善子「UNDERTALE?」
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UNDERTALEのネタバレを含みます。ご注意ください。
数年前に埋め立てられて途中でやめていた内容を書き直して改めて投稿します。 〜善子の部屋〜
善子「……Undertaleというゲームを買ったわ」
善子「ずっとネットで話題になってて、私もやってみたかったから前情報はほとんどなしで購入したけど……」
善子「スイッチかPS4のDL版しかなかったのよね。私としてはパッケージで欲しかったけど……ま、仕方ないわね」
善子「さてと、起動っと」pi
むかしむかし ちきゅうには
ニンゲンと モンスターという
2つのしゅぞくが いました
善子「ふむ……舞台は地球なのかしら? 人間とモンスターがいて……」
善子「ところが、ある日……2つの種族の間で戦争が起きた」
善子「あるわよね……モンスターってだいたい恐ろしい見た目で強い力を持ってるし」
善子「人間がそれを怖れて戦って倒す……とか」
善子「ああ、やっぱり封印してしまったのね。……でも、地下なんだ」
善子「それから、長い時が流れ……」
善子「この主人公が、山にあいた大穴から地下へ落ちて…………」
・おちたニンゲンになまえをつけてください
善子「っと、ここからゲームスタートなのね」 善子「ま、もちろん私の名前は……」
ヨ ハ ネ
善子「そして、決定────」
を、押そうとして。
善子「────ぁ」
私の意識が反転した。 〜???〜
善子「いったたた……」
善子「な、なによもう……ゲームしながら目眩って……」
痛む頭を抑えながら、目を開けると────
善子「…………え?」
そこは────見たこともない場所だった。
善子「えっ……え、え? なに、なにここ……」
当然、私の部屋ではない。
善子「わたし……買ったゲームを起動して、名前を打ち込んだら、こ……こに」
善子「……え、なにが……どうなってるの?」
ひとまず、状況の整理。
周りを見渡して分かるのは、ただただ、岩で囲まれた空間であること。
私のお尻の下に、黄色い花がたくさん咲いていること。
そして空────天井には大きな穴が開いていて。
そこから光が差し込んでいる────けれど、その穴の先は、見えない。 善子「……これって、さっきのゲームの状況と似て……ない?」
善子「地下に迷い込んだ、子供が……地上に帰るって、話らしいし……」
善子「もしかして……私、ゲームの世界に迷い込んじゃったの!?」
善子「すごいすごい! 私、自分でゲームをやってるんだわ! じゃあ私はこのゲームの主人公のヨハネで、地上へ帰るためにRPGを!」
善子「……って、んなわけないでしょ」
善子「どうせ夢よ夢。眠たすぎてゲームやりながら寝ちゃったんでしょ……どこまで進めたのかもあやふやなくらい眠たい状態で」
善子「とりあえず……進んでみましょうか」テクテク
少し進むと、中世風のゲートがあった。
それを通って部屋に入る────と、そこにいたのは。
「こんちかー!」(大音量)
善子「」ビク 「やあ! チカはチカウィー!おはなのチカウィーだよっ!」
善子「え、千歌……千歌!? なにやってんのよ!?」
チカウィー「え? 何言ってんの? チカはチカウィーだよ?」
善子「いや、えぇ? 待って……あなた、なんで花になってるの……?
そう、そこにいたのは……黄色くて小さな花になった……高海千歌だった。
誰でもない、私の所属するスクールアイドル『Aqours』のリーダー。
小さな花だけど、そのテンション、その顔はリーダー、千歌に違いない。
やっぱりこれ夢なのかしら……?
キャラに自分の知ってる人を当てはめるって、私の堕天的魔法もここまで来たのね。
というか、まだやってすらないゲームを夢に見るって一体…… チカウィー「キミは……この地底の世界に落ちてきたばかりだね?」
善子「あ、えっと……ええ、そう……みたい?」
チカウィー「そっか! じゃあとっても困ってるんだろうね」
チカウィー「この世界のルールも知らないでしょ?」
善子「まあ、そうね……」
もしかしてチュートリアルかしら。
チカウィー「よかった! それならチカが教えてあげるよ!」
チカウィー「準備はいい? いくよ!」
瞬間。
世界が、今度は暗転した。 ・・・
善子「────へ?」
気がつくと私の体は、小さな赤いハートになっていた。
チカウィー「そのハートはね、キミのタマシイ。 キミという存在そのものと言ってもいいよ!」
対面してその首を揺らすチカウィ。楽しそうな笑顔で、私にこの世界のルールを教えてくれる。
チカウィー「初めはすごく弱いんだけど、LVがたくさん上がるとどんどん強くなるんだ!」
あ、この辺は普通のゲームと同じなのね。
ステータスを確認する。
LV1 HP20/20
私のレベルは1……始めたばかりだから、1番弱い状態ということね。 チカウィー「LVっていうのはLOVE……つまり『愛』ってこと!」
善子「愛!? レベルじゃないの!?」
チカウィー「キミもLOVEが欲しいでしょ?」
チカウィー「待ってね……すぐチカが分けてあげるから」
ま、まあ、それで強くなるん……なら……というか、ゲームだしレベル上げは必須。
でも敵を倒さずにレベルって上がるものなの?
なんか胡散臭いなこの花……
チカウィー「この世界ではね、LOVEはこんなふうに……」
チカウィーはそう言いながら、自分の体から小さな白い球を放り出した。その球はチカウィーの周りをふわふわと浮いている。
チカウィー「白くてちっちゃな……『なかよしカプセル』に入れて渡すんだ!」
か、カプセル……?
でも、珍しいシステムね……弾幕ゲームに近いシステムって聞いていたし、『かすり』判定でレベルが上がったりするのかしら。
……いやないでしょ。
あるわけないでしょそんなこと。多分。 ん?
結局ゲーム画面越しに見てるの?
ステータス画面見れるし、自分のカラダがハート型になったことを瞬時に認識してるってことはそういうことだよね チカウィー「じゃあいくよ? さあカプセルを追いかけて! いっぱいいーっぱい拾ってね!」
善子「わ、ちょっ……」
言うが如く、チカウィーはなかよしカプセルを私めがけて投げてきた。
そして私は────
善子「おっと」ヒョイ
試しに回避。
カプセルはそのまま虚空へと消えていく。
チカウィー「あれあれ? 全部落としちゃったよ?」
そりゃあ……避けたから。
チカウィー「仕方ないなあ……もう一回行くね?」
しぶしぶ、と言った風にチカウィーが例のカプセルを投げてくる。 やっぱりなんか胡散臭いわこの花。うちの千歌と似ても似つかない。
言うことは聞かないほうがよさそう。
善子「……」ヒョイ
というわけで回避。
チカウィー「……」
チカウィー「ふざけてんの? 脳みそ腐ってんの? さっさと当たりなよたm……なかよしカプセルに」
だんだんイライラしてるようね。顔、引きつってるわよ。ていうか、弾って言いかけたでしょ今。
続いて投げつけられた弾を、私はまた難なく回避。もう騙されないわよ。
チカウィー「…………」
チカウィー「キミ……さては知らないふりしてるだけだよね?」
ピキン────と、空気が変わる。
チカウィーの表情が変化し……恐ろしい、怪物のようになっていた。 チカウィー「さてはチカのことバカにしてたんでしょ?」
私のハートの周りに大量の球がばら撒かれる。これ全部があれと同じだとしたら、これを全て喰らえば私はゲームオーバーってことね。
チカウィー「しね」
千歌の顔と声で、そんな言葉を聞かされることになるとはね。夢とはいえ、嬉しいものではないわ。
チカウィーの言葉を合図に、大量の弾が私に向かってゆっくりと近づいてくる。
善子「……どうしたらいいのかしら。ねえ千歌、チュートリアルで私を殺しちゃうの?」
チカウィーは答えない。
善子「……」
じりじりと近づく弾。それは私の動揺を嘲笑うかのように、私が焦る時間を楽しむかのようにじっくりとゆっくりと近づいてくる。
ふ、ふふ────さすがに、少しは怖いものね。
夢とはいえ、このリアル感……
まさかHPを全損して……死んだり、なんて。 >>11
そこまで考えずに描写してるんでしょ
揚げ足取ってやるなよ チカウィー「あはははは! あーっはははは!」
チカウィーが笑う。
さっき私から受けたストレスを解消するかのように、楽しそうに笑う。
私が死ぬのを、今か今かと心待ちにして────
瞬間。
善子「……ん」
チカウィー「え?」
────チカウィーの放った球が姿を消した。
そして。
チカウィー「うわぁ〜!!?」
突如別のところから放たれた火球によってチカウィーは吹き飛ばされ、消えていったのだった。
な、なに……一体何が……?
「情けないわね……罪もない子供をいじめるなんて」
優しい声とともに現れたのは、ひとりの……見覚えのある人物。
いえ、でもこれは夢の話だから……また、私がキャラに当てはめてるだけなのでしょうけれど──── ステータス画面なんてなろうだったら見れて当然のものだし細かいことは気にすんな ローブのような衣装を纏った、それは小原鞠莉だった。
「ハーイ☆ 怖がらなくても大丈夫、もう安心よ!」
マリエル「私はマリエル! このruins……遺跡の管理人よ♪」
善子「ま、マリー……助けに、来てくれたの……?」
マリエル「毎日ここを見回って、落ちてきた子供がいないか確認していたの」
マリエル「待たせてごめんなさい……怖かったでしょう」ギュウッ
善子「あ、あは……はは……」
普段なら振り払う彼女のハグにも、さすがに安堵感が私の中に溢れていた。
まあ、ね……ゲームにしてはなかなか……怖かった……かも、うん。
かも、だから。
マリエル「ニンゲンがこの世界に来たのは本当に久しぶり!」
マリエル「さあいらっしゃい! ruinsを案内してあげる☆」
また暗転。
そしてさっきまでの、私の身体が返ってきた。
なるほど……バトルパートになると私はハートになるわけね。
で、敵の攻撃を避けながら……こっちも攻撃するのかしら。
装備はこの棒切れと、包帯? ……まあ、ひのきのぼうみたいなものか。
モンスターを倒せるようになったらお金も手に入るでしょうし、武器や防具はそのときに買い揃えるとして……とりあえずマリーを待たせるのもよくないし、早く行かなきゃ。 〜いせき〜
マリエル「もう、やーっと来たのね? マリーを待たせるなんて悪い子☆」ツン
善子「わ、悪かったわね……まあ、堕天使的にいい子よりは悪い子の方がいいって言うか?」
マリエル「what?」
善子「……なんでもないわよ」
マリエル「そう? じゃあ話の続きだけど……あなたは今日からこのruinsで一緒に暮らすの!」
善子「えっ」
マリエル「だからこのruinsで暮らすのに必要な仕掛けについて教えておくわね」
そう言うと、マリエルは慣れた手順で床に設置されたボタンを操作し、レバーを倒した。
すると、地面の揺れる音とともに扉が開いた。
マリエル「ここにはたくさんの『puzzle』があるの! 侵入者を撃退するための昔からのskillというわけ♪」
マリエル「部屋を移動するときは必ずpuzzleを解く必要があるから、よく見て慣れておいて?」
善子「え、ええ……わかったわ」
ここで暮らす、ってことは……マリーは私を地上に帰さないようにしているってこと?
ここから出られないってことは、もしかして。
もしかして、最初のボスって────
マリエル「さあ次の部屋に行くわよー?」
善子「あ……わ、わかってるから!」タッタッタッ ・・・
マリエル「この先に進むには正しいswitchを押さなくちゃいけないの」
マリエル「でも大丈夫! ちゃんとシルシをつけてあるわ♡」
……これは道中にも色々パズルがあるってことね? で、そのチュートリアルなんだわ。
私は説明書は読まないスタイルだからありがたいといえばありがたいけど、周回するたびにやらなきゃいけないのは面倒かも。
マリエル「マリーはここで見ているから、頑張って!」
善子「……むう」
私の目の前には広い壁。
その端っこに、めちゃくちゃ矢印で『here!ここ!』と書かれたスイッチが2つ。
わかりやすいけど、なんか……うん。
善子「……ん?」
張り紙がある。
『一度道を決めたら、心を変えることなかれ』
善子「……」
……何の言葉よこれ? 善子「よく分からないけど……ま、いいか。さっさと進めちゃいましょう」
ポチポチ
ゴゴゴゴ……
マリエル「wonderful! 素敵ね!」
善子「ふふん、これくらい私にかかれば簡単よ!」
マリエル「うふふ、さすがマリーの可愛い娘♡ さ、次のお部屋に行くわよっ」
いつのまにか私はマリエルの娘になっていた。
次の部屋には、マネキン人形が1つ置いてあるだけだった。
その前に立ってマリエルが言う。
マリエル「あなたはニンゲンだからモンスターに襲われてしまうこともあるわ」
お、ついにバトルパートのちゃんとしたチュートリアルね!
マリエル「そんな時はどうするか。あなたには分かるかしら?」
善子「もちろん倒すに決まってるでしょ! RPGは倒してレベルを上げて強くなるのが醍醐味なんだから!」
マリエル「No!」
善子「えっ! なんで!?」
マリエル「戦うなんて危ないことはしちゃNoよ! マリーの話をよぉく聞いておいてね?」
善子「は、はあ……」 マリエル「モンスターに遭遇するとバトルが始まるわ。そしたらあなたはモンスターに話しかけるの」
善子「話しかける?」
マリエル「Yes! そして時間を稼いで……マリーが助けに行くのを待っていて!」
善子「……はあ」
まあ……ポケモンも最初は危ないから草むらに入っちゃダメって言われるし。
そういうノリよね。
そして私はマネキン話しかけ、マリエルの戦闘訓練を終えたのだった。
そしてめちゃくちゃ褒められた。
私のことコミュ障とか思ってるんじゃ……いや、しばらく引きこもってたけど! ・・・
マリエル「次のpuzzleは少し先にあるの。ついてきてね?」
善子「ふ、私のゲーム力をバカにしないでもらえるかしら? 私はパズルは当然のこと、RPGもアクションもシューティングもなんでもそつなくクリアできるんだから!」
善子「そして数々のゲームでランキング入り……いつしか私のことを人々は恐れ、こう呼ぶようになった」
善子「天才堕天使ゲーマーヨハ」
暗転。
・フロギーがおそってきた!
善子「うわっ!? か、カエルのモンスター……!」
よかった、さすがにこれは誰も当てはめてないみたい。まあ、カエルになったAqoursとか見たくないし……うん。
善子「ともかく、これが初戦闘だからバッチリ決めたいわね」
善子「いくわよ! 魔剣グラムの力を喰らうがいいわ! ……まあただの棒切れだけど」
バシッ
フロギー「ぎゃあ!」
カエルのモンスターがダメージを受けてひるむ。
が、まだ倒すに至らなかったらしい……
次の攻撃の準備を、と考えていたらどうやら時間切れのようだった。
マリーが現れた。……とても怖い顔で。
マリエル「……」ゴゴゴゴ
フロギー「」ビク
ソソクサ…
善子「えっ」
・YOU WIN!
善子「えぇー……」
暗転。 マリエル「もう、戦っちゃダメって言ったでしょ? マリーがもう少し遅かったら、また痛い痛いだったじゃない!」
善子「なーんでよー……RPGなんだから戦うじゃないのよー……」
マリエル「もう……どうしてあなたはこんなに好奇心旺盛なのかしら。まったく、可愛い私の娘……」ナデナデ
善子「……」
いや、だからなんで娘……? ・・・
少し進むと床一面がトゲだらけの空間が現れた。
マリエル「これがさっき言ってたpuzzleよ!」
善子「……え、まじで?」
マリエル「もちろんマジよ」
善子「……」
いや……え、これパズルなの? どうやって解くのこんなの? どこかにトゲが無くなるスイッチあるの?
マリエル「これは……危ないからマリーと一緒に手を繋いで行きましょうね♪」ギュウッ
善子「あ、ぅん」
大丈夫なの……?」
マリエル「大丈夫よ、ここはちゃんと正しい道を進めばspikeが引っ込む仕掛けになってるの」
善子「……」
意外にハイテクな仕掛けだった。 ・・・
マリエル「さあここまでよくできたわね!」
善子「ま、まあ……堕天使的には簡単でしたけれど」
ほとんどマリエルが解いてるしね。
答える私に、マリエルは少し寂しそうに続ける。
マリエル「でも、次は……すごく辛いお願いをしなくちゃいけないの」
善子「?」
マリエル「……この部屋の端まで1人で歩いていくのよ」
善子「え?」
マリエル「どうか悪く思わないでね」シュバッ
言うが早いか、マリエルは全力で逃げ始めた。
はっや!? いや、なにあれ……速!?
善子「ちょ、ちょっと待ちなさいよ〜! ここまで来て1人にしないでよー!」ダッ
すでにマリエルは見えない。隣の部屋に移動してしまったの?
……っていうか、え、マジで待って!?
ここでいきなり置いてけぼりってなんなのよそれ!? 善子「鞠莉、鞠莉?! ねーえー!」タッタッタッ
しかも通路、長っ!
善子「マリー! ちょっと! おいてかないでよー!」
「ストップ!」
善子「!!」ズザザー!
マリエル「よくできたわ! 安心して、置いて行ったりなんかしないから」
善子「ま、マリー……はぁ……はあ、っ……」
マリエル「うふふ、柱の陰に隠れて見守っていたの。よく頑張ったね」ナデナデ
マリエルが頭を撫でてきた。
めちゃくちゃ子供扱いされてない? 私、2個下よね? こんな母親ムーブされてもちょっと困るというか……
マリエル「でもね、この練習にはとても大事な意味があるの」
善子「?」
マリエル「ひとりでお留守番できるかテストしたのよ」
善子「……お留守番?」
マリエル「Yes」 マリエル「マリーは少し用事があるから、しばらくここでお留守番していてね☆」
マリエル「ひとりで歩き回ったら危ないから、ちゃーんとここで待ってるのよ?」
善子「は、はあ……」
え、バカにされてる?
マリエル「でも、不安よねぇ……マリーも心配だし……そうだわ! あなたにこれをpresent!」ノξソ>ω<ハ6!
善子「……なにこれ、ケータイ?」
マリエル「Yes! 用事があったり寂しくなったら電話をかけてちょうだい! マリーが必ずすぐに出てあげるから」
善子「……わ、わかった」
これでマリエルと電話……んー……ポケギアとか、ポケッチ的なアイテムかしら……?
……ちょっと古いわね例えが。
マリエル「それじゃあ待っててね! see you!」
そう言ってマリーは足早に部屋を後にした。
どんな用事があるのやら…… ……
……
……
善子「……暇」
善子「ていうかこんな広い部屋で1人って……しかもまだここに来て1時間も経ってないのよ?」
善子「でも、マリーがいてよかった……さすがにこんなダンジョンひとりじゃ怖かっtげふんげふん」
善子「……」
・プルルルル……
マリエル『Hello! マリエルよ!』
善子「あ……ま、マリー? その、えっと」
マリエル『どうしたの? 寂しくなっちゃったかしら?』
善子「ま、まさか! そう、あの……挨拶よ! 出会ってちゃんと挨拶もしてなかったし……」
マリエル『ああ、挨拶ね! それじゃあ……』
マリエル『Good morning! ……これで満足かしら? うふふ♡』
・ツー……
善子「……」 ・プルルルル……
マリエル『Hello! マリエルよ!』
善子「あの……マリーって何者なの?」
マリエル『マリーについて知りたいのね? そうねぇ……うーん』
マリエル『あえてお話しするようなことは、なーんにもないわねっ』
善子「えっ!?」
マリエル『だってマリーはただのお節介焼きなおばさんだもの♡』
・ツー……
善子「……え、電話の内容雑じゃない?」
善子「もっと喋りましょうよ私ひとりなんだから〜!!」
善子「…………どうしよ」
善子「ちょっと他の部屋見てみる?」
善子「っいうか、マリーは私を子供扱いしすぎでしょ! パズル? そんなもん天才堕天使ゲーマーヨハネにかかればちょちょいのちょいなんだから!」
善子「とりあえず進みましょうか! たぶん一人行動するためのイベントでしょさっきのやつ!」 ・・・
善子「この部屋は……やっぱ遺跡よね。あ、赤い落ち葉がいっぱい」
・プルルルル……
善子「」ビクッ
善子「……もしもし?」
マリエル『Hello! マリエルよ』
善子「……も、もしもし」
マリエル『お部屋から出たりしてないわよねぇ?』
善子「え、いや……あの、べ、べっつにー?」
マリエル『その先にはまだ説明してないpuzzleがあるの。ひとりで行くと危ないから待っててね☆』
・ツー……
善子「……びっくりした。どこかで見てるんじゃないでしょうね……監視カメラとか」
善子「…………なさそうね」 善子「さてと、本格的に探索の始まりね! マリーもいないしレベル上げまくって、まずはこの遺跡のダンジョンをクリアね!」
そうして私は棒切れ片手に勇者っぽいポーズをとるのだった。
暗転。
・フロギーがこっちへとんできた
善子「うわっと! びっくりするわね……今度こそ倒してあげるわ野生のモンスター!」
善子「ふん! この堕天使ヨハネにかかればカエルなんて!」バシッ
フロギー「!!」
フロギー「ケロケロ」ピョンピョン
善子「ぎゃあ!? な、なによ体当たりとかびっくりするじゃないの!」
善子「でも、あと一発叩いたら倒せそう……!」
善子「そりゃあ!」ポコッ
フロギー「ギャッ!」シュワワワ…
・YOU WIN!
・3EXPと2ゴールドを獲得!
暗転。
善子「おお……初めてモンスターを倒したわ!」
善子「ドラクエの勇者はこれを繰り返して魔王を倒すほどの……ふ、ふふふ」
善子「まさか私が自分で体験することになるとはね!」
善子「さあ進むわよ!」
そんなこんなで私は少しずつモンスターを倒しながら、パズルを解きながらダンジョンを進んでいった。 途中、マリエルからシナモンとバタースコッチのどちらが好きかと電話で聞かれたけど意味がよくわからなかったわ。
まあどちらかといえばシナモンだけど! シナモンシュガーとか美味しいわよね。
また、妙にやる気のなさげな幽霊にも出会ったわ。テンションの低さがちょっとアレだったけど、私を笑わせようと色々やってくれたし面白い子ね!
それからクモがお菓子を作って販売してるとかで、それを購入したり。
パズルも結構作り込まれててやりごたえはあるし。
この世界って結構たのしい!
そして─────
・おもちゃのナイフをみつけた
善子「ついに武器ゲットよ! ……なんかおもちゃっぽいけど、棒切れよりはマシよね」
善子「よし、これを装備して……棒切れは、とりあえずポッケに入れといて」
善子「さてと、そろそろ何かしらのポイントに到着してもいいんだけど……」テクテク 〜ホーム〜
マリエル「もう! 大変だわ、思ってたより時間がかかっちゃった……」
善子「!」
・プルルルル……
善子「あ」
マリエル「!」
マリエル「まあ! 一人でここまで来たの?怪我はない?」
善子「と、当然よ!」
……まあ途中で色々モンスターと戦ったから、無傷ではないけど。回復したら怪我も治るのはさすがゲームよね。
マリエル「ふふ、でも擦り傷だらけ。転んだのかしら……こっちへおいで。回復してあげる」ナデナデ
マリエル「ずっと一人にしてゴメンね……驚かせようなんて考えてたマリーがおバカだったわ」
マリエル「come on!おうちへ入りましょ!」
善子「……わあ」
こんな遺跡の中に可愛らしい家があるなんて……
・私はこの家を見てケツイがみなぎった
ヨハネ LV2
ホーム
セーブしました。 とりあえずは一旦ここまで
バトルパートは
ゲーム画面をそのまま見てるような視点を持ちつつ、ハートになった身体で行動してる感じです
カーソルもハートですので >>49
//*イ`^O^リ あっー!!!
人 Y / o。╭(^O^)みんなー!会いたかったよー!!!
( ヽωつ ο°
(_)_) フロギィたおしちゃってるし、チカリエル・ドリーマーは出ないでしょうね ・・・
ガチャッ
善子「……失礼します」
扉をあけて家に入ると────ふわりと香る、あまい匂い。
マリエル「いい匂いでしょう?」
頷く私に、マリーはとっても嬉しそうな顔で手を広げた。
マリエル「surprise! 実はバタースコッチシナモンパイを焼いたの!」
善子「バター……なに?」
マリエル「バタースコッチシナモンパイよ☆ 私の得意なお菓子なの」
マリエル「あなたが来てくれたお祝いに♡」
善子「な、なによ……おもてなしなんて、別に頼んだわけじゃ……///」
お祝いだなんてそんな大それた事じゃないってのもう別に嬉しくなんかないわよ堕天使はむしろ祝われることを忌み嫌うんだからとはいえせっかく作ってくれたなら食べないわけにはいかないわねええそうよねうんそうそうきっとそう多分そう。
と……落ち着いて、落ち着くのよヨハネ。 マリエル「せっかくだもの、ここで楽しく暮らしてもらいたいわ。だから今日は私の好物のカタツムリパイはガマンガマン……」
うげ、カタツムリって……エスカルゴのこと? 確かにマリーって国際的だし、エスカルゴくらい食べたことあるんでしょうけど。
マリエル「それより、こっちに来て! 他にも見せたいものがあるの!」
手をこまねくマリエル。
早く早く! と急かすマリーに引っ張られる形で廊下を進んでいく。
マリエル「ここが……あなたのroomよ! 綺麗にしてあるからすぐに使えるわ。気に入ってもらえるといいんだけど……」ナデナデ
善子「ちょ、子供扱いしないでよっ! もう!」
マリエル「うふふ♡ あなたはマリーの可愛い娘なんだから、ナデナデくらい許してちょうだい?」
善子「だ、だから娘ってほど年は離れて……」
私がそう反論しようと口を開くと────
……ん?何この匂い?
マリエル「あら? 焦げ臭いわね…………あっ!! oh my god!」
善子「!?」
マリエル「マリーのパイがー!」バタバタバタ
善子「……あー」
なるほど、これは生地の焦げる匂いだったわけね。
慣れないお菓子作りを頑張ってくれたのだろう、彼女の献身に私はとても嬉しい気持ちになった。
にしても、慌ただしいのはここでも変わらないのねマリー…… とりあえず部屋に入ってみましょうか。せっかく用意してくれたんだし……
善子「……」ガチャッ
善子「……ふーん。ずいぶんと可愛らしい部屋ね」
善子「タンスは……いろんな服。男の子、女の子……どっちが来てもいいように揃えてあるみたい」
善子「これはおもちゃ箱かしら? ぬいぐるみにミニカー……ちょっと年齢層低すぎない? 私のために用意されたもの、ってわけじゃなさそう」
善子「……もしかして今まで他にも落ちてきた子供がいたとか? ありえる話だわ」
善子「あ、でも……このぬいぐるみは……可愛いかも」
善子「そして、ベッドね」
ふかふかのベッド。
それを目の端に捉えた途端、猛烈な眠気が私を襲った。
まあ、いきなりこんな世界に落とされてからずっと動き回りっぱなしだったし……
善子「ちょっとくらい……寝ても、いい……でしょ……」バフッ
善子「んん……ぁふ……zzz」 〜数時間後〜
善子「…………ん」
善子「んー……ふぁぁ」
善子「…………」
ぼんやりと目を覚まして、ここが自分の部屋でないことに気づく。
ああ、やっぱり────目が覚めたら私の部屋で学校があって……なんてことはないのね。
やっぱり、ここは現実……私は間違いなく────
善子「……起きよ」
私はのそのそとベッドから降り、顔を洗いにトイレに行こうとして────
善子「ん?」
サイドテーブルに何かが置かれていることに気づいた。
善子「これって……パイ?」
お皿に乗せられた一切れのパイ。シナモンとバタースコッチがふんわり香る、とても美味しそうなパイだった。
善子「……流石に寝起きでこれを食べるのはね」
私はありがたくパイを受け取り、アイテムを……と。
善子「……どうしよ」
ポケットをぱたぱた叩いてみる────と、アイテムストレージが開かれた。
中にはさっき交換した装備の棒切れとほうたい、モンスターアメ数個、スパイダードーナツが収まっていて、バタースコッチシナモンパイもそこへしまっておいた。
ゲームって便利。 善子「さてと、次はこの家の探索ね! 全部の部屋を見て、壺を割ったりタンスを漁ったり……ふふふ」
そうして私は意気揚々とホームの探索を始めた。 ・・・
────家は外観から想像できたように、それほど大きくはないようだった。
玄関から入って目の前には地下室に行くための階段があり、左右に廊下が伸びている。
右に行くと私やマリーの部屋に続く廊下が伸びている。まず私の部屋があって、その隣にマリエルの部屋。
その奥には『かいそうちゅう』と張り紙をされた部屋だけ。
人の部屋の中身を言うのは流石に行儀がよくないから1つだけ言うと……マリーって意外とダジャレ好きみたい。千歌みたいに説明しないだけマシだけど。
そして廊下を左に行くとリビングがあった。
部屋の真ん中には大きな暖炉があり、心地よい炎が灯されている。マリエル曰くこれは魔法によるものらしく、手を入れても火傷はしないみたい。
本棚には大量の歴史書が並べられていて、この世界のニンゲンとモンスターの戦い、そして今に至るまでの内容が細かく記されていた。
リビングの奥にはキッチンがあるわ。大きなパイと、冷蔵庫には何故か有名なチョコが置いてたけど……マリエルも好きなのかしら?
……ま、探索結果はこんなものね。 ・・・
マリエル「Good morning! よく眠れたみたいね」
善子「フッ!」ギラン
リビングに行くと、一人がけの大きなチェアで本を読んでいたマリエルが、眼鏡を外しながら笑顔で迎えてくれた。
私も普段のマリーと会話をするように決めポーズで返事をした。
マリエル「その様子だと、とっても元気みたいでマリーも嬉しいわ! すぐに朝ごはんにするわね♪」
笑顔でスキップしながら、マリーはリビングに消えていった。
数分後。
マリエルが笑顔で出してきたカタツムリ料理を食べることになるとは、この時の私は知る由もなかった…… ・・・
マリエル「……新しい家族ができて、マリーはとってもhappyよ」
善子「え?」
なんとか食事を終えた私に、マリーが慈愛に満ちた表情でそんなことを言い出した。
マリエル「あなたに読ませてあげたい本がたくさんあるし……教えてあげたいこともたくさん」
マリエル「とっておきの遊び場も紹介してあげるし、お勉強だって……ふふ、実はマリー、学校の先生になるのが夢だったの」
善子「へえ……そうなんだ」
マリエル「意外だった?」
善子「そうでもないわよ? マリーって面倒見がいいし、私のこともここまで気遣ってくれてるし……」
マリエル「あ、あら! まあ……うふふ、恥ずかしい……///」 善子「ねえ、それより」
マリエル「なあに?」
善子「新しい家族って……他に、家族はいないの?」
マリエル「……」
あ、やってしまった────そう気づいたのは、とても辛そうな顔のマリーを見た時だった。
善子「ぁ……ご、ごめんなさい、その、わたし……」
マリエル「ふふ、マリーの家族はあなただけよ♡」ギュウッ
善子「!」
マリエル「私の可愛い可愛い……大好きな娘。あなただけがマリーの家族……私の生きがい。だから、ずっとここに居て……マリーと一緒に楽しく暮らしましょうね」ナデナデ
善子「……」
善子「大丈夫よマリー。あなたはひとりじゃないわ」
マリエル「ふふ、ありがとう」
少し寂しそうな笑顔を見せるマリーを慰めてから、私は少し散歩をすることにした。
この遺跡でまだ探索できてないところがないか確認も兼ねて、ね。 ・・・
向かうのは私が最初にいた場所────あの黄色い花が咲いていた小さな空間。
そこへ向かう道すがら、私は自分の置かれた状況を自分なりにまとめることにした。
善子「私のこの状況……どう考えても私は『UNDERTALE』の世界に迷い込んでしまっているわ」
善子「そして登場人物はなぜか私の知り合いの顔をしている。それの理由は、分からないけど……私の認識が置き換わっている、のかしら」
善子「それとも、ゲームをやってないから勝手に想像で改変しちゃってるとか……? まあ、それならそれでわかりやすいからいいんだけど」
善子「異世界に迷い込むなんて堕天使的に最高のシチュエーションだけど、味方がいないこの状況で喜べるほど馬鹿でもないわ」
善子「なにより大事なのは、ゲームの世界であること。
善子「私は……きっとこのゲームをクリアするまで自分の世界に帰れない。よくあるパターンだもの」
善子「そのためにはラスボスまでたどり着かなくちゃいけないから……まずはこの遺跡から外に出なくちゃいけない」
善子「すると、マリーの言いつけを破ることになってしまうから……やっぱり最初のボスは……」
「ケロケロ」
善子「うわっ!?」
か、カエル!? バトルパートか……!
善子「って、あれ……ハートになってない……?」
ってことは、バトルじゃない……の? 善子「あなたは襲いかかってこないのね」
フロギー「ケロケロ(ボクは戦いたくないケロ)
フロギー「ケロケロ(それよりモンスターとのバトルでいいことを教えてあげるケロ)」
善子「いいこと?」
フロギー「ケロケロ(何か特別な行動をとったり、戦って相手を瀕死の状態にすると……)」
善子「うん」
フロギー「ケロケロ(相手が戦う意思をなくすことがあるケロ)」
善子「へえ……確かにプレイヤー目線でもあるわね。戦ってみたものの強すぎてやる気をなくすこと」
フロギー「ケロケロ(そうでしょケロ。だから、モンスターが戦いたくなさそうにしていたら)」
フロギー「ケロケロ(名前が黄色くなっていたらその合図だから、見逃してあげてほしいケロ)」
善子「……見逃す、ね」
善子「なるほどね……考えておくわ。ありがとカエル」
フロギー「ケロケロ」 まあ、私もポケモンとかやってる時に強い奴が出たら『ほえる』あたりで逃げたりしたしね。
経験値はもらえないけど……まあ、他のやつを倒したら補えるしそれはそれで。
善子「それにしても…………戦いたくない敵もいる、のね」
これはゲームの世界だ。
ゲームの世界で、私以外の周りの全てはモンスター。
マリエルもモンスター……だから、つまり……生きている。
だけれど、されどもゲーム。
ゲームなら敵は倒して進むもの。
けれどこのゲームには『殺さない』という選択を取ることも可能────
だからさっきのカエルも見逃してあげて、なんて言ってたわけでしょ?
なら、マリーと戦って和解することができれば……あるいは。 マリエルが私をここから出すまいとする決意は固い……ならば一緒に出てしまえばいいんじゃないだろうか。
善子「そう、そうじゃない!」
善子「RPGなら『仲間にする』ことができるじゃない!」
よく言う『スライムが仲間になりたそうに見ている……』ってやつだ。これでマリーを仲間にすれば、マリーをひとりにすることはない。
きっとマリーも一緒に来てくれる。私もマリーが一緒にいてくれるなら、寂しくないし。
マリーは睨むだけで雑魚モンスターを逃げさせちゃうくらいなんだもの。これから先、必ず戦力として頼りになるわ。
善子「そうと決まれば即行動よ! 遺跡からの出口もマリーなら知ってるだろうし!」
最初の場所へ戻るのをやめ、私はきた道を猛ダッシュで戻った。
急いでホームに帰ると、リビングのマリエルを呼びに……向かおうとして。
ふと、一箇所、探索していないところがあったのを思い出した。
地下へ続く階段だ。 〜ホーム〜
善子「……やっぱりこういうところはちゃんと探索しなくちゃね」
マリエルは地下室について何も言ってなかったから特に気にもしてなかったけれど……
私が探索していない場所はここだけ。
ならば、この先にはきっと────
私はリビングにいるマリエルに気づかれないようにこっそり階段を降りる。
善子「……よっと」
善子「うわ、暗いわね……」
地下室はかなり暗く、長い通路が奥まで続いているだけだった。
とりあえず進む────
「ストップ!」
善子「!」
強い制止の声────振り向けば、そこには私を睨むマリエルがいた」
善子「ま、マリー……? どうしたの、そんな怖い顔して……」
マリエル「もう……roomにいないからびっくりしたわ。ここは危ないから、上で遊びましょ」
そう言うとマリーは私の手を引いて階段をのぼる。
その声色と握る手はいつも以上に優しく、それだけに先ほどの強い声が頭の中で反響しているようだった。
そして確信する────
善子「……やっぱりこの先に、出口が……」 ・・・
善子「ねえ、マリー」
マリエル「あら、どうしたの? いま読んでる本の話をしてあげましょうか」
善子「……それよりマリー、私、この遺跡から出たいの」
さっきの態度。
頑なに地下室へ行かせまいとするマリエル。
私を外へ出したくない物言い。
……おそらく、間違いない。あの先に遺跡の出口がある。
マリエル「……この本は『カタツムリ:72のつかいみち』って言って、カタツムリについての豆知識が……」
現にマリーはこうやって話を逸らそうとしてる。きっと私をここにとどまらせたいのね。
私が自分の世界に帰るには、このゲームをクリアしなくてはいけないはず。
そしてマリーと共に先へと進む。
そのためにはマリーを説得して、分かってもらわなくちゃいけないのだ。
だから私は今、こうしてマリエルと話しているわけ────だが。
善子「遺跡から出たいの、マリー」
何度目かの、このセリフ。
そろそろちゃんと話してくれるかと思っていた、その瞬間。
マリエル「……」
マリーの表情が。纏う空気が。全てが凍ったかのように感じられた。
マリエル「……私はちょっと用事があるからここで待ってなさい」
言うが早いか、マリエルは眼鏡も本も投げ捨てるかのように置いて部屋を後にした。
そして足音は地下室へと続く階段に────
善子「待ってマリー! 私、あなたと一緒に────!」
私はすぐにマリエルを追いかけた。マリエルを説得し、仲間にして、一緒に遺跡から出るために。 〜地下室〜
マリエルは地下に降りてすぐの通路で、こちらに背を向けて立っていた。
マリエル「『おうち』に帰る方法を知りたいのね?」
……私は無言で頷く。それを察したマリエルが続ける。
マリエル「この先に遺跡の出口があるわ。その先は地底の世界……一度出たら、もう中へは戻れない」
マリエル「これから私はその出口を破壊する」
えっ……!!!
マリエル「……もう二度とここから誰もいなくならないように」
善子「マリー、待って! それじゃあ私は……」
マリエル「ええ……一生、私とこの遺跡で暮らすの。お願い、いい子だから上で待っていて」
一方的に言葉を切り、マリエルは通路の先を行く。
善子「はかい、って……そんな、ちょっと待ちなさいよ!」ダッ
追いかける。
マリエルの言いつけは聞けない。そんなこと受け入れたら、私はずっとこのくらい地下の底。
自分の世界には帰れないし、ゲームだってクリアできない。
私の仮説が正しければ、帰るためにはゲームをクリアする必要がある────なら、絶対にマリーを止めなくちゃいけない。
私の世界に帰るため──── 善子「マリー!」
マリエル「……」
マリエル「ここに落ちたニンゲンは、みんな同じ運命を辿るの。私は自分の目で何度も見てきた……」
マリエルは語る。
声を震わせながら、 静かなる決意を灯すように。
マリエル「ここへ来て」
マリエル「ここを出ていって」
マリエル「……そして死んでしまう」
善子「!!」
……しぬ。死ぬ? 私が?
善子「ま、まさか……そんなわけ、だってマリーは優しいし……」
マリエル「あなたは何も知らないのよ。この遺跡から出れば……あなたは彼女たちに」
マリエル「ヨウゴアに……殺されてしまう」
善子「……ようごあ?」
ヨウゴア……ヨウ、曜?
今度は曜と来たか……しかもヨウゴアって語呂悪すぎじゃない? 大丈夫?私の堕天的想像力。
って、そんな場合じゃなくて。 マリエル「これはあなたを守るため……分かってちょうだい。お部屋で待ってるのよ」
マリエルはとても悲しそうに。辛そうに言って廊下を進む。
なるほどね……マリーのやりたいことがわかったわ。
この世界に落ちたニンゲンはモンスターからしたら敵同然なんだわ。
その原因は、この世界で昔、ニンゲンとモンスターの間で起こった戦争。
ヨウゴアってのはその過激派で、マリエルは逆に穏健派……というか、ニンゲンと共存したいと思うタイプ……ってことでしょう。
だからこの遺跡から外に出たら、そのヨウゴアたち過激派によって殺される……ということ。
善子「でも、私は……行かなくちゃ。それがこのゲームのストーリーなんでしょ? なら私はクリアを目指さないと」
善子「じゃないと……私は帰れないんだから」
彼女を追う。
マリエル「……止めても無駄」
マリエルが悲しそうに言う。
善子「マリー、聞いて、私は……」
マリエル「これが最後の警告よ」
善子「ぁ……」 マリエルは聞く耳を持たない。私の言葉を聞こうとしない。
……こういう強情なところは、小原鞠莉とそっくり。優しいからこそ、非常になれる。
大丈夫よマリー。私はあなたと一緒にここを出るんだから。
マリエルがいればヨウゴアなんて怖くないわよ!
マリエル「……」
マリエルが立ち止まるのに合わせて、私も歩みを止める。目の前に大きなゲートが現れたのだ。
これが、遺跡の出口。
ここを出れば、私は地下世界に……
マリエル「どうしても出て行くというのね……」
背を向けながらマリエルが言う。
善子「ええ……私は行くわ、マリー」
マリエル「そう……あなたも他のニンゲンと同じなのね」
嘆息混じりに、マリエルは告げた。
マリエル「なら、残る手段はあと1つ。わたしを納得させて見せなさい」
マリエル「あなたの強さを証明するのよ」 暗転。
・マリエルにゆくてをふさがれた!
善子「……マリー」
善子「ねえ、聞いてマリー」
マリエルは答えない。
善子「……あなたが私を守るために行動してくれてるのは分かるわ。私が傷つかないように、私が死なないように……モンスターから私を守ってくれてるんでしょう?」
マリエル「……」
マリエルが流れるような手つきで空に手をかざすと、そこから炎が現れる。
ひとつ、ふたつ、みっつ────数え切れないほどの炎が渦を巻いて私に襲いかかる。
善子「!!」
善子「わ、ちょっ……! うぐっ……っ」
さすがに避け切れる物量ではない……HPが削られる。
マリーは、本気ってわけね……でも、マリーは私に優しくしてくれたじゃない。私を助けてくれたじゃない。私を守ってくれたじゃない……
善子「ねえ、聞いてよマリー! 私、思ってたの……きっとマリーは私をここから出さないために戦うことになるって」
善子「だから考えたのよ! 私ひとりだったら、きっとマリーの言う通り殺されちゃうかもしれない」
善子「だけど、マリーが一緒なら! マリーが一緒にここから出てくれればきっと怖くないって!」
炎が迫る。
善子「っ……!」
……皮肉なことに話し合いでは通じないらしい。 もう、戦うしかないのね……
善子「マリー……」
私はおもちゃのナイフを握りしめる。
マリエルは目を合わせてくれない。話も聞いてくれない。
なら……さっきのカエルが言ってたように、瀕死にしてから、もう一度……!!
善子「やあっ!!」ザシュッ
マリエル「っ……」
はじめてのダメージにマリエルが少し仰け反った。
戦える……これなら、いける!
マリエルの魔法攻撃を回避し、私は攻撃を浴びせる。
彼女の攻撃は慣れてしまえば、簡単とまではいかないけれど避けることはできる。
マリエル「……」
善子「ねえ、マリー……」
マリーは目を合わそうとしない。
……戦うしかない。
せめて、名前が黄色くなるまで。そしたら相手が戦いたくない合図なんでしょう?
ならあと少し我慢して、マリー……! 善子「マリー……!」
ナイフを振るう。
マリエルの体力は残り半分……私はときどきモンスターアメというアイテムで回復を重ねながら、10以上をキープしている。
善子「マリー……っ」
────ナイフを振るう。
もうやめてほしい。
────ナイフを振るう。
終わらせてほしい。
────ナイフを振るう。
私は戦いたくない……!!
────ナイフを振るう。
早く黄色くなってよ……!
ボスだって仲間にできるはず! だって、だってこれはゲームなんだから!!
だから、だからマリー……!!
ザシュッ!!
マリエル「ぁ、っ……」
善子「…………ぇ」 がくり、とマリエルの身体が崩れ落ち、膝をついた。荒い息を吐きながら傷口をおさえている。
────振るったナイフがマリエルの残り体力
を全て吹き飛ばしたのだ。
善子「ぇ……う、うそ……ま、りー……?」
そんな、なんで……? 今まで少しずつしか削れなかった、のに……
なんで、なんで最後だけ……3分の1くらい、全部吹っ飛ばしたの……?
マリエル「ぁ、は、はは……っ」
傷口をおさえながら、マリエルが言う。
マリエル「あなたは……思ったより、強い子なのね」
善子「ま、っ……マリー、私、私は……」
マリエル「いいこと……? この扉を抜けたら……そのまま、ずっと歩いていきなさい」
マリエル「やがて……出口が、見えてくるはずよ」
マリエルの呼吸はどんどん荒くなっていく。
私の呼吸も、荒く……
善子「まりー……まりー……」
私はマリーに駆け寄…………できない。まだ、バトルパートが終わっていない。
ハートのままでは、マリーに駆け寄ることも、抱きしめてあげることもできない。
善子「マリー……!」 マリエル「……ふ、ふふ」
私の叫びに、マリエルは優しく微笑む。
マリエル「くれぐれも……ヨウゴアにタマシイを奪われないで」
善子「もうやめて! 話さないで!」
善子「私、あなたを殺したいわけじゃ……一緒に、仲間になってほしくて……!」
善子「ねえ、おねがいマリー……死なないで、ねえ、あなたは強いじゃない……! 回復魔法とか、なんだって使えるんでしょ?!」
善子「ねえ、ねえ、マリー……!」
マリーはただ、優しく微笑む。
娘を送り出す、母のように────
マリエル「ヨウの……彼女の、思い通りに……させちゃ、ダメよ」
マリエル「いい子で、いるのよ? マリーとの……約束」
マリエル「おねがいね」
その言葉と。
笑顔を最後に。
マリエルの身体が。
彼女のタマシイが。
消滅した。 暗転。
善子「……マリー!!」
身体の感覚が戻ってくると同時に私は駆けた。マリエルがいた場所へ、彼女を求めて、私は────
しかし。
その場に、もうマリエルはいない。
跡形もなく消えてしまったのだ。
私がこれまで倒したモンスターと同じように。
善子「……」
私は────動けなかった。
善子「…………」
マリーが消えた。
消滅してしまった。
跡形もなく、ちりひとつ残さず。
善子「そ、そうだ……進まな、きゃ……マリーに言われ、たから……うん、行かないと」
善子「いかなきゃ、はやく、いかないと」
震える唇で、無理やり自分に理解させるように言葉にする。
進まなきゃ。
前に向かわなきゃ。
扉を抜けて、遺跡を出なくちゃ。
マリエルの言いつけを守って、扉をくぐる。
そして通路をまっすぐ、まっすぐ、まっすぐに。
まっすぐに──── 「フフフ……」
不思議な部屋に出た。
真っ暗なのに、中央だけ明かりが差している。
その場所に、あの花が────チカウィーがいた。
チカウィー「自分のしたことに満足?」
憎たらしいほどの笑顔で、チカウィーが私に語りかけてくる。
そんなの、満足なわけない。
私はマリエルを殺したかったわけじゃない……一緒に、一緒に遺跡から出たかっただけなのに……!!
チカウィー「ま、不満だとしても運命を変えることなんてできないけどね」
チカウィー「この世界では殺すか殺されるか、だからね」
チカウィー「あの人はそれを変えられると思ってたみたいだけど」
善子「……っ」
なによ、それ……
私は、私は普通にゲームをしてただけなのに……どうして、どうしてこんなに苦しい気持ちにならなきゃいけないのよ……っ チカウィー「あんなに必死になってキミたちニンゲンを助けようとしてさ……フフフ、それで結局自分が死んじゃうんだから!」
チカウィー「救いようのないバカだね!」
善子「ッ……!!」
ブチ、と。
頭の中で何かが切れたような音が聞こえ。
私はチカウィーを殴り飛ばそうとした。
だが。
すでにその姿は消えていて────
彼女の高笑いだけが、空間に響いていた。
善子「……」
行き場のない怒りは、返す刀のごとく私の胸へと突き刺さる。
お ま え が こ ろ し た────と。
マリエルは死んだのだ、と。
信じたく、ない────マリーが、死んだなんて……そんなこと。 善子「……そうだ、電話。ケータイが……」
私はマリエルから渡されたケータイを取り出して、番号を、打ち込み────
・プルルルル……
善子「出て、出てお願い……お願い、お願いだから出て……っ」
・……
・しかしだれもこなかった
善子「ぁ……あ、っ……ぁ、あぁ……」
だれも、でなかった。
何度かけても、必ず出てくれたマリー。
必ず2コール以内に出てくれたマリー。
でも、もう……誰もこの電話に出る人は、いない。
善子「……わたし、マリーを殺したんだ」
ぽつりと呟いたその一言が、私に重くのしかかる。
善子「わたし、が……わたしが……」
善子「マリー……」
名前を呼んでも、もう返事はない。
善子「ぁ、あ……ぁぁ、あっ……あ、ぁ……ぁぁ……っ」
あの笑顔で抱きしめてくれる、大好きな友達はいない。
善子「っ……ぐっ……ぐす、っ……」
私は心がぐちゃぐちゃになって、何も考えられなくなって……
その場にうずくまり、泣いた。
心の中で何度も何度も。
マリーへ懺悔の言葉を呟きながら。 ・・・
善子「……ん」
善子「痛……っ」
気づいたら、眠ってしまっていたらしい。硬い石の床で寝たからか、身体が軋むように痛む。
善子「……マリー」
やはり、マリーはいない。
もう、マリーはいないんだ。
私が……殺したから。
善子「…………」
何もない空間で寝転んだまま、ただ天井を見上げる。
まだ心の整理はついていない。
悲しみもまだ癒えていない。
私の手には、まだ彼女の温もりを感じているかのよう。
────けれど、彼女はもういない。
鞠莉は、マリエルは……私が殺してしまったのだ。
どうすればマリエルを殺さずに扉を抜けることができたのか……私には分からない。
もしかしたらマリエルは絶対に倒さなくちゃいけなかったのかもしれない。
その答えは、私には分からない。
だけど、だけど──── 善子「……よし、これでいいかな。ごめんねマリー、色あせたリボンと棒切れだけの簡単なお墓になっちゃったけど」
即席のお墓に手を合わせる。まだ私の手の震えは消えないけど……私は、マリエルに言われた通りに前に進むしかないから。
……あのカエルの言ったことをもっと早くに聞いておけば、なんて後悔をしても意味はない。
私にマリエルがいたように────
私が道中、倒して……いえ、殺してしまったモンスターにも家族がいたのかもしれない。
彼らにも命があり、魂があるのなら────
────決意を固める。
私はもう、誰も殺さない。
この先、どんな恐ろしいモンスターに襲われても。
どんなに無様でもいい、逃げられるなら逃げるし、見逃せるなら見逃す。
私はこれから出会うすべての命を守る。
その決意を、この墓前に誓う。
善子「……見ていてマリー。私はきっと、もう、誰も殺したりなんかしない」
善子「あなたとの約束……私、守るから」
善子「……じゃあ、もう行くわね」
最後の涙をぬぐい、立ち上がる。
これで流す涙は最後にしなきゃ。これ以上泣いたら、またマリーが心配しちゃうもの。
それに……前に進めなくなってしまうから。
善子「……いってきます」
私は新たな決意を胸に、ゲートくぐった。 今回はここまで
善子の行動はだいたい自分が初めてやった時の内容に準じます 今気づいたけどフラウィって名前伸ばさないね
チカウィも伸ばしちゃダメだった
次回の登場からチカウィで統一します LVアップの描写忘れてた……申し訳ないです
マリエルを撃破した時点で得たEXPでLV5になっています よく考えたらトリエル撃破時にレベルアップ演出はなかったですね
失礼しました
日付変わったくらいに昨日の続き投下します 〜雪道〜
びゅおおーー……と、冷たい風がゲート越しに吹き抜けた。
善子「……さっむ!!?」
トンネルを抜けた先は雪国だった────なんて、ノスタルジックな句を吐いてる余裕はない。
善子「やっ……ば! 何これ……さむ、うぅぅ……」
これ、曜までたどり着く前に寒さで死ぬんじゃ……っていうか地底なのよね!? なんで地底に雪が積もってんの?!
善子「うぅ、これも魔法の力ってやつなのかしら……」
せっかくゲームの世界に入ってるんだから堕天的な魔法とか使えたらいいのに……
マリーがいたら炎で暖めてくれたのかな。
……なんて。
善子「……」
善子「暗くなっちゃ、ダメね」
寒さに震える身体を庇いながら、私は進む。 長い道だわ……どこかに街はないかしら? そこで暖かい服を揃えなきゃ……
善子「ん?」
道を横切るように、大きな木の枝が落ちている。とっても丈夫そう……これを武器にすれば……
善子「……おっも」
なにこれ、重たすぎじゃないの! 全く持ち上がらないんだけど……!
善子「……仕方ないわね。これは置いて行こう……」
結局私は枝を無視して進むことに────
────バキッ!
善子「ひゃぅっ!!?」
唐突の破裂音。
振り返ると────さっきの枝が折れていたのだ。
善子「え……なになになになに……どういうことよホラーとかやめてよ……」
私ホラーあんまり得意じゃないんだけど…… 善子「……ふ、ふん! この堕天使ヨハネを驚かせようというの? クックック……まだまだよ」
善子「これくらいでビビらされる堕天使なんかではないわ!」
普段ならマントをばさっとするところだけど、今は持っていないからポーズだけ。自身を鼓舞するようにかっこよくキメてから、改めて道を進む。
─────と。
善子「!」バッ
……足音が聞こえた。
雪を踏む音。
間違いない、絶対に聞いた……のに。
善子「足跡がない……」
……なによこれ。
べ、別に怖くないし……怖くないもん。
こ、この堕天使ヨハネが怖がるなんてあり得ないことですし!?? もう少し歩くと、目の前に木で作られた柵だかゲートだかと、小さな穴が見えてきた。
穴というよりは小さな崖のようなものらしく、木の板で橋をかけているようね。
とりあえずこれを抜けて────
────足音。
善子「……」
な、なに……近づいてくる?!
のそ、のそ、と。
善子「……」
こ、怖くなんか……怖くなんか……う、うぐぐ……!
足音は近づいてくる。
ゆっくり、ゆっくり。
私の背中にぴったりくっつくかというくらいまで近づいて。
「ごきげんよう、ニンゲン」
善子「!」
「初めて会うというのに……挨拶もなしですの?」
この、声は。
「こちらを向いて、握手なさいな」
この……声は。
この、声は……!! 善子「ダイヤ!!」ガバッ
「え、ちょっ……!?」
善子「ダイヤ、ダイヤ……ダイヤよね、あなたダイヤでしょ!?」ムギュー
もはや懐かしく感じるこの感触……ダイヤ、ダイヤだわ。嬉しすぎて堕天使鳳凰縛キメちゃいそう!
「そ、それはそうですが……って、さすがにハグは国際的すぎます! わざわざ手にブーブークッションを仕掛けたというのに……」
善子「……え?」
ブーブークッション?
「まったく。せっかくのジョークだと言いますのに、台無しにされてしまいましたわ……お約束のジョークを潰すだなんて、ひどい」
不満そうに言いながら、彼女は手のひらに用意してあったブーブークッションをぺりぺりと剥がしていた。
どうやら私はなんかやらかしてしまったらしい。
……だって仕方ないじゃない。こんなに早く次のAqoursに会えるとは思っていなかったんだもの。 「それはそうと、あなた、ニンゲンでしょう?」
少しして機嫌を直したらしいダイヤは、私を足先から頭の上までを一瞥し、言った。
善子「え、えっ……と、ええ、はい」
ダイヤズ「ふふふ、面白いですわ。わたくしはダイヤズ。見ての通り、スケルトンです」
ビシッと決めポーズをする黒澤ダイヤ。もといスケルトンのダイヤズ。
確かに見てくれは若干スケルトンっぽい……コスプレ感すごいけど。
ていうか、名前の語呂悪っ……ダイヤズってなに。
ダイヤズ「ここでニンゲンが来ないか見張るように言われていたんです」
善子「え、そうなの……?」
ダイヤズ「ええ、まあ。と言っても……わたくしはニンゲンを捕まえるなんてどうでも良いことです」
ダイヤズ「ですが、わたくしの妹のパビィルスはそうはいきません」
善子「ぱ、え……なに?」
ダイヤズ「パビィルス。みんなはルビィと呼んでいますわ」
善子「…………はあ?」
更に語呂悪いの来た!?
ていうかもうルビィの面影がほとんどないじゃない! ダイヤズ「で、その妹のルビィは筋金入りのニンゲンハンターで……ああ、噂をすれば影ですわね。ルビィが来たようです」
善子「え……ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私、危ないんじゃ……!?」
ダイヤズ「わたくしに任せなさい。とりあえずこのゲートをくぐってくださいまし。ルビィが作ったんですが、目が大きすぎて意味がないでしょう?」
善子「……確かに」
どうやらこれは通せんぼするための柵だったらしい。ダイヤズの言う通り、目が大きすぎてもはやただのゲートだ。
私はダイヤズに促されるままゲートを抜け、少しひらけた場所まで歩いた。
ダイヤズ「とりあえずそのちょうどいい形のランプに隠れてくださいますか?」
ダイヤの指差す先に、小さなランプがあった。小さなと言っても、私と同じくらいの背丈のある、そんなランプ。
善子「わ、わかったわ……」
こそこそと足早にランプの影に隠れた。……ランプの形が嫌に私の身体にフィットしてる気がするんだけど。
私が隠れたのと同時、広場の向こうからもうひとりのスケルトンが現れた。 ダイヤズ「あら、ごきげんようルビィ」
パビィルス「ごきげんよう……じゃないよぉ!」
パビィルス「パズルを調整しといてって8日前にお願いしたのになんにもしないで!」
パビィルス「勝手に持ち場を離れて歩き回って……」
パビィルス「こんなところでなにしてるのっ!」
……どうやらここのダイヤは怠け者らしい。ルビィの方がよっぽどダイヤっぽい性格してるわね……
あのかっこよくて頼れる生徒会長黒澤ダイヤはどこへ……
ダイヤズ「そこのランプを見ているの。いいランプでしょう? ルビィもご覧なさいな」
はぁぁあああ!?? ちょっと待ちなさいよダイヤ私隠れてるじゃないちょっとおいこら!
パビィルス「そんな!ひまは!ないのっ!」
お、おお……? ええ……?
逆に助かるパターンなのこれ……? パビィルス「ニンゲンがここを通ったらどうするのお姉ちゃん!」
パビィルス「ニンゲンの襲来に備えるんだよっ! そして必ずルビィが……ルビィが捕まえちゃうんだもん!」
強かな野望を抱き、ルビィは叫ぶ。
……というか、強気ねルビィ。まあ普段から強気な部分は結構あるとは思うけど……
パビィルス「そうすればルビィの望みは叶うの! ……人気者になって、尊敬されて、憧れのロイヤルガードに……!」
……ロイヤルガード?
パビィルス「それからみんなのお友達に……」
ダイヤズ「でしたら……」
ルビィの語る野望に水を差すダイヤ。ちょっとだけルビィは不満そうだ。
ダイヤズ「でしたら、このランプに相談してみるのがいいかもしれませんわよ?」
おぉおおおいい!!?
パビィルス「ちょっと、適当なこと言わないでっ! おばかお姉ちゃん!」
……ダイヤにむかっておバカって、あんた死ぬ気なの? パビィルス「いつもなにもせずホネくそばっかりいじってるくせに! そんなんじゃ偉い人にはなれないんだよっ!?」
ダイヤズ「いえいえ、こう見えても『トントン』拍子に出世してるんですわよ?」
ダイヤズ「スケルトンなだけに」ツクテーン
……さむ
とりあえず……こんな感じのやりとりが続いて分かったこと。
パビィルスもといルビィはニンゲンを捕まえるために、この先にパズルを用意していて待ち構えているらしい。
そしてダイヤズもといダイヤは特にそれに興味はないけどダジャレ好き。
めちゃくちゃ寒いダジャレ好き。
とにかくダジャレとジョークが好き。
……普段のダイヤじゃ考えられないわ。千歌のギャグ能力だけ乗り移ったみたいになってる……
ダイヤズ「もう出てきて構いませんよ」
善子「あ、うん」
思考にふけってる間にパビィルスはどこかへ行ったようだ。
彼女が戻ってくる前に進んでおかないと……よいしょっと。 善子「ありがとうダイヤ」
ダイヤズ「いえいえ。ふふ、わたくしで助けになることがあるなら♪」
善子「……じゃ、行くわ」
ダイヤズ「……ひとつ」
善子「?」
ダイヤズ「ひとつだけ、お願いしても構いませんか?」
善子「ん、いいわよ。助けてもらったし……私にできることなら」
ダイヤズ「ここ最近……ルビィはずっと落ち込んでいます。あの子の夢はニンゲンに会うこと……ですから、もし良ければ、会ってあげてください」
善子「えっ……」
でも、捕まえるって……ハンターって言ってたけど……
ダイヤズ「大丈夫です。ルビィはああ見えて、実は悪いスケルトンではありません。実は臆病で、寂しがり屋で……頑張って強そうなフリをしているだけなんです」
善子「……」
ルビィは……やっぱり、ルビィみたい。
ちょっとずつ違うけど……ダイヤも、妹思いの優しい姉でよかった。
ダイヤズ「では、お願いしますね? わたくしはこの先で待っていますから」
善子「あ、待って!」
ダイヤズ「?」
善子「えっと、近くに街ってある?」
ダイヤズ「それでしたら……この先にスノーフルという街があります。わたくしたちもそこに住んでいるので、そう遠くはありませんわ」
善子「よかった……ありがとう」
ダイヤズ「いえ。……では、お先に」
そう言ってダイヤは一足先に『逆方向』へ消えていった。
……あれそっち? ……あれ?
善子「……まあ、いっか。とりあえず……私も先に行かないと」 とりあえずの目的────あのパビィルスというスケルトンの罠をかいくぐって、街にたどり着くこと……!
……というか、あのランプほんとちょうどいい形だったわね……
・あのランプのかたちのちょうどよさをおもいだすとケツイがみなぎった
ヨハネ LV5
ボックスのみち
セーブしました。 ああ、Gルートのダイズさん観たくなって仕方ないわw
乙! この善子ちゃんがGルートに向かうことなんてあるのか……? ヨハネ LV5
ボックスのみち
コンティニュー
〜ボックスのみち〜
善子「……これと、これは置いといて……」
この世界には『いじげんボックス』という便利なアイテムがあるらしい。
簡単に説明するならポケモンのボックスなんだけど……要するに使わなくなったアイテムや、あとあと必要になりそうなものを預けておける倉庫みたいなものね。
私はこのボックスにマリーからもらった『バタースコッチシナモンパイ』を預けた。
……いま持っていると、悲しさで潰れてしまいそうだから。それにこれはエリクサーのようなものらしいし、ラスボス戦までおいておかなきゃ。 とりあえずいまの持ち物は
モンスターあめ
モンスターあめ
スパイダードーナツ
棒切れと色あせたリボンは置いてきたから、武器は……あれ?
善子「箱になんか入ってる……」
私が預けたものとは別に、もうひとつ……何かが最初から預けられていた。
・じょうぶなてぶくろ
善子「……グローブかしら、これ」
アイテムの情報を確認する。
・ピンクいろの すりきれた かわてぶくろ。5ほんゆび用
……どうやら武器のようね。攻撃力は、いま装備してるおもちゃのナイフよりも高い。
扱いは難しいかもしれないけど、それはナイフも同じだし……どうせなら強いほうだわ。
モンスターを殺しはしない……けれど、戦意を喪失させるために戦う必要はある。
武器は……装備だけしておくに越したことはないでしょう。 そうなこんなで私は装備と持ち物を整理し、次へ進む準備を整えたのだった。
善子「……さて」
ボックスのみちは、左右と上に道が伸びてる小さな丁字路……でいいのかしら?
左はさっき私が来た道だから、流れで言えば右に進めばパビィルスとダイヤズがいるはず。
こういうゲームは行き止まりから探索してアイテムやフラグを回収していくのが定石。
だからとりあえず上に進んでみた、…………なんか変な釣竿が川に垂らされていただけだった。
周りには誰もいない、ただ釣竿があるだけの川岸だった。
どうせたいしたイベントにもないでしょうし、スルーしてもいっか……うん。
というわけで右よ!右! ・・・
というわけで右に進んだら……パビィルスとダイヤズが道端で会話しているようだった。
パビィルス「そしたらさ、カナンダインがね……ん?」
パビィルス「」
あ、見つかった。
パビィルス「……」チラッチラッチラッチラッチラッチラッチラッチラッチラッ
いや、二度見三度見ってレベルじゃ……
パビィルス「お、お姉ちゃん! あ、あ、あ、っ……あ、あれって!」
パビィルス「ひょっとして……に、ニンゲンさん?」
ダイヤズ「そうですわねぇ……いえ、あれは岩ですわ」
いやどこ見てんのーー!? ……あ、私の後ろにある岩か……
って、どんな誤魔化し方!?意味わからないでしょ!
パビィルス「なーんだ」
それでいいの!? ダイヤズ「ご覧なさいなルビィ。岩の前に何かが立っていますわよ」
パビィルス「…………!!」
パビィルス「(ぇぇえええ! あ、あれってもしかして……ニンゲン!?)」
ダイズ「(そうですわ)」
……ねえ、このくだり続けるの?
パビィルス「信じらんない! お姉ちゃん、ルビィ、ルビィ、ついにやったよ!」
パビィルス「これでカナンダインに褒められちゃう……! これで、これでルビィ、にんきもの! 友達いっぱい!」
あまりの嬉しさからか、ぴょんぴょんと跳ねながら同じことを何度も繰り返し口にするルビィ。
善子「……えっと」
パビィルス「……おほん」
私の視線に気づいたのか、ルビィが咳払いしながら居住まいをただす。 パビィルス「ニンゲンさんっ! ここは通しませんよ!」
パビィルス「ルビィががんばルビィして阻止しちゃうからね!」
おなじみのポーズ。
やっぱりルビィだわこのスケルトン……うん、安心する。
マリエルの時も感じたけれど……知った顔がいてくれているだけで、不安な気持ちは薄れていくものだ。
穏やかな気持ちになる私をよそに、パビィルスは嬉しそうに、
パビィルス「あなたを捕まえて、都に連れて行って……からは、知らないけど」
パビィルス「とにかく! 覚悟しといてください! あーっはっはっは!」
高笑いをあげながら、ルビィは通路の奥へ消えて行った。おそらくその先に、さっき調整だがなんだか言っていたパズルが仕掛けられているのだろう。
そしてそこで私を待ち受けていると──── フム……と思案していると、嬉しそうな顔でダイヤズが私に話しかけてきた。
ダイヤズ「うまくいきましたわね、うふふ」
ダイヤズ「大丈夫ですわ、悪いようにはいたしません。わたくしにお任せです♪」
彼女はお淑やかに笑い、ルビィの後を追った。
善子「……キャラの濃いふたりだわ」
マリーと千歌も相当だったけど……その比じゃないわよ……
善子「ここ進んだらあのふたりと……バトルになるのかしら」
……大丈夫、私はもう決めている。
だから、大丈夫。
私は────
暗転。
善子「んっ!?」
突如私の身体がハートに変化していた。
これは、つまり…… ・ヒョー坊がとびだしてきた
善子「……おでましね」
バトルパート────とんがり帽子をかぶった小さなモンスターが現れた。
大丈夫、大丈夫……!
殺さない、倒さない……大丈夫。
とりあえず……どうコミュニケーションしてみようかしら。
ヒョー坊「ぼくの帽子を見ろ!」
……え、なんかうざ。
私は帽子を見ないようにした。
ヒョー坊の攻撃が来る。尖ったつららのようなものを投げてきた。
そんなものは余裕で回避。
そして私は無視をする。意地でも帽子は見ない!
ヒョー坊「ふん!もういい!」
続いて同じ攻撃。これも回避すると────気づく。
ヒョー坊の名前が黄色く変化しているのだ。
そうか……これが、遺跡でカエルくんが言っていた戦意を喪失した状態ということね。
善子「さあ逃げなさいリトルデーモン。この堕天使様の怒りが炸裂しないうちにね」
・YOU WIN!
・0EXPと13ゴールドをかくとく!
暗転。
善子「……できた」
できた、初めて……はじめて敵を殺さずに戦闘を終わることができた。
これなら、いける……!
……マリー、見ててね? ・・・
「……なんか動いたか? 気のせいか?」
善子「!」
道を歩いていると、唐突に。
そう、本当に唐突に────小さな小屋の前を通ったとき、その声がした。
びっくりした私はその場で停止。指一本動かさずその声の主を見る。
「オレはよ……動いてるもんしか見えんのよ」
それは小屋の中にいた黒い犬だった。ジャーキーを口に咥えた、妙にダンディズム溢れる喋り方をする犬……
……あ、ライラプスに似てる!? ライラプス!! ライラプス?「動いたもんには容赦しねえ。そう、たとえば……ニンゲンとかな」
善子「えっ」
ライラプス?「二度と動けねえようにしてやるぜ!」
暗転。
・ワンボーにゆくてをふさがれた!
善子「ライラプスじゃなかったぁぁーー!!」
って、そうじゃなくて!
善子「と、とりあえず……ぶんせき」
・ワンボー
・うごくものにすぐこうふんする
・しゅみ:リスなど
善子「リスってなに……」
分析終了。敵の攻撃が始まる。 ワンボー「うごくな!」
2本の剣を構えた二足歩行の犬、ワンボー。彼が繰り出したのは真っ青な剣の投擲。
私はそれ回避────しようとしたが、その剣は私の動きに合わせ、迫ってくるのだ。
下に逃げれば下へ、上へ逃げれば上へ。
だが少し隙間がある、ここを抜ければ────
善子「うぐっ……!?」
くっ……ダメージが、入った……!?
回避したはずなのに……
ワンボー「うごいた? うごくの? うごくの?」
ワンボーが興奮している。さっきの分析から察するに、私が動いたから……だろうか。
動くものに反応……回避したらダメ? いや、だけどそんなことをしたら剣が……
……試してみる? もういちどワンボーの攻撃。
ワンボー「うごいた! うごかなくなった?」
またしても青い剣攻撃。もし、動いたことで私がダメージを受けたなら……
善子「っ……」
私は、動かない。
剣が迫る。
────青い剣は、私のハートをすり抜けそのまま飛んで行った。
善子「……ダメージがない」
やはりあの青い攻撃は動くと当たるのだ。なら、動かなければ当たらない……すり抜ける。
現にいま、あの犬は私を見失っている。
なら、やることはひとつ!
善子「ほら撫でてやるわよライラプス! 犬はね、古来から撫でられるのが大好きなのよ!」
・ワンボーをなでた
ワンボー「な!なな!なでられたぞ!!!」 ワンボー「ないて? だいて? なでて?」
・ワンボーはなでられた
慌てているようね……クックック、見えない相手から撫でられて、それはそれは恐ろしいことでしょう。
善子「さあお逃げなさいリトルデーモン! この堕天使ヨハネの怒りが爆発しないうちにね!」
YOU WIN!
0EXPと30ゴールドをかくとく!
暗転。
ワンボー「ななな、ナデナデされたぜ……動かねえもんに……ナデナデされたぜ……」
ワンボー「だめだ、ほねっこジャーキーでもキメて落ち着かねえと!」
犬が戦々恐々としながらあたりを見回す。どうせ彼に私は見えていないのでしょう。
ライラプス……またあなたに会えてよかったわ。
でもジャーキーをキメるとか言うのやめなさい! 今日は一旦ここまで
できれば毎回セーブポイントまで進んでシメたいけど眠たすぎるのでお許しください キャストとキャラを予想した限り
アルフィー→花丸
メタトロン→梨子
になりそうなんだけど
メタトロン→鞠莉
トリエル→梨子
にした方がキャラに合ってたような… メイ*σ_σリ フリスク
メノ^ノ。 ^リ キャラ
¶cリ˘ヮ˚)| メタトン
`¶cリ˘ヮ˚)| メタトンEX Gは善子ちゃんに変なスイッチ入れるか洗脳するかしないと難しそう… ・・・
ダイヤズ「あら、やっと来ましたのね」
善子「……ダイヤ」
襲いかかるモンスターたちを見逃しながら進んできたから、それなりに時間はかかったか。
待っててくれたのかしら。
善子「どうかしたの?」
ダイヤズ「いえ、ひとつだけ教えておこうかと思いまして」
善子「?」
ダイヤズ「パビィルスは『スペシャルこうげき』を使います」
善子「スペシャル?」 ダイヤズ「ええ、そうです。青い攻撃が来た時は動かなければダメージを受けません。わかりますか?」
善子「ああ、青い……」
……それもうちょっと早く教えてほしかったわ。
さっきの犬の前あたりで。
ダイヤズ「覚えやすいように説明しますと、赤信号でみなさん止まりますが、青で止まれだと思うのです。簡単でしょう?」
善子「わかったわ! ありがとうダイヤ」
ダイヤズ「いえいえ、うふふ。頑張ってくださいな」
ダイヤから激励をいただいて、やる気充分。
彼女と別れ、探索しつつ道を進む。
道中、雪だるまくんから『雪だるまのカケラ』なるアイテムをもらったわ。
なんでも、自分は動けないからこのカケラを代わりに連れて行ってほしいんだとか。
健気な雪だるまくん……わかったわ。あなたの想い、私が必ず遂げてみせる。
アイテム情報を見る限りでは回復アイテムなんだけど……使ったら悲しむわよね、この子。
とりあえずストレージに入れておいて、先を進む──── ・・・
……あ、いた。
広場に出ると、少し奥で例のスケルトン姉妹が会話していた。
パビィルス「もぉ! お姉ちゃんは怠けすぎだよ! 一晩中お昼寝して……」
ダイヤズ「いえ、ルビィ……それは普通に寝ていただけで」
パビィルス「またそうやって言い訳ばっかり! ……あ!」
あ、こっちに気づいた。
パビィルス「いらっしゃい! ここは通さないよ!」
お迎えなのか通せんぼなのかどっちよ…… パビィルス「お姉ちゃんと一緒にパズルを仕掛けたんだぁ。ふっふっふ……これはなかなかショッキング、だと思うよ!」
パビィルス「その名も『透明ビリビリ迷路』! なんとこの迷路の壁に触れた、このオーブから強力な電気が出るのです!」
と、自慢げにそのオーブを掲げてみせるルビィ。なるほどね。私の目には見えない透明な迷路ってわけ……
……あれ?そのオーブ、じゃあもしかして……
パビィルス「よーいはじめ!」
善子「……」
壁に触れてみた。
ルビィ「ピギャァァアアア!!!!!」
案の定、パビィルスに電撃が落ちたらしい。ビクビクと痙攣しながら怒っている。
パビィルス「ちょっとお姉ちゃん! なにやったの!」
ええ、そっちにキレるの…… ダイヤズ「そのオーブ……ニンゲンが持たなきゃ意味がないんじゃありません?」
パビィルス「あ、ほんとだ」
ルビィ……あなたおバカすぎるわ……
ダイヤに言われて気づいたルビィは迷路を進み、私のもとまでやってきて。
パビィルス「はい、じゃあこれ持って!」
と、オーブを渡して戻っていった。
地面に自分の足跡を残して。
……雪だもんね。そりゃ足跡残るわよね
パビィルス「はい、はじめ!」
結局私はその足跡をたどり、難なく迷路をクリアしたのだった。
パビィルス「わあ、わあ! すごい! ちょこざいな!」
パビィルス「でも次はそうはいかないよ! お姉ちゃんと一生懸命考えたからね!」
捨て台詞……なのかしら? そんな言葉を吐きながらパビィルスはその場を後にしたのだった。
次のパズルの調整かしら。 ・・・
次の広場まで進むと、こんな寒いっていうのにアイスクリームの屋台が出ていた。
ナイスクリームっていう商品らしいけど……客が一人も来ないって言うから、まあ、ひとつだけ買ってあげたわ。
善子「あ、うま」
この堕天使ヨハネの慈悲に感謝することね!クックック!
……という感じで、私は探索を続けながらパビィルス&ダイヤズ姉妹から(ほぼルビィからだけど)繰り出されるパズルを次々と解き明かした。
時には犬の兵隊をナデナデし。
時にはダイヤズのくだらない冗談に付き合い。
そして時には────
「……なんかにおわない?」
「なにかにおうわね〜」
斧を持った千歌の姉二人────多分、また私がそういう認識をしたのだろう────と出くわし。
そしてまたパズルを解く。
地面に描かれたバツをすべてマルにするパズル。
それぞれ色によって効果の違うカラフルな床をなんとか通り抜けたり。
それとは無関係のでかい鎧を着込んだ白い犬を撫でたり。
そうして街の明かりが見え始めた頃──── パビィルス「いいですかニンゲンさん!」
長い吊り橋の上。
前後左右、どこにも逃げることができない場所で最後の戦いが行われる……!
……正直疲れた。
善子「ねえルビィ……そろそろ終わりにしない? 私、疲れたんだけど」
パビィルス「こ、これが最後だからっ! あと少しだから!」
パビィルス「……おほん。これが最後のゲーム! これは今までで1番危険なんだから!」
パビィルス「見よ! 恐怖の死刑執行マシーン!」
善子「!?」
パビィルスの号令一下、大砲や槍、白い犬を始めたとした武器が現れたのだ。
……犬? いや、きっとこれも恐ろしい武器に違いない……!
パビィルス「ルビィが『やっちゃえ』って合図をしたら、このぜんぶが動き出すの!」
パビィルス「大砲が発射され! 槍が突き刺し! ナイフが切り刻む!」
パビィルス「全ての凶器が容赦なく攻撃するんだよっ!」
背筋にひやりと汗が落ちる。
……これはさすがに、やばい。全速力で駆け抜けたとしても、大砲には勝てないし、そもそもナイフで吊り橋のロープを切られたら終わりだ。
どうしたら…… パビィルス「いいならいくよ! いいね!? い、いいよね? いくよ?」
パビィルス「せ、せーの! ……ほんとにやるからね?」
……あ、これもしかして。
ダイヤズ「……動きませんけれど」
パビィルス「い、今からやるから!」
……
……
ダイヤズ「まだですの? 全然動いてるようには見えませんが……故障かしら」
パビィルス「いや、えっと……や、やっぱりこのゲームは……その」
善子「……」
パビィルス「あっという間に決着がついちゃうから……その、やめる」
善子「……」 パビィルス「そうだよ、こんな危ない装置はダメだよ……! ルビィ、だって……誇り高きスケルトンだもん。パズルはフェアプレーの精神だもん」
パビィルス「こんなフェアでもなんでもないの、面白くないよ! ……ねえ、お姉ちゃん」
ダイヤズ「ふふ、そうですわねルビィ。では、やめてしまいますか?」
パビィルス「うん! ……あ、でもこれはもちろんルビィの勝ちだからね? 情けをかけてあげてるだけってこと忘れちゃダメだよニンゲンさん!」
パビィルス「……街のはずれで待ってるから」
パビィルス「にゃーっはっはっは!」
奇妙な高笑いをしながら、ルビィは街の方へ帰っていった。もちろん危険な兵器は片付けてから。
…………やっと終わりかしら。
いや、待ってるって言ってたし……たぶん、最後にバトルがある。
……第2ステージのボス戦ってとこね。
ダイヤズ「あの子……次は何をするのかしら。わたくしにもさっぱりですわ」
ダイヤもこう言っていることだし、ルビィの動向についてはとりあえず無視しましょう。
街よ街……早く街に…… 〜スノーフルのまち〜
善子「わぁ……明るい……」
念願の街だ。
いや、町……村? とにかく人が……いや、モンスターが生活している場所だ。今までに比べたらもう大都会でいいでしょう。
……ここへ落ちてきてはじめての活気のある街。これだけでもう、私は疲労が回復していく気になる。
街の入り口には大きな看板で『ようこそスノーフルへ』と書いてあるし、アイテムショップ、宿屋もある。
奥には図書館、バーなど住民の娯楽施設があるようだった。
……とりあえず今日はここでゆっくり休みましょう。よく頑張った、私。
まずは宿!宿とご飯! よーし休むわよ〜!
・明るい雰囲気の街を目の当たりにしてケツイがみなぎった
ヨハネ LV5
スノーフルのまち
セーブしました。 一旦ここまで
キャラとキャストについては……自分の好みもあるので許して 乙!
許すも何も、凄く素敵な雰囲気のSSですから
逆に俺の重箱の隅ツツキでエタらないかヒヤヒヤしてました
メタトンなリリーかズラ丸見たいですw 1が最初にやったときの意思が反映されてるのが設定的に面白い 保守
Gルートも話題になるけど、Pルートのイチャコラも楽しみだぞ! 〜スノーフルのまち〜
善子「んー……よーく寝た……」
宿屋をあとにして、うーんと背伸びをする。
ここ数日、怒涛のイベントの連続だからか、とてもよく眠れた気がする。
特に昨日は……大変なことばっかりだったから。たくさん寝て、心の力を蓄えなくちゃ。
クックック……そう、堕天使にも休息は必要なのです。特に……膨大な魔力を有し、魔術を行使する堕天使には、ね。
宿屋の前でキメポーズしながら不敵に笑みを浮かべる私。今日もかっこい────
善子「……くちゅっ!」
……そういえば雪山だったのを忘れていたわ。
こんな薄着じゃ風邪ひいちゃうわ……宿は暖房が効いてて暖かかったから何ともなかったけれど。 というわけで私はアイテムショップにて、服や回復アイテム、防具を調達。
まあゲームのシステム的に服を買うとかそういうのは出来ないと思うけど……自分がその住人として入り込んでると便利ね。
バグ技っていうか、裏技っていうか……ともかく。
私は気さくなウサギのおばちゃんから長袖の服と回復アイテムと……いさましいバンダナという防具を買った。
どう見ても頭に巻くようなバンダナなんだけど、防具なの? 頭を守る兜的な防具ってこと?
まあいいわ、アイテム情報は……っと。
・いさましいバンダナ
・アーマー
・ふっきんがすごい
善子「腹筋がすごい」
腹筋がすごいらしい。
この世界のアイテム情報は意味のわからないものが多い。製作者のユーモアなのかしら?
詳細はともかく、防御力を上げておくのはこの先の生存率を高める上でも必須だ。私はそのいさましいバンダナをオシャレに装備するのだった。
簡単に言うと髪をオシャレにまとめ上げたのだ。
言っておくけど、ヨハネはオシャレにはちょっとうるさいんだからね。 さて、武装も整えたところで……
善子「街の探索ね!」
スノーフルのまち。
改めて説明しておくと、ここは随分と小さな街のようだった。街の北には海……もしくは川? ……があって、北は森が生い茂っていた。
この木々は寒い場所にも強い針葉樹ってやつね。
ちょっと前にも説明したけれど、この街の施設は4つ。
アイテムショップ、宿屋、図書館、バー。
ショップのおばちゃん曰くお腹が空いたらバーに行けばなんでも食べさせてくれるんだとか。
……そんなにお金あったかしら?
まあ、足りなければモンスターと戦闘して見逃せばお金くれるし……後で行ってみるとして。
東西に伸びたこの街は、あたり一面が雪で覆われていて、住人曰くサンタさんが来る時期なんだそう。
街の中央には大きなクリスマスツリーが置いてあって、その下には子供たちへ宛てたプレゼントがたくさん。
アメリカ形式のクリスマスみたい……って、よく考えたらこのゲームってアメリカのゲームなんだっけ。
ということは、このゲームの中では12月ってこと?
それとも地下だから私の感覚とは違うのか……まあ考えたところで知る由も無いんだけど。 ……と、ある程度街を見て回った頃に。
善子「……あれ?」
────クリスマスツリーの前に、見知った顔を見つけた。
あの紫の髪……あざといまでのツインテール。まさか、まさかあれは……っ!
善子「ねえ、ちょっとあなた……!」
「…………え、なに」
ああ、この仏頂面……この警戒心マックスな態度……!
善子「やっぱりあなた、理亞でしょ?!」
リア「だ、だから何? 気安く話しかけないでほしいんだけど」
なんとなく、ちょっと……トカゲっぽい意匠があるけど、間違いない……リトルデーモン10号こと鹿角理亞! リア「な、なに……? 人を見て笑うなんて、気持ち悪い」
善子「ぐっ……」
おのれリトルデーモン10号の分際で堕天使ヨハネにそんな口を…………って、当たり前か。私が理亞に当てはめてるだけで本来は理亞じゃないし。
リア「そういえば、あなたって子供?」
善子「えっ……ま、まあ、子供……子供っちゃ子供だけど」
リア「見たらすぐに分かった。だって私と同じコーディネートしてるから」
善子「……」
見れば、確かに同じ服だった。まあこの街で買った服だし……そんなこともあるでしょうけど。
ボーダーのセーターを華麗に着こなすのなんて私くらいだと思っていたわ。 で、それがどうしたの?
リア「いや……見ない顔だったから。気になっただけ」
善子「そ、そうなの」
リア「……それだけ」
善子「……あ、うん」
……
……
……
……気まずッ!
理亞ってルビィと一緒だとよく喋るけど、そういえば私と二人きりになったことなかったわ……
友達の友達ってこういうことなのかしら。今度現実世界で会ったらもう少し話しかけてみよう…… よ、よし……ここはひとまず退散。戦略的撤退。逃げるが勝ち。たまの逃走は恥をかくより役に立つのだ。
善子「じゃ……じゃあ、私行くから」
リア「ぁ…………ど、どこに行くつもり?」
善子「ん、街の北。まだちゃんと見に行ってなかったから」
リア「そう。あっちはモンスターの家と崖しかないけど」
善子「まあそうなんだろうけど、やっぱり探索は欠かせないから」
リア「……探索?」
理亞はよく分からないと言いたそうな顔をしていた。まあ、当然よね。ゲームの話なんかしてもあの子にはわかるわけないし。 ・・・
北側に抜ける。
道の左右にはモンスターの家と……なぜか巨大な氷の塊を川に投げ捨てる犬。
モンスターの家の前にはスライムが……3人。3体……3匹?
とにかく分からない世界だわ……謎が多すぎる。
それを通り過ぎてさらに北へ行くと、崖と言うよりは、川岸のような場所に出た。
確かに崖っぽく見えるけど、川岸だと思う。多分。
善子「……ふむ、特に何もなさそうね」
これで街の外側は全て見回ったことになる。あとは図書館とグリルビーズ……だっけ、食事のできるバーね。
と、踵を返そうとして────
・プルルルル プルルルル……
善子「!!」
突然の電話に、私の心臓がドキンと鳴るのが聞こえた。 この番号を知っているのはマリエル……だけなのだ。彼女以外にこの番号を知っている人なんて────
画面を確かめると、私の方こそまったく知らない番号だった。
なら間違い電話か……それとも、ダイヤズかパビィルスがどこからか入手して……?
……
善子「……もしもし」
『Hello!』
善子「っ……」
マリーに……似た挨拶。だけど違う声だ。
『Can I speak to G……』
善子「……」
………………英語………………だと………………? 善子「……あの」
『……あれ? 番号間違えたかな……?』
ああ、やはりそうなのね……間違い電話だったようで。
なぜかホッと一安心した私はそのまま電話を切ろうとしたが────
『まちが〜えたよッ! ごめんなちゃいッ!』
……は?
『かけまちがえたヨ きまずいヨッ!』
『まちが〜えたよッ! ごめんなちゃいッ!』
『かけまちがえたヨ さよな〜らッ!』
・ツー……
善子「……」
ええ……なにいまの…… ・・・
〜グリルビーズ〜
善子「はー……お腹すいた」
変な電話のことは忘れることにした。考えるだけ無駄でしょ、間違えて謝りもせず変な歌唄って切るなんて。
まったく! 常識がなってないっ! ……この地底のモンスターたちの常識と私の常識がズレてたら元も子もないけれど。
……って、あれ? ここに来るまでに見た面々がいるんだけど。
ジャーキーをキメてたライラプス。
でかい鎧を着込んだ白い犬。
黒いローブをまとった千歌の姉2人……あ、この2人も犬になってたのよね。仲よさそうに鼻をスリスリしてた。
どうやらこの4人……4匹はこの街に暮らしているらしい。
特に千歌の姉2匹に関しては正式な兵士として配属されているらしく、この街の平和を守っているのだそうだ。
というかあの時は普通に襲ってきたのに今は戦わないのね……よく分かんない世界だわ。
とりあえず店の客みんなと会話してみてわかったこと。
この地底の世界には、平和を守るロイヤル・ガードという組織が置かれているらしい。
そのロイヤル・ガードは地底のそれぞれの街や施設を守っていて、そのリーダーの名前が『カナンダイン』であるとのこと。
カナンダインはえらそうで喧嘩っ早いところがあるらしいが、子供たちから憧れの的として見られているらしい。
というか、カナンダイン……カナン、果南? まさか、ね…………いや、多分果南なんだろうなぁ……
これから先に戦わなければならないであろう人物を頭の片隅に追いやりながら、1番安いポテトを食べた。 ヨハネ Lv5
スノーフルのまち
セーブしました。 >>177
間違い
ヨハネ LV5
スノーフルのまち
セーブしました > でも、珍しいシステムね……弾幕ゲームに近いシステムって聞いていたし、『かすり』判定でレベルが上がったりするのかしら。
おいサイバリア知ってるとかお前本当に今のJKか? 申し訳ない
仕事が忙しくて時間が取れなくて…
明日の夜にやります、ごめんなさい 絶対エタるよなぁ
面白そうだから完成させてから投稿してほしい
文章はメモやらwordに保存して 待つのもひとつの楽しみとしてやってるから無理せずゆっくりやってくれ
ある程度書き溜めてからでもいいし、少しずつ投下でも構わないから こういうゲームパロは8〜9割エタる
しかもこれ建てたの2回目なんだろ?なんで溜めてないんだ? 前回は埋め茸にやられて断念しただけだからな
あいつがいないなら書き溜めて一気に投下して逃げ切る必要もないし ・・・
善子「……」
さて、そろそろ。
善子「……ここまで街を歩き回って一度も姿を見なかった……ってことは」
彼女たちは、街の出口にいるに違いない。気合いを入れるのよヨハネ……大丈夫。ルビィはきっと優しい子よ。
ちょっと調子に乗りやすいだけの頑張り屋さん。ダイヤもそう言ってた……だから、信じましょう。
そう胸に決意を固め、街の出口へと歩いた。 善子「うわ、なにも見えないんだけど……」
街から出ると、ものすごく濃い霧があたりを覆っていた。
ほんの目の前、たった2m先すらよく見えない……それほどの濃い霧だ。
けれど、私は進む。こういう場所こそ、ボス戦にふさわしい。
私は確信を持って進む。
この先にルビィがいると。
そして────
「ニンゲンさん」
声がした。 「難しい気持ちについて、お話ししても……いいですか?」
パビィルスの声だ。
いいわよ、聞いてあげる。
パビィルス「……それは、ルビィと同じようにパスタを愛するひとを見つけた喜び」
……ん?
パビィルス「ルビィと同じように、パズルが得意なひとへの憧れ……」
パビィルス「かっこよくて、頭もいいひとに、かっこいいって思われたいという願い……」
パビィルス「これこそ……いまあなたが抱いてる感情ですよねっ」
んー……んんんん??
パビィルス「ルビィにはそんな気持ちはさっぱり分かりませんがっ!」
私にもわからないわよ!? パビィルス「だってルビィは、かっこよくて頭のいいイケてるルビィだもんっ」
……あほかわいい。
っ……じゃ、なくて。
パビィルス「孤独なニンゲンさん……あなたは可哀想です」
勝手に可哀想認定されたんだけど……あんた、帰ったら覚えてなさいよ!
パビィルス「でも安心です! ルビィが、あなたをひとりぼっちにはしません!」
パビィルス「このパビィルスことルビィが! あなたの、その、えっと……」
善子「?」
パビィルス「……ぅゆ……」
パビィルス「や、やっぱりこんなことダメだよ……許されないよ……」
パビィルス「ルビィはあなたの友達にはなれないよ……」
……もしかしてこの子。
パビィルス「あなたはニンゲンさん! ……だから、ルビィは捕まえなきゃいけないんだ……」 ────ダイヤの言葉を思い出す。
ダイヤズ『あの子の夢はニンゲンに会うこと……ですから、もし良ければ、会ってあげてください』
────ということは。
ルビィは、もしかして。
パビィルス「あなたを捕まえたら、ルビィのだいじなだいじな夢が叶います」
パビィルス「強くて、人気者で、有名人! ルビィはみんなに認められて、ロイヤル・ガードの一員になるんだ!」 暗転。
・パビィルスにゆくてをふさがれた!
身体がハートになる────2度目のボス戦、開始ね。
ふん、戦い方はもうわかってる。
こちらから攻撃はしないし……受けるつもりもないわ。
堕天使ヨハネはこの地底世界を抜けるまで、天使ヨハネになるのよ!
善子「ルビィ! あなたに言っておくわ……私はあなたに攻撃はしない!」
指をさしつつ宣言する。身体がハートになってるのにどうやって指をさしてるのか、なんて野暮な文句は聞かないわよ!
ビシッと指差されたパビィルスは、
パビィルス「ぅゅ……な、なるほど……戦うつもりはないんですね」
落ち着いた様子でホネ攻撃を繰り出す。
同様に私も落ち着いて回避。難しいことはない、ただの上下を通るホネの合間を縫って避けるだけのこと。 パビィルス「だったら……ルビィの有名な『青攻撃』をくらって!』
パビィルスが青いホネ攻撃を繰り出してくる。
────ふん、これの対処方法はもう知っているわ。青は止まれ……つまり動かなければ当たることはない。
私は一歩も動かず、全ての青いホネが飛び去っていくまで待った。そして高らかに宣言。
善子「その攻撃はすでに見切った! そんなんじゃこの私に傷ひとつつけられないわよ!」
パビィルス「……うふふふ」
不敵に微笑むパビィルス。
まさか、攻撃が完全に見切られて心が折れたとか……? いや、まさか早すぎ……
────その瞬間、異変が私の身体に起こった。
善子「は、えっ!? なにこれぇ!?」
私の身体────ハートが真っ青になったのだ。それと同時に身体が上から強く潰されるような力を感じ、地面に押し付けられた。 それを狙っていたかのように、ホネ攻撃が飛んでくる。これは青い攻撃ではない────通常攻撃ということは、避けなきゃ……ッ!
善子「っぐ……!!」
……避けきれなかった。ジャンプしたのに……遅かった。
パビィルス「ニンゲンさん! これであなたは青くなりました!」
パビィルス「ふっふっふ……これがルビィの『青攻撃』の真の姿! にゃーっはっはっは!」
善子「くっ……」
身体が重たい……ドラゴンボールの重力が倍になる部屋ってこんな感じ、なのかしら?
なんて悠長なことを考えてる場合じゃないわ……
今まではハートの状態になれば、普段の自分じゃ考えられないような動きができたけど……この青くなった状態じゃ、普段の動きすらままならないわよ……!
善子「うぐぐ……このまま避け続けなきゃいけないって、なかなかキツイこと考えるじゃない……!」
だからといって戦うわけにはいかない。パビィルスの気持ちが折れるまで、私の気持ちが伝わるまで、何度だって避け切ってやる……! パビィルス「うふふ、どうかなっ!」
パビィルスがホネ攻撃を繰り出してくる。
私は重たい身体に鞭を打ち、なんとかそれを回避。横に移動し、ジャンプし……とにかく避ける。
パビィルス「どこまで高くジャンプできるかなぁ?」
ホネ攻撃が迫る。
今度は高くジャンプして回避しなければならない。
善子「重たい、ってのに……ジャンプばっかさせないで、よっ……と!」
避ける。
避ける。
とにかく避ける。
パビィルスは私のジャンプできるギリギリの高さでホネ攻撃を放つ。遊ばれてるわね、ったく。 ホネのにおいがする。
パビィルス「もっと高く飛ばなきゃ、もう!」
パビィルス「ルビィにスペシャルこうげきを使わせないでっ!」
今度は入り組んだホネ攻撃だ。
素早くジャンプし、素早く着地し、次々に迫るホネを回避する。あーもうつらい! しんどい!
パビィルス「ルビィはもうすぐ人気者……えへへ、えへへへ……」
パビィルス「ルビィがロイヤル・ガードの隊長になる日も……もしかしたら、近いのかも……」
ルビィは妄想にふけっているようだ。そんなに私を捕まえるのが嬉しいのね……?
クックック……ですが、私だってそう簡単に捕まってあげるわけにはいきません。なぜならこの天使ヨハネ様は、地底世界を統べる王ヨウゴアに命を狙われているのですから。
どんなに無様であろうと……逃げて逃げて、逃げなくてはならないのです。
そして我が混沌の世界へと帰還するのです! 次第にホネ攻撃は激しさを増す。
青くなった身体には未だ慣れず、被弾数がなかなか軽減できない……HPはすでに半分以下。あまりのんびりしていられない。
私が傷だらけになって苦戦してるあいだも、パビィルスは妄想をどんどん披露する。
パビィルス「カナンダインはきっと喜ぶし、王さまはお庭の植木をルビィの顔の形に切り込んでくれて、それからそれから……あ、ファンのみんながルビィにプレゼントをくれるかも!」
パビィルス「でも……みんなが、本当にルビィを好きか、どうやって見極めたらいいんだろう……」
パビィルス「あなたみたいなひとは、もういないだろうし……」
善子「はあ、はあ……そりゃどうも」
愛されたいのか、なんなのか……ダイヤズが言うには、パビィルスはとっても寂しがり屋。
だから頑張って、みんなに認められて、みんなに褒めてもらいたいんでしょう? パビィルス「あなたを捕まえたら、きっとあなたはずっと牢屋暮らし……かわいそうだけど、連れていかなきゃ……」
それに……ほら。
あなたはこんなに優しいじゃない。
パビィルス「と、とにかく! 早く降参しないと……『スペシャルこうげき』を出しちゃうよ!?」
パビィルス「ほ、本当に出しちゃうよ!?」
……ふふ、ふふふふ。
善子「……降参なんてしないわよ。私は戦うつもりはないし、負けるつもりもないからね」
私は不敵に笑って、そう言ってやる。正直めちゃくちゃ身体痛いし動きたくないけど、今だけは、もう少し頑張って……わたし。 パビィルス「も、もうすぐ……もうすぐスペシャルこうげきが発動するよ……?」
普通のホネ攻撃が迫る。
それを避ける。
パビィルス「つ、次! 次のあとは……ほ、本当にスペシャルこうげきだからね!」
普通のホネ攻撃が飛んでくる。
避けきれない。少しダメージを受けた。
善子「つっ……」
パビィルス「ぃ……い、いくよ? ルビィのスペシャルこうげき……!!
大丈夫、回復アイテムは用意できてる。
どんなスペシャル攻撃だって……
────ワンワン!
よしるび『……え?』 パビィルス「ピギャーー!? わ、ワンちゃんさんなにしてるのぉ〜!!」
パビィルスが仕掛けていたホネ攻撃を白い犬が食べていたのだった。
パビィルス「それ、それっ……それルビィのスペシャルこうげきだよぉ! かえして、ねえ、ねえ〜!」
────キャンキャン!
パビィルス「ぁぁああ……」
……どうやらスペシャルこうげきは犬にお持ち帰りされてしまったらしい。そんなに美味しいのかしら、あのホネ……
パビィルス「ぴぃ……ぅ、ぅゅ……」
暗くなるルビィは、なんだかちょっと可哀想だった。私もさすがに見てはいられず、声をかけようとしたが……
ルビィ「こうなったらっ!」
善子「!?」
ルビィ「『ウルトラかっこいいフツーのこうげき』を使うしかない……」
すぐ元気になった。 うん、ポジティブなのはいいことだと思うけど……まだあるのね。
けど……これが本当に最後の攻撃になりそう。
私もモンスターアメで回復し、ウルトラ通常攻撃に備える────
パビィルス「いくよニンゲンさん! なんの変哲も無いフツーのこうげき!」
ルビィが腕を振るう。虚空からホネが現れ、次々に私へと迫る。
私はそれを飛んで回避。着地して回避。とにかく回避。
その攻撃は今までのどれよりも激しく、手数が多い攻撃だった。そして、クライマックスは────
善子「な、なんかめちゃくちゃでかいホネなんだけど!!??」
空を突き破ろうかと言うほどの巨大なホネが、壁のように私へと迫る。逃げ場は……もう、飛んで避けるしかない。
当然、この青くなった身体では避けられないのは分かってるけど……や、やるしか! 善子「とりゃあーー!」
全力でジャンプ。
とにかく、とにかくジャンプ!
……って。
善子「な、なんかめちゃくちゃ飛んでるんだけど!!?」
なんかよく分からないけど、スーパージャンプで回避できてしまったのだった。
……本当によくわかんない。
パビィルス「はあ……はあ……」
善子「……はあ、ふう」
最後の攻撃を終え、互いに息も絶え絶えだ。私とパビィルスは息を切らしながら向かい合う。
パビィルス「ど、どう! はぁ、ふう……あなたに、ルビィは……倒せ、ません……」
善子「その気になれば倒せるわよ……たぶん」
パビィルス「ぅゆ……そ、そんなの強がりだもん! ルビィは強いもん!」
善子「わかった……わかったから」
パビィルス「……えへっ! じゃあルビィがあなたに情けをかけてあげる! みのがしてあげる!」
善子「……ん?」
パビィルス「え、えっと……だからね、その……今なら逃げても、いいよ……って」
善子「……」
……どうやら戦いは終わったらしい。
…………めちゃくちゃ疲れた。
暗転。 戦いが終わる頃には、あたりの霧も晴れていた。少し離れたところでしょんぼりするルビィがよく見える。
パビィルス「うゆゆ……あなたみたいに弱いひとすら倒せないなんて……カナンちゃんに怒られちゃう……」
パビィルス「ルビィはロイヤル・ガードになんてなれないし……友達だって増えないんだ……」
善子「……」
……ったく、世話の焼ける子ね、本当。
善子「ルビィ」
パビィルス「はぇ……?」
善子「友達になりましょ」
パビィルス「……え、え、ほ、ほんとに!? ほんとに、ルビィと……お、おともだちになってくれるの!?」
善子「もちろん。これであなたの私は友達よ」
ほんとはリトルデーモンがいいんだけど……言ったってどうせ分かんないんでしょうし。
パビィルス「そ、それなら……そ、その、特別に……あなたを許してあげてもいい……よ?」
善子「そりゃどーも」 パビィルス「えへ、えへへ……やった、やった! お姉ちゃんに自慢しちゃおっ!」
パビィルス「おともだちが欲しかったら、ダメダメなパズルをやらせて、バトルをすればよかったんだね!」
パビィルス「ニンゲンさん! あなたはルビィに色んなことを教えてくれたから、ここを通ってもいいよっ」
善子「いいの? ありがとう」
パビィルス「それと地上に出る方法も教えてあげる!」
善子「!」
────地上に出る方法。
マリーはまっすぐ進むと出口があるからそこから出ろ、としか言わなかった。具体的なことは何も言わず……消えてしまった。
もっと詳しい情報がもらえるなら……とてもありがたいことだわ。
パビィルス「このまま進んでいくと、洞窟の出口に着くの。そこは都……城下町っていうのかな? そこにバリアがあって、それを抜けたら外の世界に出られるの」
パビィルス「バリアはルビィたちを地底の世界に閉じ込めてる魔法の封印……こっちに入るのは簡単だけど、外に出るのはとっても大変」
パビィルス「つよいタマシイを持つひとじゃないとバリアを抜けることはできないんだ。……だけど、あなたならできる!」
パビィルス「だから王さまはニンゲンさんを捕まえようとしてるの!」
パビィルス「ニンゲンさんのタマシイの力でバリアを壊す……そうしたら、ルビィたちモンスターも地上に戻れるんだ!」
……よくわからないけど、モンスターのタマシイだけでは弱い……ということなのかしら。ニンゲンとモンスターでタマシイの強度が違う……? パビィルス「あ、そうだ……あと大事なことを忘れた」
善子「?」
パビィルス「バリアに行くためには、王さまのお城に行かなきゃダメなんだ」
……王さまの、お城。
パビィルス「すべてのモンスターを統べる王……あのひとのことは……誰もが……」
善子「……ごくり」
パビィルス「だーーーーいすき!」
善子「だいすきなんかい! なによ今の空気!今の間は!」
パビィルス「モフモフしててすっごくいいひとだよ! だから、きっと心配いらないよ」
パビィルス「『おうさま! おうちにかえらせてください!』ってお願いすれば……きっとバリアのところまで案内してくれる」
パビィルス「頑張ってね、ニンゲンさん。ルビィはいつでもあなたの友達としてお家で待ってるから、遊びに来てもいいよ!」
早口にまくし立てると、ルビィはウキウキした足取りでスノーフルへと帰っていった。
……え、私放置? 置いてけぼり?
マジ? ルビィ、あんた……
……
とりあえず私も街に帰ろう……
ヨハネ LV5
スノーフルのまち
セーブしました。 今回はここまで。
書き溜め少しずつやりながらで申し訳ないです……
Nルートまでは頑張って完結させます
Gルートのダイヤズとか色々考えてはいるけど 続き来てたか
このゲームはプレイングで細かく変わったりするから楽しいよな
N→P→GかGのあとにPやるかとか 乙!待ってたよ!
やっぱりパピルスかわいいなぁwルビィちゃんにピッタリだったわw 勇者ああああで知って最近プレイしたからタイムリーなスレだわ
楽しみにしてるよ 3年くらい前に俺がよくやってた妄想とほぼ同じで泣いた ・・・
パビィルスとの死闘から一晩明け、私は街を出る準備を始めていた。
立ちふさがるルビィを撃破したことで、この街でできることは全てやり終えたはず。これ以上ここに留まる理由は無い……と、思うんだけど。
パビィルス「それでね、ルビィはニンゲンさんを捕まえてロイヤル・ガードの一員になるつもりだったんだ〜」
善子「ふーん」
なぜかルビィに捕まって一緒に朝食を取っていた。なんでも、友達なら遊ぶのは当然だしご飯も当たり前、らしい。
まあ、その通りといえばその通り。私もルビィと離れるのは心寂しく感じたため、お別れを兼ねて食事をとることにしたのだった。
この街を出たら……もう会えない可能性だってあるのだから。 パビィルス「でもルビィとニンゲンさんはお友達だから、そんなことしないのっ! カナンちゃん……おほん、カナンダインにもルビィから伝えておくからきっと大丈夫だよ!」
善子「ありがと」
その果南……カナンダインはきっと強敵になる。
ルビィの話を聞く限りでは、性格は大雑把で荒いところもあり、腕っ節がとにかく強い……らしいってことだから。
それはつまり、今まで戦ったモンスターとは比べ物にならないってこと。
これまではみんな、確かに戦いはしたけれど、心の底から私を殺そうとしていたわけじゃなかった……と、思う。
マリエルはもちろん、パビィルス、あの白い犬や千歌の姉たちも。
────チカウィを除いて。
だから、これから先、激しくなるであろう戦いを想像するだけで足がすくむ。
この街を出なければならない気持ちが、揺れてしまう。
けれど、だけれど──── 善子「……そろそろ私は行くわ」
パビィルス「気をつけてね。寂しくなったらいつでも帰ってきていいよ、ルビィがいるからね」
善子「ありがと。……じゃ、また」
パビィルス「うん、またね!」
ハンバーガーを口に放り込み、私は店を後にする。これ以上一緒にいては、きっとつらくなる。
ここは確かに居心地がいい。ルビィもダイヤもヘンテコだけど面白くて大好き。
だけど。
だからこそ、私は帰らなきゃ。
私の世界に。Aqoursのある世界に。 ・・・
パビィルスと戦闘した道を抜けて、スノーフルを出た。
パビィルス曰く、どうやらこの先は洞窟になっているらしいが……確かに水の流れる音が響いて聞こえる。
もしかしたら全身ずぶ濡れになるのかも……って考えると、ちょっと憂鬱。
堕天使ヨハネは常にオシャレでいたい────濡れて見てくれが悪くなるなんて論外よ!
……しかし、だからと言って引き返すわけにはいかない。
私は先へ進まなくちゃ────ん?
善子「あれは……」
私の目線のその先に。
見覚えのある紫の髪のツインテール。私と同じボーダーのセーターでキメた女の子。
トカゲっぽいモンスターの鹿角理亞……いえ、今はリアだっけ────その姿があった。 善子「なにをしているの?」
リア「あ、あなた……なに、私を追いかけてきたの?」
善子「え? いや、私は自分の用のためにこっちにきただけよ」
リア「用? ……もしかして、あの人に会いに?」
あの人?
リア「なるほどね……あなたも子供のくせに意外と根性あるんだ。そうでしょ?」
あ、なんか私の話聞いてないっていうか勝手に話進めてるし……え……えっと、こういうときは……
善子「うん」
適当にAボタン連打して『はい』を押して話を進めちゃうノリで行きましょう…うん。
リア「……やっぱり。子供はみんなあの人に憧れる。当然のこと」
リア「本当に来る気があるなら覚悟して。かっこよすぎて倒れても知らないから。あの人に会うのは遊びじゃないの」
……理亞だわやっぱり。この言い回し それで覚悟ってなに? そもそも誰のことを言ってるのかも分からないんだけど……
誰よあの人って……もしかして理亞の姉の聖良さん……とか?
確かにあの人はダンスも歌もすごい……憧れるのは当然かもしれない。
この世界の理亞も、その目標に向かって突き進んでる……ふふ、私、あなたのそういうところ結構尊敬してるんだから。
リア「あ、そうそう」
善子「?」
リア「私がここにいたこと、父さんや母さんには内緒にしててよ」
善子「……」
リアもまだまだ子供ってことね……フッ。 ・・・
リアと別れて少し進む。
洞窟の入り口らしい────通路に川が流れ、奥まで続いている。岩の洞窟と川のせいなのか、空気は冷えている。暖かい服を着ていてよかったわ。
景色もさっきまでとは打って変わり、岩で周りを囲まれた洞窟で、道端には見たこともない青い花が咲いていた。
なんか変な花……ラッパというか、蓄音機の音が出る部分みたいな形をしてる。
せっかくだからと顔を近づけて花を観察していたら、その花のとなりに立っていた魚人っぽいモンスターが話しかけてきた。
「これは、エコーフラワーだ」
なにそれ?
「話しかけると最後に聞いた言葉を繰り返すんだ」
へえ……面白いわね。地底にはこんな変なのがあるんだ……っていうか、地底なのに花、咲くんだ。 そういえば最初に落ちてきたところにも金色の花がたくさん咲いていたっけ……
マリーの家のそばにも落ち葉がたくさんあったから、地底だけれど、魔法のおかげで草花はたくさん生えているのかも。
そう思いながらエコーフラワーをつついてみると、
『これは、エコーフラワーだ。話しかけると最後に聞いた言葉を繰り返す…』
見事に同じ言葉を繰り返していた。すごいわこの花。ドラえもんのやまびこ山みたい。……例えがなんか古臭い?
善子「へー……」
そんな風に花をまじまじと見ていると、今度は違う人物から声をかけられた。
「あら、ニンゲンさん」
これは……聞き覚えのある声だ。
「こんなところで何をしているんですの?」
善子「……ダイヤ?」
ダイヤズ「ええ、スケルトンのダイヤズですわ。その節はパビィルスがお世話になりました」
善子「い、いや……こちらこそ、色々と」
ほんとに、お世話になりました。ごはんを食べさせてもらったり、寝泊まりをさせてもらったり。
本当に助かったわ。 ……というか。
善子「ダイヤはここで何をしているの? パトロールの仕事は?」
ダイヤズ「ふふ、見てわかりませんか?」
そう胸を張ってくるりと回ってみせるダイヤ。
分かるわけがない。
ダイヤズ「仕事を掛け持ちしているのです。そこの小さな小屋で」
指差す方を見ると、確かに小さな小屋があった。なんの小屋だろうか……看板ひとつ見当たらない。
これじゃ一体なんの仕事なのかもさっぱり。
それでもダイヤがやっているのだから、大切な仕事なのだろう。さすが真面目なお姉さん────
ダイヤズ「なかなか有意義なお仕事ですよ? おかげで休憩時間も2倍なんですから」
善子「おい」 忘れてたわ……ここのダイヤは現実のダイヤとかけ離れたヘンテコなんだった……!
私の世界に帰った時に変な気持ちになりそう……
ダイヤズ「まあまあ、そう睨まないでくださいな。今からグリルビーズに行くんですが、あなたも行きません?」
善子「え?」
グリルビーズっていうと、スノーフルのバーみたいなお店のことね。
さっきパビィルスと朝ごはんを食べたところなんだけど……まあ、せっかくのお誘いだし。
一度出た街に戻らされるのもゲームあるあるよね。
善子「いいわ、行く」
答えるとダイヤズは大げさに手を叩いて、
ダイヤズ「そこまで言われては仕方ありません! 仕事を切り上げて行くとしましょうか!」
と、ニヤニヤしていた。
あ、サボる口実にされただけだこれ!!
ダシに使われた悔しさを若干感じている私をよそに、街とは正反対の方向に歩きながらダイヤズは言った。
ダイヤズ「ついてきてくださいな。わたくし、近道を知ってるんですよ」 乙
ダイヤの見た目で中身サンズってほぼありしゃなのでは 〜グリルビーズ〜
ダイヤズ「ほら、もうつきました」
善子「!!??」
ま、待って!? いまどこ通って……あれ!?
善子「今まで洞窟の入り口にいて……こう、奥の方に入っていったはずなのに気づいたら店に……!?」
善子「どうなってるのこれ!?」
ゲーム特有のワープ!? いやでもおかしくない!? 善子「今さっきまでこんなこと無かったし……えぇ、どうなってんの……?」
私が一人で頭を抱えている横で、ダイヤズは店に来ていた客たちと談笑を交わしていた。どうやらダイヤズは人気者らしい。
「ダイヤ、ついさっき朝ごはんを食べに来たところじゃないの?」
客のひとりがダイヤズに話しかける。
ダイヤズ「いえ、最後に食べに来た朝食は30分も前ですよ?」
ダイヤズ「ブランチなら先ほど食べに来たばかりですが」ツクテーン
どっ、と店内が笑いに包まれた。
私には理解できないジョークだった。
けど、まあ、こんな風に人を笑わせられるから人気者……なんでしょうね。
ダイヤズ「こちらに座ってくださいな」
ダイヤズに促されてカウンター席に腰を落ち着kブギューブリリリリリ…
善子「……」
ダイヤズ「あら! 席を選ぶときは気をつけてくださいな。どこかの誰かがブーブークッションを仕掛けているかもしれませんから♪」
こ、こいつ……!
向こうに戻ったら必ず仕掛けてやるんだから……! ダイヤ「まあまあ、それよりオーダーしましょう。なに食べます?」
善子「んー……」
朝にハンバーガーを食べたばかりだし、ここは軽めに……
善子「ポテトにするわ」
ダイヤ「いいですわね。グリルビーさん、ポテト2つお願いしますわ」
メラメラの燃え盛る炎の店主はメガネをクイッと持ち上げると、奥の厨房へ消えていった。
あのメガネ溶けないのかしら……
しばしの沈黙。思えば、ダイヤと現実でも二人になったことはなかったかもしれない。
ちらりと隣を見ると、私の知る凛々しい顔つきの生徒会長が、そこには在る。中身は多少違えど、やはり芯の部分はダイヤなのかもしれない。
人を気遣えて、やるべきことはしっかりやり遂げる、スーパー生徒会長。
そんなあなたを、私は結構かっこいいと思っている。まあ、こんなこと口に出して言わないけど。 そんなことを思いながら眺めていると、ダイヤズが口を開いた。
ダイヤズ「ところで、あなたはどう思いますか?」
善子「?」
ダイヤズ「我が妹ルビィのことですわ」
善子「……」
善子「え、えっと……頑張ってると思うわよ? ロイヤルなんたらになりたい夢に向かって励んでるし、その……人気者になろうと張り切ってるし」
善子「うん……頑張ってると思うわ。可愛いし」
ダイヤズ「ふふ、トーゼンですわ! あなたもルビィのようなコスチュームを着ればステキなスターになれますわ!」
ん? ダイヤズ「あの子、よほどのことがない限りあれを脱ぎませんからね」
えっ!?
ダイヤズ「あ、でもご安心を。ちゃんと毎日洗っていますわ」
はあ……
ダイヤズ「着たままシャワーを浴びてるってことですが」
……まじかルビィ。
……いや、まず、なに今の質問。
結局なにを聞きたいのか分からなかった質問と、あまり知りたくなかったパビィルスの生態に絶句していると、奥の厨房から店主が出てきた。
頭の炎を揺らめかせながら、揚げたてのフライドポテトを両手に持って。
ダイヤズ「食事が参りましたね。ケチャップ使いますか?」
善子「ありがとう」
ダイヤズ「『ボーン』ナペティ」
したり顔で言うダイヤズだった。今のはイタリア語で『召し上がれ』を意味する『Bon appetit』と骨の『bone』をかけた……って説明させないでよ! 納得のいかないまま私はケチャップのボトルを傾けると……
善子「あ゛!」
キャップが取れてボトルの中身が全てお皿に溢れてしまった……
うわあ、最悪じゃないの……せっかくのポテトがぁ〜……
ダイヤズ「あら……仕方ありませんね。わたくしのをどうぞ」
ダイヤズ「正直、それほど空腹というわけでもありませんから」
そう言ってダイヤズは自分のポテトを私に差し出してくれた。
うう、申し訳なさがすごい……グラサンの奥で寂しく光る店主の瞳が、私の胸をえぐりにえぐった。
私は小さくなりながらポテトを1本かじった。
ごめんなさい…… ダイヤズ「それで……パビィルスのことなのですけれど」
私が飲み込むのを待ってから、ダイヤズが口を開く。
まだ話は続いていたらしい。
ダイヤズ「あの子が頑張り屋なのは認めていただけるでしょう? ロイヤル・ガードになるために地道に努力していますし」
私はポテトをつまみながら頷いて返す。
ダイヤズ「あの子、ロイヤル・ガードのボスの家まで行って……メンバーにしてくれるように頼み込んだんですよ」
ダイヤズ「まあ、当然相手にはされませんでしたが……」
自慢気に話すダイヤズ。やっぱりこういう点は本当にダイヤそのものだ。
妹を想い、愛し、信頼してる。あの子が頑張ってる姿を誰よりも近くで見て、誰よりも知っているのだろう。
だからこそあの子を認める人が増えてほしいのかもしれない。私にこんな話をするのも、そのためだろう。
一度戦った私だからこそ、あの子を認めてくれるのでは、と────
ふふ、そんな気を使う必要はないのに。
私はとっくにルビィのことを────
ダイヤズ「夜も遅かったですから仕方ありませんね」
え、そういう話!?
このスケルトンは、とことん私を真面目モードにさせる気はないらしい。 ダイヤズ「ですが、あの子は朝まで待っていました。そのやる気を買って、ボスも『訓練してやる」と言ってくださいました」
ダイヤズ「それで、まあ……今も訓練中ということです」
善子「ふぅん……」
私はいつのまにか、ポテトをつまむのをやめて彼女の話に聞き入っていた。
頑張り屋の妹。
それを誇りに思い、応援する姉。
この2人は、現実のダイヤとルビィ以上に愛し合っているのかもしれない。
それ以上に素直なのだろう。
自分の気持ちを人に伝え、見てもらいたいという純粋な心を持っているのだ。
私の知る2人は、きっと、お互いにそういうことを伝えるのは恥ずかしがる。
そして、それを自分以外の誰にも知られたくはないんじゃないかとも思う。
だって……そんな風に素直に生きるのは、照れ臭いじゃない? 私には絶対そんなことできない。
思ったらすぐ行動しちゃうバカなリーダーにも、きっとね。
暖かい気持ちでいっぱいになったところで、ポテトをつまもうと手を伸ばしたところで。
ダイヤズ「そうそう、ひとつ聞きたいことがあったのです」
ダイヤの声のトーンが、
ダイヤズ「言葉を話す花って、聞いたことはありますか?」
一瞬にして冷たく変化した──── 善子「……っ!」
その瞬間、時間が止まったような感覚を私が襲う。
言葉を話す花。
喋る花。
知っている。
私は、それを知っている。
何度も見た……あの、黄色い花。
千歌の顔、千歌の声で話すあの不気味な花。
私を最初に殺そうとした恐ろしい花。
この優しいモンスターたちの世界で、唯一、私を本気の殺意で狙った花。
私がマリエルを手にかけて……それを嘲笑った花。
なぜ、ダイヤがそれを────
ダイヤズ「その様子……そう、もう知っていましたか」
ダイヤズ「それはエコーフラワーと言って、沼地のあちこちに生えているんです」
ダイヤズ「この花に声をかけると、その言葉を何度も繰り返すのですが……」
エコーフラワー……さっきモンスターのおじさんから聞いたもの。
私もこの目で見たから知っている。ラッパのような形の、あの青い花。
……ダイヤズが聞きたいのはその花のことなの? それとも、やっぱり────
善子「……それが、どうしたの?」
真意がわからないまま、下手に答えるわけにはいかない……そう思った。 ダイヤズ「……」
ダイヤズ「ルビィが、先日、変なことを言っていたのです『1人でいると、時々……花が1輪現れて話しかけてくる……』と」
……!!
やっぱり、それは。
ダイヤズ「ほめてくれたり、アドバイスしてくれたり、励ましてくれたり」
ダイヤズ「予言したりするという話なのですが……おかしな話ですよね?」
まるで信じられない────という顔でダイヤズは笑う。
そう、信じられるはずがない。私だって……
ダイヤズ「きっと誰かがエコーフラワーを使ってからかっているんです」
私だってあれを、チカウィを見ていなければそう考えるだろうから。
ましてやエコーフラワーという存在がある以上、知らない者からすれば全てそれの仕業だと思うに決まっている。
本当にチカウィがパビィルスに接触していたとしたら……それは、なぜ?
ただの退屈しのぎ……とか? あの花ならやりかねない……けど、私を殺そうとした時とは違ってずいぶんと優しいのね。
私がニンゲンだから? ……わからない、けれど……やはりその花はチカウィに違いない。
────私がこのまま深い思考に陥りそうになった時。
ダイヤズ「まあ、そういうお話でした。あなたも気をつけてくださいまし」
そう言ってダイヤは話を切り上げると、椅子から降りて入り口へと歩いていく。
ダイヤズの声で我に帰った私は、
善子「あ、ちょっ! どこいくのよ!」
ダイヤズ「随分とのんびりしてしまいました。仕事が山積みなのにあなたが引き止めるからですわよ?」
善子「は!?」
いやいや誘ったのあなたよね!? 連れてきたのもあなたよね!!
私のツッコミに、しかしダイヤは無反応。ひどい。 ダイヤズ「そうそう……わたくし、今月は金欠なのでお勘定もお願いしていいです?」
ダイヤズ「10000Gポッキリですから」
善子「はあぁ!?」
待って待って待って!!? 私だってそんなお金ないわよ! 回復アイテム買ったり服買ったりで結構使い込んでるわよ!!
というか10000のポテトってなに!? ルビィと食べた時そこまで高くなかったわよ!
慌てふためく私をよそに、ダイヤズはお得意のしたり顔で笑いだす。
ダイヤズ「うふふ、なーんて♡ 冗談ですわ」
ダイヤズ「グリルビー、今日もつけておいてくださいまし」
そう告げるとダイヤズは足早に店から出て行った。去り方だけめっちゃかっこいい感じで。
むかつく。
1人残された私は、色々と考えたいこともあったけれど、ひとまず置いておく。
チカウィのことなんて考えても分かることじゃない。
あの花とは、きっとまたどこかで合うでしょうし……ね。
だったら今は先に進むだけ。
先に進んで、王さまに会わなくちゃ。
私はすっかり冷めたポテトをたいらげてから店を後にした。 ・・・
パビィルスと戦った道を抜けて、何度目かのエコーフラワーのある小さな広場。近くにダイヤズがバイトしてる小屋がある。
通り抜ける際にダイヤズから、
「また一緒に食事しましょうね」
……と、にこやかに見送られた。
いやあなた何も食べてないじゃん。
というツッコミは心の中に押し止めて、新たなるマップの探索を開始する。
そこは薄暗い洞窟……のような場所で前にも見た通り、水が絶え間なく流れている。
ほら、目の前にも広い滝壺が…… 善子「……って、もしかしてこれを渡らなくちゃいけないの……!?」
濡れる……これ絶対びしょ濡れになる……
とりあえず私は滝壺のそばにあった『いじげんボックス』を開き、荷物の整理をする。必要のないアイテムをあらかた預けた。
そして預けてあったひとつのアイテムを見て呟く。
善子「……本当にこの中に入れてると劣化しないのね」
最初に入れたマリエルのバタースコッチシナモンパイは、まだできたてのように美味しそうだった。 ・・・
・おふるのチュチュをみつけた
善子「こ、これは……!!!」
────話は数分前にさかのぼる。
私は先に進む前に、近場をくまなく探索していた。
まず滝壺。
滝壺と言うからにはだいたい見えないアイテムが落ちていたりするものでしょう?
ほら、ポケモンの地下通路みたいにね。
そんなわけで滝壺のあたりを……びしゃびしゃになりながら探していたの。
もちろん上着だけは脱いで……だけど。
それがあんまりにも寒いもんだし、全然見つかんなくって、そろそろ辞めようと思って上着を取りに岸へ戻ろうとして────
私は流れてきた岩か氷か、とにかく何かの塊に身体を押されたのだ。
善子「いやあぁぁぁああ!!」
私は滝壺をばしゃばしゃと転がりながら、崖になっていたところから落ちた────
し、死ぬ…………っ!!
────と、思ったそのときだった。 その崖(これも滝みたいなものだけど)の下には通路があり、そこへ転げ落ちただけで済んだのだった。
不幸中の幸い、命は助かったのだけれど、それなりの高さからは落ちたわけで……
めちゃくちゃ痛いわけで……
しばらくその場で、声にもならない呻き声を上げてのたうち回ったのだった。
数分くらいその場でうずくまって、ようやく動けるようになったからあたりを見回してみると。
どうやら、私が上着を置いた岸のそばから通路が伸びていて、こちらまで降りてこれるようだ。
……私としたことが痛恨のミス。寒くて痛い思いをしただけよこれ。
それからさらに数分後、完全に痛みも消えたために散策を再開することにした。 するとその先にエコーフラワーがあって、そいつが変なことを喋るのだった。
「あそこには絶対何かがあった……落ちてくる水の裏側だ」
こういうNPCのセリフはだいたい新アイテムやキーアイテムのゲットに役立つヒントに違いない。
ゲームをやり込んでる私が思うんだから当然よ!
というわけで私はその声に従って滝壺を再度探索した。
そして見つけたのだ────落ちてくる滝の裏にある、ひとつの穴。
そこに眠るアイテム、おふるのチュチュを!
そうして今に至るわけ! ・おるふのチュチュ - アーマー DF10
・ようやくてにいれた ぼうぎょりょくのたかい アーマー
善子「これは着るしかないでしょ。おしゃれで言ったらアレだけど……防御力には変えられないわ」
私は即座に装着し、それまで装備していたバンダナをさっきのいじげんボックスに押し込んでおいた。
これで周辺の探索はおしまいね。さあ次に進むわよ! ・・・
少し歩くと────不自然に光の差し方が変わった。
これまで洞窟全体がぼんやりと明るかったのに。
背後から光が差して、影が私の進行方向に伸びている。
そしてその影は、これまた不自然に生えたトウモロコシ畑のように背の高い草むらに掛かっていた。
明らかに怪しい、そんな空気が漂っている。
先ほどまでうるさいくらいに聞こえた水の流れる音が、ここでは全く聞こえない────
善子「なによこれ、通路遮ってるじゃない……」
これを通るしかないのか……面倒ね。
だが背に腹は変えられない。すでに足元はびしょびしょなのだから、これ以上汚れてもいいわよ!
さあ出発────
ガサッ
善子「…………え?」 人の気配。
草むらに身体を割り込ませた途端に、背筋に凍るような悪寒がほとばしった。
誰かがいるのだ。私はその場で動きを止め、視線を動かす。
前後左右、全ての方向は草に覆われて見えない────が。
斜め上……だろうか? 少し崖のようになった、言うなれば2階のような場所に、人影のような何かが立っていた。
白銀の甲冑に身を包んだように見える、その影は。
奥から走って現れたスケルトンの少女────パビィルスから話しかけられていた。
パビィルス「え、えっと……カナンダイン隊長……」
パビィルス「今日の任務の、報告に……きました」
その声はとても震えている。ルビィ、怯えているの……? そして、カナンダインって……
パビィルス「その……さっき電話で伝えたニンゲンさんのことなんですが……」
……やっぱり。
この地底世界を守る王国の騎士団……ロイヤル・ガードの隊長。
ここに落ちてきた人間を捕まえようとしている……つまりは、私の敵──── パビィルス「え? 戦ったのかって……?」
パビィルス「も……もちろん! 戦いました! とっても勇敢に!」
パビィルス「えっ……と、捕えたのか、って……?」
パビィルス「ええぇぇ、えーっと……その……」
パビィルス「一生懸命がんばった、けど……逃げられちゃって……」
鎧の人物────カナンダインの声は聞こえないが、パビィルスの発言から、だいたいの予想はつく。
あのカナンダインとかいうやつは私を捕まえたがってるのだ。そしてあの子の怯えよう……きっと恐ろしく強い。
たぶん、今まで戦った誰よりも。
マリエルより、パビィルスよりも。
2人の会話は続く。
ルビィ「え……? ニンゲンのタマシイを取りに行く……? かなんちゃ……た、隊長が……?」
善子「……!」
その発言に、空気が張り詰めるのがわかった。パビィルスも慌てて、
ルビィ「ででで、でも、別に、殺さなくたって……! だって……」
ルビィ「だって……う、ぅぅ」
駆け寄って懇願しようとするパビィルスが、ビクッと体を震わせて後ずさる。
カナンダインがパビィルスに睨みを効かせたのだろう。 しばしの沈黙の後、パビィルスが、
ルビィ「……はい、わかりました。全力で……手伝います」
そう言って洞窟の出口へ走っていった。
…………気配が少し和らぐ。今のうちにここを抜けて逃げないと、あいつが────
────ガサッ
「……!!」
善子「っ……」
やってしまった。ここは草むらの中……少し動いただけで音を立ててしまうことになぜ気づかないのか。
気を抜き過ぎよ、私……! だって私はただの人間、狩猟ゲームにバトロワ系、色んなゲームをやり込んできたけど!
リアルでこんな場面にあったことなんてないし、こんな緊張感味わったことなんてないのよ〜!!
「……」
ガシャガシャと甲冑を鳴らせながら、やつがこちらへ近づいてくる。
段差の上からこちらを見下ろしているのか────あれは、槍だろうか?
カナンダインは魔法を使ったのか、その手に槍を生み出し構え、こちらを睥睨している。
動けばすぐにあれで貫かれる……? あんなもので刺されたら、私は……っ
とにかく動くな、動くな、動くな。
うるさい、うるさい、うるさい、心臓止まれ。
呼吸もするな、黙って、私……っ
…………
……
…
「……」
────気のせいか。
数秒か、数分か────無限のように感じられる時間が過ぎて、そう呟いた声が、聞こえた。 すると鎧のモンスターは槍をどこかへ消し、自身もどこかへと消えていった。
私はそれから十分に時間をとってから、草むらから外に出た。
善子「はあ……はあ、はっ……」
そこでようやく緊張の糸が途切れたのか、私の全身から冷や汗が大量に噴き出した。
来ていた服がぐっしょり湿っている。
あんな緊張感は初めてだった────
もしかして、あれが殺気ってやつなのかしら……
善子「気配だけで動けなくなることって、本当にあるのね……」
壁にもたれて息を整える。
心臓がばくばくと早鐘を打つ。
善子「これ、落ち着くまで少しかかるかも────」
ガサガサガサッ!!
善子「うきゃぁっ!?」
「ちょ、私、逃げないで!」
善子「えっ……理亞?」
ぽっと呟いた瞬間に草むらをかき分けて現れたのは、あのモンスターの少女。
リア。
見慣れたツインテールに、見慣れない感動したような顔で私に駆け寄ってきた。 ていうか居たのあんた。
ていうか死ぬほどびっくりしたんだけど。
理亞「そんな驚くことじゃないでしょ」
ドライすぎる……
理亞「それより、ねえ……やばい。見た?あなたを見るカナンダインの目……」
善子「ああ、あれね……」
理亞「やばい、やばいわ……」
あれは……本当にやばかった。
一歩でも動けば殺されていた……気を抜けば、私も理亞もその場で死んで────
理亞「マジさいっこーでしょ!!」
善子「……ん?」
理亞「くっ……いい……! なんであなただけあんなに注目されてるの!? 羨ましい……!!」
善子「マジか……」
リアの憧れって、つまりカナンダインだったの……?
……まあ、確かに王国の子供からすれば国を守る騎士団の隊長……まさにヒーローよね。
私もこの地底の生まれだったらきっと憧れてるでしょうね。
理亞「行きましょ。カナンダインが悪いやつをぶっ飛ばすところ見に行かないと!」
そう言って理亞は我先にと走っていった。私を置いて。めっちゃダッシュで。
善子「でも、そのカナンダインの狙いは私なのよ……理亞」
・まだからだがふるえる……
・それでもケツイがみなぎった
ヨハネ Lv5
ウォーターフェルのかいろう
セーブしました。 こんな優しい善子が最終的にみんな殺すとかないよな...? ttps://i.imgur.com/kAhVhqC.jpg お待たせしてすみません…
仕事で部署が変わってしばらくばたばたしてて時間が取れずでして
もう少ししたら落ち着くはずなのでもうちょっとだけお待ちください ヨハネ Lv5
ウォーターフェルのかいろう
コンティニュー 【「足場の種」は水面に4つ並ぶと花を咲かせる】
善子「……足場の種?」
未だ震える足を引きずりながら通路を進むと、壁にそんな注意書きがあった。
なによそれ、と思いながら道を進んで、理解した。
私が向かうべき道は川のような池のような、とにかく通路が遮られていたのだ。
遺跡であったように。
スノーフルへ向かう道にあったように。
これも地底のモンスターたちによる防衛機構────パズルのようだ。 善子「水面に並ぶと花を咲かせる……」
善子「足場の種、か」
私は看板の傍らに生えてあった4つのつぼみを見逃してはいない。
これが『足場の種』で、この花が咲くと足場になる────ということでしょう?
試しに私はそれをひとつ持ちあげ、向こう岸に向けて川に流してみた。
それを4回繰り返す。
なぜなら足場の種は4つ並べなければ花を咲かせないから。
善子「……いい感じ」
足場の種を4つ川に浮かべると、ちょうど向こう岸に渡るまでのちょうどいい長さになった。
そして────その花が、開く。
その光景は生命の誕生のようにも見えて、私は────
善子「よし! これでもう濡れなくて済む……!!」
善子「っていうかさっきのとこもこれ置いてなさいよ! ズボンびしょ濡れのままなんだから私!」
────私は、このゲームの意地の悪さに毒を吐くのだった。
ちなみに流す位置を間違えたら、壁にある鐘を鳴らせば『足場の種』は手元に戻ってくるのだとか。親切設計ね。 ・・・
足場の種の通路を超えて、次へ────
暗転。
あっ……この感覚久しぶり……
・アーロンがきんにくをピクピクさせてあらわれた!
善子「って、なんか変なやつ出たーー!!!」
なんか、なんかめっちゃムキムキの……魚人?人魚!?
いや……きmげふんげふん…… と、とりあえず分析……
・アーロン
・HP(ばりき)がスゴくたかい。
・ボックスのしたのほうにいるとこうげきをよけにくい。
善子「ばりきって何よ……ていうか、これって」
それはそれとして。
今更ながらに戦闘シーンの説明。
私の身体は真っ赤なハートになって、白いテキストボックスみたいな枠で囲まれてるの。
敵の攻撃はその周りから飛んできたり、ボックスの中に降ってきたり……私のハートがそれを避ける弾幕みたいな感じなんだけど……
とっても表現しづらいから、そこは臨場感あふれる地の文で説明していくけどね!
あとは脳内補完に頼るしかないわ!
さて、分析終了! じゃあ攻撃に備えてボックスの上に…… アーロン「好きなだけ分析してよ(^_-)☆」
言うが早いか、私が行動するよりも先にキンニク人魚のキンニク攻撃が飛んできた。
右から筋肉、左から筋肉……私はそれを左へ右へなんとか避けて……!
いやっ! ムキムキの人魚怖い!
・アーロンのあせが だんがんのように とびちる。
・だんがんだった。
善子「本当にどうなってんの!?」
た、戦うわけにはいかないし……と、とりあえず帰ってもらえないか聞いてみる……?
善子「あ、あのー……わたし何もしないからあっちに……」
アーロン「気に障ったかい?(^_-)☆」
帰ってくれなかった。
しかも弾丸の汗で攻撃してきた。
もうやだ。 ・アーロンはじぶんのキンニクを うっとり ながめている。
善子「きんにく……」
善子「……」
善子「筋肉に対抗するには筋肉……?」
善子「た、ためにし……ね、うん」
・キンニクをピクピクさせた。
・アーロンは2ばいピクピクさせた。
・ふたりともATKがあがった。
善子「なんで!?」
アーロン「キンニク自慢? よ〜し(^_-)☆」
なんか乗り気だこいつ……!
・アーロンは こちらが キンニクを みせるのを まっている。
待ってるし……でも、これが正解っぽい! ・キンニクをもっとピクピクさせた。
・アーロンは3ばいピクピクさせた。
・ふたりともATKがあがった。
アーロン「すごい!でも負けないよ(^_-)☆」
善子「ま、まだまだよ……!」
若干うんざりしながらも頑張る。腕がつりそう……
・キンニクをピクピクさせた。
・アーロンは もっともっと ピクピクさせた…
・アーロンはキンニクをピクピクしすぎて へやのそとへ とびだした!
善子「ええー……」
・YOU WIN!
・0EXPと30ゴールドをかくとく!
善子「えぇぇぇぇ……」
暗転。
善子「なんだったのあいつ……」
あのキンニク人魚は消えていた。もう出会いたくないわ……インパクト強すぎでしょ。 ホッと一息をついたのもつかの間、その先にある広間では、また足場の種によるパズルが待ち受けていた。
けれど、この程度のパズルなんて私にかかればものの数分よ!
ちょっと困らせようとした作りになっていたけれど、それを見抜けないようじゃゲーマーは名乗れない。
もちろんすぐ見抜いたわよ? もちろん。
善子「ってことで、先に進まないと────」
・プルルルル…
善子「!」
唐突に電話が鳴った。
いきなりすぎてめちゃくちゃびっくりしたけど……この番号は見たことがあった。 なんか連投規制食らうので今日はここまで
また明日か明後日に続きやりますね 『もしもし! ルビィだよっ』
そう、さっき別れた時に番号を交換したパビィルスことルビィの番号だ。
善子「ああ……ルビィ、ルビィね」
友人からの着信にホッとしかけた心が、ギチリと軋みをたてた。
先ほどの鎧姿の人物との会話を聞いていたこともあって、少し話しづらかったのだ。
だって、もし、彼女も私を……
パビィルス『もしもし? 聞こえてる?』
善子「あ、ああ……聞こえてるわ」
パビィルス『よかった! あのね、どうして番号がわかったか気になるでしょ?』
善子「え?」
さっき登録…………ああ、そうだわ。私が聞いただけで教えてなかったんだった。
でも、だったらどうして分かったの?
パビィルス『1から順番に番号を押したら繋がったの! にゃははっ!』
まじか。このケータイの番号ってそんな簡単なの……?
驚愕の事実に若干うちひしがれている私をよそに、パビィルスはおどおどした様子で話しはじめた。 パビィルス『えっと……いま、どんな格好してるの……?』
善子「え、いま……?」
パビィルス『いや、その……』
どうにも歯切れが悪い。
もしかして……さっきのやつに……?
パビィルス『友達に頼まれたから、聞いてるんだけどね……』
パビィルス『あなたがおふるのチュチュを身につけてるのを見たって、その友達が言うの』
善子「……」
パビィルス『それ、ホント? あなたは今、おふるのチュチュを身につけてるの?』
間違いない……あの鎧の人物……カナンダインだ。
やっぱりカナンダインはあそこで私を見ていたのだ。
……急に駆られた恐怖の心に、口の中が乾いていく。
奥歯が小さくカチカチと音を立てる。
パビィルスが私を呼ぶ声にも、うまく答えられない。
けど、答えなくちゃ。
カナンダインの思惑は知らないし、パビィルスがどこまでそれを知らされているのかも分からない。
私の返答次第では、自分の首を絞めるかもしれない。
自分が死ぬか生きるかの時に、友達をどこまで信じるかは話が別だ。
別だけど、私は……
善子「…………ええ、身につけてるわ」
……友達に嘘はつかないでしょ。 パビィルス『そっか、おふるのチュチュを身につけてるんだね……』
とても、悲しそうな声だった。
私のことを気にかけてくれているのかしら……?
あそこでも、私を守ろうとしてくれていたし……やっぱり、パビィルスは、あなたは……
パビィルス『オッケー! あとはまかせて!』
パビィルス『じゃ!またね!』
・ツー……
……
善子「おい」
……まあいいけど、あなたっぽいし。
…………怖がってちゃ前に進めないわよね。
友達の声を聞いて、少しだけ元気が出たヨハネなのだった。 ・・・
謎解きをしながら奥へ奥へと進むと、
『ニンゲンとモンスターの戦争史』
壁になぜか読める古代文字でこう書かれていた。
ここには、モンスターとニンゲンの戦いの歴史が刻まれている。
内容を簡単にいうと、こうだ。
ニンゲンはなぜモンスターを襲ったのか?
ニンゲンは圧倒的な強さを持っていて、彼らに恐れるものなどないと思われた。
なぜなら、全モンスターのタマシイを集結させて、ようやく1人のニンゲンのタマシイに匹敵するほどに力の差があるから。
しかしそのニンゲンにも弱点があった。
その弱点とは、皮肉にもそのタマシイの強さが関係している。
ニンゲンのタマシイは、死後も肉体を離れて存在することができるのだ。 そのため、ニンゲンを倒したモンスターはそのタマシイを奪うことができる。
モンスターがニンゲンのタマシイを取り込むと、底知れない力を持つ恐ろしい怪物になるらしい。
────タマシイ。
モンスターのタマシイは、倒されるとその場で消滅する。
その光景は、何度か私がこの目で見た。
私が殺してしまった数匹のモンスターが消滅する様を。
この目で────マリエルが消滅する瞬間も、見た。
このタマシイの強さがニンゲンとモンスターの間にある大きな力の差、ということになる。
だから私はモンスターたちにいっぱい攻撃されても耐えられるし、死なない……痛いけど。
けど、このタマシイを取り込めばモンスターは……
……だから、あのカナンダインは私を追っている、ということなの?
私を殺してそのタマシイを奪って、強くなるために……?
ああ、マリエルも言っていたじゃない……!
タマシイを奪われないで、と。
この地底の王様に、奪われてはいけないと。
そうか……こういうことだったのね。 善子「……ふふ、怖い」
善子「でも怖がってばかりじゃダメ」
善子「私は責任を果たさないと……マリーのことも、倒してしまったモンスターのことも胸に刻んで、この世界から脱出する」
善子「それが……せめてもの償いよね?」
グッと拳に力を込める。
殺さないし殺されない! それが私の決意!
それが叶って、外の世界に戻って……
はじめて私はマリエルに償いを─────
─────ドスッ!!!!
と。
意気込む私をめがけて飛んできた青の一閃────プラズマのような輝きを放つ槍が、眼前の地面に深々と突き刺さった。
これ、は────
『……』
善子「…………!」
い、た。
あいつが、カナンダインが、いま、ここに。 『……!』
鎧が槍を生成する。
その数は3本、空中に浮かばせたままそれを私へ目掛け────射出する。
善子「うわぁぁぁっ!!」
ドス、ドス、と連続して槍が地面に突き刺さる。
私は情けない声を上げながらも、転がるようにしてなんとかそれを回避した。
善子「はあ、はあっ……!」
今のは単なるラッキーだ。あれは確実に私を狙っていた。
当たればHPを削られてしまう……もし、それで全損でもしようものなら……っ!
脳裏に恐ろしい光景が浮かぶ。
その槍に貫かれてタマシイが砕け散る、私の姿を……
善子「っ……!」
殺される恐怖より、死にたくない勇気だ。
善子「ぁ、あぁああ────ッ!!」
私は力が抜けてしまった膝を強く叩き、地面を蹴る。
走る。走る。走る。
鎧は次々と槍を生成しては、私目掛けて投げてくる。
避ける。避ける。避ける。
私はそれを避ける。
飛んで避けて。
止まって避けて。
走って避けて。
時々身体をかすめてHPが削られるが、生きている。まだ走られる。
まだ、これくらいでは死なない。 善子「ぅぁあぁぁぁあっ!!」
ああ、もう────
早く、どこかに行って────
善子「ぃだぁっ!?」
全力で走っていたから、気づかなかった。
通路が、またあのトウモロコシ畑みたいな大きな草に覆われていたのだ。
私はそれに気づかずに思い切り突っ込んだ。
当然足を取られて転んでしまい、がさがさと草の中を転がって、絡みついた長い草のおかげで止まることができた。
善子「や、やばい……」
身動きが取れない。
焦ってるのも相まって草を解けない……!
『……』
がしゃ、がしゃ、と甲冑を鳴らして鎧姿がこちらへと歩いてくる。
草に覆われているせいでその姿は見えないが、音で、わかる。
もうあいつはこの草むらの……私の、目の前に……
……止まった。
『……』
────視線を感じる。
もう、やつは私のすぐ前にいて、見下ろしている。 善子「────、────、────」
ここで、終わりなの……? 私、これで……死んでしまうの?
もう、元の世界に……
『……』
鎧が腕を伸ばす。
私を捕まえるつもりか────
……どうせ私は動けない。
こうなってしまったら、私はもう……どうしようもできない。
最後まで抵抗はする。
けれど、きっと、私は……
そう、覚悟を決めそうになった時に。
鎧が伸ばした腕が、私ではない別の何かを掴んだのだった。
リア「ぅゅぅー……」
『……!?』
善子「!?」
……それは、地底の勇者に憧れるあの少女、リアのほっぺただった。
鎧は掴んだリアの姿を認めると、困惑しながらも、そっとリアを下ろし、その場を立ち去ったのだった。
────結論から言って、私は助かった。 ・・・
リア「ねえ……やばい! 今の見た!?」
リア「カナンダインに……触られちゃった!」
リア「私、もう絶対顔洗わない!」
善子「顔は洗いなさいよ」
草むらを抜けた先の通路に座り込んで、はしゃぐリアの話を聞く私。
めちゃくちゃテンション高く語る彼女を眺めつつ、私は死を覚悟しかけたことを悔やんでいた。
……さっき死なないって誓おうとしたばっかりなのに。
恐怖……には、勝てないわね……情けないけれど。
リア「ねえ、聞いてる?」
善子「あ……うん」
リア「ふふ、あなたツイてなかったわね。もう少し左に立ってたらストライクだったのに」
それ、ゲームセットなのよ…… リア「はあ〜……もう、最高っ! カナンダイン素敵! 私のヒーロー……♡」
善子「……ねえ、リア」
リア「なに?」
今の気持ちを、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。
私は少し、リアに話した。
ちょっと悪いことをしたこと。
そのせいで追われていて、逃げてること。
さっきも死ぬんじゃないかと思ったこと。
怖かったこと。
ここに来るまでに私の中に溜め込まれた弱音を全て、彼女に吐き出していた。
もちろんモンスターを倒した倒してないの内容は省いてね。
リアはいきなり話し始めた私にびっくりしていたけど、ちゃんと聞いてくれていた。
さっきまでのテンションはどこかへ置いて、静かに。
私の話を聞いてくれた。
善子「……私、これからまだまだ先に行かなきゃいけないの」
リア「……うん」 善子「この洞窟も抜けて、ずっとずっと先に進んで……お城まで行かなくちゃいけないんだと思う」
リア「……お城に」
善子「でも……怖いの」
善子「モンスターのタマシイはとても弱いって聞いたわ。だから少し傷つけただけで消滅してしまう」
善子「私だって、私だって……何度も傷つけられたらきっと……」
ニンゲンのタマシイがいくら強いとしても、その耐久力は無限ではない。
ダメージを受けすぎると、いつかは……マリエルのように……
リア「……どんな悪いことしたのよあなた。今の話を聞いたら、相当ヤバそうなんだけど」
善子「……」
リア「でも……ねえ、知ってる?」
善子「……え?」
リア「タマシイってね、ケツイする事で強くなれるんだって」
善子「……ケツイ?」
リア「そう!」
震える声で尋ねる私に、彼女は力強く頷いた。 リア「タマシイは、普段は脆くて弱くてすぐに消えてしまうかもしれない」
リア「けれど、ケツイ……変えられない想いとか、強い気持ちがあれば、タマシイは何倍にも強くなる」
リア「カナンダインだって、私たち地底のモンスターを救うってケツイがあるからあんなに強いんだから」
リア「あなただって、強い気持ちをケツイすればきっと大丈夫よ」
そう、胸を張るリアの姿は────あの札幌で見た、ルビィと2人で舞台に立つ姿そのものだった。
彼女も、街から出たら怒られると言っていた。
けど、あの鎧姿……カナンダインに会いたいからと、ここまで……
それが、ケツイなのか。
強い気持ちが、タマシイを……心を強くする。
……わたしは。
リア「さてと! 私はもうちょっとだけ……カナンダインを見たいから先に行くわ」
ぐっと背伸びをしながら、リアは立ち上がって言った。 リア「だから……次会うまでにその顔、なんとかしといてよ」
振り向きざまにその一言は、余計よ……ばか。
でも……
善子「……ありがとう」
リア「ふん」
リアは鼻を鳴らして通路の先へと走っていった。転ばないでよ。
……ケツイ。
ケツイを、強く。
ケツイを力に……
まだ……それは私にはよくわからない。
けど……リアは、恐怖で埋め尽くされていた私の心に、暖かな風を送り込んでくれた。
なら……やっぱり、責任を果たさなくちゃ。
果たすべき責任が増えてしまった。
なおさら、帰らないと。
……ケツイを力に変えて、ね。 ・・・
気持ちが落ち着いたところで、私は進む。
洞窟を、さらに奥へ。
この先のひらけた空間は、とても明るい場所だった。
ヒカリゴケのような青白く光り輝く植物が一面に生えていて、水面すら白く輝きを放っているようだ。
まるで星が地面から空へと昇るようなその光景はとても幻想的で、弱っていた心を回復してくれる。
Aqoursのみんながいたら喜ぶんだろうな……なんて、考えながら歩いていると。
・プルルルル……
電話だ。 『もしもし! ルビィです!』
善子「ええ、聞こえてるわ」
パビィルス『うん! ……で、そのね』
パビィルス『さっき、あなたがどんな格好をしてるか聞いたでしょ?』
善子「……そうね、聞かれたわね」
やはり、その内容……わかっていたわよ。
パビィルス『えーっと……それを知りたがってた友達はね……?』
パビィルス『……あなたに、「殺人願望」を抱いてるんだ』
パビィルス『でも、あなたはそんなのとっくに知ってたよね』
善子「……ええ」
パビィルス『だから、彼女にはちゃーんと伝えておいたよ』
パビィルス『あなたは、おふるのチュチュを身につけているって!』
……おい。 パビィルス『だって、あんないかにも怪しい質問されたら……普通は着替えるでしょ!』
ちょっと待ってあんたに普通を説かれるの?私??
パビィルス『あなたはとってもお利口さんだから! これであなたは襲われないし、ルビィも嘘はついてないよねっ』
パビィルス『誰も裏切ってないよ!』
パビィルス『みんなに好かれるのって案外簡単だね!』
・ツー……
……
善子「……ったく、ルビィのやつ」
善子「でも……私のために悩んでくれたのね。誰も傷つけないように、誰も裏切らないように」
善子「まあ結局私の裏を突かれたわけだけど……あの子なりの思いやりに免じて許してあげましょう」
善子「……さて、行くわよヨハネ。きっとまたカナンダインは現れる」
善子「その時にビビらないように……殺されないように、ケツイを力に変えるのよ」 ・・・
ニンゲンのタマシイを奪う我々モンスターの力……ニンゲンたちはこれを恐れた。
また進んだ先に、古代文字の戦争史。
────さっきの続きだ。
けど、これだけのようね。
続きはまだ……先?
オニオンさんという謎のモンスターに絡まれながら水辺の通路を進むと、交差点っぽいところにたどり着いた。
それからシャイレーンというモンスターと戦闘になったが、どうやら歌いたかっただけのようだった。
Aqoursの曲を教えてあげると、喜んでいっしょに歌った。
ちょっと心が安らいだ。 ・・・
ニンゲンにはこれに対抗する手段はない。
彼らは我々のタマシイを奪うことはできない。
モンスターが死ぬと、そのタマシイはただちに消滅する。
また、生きたモンスターからタマシイを奪うには途方も無い力が必要となるのだ。
────そして見つけた、戦争史の続き。
ただし、1つだけ例外がある。
『ボスモンスター』と呼ばれる特殊な種族のタマシイである。
ボスモンスターのタマシイは強く、死後もすぐには消えない。
わずかな時間だが、その場に留まり続けるのだ。
これをニンゲンが取り込むことは可能だろう。
しかしこれまでに実例はない。
そして今後もそのようなことは決して起こり得ない。 ……ボスモンスター。
そういえば、マリエルのタマシイも……少しだけその場に止まってから、消滅した……ような。
善子「……マリーもボスモンスターだったのかしら」
そんなことを考えながら、天井から滲み出た水が雨のようになって降る通路を進みながら、道端に座り込んだような姿勢の石像の頭を撫でた。
その先に『1本どうぞ』と書かれた看板と、大量の傘が置かれてあった。
私はそれを一本借りると、さっきの石像のところまで戻る。
善子「ほら、これ貸してもらえるみたいだから借りてきたわ。あなた、濡れて大変ね」
石像に傘をさしてあげた。
善子「タオルがあれば拭いてあげたかったけど……これで少しはマシでしょう?」
じゃあね、とその場を去ろうとして────
〜♪
石像の中から、オルゴールのような音が聞こえ始めた。
その旋律は、とても心地よくて。
けれど、儚げで。
まるで、おとぎ話のBGMのような。
善子「いい曲ね。傘のお礼かしら?」
まるで笠地蔵のお爺さんになったような気分。
善子「またね」
私は石像に笑いかけ、その場を去った。 今日はここまで
サンズと望遠鏡のくだりは話の雰囲気的にカットで……申し訳ないです ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています