【ホラー風SS】凛「ねえ…こんなウワサ知ってる?」【ラブライブ!怪奇譚】
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花陽「……え?」
花陽(炎天下での練習の合間、日陰でくつろいで気が抜けていたのか、私は唐突に切り出された話題に驚いてしまいました)
花陽(あまりにもびっくりして手に持ってたおにぎりを落としそうに…あぶないあぶない)
花陽「もう、驚かさないでよ」
凛「あはは…かよちんは本当におにぎりが好きなんだね」
凛「凛もひとついっただきまーす!」 花陽「あ、ちょっと!それは」
凛「うん、塩がいい感じに効いててかよちんのおにぎりはおいしいにゃー」
花陽「そ、そうかな…」
凛「で、あくまでもウワサ…なんだけどね」
花陽「その…もしかして、怖い話とかするの?」
凛「え?ダメかにゃ?」
花陽「いや、ダメってわけじゃないけど」 穂乃果「なになにー?穂乃果たちにも聞かせてよ」
海未「穂乃果、『もう限界だー休憩しようよー』とか言っていたのに随分と元気ですね?」
穂乃果「えっと、それはそれだよ!」
海未「ほう…ではとりあえず先ほど失敗したところをおさらいしましょうか」
ことり「まあまあ、こんな熱いんだからもう少し休もうよ」
穂乃果「そーだ!そーだ!水分と休憩は多めにとりなさいって海未ちゃんも言ってたじゃん!」
穂乃果「ってことで、みんなー!集合だよっ!」 真姫「なによ…いきなり集めて怪談?」
にこ「いいんじゃない?ちょっと怪談話で息抜きってのも」
にこ「正直、こんな熱いのに無理して練習して、誰か倒れるなんて方がよっぽど怖いわよ」
絵里「えっと、カイダン…ってあっちよね?怖い話の方よね…」
希「まあ、登り降りする方のではないかな?」
希「…ひょっとしてエリチ…こわいん?」
絵里「怖くはないわよっ!?確認しただけだから!」 穂乃果「みんな集まったみたいだね」
穂乃果「じゃあ、凛ちゃん…どうぞ」
凛「あはは、かよちんだけに話すつもりだったんだけどな…」
凛「だけど、みんなに話すのもそれはそれでいいのかな?」
凛「じゃあ、はじめるね」 凛「あるところにね、仲の良い3人の女の子がいたんだ」
凛「本名はわからないから雪子ちゃん、月子ちゃん、花子ちゃんってことにするね」
凛「どこにいくのも何をするのも一緒、地元でも有名な仲良し三人組だった」
凛「だけどね…ある日、雪子ちゃんと月子ちゃんがひどい喧嘩をしちゃったんだ」
凛「原因は大したことなかった。月子ちゃんから借りていた本を雪子ちゃんが失くしちゃったとか、そんなこと」 ことり「はは…何というか」
穂乃果「身に覚えがありすぎるかな」
海未「私も覚えがあります。穂乃果とは逆の立場でですが」
凛「続けるね、その本は、月子ちゃんがその年の春に亡くなったおばあちゃんからもらったもので、月子ちゃんにとってはとても大切なものだったんだ」
凛「本当なら誰にも貸す気はなかったけど、雪子ちゃんだったら貸してもいいって思って、家から持ってきて貸してあげたんだ」 凛「だから、失くしたって聞いて月子ちゃんはとっても怒った」
凛「しかも、よりにもよって貸してあげたその日に失くしちゃったんだ」
絵里「あらら…」
にこ「それはきついわね…」
凛「雪子ちゃんはお金持ちの家の子でね、無邪気と言えばきこえはいいけど、結構わがままなところもあった…」
凛「月子ちゃんは対照的にまじめというか、融通がきかないとこもある子で、雪子ちゃんのそういう態度に気づかないうちに不満が溜まってたんだろうね」 凛「本を失くしたことだけじゃない、それまでの色々なことを持ち出して雪子ちゃんを激しく責めた…雪子ちゃんなんかともう一緒にいたくない、って怒鳴った」
凛「それを聞いて雪子ちゃんも怒鳴った…たった一冊の本でなんでそこまで言われないといけないんだ、昔のことまで持ちだして、嫌味ったらしい月子ちゃんなんかといるのは嫌だって」
凛「間に入った花子ちゃんもおろおろするばかり、結局その日は3人別々に帰ろうってことになった」
凛「帰るタイミングをずらして、雪子ちゃんが教室を出た30分後に月子ちゃんが教室を出る、そのまた30分後に花子ちゃんが教室を出る、って具合にね」 凛「そうやって三人別々に教室を出て別々に帰る…はずだった」
にこ「はず…だった?」
凛「2番目に出た月子ちゃんと3番目に出た花子ちゃんが下駄箱で出会っちゃったんだ」
凛「とは言っても月子ちゃんと花子ちゃんは喧嘩してるわけじゃないし、出会っちゃったものはしょうがないから雪子ちゃんには内緒で一緒に帰ろうってことになった」
凛「でね、その時に花子ちゃんがふと気づいたんだ…」
凛「雪子ちゃんの下駄箱、靴が入ったままだねって」 凛「花子ちゃんが教室を出る1時間も前に雪子ちゃんは教室を出ているわけで、普通ならもう学校を出ていて靴なんてあるわけないよね」
凛「いつもならおかしいって思って引き返すとかしたかもしれないけど、その時の二人は別のことを考えちゃったんだ」
凛「雪子ちゃんが学校に残ってるとしたら一緒にいるのを見られちゃうかもしれない、そうなったらもっと事態がこじれるんじゃないかって」
凛「だから、二人はそそくさと学校を後にしたんだ」
凛「そして、その日の夜…二人は知ることになった。雪子ちゃんが行方不明になったことを」 真姫「行方不明…」
凛「うん、夜遅くになっても雪子ちゃんが帰ってこないのを心配した雪子ちゃんの両親が学校に連絡したんだ」
凛「そうしたらね、下駄箱に靴はあったけど校内のどこを探しても雪子ちゃんは見つからなかったんだって」
海未「その、靴を履かないで帰ったとかは…」
凛「それも考えて、警察にも協力してもらって探してもらっている…でも見つからないから仲が良かった二人に心当たりがないか聞いた…ってことらしいよ」 穂乃果「で、月子ちゃんと花子ちゃんはどうしたの?」
凛「今日ケンカをした、それで二人で帰ってしまったからそこから先はわからない、ただその時も下駄箱に雪子ちゃんの靴はあった…って答えた」
ことり「ケンカしなければ…ううん、ケンカしたとしてもすぐ仲直りできたら…もしかしたら雪子ちゃんは無事だったかもね」
凛「何日も、何日も、クラスメイトも先生も警察ももいろんな人が雪子ちゃんを探した…でも見つからなかった」
凛「そんな日々が続いてね、もともとまじめだった月子ちゃんはだんだん追い詰められていった」 凛「雪子ちゃんが消えたのは私のせいだって自分を責めるようになって、学校にも行けなくなるくらい弱っていった」
凛「花子ちゃんはそんな月子ちゃんを気丈に支えたんだ」
凛「雪子ちゃんが帰ってこないのは心配だけど、私は月子ちゃんに元気でいてほしいって」
凛「その甲斐もあってね、雪子ちゃんの失踪から半年もしたころには月子ちゃんは回復してまた学校に行けるようになった」
凛「だけどね、それでまた学校に行ったはじめの日、事件が起きたんだ」 凛「久しぶりに学校に来た月子ちゃんが心配だったから花子ちゃんは月子ちゃんにつきっきりで1日を過ごした」
凛「でね、放課後になって、二人で廊下を歩いてた時に月子ちゃんがおかしなことを言い出したんだ」
凛「…雪子ちゃんの声が聞こえるって」
凛「…雪子ちゃんの声がだんだん近づいてきてるって」
凛「花子ちゃんは月子ちゃんを宥めたよ。そんなの聞こえない、気のせいだって…だけど、そんなの関係なかったんだろうね」
凛「月子ちゃんは一目散に逃げ出したんだ」
凛「あっけに取られた花子ちゃんを置いて、とにかく声のする方とは逆へ逃げようとした」 凛「逃げているのに声は聞こえ続けた、まるで月子ちゃんを追いかけているかのようだった」
凛「月子ちゃんは必死に逃げたんだ、声とは逆へ、逆へと」
凛「でも、逃げきれなかった…足がもつれて転んで、それで見ちゃったんだよ」
海未「…見たって…何をですか?」
凛「とても、大きくて黒い影…転んだ月子ちゃんを見て嬉しそうに大きな口を開いた…怪異の姿」 凛「月子ちゃんは確信したんだ。『ああ、そうか雪子ちゃんは…こいつに食べられたから消えちゃったんだ』って」
凛「私も…雪子ちゃんみたいにこいつに食べられちゃうんだって」
にこ「はは…詰んだわね」
真姫「せっかく学校に行けるようになったのに、追いかけ回された上に食べられるとか…なによそれ…」
凛「でもね、その月子ちゃんは3日後に見つかったんだ」
真姫「見つかったの?…まあ良かったじゃない」
凛「真姫ちゃん、話はまだ終わってないんだよ」 凛「月子ちゃんが見つかったって聞いて、花子ちゃんはとても喜んだんだ」
凛「でもね、よろこんで駆けつけた友達を見て、月子ちゃんは言ったんだ…」
凛「『あなた誰』って…」
真姫「え……」
凛「月子ちゃんは見つかった、理由はわからないけど助かった…でもね…食べられちゃったんだ」
凛「…記憶をね」
真姫「ちょっと…」 凛「月子ちゃんはね、家族のことも学校のこともわからなくなっちゃってたんだよ」
花陽「記憶喪失…?」
真姫「そ、そうよ!あれでしょ?過度なストレスからくる一時的な健忘ってやつ!」
凛「………」
真姫「な……なによ」 凛「……ぷっ」
凛「あはははははっ、真姫ちゃんこわがり過ぎにゃ!」
花陽「凛ちゃん…あんまり真姫ちゃんをからかっちゃだめだよ…」
凛「ごめんごめん。でね、仲良し三人組のお話はいろんな意味でここでおしまいチャンチャン…というわけにゃ」
凛「…どう怖がってもらえた?」 穂乃果「…………」
花陽(えっと、みんな、黙ってしまってます…)
穂乃果「う、うん!なんか…軽い気持ちで聞いたことを後悔するくらいには…」
ことり「…しばらくは一人で廊下を歩けそうにないかな…」
海未「そ、そうですね…まさか凛にこのような一面があるとは…」
海未「…練習…再開しましょうか」
にこ「そうね!真姫のためにもそろそろ練習にしましょう!」
穂乃果「そ、そうだね、練習再開だよ」 真姫「何よ!みんな怖がってたじゃない!」
ことり「凛ちゃん、こういう話好きなの?」
絵里「ま…まあ凛の意外な一面を見れたわね」
凛「いやーはは、照れるにゃ」
凛「で、せっかくみんなに話したってことで、練習をはじめる前にちょっと提案なんだけど」
凛「今日練習の後に行ってみない?この話のモデルになった学校に」 穂乃果「えと、はは…」
海未「それは…ふざけているのですか?凛」
希「……ウチはやってもいいと思うよ」
にこ「あら?希はこういうの反対すると思ったけど」
希「いやー、ウチも肝試しは楽しむ方でね」
希「ただ、やっぱり何かあったら不安だから準備はしときたいし…いきなり今日はウチがダメそうなんよ」
希「またみんなの予定が合う時にってことでどうかな?」 真姫「そ、そうよね…まあ幽霊とか信じてるわけじゃないけど、そういうのは希がいる時にしましょう」
希「ウチもなるべく合わせられるようにするし、明日とかでも遅くはないでしょ?」
凛「まあ…多分大丈夫かな…」
希「じゃあ、この話はまた後にして今は練習しようか」
凛「そうだね…」
凛「……」
希「おやー?凛ちゃんパワーが不足してるみたいやん?」
凛「え?」 希「これはウチのわしわしで希パワーをたっぷり注入した方がいいかな〜?」
凛「え?わしわし!!?やめてやめにゃああああ!!」
花陽(…ちょっと長めの休憩を挟んで練習再開です)
花陽(さっきの話を忘れるためか、みんな練習に集中しようとしていました)
凛「ようし!いっくにゃー!」
穂乃果「おお!凛ちゃんいつもよりキレがいいね」
花陽(はは…その原因さんは元気だなー)
花陽(そうこうしている間に練習も終わり、帰ることになりました) 〜帰り道〜
凛「んー!!やっぱり体動かすのはいいね」
凛「もっともーっと踊りたいよ」
花陽「私は付いていくのでやっとだよ…」
凛「ねえ…かよちん…」
花陽「何?」
凛「希ちゃんは後でって言ってたけどさ、今日行ってみない?さっきの話の学校」 花陽「行くって、私たちだけで?」
凛「だめ…かな?」
花陽「え…それは…」
「やめときなさい」
真姫「…まったく、見張ってて正解だったわ」
凛「真姫ちゃん」
真姫「凛、あなたどれだけその学校に行きたいのよ…」 真姫「もう一度言うけど、やめときなさい。二人だけでそんなところに行くなんて」
凛「…………」
真姫「……一つだけ聞いていい?もしかしてだけど、どうしても急がないといけない理由があるんじゃない?」
凛「それは…」
真姫「凛…」
花陽(しばらく黙っていましたが、首を縦に振る…それだけで答えとしては十分でした)
真姫「やっぱりね」 凛「ごめん、あの時は明日でも大丈夫だと思ったけど、あんまり時間がなさそうなんだ」
真姫「どうして急がないといけないのかとか、私たちにどうしてほしいかとか、そういうのを言ってほしいところなんだけど」
凛「それは言えないんだ。ごめん…」
真姫「…まあいいわ、急がないといけないんでしょ?それが聞ければオーケー」
凛「え?」 真姫「みんな、って言っても希が来れるかわからないけど…とにかく来れる人だけでも集めるわよ。それでいい?」
真姫「花陽と、あともちろん凛も協力してちょうだい」
真姫「こういう時こそ、μ'sの出番でしょ?」
花陽(私たちで手分けして連絡して、急な話でしたが2年生3人と絵里ちゃんとにこちゃんは至急で来てくれることになりました)
花陽(希ちゃんも都合がつき次第こちらに向かってくれるそうです)
花陽(私たちも各自準備をして昼間の話の舞台と言われている学校の前に集合です) 〜都内某所〜
花陽「ここがあの話に出ていた」
真姫「学校?……まあ、学校ね」
花陽(学校、と話では表現されていましたが…私たちが見たそれはもうところどころボロボロになっていました)
海未「廃校舎、というやつでしょうか?」
絵里「調べてみたら学校の場所が移転して、建物が取り壊されずに放置されていたらしいわね」 凛「ネットで調べればなんでもわかるなんて便利だにゃ〜」
真姫「こんな時まで煽ってるなんて余裕ね」
ことり「本当にここに入るの?」
にこ「思ったより本格的ね…」
穂乃果「懐中電灯とか塩とかひとまず揃えてきたし、大丈夫だよ…多分」
♪ダーカラネアゲルヨゲンキ
花陽「あれ?希ちゃんからだ」 希『花陽ちゃん、えっと…まだ誰も例の学校には入ってないよね?』
花陽「うん、集まってはいるけどまだ入ってないよ」
希『そっか、行こうとは思うんやけどまだ少し時間がかかりそうなんよね』
花陽「もともと今日はダメって話だったのに…ごめん」
希『はは…いきなりで驚いたけど、ウチも早いとこなんとかしなきゃって思ってたし、いいよ』
希『あ、そうだ!スピーカー通話にしてもらってもいい?みんなで話しておきたいことがあるから』
花陽「あ、うん」 花陽(通話をスピーカーにして、みんなに聞こえるところへ置きます)
希『ごめんね、まだ用事が片付きそうになくて…』
真姫「別に謝ることじゃないわ。無理矢理来させようとしてるわけだし、そこに対して責める人はいないでしょ?…ただ…」
希『うん、時間があんまりないって話だったよね』
希『えーっと、凛ちゃんちょっといいかな?』
凛「……いいよ」 希『ウチらは凛ちゃんの頼みとあれば力になってあげたい、それがどんなことでもね』
希『だから、今話せる範囲でいいから…ウチらに凛ちゃんの抱えてるものを話してくれないかな?』
花陽(希ちゃんの言葉に、私たちはうなづきました)
凛「……わかった。全部は話せないけど、なるべく隠さずに話すよ」
凛「凛のお願いはね…本を探してほしいんだ」 花陽「本?」
凛「ほら、あの話にあったでしょ?"雪子ちゃんが月子ちゃんに借りていた本"ってのが」
にこ「ああ…失くしてケンカの原因になったやつ?」
凛「うん、それを探してほしいんだ」
凛「今日の昼にしたあの話はね、凛がとある人から聞いたんだ」
凛「その人に頼まれたんだよ。話に出てくる本を探してほしいって」 凛「貸したその日に学校で失くしたんだとしたらあるのは学校のはずだよね、だから学校を探せばあるんじゃないかなって凛は思ったんだ」
穂乃果「えっと、なんでその人はその本を探したいの?というか、その人ってのは誰なの?」
凛「それは…ごめん、あんまり詳しくは言えないんだ」
凛「ただ、その本はその人にとっては命に代えてでも探したい大事なもので、その人は凛にとって大切な人なんだよ」
凛「それでね…探せる時間はもうあんまりない」 ことり「時間がないのはわかったけど、なんで時間がないの?」
絵里「それについては、私の方で心当たりがあるわ」
絵里「さっき調べてわかったけど、この校舎はもうすぐ取り壊されるらしいのよ」
にこ「あー、それだと探しづらいからってこと?」
凛「急にこんなこと言って混乱させちゃうよね?」
凛「こうやって集まってくれたからには事情とか全部話して協力してもらわないといけないってわかるんだけど…それはできないんだ」
花陽(核心はまだもやもやとした、ちゃんとしたお願いとは程遠い内容です…ですが、それが精一杯のお願いであることはこの場の誰もがわかっていました) 希『もうすぐ壊される校舎にあるかもしれない本を探してほしい、それを頼んできた人がいる、なるほど…』
希『まだまだ話してもらいたいことが無いわけじゃないけど、あんまりそこを掘り下げない方がいいのかなって気もするし…話せないって事情はわかったよ』
希『で、さっきも聞いたけど、中に入ったことがある人はゼロ…ってことでいいんだよね?』
花陽「うん、そうだよ」
希『誰か近づいただけで気分が悪くなった人とかいる?』
花陽「いないよ」 希『そっか、うん、わかったよ』
希『じゃあ、ウチからの話はこれで…』
穂乃果「ねえ?思ったんだけど」
穂乃果「先に8人だけで入るってダメなのかな?」
凛「え?」
穂乃果「だって、凛ちゃんは急がないといけないんでしょ?希ちゃんがいないのは不安だけどさ、8人いればなんとかなるよ」 海未「こんなところで何もしないでいても暗くなるだけですし、私も探すなら少しでも明るいうちにするべきではないかと思います」
にこ「そうね、別に希がいないと入れないわけでもないし、8人もいれば大丈夫でしょ?」
希『うーん、ウチとしては一度見て判断したいところなんだよね』
希『大丈夫だとは思うけど、危険がないとは言い切れないんだよ』
絵里「希、あなたの心配はわかるの。だけど、時間がない状況でできることがあるならそれをするべきじゃないかと私も思う」
絵里「率直なあなたの意見を聞かせて。あなた無しで捜索を開始することについてどう思うか」 希『…そうやね、時間がないのにウチの事情で振り回すのも限界があるよね』
希『凛ちゃん、一つだけ聞いていいかな?』
凛「うん、いいよ」
希『大事な人のために本を探すのが目的、本が見つかれば目的達成でいいんよね?』
希『それ以外の目的はないんだよね?』
凛「うん」
希『だったらウチがいなくても何とかなるかもね』 希『ウチが早くこっちの用事を片付けてそっちに合流してから突入ってのが理想だけど、仮に入ったとしてもウチがそっちに着くまでに何かある可能性は低いかな』
穂乃果「先に入ってもいいってこと?」
希『このままウチの事情で引っ張るのもどうかと思うし、入ってみるのもいいかな』
希『じゃあ、いい結果になることを祈ってるよ』
花陽(そう言って、希ちゃんは電話を切りました)
凛「希ちゃん、そうだね…うん、凛がんばるよ」
穂乃果「じゃあ、希ちゃんのお墨付きももらえたことだし、行くよ!」 〜廃校舎・昇降口〜
穂乃果「で、昇降口まできたわけだけど…」
海未「なんというか…ボロボロではありますが、普通の校舎ですね」
ことり「そうだね」
穂乃果「ちょっと中も見てみるよ」
花陽(穂乃果ちゃんが昇降口から中へ入っていきます)
穂乃果「特に変なところはないよっ!!!」 絵里「まったく、危機感がないというか」
海未「むしろ楽しんでいますね」
にこ「とはいえ、穂乃果が入ったから安全だとわかったのも事実でしょ」
真姫「これがうちのリーダーの長所であり短所よね」
穂乃果「ほらほらー!みんなも早く入ってきなよ!」
にこ「はいはい、今行きますよリーダーさん」 〜廃校舎・下駄箱前〜
絵里「本当に入れたわね」
真姫「よく考えたらただの廃校舎なんだから何も起こらないのが普通よね」
穂乃果「まあまあ、行けるんだったらどんどん行っちゃおうよ」
ことり「あちこち老朽化してるし、どんどん行くのはやめてほしいかな?」
穂乃果「で、探す本ってのはどんなやつなの?」 真姫「そういえば本を探すってだけでどんな本かはきいてなかったわね」
凛「えーっと、赤い表紙で、表紙には金色で文字が書いてあって、これくらいので」
穂乃果「うーん、それだけだとな」
にこ「タイトルとかは?」
凛「それは…ごめん、わからないんだ」
海未「本を探すのにタイトルがわからない?どういう状況でしょうか?」 凛「あ、裏表紙をめくったところにヒマワリの絵が描いてあるって言ってた」
穂乃果「ヒマワリの絵か」
真姫「それを手がかりにするしかないわね」
穂乃果「では、捜索開始だよ!」
花陽(こうして、本探しがはじまりました) 花陽(はじめこそまじめに探していたものの、女子が3人集まればなんとやら、しかもその倍以上いるとなればどうなるか)
花陽(何かあるたびに騒ぎになり、最初の緊迫した空気なんかいつの間にか吹き飛んで…)
花陽(2時間ほど経った時には当初の目的よりも廃校舎探索がメインになっていました)
花陽(とはいえ…)
絵里「え…えっと、本を探して早めに出るっていう話だった気が」
真姫「そ、そうよ!遊んでないでちゃんと探しましょう!」
花陽(個人差はあるみたいです) 海未「しかし、中に入ってみると意外と広いものなのですね」
穂乃果「そうだよね。外から見た時はこんなのすぐに回りきれると思ったのに」
ことり「思ったより時間がかかっちゃうね」
花陽(気づけばもう夜も近くなっていました。夏場で頑張ってくれていたお日様もそろそろ地平線の向こうにさよならです)
ことり「もう日も暮れるし、今日はこのくらいにしない?」
穂乃果「えー、せっかく懐中電灯持ってきたのに」
にこ「暗いって言ってもスマホのライトがあれば十分でしょ」 海未「そろそろ方針を決めないとですね。このまま続けるか、一旦帰って明日出直すか」
真姫「希もこないし、今日はやめにしない?」
絵里「そ、そうよね…万が一、本当に万が一だけど怪奇現象とか起こったらいやだし帰りましょう」
穂乃果「えー、まだまだできるよ」
穂乃果「そうだ!凛ちゃんはどう?」 凛「あ、えっと…」
凛「もう帰った方がいいと思うかな」
凛「急いでいるって言ったけど、やっぱり凛はみんなに無理はしてほしくないし」
穂乃果「そっか…」
穂乃果「じゃあ、うん帰ろっか!」 〜下駄箱前〜
穂乃果「ふぅ〜、また明日来ようね!」
ことり「穂乃果ちゃん、すっかり楽しんでたね」
海未「本を探すという目的を忘れないでほしいところですが…」
穂乃果「わかってるよ〜、ていうか海未ちゃんだって思いっきり楽しんでたじゃん」
絵里「2年生は元気ねえ」
にこ「子供ってだけよ。って…なんかそのセリフはババくさいわよ絵里」 凛「みんな今日はありがとうにゃ」
花陽「ふふっ、良かったね」
花陽(どうなることかと心配でしたが、練習続きの日々のいい息抜きになったようです)
花陽(これからまた何回か来るのかな、…とその時の私はまったく危機感のないことを考えていました)
穂乃果「さてと…」
ガタッガタッ
穂乃果「あれ?」
ことり「どうしたの?」 穂乃果「いや、開かないなって」
花陽(外に出ようと昇降口のガラス扉を開けようとした穂乃果ちゃんが不思議そうな顔をしていました)
ガタッガタッ
穂乃果「あれーおっかしいな?」
海未「ちょっと貸してください」
ガタッ!ガタッ!
穂乃果「ねえ…そういえばさ…」
穂乃果「来た時にここ、閉めたっけ?」 穂乃果「…………穂乃果は閉めた覚えないんだけど?」
花陽(穂乃果ちゃんの言葉にみんなが固まりました)
海未「たしか、開けっ放しだった気が…」
ことり「はは…ことりもそんな気がするかな?」
真姫「ちょっと待ってよ?私たち以外に誰が閉めるの?」
絵里「もう希が来てて閉めた…とか?」
にこ「それならなんか連絡が来るでしょ?それにわざわざこんなところ閉める?」 花陽「えっと、希ちゃんに電話してみる!」
花陽(希ちゃんにかけてみますが…留守電です)
花陽「あれ?メール…希ちゃんから?」
『ごめん!さっき言い忘れたことがあったからまた電話しようとしたんだけど、みんなに電話ができなくなってる…
どっかしらでメールが受信できるようになることに賭けて送るね
このメールが届いてるかもわからないけど、もし届いてるなら絶対に日が暮れるまでには出て!
なんか嫌な予感がするし、調べたいこともあるから深入りしないで!』
花陽(なんで、なんで気づかなかったのか…いやもしかしたら今まで来ていなかった?)
花陽(いや、そんなことより) 花陽(窓の外を見ると…夏の太陽は、もう消えかけていました…)
穂乃果「んー、いっそガラス破っちゃう?」
海未「穂乃果…?」
穂乃果「い、いや冗談だよ!」
ことり「でも、たしかにこのままじゃ出られないし」
にこ「ここが開かないだけでしょ?他の出口なり窓なりから出ればいいじゃない?」
穂乃果「そ、そうだよね」
ガタンっ!!!
穂乃果「え?」 花陽(何もなかったことですっかり気が抜けていました…)
花陽(気づくべきだったんです…ここまでは何もなかったんじゃない)
花陽(異変は、怪異は、もうすでに獲物を捉えていた…捉えた上で、機会を待っていただけ)
穂乃果「何…これ…」
海未「体が重い…」
ことり「くっ…」
真姫「嘘でしょ…」 絵里「立って…られない…」
にこ「ぐぁっ…」
凛「…そんな」
花陽「ごめん、希ちゃん…」
花陽(そこで私の意識は途切れました)
「……起きて!」
「起きて、花陽!」 花陽「…んん」
花陽(頭がズキズキ痛みます)
花陽(今日は夏休みだよね?じゃあ、あんまり無理せずにもう少し寝てても…)
「しっかりしなさい!花陽!」
花陽「……え?」
真姫「ああもう!何寝ぼけてるの!しっかりしなさい!」 花陽「…真姫ちゃん?あれ?ここは…」
にこ「目が覚めたみたいね…花陽」
絵里「花陽、私のことわかる?」
花陽「うん、絵里ちゃんだよね?」
凛「良かった。かよちんは無事で」
花陽「あ、そうだ私たち…」 花陽(どうも目が覚めたのは私が最後みたいです)
花陽(目の前には俯き口を閉じた穂乃果ちゃんと海未ちゃんが…)
花陽(………あれ?……誰か足りない…?)
花陽「ねえ、にこちゃん…」
にこ「ええ、やられたわ」
にこ「ことりが…見当たらないの」 (^8^) ことりちゃんは捕まえたちゅん
(^8^) 次は穂乃果ちゃんたちの番ちゅんなあ
(・8・) ……番ちゅんなあ 〜廃校舎・1階廊下〜
絵里「ことり、いないわね…」
にこ「窓も他の出入り口も開かないなら外に出たわけじゃない…のかしら?」
花陽(ことりちゃんがいなくなってから1時間ほど経ちました)
花陽(持ってきた懐中電灯で暗闇を照らしながら学校内を探しますが、暗い中でわずかな明かりだけで何かを探すというのがここまで手こずるとは思いませんでした)
真姫「これで1階は全部見たわよね?」
穂乃果「……どうしよう」
海未「…穂乃果」 穂乃果「バチが当たったのかな?こんな所ではしゃいだりするから…」
穂乃果「どうしよう…このままことりちゃんが見つからなかったら…」
海未「見つけますよ…必ず見つけるんです」
絵里「次は2階…よね?」
花陽(1階の捜索を終えた私たちが2階へ向かおうとした瞬間)
『たすけて』
花陽(2階から急に聞こえた声に、全員が足を止めました) 花陽(真夏にも関わらず体を走る寒気、それにも関わらずいっそう吹き出す汗…無理もありません、だって…)
絵里「今の声…」
穂乃果「ことり…ちゃん…」
花陽(『たすけて』というその声は、紛れもなくことりちゃんのものだったのです)
『たすけて』
『たすけて』
花陽(ことりちゃんの声が近づいてきます…)
花陽(まるで、あの話のように) 穂乃果「ことりちゃん!!」
海未「ことり!!」
花陽(穂乃果ちゃんと海未ちゃんが声のする方へ駆け出しました)
穂乃果「今、行くよっ!」
海未「待っててくださいことりっっ!!」
絵里「落ち着きなさい!穂乃果!」
にこ「まったくっ海未まで!!」
花陽(絵里ちゃん、にこちゃんが慌てて二人を止めます) 花陽(絵里ちゃん、にこちゃんが慌てて二人を止めます)
絵里「ちょっと、何いきなり走り出してるの!?」
にこ「罠とかだったらどうするのよ!?」
花陽(絵里ちゃんとにこちゃんが二人を羽交い締めにします…にこちゃんはちょっと引きずられてますが)
穂乃果「でも、ことりちゃんの声なんだよ!」
海未「罠ではなく、本当にことりかもしれないんですよ!」 絵里「だとしても落ち着いて!」
にこ「だいたい、あんたら2人だけ突っ走って何になるの!?」
真姫「7人でまとまって行動しないと、あなたたち2人だけが先行して孤立なんて向こうの思うツボよ」
穂乃果「くっ…」
絵里「私たちだってことりが無事でいてほしいって思う、だけど焦ってあなたたちまで危険になったら元も子もないの」
にこ「気持ちはわかるけど、慎重に行きましょう」 真姫「そうね、こういう時だからこそ冷静にならないと…」
花陽「一歩一歩に気をつけないとだね」
凛「後ろは凛にまかせるにゃ…」
穂乃果「わかった、いくよみんな!」
花陽(こうして私たちはことりちゃんの声がする方へ向かいました) 〜廃校舎・2階〜
花陽(周りを警戒しながら、私たちはことりちゃんの声の場所まで辿り着きました)
穂乃果「…ことりちゃん」
海未「ことり!」
花陽(そこには…)
黒い影「ウ…アアア…」
真姫「なによあれ…」
花陽(黒い"影"が何体かいました)
花陽(そして、その中の一体はことりちゃんを抱えていました) 花陽(ワーガルルモン、でしたっけ?前に凛ちゃんと一緒に見たアニメにそんなのがいたんですが、黒い影はそれに似ていました)
花陽(黒い影は背筋を丸めて、ゆっくりと私たちに近づいてきました)
黒い影「………『たすけて』」
絵里「ひいっ!」
黒い影「『たすけて』」
黒い影「『たすけて』『たすけて』」 花陽(黒い影たちは『たすけて』と繰り返していました…ことりちゃんの声で)
穂乃果「こうなったら…」
穂乃果「これでもくらえええええ」
花陽(穂乃果ちゃんが荷物から何かをとりだして黒い影の群れに投げ入れます)
ガン!!
黒い影「グアアア!」
花陽(どうも目?に相当する部分に当たったのがいるらしく黒い影の一体が顔を押さえてうずくまります) 穂乃果「当たりどころが良かったみたいだね…でも、まだ終わりじゃないよ!」
花陽(穂乃果ちゃんが投げたものから何やら音がして煙が吹き出してきました)
花陽(それは発煙筒…いえ、黒い影がせきこむような動きをしてますし、なんか虫がボトボト落ちてきてますし、あれは…)
穂乃果「どうだ!必殺バルサ〇攻撃!」
にこ「こんなところで殺虫剤つかうな!!」
黒い影「ウ…『タス』ギャ…『たすけ』アアアアア!』
黒い影「ギャアア!『たす』『たス』ギャアアア!」 花陽(どうやら効果はバツグンらしく、黒い影が散り散りに逃げていきます)
ことりを抱えた黒い影「アアア…ギャアアニアア!ギャアアアア!」
花陽(ことりちゃんを抱えた一体はことりちゃんを抱えたまま他の影とは別方向へ逃げて行きました)
穂乃果「1階だ!」
海未「追いましょう!」
真姫「ちょっとお!虫が降ってくるんだけど!」
にこ「我慢して走りなさい!」 花陽(バルサ〇の効果は思ったよりも強いらしく、それに加えてことりちゃんを抱えているハンデもあるからか黒い影はすぐにスピードを落として立ち止まりました)
穂乃果「追いついたよ!」
穂乃果「よくも…よくもことりちゃんを!」
穂乃果「ことりちゃんを離せええええ!」
花陽(穂乃果ちゃんがことりちゃんを抱えた黒い影に突進…したものの黒い影にかわされてしまいました) 絵里「穂乃果!なにやってるの!」
海未「いえ、絵里…今回ばかりは穂乃果のお手柄です!」
花陽(やっぱり、こういう時に幼馴染は強いです)
花陽(そう、黒い影が穂乃果ちゃんを避けた先に海未ちゃんが回り込んでいたのです!)
花陽(しかも、どこで手に入れたか、モップを手にしています)
海未「先程、穂乃果が投げたものが当たった…」 海未「つまり、物理攻撃は有効ということ!」
海未「はああああっ!!!」
バキッ!!
海未「とらえた!」
花陽(ことりちゃんを抱えている側とは逆側の脇腹?に海未ちゃんの一撃が決まりました)
黒い影「ギャアアアアアアアアアア」
黒い影「グ……ウウウウ」
海未「放しなさい!ことりを、ことりを放しなさい!!」 黒い影「ウウウウ…」
ダッ!
花陽(黒い影がことりちゃんを置いて逃げ出します)
絵里「なんとかなったみたいね…」
真姫「そうだわ、ことり…」
穂乃果「起きてよ、ことりちゃん!」
海未「ことり!ことり!」 花陽(ことりちゃんがゆっくりと目を開けました)
凛「よかったにゃ…目を…覚ました!」
穂乃果「良かった!良かったよことりちゃん!」
ことり「…あなた…だれ?」
穂乃果「……え?」
凛「まさか…記憶…が…」
海未「そんな、ことり!」
ことり「え…あなた誰、誰なの?」 花陽「あの話の通り…ってこと…?」
海未「ことり!何言ってるんですか!園田海未、そして高坂穂乃果!小さい頃から一緒に過ごしてきた幼馴染を忘れたんですか!?」
凛「凛…たちのことも、…忘れ…ちゃったの…?」
真姫「ことり、しっかりして!」
ことり「いや…あなたなんか知らない…近づかないで」 絵里「嘘でしょ?ことりの記憶が…」
にこ「無くなった…っていうの」
穂乃果「ことりちゃん!嘘だって言ってよ!」
ことり「いやーーーーー!」
花陽(そう叫んで、ことりちゃんは気を失いました)
穂乃果「そんな…」
真姫「なによ、あの話と一緒じゃない」 花陽(暗闇の中、私たちはようやく気付きました)
花陽(いかに自分たちが愚かだったのかに)
花陽(絵里ちゃんと穂乃果ちゃんと海未ちゃん、3人が協力してことりちゃんを運んで…私たちはその場を移動することにしました)
花陽(幸い近くに保健室があって、毛布とかも見つかったのでことりちゃんを運び入れました) 海未ちゃん強すぎて草
バケモンにはバケモン理論やね 〜廃校舎・保健室〜
絵里「よいしょっと」
絵里「これでいいでしょ」
穂乃果「ことりちゃん……」
海未「………」
にこ「気持ちはわかるけど、これからのことを考えましょう」
にこ「まず、ここを脱出しないことには…」 海未「すみません、にこ…」
海未「感傷にひたる時ではないことはわかっています…8人で集まっていないと危険ということもわかっています…ですが」
海未「少しの間だけ、私と穂乃果とことり…3人だけにしてはもらえませんか?」
穂乃果「ごめんね…穂乃果も海未ちゃんも、ちょっとだけ時間が必要みたいなんだ」
穂乃果「大丈夫になったら声かけるからさ…だから」
穂乃果「…ごめん」 〜廃校舎・職員室〜
花陽(三人だけにしてほしいと言う穂乃果ちゃんと海未ちゃんの希望もあって私たちはその隣の職員室に移動しました)
花陽(懐中電灯とスマホのライトで可能な限り明るくしましたが、それでも職員室の一部を照らすだけ)
花陽(職員室に漂う重い沈黙、それを打ち砕いたのは絵里ちゃんへの着信でした)
絵里「希からだわ!」
絵里「もしもし…みんなと話したいのね了解」
希『良かった!エリチには繋がった!』 希『ごめん!色々手が離せなくて、亜里沙ちゃんに聞いたんだけど、まだ帰ってないって…もしかして』
絵里「ごめんなさい…」
希『とりあえず、何があったか話して』
花陽(絵里ちゃんがこれまでのいきさつを話しました)
希『ことりちゃんは?』
にこ「まだ意識は戻らないみたいだけど…穂乃果と海未が隣で付き添ってるわ」 希『ごめん…ウチの判断ミス…ううん、そんな言葉じゃ済まないね』
花陽「ごめん、私がもっと早く希ちゃんからのメールに気づいていれば」
にこ「今はどうやってこの事態を乗り切るかでしょ?…希の判断ミスのせいとか花陽がメールに気づかなかったからとかそんな話してる場合じゃないわよ」
希『にこっち…そうだね』
希『ウチも大至急そっちに向かうから、何かあったらいつでも電話でもメッセージでも入れて』
希『…って言っても必ずつながるわけでもないみたいね。花陽ちゃんに何回かかけた時はつながらなかったし』 花陽「何でなんだろう」
希『んー、電池切れとかじゃないんだよね?今、見れる?』
花陽「うん、電池は………半分くらいは残ってるよ」
希『そっか、つながりやすい人とそうじゃない人がいるんかな?』
希『と、そろそろ到着かな?と言っても20分くらいはかかるみたいだけど、じゃあ切るね』
にこ「早くきてくれると助かるわ。絵里がそろそろ限界みたいだし」 絵里「だ、大丈夫よ…もう怖がるとか超えてるし、こんな時こそ私がしっかりしないと…うぅ…」
希『くれぐれも無茶はしないでね。あっちの存在はウチらの考えるよりも厄介だから』
にこ「ええ、希が来るまで…何としてでも持ち堪えるわ」
花陽(希ちゃんとの通話が終わって、職員室はまた静寂に包まれます…)
凛「ごめんなさい、こんなことになるなんて…」
花陽「ううん、…私も他のみんなもこんなことになるなんて思わなかったもん誰のせいでもないよ」 花陽(弱いながらも闇を照らすスマホの画面、それを見て…私の中にここから何としてもでも出なければという決意がみなぎりました)
花陽「絶対にここを出て、いつもの日常に帰ろう」
凛「そうだね…うん」
ガララララ…
海未「お待たせしました」
絵里「もういいの?」
海未「ええ、いつまでも待たせるわけにはいきませんから」 にこ「海未、ことりはどう?」
海未「まだ、目を覚ましません…穂乃果が見ていてくれていますが」
海未「ただ、凛の話の通りなら…」
にこ「問題は目を覚ました後、よね」
真姫「ねえ…もし、仮に、仮によ…」
真姫「仮にことりの記憶がこのままずっと戻らなかったら、どうする?」
にこ「真姫…」
海未「…どうもしませんよ」 海未「たとえことりが全てを忘れても、そのことでことりの心が壊れそうになっても、私たちが支えます」
海未「穂乃果もそう言っています」
凛「海未ちゃん…」
凛「ごめん…凛がこんなところに連れてこなければ」
海未「なぜ凛が謝るのですか、今この場にいることを選んだのは私たち自身なんです」
海未「だから、あなたが気に病むことなど無いのですよ」 絵里「さてと、じゃあ…希が来るまで保健室で籠城戦かしらね」
にこ「あと少しでようやく、専門家のご到着ってわね」
凛「希ちゃんが来れば大丈夫だよね?」
真姫「っていうか待たせすぎでしょ!後で文句言ってやるわ」
海未「これは凛ともども山頂アタックで鍛え直す必要がありますね」
花陽「すっかりいつもの海未ちゃんだね…はは」
花陽「………え」
花陽(職員室を出た私たちが見た光景、それは…) 黒い影「ウ……ウウウウ」
黒い影「『たすけて』ウウウウウウウ…」
花陽(さっきの黒い影たちが廊下に集まってきていました)
海未「そんな、さっき私が出てきた時には何もいなかったのに」
黒い影「アアア…『これでもくらええええ』」
黒い影「ウウウウ…『たくなあ』アアア」
黒い影「『さっちうざい』ウアア『たくなああ』」
にこ「何よ…これ」 黒い影「ウ……ウウウウ」
黒い影「『たすけて』ウウウウウウウ…」
花陽(さっきの黒い影たちが廊下に集まってきていました)
海未「そんな、さっき私が出てきた時には何もいなかったのに」
黒い影「アアア…『これでもくらええええ』」
黒い影「ウウウウ…『たくなあ』アアア」
黒い影「『さっちうざい』ウアア『たくなああ』」
にこ「何よ…これ」 真姫「穂乃果とにこちゃんの真似…」
凛「さっきので覚えたんだ…」
花陽(黒い影たちはじりじりとこちらへ迫ってきます)
花陽(襲って来ないのは恐らくさっきの穂乃果ちゃんのバルサ〇がまた来ないか警戒しているのでしょう)
絵里「どうする?一旦戻る?」
海未「それで私たちの身は守れたとしても」
真姫「…穂乃果とことりをそのままにしておくわけにはいかないわよね」
絵里「一か八か、みんなで保健室に突入してみるってのは?」 花陽(職員室と保健室は隣、黒い影が警戒している今なら…あるいは)
にこ「まあ、このまま戻って穂乃果とことりを放っておくくらいなら仲良くこいつらの餌になるほうがましか」
にこ「いくわよ!いい、みんな覚悟はできてる?」
花陽(みんな、その言葉にうなづきます)
にこ「ま、リーダーがいないなら部長が言うしかないわよね」
にこ「じゃあ…行くわよ…μ's!」
6人「ミュージックスター…」
「ちょーーっとまったあああ!」
バリーーーーーン! 花陽「え?」
花陽(まったく、予想もしてませんでした)
花陽(この局面で、まさか窓を破って突入してくる人がいるなんて)
希「おー、いたた…着地失敗…でも…意外といけるもんやね」
花陽「希…ちゃん」
花陽(窓ガラスを割って入ってきたにもかかわらず、運良く尻餅だけで済んでいるのはもはや気にしたらいけないのでしょう) 希「いやー、待たせたね…で」
黒い影「アアアアア…『たすけて』」
希「これが例の黒い影ね」
絵里「希…こいつらなんなの?」
真姫「イミワカンナイんだけど」
希「んー、まあ説明の前にこれかな?」
希「ウチの見立てが正しければ、これで何とかなるはず」
花陽(希ちゃんはバッグの中から小さい箱のようなものを取り出して) 希「これで、どうやああああ!」
花陽(黒い影に向けました…すると)
黒い影「ァァァ…アアアアア!」
黒い影「ギャアアア!!」
海未「黒い影が…」
真姫「苦しんでる?」
絵里「何これ?」 希「やっぱりね…」
花陽(黒い影は耐えかねたのか逃げていきます)
希「…さてと、みんなお待たせ」
絵里「お待たせ、じゃないわよ!なんで窓から飛び込んで来てるのよ!」
真姫「それに20分くらいとか言っておきながらやけに早い到着じゃないの」
希「あはは、帰りはヘリで送ってもらえたんやけどね」
にこ「……ヘリ?」 希「その、どうせだったら窓から突入した方が早いんじゃないかと…送ってくれた人のアイディアで、つい挑戦してしまったんよ」
希「本当は、その…窓ガラスをあらかじめ外から外して突入だったんだけど」
希「色々予定が狂ったというか、突入の段階で窓ガラスがついたままなことが判明してね」
希「まさに『ちょっとまったあああ!』やね…ははは」
花陽「ああ…ちょっと待ったってそっちだったんだ」
希「まあ、でも無傷な上に、たまたまみんながピンチのところに直でこれたのはラッキーやね」
希「あれもちゃんと追い払えたみたいだしね」 花陽「えっと、それはいいんだけど」
にこ「そうよ!ことりが大変なの!あと、あれの正体は何?」
希「色々説明しないとだよね…まあ、まずはことりちゃんかな? 〜保健室〜
希「さてと…」
海未「その、希…心を強く持ってくださいね」
海未「穂乃果、ことり、入りますよ」
花陽(私たちが保健室に入った瞬間…)
穂乃果「海未ちゃあああああん!!よかったよかったよおお!!」
海未「あ、あの!?」 穂乃果「海未ちゃん!あのね、ことりちゃんが!ことりちゃんが!!」
穂乃果「奇跡だよ!奇跡が起こったんだよ!」
穂乃果「勝ったんだ!私たちの友情の勝利なんだよ!これは!!」
花陽(穂乃果ちゃんが妙にハイテンションで出迎えてくれました)
花陽(そして…)
ことり「良かった〜みんな揃ったんだね」 穂乃果「うん、ことりちゃん!みんな無事だよ!」
海未「わかるのですか?私たちが」
ことり「ばっちりだよ」
ことり「穂乃果ちゃんが言うには記憶が消えちゃってたらしいんだけど、今は穂乃果ちゃんのことも海未ちゃんのこともみんなのことも全部覚えてる」
穂乃果「私たちの友情が奇跡を起こしたんだよ!」
ことり「…心配させちゃってごめんね。みんな」 海未「こ…ことり…」
ことり「海未ちゃんがことりを守ってくれたんだってきいたよ。ありがとう」
海未「う…うう…」
海未「心配…したんですよ…ことりがこのまま全部忘れてしまったままだったら…どうしようって」
ことり「うん…ごめんね」
海未「良かった…ことりが無事でよかったです」
海未「ことり…ことりいいいい!」
花陽(感極まった海未ちゃんがことりちゃんに抱きつきます) 穂乃果「あ、海未ちゃんずるい!穂乃果も!」
花陽(穂乃果ちゃんもことりちゃんに抱きついて…)
ことり「ことり…二人のこともみんなのことも絶対忘れないよ!これから先もずっとずっと一緒だよ」
穂乃果「穂乃果もだよ!ずっと一緒だよ!」
海未「私だって!何があろうと忘れません!」 花陽「どういうこと?」
希「見てのとおり、すでに解決済みだよ?ウチが何をするでもなく」
真姫「ったく、心配して損したわよ…まったく人騒がせなんだから」
にこ「とか言って、目が潤んでるわよ」
真姫「これは…こんな古い建物だから埃が目に入って…」
絵里「いいじゃない?こんなの泣くなって方が無理よ」
凛「良かった…3人がまた一緒になれて」
花陽「うん、そうだね」 花陽(それから感動を分かち合っていた私たちですが、だいぶ落ち着いてきたので話を再開です)
穂乃果「いやー、『あなた誰』って言われた時はもう終わりかと思ったよ」
ことり「うーん……そのあたりの記憶は曖昧なんだよね、なんかおかしなものが見えてた気もするし」
海未「おかしなもの?」
絵里「あの黒い影かしら?海未が相手した以外にもまだいたのね」 ことり「あ…そうだ!あの黒いのは…」
希「ふふ…ウチにかかればあんなのイチコロよ。って言っても追い払っただけだけど、まあ、しばらくは出てこないと思うよ」
花陽「希ちゃんが追い払ってくれたんだ」
ことり「そっか、ありがとう希ちゃん」
真姫「で、話を戻していいかしら?」
真姫「ことりの記憶は消えてない…ってのはよかったわ」
真姫「でもまだ話してもらいたいことがある」 真姫「あの黒いのは何?希はあれを追い払ったって言ったけどどうやったの?」
希「そうだね、じゃああれの正体の説明を兼ねて…」
希「これ、なんだかわかるかな?」
花陽(希ちゃんはさっきの箱のようなものをまた取り出しました)
絵里「えーっと、これは…」
凛「あ、これ…凛の家のベランダにも似たの置いてある」
凛「たしか、これを置いておくと猫が来なくなる…とか」 希「そうだよ。商品名を伏せて言うなら"猫避け"とでも言うのかな?」
希「今は電池抜いてあるけどね…この箱は赤外線で近くに動いてるものを察知して超音波を出す」
希「人間にはほとんど聞こえないんだけどね、猫にとってはとってもうるさい音が聞こえるんよ…そんなことを繰り返すうちに猫はその場所に近づかないようになるって仕組みだね」
凛「ああ…なるほど、そういうことだったんだ」
真姫「凛はアレルギーもあるから親御さんも気をつけてるのね」
海未「あれ?ということはあれの正体は…」
希「そう、猫…ってのが半分正解」 希「ここが舞台ってきいた時にもしかしたらって思ったんだよね」
絵里「ここってそんなに曰く付きの場所なの?」
希「曰く付きも曰く付きだよ」
希「もともとここは猫が集まりやすい場所なんよ。これについては霊的なものっていうよりは近くに餌場がたくさんあったり子育てしやすいのが原因なんだけど」
希「やっぱり、それは人の生活とは相容れないんだよね。それもあってたくさんの猫がここで殺された」
希「それでね、溜まりに溜まった猫の怨念がいつからか人に害をなすようになった、事故とか事件とかそういうのがこのあたりで頻繁に起こるようになったんよ」 希「そうすると今度は人の怨念が集まる、人の怨念だか猫の怨念だかよくわからないものが渦巻いていく」
希「結果、ここは猫と人のどっちつかずの怪異の一族を引き寄せる地になったんだ」
絵里「えっと、あの黒いやつのこと?」
希「そう、人でもない猫でもない、その姿は何者でもないから黒く曖昧で、だから何かになりたがる」
希「みんなも見たんやない?あれが何かになりたがるのを」
にこ「ああ、そういえばことりとか穂乃果とか私の真似をしてたわね」
希「うん、真似を繰り返して人とか猫に近づいていく、そして最後は真似た相手を食らってなりかわろうとする…そんなふうに言われてるね」 海未「食らって…って、じゃあもしかしてあのまま真似をされていたら」
ことり「私たち、食べられていた?」
希「んー、それはあるかもしれないけど…人ひとりを完全に真似るってそんなすぐにできるわけないんだよね」
真姫「なんか気味悪いわね。そんなのさっさと退治しちゃえばいいじゃない」
希「真姫ちゃん、それは人間のエゴってやつだよ」
希「人間が猫をたくさん殺して怪異が集まる場所を作っておきながらそこに来た怪異を退治する…なんてのは筋が通らない」 希「怪異にだって怪異の事情がある、人間側だけじゃなくて怪異側の視点も考えなきゃこういうのは上手くいかないんよ」
花陽「怪異側の視点…」
希「それで、この地の異常の大元は猫がたくさん殺された怨念なんだから、人間側が猫にごめんなさいして、手を打とうってことになったんよ」
希「どっちつかずの怪異さんたちに対しても向こうが危害を加えない限りは人間側も手を出さないというルールが作られた」
希「それで猫の怨念を鎮めるために猫塚を作ることになったんだけど、その場所に選ばれたのがここなんだ」
希「猫塚を作ったことで猫の怨念は鎮まり、この場所に集まったどっちつかずの怪異さんたちは他の場所に移るなり、そのまま留まるなりした」 希「そして、数十年後その猫塚に学校が作られた」
真姫「なんでそんなところに学校なんか作るのよ」
希「まあ、学校ってことにしておけば管理もしやすいし、猫塚を身近なところに置いて動物と人間の関係について生徒が考える機会を持ってほしいとかあったんだろうね」
希「さっきも言ったけど怪異さんは呼ばれてきちゃっただけだし、そういうのにおおらかな時代なのもあって人間に危害を加えない限りはまあいいかなって判断だったみたい」
希「ただ、その後で廃校舎になったりで管理ができなくなってしまったんやね。猫の怨念を鎮めるという役割がだんだん弱まっていった」
希「そうして集まったよくない気が荒れた猫塚という場所に作用してまた怪異を引き寄せた…とウチは考えてる」 希「とはいえ、本来ならどっちつかずの怪異さんがいきなり人を襲うなんてことはないんやけどね」
希「まさかここまでのものになってるとは想定してなくて、みんなを怖い目に合わせちゃったのは本当にごめん」
希「怪談ってのは本来なら関わっちゃいけない存在を引き寄せるから甘くみちゃいけないってことだね」
希「たとえそれが、デタラメな作り話でも」
穂乃果「デタラメな作り話?」
希「えっと、さっきの感動に水をさすことになっちゃうかもしれないんだけど」 希「記憶を食べる怪異なんていなかったんじゃないかな?ってウチは思う」
希「ここにいるのは真似て真似て最後に存在を食べてなりかわる怪異、記憶を食べるなんてしないんよ」
真姫「それでもデタラメって…」
希「あのね、今日凛ちゃんがした話を思い返してみてよ」
希「どこかおかしいなって思わなかった?」
穂乃果「どこかおかしい?」
希「うん、思いっきりおかしいところがあるよ」 希「月子ちゃんは怪異に記憶を食べられたんだよね?」
穂乃果「うん…」
希「じゃあさ…なんで月子ちゃんが見た怪異の姿が話に入ってるの?」
穂乃果「あ………」
真姫「言われてみれば、そうよね」
にこ「記憶が食べられたってなら怪異に会った時の記憶も無くなる、他の部分はともかくそこだけは月子ちゃんの記憶がないと矛盾する」
希「そう、だから記憶を食べられたなんてのはデタラメ」 希「記憶を食べる怪異はいなかった。いもしない怪異の話に誘導されて別の怪異のすみかに入り込んでしまった。これはそういうことなんよ」
希「ことりちゃんを連れ去った分の報復は海未ちゃんとウチがやったことでつけちゃったし…」
希「そこを除けば、呼び込んだのも人間側、踏み込んだのも人間側、落ち度は人間側にある」
希「だから色々見たことは忘れて"はじめからいなかった"と片付けてしまう、これがこの話の落とし所なのかな」
穂乃果「そっか…」 希「まっ、でもこれは無かったことにした方が後々やりやすいってだけ…個人的な望みを言わせてもらえば….」
希「本当にことりちゃんの記憶が消えて、でもまた思い出せた、そういう話の方がウチは好きかな」
希「だから、そういう話にしてしまうのもいいと思うよ」
にこ「…そういうものなのかしら?」
希「うん、そういうものだよ」 海未「あの、そういえば私たちは凛の探している本を見つけるためにここに来たのですが」
希「んー、本の貸し借りとかはあったんかもかね?だから、取り壊しの拍子に凛ちゃんの言っていた本が見つかるかもしれない」
希「その時はウチに話がくるようにしてもらうね」
、
希「ま、こんなところにあった本だから一応はお祓いして、凛ちゃんに渡すよ」
希「…この結末じゃ不満かな?凛ちゃん?」
凛「ううん、それで十分だよ」 凛「ごめん、凛のわがままのせいでこんなことに」
希「いいよ、そもそも凛ちゃんは巻き込まれた側なんだし、凛ちゃんがこうやって一生懸命になってくれたことで救われた人もいるはずだよ」
海未「そうですね、まあリリホワ練で普段の倍のメニューをこなしてもらうことで手を打ちましょう」
凛「はは…それは大変そうにゃ」
希「ということで、これにて一件落着だね」 穂乃果「あ、でも昇降口も他の出入り口も開かないんだよね。もし、そのままならどうしよう」
絵里「さすがに廃校舎とはいえ、ガラスを割ったなんて知られたらμ'sの活動に支障があるんじゃ?」
希「いや、出られるよ?」
穂乃果「え?」
ことり「…どういうこと?」 希「そろそろ来るかな?」
花陽「???」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
花陽「ぴゃあ!」
絵里「何、何の音!?」
希「さてと、じゃあ帰ろうか」 〜昇降口〜
花陽「……ははは」
花陽(もう笑うしかありません)
花陽(昇降口まで来た私たちが見たのは、瓦礫の山と数台の重機…というか)
花陽(…昇降口周辺が無くなっていました)
絵里「………なにこれ?」
真姫「希、あなた…なにやったのよ?」
希「やったのはウチやないよ」 希「ふふっ、ここに来るのが遅くなるくらいてこずったのも結果的には良かったってことかな?」
希「ウチはヘリでここまで来たって言ったよね?」
希「では、問題です。ウチはどこからヘリで来たのでしょうか?」
花陽「えっと、もしかして…沼津から?」
希「花陽ちゃん、大正解だよ!」
希「でね、何かあったときのためにってことで同乗してもらってた子に頼んで取り壊しの予定を一部だけ前倒ししてもらったんよ」
絵里「………そういえば、そんなことをできそうなのがいたわね」 にこ「ま、ヘリで帰ってきたって聞いたときから絡んでくる気はしてたわよ」
希「本当、助かったよ」
希「…ありがとう鞠莉ちゃん」
花陽(昇降口のガレキの陰から、その人…小原鞠莉さんが現れました)
鞠莉「お安い御用よ。うちの子たちが助けられちゃったし、その恩返しってことで」
希「ウチは何もしてないよ。Aqoursのみんなで乗り越えたってだけ」 鞠莉「そんなことないわ。希がいなかったらどうなってたかわからない。感謝してもしきれない」
鞠莉「だから、昇降口だけを先に取り壊すよう業者に"お願い"くらいはしますよ」
鞠莉「権力と財力は使ってこそ意味があるのデース!」
にこ「それにしても沼津行ってたって」
絵里「希、あなた何やってたのよ」
希「それは秘密」
希「じゃあこれにて解散ってことで」 希「もう大丈夫だとは思うけど、みんな油断はしないでね。とくにことりちゃんは」
穂乃果「心配ないよ!ことりちゃんには穂乃果と海未ちゃんがついてるから」
海未「そうですね、何が襲ってこようと追い返しますよ」
ことり「ふふっ、頼もしいボディガードが二人もいて、ことりは幸せです」
希「花陽ちゃん」
花陽「な、なに?」
希「また明日、凛ちゃんと一緒に会おうね」
花陽「うん、そうだね…"凛ちゃん"と一緒に」 〜帰り道・星空家近く〜
花陽(色々あったのに外に出てみると10時にもなっていなかったのは意外でした)
花陽(それでも女子高生が一人で帰るには早いということで近い人どうしで帰ることになったわけです)
花陽(そうして、私の家に行く前に凛ちゃんの家に寄ったわけですが…)
花陽(今日はあと2時間足らず…そろそろ終わりにしないとですね)
凛「いやー、大変だったにゃ…」
凛「でも、本が見つかったら希ちゃんが連絡くれるらしいし、一件落着だにゃ」
凛「あ、今日はここまででいいよ。また明日ね、かよちん」 花陽「……」
花陽「……そっか、やっぱり話してはくれないんだね」
凛「かよちん?」
花陽「ねえ…」
凛「ん?」
花陽「………あなたは誰なの?」
花陽(そう…今ならわかります…この言葉が何を意味していたのか) 花陽(いえ、この際だから正直に言います…私はずっと気づいていました!)
花陽(この子は、星空凛じゃない)
花陽(だから私は…)
花陽(この子を、今日一度たりとも『凛ちゃん』と呼んでいなかったんです!) 花陽(最初は違和感、この子は凛ちゃんなのかどうなのかっていう)
花陽(どうしても目の前のこの子を凛ちゃんと呼ぶことができなかった)
花陽(だから、真姫ちゃんがみんなを集めると言った時に、そんなもやもやとした気持ちを希ちゃんに伝えたんです)
花陽(…凛ちゃんにも真姫ちゃんにも気づかれないように)
花陽(希ちゃんは気づいていました!凛ちゃんが凛ちゃんじゃないことに)
花陽(気づいたきっかけはわしわしで触れたときの感触?らしいです…性的な意味ではなく人ではないものに触れた感じがあったとか) 凛「………」
花陽「ごめんね。あなたにはあなたの事情があるんだろうけど」
花陽「私にはやらないといけないことがあるの」
花陽(職員室で希ちゃんが電話してきた時、電池の残量を確認するように希ちゃんが言ってましたよね?)
花陽(別に残量があることなんて、わざわざ見なくてもわかるのにって思いました。画面が明るいなら残量があるに決まってます)
花陽(でも、画面を見て…私は希ちゃんの意図に気付きました)
花陽(私のスマホにメールが来ていたんです) 『時間はかかるかもしれないけど、メールは届いたってことだよね。
花陽ちゃん、最後の一手を頼んでもいいかな?
ウチはこれから少しの嘘をつく、それであの子とμ'sを守る
その後で花陽ちゃんが真実をあの子に答えて、救ってあげて
あの子を救う方法は簡単だよ、それは… 【解答編・人の願いと獣の夢】
花陽「もう一度聞くよ…あなたは誰?」
凛「…あはは、何がなんだか」
花陽「聞こえなかった!?あなたは誰なの!?」
凛「え、ちょっと待ってよ」
凛「あなた、誰って…あはは、記憶が消えちゃったごっこ…とか?冗談はやめてよかよちん」
凛「あの話はデタラメだった、記憶が消えるなんてないって希ちゃんが言ってたでしょ?」 花陽「ううん、あの話はデタラメなんかじゃない」
花陽「少なくともあの話のいくらかは現実にあった事なんだ」
花陽「私たちの知り合いで情報収集とか得意な子がいてね、希ちゃんはその子に調べてもらってたらしいんだ」
花陽(そう、送られてきたのはさっきの希ちゃんのメッセージだけじゃなかった)
花陽(新聞記事、週刊誌の記事、他にもいくつか、ある事件についてのさまざまな資料が送られてきていた)
花陽(送り主は私と同い年のピンク髪の女の子) 『希さんから依頼されていた調査の結果、花陽ちゃんにも送ってほしいって言われたから送るね
参考になるかわからないけど、希さんからのオカルト方面知識とこの資料を総合した上での私の見解も書いておく。まず、この事件は〜 花陽(その後に書かれた考察は、私が一日かけて考えたものとほとんど同じでした)
花陽(聞いた知識と僅かな資料でここまでできるなんて、天使天才の名は伊達じゃないですね)
花陽「昭和〇〇年…私たちが今日行った学校で2人の少女が失踪した、そういう話が本当にあったんだよ」
花陽「しかも、名前が雪子、月子、さらに友達に花子ちゃんもいる…あなたは本名がわからないって言ってたけど、どうも本名だったらしいね」
花陽「それだけじゃない」 花陽「三人は地元でも有名な仲良しグループだったこと、雪子ちゃんは失踪前に月子ちゃんと喧嘩をしていたこと、三人がバラバラに教室を出たこと」
花陽「月子ちゃんと花子ちゃんが二人で帰っていたこと、雪子ちゃんの失踪後に月子ちゃんが不登校になっていたこと…ここらへんがすべて本当だった」
花陽「そして、月子ちゃんは失踪の3日後に発見されたものの最後は精神に異常をきたしてしまった」
花陽「ここまでは話どおりだよね。だけど違う部分もあってね…」
花陽「月子ちゃんは記憶を失ってなかったらしいんだ」
凛「……」 花陽「あの話はデタラメな作り話なんかじゃない」
花陽「事実をもとにして、そこに嘘を織り交ぜて作った話なんだよ」
花陽「そして、嘘によって隠されたものこそが語り手が隠しかったもの…なんじゃない?」
花陽(決まりました!ちなみに今話した内容はピンク髪の子の書いた考察部分からの引用です) 原理不明の怪奇や恐怖ではなくちゃんと因果があるというのが良い 凛「んー、凛はそんなに頭がいい方じゃないけどさ…かよちんが探偵ごっこをしたいなら聞くよ」
花陽「そう…じゃあ続けるね」
花陽「あの話には明らかに嘘な部分があった、希ちゃんも言っていたよね」
凛「月子ちゃんが怪異の姿を覚えているわけがないってやつだよね」
凛「だからあの話はデタラメだって…」
花陽「あそこがデタラメだってならそれはそれでおかしいんだよ。希ちゃんは意図してそこに触れなかったんだろうけど」
花陽「デタラメなんだったらどうして、記憶を食べること以外は本当に出てきたのと同じなの?」 凛「いや、それは別に不思議じゃないでしょ?」
凛「あの場所にはもともと人を真似る猫の怪異がいるって話があったんだからそれをもとにしたんじゃない?」
凛「凛は聞いたのを話しただけだから作った人がどうとかは知らないけどね」
花陽「作り手が怪異のことを知っていたんだとしたら、それこそ不思議なんだよ」
花陽「なんで記憶を食べる怪異とか、月子ちゃんは記憶を無くしたとか、そんな嘘が入ったのか」 凛「うーん、たまたまそうやって間違えて覚えてたとか?」
凛「というか、希ちゃんの話だって正しいとは限らないんだから記憶を食べるってのが正しいのかも」
花陽「そうだね…この話を聞いただけなら色んな辻褄合わせができる」
花陽「誰が作ったかか、作り手がどこまで知っていたかははっきりしてないんだからあの話の内容におかしいところがあるなんて話は意味がないのかも」
凛「そうでしょ。だから…」
花陽「だけどね、もしも怪異のことや過去の事件のことを知っててこんな話を作ったんだとしたら、作り手には隠したかったものがあったんじゃないかな?」 凛「作り手の隠したかったもの…って何かな?」
花陽「たった一つの言葉の本当の意味とそこから明らかになる真実…だよ」
花陽「作り手さんはよっぽど"時間がなかった"んだろうね。怪談の舞台ってことにして本を探してもらうにしても一から話を作る余裕も無かった」
花陽「だから、本を探すきっかけとなった事件をそのまま怪談にしてしまえばいいと思ったんだろうけど…問題があったんだ」
花陽「事件をそのまま話にすると知られたくない事実まで入っちゃう。特に…"ある言葉"の本当の意味は知られてはいけない、知られれば何十年も認めたくなかった事実と向き合わないといけない」
花陽「その言葉を話に入れなければ不自然にはならなかったけど、そんな選択肢は無かった…その言葉を使わず逃げることは作り手のプライドが許さなかった」 花陽「そんな作り手のジレンマから生まれた苦肉の策が記憶を食べられたという嘘なんじゃないかな?」
凛「随分と語るね、じゃあ聞かせてもらうよ」
凛「その言葉って何?教えてくれないかにゃ?」
花陽「その言葉はね…あの話の結末の言葉、奇しくも私が今日一日抱え続けて、多分あの時のことりちゃんも本来の意味で口にしたたった一言」
花陽「『あなた誰?』」
花陽「…これがあの話の、ううん今日も含めた一連の事件の真実に繋がる言葉、その意味をごまかすための嘘の設定が記憶喪失だったんだよ」 花陽「いや、もっと正確に言うと」
花陽「『あなた誰』は記憶喪失が原因なんだと、作り手は主張せずにはいられなかった…かな?」
凛「………」
花陽「あの話にしろ、ことりちゃんにしろ、さっきの私にしろ『あなた誰』はそのままの意味」
花陽「目の前にいる奇妙な『あなた』に対して『誰』と言ったんだ」
花陽「そして、『あなた』は全部同じ存在を指しているって私は考えてる」
凛「……はは、随分と思いきった話だね」 花陽「そうだね。私もおかしな話だと思う。でね、おかしいついでにいいかな?」
花陽「あの話ね、私は希ちゃんが指摘したところとは別のところが引っかかってたんだ…」
凛「はは…かよちんはあの話が好きだね」
花陽「うん、だってあれは時間のない誰かさんががんばって考えてくれた話だもん。好きになるに決まってる」
花陽「月子ちゃんが怪異に襲われて3日後に見つかったシーンなんだけどね…」
花陽「"花子ちゃんは"喜んで駆けつけた。月子ちゃんは"友達を"見て『あなた誰』と言った」
花陽「そう…あなたは話したよね?」
凛「うん、そうだよ」 花陽「そのまま聞くとさ、月子ちゃんは花子ちゃんを見て『あなた誰』と言ったんだけど言い回しがおかしいなって」
花陽「でね、その答えがようやくわかったんだ」
花陽(月子ちゃんが発見された日の新聞のスキャン画像データ、それがあの話の裏に隠された真実を教えてくれました)
花陽(ピンク髪の少女、もう伏せる意味ないですかね…璃奈ちゃんの活躍に感謝です)
花陽「怪異に襲われた3日後に"月子ちゃんが"見つかった…だっけ?なるほど、うまいこと誤魔化したもんだよ」
花陽「たしかにその通りなんだけど…誤解を招く言い方は良くないよね」 花陽(月子ちゃん発見の日の新聞記事、そこにはあの話で意図的に隠されたであろう、とある事実が書いてありました)
花陽(『雪子さん、半年ぶり奇跡の生還!月子さんも無事保護される!』)
花陽(そうでかでかと書かれた新聞記事は、月子ちゃんの発見と同時に半年の歳月を経て雪子ちゃんが無事保護されたことを報じていました)
花陽「見つかったのは月子ちゃんだけじゃなかった。雪子ちゃんも一緒に見つかっていたんだよ」
花陽「半年も行方不明になっていたにもかかわらず体は健康、精神も一部の記憶欠損は認められるが日常生活に支障はない…だって」
花陽「そして、雪子ちゃんは花子ちゃんと一緒に月子ちゃんと会っていた…月子ちゃんが会っていた"友達"は2人いたんだ」 花陽「そして、これが当時の月子ちゃんのカルテの記録、って言っても電子データに書き起こしたものだけど」
花陽「はっきりと書いてあったよ、『"雪子ちゃんがいるはずない、あれは誰だ"と錯乱している』『雪子さんが保護されたことを説明しても聞き入れない』『あれは偽物だと繰り返している』って」
花陽「…………もうわかるよね?」
花陽「月子ちゃんは花子ちゃんを見て『誰だ』って言ったんじゃない」
花陽「帰ってきた雪子ちゃんを見て『誰だ』って言ったんだよ、雪子ちゃんの記憶はちゃんとあるのにね」
花陽「雪子ちゃんが行方不明になってから、異常なくらい月子ちゃんは雪子ちゃんを恐れていた。半年ぶりに学校に行った時には雪子ちゃんの声がしただけで、逃げ出しちゃったくらいだった」 花陽「私たちが消えたことりちゃんを探していた時にことりちゃんの声がして、穂乃果ちゃんと海未ちゃんがその声の方へ向かおうとしたのとは正反対だよね」
花陽「…いったい、雪子ちゃんと月子ちゃんの間に何があったんだろうね」
花陽「実はね、その原因があったかもしれないタイミングに心当たりがあるんだ」
花陽「雪子ちゃんがいなくなった日、時間を空けて教室を出たはずの月子ちゃんと花子ちゃんが下駄箱で出会った」
花陽「月子ちゃんは"何が"あってそんなに遅くなったんだろうね?」 凛「かよちんが何を言いたいのか、凛にはよくわからないんだけど」
凛「そんな何十年も前の話をいつまでするつもり?」
花陽「慌てないでよ。それにね、色々と話した数十年前の事件と今日の事件は無関係じゃないんだ」
花陽「昭和の古い新聞記事がこうして残ってるなんて時代も進んだね」
花陽「おかげでわかったんだよ。あなたの正体が」
花陽「今まで名前しか出てこなかった雪子ちゃんなんだけどね。新聞記事に顔写真が載ってたんだ」
花陽「それが、これだよ」 花陽(そこに写っていたのは)
花陽「これで……ようやく、しっぽをつかんだよ」
花陽「本当にびっくりした。他人の空似なんてもんじゃない」
花陽(凛ちゃんそっくりの女の子でした)
花陽「それでね、あの話の元になった事件はまだ続きがあったんだよ」
花陽「見つかった雪子ちゃんはその後少しして、また失踪しちゃったらしいんだ」
花陽「そして雪子ちゃんはまだ見つかっていない、死体すらもね」 花陽「希ちゃんが言っていたのが正しいなら、あの学校にいた黒い影は人の姿を真似ることができるのもいるんだよね?」
花陽「はじめに雪子ちゃんがいなくなったのはその怪異が集まる猫塚に建った学校」
花陽「雪子ちゃんは見つかったけど、月子ちゃんは雪子ちゃんがいるはずがないと言った」
花陽「そして、雪子ちゃんはまたいなくなって、今わたしの目の前には凛ちゃんではない何者かがいる」
花陽「そして、凛ちゃんと雪子ちゃんはそっくり」 凛「…えーっと、つまりかよちんはこう言いたいのかにゃ?」
凛「その怪異さんが雪子ちゃんになりかわろうしたけど、月子ちゃんを騙せず消えた。そして姿が似ている凛のふりをしてここにいる」
花陽「どう?」
凛「お話としては面白いよ?だけどさ、そんなのただの想像だよ。凛は怪異なんかじゃない」
凛「何十年も前の事件の登場人物の一人が凛と似てるから偽物だなんてそんなのおかしいって」
花陽「そうだね…今私が話したことはそうなのかもしれないっていうだけの想像。決定的な証拠なんてないよ」
花陽「だったら、いよいよ今日の話をしようか?」 凛「今日?」
花陽「何十年も前の真実なんて、私には証明しきれないし、どんなに言葉を並べてもあなたを追い詰められない」
花陽「でもね、今日のことなら別だよ。あなたはもう逃げられない」
花陽「海未ちゃんが、ことりちゃんが確信へのヒントをくれたんだ」
花陽「覚えてる?ことりちゃんは見つかった後に『あなた誰?』って言ったんだよ」
花陽「そして、記憶を食べる怪異なんてのはいない…これはいいよね?」
凛「その話は何回もきいてるからね」 花陽「じゃあさ、ことりちゃんは何を見て『あなた誰』なんて言ったと思う?」
凛「あの黒いのの仲間がいたんじゃないの?」
花陽「にこちゃんはそう言ってたね」
花陽「でもね、そんなの誰も見ていないんだ」
凛「そりゃそうだよ。みんなことりちゃんを見てたんだろうし、あの時ことりちゃんが見ていたものなんて誰にもわからないよ」
花陽「うん、見ていたものはわからない…でも、別にそれがわからなくてもことりちゃんが何を怖がっていたかは推測できるんだ」
花陽「ことりちゃんが怯えていたのはね、決まってある人が発言した少し後だったんだよ」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
凛「よかったにゃ…目を…覚ました!」★
穂乃果「良かった!良かったよことりちゃん!」
ことり「…あなた…だれ?」
穂乃果「……え?」
凛「まさか…記憶…が…」★
海未「そんな、ことり!」
ことり「え…あなた誰、誰なの?」
花陽「あの話の通り…ってこと…?」
海未「ことり!何言ってるんですか!園田海未、そして高坂穂乃果!小さい頃から一緒に過ごしてきた幼馴染を忘れたんですか!?」
凛「凛…たちのことも、…忘れ…ちゃったの…?」★
真姫「ことり、しっかりして!」
ことり「いや…あなたなんか知らない…近づかないで」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 花陽「そう、ことりちゃんが怯えた反応をする前にはね、あなたが喋ってたんだ」
花陽「ところで、あの時…『後ろはまかせるにゃ』なんて言って私たちの一番後ろにいたのは誰だっけ?」
花陽「その子はさ、本当にずっと私たちの後ろにいたのかな?」
凛「はは…」
花陽「なんてね…やっぱり知らんぷりはできないよ…当たり前だよ。例え偽物だったとしても、その子の動きを…私が見失うわけないんだから!」
花陽「幼馴染なのは、穂乃果ちゃんたちだけじゃないんだから!」 花陽「なかったんだ…あの時…ことりちゃんの声を追って黒い影に出会って…穂乃果ちゃんのおかげで黒い影が逃げ出して…それから海未ちゃんの一撃でことりちゃんを取り戻すまでずっと…」
花陽「凛ちゃんの姿はなかった!声もしなかったんだ!」
花陽「それだけじゃない、私はちゃんと覚えてるよ…ことりちゃんが『あなた誰?』と言った時にあなたが真っ先に記憶が食べられたと言ったことも」
花陽「その声がとても息苦しそうで言葉が絶え絶えだったことも」
花陽「全部覚えてる」
凛「ははっ…すごいね」 花陽「今日の一連の事件にはね、ひとり…いないメンバーがいたんだ」
花陽「怪異はまんまとそのメンバーになりすましていた」
花陽「常に私たちの一番後ろを歩いたり、なるべく物陰にいたり…気をつけていたみたいだけど、私や希ちゃんは気づいた…そして、もう一人気づいた人がいたんだ」
花陽「ことりちゃんはね…見ちゃったんだよメンバーのふりをしていたその怪異が正体を現すところを」
花陽「その怪異はほんの数秒前に海未ちゃんの鋭い一撃を受けてたんだ…人間のふりができなくなっても無理はない」
花陽「気絶して、図らずもその記憶はことりちゃんからは消えたみたいだけどね」 凛「うーん、凛は頭がそんなに良くないから、かよちんの言うことは難しくてよくわからないよ」
花陽「うん…じゃあ、はっきり言うね」
花陽「あなたが、あのことりちゃんを連れて逃げた黒い影だったんじゃない?」
凛「だから、そんなわけないって…」
花陽「じゃあ、見せて…そのシャツの下を」 凛「…………」
凛「ふふっ、そうか…」
花陽(ゆっくりと、その子はシャツをめくりました…そこには)
凛「全部お見通し、ってわけか」
花陽(何かに殴られたような…痛々しいあざがありました) かよちんは、凛の幼馴染だから、少しの変化にも気が付けたのか リリホワは日頃から折檻うけてるにゃ。で、もうひと逃げできた説 凛「すっごく痛くてさ、自分が元の姿のままのことなんかしばらく忘れちゃってた」
凛「殺虫剤投げ込んだ穂乃果ちゃんもそうだけど…あんなこと私たち相手にする人、初めて見たよ」
花陽「じゃあ、あなたは…」
怪異「そうだよ。私は花陽ちゃんたちが今日見た怪異の一匹」
怪異「雪子ちゃんを食べてなりかわった…どっちつかずの怪異だよ」
怪異「元の姿に戻れなくもないけど、戻った方がいい?」 かよちん冷静に話してるけど、危害を加えられるかもとか考えてないのか >>197
>>198
鋭い指摘ありがとうございます
結末までのストーリーはできているのですがいざ文に起こすと時間がかかってしまってます
指摘していただいた部分も入れつつ書いていこうと思います 追いついた!物語はすでに佳境、楽しみにしています! 花陽「いえ、そのままで」
花陽(凛ちゃんの顔で話されるのは違和感しかないのですが、かといってあの黒いのと話すよりはマシなので)
怪異「で、どうする?…そこにさっきから隠れてる希ちゃんに頼んで追い払う?」
希「あーあ、ばれてたか」
希「ごめんね。別にあなたを騙そうとしたわけじゃないんよ」
希「これは花陽ちゃんとあなたで話をつけなきゃいけなかった。ウチは知りたかっただけだから、物陰にいたってことで」
怪異「ものは言いようだね」 希「怪異さん。どうだった?μ'sの中に入って一日過ごした感想は?」
怪異「楽しかったよ。踊りと歌の練習したり、学校探検したり、その後は…まあ、申し訳ない事もあったけど、最後の最後に人間っていいなって思えてよかった」
花陽「最後?」
怪異「もう花陽ちゃんの話も終わりみたいだし、私はそろそろ帰ることにするよ。力づくでもね」
怪異「あのうるさい箱で追い払うことはできても、逃げる私を攻撃することはできないんじゃない?」
花陽「まだだよ。一番大切なことを答えてもらってない」
怪異「なんかあるっけ?」 花陽「あるよ。凛ちゃん…本物の凛ちゃんはどうしたの?」
怪異「あー、それか」
希「ウチもそこは気になるかな」
希「どうなん?返答によってはただでは済まさんよ」
怪異「あー…凛ちゃんだったらどっか友達の家にでもいるんじゃない?」
花陽「へ?」
怪異「いや、なんか私を悪者にしたいみたいだし、実際迷惑もかけたんだけど、凛ちゃんには何もしてないよ?」 希「何もしてない…」
怪異「そもそも今日のことだって凛ちゃんが言い出したんだよ。こんなことになるなんて私も凛ちゃんも思ってなかったけど」
怪異「私と入れ替わってることがバレないように今日一日は上手いことやるって言ってどっかに行っちゃったんだよね」
怪異「まあ、明日にでも本物の凛ちゃんに会えば私が何もしてないのはわかると思うよ」
怪異「じゃあ、私はこれで…」
希「……待って」 希「あなた、このままでいいの?」
怪異「何のことやら。正体を見破られた化け物は消えるのがお決まりでしょ?」
希「今のをきいてわかった」
希「あなたはやっぱり巻き込まれただけの被害者だよ」
希「できればウチはあなたを救いたい」
怪異「私を救う?」 希「このままやとあなたはただの悪者やん」
希「それにね、ちゃんと話してくれないと花陽ちゃんもウチも納得しないよ?」
怪異「納得も何もこれ以上二人に語ることがあるとは思わないけど…」
怪異「どうやら、花陽ちゃんも希ちゃんも真実ってのを突き止めたいみたいだし、こっちとしても最後はすっきり終わらせたいからね」
怪異「いいよ。語ってあげる…何十年も隠し続けた真実ってやつを」 怪異「あるところにね、人でも猫でもない中途半端な怪異がいたんだ」
怪異「いつ生まれていつからその土地にいたのかもわからない、猫の怨念と人の怨念に引き寄せられた何かになろうとするだけの怪異」
怪異「怪異なんて気取った言い方は合わないし怪物ってのが近いかな」
怪異「そんな怪異がね、とある仲良し3人組に出会ったんだ…出会ったって言っても物陰から見つけただけなんだけど」
怪異「別に何か特別なことがあったわけじゃない、ただ近くを通って、その子たちのやり取りを見ただけ…でもね、その子たちのことがとても気になったんだ」 怪異「その三人の名前が雪子、月子、花子…いつも楽しそうな三人は私の理想とする人間そのものだった」
怪異「ひっそりとその三人を見守ることがいつしか私の日課になっていた」
怪異「ただ何かになろうとするだけだった私は初めてそれ以外のやりたいことを見つけた」
怪異「私は猫でも人でもないけど、もし人になるならあの子たちのように笑っていたいって思った」
怪異「もし猫になるならあの子のそばでいつまでも仲良くいるのを見守っていたいって思った」
怪異「でもね、そんなのは急に終わっちゃったんだ」 怪異「ある日の夕方、三人の教室の前を通りかかったら雪子ちゃんと月子ちゃんの声がしたんだ」
怪異「2人とも大きな声を出していた。怒ってるんだってわかった」
怪異「近づいて話を聞いてみると、どうやらユキコちゃんが月子ちゃんに貸した本を失くしちゃったらしいんだよね」
花陽「本当にあったんだね。本の貸し借りは」
怪異「間違いないよ。たしかに昼に貸してるところを見たし、さっき見てた昔の新聞とやらのどっかにはそんな話も載ってるはずだよ」
怪異「それまでケンカしてるところなんか一度も見たこと無かったから驚いたな」 怪異「それで、3人のうち雪子ちゃんだけが教室を出て行った」
怪異「しばらくして月子ちゃんが教室を出て行って、教室には花子ちゃんだけになった」
怪異「でね、少しして遠くから雪子ちゃんと月子ちゃんの声が聞こえたんだ」
希「遠く?」
怪異「声のする方にいったら屋上にいく途中の階段に雪子ちゃんと月子ちゃんがいた」
花陽「やっぱり会ってたんだ…」
怪異「三人の教室から帰るならそんなところにいるわけないなって思いながらしばらく見てたんだけどね…」 怪異「雪子ちゃんが月子ちゃんに掴みかかったんだ。『なんで』『どうして許してくれないの』って繰り返してた」
怪異「それでね、月子ちゃんは咄嗟に払い除けようとしたんだけど…ちょっとだけ勢いあまっちゃったみたいなんだよね」
怪異「月子ちゃんの腕が顔に当たって、雪子ちゃんはバランスを崩した」
怪異「雪子ちゃんの体は階段を転げ落ちていって、しばらくは動こうとしてたんだけど、だんだんそれも無くなっていった」
花陽「……月子ちゃんは?」
怪異「月子ちゃんはそれを見てどっかに行っちゃった」 怪異「私は雪子ちゃんどうしたのかなって周りをうろうろしてたんだけど」
怪異「ようやく気付いたんだ。雪子ちゃんの命はもう尽きかけているんだって」
花陽「そんなに気付かないものなの?」
怪異「あのくらいで死んじゃうなんて私たち基準じゃありえないからさ」
希「人が死ぬところに直面するなんてそうそうないだろうしね」 怪異「でね、もう一つ気づいたんだ」
怪異「本当にわずかで、か細い声だったけど、雪子ちゃんが何か言ってたんだ」
怪異「近くに誰かいるってのはわかってたみたいでさ、『月子ちゃんに…返し…て…』って何度も言ってた」
怪異「そうして、雪子ちゃんは無くした本を返せないことを悔やみながらこの世を去った」
怪異「その時、私は願ったんだ『この子になりたい、この子になって願いを叶えさせてあげたい』って」
怪異「そうして気づくと、私は雪子ちゃんを食べていた」
花陽「…食べていた?」 怪異「私もそれが不思議だったんだけど、希ちゃんの話をきいてようやくわかったよ」
怪異「私たちが何かに完全になりかわろうとするなら、その相手を食べるしかないんだね」
希「相手の存在を食らって自分の中に取り込むっていう霊的な意味もあるんだろうけど、単純に死体であっても見つかったら都合が悪いもん」
希「同じ人は二人いないから、相手を消す必要がある…しかも跡形もなくね。そのためには食べてしまうのが一番」
怪異「あ、でも一つだけ言わせて」
怪異「私が人を食べたのは後にも先にもその一回きりだし、私たちは人を食べるのが目的の怪異じゃないからね」
花陽「待って、じゃあ…その…」 花陽「月子ちゃんが雪子ちゃんを殺して、あなたはそれを無かったことにした?」
希「というより、結果的に無かったことになったってのが正しいかな」
花陽「でも、そんな話どこにも無かった。雪子ちゃんは行方不明になったってだけしか」
希「このことを知っているのは月子ちゃんだけ…それで何も明らかになってないってことは……そういうことやね」
希「月子ちゃんに何かを隠す意図はあったんだろうけど、言えなくても責められないよ」 希「だって死体が無くなったんだよ?殺しちゃったはずのに死体が無いですなんて言ったところで誰も信じない」
希「こういう言い方は良くないけど、都合の悪いことは隠したがるのが人間だしね」
怪異「あの日、雪子ちゃんと月子ちゃんに何があったか…だっけ?」
怪異「花陽ちゃんが知りたかったのはこれでしょ?」
花陽「…あなたが雪子ちゃんを襲って食べたとか、そんな話の方がよっぽどましだった」
花陽「殺しちゃったはずの人が死体も見つからず行方不明、そんなのが続けば月子ちゃんが追い詰められるのもわかるよ」 希「で、まだあなたの話は終わりじゃないよね?」
希「むしろこれがはじまりだった…違う?」
怪異「そうだよ。そこからはじまったんだ」
怪異「私は雪子ちゃんを食べて雪子ちゃんになれた…」
怪異「嬉しかったよ。私は人間になれたんだ。雪子ちゃんの命と引き換えだったけど」
怪異「本を探して月子ちゃんに返す、そのために私は人間になったからそれを全うしようって決めたんだ」 怪異「それで、私の本探しが始まったんだ。私の願いを叶えるためと雪子ちゃんへの恩返しのために」
怪異「人間にも仲間たちにも見つからないようにこっそりとね」
花陽「仲間って、あの黒い影だよね?あれに見つかってもダメなの?」
怪異「死体とはいえ人を食べたからね。私はあいつらから見たら道を外れた同族でしかないんだよ」
怪異「だから、見つかるたびに追い出された。今日は穂乃果ちゃんとか海未ちゃんのおかげで手は出されなかったけどね」 怪異「本を探しながら私はもっと雪子ちゃんに近づけるように練習した」
怪異「月子ちゃんはあんまり外に出てこなくなっちゃったけど、そのおかげで私は本が見つからないまま月子ちゃんに会うことはなかった」
怪異「それでね、半年くらいかけて本は見つからなかったけどやっと満足のいく雪子ちゃんになれて、月子ちゃんもまた外に出るようになったんだけど」
怪異「それで学校に来た月子ちゃんと花子ちゃんを見て思ったんだよね。私はどこまで雪子ちゃんなんだろうって」
怪異「それに私、本の外見くらいしか知らなかったからさ。なんとかして本のこと聞き出せないかなって」
怪異「ほら、なんかあるでしょ?死んだ友達の霊が現れて…みたいな」 怪異「それで二人に声をかけたんだけど…」
希「…まあ、逃げるよね。自分が殺した子が話しかけてきたら」
怪異「私、月子ちゃんを追いかけたんだ。雪子ちゃんは最後まであなたと仲直りしたかったんだよって言いたかったから」
怪異「それで、なんとか追いついたんだけど、月子ちゃんは気を失っちゃって、騒ぎを聞きつけた人が集まってきたんだんだ」
怪異「集まってきた人たちは倒れてる月子ちゃんを見て驚いていたけど、それと同じくらいそばにいる私を見て驚いていた」
怪異「『雪子ちゃんが帰ってきた』ってね」 怪異「私は、完全に雪子ちゃんになれたんだと思った」
怪異「月子ちゃんは目を覚さないけど、目を覚ましたら雪子ちゃんとして謝って、いつか雪子ちゃんのかわりに本を見つけて返そうって思ったんだ」
怪異「いなくなってた半年のことをきかれた時は困ったけど、何も話せずにいたら記憶喪失ってことで片付けてもらえたんだ」
怪異「はは、便利だよね。記憶喪失って言葉は」
怪異「…っと、横道にそれたね」
怪異「それで、ようやく月子ちゃんが目を覚まして、私は花子ちゃんと二人で会いに行ったんだ」
怪異「その結果は、もうわかってるよね?」 怪異「私は雪子ちゃんになれたはずなのに、月子ちゃんに認めてもらえなかった」
怪異「どうしてこうなったかわからなかったんだ。それで思ったんだよね、月子ちゃんは記憶を無くしちゃったんだって」
怪異「それに雪子ちゃんは月子ちゃんへ本を返してほしいって言ってた…本が無いから、だからダメだったんじゃないかって」
怪異「本を持っていけば思い出してくれるかもしれない、そうしてあの日のケンカのことを謝れば、また仲良くなれる」
怪異「そう信じて私は、また本を探しに行ったんだ」
怪異「ずっと探していたよ。いつからか昼間は人がいなくなって、夜は仲間たちが多くなったりしたけど」
怪異「私は探しつづけた。そうしないと、月子ちゃんに本を返せない、謝れないもん」 怪異「凛ちゃんはね、そんな私に協力してくれたんだ。学校の近くでばったり会っちゃってさ」
怪異「『凛にそっくりにゃー』って驚いてたけど、事情を話したらμ'sに会って協力してもらえばいいんじゃないかって言ってくれた」
怪異「μ'sなら私の話をきいてくれるって言ってくれた」
怪異「きっとμ'sのみんななら助けてくれる。とくにかよちんはすっごく頼りになるんだよ、って…」
怪異「凛ちゃんの真似は結構すんなりできた…と思ったんだけど、まだまだ甘かったかな?気づかれちゃった」
希「なるほどね、それがあなたの物語か」
希「花陽ちゃん、わかったよね?この子の救い方」 花陽「うん、私にもわかったよ。希ちゃんのくれたメールの意味が」
花陽「ねえ?怪異さん、あなたはね…重大な勘違いをしているよ」
怪異「勘違い?何が?」
花陽「あなたは雪子ちゃんになったって言ったけど、そんなのできないんだよ」
花陽「あなたがどれだけそっくりになろうと…あなたは雪子ちゃんになんてなれない。凛ちゃんのふりをしても凛ちゃんにはなれない」
怪異「…何を言ってるの?だって、私たちは相手を真似てなりかわる怪異だって、希ちゃんもそう言って…」
希「言ってないよ…」 希「ウチはちゃんと伝えたよ?…あなたたちは真似てなりかわ"ろうとする"怪異だって」
希「あなたたちは何かになろうと真似をする、でもね…真似をして近づくことはできても終わりはないんだよ」
希「"何かになろうとする"こと自体があなたたちの本質なんだから」
希「たとえ、99パーセント近づけても残りの1パーセントが、99.9パーセント近づけても0.1パーセントが邪魔をする…」
希「真似をし続けて…時には相手を食らっても、完全に同じにはなれない壁に阻まれつづける。それがあなたたちなんよ」
怪異「違うよ。だって私は…雪子ちゃんを食べて、雪子ちゃんと仕草も言葉づかいもそっくりにして」
希「形だけは真似できた。でもそれだけ」
怪異「嘘だ!」 怪異「だって私のことをみんな雪子ちゃんだって言ってくれたんだよ!」
希「みんな、ではなかったでしょ?」
希「一番認めてもらいたい人には認めてもらえなかった…そうでしょ?」
希「本当はもう気づいてたんやない?」
希「雪子ちゃんの願いを叶えるために雪子ちゃんの姿になったはずが、あなたは雪子ちゃんの願いもあなた自身の願いも叶えられない選択をしてしまったんよ」
希「あなたが雪子ちゃんに近づけば近づくほど、あなたは月子ちゃんに拒絶される存在になる」
希「月子ちゃんにとって雪子ちゃんは罪の象徴なんだから…」 怪異「それでも、それ以外の人は認めてくれた…雪子ちゃんって言ってくれた」
希「雪子ちゃんが戻ってきたって言ったかもしれない、喜ばれたかもしれない。でもね…それは、あなたという存在がちょうど良かっただけなんだよ」
希「真似をしているあなたを雪子ちゃんにすれば色んな問題が解決するから、だからあなたを雪子ちゃんだということにして喜んだ」
希「そこにあなたの努力も願いも関係ない、別にあなたが何をしようとしなかろうと、形がそれっぽいならよかった」
希「あなたは雪子ちゃんになったんじゃない、雪子ちゃんにされたんだよ…」
希「身勝手な人間の都合で、あなた本来の形を歪められてね」 希「…まったく悪趣味な笑い話だよ」
希「何かになろうとしたあなたの行き着いた先は、『見た目が同じだからどうにもできない』と『見た目が同じなら何でもいい』なんだから」
希「だから、あなたはみんなの前から消えたんやない?」
怪異「違うよ。みんなの前から消えたのは、本を探すために…」
怪異「本を探して、月子ちゃんに返して、雪子ちゃんの代わりに謝るために…」
希「……それで、その先はどうするつもりだったん?」
怪異「その先って…」 怪異「……そんなの知らないよ。私はただ、なりたかっただけ。何かになりたかっただけ」
怪異「…そうして、失敗しただけだよ」
花陽「……失敗」
希「やっぱり、気づいてたんだね」
怪異「そうだよ、気づいてたよ。私は何にもなれなかった」 怪異「『あなた誰』って言われた時、何も答えられなかった…それまで積み上げたものが一気に崩れたんだ」
怪異「いくらだって嘘をついて逃げられたのに、私は雪子ちゃんだよって言い張れば良かったのに」
怪異「周りが言うのに合わせて雪子ちゃんのふりをしていれば、うまくいったかも知れないのに」
怪異「あのたった一言で私は誰でもないって思い知らされたんだ…」
怪異「それを認めたくないから、あの手この手で目を背けて…何十年もあるかわからない本を探すことで自分を納得させてた」
怪異「バカだよね…『あなた誰』なんて一言、無視すれば良かったのに」 希「ううん、あなたはそれで良かったんだ」
怪異「え?」
希「そんなあなただから、凛ちゃんも花陽ちゃんもウチもμ'sのみんなもあなたを助けたいと思った」
希「そしてね…」
希「ただひたすらに何かになろうとして、『あなた誰』という言葉に傷つきながらもここまで来たあなただから、ウチらはあなたを救うことができる」
希「花陽ちゃん、メールの最後の文は覚えてるよね?」
花陽「うん」 花陽(希ちゃんからのメール、その最後にはこの子を救う方法が書いてありました)
花陽(『あの子を何者でもない怪異に戻してあげる』『何者でもないからあの子なのだと気づかせて、あの子の話をきいてあげる』)
花陽(見た時にはちんぷんかんぷんでしたが、今ならわかります)
希「あなたはね、あなたなんだよ」
希「今こうして、あなたはこれまでを語ってくれた」
希「だからウチらは語り継ぐ、他の誰でもないあなたの物語を」 希「こんなご時世だもん。ネットのどこかにでも書き込めば誰かが見る…そこにあなたの物語が生まれて形を持つ」
希「あなたは何にもなれなかった…だけどね」
希「これから、あなたは他の何者でもないあなたになるんだよ」
希「人々の好意も悪意も渦巻くネットの海では毎日いろんな噂や魔物が生まれる」
希「そこに誰も知らなかった真偽も定かじゃない話を放り込んだら…そこに語られた誰かさんは"何か"になるんやない?」
希「特別な力なんか必要ない、名前もない何者でもない誰かが誰かを救う…これが現代の人間の編み出した救い方なんよ」 怪異「ふふっ、そうか…いつの間にかそんなこともできるようになったんだね人間は」
怪異「最後の最後に救われちゃったな」
花陽「そうだ、最後…さっきも言ってたけど、最後って…」
怪異「うん、もう少し大丈夫だと思ったんだけど、ダメみたい」
怪異「何十年も私を動かしてきた約束、多分もう限界を超えていた私を支えていたものが壊れちゃった」
希「月子ちゃんに本を返す、あなたの約束には避けられないタイムリミットがあった」 怪異「うん、学校が取り壊されようと本が見つからなくなることはないんだろうけど」
怪異「月子ちゃんがいなくちゃ、返すことなんてできないよね」
希「だから、タイムリミットってのは…」
怪異「うん、そうだよ。月子ちゃん、もう月子ちゃんって歳でもないんだけど、その人がもうそろそろ危なくてね…ていうか、ついさっき亡くなったみたい」
怪異「はっきりとわかるよ。私の中から私を繋ぎ止めていた何かが消えていく」
怪異「本一つまともに見つけられなかった、何者にもなれなかった私だけど…これからでも何かになれるのなら無駄じゃなかったのかな?」
怪異「せいぜい面白おかしい笑い話にしてよ」
花陽「…最後に…一つだけ、聞いてもいいかな?」 花陽「ことりちゃんを見つけた時、あなたはことりちゃんの一番近くにいた。まるで他の影がことりちゃんに近づけないよう守っていたみたいに」
花陽「その後だって…あなたはわざわざことりちゃんを抱えて私たちの追いつけるような速さで逃げて、保健室の前で止まった」
花陽「まるで、そこにことりちゃんを運ぶのが目的だったみたいに」
花陽「あなたはことりちゃんを助けようとしてくれてたんだね」
怪異「うーんどうなんだろ?」
花陽「最後まで、誤魔化すの?」
怪異「答えてあげてもいいけど、先に私の質問に答えてもらってからでもいい?」
怪異「いつから私が凛ちゃんじゃないかもしれないって気付いてたの?」 花陽(ああ…そういえば…私、それについては言ってなかったですね)
花陽(そうですね、満を持してのネタばらしといきますか)
花陽(もしかしたら勘のいい人は気づいていたかもしれません)
花陽(疑惑ははじめからあった、その根拠を今、言いましょう)
花陽「最初に私に話しかけてきた時、あなたは致命的なミスをしたんだよ?」
怪異「ミスって?」
花陽「食べたよね…私のおにぎり?」 怪異「うん」
花陽「おいしかった?」
怪異「そうだね」
花陽「そう…良かった、気に入ってもらえて」
花陽「私の渾身の、塩鮭おにぎり」
怪異「………?」 希「ふふっ、そういうことか…どうりで…」
希「どうりで花陽ちゃんだけがかなり早くから気づいてたわけだ」
花陽「あのね、凛ちゃんが言い忘れてたんだろうけど」
花陽「凛ちゃんはお魚…食べられないんだよ」
希「まったく、ネコみたいなのにそこダメなの?って思うよね」
花陽「あなたは真似するの上手いみたいだけど、まだまだ修行が足りなかったね」
花陽「そんなのじゃ、幼馴染の目は誤魔化せないよ」 怪異「そっか、凛ちゃんっぽく振る舞おうとして元気になりすぎちゃったかな…」
怪異「もう少し、猫…被っておけばよかったかな…なんて」
花陽「ううん、たとえあそこをうまくやっていても必ず私は気づいたよ」
花陽「凛ちゃんと私の関係を利用しようなんて泥棒猫さんにはだまされないもん」
希「いやいや、注意するんは花陽ちゃんだけやないよ。ウチらμ'sは猫も杓子も油断ならないんやから」
怪異「ははっ、最後の最後にこんな子たちに会えるなんてね。これは三日どころか何十年も恩を忘れなかった甲斐があるよ」 怪異「…ねえ、お願いしてもいいかな?」
怪異「もし、あなたたちがあの本を見つけたらさ…月子ちゃんのお墓にでも返してくれない?」
怪異「それで、雪子ちゃんが最後まで月子ちゃんのことを思ってたことと、あと私が『ごめんなさい』って言ってたことを伝えてもらいたいな」
花陽「わかったよ…まかせて」
花陽「あなたの語ってくれた話はハッピーエンドで終わらせないとね」
怪異「で、さっきの質問…ことりちゃんを守ろうとしたかどうかなんだけど」
怪異「見てほしいものがあるんだよね。ちょっと…これ見てもらってもいいかな?」 花陽(怪異さんが言った"これ"を見ようと私も希ちゃんも怪異さんの手に注目したその時)
パァン!
花陽(破裂音?咄嗟に私は目を閉じてしまいました…恐らく希ちゃんも)
花陽(目を開けると)
花陽「……あれ?」
花陽(怪異さんは…もういませんでした) 希「これは、やられてしまったね」
花陽「希ちゃん、さっきのって」
希「そうだね。あの子が知ってたかはわからないけど、味な真似してくれたやん」
希「相手の目の前でいきなり手を叩いて隙を作り出す…相撲なんかでもたまに使われる技…その名前は」
花陽「猫騙し……」
希「まったく…猫でも人でもどっちでもない、どっちつかずの怪異さんらしい消え方だよ」 〜翌日〜
花陽(あれから、私と希ちゃんはそれぞれの家に帰りました)
花陽(怪異さんはもう限界を迎えていて消滅してしまった…はずですが、本当のところ、どうなったかはわかりません)
花陽(冷静に思い返してみると限界だったというのは嘘かもしれない、それどころか昨日の夜にしてくれた話も全部嘘かもしれない)
花陽(だけど、あの話は本当なんだと私は信じることにしました)
ピンポーン
花陽(さて、昨日一日私たちを振り回した仕掛け人とご対面です) 凛「あ、かよちん…えっと、その、昨日は学校探検楽しかったね!いや、あはは…かよちんだけじゃなくてみんなもちゃんと来てくれたよね!あ、もちろん凛は元気だよ!昨日ちゃんと練習出てたでしょ?」
凛「いやー、ほんっとーに学校探検楽しかったね!凛はちゃんと覚えてるよ。で、本は見つかったんだっけ?あ、これはその…ちょっと昨日のことを思い返したいなって意味だからね!」
花陽「……」
凛「えっと、昨日は学校で本を探したんだよね?」
凛「それで、その…昨日はどうなったの?……って、あれ?この聞き方じゃおかしいか…えっと」
花陽「…ふふっ」
凛「かよちん…えっとね…」 花陽「…凛ちゃん、嘘つくならもう少しうまくやろうね」
花陽「やっぱり、あの子はすごいね。8人相手に嘘をつき通そうとしたんだもん」
凛「あの子って…」
凛「もしかして……かよちんは知ってるの?」
花陽「そうだよ。いっぱいおしゃべりしたんだから」
花陽「もう、あの子のことだったら凛ちゃんよりも理解してるかもね」
凛「そっか…あ、じゃあ他のみんなも」
花陽「そのあたりも含めてちょっとお話ししようか」 花陽「もしかしたら、私の知らないことを凛ちゃんが知ってるかもしれないからね」
花陽(あの子の言っていた通り、凛ちゃんは無事でした)
花陽(昨日のことを問い詰めたところ、どうもかすみちゃんのところにいたらしいです。歩夢さんとゲームして楽しかったとかなんとか)
花陽(後でみんなに昨日のことをきかれて困ったりするかもしれませんが、そこは何とかフォローしてあげましょう…幼馴染ですからね)
花陽(これにて一件落着…かと思いきや、まだ話は続きます)
花陽(ほとぼりが冷めた頃、私は希ちゃんに家まで来てほしいと言われました) 〜怪異遭遇から数日後〜
〜希の部屋〜
希「いらっしゃい」
花陽「お邪魔します」
希「さてと、コーヒーしかないけどいいかな?」
花陽「あ、えと…ありがとう」
希「花陽ちゃん、あの子の話…どれくらい書けてる?」
花陽「うーん、その…」 花陽(あの子の話を残す、それを広める、その約束のために私はあの子についての話を書いているわけですが)
花陽「もう少し形になってから見せたい…です」
希「苦戦してるね」
花陽「何か足りないなって思うんだけど、何が足りないかわからないんだ」
花陽「私、そんなに物語とか読む方じゃないんだよね。今度花丸ちゃんとかしずくちゃんにおすすめの本を教えてもらおうかな」
希「花陽ちゃんが感じたことを素直に書けばいいんだよ」
花陽「感じたことを素直にか…」 花陽「私は最初、あの子が凛ちゃんを襲って凛ちゃんのふりをしてるとか考えてたんだ」
花陽「あの話に実際の事件が関係あるって知った後も雪子ちゃんを襲って食べたとか、そんな答えを考えてた」
花陽「でも、蓋を開けてみたらそんなことはなかった…あの子は人間のやったことに巻き込まれて道を踏み外しただけだった」
希「誤解してる人も多いんだけどね、怪異だってむやみに人を襲ったりしないんよ」
希「現にあの夜だって危害は加えて来なかったし、花陽ちゃんの話を最後まで聞いてくれたでしょ?」
花陽「…あ」
花陽(たしかに人よりは力もあるだろうあの子が私の話をご丁寧に聞く必要なんてないです) 花陽(振り返ってみれば、凛ちゃんのことで頭に血が上ってたとはいえ、なんとも無謀なことをしていました)
花陽(それこそ私を殺して逃げることもできたわけなんですから)
希「それに学校にいたあの子の仲間だってそんなに積極的に襲ってきたわけではないんじゃない?」
花陽「あれ?そういえば、せいぜいことりちゃんが連れて行かれたくらい?」
希「ことりちゃんだって別に襲われたわけじゃないと思うよ」
希「聞いた話だとことりちゃんがいなくなる前にみんな体が重くなって気を失ったり、扉が開かなかったりしてたらしいやん」
花陽「ああ、そういえば」 希「あの場所には人と猫の怨念が渦巻いている、それを鎮めるための猫塚が管理されなくなったことで怨念を鎮められなくなっていた…前にも話したよね」
希「そのせいであの場所は霊障…えっと霊とかが原因で起こる不可思議な現象ね、それが起こってもおかしくない場所になってたんよ」
希「あの怪異たちとは関係なく…ね」
花陽「あ、そうか。怪異さんが引き寄せられる前も事故や事件が多かったって話だもんね」
希「そんな場所であの怪異たちは生きていた。怪異たち自身も自分らの棲家がだんだん危なくなってることは知ってたんやない?」
花陽「あの子が希ちゃん無しで学校に入るのをためらってたくらいだから知ってたはずだよ」 希「そんな場所に誰かが入ってきて、その人たちが危険に晒されたわけだよね?」
花陽「あ…」
希「これはウチの推測だけど、あの子か他の黒い影か知らないけど、霊障にはまって危なくなったみんなを助けようとしたんじゃない?」
希「それでなんとかことりちゃんは避難させたところで霊障がおさまってみんな目を覚ました」
希「ウチが駆けつけた時に囲まれてたけど、あれは人を食べた同族を見張っていたって以外にも変なところに行かないように止めていたのかも…なんて」 希「まっ、こんなのは好意的にも悪意的にもいくらでも解釈できるわけだけどね」
希「それに人をむやみに襲わないってだけで、裏を返せば襲うに足る理由があれば容赦なく襲ってくるのが怪異だからね」
希「関わりすぎちゃうのもどうかなとウチは思うよ」
花陽「なんか、聞けばきくほど混乱してくるよ」
希「そう、でもね…この後の話はもっと混乱するかも」
希「あの子が探してた本、雪子ちゃんが失くした本ね…見つかったんだ」 花陽「え!」
花陽(あの子がずっと探して、何十年も見つからなかった本…それが見つかった?)
花陽「じゃあ、返しに行くんだよね!あの子と雪子ちゃんが最後まで叶えたかった願いを…」
希「花陽ちゃん、それは……無理だよ」
花陽「無理って…なんで?」
希「この本はね、もう返された後なんだよ」
希「…この本、どこにあったと思う?」 花陽「どこって…」
希「あの話に出てきた三人目の女の子、花子ちゃんの家だよ…」
花陽「え、待って…なんで」
花陽(花子ちゃん…雪子ちゃんと月子ちゃんの友達で、あの話にも何度か出てきた子…)
希「あの子が言っていたように裏表紙にひまわりの絵もある」
希「花子ちゃん…まあ、もう亡くなってるんだけど、生前の本人の証言もある」
希「間違いなくあの話の本だよ」 希「花子ちゃんが亡くなる前に本を月子ちゃんに返してって親族の方に頼んだらしいんだけど…親族の方は返すかためらってたんだって」
希「でも、月子ちゃんが亡くなったって聞いて返す決心がついたとかで、両方の親族の方々の間でようやく返すことができたらしいんだ」
花陽「え…ちょっと待ってよ…」
花陽「なんで…返すのをためらうの?」
希「いやそれよりもだよ…」
花陽「なんで?」
花陽「なんで…そんなところに本があるの?」 花陽「…そ、そっか!花子ちゃんが本を見つけて…」
希「そうじゃない…ウチもこんなのが真実だなんて思いたくなかったけど、でも当の本人が話してたらしいんよ」
希「本が無くなった原因は花子ちゃんだったんだ」
希「ううん、もっと正確に言うと…花子ちゃんが犯人だったんだ」
花陽「犯人って…」
希「花子ちゃんが本を盗んで隠したんだって」
花陽「…?」 些細なイタズラが大事になったら、怖くて言えなくなっちゃう 希「弱気で目立たない自分はいつも二人の言いなり、三人組なんて周りは言うけど、自分は雪子ちゃんと月子ちゃんの仲裁役…いつも損な役回り、花子ちゃんはそう思っていたらしいんよ」
希「この本にしたって先に借りたいと言ったのは花子ちゃんなのに月子ちゃんは雪子ちゃんに貸した」
希「それで悔しくて…つい、魔が差したんだって」
希「二人に気づかれないように、こっそり雪子ちゃんの鞄から本を抜き取って自分のカバンに入れた」
花陽「………」
希「ちょっと意地悪したかっただけらしいんよ。本が無くなったって雪子ちゃんが慌てて、それでまるで自分が本を見つけたかのようにふるまって」
希「二人に、もっと自分を大事にしてもらいたい…そんなほんの出来心だったらしいんよ」 希「だけど、事態は花子ちゃんの思いもよらない方向に進んだ」
希「雪子ちゃんと月子ちゃんは花子ちゃんが思っていた以上のケンカを始めてしまった」
花陽「それで本がどうとかいう話じゃなくなっちゃった…か」
希「雪子ちゃんがいなくなって、月子ちゃんが不登校になって…出来心で隠した本は、悲劇の引き金になってしまった」
希「無くなった本を手元に抱えながら花子ちゃんは悩んだらしいんだ。真実を話したところでもう取り返しはつかないって」
花陽「本を返したところで、月子ちゃんに辛い思いをさせるだけだもんね…」
希「そして、あの怪異さんが雪子ちゃんとして保護されるわけだ」 花陽「そうだ、雪子ちゃんは一度帰ってきたことになってるわけだよね?正体はあの子だったし、すぐにいなくなったけど…」
花陽「だったら本をなんとかするタイミングはなかったの?」
花陽「あの子は本を探してたんだよ?花子ちゃんが持ってるってわかれば」
希「……」
希「そうなんだよ。花子ちゃんは雪子ちゃんの姿のあの子に会ってるはずなんだよね」
希「あの子が雪子ちゃんとして保護された日、月子ちゃんは花子ちゃんと一緒に帰ってた。あの怪異だって二人に声をかけたって言ってた」 希「雪子ちゃんとして振る舞おうとしていたあの子が、仲良しの花子ちゃんと話をしなかったのか…あんなにも本にこだわっていたあの子が本の話をしなかったのか」
希「………ねえ、花子ちゃんにとって数十年前の事件はどうだったんだろう」
希「いつも二人の言いなりになって損な役回りをするだけだった日々が壊されて、追い詰められていく月子ちゃんを支える役割を花子ちゃんは手に入れた」
希「あの夜の話はあの子の目から見た真実だけど、もしかしたら他の誰かの目から見たら別の真実があったのかもしれない」
希「時には何もしないことで、時には何かをすることで自分の都合の良い展開にしていた人がもしいたら……」
花陽「……もしかして、だけど」
花陽「希ちゃん、怖いこと言おうとしてる?」 希「…はっきり言うのはやめとくよ。さっきも言ったけどこういうのは好意的にも悪意的にも捉えられるからね」
希「一時の気の迷いで悪意で考えて話すのは良くないよね」
希「だけど、事実として本は隠されて、そのせいでケンカになって、一人の女の子が殺されて、何人もの人が巻き込まれて」
希「一匹の怪異が、見つかるはずのない本をずっと探し続けた…」
花陽「はは…学校中探しても無かったわけだよ…あの怪異がたどりこうとしたゴールなんて最初から無かったんだ」
花陽「雪子ちゃんの願いを叶えるために何十年もかけたのにゴールなんて無かった…そもそもスタートが間違ってたなんて」 希「雪子ちゃんの願い…か」
希「ねえ?ちょっと意地悪なこと言ってもいいかな?」
花陽「意地悪なこと?」
希「いや、その…さっきは悪意で捉えるのはとか言っちゃったけど、でも目を逸らすのはどうかと思ったから、これだけは言うよ?」
希「…あの怪異は、雪子ちゃんから『月子ちゃんに…返し…て…』って聞いたんだよね?」
花陽「そうだね」
希「それを『月子ちゃんに本を返して』って捉えた」 希「本当にそう言ってたのかもしれないけど、なんかしっくりこないんだよね…」
希「何を返してほしいかは言ってなかった、というか…そもそも雪子ちゃんは本を失くしてどこにあるかもわからなかったわけでしょ?」
希「本についてだったら願いは『本を探して』とか『本を見つけて』になるんじゃない?」
花陽「あ…そうか」
花陽(あの子も『本を探さないと』『本を見つけたい』って言ってました。見つからないことには返せないんだから当たり前です) 希「『本を見つけて月子ちゃんに返して』が妥当な線なんだけど、あの子は『月子ちゃんに…返し…て…』だけを何度も聞いてるんだよね」
花陽「たまたま最初の方が聞こえなかったとか?」
希「まあ、その辺りが一番なんだと思うよ」
希「でもね、ふと雪子ちゃんの最期の言葉は違ったんじゃないかなって思っちゃったんだ」
花陽「他の言葉だったってこと?」
希「ま、ウチの邪推なんだけどね」
希「例えば『月子ちゃんに借りた本を取り返して』とか」 花陽「ああ、花子ちゃんが鞄から取ったのに気付いてて……ってそれはどうなんだろ?」
花陽「その、気づいてたならそこまで黙ってる必要あるかな?花子ちゃんをかばって黙ってたのかもしれないけど、そうしたら」
希「なんで最後の最後に取り返してなんて言うのかだよね」
希「ウチもさ…他に色々な可能性を考えたんだけど、どうもどっか不自然なんよ」
希「だけど、ギリギリ説明がついちゃいそうな言葉があったんだ…これだと、最悪なんだけど」 花陽「最悪?」
希「雪子ちゃんは最期にこう言ったのかもしれない」
「『月子ちゃんに仕返しして』」
花陽「そんな…そんなの」
希「どんなに謝っても許してくれなかった。仲が良かったはずが、事故とはいえ自分を突き飛ばして、逃げていった、助けようともしなかった」
希「そんな状況ならもしかしたら…って」
花陽「ダメだよ!そんなの、願いでもなんでもない。ただの逆恨みだよ」 希「もしそうならあの子が結果的に月子ちゃんを狂わせちゃったのも説明がつく…のかもしれない」
希「あの子が引き受けたのは仕返しをしたいという願い…ううん、呪いなんだから」
希「それにね…これだったらあの子のタイムリミットが月子ちゃんの死なのも納得なんだよね」
希「相手が死んだら仕返しできんやん?」
花陽「……」
希「……ごめん、悪ふざけが過ぎた」 友達に陥れられて、後悔か怨恨かどちらにせよ報われない思いのまま死んでしまい、怪異に食われて死すら無かったことにされた雪子
不幸にも雪子さんを殺してしまい、何年も誰にも知られない罪を抱えたまま真実を知ることもなく亡くなってしまった月子
ほんの少しの嫉妬から取り返しのつかないすれ違いを作ってしまった、どころかそれ以上のことをしたかもしれない花子
仲良し三人組だったはずの三人の運命はいとも簡単にねじ曲がってしまった いや、そもそも…三人は本当に仲良し三人組だったのか?一人はその関係を自ら否定したが残り二人はどうだったのか?
事故とはいえ階段から突き落としたのを助けようともせずに立ち去る関係を、何年も本を隠していたことを黙って友人として振る舞う関係を
仲良し三人組と呼ぶのか?
そんな三人に振り回されて、もしかしたら願いさえ誤解して、ゴールのない苦行を続けた一匹の怪異は三人を仲良しと信じていたが…こんなのは 花陽「…誰も救われてないよ」
希「花陽ちゃん、あの日ウチらは怖いもの見たさにあの廃校舎に入った」
希「あの怪異に関わって怖い思いもした」
希「でもね、どんな怪異よりも恐ろしいものがあるんだよ」
希「人間はね、時にどんな怪異よりも周りを不幸にできるんよ」
花陽「私たちも、そうなのかな…」
希「…ウチは周りに幸運を振りまくラッキーガールで通ってるけど、それでも誰も不幸にしてないなんて言えない」 希「だからこそね、ウチは思うんよ。ウチの手で幸せにできるものは幸せにしたい」
希「いろんなものに振り回されてしまったあの子をウチや花陽ちゃんが救えるなら、そこに賭けたい」
希「語り継ぐことであの子が救われるなら救いたいって思う」
希「だから、花陽ちゃんにも協力してほしいかな」
花陽「私だってあの子を救ってあげたいよ。何十年もかけて無駄なことをしていたかもしれないなんて聞いたら余計に救ってあげたいよ」
花陽「でも、私に書けるかな?…私、お話なんて書いたことないよ?」 花陽「あの子と過ごしたのなんて一日もないんだよ?」
希「それでも、やっぱりウチは花陽ちゃんに書いてほしいかな」
希「ウチは色々な知識があって、それであの子を見て助けたいと思った…でも、花陽ちゃんはそうじゃない」
希「凛ちゃんじゃないと気付きながら、危険かもしれないと思いながら、それでもあの子に歩み寄ろうとした」
希「そういう人が書いてくれた方が、きっとあの子も喜ぶよ」 花陽「喜んでくれるかな?」
希「当たり前やん、花陽ちゃんにそこまで思ってもらえるなんて光栄なことだよ」
希「それにね。花陽ちゃん以上の適役なんてウチは思いつかない」
希「なんだかんだ、今生きてる人の中で一番あの子と付き合い長いのは花陽ちゃんなんだから」
花陽「そうだね…」
花陽「私、書いてみるよ。あの子の話を」
希「おっ、上手いこと乗せられてきたね」 花陽「うん、乗せられてあげるよ。あの子のためにもね」
花陽「じゃあ、まずは…再調査と考察の再検討だね!」
花陽「まだたくさん残ってるもやもやをなんとかしないとね」
希「お…おお、随分やる気やん」
花陽「あれだけ真実だなんだのって言ったんだよ?適当なことなんて書きたくないよ」
花陽「うん、この話は小泉花陽の一世一代の快作にしてみせるよ!そうだね、花丸ちゃんとしずくちゃんにオススメの本を紹介してもらって…」
希「その結果出来上がるのは怪異のオカルト話なんだけど…まあ、花陽ちゃんらしいといえばらしいのかな」 希「ねえ?あの子もあちこち誤魔化して話を作ったわけだし、あんまりこだわり過ぎても」
花陽「ダメだよ!あの子のための最高傑作なんだから妥協も誤魔化しもありえません!」
花陽「さすがに登場人物の名前くらいは変えますけど、私の限りなく真実に近いフィクションであの子を救ってみせるよ!」
花陽「ふふ…私がこだわるのはお米だけじゃないんだから!」
希「まあ、ここまで本気ならあの子も浮かばれるかな」
希「何かききたいことあったら聞いてね。自分で言うのもなんだけどウチは経験豊富よ?」 花陽「あ、そういえば…気になってたんだけどいいかな?」
希「何?」
花陽「あの子が探してた本のタイトル、見つかったってことはわかったんだよね?」
希「ああ…それね…ふふっ」
花陽「???」
希「うん、これはいいネタになると思うよ」
花陽(希ちゃんが手渡してきた本、そのタイトルを見て、私はクスッとしてしまいました) 花陽(少し前まで1000円札になっていた、とある作家の有名作です)
花陽(とても有名な話だし、誰だって出だしくらいは聞いたことありますよね?)
花陽「吾輩は猫である…名前はまだ無い」
希「どこで生(うま)れたか…とんと見当がつかぬ、だね」
花陽「そっか…あの子はこれを探してたんだ」
花陽「……あ!!!」
花陽(その時…ビビッときました!話に足りないものが何か) 花陽「名前……」
希「ん?」
花陽「名前だよ!あの子に名前をつけるのはどう?」
希「あー、そういえば…あの子とか呼んでたけど、名前か…うーん」
花陽「ダメかな?」
希「名前をつけるってのは特別な意味を与える行為なんよ」 希「本来なら怪異にホイホイ名前をつけるのは避けた方がいいんだよ。名前をつけることで怪異が思わぬ力をつけることもあるし…」
希「とはいえ、今回はその相手は多分もういないんだよね…それにまあ、名前をつける利点もあるのかな」
希「まあ、なんかあったらその時に考えればいいか…で、どんな名前にしたいの?」
花陽「あー、その…」
花陽(今さっき思いついた名前を希ちゃんに伝えます) 花陽「……というのを考えたんだけど」
希「ぷっ、何というか…まあ…ええんやない…くくっ」
花陽「笑わないでよ…」
希「ごめん、ごめん…」
花陽(とりあえず、名前は決まりました…あとは、気長に書いていくことにしましょう)
花陽(何十年もの日々を、ただひたすらに何かになろうと願い生きた一匹の怪異の、限りなく現実に近い怪奇譚を)
〜完〜 怪異名【真似し猫子(まねしねこ)】
とある夏の一日、μ'sが出会った怪異
人や猫を真似する習性を持つ怪異の一族の一匹
命名者は花陽で、この名前は花陽たちが出会った一匹のみを指した名前である
本来ならば怪異単体に名前をつけることは危険だが、
・すでにいないと思われること
・人を食うという禁忌を犯した個体にあえて名前をつけて特別視することで、他の個体が禁忌を犯すことを防ぐ効果が見込まれる
・名前をつけることで「何かになりたい」という願いがより成就しやくすくなるのでは
といった理由から名前をつけるに至った
名前の由来は幸せをもたらす猫として語り継がれてほしいということで「招き猫」と怪異の性質を表す「真似し子」をもじったらしい(花陽談) やっと終わりました…
まずこんな長くなったにもかかわらず飽きもせず付き合ってくれた物好きの方々ありがとうございます
風呂場の電気が謎のご臨終したり、完結に近づくほどによくわからない頭痛と吐き気が襲ってきたりしましたが完走です
ということで書いた感想です
初めに考えてたのよりもかなり長くなりました…2万字くらいで終わるかなと思ったら倍以上になりました
話を二転三転させてみようかなと書いてみたら、広げた風呂敷に説明力が追いつかず、どう書いたものかと自分が床を二転三転するはめに
途中で最初の方に書いた内容が頭から飛んでるので描写の食い違いとかあるかもしれませんが、そこは上手いこと補完してください
スレタイ見て思った人がいるかもしれませんが、実はシリーズもののつもりで書き始めました
途中、Aqoursとかニジガクが絡んだシーンはそこに絡ませる予定、ですがそれをいつ書くかは未定です
とりあえずしばらくは休みます ラストうまかったです。ホラーの知識が相当あるようですぬ 解決パートが長い上に対話中心で動きがないからちょっと退屈したかも
前半が躍動的でハラハラしただけに 長編乙
楽しめたよ
> よくわからない頭痛と吐き気が襲ってきたりしました
ただのワクチンの副反応だからキニスンナ 作者さん乙
ホラー風の通り怖いで終わらせず一つの現象を掘り下げていったり
怪異の視点に立った配慮もすこ 最近亡くなるという事は月子花子は70〜80歳くらいか
となると悲劇の発端は60年くらい前ということに
その頃にコンクリート造の校舎って珍しそうだな と思ったけど2020-60=1960年前後ならそうでもないのかな? ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています