侑「虹ヶ咲学園投資部?」
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――東京都・お台場
私立中高一貫校「虹ヶ咲学園」
生徒数は各学年1,000名、都内有数のマンモス校である。
学び舎としての歴史は浅いが、その欠点を補ってなお余りある魅力で全国から優秀な学生を集めている。
東大・京大を筆頭に難関校へ多くの生徒が進学するが、学問だけにとどまらず芸術から音楽に至るまで多岐に渡って活躍する才媛も多く輩出している。
特筆すべきはその洗練された校舎の佇まいと最新鋭の教育設備――そして、学費である。
私学にも関わらず開学当初から学費は公立校と変わらない水準であり、そこには家庭環境に関わらず最高の教育を提供したいという創設者の理念が反映されている。
しかしその多額の運営費を僅かな学費の収入から賄えるはずもなく、資金がどのように工面されているのかは謎に包まれている。
教員の間では、数名の非常に優秀な生徒達が何らかの形で学園の運営に貢献しているとまことしやかに囁かれているが――。
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――
― 最後の更新から2週間か
面白い題材だと思うので多少間が空いても少しずつでも是非エタらずに続けてほしいな 愛「影響力をなくすって……大株主にでもなるつもり?」
侑「そう、そのつもりなんだよ!」
愛「うーん、なるほど?」
せつ菜「ですが、5億円ではこの会社に対して十分な影響力を持つのは不可能ですよね?」
侑「そうだね……。でも私が入部できたら50億を運用させてもらえるんだよね?」
せつ菜「……どうしてそれを?」
エマ「ごめん、わたしが言っちゃったんだ」
せつ菜「……侑さんに入れ知恵したのもエマさんですか?」
エマ「ううん、違うよ。計画を思いついたのは侑ちゃんだよ!」
せつ菜「まさか、侑さんは50億全額使って買収したいと……?」
侑「簡単に言ってしまうとその通りなんだけど……」
愛「ゆうゆ、それはいくらなんでも……」
侑「出過ぎたことを言ってるのは分かってる。けど実現できれば確実にリターンを生み出せると思うんだ」
せつ菜「とりあえず最後まで聞かせてもらいましょう」
侑「ありがとう!」パァッ 侑「まずは沼津水産加工の株主構成を見てほしい」ピッ
侑「筆頭株主は雨野氏の資産管理会社のレインフィールドが30%を握ってて、その次に矢立さんが20%。残りが他の投資家っていう状態だね」
せつ菜「このうち何%を取得する予定なのですか?」
侑「えっと、何%っていう感じじゃなくて、MBOで上場廃止を目指そうと思うんだよね」
かすみ「ええっ!? それって入部課題のルール的にどうなんですか?」
せつ菜「あくまでも1社に投資するというものなので、投資手法に制限はありません。一応大丈夫ではあるんですけど……前例がないですね」
かすみ「なるほどぉ……これってPE投資になるんですか? かすみんあんまり詳しくないので」ウーン
侑「うん、多分PE投資になるんだと思う。軽く本で読んだだけの知識だけど……」
せつ菜「プライベート・エクイティ(PE)、つまり非公開株への投資になるのでPE投資という認識であっていますよ」
かすみ「ふむふむ。MBOっていうのはなんなんですか?」
せつ菜「マネジメント・バイアウト。非上場化する際の手段の1つですね。会社の経営者がファンドなどの資金提供によって自社株を買い取るというものです」
愛「愛さんにはもう関係ない領域だなぁ〜……素人質問で悪いんだけど、PE投資って公開株に比べてそうそう簡単にイグジットできないよね?」
かすみ「具体的にどうやって投資回収するつもりなんですか〜?」
せつ菜「ある程度長いスパンの話になるでしょうし、在学中に回収できるんでしょうか……?」
エマ「みんな、質問は侑ちゃんのお話が終わってからにしようよ」
せつ菜「そうですね……続きお願いします」
侑「ありがとう、エマさん。じゃあ続けるね?」
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・イグジット:投資回収 侑「投資の方向性としてはさっきも言った通り、MBOによる非上場化と、その後の事業再編を経て投資回収を目指すっていう感じだね」
侑「まずはMBOについて」ピッ
侑「沼津水産加工の時価総額約60億円のうち、現経営陣以外の50%を買いたいわけだから、最低でも30億。プレミアムが30%乗ると仮定して39億円かかると想定してる」
侑「最終的に私が沼津水産加工の経営権を得るのがゴールではあるんだけど、レインフィールドが30%株式を持ってるから、私が下手に動いて思惑を気付かれると良くないかなと思った」
せつ菜「先回りされて1/3以上持たれると困るからということですか?」
侑「うん。このあとにも関係するけど株主総会で特別決議を通せなくなっちゃうからさ。だからまずは友好的に近づいてMBOを提案するのがいいのかなって」
侑「それで、非上場化したあとは矢立さんと私で70%の株式を持つことになるから、まず役員の二人を解任する」
侑「そこから先は残ったレインフィールドの30%をどう取るかなんだけど」
侑「株式併合を使ったスクイーズアウトでレインフィールドを排除できればと思ってる」
愛「かすみん分かる?」
かすみ「むっ、かすみんにだって株式併合くらい分かりますよ! 100株を1株に統合したりすることですよね!」
愛「おおっ、そうそう!」
かすみ「愛先輩、かすみんのこと馬鹿にしてるんですかぁ!?」ムッ
愛「あはは、冗談だって」
かすみ「むーっ」
せつ菜「スクイーズアウトは少数の株主から大株主が強制的に株式を買い上げることですね」
侑「うん。それでレインフィールドの持ち分を端株になるようにして、強制的に現金で買い上げようと思ってる」
愛「お金は大丈夫なの?」
侑「それは大丈夫! 50億円のうちの残りの分と、沼津水産加工の現預金でまかなえる計算になってる」
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・プレミアム:買収価格と時価の差。例えば時価で100円の株を130円で買うと30%のプレミアムを支払うことになる。
・端株:1未満の株のこと。0.4株など。株式としての効力が無い。端株は強制的に買い上げることができる。
・特別決議:株主総会で株主の2/3以上の賛同が必要な決議。株式併合は特別決議が必要になる。 せつ菜「買収のプロセスについては分かりましたが、その後は具体的にどうするつもりなんでしょうか?」
侑「そうだね……ここから先が現地で取材した成果かなと思うんだけど、これをまずは見て」ピッ
かすみ「これは……アジですね」
侑「そう、これは沼津水産加工の冷蔵室にあるアジの写真なんだけど、これらのアジは全部沼津水産商会から卸されてる」
侑「それでこれが私が朝市に行ってきて撮ってきた写真」ピッ
愛「これもアジ?」
せつ菜「のようですね」
侑「この2枚の写真を見比べてみて何か違いが分かる?」
かすみ「うーん……愛先輩、せつ菜先輩、分かりますか?」
せつ菜「なんでしょう……」ジー
愛「大きな差はじゃないかもだけど、冷蔵室の方さ、ちょっとちっちゃいのが混じってない?」
侑「わ、よく分かったね! そう、こことここ……今赤丸で強調したところとか、ほらこの魚とか明らかに小さいよね?」
かすみ「言われてみればそうかもですね」
せつ菜「確かに少し小ぶりです」
侑「それでこれが同じ冷蔵室のまた別の箱の写真、ここにも少し小さいのがいるよね」
侑「これも」ピッ
侑「これも」ピッ
侑「ほら、これなんて小魚だよ!」
せつ菜「でも、小ぶりなサイズの魚が混じってしまうのはよくあることなのでは?」 侑「少なくとも市場で売られてたもののはサイズで選別されてて、こんな明らかに小さいのが混ざってることはなかったんだよね」
侑「干物を作るときも基準を厳しく作ってるって矢立さんは言ってたから、注文するにしてもサイズはある程度選別してるんじゃないかなと思うんだけど……」
愛「選別しない分安くしてもらってる可能性は?」
侑「それも考えたんだけど、沼津水産加工の商品の価格と原価率から逆算すると市場で売られているものと大差ないんだよね」
エマ「ボリュームディスカウントもない計算になるんだよね」
せつ菜「つまり沼津水産商会でないところから鮮魚を購入した方が原価率が抑えられると」
侑「そう考えてる」
侑「どうして矢立さんのところが商会からほぼ独占的に買ってるのか、細かい事情は分からないけど何か弱みを握られてるみたいなんだ」
せつ菜「そこはしっかり洗い出さないと実現可能性に関わりませんか?」
侑「それは今後の取材で聞いてみるつもりだったんだよ。一応調べてみたんだけど当てが外れちゃって……」
侑「まあ、それでどうしても見過ごせないような何かがあるなら投資は控えればいいってことになるよね」
侑「で、まずはこの仕入先を変えることでだいたい2%原価が抑えられる計算になったから、それだけでも会社の営業利益が14億増えることになる」
侑「あとは販管費の部分も2%くらい削れる計算になったんだ」ピッ
侑「内訳としてはさっきも言ったように役員2人の解任と不採算の子会社の売却が大きいものかな……」
侑「ただ、子会社のところに関しては必ずしもできるとは思ってないから、そこは私の交渉でなんとか理想に近づけることができればって感じかな」
侑「仮に全てがうまくいったとすると、これだけで0.85%の営業利益率が5%まで改善することになるんだよ」
侑「売上は横ばいだと仮定してもEPSは現状の約3倍。回収については5年後の再上場を仮定してて、IRRは25%を想定してる」
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・ボリュームディスカウント:大量に仕入れる代わりに割引してもらうこと。
・IRR:内部収益率。投資プロジェクトの見込みの利回り。 愛「5年以内の再上場ってことはゆうゆも私たちも卒業しちゃうじゃん!」
侑「きっちり5年間っていうわけじゃないよ。私が在籍できる間に悪い部分を取り除くことができれば何とかなると思ってるんだけど」
エマ「最悪他の買い手を探して売り渡すのも手だよね」
せつ菜「そうですね……そもそも矢立さんからの協力は確実に得られるものなのでしょうか?」
侑「それは正直分からないかな。交渉次第」
愛「いくらその矢立さんが良い人でも、ぽっと出の得体の知れない投資家に簡単に協力してくれるとは正直思えないかなぁ」
エマ「せつ菜ちゃんとしてはこの計画、どう思ってる?」
せつ菜「アイデアは面白いと思いますが……」
かすみ「5億円の範囲を超えてるのは大丈夫なんですか?」
せつ菜「う……そうですね」
せつ菜「……」ウーン
侑「……」
せつ菜「……」
せつ菜「とりあえず、やってみましょうか」
侑「い、いいの!?」 せつ菜「侑さんの仰ったストーリー通りに実現できれば投資効率も悪くありませんし、ルールを重んじすぎて柔軟な発想の芽を潰してしまうのは不本意です」
歩夢「せつ菜ちゃん……!」
侑「愛ちゃんはいいの!?」
愛「え、アタシ? う〜ん、アタシはまぁせっつーがゴーサインを出すならいいかなと思う。楽しそうな計画だとはアタシも思ったしね」
侑「そうなの?」
愛「否定的なことばっかり言っちゃったから反対してると思ってた?」
侑「う、うん……」
愛「あははっ、まあ楽しいだけじゃ失敗しちゃうじゃん? 疑って疑って、それでも否定できない楽しい計画ならサイコーってことだよ」
せつ菜「とはいえ、これからが重要です! あちら側に協力を仰ぐことができるのかどうかをしっかり見極めなければいけませんよ」
侑「もちろん、頑張るよ!」
せつ菜「一番最悪なのは非上場化したあとに経営を改善できなかった場合です。50億近い資金を流動性が乏しく魅力的でない資産に投下し続けることになってしまいますから……」
愛「上に協力は仰げないのかな?」
歩夢「上?」
愛「私たちの資金を出してくれてるところ……つまりこの学校を運営してるところだよ」
せつ菜「いずれにせよ説明はしなければいけませんね……少し気が重いですが」 かすみ「どういうことですか?」
せつ菜「言ってませんでしたっけ? 私、創設者一族の方の元へ運用の内容を報告しに行ってるんです」
せつ菜「基本的にはほとんどの裁量を与えてくださっていますが、彼らの意思に反する投資できないというのがルールです」
エマ「お金の運用を任せて、意図しないことに使われてたりしたら嫌だもんねぇ」
かすみ「なるほど……そうだったんですね。どんな人たちなんですか?」
せつ菜「ええと、それは言えないんです。いわゆる箝口令ですね」
愛「歴代の部長しか知らないんだよ。だから今在籍してる人で言えばカナちゃんとせっつーだけだね」
せつ菜「すみません、話が脱線してしまいましたね」チラッ
侑「あっ、ううん、大丈夫! 次はいつ会社に行けばいいかな?」
せつ菜「そうですね……少し日を空けてもらってもいいでしょうか?」
侑「何かあるの?」
せつ菜「それこそ先程話していた内容に関係することですよ。運用報告の際に侑さんの投資計画も話す予定なので、その折に許可がもらえたら次の行動に移りましょう」
侑「そ、そっか! 分かった!」
せつ菜「気持ちがはやるのも分かりますが、会社は逃げませんし株価もそう短期で変動しないと思うので安心してください」
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―洋館
優木せつ菜は窓から広大な庭園を眺めていた。
彼女が座する一室は数人がいるくらいでは持て余してしまうほど広々としており、格式高い家具や調度品が置かれている。
せつ菜「……」
せつ菜「遅いですね……大丈夫でしょうか」
メイド「お待たせしてしまい申し訳ありません、優木様。もうすぐ来ると思うのですが」
せつ菜「ああ、いえ! 急いでいるわけではないので……」
彼女が待っている人物こそ、虹ヶ咲学園を創設したある名家の当主である。
せつ菜(最近、持病が悪化して体調が優れないということは伺っていましたが……)
キィィィィ....
木製の大きな扉がゆっくりと開き、車椅子に乗った白髪の男性が現れた。 せつ菜「ご無沙汰しております――」
せつ菜は姿勢を正して扉の方向に目を向けた。
せつ菜「お変わりありませんか、三船さん」 三船「まあ、なんとかだね……待たせちゃってすまないね。せつ菜ちゃんはどうかな」
老人はしわがれてはいるものの、優しさを感じる声でせつ菜を気遣った。
せつ菜「はい、私の方もつつがなく……」
三船「はは、いつもそんなに畏まらなくてもいいって言っているじゃないか」
せつ菜「いえいえ……あの、そちらの方は」
三船「ああ、気になるよね」 栞子「三船家次期当主、三船栞子と申します」
そう言うと栞子は恭しく頭を下げた。
せつ菜「次期当主……あっ、ええと、優木せつ菜、いえ……中川菜々と申します。よろしくお願いいたします」
栞子「知っていますよ。投資部とスクールアイドル同好会では優木せつ菜、生徒会では本名の中川菜々……」
せつ菜「知ってくださっているんですね! 栞子さん……で、良いでしょうか?」
栞子「はい、構いません」
せつ菜「栞子さんが次期当主ということですけど……」
三船「見ての通り、もう私は長くはなくてね……実は先日余命宣告を受けたんだ」
せつ菜「……」
三船「それで、栞子は私の孫でね。心機一転で若者に舵を取らせるのも良かろうと思ったんだ」
せつ菜「そうだったんですね……」
三船「次にここに来るときは栞子が相手をすることになると思う。私は軽井沢あたりで隠遁させてもらうよ」
せつ菜「そうですか……僭越ながら、お疲れさまでした」
三船「ありがとう。彼方ちゃんにもよろしく伝えておいてくれるかな」
せつ菜「もちろんです!」 三船「……というわけで、始めようか」
栞子「私は見学させていただきますね」
せつ菜「分かりました」
せつ菜「運用報告の前に、現在入部課題を受けている2名、高咲侑と上原歩夢について報告させていただきたいのですが」
三船「タカサキ」
せつ菜「どうかしましたか?」
三船「漢字はどう書く?」
せつ菜「高いに花が咲くの咲で、タカサキですね」
三船「そうか……高咲か」
栞子「お知り合いか何かでしょうか?」
三船「……」
三船「いや、大丈夫。続けて」
せつ菜「両名とも、最低基準はクリアできていると私は考えています」
せつ菜「上原さんに関しては5億円をカニホーに投資し、5.8%のリターンをあげています。本来であれば40%のリターンを見込んでいましたが、早めに手仕舞いした形です」
せつ菜「自分の判断に対する自信をもう少し持ってもらいたいところですが、そこは今後の経験である程度カバーできると思っています」
栞子「その上原さんという方はどういった理由でカニホーに投資されたのですか?」 せつ菜「カニホーが運営するゲームの1つが大きく成長することを見越しての投資でした。上原さん自身がそのゲームのファンだったようで」
栞子「なるほど、それで?」
せつ菜「え?」
栞子「え、まさかそれだけではないですよね? もしそれだけなのだとしたら5億円という大金を投じるにはあまりにも無根拠過ぎませんか?」
せつ菜「……根拠が薄いと言われればそれまでですが」
栞子「なっ……ありえません! いくら入部課題だからといってあまりにずさん過ぎます」
せつ菜「聞いてください。私はですね、未来の予測なんて本質的には不可能だと考えています」
栞子「……何が言いたいのでしょうか?」
せつ菜「根拠をどれだけ尤もらしく並べ立てたとしても100%当てることなんてできないと言っているんです。いわゆるプロの方々の予想の的中率や勝率がどれだけあるか知っていますか?」
栞子「良くて5割あるかないかでしょう。私も投資をしているので知っていますよ、そのくらい」
せつ菜「栞子さんも投資をされているんですね。なら投資の本質を分かっているのではないですか? 安く買って高く売る……そのために必要なものは何か」
せつ菜「それは他人と違うものの見方をするということです、違いますか?」
栞子「……そうだとしても、これが好き、あれが好き……ただそれだけの理由で投資をして成功するとは思えません。遅かれ早かれマーケットから退場することになるでしょう」
せつ菜「私は何も、純粋に直感だけに頼った投資で成功できるとは言っていませんよ!」
せつ菜「論理的な帰結は、情報さえあれば誰もがたどり着けるものです。でもそれは所詮他人と同じものの見方をしているに過ぎない……」
せつ菜「論理が必要ないと主張するわけではありませんが、私はロジックなんかより、『好き』という感情が詰まった直感を重視します!」
せつ菜「……そこからアイデアを得て、細かいところは後から理詰めでやっていけばいいんじゃないでしょうか?」
栞子「自己資金で投資するならそれでもいいでしょう。ですがあなた達は――」
三船「栞子、少し落ち着きなさい」
栞子「っ……ですが、お祖父様」 三船「投資部の投資の決定権を持っているのはせつ菜ちゃんだ」
栞子「……」
三船「栞子の言い分も分かるけれど、部のパフォーマンスは別に悪くないんだろう?」
三船「どんなアイデアだろうが金が健全に投資されて世の中を回し、資金を提供した見返りがリターンとして返ってくる……結構なことじゃないか」
せつ菜「それに、万が一他の部員が損失を出すことがあったとしても私が取り返しますから!」
栞子「……」
三船「それで、高咲さんは?」
せつ菜「高咲さんの投資は現在リターンやリスクを精査している段階です。ただ……」
三船「ただ?」
せつ菜「この流れで少し言いにくいのですが、最大50億円のPE投資を行う予定です」
三船「ほう……」
栞子「本気で言ってるんですか? 百歩譲って優木さんの方針は認めるにしても初心者に50億ですよ!?」
三船「う〜ん……」
栞子「それにその高咲さん? という方に何ができるんです? 経営の経験なんてないでしょう?」
せつ菜「それはそうですが……当該企業の改善の余地は大きく、リターンも悪くないものと見ています」
三船「その子の代わりに取締役やターンアラウンドマネージャーをこっちで用意して派遣しても良いが……」
せつ菜「……対象企業は地場の水産加工系の企業です。仮に計画通りにMBO、そして事業再編からイグジットまでできればIRRは20%〜40%を見込んでいます。現経営陣の協力が得られる確証はありませんが、再編フェーズにおけるエッジは調査を経てこちらの手中にあります」
三船「せつ菜ちゃんはどう思っているんだい?」
せつ菜「正直まだ確信は掴めていませんが……しかし、高咲さんの吸収能力は目をみはるものがあります。普通であれば却下したと思いますが、彼女のポテンシャルに賭けてみたいと思いました」
〜〜〜〜〜
・ターンアラウンド:企業再生、事業再生。経営難の企業に入り、事業再編や経営的な施策を行う人間をターンアラウンドマネージャーと言うことがある。
・エッジ:他の投資家が持っていない、利益になるような情報。 三船「なるほどねえ……ううん、そうか……」
三船「まあいいだろう、せつ菜ちゃんがそう言うなら」
栞子「お祖父様、大丈夫なんですか……!?」
三船「ただし、しっかり監督するように。頼んだよ」
せつ菜「はい! ありがとうございます!」
せつ菜「栞子さん……何かあれば責任は私が取りますから、ここはどうか」
三船「……栞子」
栞子「……分かりました」
せつ菜「引き続き、高咲さんと上原さんへの指導・監督は抜かりなく続ける予定です」
三船「分かった」
せつ菜「では、この四半期の投資部のパフォーマンスについて説明させていただきますが――」
―――
――
― つづき来てた。50億ってすごいな。他人の金だとしてもすごい度胸だ
―三船家 廊下
栞子「優木さん」
せつ菜「はい、なんでしょうか?」
栞子「祖父はああ言っていましたが、優木さんの方針に私は共感できません」
せつ菜「その話については……」
栞子「優木さんのパフォーマンスが良いことは運用報告でよく分かりました。しかし、こんな属人的な運用スタイルをこれからも続けていくつもりですか?」
栞子「虹ヶ咲学園の投資部の中にはここ最近パフォーマンスが冴えていない方もいらっしゃるようです。これであればその方の資金を引き揚げてパッシブファンドにでも預けた方が良いと私は思います」
せつ菜「それは……! それは、その方の投資スタイルの関係もあるでしょうし」
栞子「24時間365日投資について考えを巡らせている市場参加者がいる世界で、スクールアイドルなどとくだらない活動にうつつを抜かしているからあのような精彩を欠いた結果になるのではないですか? どちらかに集中すべきではないのですか?」
せつ菜「でも! 部としてはここ数年はきちんとパフォーマンスの目標を優に超える成績を上げていますし……!」
栞子「あなた達よりもパフォーマンスの良いファンドは探せばいくらでもあります」
栞子「健全な学園生活のためにも、投資部は有益だと思えません。そもそも女子高生が4ケタ億単位の金銭を動かしていることそのものがおかしいんです」
栞子「私が当主となった暁には、何かしらの方策を考えさせていただきます。では、失礼します」スタスタ
せつ菜「ちょっと、栞子さん! 私の話を――」
せつ菜(行ってしまいました……)
せつ菜(どうしたものでしょうか)
―――
――
―
〜〜〜〜〜
・パッシブファンド:日経平均などの指数に連動するような運用を目指すファンドのこと。逆にファンドマネージャーが裁量を持って売買するファンドをアクティブファンドと言う。 今回はここまでです。時間が取れず遅筆となり申し訳ないです。
長期に渡り保守して頂き本当にありがとうございます。 おつです。無理せず書けるペースで続けてもらえたらありがたいです。 おっ更新きてる
投資部のみんなもインデックスファンドの世界へおいでよ(手招き) 自分の家の資産がスクールアイドルやってるJKに運用されてたら不安になるな 乙!
ドラマチックな展開になってきたね
侑ちゃんの家庭が何かしら関係ありそうな予感を醸し出してきた
彼方ちゃんによろしくって名指ししてるのはなんなんだろうか 彼方は先代の部長だからオーナーと知り合いなんでしょ 侑ちゃんの計画の回収は5年後の再上場を仮定って
つまり計画の結果がわかるのは5年後ってこと? 再上場しなくても株主なんだから収益改善できてるかどうかはわかるでしょ 上で仰って頂いている通り、収益改善の状況は投資中に把握でき、また仮に今売ればいくらになるかということはシミュレーションできます
そういう意味では5年かけなくても分かりますが、実際の利益は再上場or売却してみないと分からないというイメージです
5年という数字は、この類の投資にありがちな想定期間なので(作中の侑は)そう置いています 5億でインデックスファンドとか最早安泰すぎる
またはマイクロソフトあたりの約1%の配当ある株でも不自由なく生活できるくらい配当出るし 最近立て込んでいることもあり、これに時間を割けなくなってしまっています。ダラダラ続けてもまとまりきらなくなりそうなのでこのスレはここで打ち止めとして、いつごろになるか分かりませんが書き切ってからまた投下させて下さい。
お付き合いして頂いた方には大変申し訳ないです。ここまで保守やレスして下さりありがとうございました。 くぅー…残念だけど仕方ない…
すごく楽しく読んでたしおかげで投資にも興味が持てた
いつか続きが見られるのを楽しみにしてます!
お疲れ様でした! マジかよ…ここからって感じだったのに
また戻ってきてくれ、とりあえず乙 良いところだっただけに、仕方ないとはいえ打ち止めは残念
いつか完成して投下されることを待ってます! ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています