しずく「『あなたの理想のヒロイン』」
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しずく「まだ残っていたんですね。どうしました?」
歩夢「それはこっちの台詞だよー。もう誰もいないと思ってたのに明かりがついてたからびっくりしたよ。
しずくちゃん、こんな時間まで練習してるんだね。帰り、大丈夫?」
しずく「はい、……実はここのところ毎日残って練習しているので。今の時間でしたら、まだ平気です」
歩夢「毎日!?全然気が付かなかったよ……ライブが近くて張り切るのはわかるけど、絶対に無理はしちゃだめだよ?」
しずく「はい……心配をおかけしてすみません。でも、私は大丈夫ですから」
本当に大丈夫なんです。
だって、あなたと話しているだけで、さっきまでの疲れがどこかに行ってしまったから。
口には出さなかった。
けれど、事実だった。
二人だけで話すのが久しぶりだからかな。
歩夢さんとほんの少し話しただけなのに、まだ練習を続けたいという意欲がふつふつと湧いてきた。 歩夢「……もう!大丈夫じゃないでしょ!?」
しずく「わぅっ」
わしゃわしゃと。
歩夢さんにタオルで汗を拭かれている。
私のタオルは鞄の上にかけてある。
だからこれは歩夢さんの___
しずく「_____!!!」
歩夢「すっごく汗かいてるよ。集中してて水分も取ってないんじゃない?それに顔もなんだか赤いし。お水汲んでこようか?」
しずく「け!結構です自分の水筒がありますしタオルもありますから!!!」
思わず自分から距離を取る。
顔が熱い。
声が裏返って、早口になって、みっともないところを見せて恥ずかしい。
顔が熱いのは、恥ずかしさのせいだけだろうか。 歩夢「そ、そう?……あ!このタオル今日使ってないから汚くないよ!だから気にしないで」
気にしないでと言われても。
距離を取った今でさえ、タオルから漂った歩夢さんの匂いがしっかり鼻に残っているのだ。
もう一度同じことをされたら、身体が熱くて倒れてしまいかねない。
でも、タオルが未使用だったのは少し残念なような気もする。
さっきから私は何を考えているのだろう。
しずく「いえ、本当に……あ、そ、そうだ歩夢さん、私の練習、少し見てもらえませんか?」
歩夢「え、いいの?じゃあ……見せてもらおうかな。ふふ、しずくちゃんの新曲を見せてもらう、初めての観客だね」
ああ。どうして先に彼方さんに見てもらっちゃったんだろう。
彼方さんにすごく失礼な考えが真っ先に浮かんでしまった。
本当だったら、歩夢さんに一番に見てもらいたかった自分がいることには気づいていた。
それをしなかった理由は……自分でも、分からない。 しずく「……じゃあ、いきますね」
呼吸を整え、音楽を流し、歌を披露する。
何度も、それこそ何度練習したかわからないほど繰り返したステップが。動きと歌が。
今はどうやっているのか、まったくわからない。
自分が何をしているのかよりも、
歩夢さんがどこを見ているのかに意識が向いてしまう。
どこを見られていても、上手くできているところなんてない。
歩夢さんに見せたかったのはこんな私じゃなかった。
情けなくて、今すぐ消えてしまいたくて、
ただ早く曲が終わることを願いながら歌い続けた。 もうあとは自覚するだけみたいなところまで来ちゃってそう しずく「はぁっ……はぁっ…」
歩夢「お疲れ様、しずくちゃん」
歩夢さんが笑顔で拍手をしてくれている。
けれど、今はその拍手を素直に受け止めることができない。
しずく「……どこが、いけないと思いますか」
声が震えている。
どうしてこうなったのだろう。
彼方さんに見せたときも、練習の時も、一度だってこうはならなかった。
この失敗の理由を、教えてほしい。 歩夢「歌もダンスもすっごく練習したんだなってことは伝わってきたんだけど……
たぶん緊張してたんじゃないかな。なんだか動きが硬かったけど、
疲れのせいもあるかもしれないから、今日はもうゆっくり休んだ方がいいと思うな。ね、こっちで座ろ?」
自分が座っている壁際の床をぽんぽんと叩く歩夢さん。
緊張。
今のは、ただ練習を見てもらっただけで。
演劇でも、スクールアイドルでも、もっと緊張する場面になんて何度も立ってきた。
そんな私がどうして歩夢さんに練習を見てもらうだけでこんなにも緊張していたのか。
知りたいのはそこなのに、答えは誰も示してくれない。
しずく「……はい」
歩夢さんに従って、おとなしく座ることにする。
これ以上練習を続けてももう今日は意味がないと思うし、それじゃあと帰るには、惜しいと思った。 歩夢「私ね、しずくちゃんがこんなに一生懸命になってくれていてとっても嬉しいんだ」
しずく「え?」
歩夢「今回のミニライブは新曲のお披露目が中心だけど、今回の曲は新曲ってだけじゃなくて、侑ちゃんが初めて作ってくれた曲でしょ?
だから、今回私は出ないけど、今まで以上に成功してほしいって思ってるの」
しずく「……」
歩夢「歌ってくれるみんなのパフォーマンスが良いものになればなるほど、見てくれるお客さんにも曲の良さがもっと伝わる。
だから、侑ちゃんの作ってくれた曲にこんなに真剣に向き合おうとしてくれたことが、すごく嬉しくて。
しずくちゃんがそう思ってくれたことで私たちも前よりずっと仲良くなれたし……しずくちゃん、ありがとう」
しずく「……いえ」
もやもやする。
せっかく歩夢さんと話しているのに、先のことを聞きたくない気持ちになる。
私のライブの話をしているのに、歩夢さんは侑さんのことばかり話している。 歌聴きながら読んだら雰囲気出るかなって流したら辛くなって慌てて止めた 歩夢「私の新曲はまだできてないんだけど……私のことを考えていると、上手く曲のアイディアが出てこないんだって。
今日相談されたんだけどね。だから、曲の方は手伝えないけど歌詞の方なら出来るかもってことで、さっきまで考えてたんだ」
そういって歩夢さんは何枚か紙を見せてきた。
そこに書かれていたのは。
しずく「……『開花宣言』」 歩夢「まだ途中だし、難しくって全然進まなかったんだけど……
前に、スクールアイドルフェスティバルの頃に私が変わったって話をしたでしょ?その時の思いを、歌詞にしようと思って……」
その歌詞は、侑さんへの想いがこれ以上ないほどまっすぐにつづられていて、
歌詞を書いている歩夢さんの気持ちが胸に刺さってきた。
どうかな?と言いながら歩夢さんは私をのぞき込んでくる。
見てきたからわかる。
歩夢さんを。歩夢さんに恋をしている侑さんを見てきたからわかる。
瞳を通して映された歩夢さんの心は、
侑さんに、恋をしていた。 侑が元気なかった理由がすごくいいね。想いが溢れてる 一旦ここまで
次かその次くらいの投下で終わると思います
少し書くのが遅くなるかもしれません。
出来ればまた今日の夜に来たいですが、
ある程度区切りのあるところまで書けたらまた来ます。 おつでした。書いてくれるなら待つので自分のペースで大丈夫です めちゃくちゃ雰囲気好き
どうか最後まで書いて欲しい ここで横恋慕成立しちゃったとして喜べるほど強くもないだろう あのあと、歩夢さんの前ではいつも通りの自分らしく振舞えた。
前に歩夢さんと話した時は、今まで本心を隠して過ごしてきたことを悔やんだくせに、今日ばかりはそれに助けられた。
侑さんが音楽室から来て、歩夢さんと帰っていくのを見ている時までの記憶はある。
そこから帰って、自室のベッドに倒れこむまでの私はどうだっただろうか。
すれ違う人や家族に変に思われていないといいけど。
もしこの涙でぐしゃぐしゃの顔を見られていたら、きっとそう思われている。
しずく「っ、はぁ……」
鼻が詰まって息が苦しい。さっきまでは苦しくなかったから、ちゃんと家までは我慢出来ていたみたい。
涙のコントロールが上手くなったなぁ。 涙を拭って鼻をかんだ。少し楽になる。
自分がさっきまでどうしていたかはわからないけど、
どうして今こうなっているのかはわかる。
それは今日の違和感のすべての答えだ。
しずく「……すき…………」
好き。
侑さんが歩夢さんを、好き。
歩夢さんが侑さんを、好き。
そして私が歩夢さんを……好き。
ぱちりとパズルのピースがはまるような感覚がした。
私が歩夢さんに抱いている感情は、まさしく恋と呼べるものだった。 侑さんと歩夢さんが両思いだと知って、私がこうなってしまう理由なんてそれしかない。
恋をしたことはないけれど、これは間違いなく事実だ。
歩夢さんと話すようになったのなんて、つい最近なのに。
いったいいつから好きだったんだろう?何がきっかけで?
……こんなこと気にしても何にもならない。
だって、何をどれだけ考えようとも私の恋は、もう終わっている。 私に渡されたのは、後輩の女の子が先輩に秘めた思いを寄せる歌だった。
恋をしたことがないから、侑さんの好きな人を聞いた。
歩夢さんに何かヒントをもらえればと、協力してもらった。
そうした結果として、私が歩夢さんに恋をしている。
成果としては、これ以上ないほど参考になるものが得られた。
それは喜ぶべきことだ。
けれど、今は_____
しずく「……っ、ふ、…うぅっ…は………ぁゅむさんっ……」
とめどなく流れていく涙を。
どうしてと考えてしまう思考を。
頭に浮かんでは消えてを繰り返す歩夢さんの姿を。
どうしようもなく溢れ出してくるものたちを、止めるのに精いっぱいだった。 泣き疲れて、頭がはたらかなくなって。
動かない頭で思い出していたのは、曲の歌詞だった。
『あなたの理想のヒロイン』
作詞をした侑さんのヒロインが歩夢さんだったことが、そもそもの始まりだ。
そして歩夢さんにとってのヒロインは、私ではなく侑さんだった。
曲の中の「私」の想い人には、明確な恋の相手がいないのだろう。
だから、いつか想い人にとってのヒロインになることを夢みている。
けれど、私の想い人の台本では既に役者が当てられていた。
一度決まった演目のキャスティングが入れ替わることはない。
私の、「桜坂しずく」の目指すべき理想のヒロインなんて__
___初めからいなかった。 私には、曲の中の「私」のように理想のヒロインを目指すことはできない。
せっかく恋をする女の子の気持ちを知れたのに、これで私は歌に感情を込められるのだろうか。
ぼんやりと、また歌詞が頭に浮かんでくる。
しずく「…………そっか」
『あなたの理想のヒロイン』は、
後輩の女の子が先輩に秘めた思いを寄せる歌。
両思いでは終わらない歌。
……「私」が先輩との恋を、諦める歌。
そう考えると、打って変わって今の私にぴったりの曲に思えてくる。
ぴったりなのか、そうでないのか、どっちなんだと自分でもおかしい。
でも、そういうものだ。
私が立っているのは、舞台のように一つにお話が決まっているわけじゃない、
複雑で、何もかも筋書き通りにはいかない、現実なのだから。 ___歓声が聞こえる。
璃奈さんが曲を披露し終わったみたいだ。
舞台裏で最後のイメージトレーニングをしていた私は静かに目を開ける。
あの日から、曲を聴くたび涙が溢れそうになりながらも、今日までこの曲の表現を磨いてきた。
歌っている時も頭に浮かぶのは歩夢さんのことばかりで、涙を悟られないようにするのは大変だったけど、
それさえも私の中に歩夢さんがいることの表れだと思うと切なくて、少しだけ幸せに思えた。
私の番が来て、ステージに上がる。
深呼吸。
落ち着いて、今はステージのことだけに集中する。
今からこの舞台で観せるのは、
役者として、
スクールアイドルとして、
桜坂しずくとして____100%の「私」だ。 歩夢「すっっっ……ごく素敵だったよ!しずくちゃん!」
ステージから戻ると、真っ先に歩夢さんが駆け寄ってきてくれた。
嬉しいな。
ステージの上でも、結局歩夢さんのことを考えていた。
歩夢さんが汗を拭いてくれたこと。
ダンスの中で少しだけ真似させてもらった、歩夢さんの可愛らしい仕草。
歩夢さんが私に教えてくれた、この感情。
歩夢さんのことを思いながら演じた舞台は、
まるで歩夢さんと二人で演じているかのように、幸せな気持ちになれるものだった。 しずく「…………っ」
歩夢「し……しずくちゃん!?」
不意に涙が溢れてきた。
涙だけではない。これまで溢れては抑え込んできた気持ちも一緒に、
もう隠しきれない、と私の中で今にも破裂しそうになっている。
歩夢さんが好き。
その想いが溢れる。この気持ちが、ステージを通して歩夢さんに伝わることを少しだけ期待していた。
けれど、ステージを終えて歩夢さんが見せてくれたのは笑顔だった。
私の想いが届いていたら、歩夢さんはきっと笑顔を見せられない。
あぁ、けど今も、私が泣いているせいで歩夢さんが浮かべているのは困った表情だ。
どうしようどうしようと、涙を拭くものを探して慌てている。 歩夢さんは、困った顔も可愛いなぁ。
でも、私が見たいのは、
……私が好きになったのは、あなたの笑顔だから。
歩夢さんと視線を合わせる。
けれど、私の視界は涙で滲んで、歩夢さんの目を見ることができない。
しずく「____」
歩夢「! し、しずくちゃん何か言った?」
しずく「……ありがとうございます、って……言いました」
しずく「こんなに素敵なステージを披露できたのは、歩夢さんのおかげです。
だから……ありがとうございます」 そう言って微笑んで、涙を拭う。
私が想いを隠していれば、歩夢さんの台本の中で、私は「後輩」を演じる桜坂しずくでいられる。
隣で笑顔を見ていられる。
それでいい。それだけで私は幸せになれる。
だから、どうか。
ずっと側でただの後輩を、演じさせてください。 おわり
歌詞の要素を入れようとし過ぎて最後上手くまとまりませんでした。
>>54で言われていた通り以前からゆうぽむ前提のしずぽむを考えており、
色々と荒れる題材だとは思いましたが、
頂いたコメントのおかげで書ききることが出来ました。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。 おつです。最後までしずくちゃんが本当に健気で切ない。内容だけじゃなくて文章も雰囲気あってとても良かったです。ありがとう 開花宣言とかいう強すぎる歌
お疲れ様でしたすごいよかった はじめようここからがそう第三章
起承転結の転になる
これまでの伏線を回収して
クライマックスへ
きっと想いを全て伝えられたら
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