遥「『彼方ちゃん』の秘密」
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スクールアイドルフェスティバル開催に向けて準備を進めていたある日のこと
侑「今日の打ち合わせもお疲れさまでした。皆さんのおかげで良いお祭りになりそうです!」
『お疲れさまでした』『失礼します』『また明日』
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遥「お疲れさまでした。それでは、私もこれで──」
侑「ごめん遥ちゃん、もう少しだけ話せるかな?」
侑「彼方さんのことで遥ちゃんに聞きたいことがあったんだよね」
侑「直接本人に聞いてもいいんだけど、少し聞き辛くて…」
遥「はい、なんでしょう?」
侑「彼方さんって、自分のこと『彼方ちゃん』って呼ぶことが多いでしょ?」
侑「あれってどうしてなのかなって」
果林「あら、私も気になってたのよね。何か理由があるの?」 遥「いやまあ、その…、家庭の事情といいますか…」
果林「ごめんなさい、話し辛いことなら無理にとは言わないわ。ねえ、侑?」
侑「そうそう!ちょっと気になっただけだから!無理なら全然!」
遥「あれは私が小学校に上がったばかりの頃──」
侑「あ、話してくれるんだね」 遥「うちの父は難病でよく病院に通っていました」
遥「病院通いの父はいつも沢山の薬を貰ってきて、毎日沢山の薬を飲んで」
遥「それで普通の人と同じように生活できていました」
遥「ある時、病気が薬ではどうにもならないところまで進んでしまったことがわかりました」
遥「それから父は治療のために入院する事になりました」 遥「父が入院してからは、毎日のように放課後お姉ちゃんとお見舞いに行きました」
遥「私達が面会にいくと、父はいつもと変わらない調子で元気に振る舞っていて」
〜〜回想〜〜
彼方『お父さん、お見舞いきたよ〜』
遥『おとーさん、げんきー?』
近江父『元気だよ〜!かなちゃん、はるちゃんも元気かい?』
彼方『私は元気いっぱいだよ〜!』
遥『わたしも〜!』
近江父『ハハハ!いつも来てくれてありがとう』
彼方『今日はお母さんいないから、私が果物切ってあげるね』
近江父『ありがとう。かなちゃんは将来いいお嫁さんになるよ』ナデナデ
近江父『二人が来てくれると病気の治りが早くなるような気がしてきちゃうな』
〜〜回想おわり〜〜
遥「しかし、父の言葉とは裏腹に病気は父の身体を蝕みました」
侑「この頃の彼方さんは『私』なんだね…」 遥「入院してから3ヶ月ほど経ったときのことです」
〜〜回想〜〜
遥『おとーさん、おみまいきたよ!』
遥『今日はわたしとおかーさんだけなの!』
近江父『えっと…かなちゃん、かな?いつもありがとうね』
遥『おねーちゃんじゃないよ!はるかだよ!』
近江父『あちゃー…間違えてごめんね、はるちゃん』
近江母『…』
〜〜回想おわり〜〜
遥「父が私とお姉ちゃんを間違えたんです」
遥「それまで一度も間違えられたことがなかったから、すごく印象的でよく覚えています」 遥「次の日はお姉ちゃんと二人でお見舞いに行きました」
〜〜回想〜〜
彼方『お父さん、体調どう?』
遥『おとーさん、今日もおみまいきたよ!』
近江父『かなちゃん、はるちゃん、お父さんは元気だよ〜!』
彼方『今日も私が果物切ってあげるね』サクッ
彼方『はい、切れたよ。ここに置いておくね』コトン
近江父『ありがとう、かなちゃん。いただきます』
ポロッ
近江父『あれ…落としちゃった。ごめんね、せっかく切ってくれたのに』
彼方『ううん、気にしないで』
遥『おとーさん、わたしがたべさせてあげるねー』
〜〜回想おわり〜〜 遥「父が果物を食べようとして落としてしまったんです」
遥「そんな姿それまで見たことが無かったのでビックリしたのを覚えています」
遥「前日にお姉ちゃんと私を間違えて、この日は果物を落としてしまって」
遥「当時小学1年生の私でもわかるくらいその頃の父の様子は『普通じゃなかった』」
果林「病気で体調が良くなかったのかしら…」 遥「私はこの面会のあとすぐ、お姉ちゃんと話をしました」
〜〜回想〜〜
遥『おねーちゃん、おとーさんがへんだよ!』
彼方『変?どう変だった?』
遥『きのうね、わたしだけでおみまい行ったでしょ?』
遥『そのときね、おとーさんがわたしのこと【かなちゃん】ってよんだの』
遥『今日もおねーちゃんが切ったりんごをおとしてたでしょ?』
遥『こんなおとーさん、ぜったいへんだよ!』
彼方『そうだね、それは大変だ』
彼方『お母さんにも教えてあげようか』
〜〜回想おわり〜〜 遥「私達は家に帰って、父の様子がおかしいことを母に伝えました」
遥「私達の話を聞いた母は父の病状を教えてくれました」
遥「その頃の父は、目がほとんど見えていなかったそうです」
果林「目が…。それで果物を落としたり、姉妹の区別がつかなかったりしたのね…」
遥「きっとそれまではなんとか上手く、バレないように振る舞っていたんだと思います」
遥「でも、とうとう隠せないところまで来てしまった」 遥「それからの父はもうボロボロで、私達が二人で面会にいっても区別がつかないことが多くなりました」
遥「そんなある日のことです」
〜〜回想〜〜
彼方『お父さん、かなちゃんだよ!』
近江父『あぁ、かなちゃん、いらっしゃい』
遥『おとーさん、私もいるよー』
近江父『はるちゃんも来てくれたんだね〜ありがとう〜』
彼方『お父さん聞いてよ、かなちゃん昨日学校でね──』
〜〜回想おわり〜〜
侑「彼方さんが『かなちゃん』になった…」 遥「この日からお姉ちゃんは父の前では自分のことを『かなちゃん』と言うようになりました」
果林「父の前では、ということは他では『私』のままなのかしら」
遥「……」
遥「それからも父は入院治療を続けましたが健闘及ばず」
遥「入院から1年半ほど経った日の朝、亡くなりました」
侑「そうだったんだ…」 遥「お姉ちゃんは今でもお墓や遺影に語りかけるときには、『かなちゃん』を続けています」
遥「お姉ちゃんにとって『かなちゃん』という呼び方は父との大切な繋がりになっていたんです」
遥「父が生きていた頃は、母も私達のことを父同様に『かなちゃん』『はるちゃん』と呼んでいましたが…」
遥「父が死んでからは、『かな』『はる』に変わりました」
遥「きっと母も『かなちゃん』『はるちゃん』だと父のことを思い出してしまうから」
遥「普段はそう呼ばないようにしているんだと思います」 遥「それから、近江家では自然と『かなちゃん』『はるちゃん』は父と話すときだけ使う特別な呼び方に変わっていきました」
遥「そしてお姉ちゃんは、父との繋がりをずっと忘れないために…」
遥「似た響きになる一人称『彼方ちゃん』を使うようになりました」
遥「『はるちゃん』は父とお姉ちゃんの特別な絆ですから、他の人には使いません」
遥「これが、お姉ちゃんが自分のことを『彼方ちゃん』と呼ぶ理由です」
遥「どうでしたか?」
侑「うぅ…」グスン
果林「彼方、そんな辛い過去があったなんて…」グスッ
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果林「という話を遥ちゃんから聞いたわ。彼方、辛かったわね…」ギュー
侑「うわーん、彼方さーん」ギュー 彼方「遥ちゃんめ、なんと長くわかりにくいウソを…」
彼方「家に帰ったらお仕置きだな〜」
果林&侑「「ん?」」
彼方「あのね、まずウチの父親は生きてるよ〜」
果林&侑「「は?」」
彼方「病気で病院に通ったり、薬を沢山飲んだりもしていない」
果林&侑「「はぁ?」」
彼方「あと、彼方ちゃんの記憶にある限り、物心ついたときには両親とも『かな』『はる』って呼んでたよ〜」
彼方「『かなちゃん』『はるちゃん』はたまに呼ばれることもあったかな〜?」
果林&侑「「はあああ!?」」
彼方「それにね、彼方ちゃんはもっと小さいときからずっと『彼方ちゃん』なのだよ〜」
果林&侑「「はああああああああ!?」」
おしまい 彼方の一人称が彼方ちゃんの理由なんて神秘的すぎて自分では扱いきれなかったのサ いやもしかしたら最後に彼方ちゃんが言っていることが二人を安心させる為の嘘という可能性も…!? >>23
わかる、彼方ちゃんってそういうことするよな… ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています