果林「K.A, 203X SS coll. VW」
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203X年10月某日、19時28分。
果林「Well done. (よくやってくれたわ)」
果林「――I appreciate your dedication to making this show special. (今回のショーのために頑張ってくれてありがとう)」
果林「Are you guys ready? (準備はいい?)」
「Parfait, Karin」「I'm ready」「うん!」「はいっ!」「Allez-y!」
「OKだよ〜」「Yeah!」「Preparez la musique!」「Oui, madame」
果林「ふふっ――」
果林「モデルの皆も頑張ってね」
果林「Commencons! (始めましょう!)」
――19:29:57
――19:29:58
――19:29:59
――19:30:00
♪
KARIN ASAKA
203X Spring - Summer
Collection
"VIVID WORLD"
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203X年、7月。
朝香は――苦悩していた。
果林「……」ペラッ
果林「……違うわね」
パリ郊外のアトリエ。
デザインチームから送られてきた様々なモチーフやアイデアに目を通す女性。
自身の名を冠するファッションブランドKARIN ASAKAを率いるディレクター兼、デザイナー――朝香果林その人である。
果林「あの……これ、見てて楽しいかしら?」
「大丈夫です」
果林「そう?」
「ええ」
果林「ならいいけど……」ペラッ
果林「……」ペラッ
果林「……」ペラッ 高校時代からの盟友であり、朝香のビジネスパートナーでもある近江は語る。
彼方「まあ、うちにとって初のパリコレなんでねぇ……会社も、果林ちゃ――朝香も勢いのある今が勝負時だと思ってます」
彼方「だから拠点もフランスに移しましたし」
彼方「私も、手伝えることは何でもやりたいっていう感じですかね」
「普段は果林ちゃんって呼ばれてるんですか?」
彼方「あははっ……それ聞きます?」
近江はブランドの実務面を担う責任者だ。
近江と朝香は、高校在学時、同じ同好会に所属しスクールアイドルとして活動していた。
彼女はデスクの棚からアルバムを取り出し、その当時の写真を見せてくれた。
彼方「懐かしいなぁ……」
彼方「これ、見せたのは朝香には内緒で」
数年前まで近江は東京のある企業で広報の職に就いていたが、
新たにブランドを立ち上げるという朝香からの打診に、躊躇うことなく飛び乗った。
近江は当時勤務していた会社を辞め、ブランドに参画。朝香と共に会社を軌道に乗せることに成功し、今に至る。
朝香の良き理解者である近江は、クリエイションとビジネスを繋げる会社にとってのキーパーソンだ。 ――東京。
表参道にあるKARIN ASAKAの直営店。
白を基調とした店内には、朝香がデザインした洋服が点々と――美術品を展示するかのように掛けられている。
我々は、そんな朝香の服をじっと眺めている女性に声をかけた。
女性「KARIN ASAKAの魅力ですか……?」
女性「うーん……ふふっ、ごめんなさい。言葉にうまくできないんですけど」
女性「着てると自信がつくっていうか。上品だけど主張があって、唯一無二っていうか……服が私の味方になってれて」
女性「街を歩いてて、こう……『私を見て!』っていうんですかね、ふふっ」
女性「楽しい気持ちになれるところが、私は好きです」
スタッフ「上原さんはもう、オープン以来のお得意様で」
「もしかして今着てるのも?」
歩夢「あっ、そうですね……これは去年の春夏の」
歩夢「そういえば来年の秋冬からメンズのアイテムも扱うんですよね」
スタッフ「あーっ、そうなんですよ!流石上原さん、耳が早いですね」
これまでレディース向けのアイテムを中心に扱ってきた朝香にとって、メンズラインの立ち上げは新たな挑戦になる。
が、当面の朝香の関心は目前に控えた春夏のレディース向けのコレクションを仕上げることにあった。 https://youtu.be/Ulo-MyuuqME
ファッション業界におけるフランスという国の存在感は絶大である。
――その歴史は17世紀まで遡る。
当時の国王ルイ14世は豪奢な装いを好み、周囲の貴族にも華やかな服装を奨励した。
彼の統治期はフランスのファッション文化の萌芽期と言えよう。
織物業は宮廷の管理下に様々な特権を与えられ、ヨーロッパに比肩するもののない上質な生地が生産された。
ファッションを取り上げた世界初の雑誌"Mercure galant"が刊行されたのもこの時期である。
そんなフランスのファッション文化が花開いたのは、19世紀、オートクチュールの隆盛に端を発する。
オートクチュールとはオーダーメイドで作られる一点物の高級服のことである。
衣服を芸術作品とする見方が広まったのはこの時期のことで、シャネルやバレンシアガといった現代に続くブランドもオートクチュールのメゾンから出発している。
その後、第二次世界大戦を経てフランスにおけるファッションは停滞したが、その停滞はクリスチャン・ディオールによって打ち破られることとなる。
彼は女性らしい曲線を全面に押し出した衣服を発表し、戦時下で抑制された女性らしさへの欲求、ひいては着飾ることの喜びを再び解放したのである。
その後、時代はオートクチュールからプレタポルテへと変遷する。
プレタポルテとは「準備ができている」(pret)と「着る」(porter)を組み合せた言葉であり、高級既成服を意味する。
イヴ・サン・ローランや高田賢三といったデザイナーらによって発展していったプレタポルテ。その流れは現代まで続いている。 ――花の都、パリ。
日本ではパリ・コレクションとして知られる、ブランドの新作発表会はオートクチュール、プレタポルテ共に年に2回ずつ開催される。
ファッション関係者やVIPが一堂に会し、今後の流行を左右する重要なイベントである。
世界各地から訪れたバイヤーはコレクション後の展示会で、発表されたアイテムを注文する。
こうした服はコレクション、展示会、注文を受けて生産、そして店頭――このような流れを経て私達の手元に届く。
ファッションブランドにとっては、この1回きりの勝負で今後半年の売上の大部分が左右されてしまうため、会社の生死を左右する大一番である。
品定めの眼は何もバイヤーだけから向けられるわけではない。
各国のメディア、ジャーナリスト、セレブ、インフルエンサー――招待された様々な人々の厳しい視線を受ける。
そのため各ブランドは、約30分間のショーに数千万円の大金を投じ、準備に準備を重ねる。
毎年10月に開催されるプレタポルテのパリ・コレクションは来年の春夏に向けて、各ブランドが新たなルックをランウェイに踊らせる。
――そのスケジュール初日、最後のショーに"KARIN ASAKA"の文字があった。 朝香の仕事場は――彼女自身が与える洗練された印象とは裏腹に、混沌としていた。
山積みになった服飾の資料、生地の見本。インスピレーションを得るための美術品、絵画、風景、はたまた古いストリートスナップ。
そして床に散らばったこれらは……彼女がボツにしたであろう洋服のスケッチだ。
果林「あんまりそんなところ撮らないで欲しいんだけれど……」
果林「というかごめんなさいね。散らかってて。普段はこんなことないのよ?」
試行錯誤の跡は、彼女が次のコレクションにかけている熱量の高さを物語っている。
――――
果林「ちょっとシルエットがイメージと違うのよね……」
果林「え?これでリテイクが5回目?……だから何?」
――――
――――
彼方「正直これ以上は……。妥協してもらうしか」
果林「っ……」
――――
――――
果林「実は、お願いがあって――」
エマ「えっ――」
―――― 彼女は挑発的に語る。
――――
果林「私の作る服が一番だって思ってるし――というか、そうじゃないと見てくれる、買ってくれるお客さんに失礼でしょ?」
果林「――プレッシャーはいつも感じてるわよ。一度でもダサいなって思われちゃったらもう終わりじゃない」
――――
――――
果林「『人は誰でもその生涯で15分間だけは世界的に有名になれる』」
果林「私の服を着ている間は、その時間がずっと延長されるような……そういう感じが理想かしらね」
――――
我々は、彼女の冷静な青い瞳の奥に、ほとばしる熱い炎を見た。
新天地で大勝負に臨む、若きファッションデザイナーとその仲間たちを取材班は――追った。
朝香 果林
――ファッションデザイナー Vol. X629
『この番組は』
『その感動を分かち合う ア○ヒビール』
『マ○ダ の提供でお送りします』 (^8^) 園ww田www絢瀬がwwwwww家で冷えてるwwwwwwwwwwwww
(・8・) やっぱ"ことほの"なんだよぉ……
(#`8´#) ちゅんなちゅんなちゅんなぁ!!ちゅんなちゅんなちゅんなぁ!!!
こ と ほ の う み !
/cV^_ V^V (^8^) リ´・-・)
∬cVσ_σv 快晴の空を背にそびえ立つ凱旋門。
――から車で移動すること20分、パリ13区。
大通りを抜けて路地へ進むと、マロニエの並木道が我々を出迎えてくれた。
その道沿いにはベージュの石造りの建物が建ち並ぶ。
朝香のアトリエはその建物群の中の1つだ――入り口にブランドの屋号を示すものはなく、外から見ただけでは何の建物なのかを伺い知ることはできない。
ピンポン...
『Puis-je vous demander la raison de votre visite? (ご用件は何でしょうか?)』
「あっ、ええっと、○○テレビの――と申します」
『...Je pense qu'elle est japonais. Pouvez-vous lui parler, Kanata? (日本人?彼方さん、代わってもらえる?)』
彼方『Oui oui...すみません、代わりました。――さんですか?』
「あっ、はい、そうです」
彼方『お待ちしておりました。今鍵を開けますね〜。そのまま入ってもらって大丈夫ですよ』
カチャッ..
社内にカメラが入るのはこれが初めてのことである。 アトリエの内部はリノベーションが施されており、壁面の一部には遊び心を感じさせるような絵が描かれていた。
華美ではないが、決して地味でもない。実用的なオフィス兼アトリエである。
ここへは朝香、近江も含めておよそ30人のスタッフが出入りしている。
「これから3ヶ月、どうぞよろしくお願いいたします」
彼方「こちらこそ、よろしくお願いいたします。最後に日本でお会いしたのはいつでしたっけ。寒い時期でしたよね〜?」
「そうですね、最初の顔合わせは1月末くらいでしたね。お二人がパリに発たれる直前でした」
彼方「あぁ〜、そうでしたそうでした――いや、わざわざここまでご足労いただいてありがとうございます」
「いえ、こちらこそです。取材を快く引き受けてくださって……」
彼方「宣伝も兼ねてってやつですよ〜」
「はははっ――」
彼方「その代わり、良い感じに仕上げてくださいね?」
「ええ、それはもちろんです」
オフィスの3階に位置する朝香の作業場へと向かう。
彼方「朝香は……あんまりプライベートっていうか、素みたいなものを撮られるのは好まないタイプですけど、遠慮なくいっちゃって大丈夫ですから」
「そうなんですか?」
彼方「そんなもんですよ〜」 「ハイブランドのファッションデザイナーの方って、こう言っちゃうと失礼かもしれないですけど――気難しいイメージがあるというか」
彼方「どうなんでしょうね〜……人によるんじゃないかなぁと私は思いますけど。職人気質というか芸術家肌な人っていうイメージはあるんでしょうね。……でもファッションに限らず、クリエイティブな色の強い職業ならなんでもそうかも?」
彼方「実際そういう人も多いかもしれないなぁ……。あっ、ただ、意思の疎通が大事な仕事なので、話が通じないっていうのはまずないですよ」
「近江さんから見た朝香さんはどんなタイプですか?」
彼方「えぇ〜?果林ちゃ――んんっ、朝香ですか?えっと……いや、私は昔から彼女とは友達なので客観的な評価が難しいなぁ」
彼方「良い意味で我が強くて、だけど思いやりもあって。ちょっと抜けてるところもあるのがまた見てて可愛いくて……エピソードを挙げたらキリがないや」
彼方「まあ、いい人ですよ〜?ふふ、『いい人ですよ』っていうのも変な感じですけど」
彼方「ただ、仕事となるとまた話は別ですね。真剣そのものですから、そういうとこ、撮ってあげてくださいねぇ」
「分かりました。……面白いお話ありがとうございます」
彼方「いやぁ……これって私が話すより朝香が話したほうがいい内容ですよね〜。私は別に服作りには関わってないし。せいぜいボタンを縫うとか、ほつれを直すくらいのお裁縫しかできないので」
彼方「しかも私との会話も記録してるんですよね?」
「ええ、まあ一応です」
彼方「やだなあ〜、放送で使われちゃったら」
「はははっ、もちろんもし使うとなったら事前にご相談しますから安心してください」
彼方「あぁ〜……でも遥ちゃんにお姉ちゃんフランスで頑張ってるよ〜っていう姿を見せてあげたいかも……」
エントランスを抜け、階段を上る近江と取材スタッフ。
途中、2階へ差し掛かるとミシンの音やお針子達の話し声が聞こえた。 この時間にわざわざ一人で切り替えながら荒らしてるのか 3階の廊下には過去のコレクションがカバーをかけてラックに吊るされていた。
突き当たりにあるドアは一部がガラス張りになっており、そこから光が漏れている。
コンコン
彼方「朝香さん、いい?」
果林『ええ、どうぞ』
カチャッ...
果林「ああ、――さん。そういえば今日からだったわね」
「ご無沙汰しております、朝香さん。よろしくお願いいたします」
果林「ええ、よろしくね」
朝香の作業場には大きな窓があって、開放的な印象を受ける。
窓枠には紫色の切り花が飾られていて、聞けば彼女のアシスタントがマルシェ(市場)で買ってきてくれたものだという。
視線を窓から移し、部屋を見渡すと木目調に統一された棚や机、オブジェ、トルソーなどがある。
棚には服飾関連の書籍や資料、高校や芸大時代の学友との写真が収められたフォトフレームがあった。
机にはパソコンと、乱雑に何かが書かれているメモ、マグカップが乗っている。
彼方「じゃあ私はこれで。私は1階の事業部にいるので、何かあったらいつでも」
彼方「あっ、そうだ。各部屋に入る前には私の許可を得てからでお願いしますね〜」
「分かりました。ありがとうございます」
果林「ありがと、彼方」
彼方「は〜い、じゃあね〜」パタン 果林「立ち話もなんだから、座って座って」
「あっ……ありがとうございます」
果林「コーヒー淹れたら飲む?」
「えっ!?そっ、そんなそんな」
果林「いいわよ、遠慮しないで。カートリッジをセットしてボタンを押すだけだから。カフェインレスもあるわよ?」
「えっと……じゃあ、それでお願いします。すみません」
果林「ふふっ、分かったわ」
朝香はスタッフを温かくもてなしてくれた。
コーヒーマシンが低い音を響かせながら動作すると、部屋全体に珈琲の香りが漂う。
果林「はい、どうぞ」コトン
「ありがとうございます……すすっ――美味しいです」
果林「インスタントで悪いわね」
「いえいえ――私も普段インスタントですし」
「そういえばその紙は?」
果林「ああ、これ?これは今日の予定をメモしてるだけよ。忘れちゃいけないから、目に付きやすいところに置いてるだけ」
「あっ、そうなんですね」
果林「ええ。今日はこのあと会議が入ってて、それが終わったら雑誌の取材、生地のメーカーとのミーティング、それから――」
「なんか……申し訳ないです。忙しい中、取材に来てしまって」
果林「今日はそんなに忙しくないほうよ?」 ディレクターを兼務する朝香の業務は多岐に渡る。
ファッションデザイナーの仕事は文字通り、服をデザインすることだが、
彼女のようなデザイナーの場合は、経営者として、ブランドの顔として取引先や顧客の矢面に立たねばならない。
コレクションのためにデザインされるルックはシーズンあたり40〜60。
デザイン以外の仕事をする傍ら、半年にも満たない準備期間でそれだけの服やアクセサリーを生み出す必要がある。
「それだけ仕事が入ってると、服のデザインに割く時間って結構タイトじゃないですか?」
果林「そうね。ワークライフバランスなんて言ってられないわよ」
果林「でも、好きでやってることだから文句は言えないわね」
「いつもは何時くらいまでアトリエにいらっしゃるんですか?」
果林「えっと……夜の11時くらいかしら?忙しい時期はもっと遅いわよ」
「えっ……」
果林「いや、でもね?私もずっと仕事してるわけじゃないの。特に日中は面白いアイデアの源になりそうなものや、インスピレーションを得られるものを探したり……要はふらっとお散歩や旅に出たり、美術館とか個展に行ったりしてるから」
果林「まあそれも仕事の一部と捉えられなくもないけど。それから帰ってきて雑務やデザイン画を作ってみたりで11時になるっていうだけ」
「いや、それでもですよ……」
果林「そうかしら。あなただって仕事や趣味でついつい遅くまで作業したりしちゃう時ってあるでしょ?」
果林「それと同じことじゃないかしら」 朝香が一連の予定を終える頃、時刻は19時を回ろうとしていた。
とはいえ夏のフランスの日の入りは遅く、外もまだ明るい。
果林「んんっ……はぁ。疲れた」
朝香は丈の長いジャケットをふわりと羽織ると、荷物をレザーのショルダーバッグに詰めていく。
どこかへ出かけるようだ。
「どちらに行かれるんですか?」
果林「ちょっと散歩」
「もし朝香さんがよければですけど、私達もついていってもいいですか?」
果林「……う〜ん、ごめんなさい。この時間は1人がいいのよ、いろいろ考え込むことができるから」
「そうですか……すみません」
果林「いいえ、こちらこそごめんなさいね」
果林「――さん達はホテルに戻るなり、彼方に相手してもらうなりしてもらっていいかしら?」
「近江さんまだいらっしゃるんですか?」
果林「この時間なら彼方はいるし、他の皆も結構残ってると思うわ。アトリエの中を見て回るのもいいかもしれないわね」
「そうですね、ありがとうございます。近江さんに相談してみますね」
果林「じゃあ私の部屋の鍵は閉めちゃうから」
「あっ、分かりました」
朝香とスタッフらは部屋を出て、1階へと向かった。 >>23
いや、小学生の頃の同級生にフェラされる夢を見たってだけの話 事業部には近江を含んで数名のスタッフがおり、服の制作以外の業務全般を分担して行っている。
「お疲れさまです」
彼方「あっ、お疲れさまです」
果林「私は少し外を歩いてくるけど、いい?確かこの後は何も入ってなかったわよね?」
彼方「あぁ〜、分かった。あんまり遠くには行かないでよ〜?」
果林「……善処するわ」
彼方「う〜ん、善処かぁ……」
朝香は少し申し訳なさそうな顔で近江に視線を送り、アトリエを後にした。
「あの……遠くに行ったら駄目なんですか?」
彼方「後で分かると思いますよ」
「は、はあ……」
彼方「はっ、ごめんなさい。――さん達はこの後どうされます?今日はもう終わられますか?」
「朝香さんにアトリエを見て回ると良いと言われたので、見学させていただければと思っているのですが」
彼方「実際に洋服を作ってる現場なんていいかもしれないですね〜。あの、2階の」
「ええ、是非見たいです」
彼方「私はちょっとこれから別件があるんで案内できないんですけど……今残ってる日本人だと、えっと、誰がいるかなぁ……」
彼方「あっ、そうだ。南さんならまだいるかな?」
彼方「えっと〜……2階に多分南さんという方がいらっしゃるので、その人に事情を伝れば案内してもらえると思います。とりあえずはそうしていただいてもいいですか?」 酔っ払った勢いで書いてんのか?
趣向が出てて面白い 見た目向上スレでは盛り上がっといてこういうのにはキレるオタク草 めちゃくちゃ面白い
こういうのは貴重なので続き楽しみにしてます あちゃー
酉までつけちゃって…
こういうのは5chじゃなくて渋あたりに上げた方いいと思うよ KARIN ASAKAはハイブランドだろうけど、何もハイブラに限らず、全てのシグネチャーブランドはこのSSで描かれているような企画を経て世に出回ってる
その辺のセレショに置いてある安い洋服だって基本的にはブランドから買い付けてるわけだし
顔真っ赤にしてる人達は、このSSに出てくる用語とか設定を、なろうとかその辺に出てくる創作用語かなんかと勘違いしてないか?
少なくとも現時点では現実でもごく普通に使われる以上のものは出てきてないよ
こう言っちゃ>>1に失礼かもだが、ブランド名やコレクションのタイトルの付け方、アトリエ内の様子なんかも、実際のドメブラで一番よくあるパターンにただ果林さんを当て嵌めただけって感じでなんのひねりもない
むしろ淡々としてて特に痛さは感じられない >>43
いつもの荒らしが湧いてるだけだからそんなに気にしなくていいぞ 見た目スレとか声優のブランド品で発狂してたこどおじが荒らしてるんだろ 縫製部では10数人の男女が机に向かって黙々と作業に没頭していた。
カタカタとミシンの針が進む音が響く。
縫い方一つで見た目や着心地は大きく変わる。
ここはまさにファッションブランドの心臓部だ。
「あの……南さんという方はいらっしゃいますか?」
大きな作業台を使って、紙に線を引いていた女性が顔を上げた。
ことり「はい……?」
「お忙しいところすみません。――と申します」
ことり「あぁっ!果林さんへの取材の!」
ことり「もしかして、私達の様子を撮影しに来たんですか?」
「ええ、見学させていただければと思っていまして。作業の邪魔をしてしまっ――」
ことり「えぇ〜っ!恥ずかしいなぁっ……He! Tout le monde, les equipes de tournage viennent nous filmer! (みんなっ!取材の人が撮りにきたんだって!)」
彼女が仲間に呼びかけると、数人のスタッフがこちらを向いて破顔した。
金髪の女性がフランス語で何やら呟いている。
ことり「えへへっ……『メイクしてないから恥ずかしい』、そうです」 ことり「――彼方さんに言われたんですねっ!」
「え、ええ。作業に水を差すようなタイミングですみません。私達はただしばらくここで撮影させていただくだけでも大丈夫なので」
ことり「いーえいーえ!全然大丈夫ですっ。私で良ければご案内しますよ〜?」
彼女の名前は南ことり。
日本で会社を立ち上げた当初から働く古株で、この部屋の実質的なリーダーである。
南はパタンナーとして働いている。
パタンナーはデザイナーの描いた絵を基に、服を作るための型紙(パターン)を作る。
パターンは、簡単に言えば服の設計図だ。
生地をどこで何cm裁断するか、裁断された生地が服のどこにあたるのかといったことが記されている。
スケッチという平面の図を、立体の洋服にするためにデザイナーの意図を的確に把握しなければならない。
デザイナーの指示は時として抽象的だ。
中にはデザイン画を描かず、口頭や写真でイメージを伝えるだけというスタイルのデザイナーさえ存在する。
したがって、パタンナーは縫製の技術や繊維・素材の知識だけでなく高い共感能力も必要とされる。
ことり「果林さんの場合は、きっちりイメージが固まったデザイン画を出すこともあるし、そうじゃないこともあるかなぁ?」
「南さんが今作られているのはパリコレ用の?」
ことり「うん、そうです!でもこれは作り始めてすぐのものだからまだ形にもなってないけど……」 「型紙を作る過程はどういう感じなんでしょうか?」
ことり「う〜ん、そうですねぇ……まず私が今やってたのは平面製図っていうんですけど、えっと、そこのジョナサン――髪の色が派手な人がトルソーに布を当てながら作業してますよね?あれは立体裁断って言って、型紙には平面と立体の2種類の作り方があるんです」
「どっちがどうとか、特徴とかあるんですか?」
ことり「やっぱり立体裁断の方が服のシルエットを確認しやすかったりはします。でも、私は服の種類やデザインによって使い分けたりしてますねぇ」
ことり「あっ、CADを使ってパターンメイキングすることも!」
ことり「で、そのあとはパターンをもとに試作品を作って……っていう感じですっ」
ことり「それでイメージやシルエットがちょっと違ったりしたら都度修正するし、果林さんに見せて修正が入ったり……」
ことり「ここにいる人はみんなそんな作業をやってます!」
ことり「パターンだけじゃなくて、コレクションでモデルさんが着るものも、みんなで作ってるんですよ?」
「大変な作業ですね」
ことり「まあ、確かに大変だけど……みんなお洋服が好きだからやってるんです」
ことり「……すぐ帰っちゃう人もいるけど」
「そうなんですか?」
ことり「う〜ん……最近はそういう人もいます。プライベートの時間も大事だから、しょうがないかなぁーって。あの人達の気持ちも分かるんですけどね」
ことり「あっ、そうだ!パターンだけ見てもピンと来ませんよね?作りたてのお洋服、見ちゃいます?」
「おおっ、是非お願いします!」
南はラックから完成した服の1つを取り出してきてくれた。
ことり「Louise, pouvez-vous m'apporter le patron de cette robe? (ルイーズ、このドレスのパターン持ってきて!)」 眼鏡をかけた女性がパターンを持ってきた。
我々に軽く会釈したと思うと、すぐに持ち場に戻ってしまった。
ことり「あはは……ちょっとシャイな子なんです」
ことり「気を取り直して!このパターンがですねぇ〜、なんと……こんな感じになっちゃうんですっ!」ファサッ
丈の長いワンピースはベージュの薄いメッシュの生地で透けており、その上に細かな花の模様のレースが入っている。
シルエットは決してありふれたものではなく、かといって無闇矢鱈に珍奇でもない。しなやかな風合いが高級感を醸し出している。
ことり「かんわいいですよねぇ〜……――さんもそう思いませんかぁ?」
「綺麗ですね……!このパターンが、これに変わっちゃうんですね」
ことり「そうなんです!」
ことり「あっ、そうそう……果林さんの元のスケッチがこれですっ」
南が渡してくれた朝香の元絵には、洋服を着た顔の無い人が描かれている。
服の部分を塗り潰してしまわず、素体の線を重ねて描くことでシースルーを表現しているようだ。
「これがこうなるんですね……。スケッチの方はなんというか、結構ラフに描かれているというか」
ことり「細かなディテールとか雰囲気は果林さんとしっかり話して決めていくんです」
ことり「逆に私達が提案することで『それいい!』って言ってくれることもあるし、そういう意味では、うちでは果林さんと一緒に一着一着作り上げていくっていうイメージに近いかも?」
「なるほど、そうなんですね」 「そういえばこのスケッチの人、誰かモデルでもいるんですか?」
ことり「え?どうして?」
「いえ、何というか、顔はのっぺらぼうになっちゃってますけど、その割には髪型とか具体的じゃないですか。あとそばかすもあったりして」
ことり「ん〜?今まで意識したことなかったけど……」
ことり「確かに具体的……かも?もしかしたらモデルがいるのかもしれないなぁ……でも私には分かんないです!」
「そうですか」
ことり「ふふふっ、着眼点が面白いですね」
ことり「やっぱり面白い番組を作る人って独特の発想を持ってたりするんですか?」
「えっ?」
ことり「日本にいた頃、よく――さんの番組、見てたなぁ〜って……」
「あぁっ!ありがとうございます……でも私はまだまだ下っ端なので」
ことり「そうなんですか?」
「入社3年目です!」
ことり「あぁ〜、じゃあまだまだ下っ端ですねっ」
「え?」
ことり「ふふっ、冗談です♪ごめんなさい!」
「あっ、あはは――でもまあ下っ端なのは事実ですよ」
ことり「応援してますっ。――さんが立派なお偉いさんになったら私のことも取材しちゃってください♪その頃には私も独立してるかなぁと思うので!」 「あっ、独立されるご予定なんですか?」
ことり「まだ先の話ですけどね……?」
ことり「フランスに移りたてでまだまだ会社の体制も整ってないところはあるし、こんな私でも果林さんや彼方さんに必要とされてるなぁって思うのでもうしばらくはいなきゃとは思うんですけど……」
ことり「でも、やっぱり幼馴染のいる日本が恋しくなっちゃうんです」
「そうなんですね。でも南さんがいなくなったら大変そうですね、会社が」
ことり「だから最近は後進を育てることにも力を注いでるんですよ?ジョナサンとルイーズはやる気もあって、技術もあって……」
ことり「来年からメンズのお洋服も作る予定なんですけど、知ってました?」
「あっ、ええ。存じ上げております」
ことり「ジョナサンは男の子だから、メンズのライン。ルイーズは私の直接の後継に……なんて」
「えっ!?南さんが辞められるのってそんなすぐ先の話なんですか?」
ことり「あっ、いやいや!来年は流石に早すぎるなって私も思うので」
ことり「う〜ん……再来年?遅くとも3年後には、日本で独り立ちできたらなぁって」
ことり「あはは……今日本人のメンバーがいなくてよかったぁ。これ、まだ果林さんにも相談してないことだから……秘密にしておいてくださいね?」
ことり「ちゃんとタイミングは考えてますから!」
「はい、勿論です」
南だけではない。
少なからず、こうした業界で働く人間は自分のブランドを持って勝負したいと思うものだ。
30余人もいれば、全員が1つの方向に向かって波長を合わせられるはずもない。
後に我々は、そんな人間模様を垣間見ることになる。 「ありがとうございました」
ことり「いえいえっ!取材の参考になれば幸いですっ」
ことり「本当はもっと紹介したい部屋があったんですけど……」
「はははっ、それはまた次の機会に――」
ことり「はーい♪いつでもどうぞ♪」
南を始めとするパタンナーや見習いのお針子に礼を告げて部屋を出た。
縫製部の部屋はカーテンが締め切られていたため気付かなかったが、雨が降り出していた。
時刻は20時を過ぎ、天候のせいもあってか外はすっかり暗くなっていた。
カチャリ...
タッタッタッ...
彼方「あやっ」ドンッ
「わっ――」ドンッ
「すっ、すみません……!」
彼方「いたた……こちらこそごめんなさい。前方不注意でした」
近江は私物を入れたバッグを提げ、少し急いでいる様子だった。 早歩きの近江の横に並ぶ。
「これからどこかに行かれるんですか?」
彼方「いやぁ〜……果林ちゃんのお迎えですよ」
彼方「あっ、朝香!朝香ですね」
「いつも呼んでいるようにして下さって結構ですよ。きちんと隠しますから。編集やナレーターのボイスオーバーなんかで」
彼方「あはは……お気遣いありがとうございます」
「それで、『お迎え』ということですけど」
彼方「えっと、んー……そうですね。果林ちゃんのイメージもあるので、いい感じにぼかしておいてもらいたいんですけど、方向音痴なんですよ」
「え?方向音痴?」
彼方「そう、果林ちゃんね。それはもうむごいくらいの方向音痴なんですよ〜……」
「えっと……じゃあ、散歩に行かれて、方向音痴で……迷子、ですか?」
彼方「ぷっ――迷子って果林ちゃんには絶対言わないでくださいね。拗ねちゃうんで」
「はっ、はい。それは弁えます」
彼方「まあGPSがあるから、位置は把握してるんだけど……雨も結構降ってるし、地下鉄やバスで帰ってくるよりは直接迎えに行っちゃった方が私としても安心できるし」
彼方「せっかくなのでお二人も来ますか〜?ちょうど私の車4人乗りなので」
「はい、お願いします」
彼方「あっ……カメラマンさん、傘とかあります?機材濡れちゃいません?駐車場までちょっと歩くことになっちゃうので……」
『あっ、ありがとうございます。防水なんで大丈夫ですよ』
彼方「へえ〜、防水なんだ……。やっぱりプロの機材は違うなぁ」 アトリエを出ると、篠突く雨の音がやかましく轟いていた。
並木道を逸れ、しばらく歩くと近江の自家用車兼、社用車があった。
旧式の白いルノーは中古で買ったものだ。
バタン バタン バタン...
彼方「ふう〜……濡れちゃったぁ〜。結構雨酷いですね」
「そうですね……私のハンカチで良ければ使ってください」
彼方「ありがとうございます……でも、自分の、持ってるんで。ありがとうございます」
車は駐車場を出て、13区内の通りを進む。
道路にできた水たまりに街灯の光が反射していた。
「雨のパリって乙な感じですよね……」
彼方「あはは……」
「朝香さんはどちらにいらっしゃるんですか?」
彼方「8区にいるみたいですね〜。さっき電話したら、雨宿りでカフェにいるって言ってました」
「えっ、8区ですか?ここから結構遠くないですか?」
彼方「歩きだけだと……う〜ん、1時間半くらいはかかっちゃうかなぁ」
「毎回そのくらい歩かれてるんですか、朝香さん」
彼方「そうですね〜。8区は果林ちゃん頻出エリアなんですよ、やっぱり服屋さんが沢山あるからかなぁ」
彼方「一番意味不明だったのは――えっと、うちのアトリエをしばらく南に行くと大学があるんですけど、その大学の構内で迷子になったっていう時が一番『なんで?』っていう感じでしたね、ふふっ」
彼方「事務の子としばらく笑っちゃいましたよ」 隙間なく建物が建ち並ぶフランスの街道を走る。
「は、はあ……そうなんですね」
「そういえばこの車、近江さんの車兼社用車っていうお話でしたけど」
彼方「はい」
「なんというか――」
彼方「ラグジュアリーブランドの癖にケチくさいなぁ〜、みたいな?」
「えっ!?」ビクッ
「……あっ、いえ、そこまでは」
彼方「経費削減の一環ですよ〜。アトリエで車を使うタイミングなんてそんなに無いですし、社用で使わないといけない時は私が出ちゃえばいいか〜っていう感じで」
「なるほど……」
彼方「まあ、うちみたいなところの洋服って高いじゃないですか、はっきり言って」
彼方「だからさぞかしぼったくってんだろって思われてるかもしれないですけど……いや、実は私も昔はそう思ってましたけど」
彼方「そもそも欧州での知名度はないし、うちの利益は大したことないんです」
彼方「売値はやっぱり高いし、原価率はファストファッションと大差ないので利益の絶対額は確かにあっても、いろいろ経費がかかるんです」
彼方「社外秘なので具体的には教えられないですけど」
彼方「まずゼロからデザインを作る分、それだけ時間も材料費もかかる。生地や素材にこだわるから仕入れもかさむ。工場から上がる製品のクオリティを担保するためにも安い国には投げられない。直営店の地代やスタッフの人件費。あとはブランドを維持するための広告宣伝費とか――」
彼方「あとは売れない商品をセールで売ったりとかもしにくくて……安売りするとブランド価値を毀損することになっちゃう」
彼方「最近は環境への配慮も求められてて、在庫の廃棄もしにくい。だから何着作るのかっていう計画や予測が大事なんですけど、そんなの正確に把握できたら誰も苦労しないじゃないですか」
「……」
『……』 彼方「それにコレクションのために作った服が売れるとは限らないし」
彼方「パリコレなんか見てると、こんなの誰が着るんだろ?って、服があったりするじゃないですか」
「ああ、ありますね……っていうかそれを近江さんが言っちゃって大丈夫なんですか」
彼方「あはは――まあ、ああいうのは、もちろん買ってくれるバイヤーやお客さんがゼロなわけじゃないですけど……やっぱりリアルクローズにはならなくて」
彼方「ある意味、ブランドの雰囲気だとかコレクションのメッセージを伝える役目もあるわけです」
彼方「そういうメッセージ性とか、独創性や目新しさを求める姿勢はパリコレだと特に顕著だから、うちの方向性としても東京でやってた時よりはそっち寄りにならざるを得ない」
彼方「独創的な服はむしろ果林ちゃんの得意分野だから、そこはまあ、見てろよ〜パリジャン!って感じなんだけど……」
彼方「でも、オフィスの移転費用もあって、借入金もかさんでる中で――もしコレクションがうまく行かなかったらって思うと……」
彼方「はぁ……」
彼方「なんかごめんなさい」
「いっ、いえいえ……!ありがとうございます、いや、そうですよね……ええ」
『……』
彼方「あっ、右。セーヌ川ですよ」
彼方「そういえば――さんはこれまでにフランスに来られたご経験はあるんですか〜?」
「いえ、私は今回が初めてです。っていうか初の海外なんです」
彼方「えっ!?そうなの!?えぇ〜……じゃあしっかり観光しなきゃですね」 確かにこれだとアパレル業界事情の知識を列挙してるだけと変わらんな しばらく更新ができそうにないので申し訳ないのですが一旦打ち止めにして、書き溜めてまた改めて立てようかと思います
保守していただいてありがとうございました、また見かけたらよろしくお願いします >>81
おつかれさまでした
会話の内容とか出てくる小道具がめちゃくちゃ写実的で引き込まれたのでいつか続き見れることを願って待ってます 写実的(笑)
自演するにしてももう少しうまくやれよ害フォンw >>81
待ってるよ
次はワッチョイ付けるといいかもね >>81
了解!乙です
めっちゃ好きなのでのんびり続き待ってます ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています