」
せつ菜「な…え…?」
演劇部部長「他のお客さんは分からなかったみたいだけどね」
しずく「なんで…部長、当日来られないって…」
演劇部部長「…嘘♪」
せつ菜「〜〜〜〜〜っ///」
しずく「もう、部長!!///」
演劇部部長「いやあ、あの熱いシーンもう1回みたいなぁ。やってくれない?」
せつ菜・しずく「「お断りします!!!」」
おわり トキメキをありがとう、本当にありがとう…
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