千砂都「フルカウント」
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幼い頃からずっと大切な人がいた。
前に踏み出す勇気をくれて、いつも私を支えてくれた人。
いつも傍にいてくれた人、私にとって憧れの存在だった人。
それはまるで、物語に出てくるヒーローのようで────
もしかしたら、その時から既に惹かれていたのかもしれない。
そう……だから私は、いつか彼女の隣に立てることを夢見ていた。
彼女に胸を張れる私であれるように、彼女の力になれる私であれるようにと。
やがて来るべきその日のために、何一つ後悔をしないように。
…………
そして、遂に迎えたその日
彼女は自分を取り戻した。
苦難や挫折を味わい、それでも纏わりつく恐怖を振り切ったその姿は
あの時よりも一層、光り輝いて見えた。
ああ……これだ
これが私の知っている、本当の────
でも
その隣に私はいなかった
そう、たったそれだけの話なんだ。
─
かのん「えーと、確かこの辺りだったと思うんだけど……」
千砂都「ねえかのんちゃん、あそこに見えるのがそうじゃないかな? ほら、海の家」
かのん「本当だ、じゃあきっとあの中に……」
かのん「あっ、いたいた。可可ちゃーん!」
可可「かのん! 来マシタネ!」
かのん「うん、お待たせ」
可可「ククは全然平気デス!」 可可「それより、チサトとはどうでしたか?」
かのん「すっごく楽しかったよ! ね、ちぃちゃん」
千砂都「そうだね。私も色々とスッキリしたし」
千砂都「なんか満喫したー!って感じ」
かのん「あははっ、まだ初日だよ?」
可可「でも、それは良かったデス」
かのん「だね。可可ちゃんはずっとここにいたの?」
可可「いえ、ここに来たのは30分くらい前デスかね。それまではホテルの部屋ですみれと」 かのん「すみれちゃんは一緒に来なかったんだ?」
可可「少し休みたかったみたいでベッドに籠りマシタネ」
千砂都「……疲れてた、とか?」
可可「これからに向けて英気を養うと。すみれはすみれでラブライブのことを本気で考えてるみたいなので」
かのん「なんか嬉しそうだね可可ちゃん」
可可「べっ、別に嬉しくはないデス!」
かのん「はいはい、でもどうしてラブライブの話に?」
可可「それは……エト……」チラッ
千砂都「?」
かのん(! 多分あの話かな) 千砂都「…あーっと、もしかして私お邪魔な感じだったりする?」
可可「いえ! 決してそういうつもりでは……!」
千砂都「いいよいいよ、あんまり人に言えないことなんだよね? きっと」
かのん「うん、ちょっと大事な話というか……」
千砂都(大事な話、でもすみれちゃんもそれを知っていて……っていうことは)
千砂都(もしかしたらだけど、今すみれちゃんは……)
千砂都「わかった! そういうことなら私はこの辺で外させてもらうよ」
千砂都「積もる話もあるみたいだしね」
可可「すみませんチサト……」
千砂都「気にしないで、私は何か用事でも探してくるからさ」 可可「ん? 用事といえば……ついさっきまでレンレンがこちらに来てマシタネ」
千砂都「!」
かのん「恋ちゃんが?」
可可「ハイ、何やら用事を思い出したと言ってホテルに戻りマシタが」
千砂都「ホテル……」
可可「当てがないのならレンレンのところへ行ってみては?」
千砂都「うん、そうするよ。教えてくれてありがとね可可ちゃん」
可可「イエイエ」
千砂都「それじゃ二人ともまたね! ごゆっくりー」タッタッタ かのん「……なんか悪いことしちゃったね」
可可「デスね、後でなにか埋め合わせでもしましょうか」
かのん「うん。ねえ可可ちゃん、さっき言ってたのって上海に帰るってやつで合ってるよね?」
可可「ええ……かのんにも話したのか、とすみれに聞かれマシテ。それで」
かのん「そっか、すみれちゃんが一番最初に気付いたんだもんね」
可可「……レンレンが言っていマシタ、すみれは誰よりも他人のことを思いやれる人だって」
かのん「それで?」
可可「だから、自惚れてるかもデスが……すみれはきっとククのために、あんなことを言ったのかもと」
かのん「間違ってないと思うよ、だってすみれちゃん可可ちゃんのこと大好きだし」
可可「なっ……!? かのん! いきなり何を言いだすんデスか!!」
かのん「ほら、よく言うでしょ? 喧嘩するほど仲がいいって」 可可「かのんとチサトは喧嘩なんてしないデショウ!?」
かのん「もう、ただの一つの例だってば。全部が全部そうとは言ってないし」
かのん「それに可可ちゃんもすみれちゃんのこと好きでしょ?」
可可「〜〜っ……!」フイッ
かのん「わかりやすいんだから」
可可「知りマセン、かのんなんて嫌いデス」
かのん「そんなこと言わないでってば、ね?」
可可「……」
かのん「ほら、二人で衣装考えようよ。すみれちゃんが可可ちゃんのために頑張ってくれるんならさ」
かのん「可可ちゃんもすみれちゃんのために何かしてあげなくちゃ、あの時みたいに」 可可「……仕方アリマセンネ」
かのん「可可ちゃん、すみれちゃんにだけは素直じゃないんだから」
可可「むっ」
かのん「でも、きっと喜んでくれるよ。大丈夫」
可可「分かってマス。作ると決めた以上絶対に手は抜かないので」
可可「それで不満な顔でもしようものなら張っ倒してヤリマスヨ」
かのん「いやいや物騒すぎるよ!?」
可可「フフッ……あの、かのん」
かのん「ん、なに?」
可可「ありがとうございます。謝謝」
かのん「どういたしまして。それに、お互い様だからさ」
可可「お互いさま? ……あぁ、まだ続いていマスもんね。あの約束」 かのん「うん。だから困らせてるかもしれないけど」
かのん「でも私は……いつか本当に終わらせられる日が来るって信じてる……ううん、信じたいから」
可可「待ちマスヨ、いくらだって」
かのん「本当にごめんね可可ちゃん」
可可「謝る必要なんてないデス、このくらい私も承知の上なので」
かのん「…私、ひどい女だよね」
可可「ハイ、ひでー女デス」
かのん「うっ……分かっててもそんなハッキリ、しかも即答されると結構刺さるなあ……」アハハ
可可「でも、惚れた弱みデスカラ」
かのん「……」
可可「何か?」
かのん「ううん、かっこいいなあって」
可可「それはドウモ」 すみれ「…………」スン
恋「少しは落ち着きましたか?」
すみれ「……ん」
恋「そうですか、何か飲み物でも買ってきます?」
すみれ「……ココア」
恋「わかりました、では一旦離れますね」
ガチャッ
恋「!」
千砂都「あ」
すみれ「恋、どうかしたの? ……って、千砂都じゃない」
恋「別にどうもしていませんよ」
千砂都「…すみれちゃんの顔見て、どうもしてないとは思えないけど」
すみれ「やってきて早々あんたたちねえ……」 すみれ「はあ……それに、まさか千砂都からそんな言葉を吐かれるなんてね」
千砂都「ごめん、今のは流石に言い過ぎだったよね」
すみれ「いいわよ、それだけ酷いってことなんでしょ。今の私が」
千砂都「……」
すみれ「で、何しに来たのよ?」
千砂都「さっき可可ちゃんから話を聞いて、ちょっと思うところがあったから」
千砂都「心配で、一応行ってみようかなって」
すみれ「それだけ?」
千砂都「それだけ」
すみれ「そう」 すみれ「…………」
千砂都「すみれちゃん?」
すみれ「はぁーっ、あんたら揃いも揃って似たような理由でまあ」
千砂都「えっ」
恋「……」
すみれ「ほんと、変に気が合ってるっていうか」
すみれ「なんでそこ無駄に被るのよって、お互い敬遠してるくせに」
千砂都「いや、それはただの偶然だし」
恋「まあ私は千砂都さんよりも来るのが早かったので、指摘するならそちらの方ですがね」
千砂都「難癖だよねそれ、たまたま似通っただけで変な言いがかりつけられても」
すみれ「あーはいはい、茶化した私が悪かったから、そのあたりで止めておきなさい」 すみれ「あと、恋もいつまでも棒立ちしてないで早く行きなさいな」
恋「ええ、そうですね」
千砂都「何、また用事?」
恋「飲み物を取りに少々、千砂都さんもいりますか?」
千砂都「じゃあ、い……アップルティーで」
恋「アップルティーですね、わかりました」
千砂都「それと、はいこれ。お金は私が負担するから」チャリ
恋「宜しいんですか?」
千砂都「いいよ。恋ちゃんだけに全部任せるの、なんかばつが悪いし」
恋「私のことを嫌ってる割には、お優しいんですね」
千砂都「弁えてるってだけだから。誤解しないで」
恋「知ってますよ、ちょっと言ってみただけです」
千砂都「……もう行けば?」
恋「はい、そうさせてもらいます」 千砂都「なんでいつもああなのかな、あの人」
すみれ「…さあねえ、私にはなんとも」
千砂都「ストレス発散とかかな? いつも忙しそうだし」
千砂都「まあそれで私に突っかかっても、いい迷惑なんだけど」
すみれ「だから知らないってば、あとそれ割とブーメラン入ってるからね?」
すみれ「ついでにあんたが愚痴ってるのも本末転倒というか」
千砂都「う、ごめん……つい」
すみれ「良くも悪くも恋が関わると途端に饒舌になるんだから」
すみれ「いつもは大人しいのに、恋に何か言われただけですぐムキになるのもそう」
すみれ「千砂都は恋のこと意識しすぎなのよ」 千砂都「そんなことっ、それに何もそこまで言わなくったって」
すみれ「でもまあ、そうね」
千砂都「?」
すみれ「私は、今の千砂都のほうが前よりずっと好感持てるわ。親近感っていうの?」
すみれ「なーんか可愛げあるって思っちゃうのよね」
千砂都「……なにそれ」
すみれ「冗談で言ってるつもりはないんだけど……まあいいわ」
すみれ「いい加減に本題に戻りましょうか、あなたもその為に来たんでしょ?」
千砂都「うん。でも別に何があったのか知りたくて来たわけじゃないよ」
千砂都「ただ我慢するのはよくないって思ったから、放ってもおけないし」 すみれ「…………」ポカン
千砂都「え、何その顔。私そんなに変なこと言ってた?」
すみれ「……くっ、ふふっ……あーやばい、なんかツボりそう」
すみれ「あんたたちほんっと、どーなってんのよ……」
千砂都「……ねえ、もしかしてまた恋ちゃんがどうとかの話じゃないよね?」
すみれ「違うわよ、違うから黙って聞きなさいって」
すみれ「今あなたたちのおかげで大分リラックス出来てるんだから、私」
千砂都「……あ、そう。それはまた面倒だね」
すみれ「お気遣いどうも」
千砂都「別に、お構いなく」 すみれ「────とまあ、こういうことがあったわけ」
千砂都「恋ちゃん、そんなこと言ったんだ」
すみれ「なに、信じられない?」
千砂都「そうは言ってないけど」
すみれ「認めたくないっていうんでしょ、なかなか割り切れないものねそういうのって」
千砂都「違うよ」
すみれ「え?」
千砂都「無駄に想像できちゃうから、嫌なの」
千砂都「それに、私もその場にいたらきっと同じことを……恋ちゃんと似たような言葉をすみれちゃんに言ったような気がして」
千砂都「それこそ、さっきすみれちゃんが私たちに言ってたみたいにさ」 すみれ「…私の知ってる千砂都なら、そうかもね」
千砂都「そうやって自分といちいち重なるのに寒気がして、嫌悪感っていうのかな」
すみれ「……」
千砂都「あとは……」
すみれ「まだ何かあるの?」
千砂都「イライラするんだよね、露骨すぎて」
千砂都「私以外には良い人でいようとするところとかさ、前から分かっていたことだけど」
千砂都「まさかすみれちゃんにまでそうだとは思わなかった」 千砂都「なんで私にだけそこまで優しくしないのかは謎だけどね」
すみれ「……ねえ千砂都、それって」
千砂都「どうしたの?」
すみれ「……いや、ごめん。やっぱりなんでもないわ」
すみれ「私の思い違いかもしれないし」
すみれ(今ここで言うのもね)
千砂都「ふーん、ならいいけど……ていうかごめんね、また私ばっかり」
すみれ「そんなの気にしてないわよ」
千砂都「でもさ」
すみれ「どーせあんたも人に言ってないだけで色々抱え込んでるんでしょ?」
千砂都「…それなりには」 すみれ「急に素直になったわね」
千砂都「すみれちゃん何でもお見通しみたいだし、誤魔化すだけ時間の無駄かなって」
すみれ「……まあ、分かっていたところで」
すみれ「私が気持ちを汲めるのには限度があるっていうね」
すみれ「だから多少後ろめたい気持ちもあるわよ?」
千砂都「なんで?」
すみれ「それだけ知っていても、千砂都の味方をすることは私には出来ないから」
すみれ「今日のことではっきりしたけど、どうやら私は恋派みたい」
千砂都「……そっか」
すみれ「そんな顔しないでよ、罪悪感すごいわ」 千砂都「前に言ってたもんね、恋ちゃんに助けられたからって」
すみれ「よく覚えてるわね」
千砂都「生徒会に入ったのも、それが理由?」
すみれ「いいえ、その逆」
千砂都「逆?」
すみれ「生徒会に入ったから救われたの」
千砂都「今の発言だけ聞くとまるで宗教みたいだけど」
すみれ「失礼ね、そんなんじゃないわよ」
千砂都「冗談だって」 すみれ「…私、今年のバレンタインの日にたまたま可可とかのんが一緒にいるところ見ちゃってさ」
千砂都「! やっぱりそうだったんだ」
すみれ「その口ぶりだと、千砂都もそうみたいね」
すみれ(まあ知ってたけど)
すみれ「全く、酷い偶然もあったものだわ。ねえ千砂都」
千砂都「……うん」
すみれ「でも正直あれ以上見てられないから、途中で飛び出したのよね。で、家に帰った後は一晩中泣いてた」
千砂都「……」
すみれ「その翌日のことよ、恋に誘われたのは」 すみれ「泣いて疲れて、ベッドで眠って夜が明けて。それで少しはスッキリしたんだけど」
すみれ「でもやっぱり誰かに聞いてほしくて、それで恋のところへ駆け込んだ」
すみれ「理由は、消去法って言えば大体察してくれるでしょ?」
千砂都「……うん、わかるよ」
千砂都(私もそうだったし)
すみれ「あの子も大概苦労人よね。急に押しかけてきたかと思えば」
すみれ「恋愛関係の妬みやら僻みやらを聞かされるんだから」
すみれ(それも二日連続で……今思うと、千砂都とあんなことがあった後に私の話聞いてたのよね)
すみれ「…………」
千砂都「すみれちゃん?」
すみれ「ごめん、ちょっと……続けるわ」 すみれ「私がひとしきり喋った後、恋はね、私に向かってこう言ったのよ」
すみれ「すみれさん、生徒会に入りませんか? ってね」
千砂都「で、入ったの?」
すみれ「まあね。そりゃ確かに最初は、突然何を言い出すのこの子はと思ったけど」
すみれ「私にとってはその一言がすごく有難かったっていうかさ」
千砂都「?」
すみれ「自分で何かするつもりもなくて、でも一人だと余計なことばかり考えて」
すみれ「二人を見ると胸が苦しくなるし、本当……八方塞がりみたいな状況で」
すみれ「そんなときに居場所、というよりは逃げ場所だけど。とにかくその選択肢を私に与えてくれたのが恋なの」 千砂都「じゃあ、一番忙しい会計の役に就いたのも?」
すみれ「能力的に薦められたっていうのもあるけど、一番の理由は気を紛らわしたかったから」
すみれ「体を動かしてる間は余計なこと考えずに済むし、必然的に可可たちと顔を合わせる機会も減る」
すみれ「一応仕事みたいなものだから義務感も生まれるしね、これまでの悩みが全部解消されていいことづくめよ」
すみれ「もし恋に誘われてなかったら、私腐りきってたかもしれないわね」クスッ
千砂都「そんなことがあったんだ……知らなかった」
すみれ「別に隠す気はなかったんだけどね」
すみれ「ただ、話そうと思っても今までの千砂都は聞く耳持たずって感じだったから、言いたくても言えなかったのよ」
千砂都「…今は違うっていうの?」
すみれ「そうねえ、私の感じたまんまを言うから当てにはならないかもしれないけど」 すみれ「今は恋に対してただ憎たらしいだけじゃなくて、なんて言えばいいのかしら……」
すみれ「嫌いだけど気になる、みたいな?」
千砂都「なにそれ、出会ったばかりの可可ちゃんとすみれちゃんじゃないんだから」
すみれ「でも私が言いたいのって割とそんな感じよ?」
すみれ「……あ、そっか。だから放っておけないのかもね、千砂都のこと」
千砂都「いや、私としては余計信じられなくなったんだけど」
すみれ「ふーん。そう……ま、その言葉が"いつか"嘘になることを祈ってるわ」
千砂都「いやに含みのある言い方するね」
すみれ「言ったでしょ? 私は恋派だって。あの子のこと、応援してあげたいのよ」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています