梨子「赤いカラスが」
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【梨子1】
『〜♪』
流れる音。私が奏でるピアノの音。
女の子「おかあさん、ピアノー」
ああ、小さな女の子に見られている。
微妙な表情、あんまり上手くない、なんて思われているのかな。
プレッシャーに弱い私は、日常的にこうしてショッピングモールの片隅に置かれたストリートピアノで度胸試しをしている。
有名な場所じゃない、人もほとんど集まらない。
それでもやっぱり、人前で演奏するのは緊張する、だからこそ練習になる。 梨子「ふぅ」
一曲、弾き終わって。
周囲を見回すけど、人の姿はゼロ。
一瞬立ち止まる人はいても、最後まで聴いてくれる人はいない。
普段ならこれでおしまい、だけど。
梨子「よし」
今日は誰か、最後まで演奏を聴いてくれる人が来るまで弾き続けると決めているんだ。
もちろん、順番を待つ人がいたら交代するけど。
どうせこの場所にはそんな人はいないから。 『〜♪』
あ、ちょっと間違えた。
練習だと上手く弾けるのに。
??「……」
あ、新しいお客さんだ。
制服、音ノ木坂? 高校生のお姉さん?
??「……」
じーっと、私のことを見つめている。
無言のまま、立ち尽くして。
さっきの子どもとは違った種類の視線を私に向ける。 梨子「……と」
お姉さんに意識を取られている間に、曲が終わる。
パチパチ
ピアノの余韻が消えると同時に、音が聞こえる。
梨子「あ……」
私を見つめていたお姉さんが、無言で手を叩いている。
拍手、始めてもらえた。 顔が熱くなる。
嬉しい。
ただの社交辞令みたいなものかもしれないけど、それでも。
??「ねえ」
梨子「は、はい」
お姉さんが近づいてくる。
??「あなた、よくここでピアノを弾いているの?」
梨子「は、はい」
??「そう……」
少し、考え込むような表情。
もしかして、順番を待っていたのかな。 梨子「あの、次、弾きますか?」
??「……私は、いいわ」
ピアノ、弾けるわけじゃないのかな。
美人さん、すらりとした綺麗な指。
凄く、演奏する姿が絵になりそうな人なのに。
??「あなた、ピアノが好き?」
梨子「へっ、それはもちろん」
好きじゃなければ、弾いたりしない。
??「そう――私ね、あなたの演奏が好きよ」
梨子「え、あ、ありがとうございます」 私の演奏が好き。
家族、身内以外の人にそんなことを言ってもらえたのは、当然初めて。
??「また、来るわね」
そう言い残して、お姉さんは去っていくお姉さん。
残された私は、少しドキドキ。
その原因は嬉しさなのか、それとも。
梨子「……もう少し、弾いていこうかな」
また会えるのかな、あのお姉さんに。 ※
また来る、その言葉は嘘じゃなくて。
翌日もストリートピアノを弾いていると、お姉さんはやってきてくれた。
私が演奏する、お姉さんは無言でそれを聴いてくれる。
終わると拍手をくれて、私がぎこちなくお辞儀。
言葉少なに、だけど褒めてもらえて、別れて。
会えることを期待して、その翌日も私はピアノの元へ。
そしてお姉さんと会う、同じことを繰り返す。
毎日、毎日。
私はピアノを弾きに行くようになって。
お姉さんも私のピアノを聴きに来てくれた。 梨子「ふぅ」
だけど今日は、掃除当番もあって、少し遅れちゃった。
お姉さん、帰っちゃったかな。
お互いに名前も知らない、毎日のピアノだけが唯一の繋がり。
一日でも途切れてしまうと、それが切れてしまう気がした。
その繋がりを、失くしたくなかった。
梨子「急がないと」
ショッピングセンターの中を、小走りで移動する。 近づいてくるピアノ。
【〜〜〜♪】
梨子「あれ?」
近づくにつれて、音が聴こえてくる。
誰かが、ピアノを弾いてる?
【〜〜〜♪】
綺麗な音。
きちんと調律されているわけでもない、小さなアップライトピアノのはずなのに。
少なくとも私には、絶対に出すことのできない類の音が響いている。 誰。
誰が弾いているの。
私は駆け出す。
その存在を確認するために。
梨子「わぁ……」
ピアノの近くに辿りついたのに。
周りには人垣。
私の演奏をつまらなそうに聴く女の子も、普段素通りする大人も。
立ち止まって、静かに演奏に耳を傾けている。 そして肝心の演奏者は。
梨子「……」
【♪――】
途切れる音。
同時に響く拍手。
演奏者は本物のピアニストのように、優雅に立ち上がり、頭を下げる。 女の子「お姉ちゃん、アンコールはあるの?」
女の子が無邪気に尋ねる。
??「そうね――」
私の方に顔を向ける演奏者。
??「疲れたから、これでおしまいかしら」
女の子「そっか――凄かったよ、お姉ちゃん!」
普段、私には声をかけようともしないのに。
子どもは純粋、だからこそ残酷。 去っていく人たち。
そして。
??「あなた、来ていたのね」
近づいてくる。
梨子「お姉さん」
??「今日は、遅かったのね」
少しだけ、罰悪そう。
梨子「ピアノ、弾けたんですね」
??「一応、それなりにね」
それなり、なんてレベルじゃなかった。 ??「本当は、あなたのピアノを聴くつもりで来たの」
??「だけどほら、なかなか来なかったでしょ」
クルクルと、指で髪を巻きはじめる。
??「それで簡単に弾いていたら、人が集まってきて」
??「リクエストとかされたせいで、止められなくなって……」
いたずらがばれた子どもが言い訳をするように。
ソワソワと、私の顔を見ることもできずにいる。
ああ、なんだろう。
この人、凄く。
梨子「可愛い……」
??「なっ」
梨子「あっ」
しまった、口に出てしまった。 ??「な、なにを馬鹿なことを言ってるの」
梨子「ご、ごめんなさい、つい」
だって、格好良い人って印象しかなかったし。
ピアノも、少し聴いただけなのに、本当に感動したし。
そんな人が、こんな。
こんな、小さな子どもみたいな――じゃなくて。
梨子「えっと、それよりも、演奏」
??「……怒ってる?」
梨子「どうしてですか?」
??「……その、なんというか」
確かにあまりの差にショックもあったけど。
別に怒るようなことはされていないし。 なにより、あんなに凄い演奏。
梨子「どちらかといえば、感動している、みたいな」
??「感動?」
梨子「素敵な演奏に、感動しました」
??「そ、そう?」
また髪をクルクルしだす。
これ、照れ隠しなのかな。
梨子「お姉さん、もしかしてプロの人とか?」
??「別に、そんなんじゃないわよ」
梨子「そうなんですか?」
あんなに素敵な音を奏でるのに。 梨子「それなら、プロを目指している人とか?」
??「そんなわけないでしょ」
あれ、そっけない。
もしかして怒っている? なにか地雷踏んじゃった?
??「……私、もう行くわ」
梨子「帰っちゃうんですか?」
??「ごめんなさい、時間もないし、今日はピアノを聴く気分じゃないの」
さっきは私の演奏を聴きに来てくれたって言ってたのに。
やっぱり怒らせちゃったかな。
どうしよう。 ??「それじゃあ――」
去っていこうとする背中。
駄目。
予感がする。
ここで別れてしまったら。
繋がりが、この人と私を繋いでいた糸が、切れてしまう。
そんな予感が。
梨子「ま、待ってください!」
思わず、腕を掴んでしまう。
??「ヴぇ」
驚いたのか、変な声を出して振り向くお姉さん。 梨子「あ、あの」
どうしよう。
??「え、ええ」
勢いで動いたから、何も考えていない。
こういうとき。
なにを、なにを――
梨子「わ、私」
??「私?」
梨子「私の名前、桜内梨子、梨子です!」
??「そ、そうなの」
ちょっと引いてる?
ああもう、だけど私は引けない、女は度胸! 梨子「お姉さんの名前は?」
真姫「えっと、西木野真姫」
梨子「まきさん……」
にしきのまきさん。
お姉さんの名前。
髪を巻き巻きしているからかな、なんて。
梨子「まきさん、よかったらライン交換しませんか」
真姫「い、いいけど」
まきさんがたどだどしくスマホを取り出す。
よし、勢いで押せている。
この人は押しに弱いみたい。
ささっと交換を済ませて。
無理やりにでも繋がりを残して。 梨子「ありがとうございます」
交換完了。
真姫「えっと、ええ」
あれ、また髪の毛クルクル。
案外、喜んでくれている?
梨子「その、ピアノのこととか聞きたいんで、連絡してもいいですか」
真姫「少しぐらいなら、いいわよ」
クルクルクルクル。
やっぱりこの人、可愛い。 梨子「それじゃあ、私も帰ります」
真姫「弾いていかないの?」
梨子「今度、まきさんが聴いてくれている時にします」
一人で演奏しても意味はない。
最近の目的は度胸試しというより、まきさんに聴いてもらうことだったから。
真姫「……私、もう少しだけ時間があるわよ」
梨子「はい?」
真姫「早く、弾いてみせてよ」
表情を隠したいのか、顔を背けて。
だけど耳まで真っ赤だから、照れているのがまるわかり。 あはは、なんだろう。
本当に分かりやすいな。
真姫「な、なに笑っているのよ」
梨子「別に、なんでもないです」
真姫「い、いいからさっさと弾きなさいよ」
梨子「ふふっ、それじゃあ少しだけ」
いつものように、ピアノの前に座る。
さて、なにを弾こう。
まきさんが好きなのは、どんな曲なのか。
想像しながら、弾いてみようか。 書き忘れましたが基本アニメ時空です
年齢的には梨子(中一)、真姫(高二)で考えていただければ いいですねぇ…
この2人の過去の繋がりは何度も妄想してたからこれは本当に最高 【真姫1】
―音楽室―
真姫「ラララー、ラララ――」
ふむ。
いいわね、なかなか。
今度の新曲、自然と良いメロディが浮かんでくる。調子がいいのかしら。
凛「ご機嫌だね、真姫ちゃん」
真姫「あら、分かる?」
凛「なんか『絶好調!』みたいな感じがするにゃ」 凛にばれるなんて駄目ね、私も。
先生に手伝いを頼まれた関係で花陽はいない。
今日は練習が休みだから、少し作曲の作業を進めようと思ったけど。
凛がついてきて、こうやっておしゃべりをしながらの作業。
凛「でさでさ、なにがあったの? 恋人とかできた?」
真姫「違うわよ」
凛「えー、恋が素直じゃないあの子を変えた! とかじゃないんだ」
真姫「なによそれ」
私はそんな、頭お花畑みたいなタイプじゃない。
真姫「ただ、面白い子と友達になれただけよ」 凛「へえ、どんな子なの」
真姫「まだ中学生だけど、ピアノ好きのいい子よ」
凛「ピアノ好きってだけで真姫ちゃんとは気が合いそうにゃ」
真姫「あなただって、気が合う――わけじゃないかも?」
凛「えー、酷いにゃー!」
じゃれついてくる凛。
真姫「もう、なによ」
凛「真姫ちゃんは凛のだからその子には渡さないよーって」
真姫「はいはい」 ピアノを弾くのは楽しい。
友達と過ごすのも楽しい。
だけど。
真姫「さて、私は帰ろうかしら」
凛「まだ下校時刻になってないのに?」
真姫「帰って勉強しないといけないから」
凛「えー、この前の定期試験もほぼ満点だったじゃん」
真姫「この学校の試験で満点でも、受験はそうもいかないでしょ」
親が私に求めているのは、トップクラスの医学部合格。
その為には必死に勉強する必要がある。 凛「勉強大変なんだね」
真姫「ええ」
二年生も半分が過ぎた。
スクールアイドル活動もあるけど、今の私は勉強一筋。
本当はこうやって作曲をする時間だって許されないぐらい。
スクールアイドルは諦めて、作曲に専念した方がいいかもしれないような状態。
それだけはあり得ないけどね。
真姫「じゃあね、凛。花陽によろしく」
凛「うん、ばいばーい」
だから、遊びに行くのなんて論外のはずなんだけど。 『真姫さん、今日はこっちに来ますか?』
『今日は弾きに行く予定です』
スマホの画面に表示された文字。
真姫「少しだけ、行こうかしら」
ママには外で勉強してから帰ると連絡しておいて。
毎日のように、あの子の元に通う私。
ストレスやプレッシャーで潰れてしまいそうになった時。
ストリートピアノがあると聞いて、気分転換にと行った商業施設。
そこで出会った、四歳年下の中学生、梨子。 綺麗な演奏をする子だった。
技術的には未熟。
ミスをするとすぐに顔に出るし、上手く弾けると笑顔になる。
だけど、聴き手を穏やかな気分にさせてくれる、そんな演奏で。
引き込まれた私は、自分の目的も忘れて聴き入ってしまったぐらい。
その後、毎日のように自然とその場所に足が向くようになり。
梨子も毎日、その場所でピアノを弾いていて。
時々、私が弾くこともあった。
連絡先を交換した――というか名前を知った時もそうだったっけ。
この前は連弾なんかして、いつもより人が集まってくるから梨子が恥ずかしがって大変だったり。 真姫「ふふっ」
学校へ行けばみんなと会える。
放課後も、梨子と楽しく過ごすことができる。
大変な日々だけど、楽しく過ごせていて。
このまま、変わらなければいい。
ずっと、この時間の中に居られれば。
ああ。
去年も、そんなことを考えたっけ。
変わらないな、私も。 梨子レクイエムだったっけ? 楽しみにしてだから嬉しいぞ ◆
葬儀場の外、誰もいない駐車場。
梨子「ふぅ……」
ゆっくりと、タバコをふかして。
その煙が空へ溶けていくのを眺める。
人が死ぬのは、大切な人が死ぬのは大嫌いだ。 善子「リリー」
梨子「……善子ちゃん」
善子「駄目よ、抜け出したりしたら」
梨子「……嫌いなのよ、あの雰囲気は」
数年前、果南さんが死んだとき。
あの薄暗い雰囲気に何度も飲み込まれそうになった。
今回ダイヤさんには申し訳ないと思いながら、どうしても耐えられなくて。
規模の小さなお葬式。
高校時代の部活仲間が亡くなったのは三度目。
ううん、回数で言うなら、四度目かしら。生き返った子がいるものね。
それにしても、まだギリギリ二十代なのに。病死が二人なんて早すぎるわよね。
二人とも、ボロボロだった。
ルビィちゃんが戻ってきた後、身体が壊れていた果南さんはあっさり逝った。
それに比べれば、ダイヤさんはずいぶんと長生きをした方、だと思う。 梨子「ねえ、善子ちゃん。このままどこか行っちゃおうよ」
善子「……私は、ルビィに付いていてあげないと」
梨子「曜ちゃんがいるよ」
善子「駄目よ、あの人はいま」
容易に想像できる。
あの子が泣いている姿。
きっと千歌ちゃんと一緒に、わんわん泣いている。
あの子たちは大好きだったもんね、Aqoursの仲間たちが。
梨子「善子ちゃんは、泣かないの?」
善子「泣いたわよ、散々。ルビィと一緒に」
梨子「そう……」
泣いてあげた、と考えるのはひねくれ過ぎかしら。
色々あったものね、善子ちゃんとお姉ちゃんは。 善子「リリーは、泣いていないの?」
梨子「ええ」
今回だけじゃない。
果南さんが死んだときも、一度も。
善子「悲しくないの?」
梨子「……かもしれない」
なんて。
悲しくないわけがない。
それでも、あの日。
私は一生分の涙を、悲しみを、出し尽くしてしまったから。 梨子「ごめん、善子ちゃん。私は帰るから、適当に誤魔化しておいてくれる?」
善子「……分かった」
梨子「またちゃんと、手を合わせに黒澤家へは行くから」
善子「うん」
いい子。
私の気持ちを理解してくれる。
流石は今の私が好きな女の子。
だけど。
誰かを好きになることはあっても。
誰かと寝ることはあっても。
私を泣かせることができるのは、あの人だけ。
私が純粋な愛を示せるのはあの人。
真姫ちゃんだけなの。 ◆
【梨子2】
梨子「うぅ」タッタッ
いつものショッピングモールへ向けて、走る、走る。
時計を見ると約束の時間はとっくに過ぎている。
梨子「私の馬鹿馬鹿」
今日は休日ということで、思い切って真姫ちゃんを誘ってお出かけ、の予定だったんだけど。
緊張してなかなか寝付けず、見事に寝坊して遅刻確定。
連絡したら、カフェで待っているからゆっくり来ていいと言われたけど。
梨子「急がないと……」
もう、私のばかぁ。 そうしてショッピングモールには辿りついたけど。
梨子「え、えっと」
目的のカフェ、どこだっけ。
いつもピアノを弾きに来るだけで、全然知らないんだもん。
案内図、えっとこっち、じゃなくて。
あ、入り口のすぐ横!
店内に入って周囲を見回す。
お店の隅の方、見覚えのある赤い髪。
梨子「ま、真姫ちゃん!」
人混みの中でも、彼女はいい意味で目立つからかな。
比較的簡単に見つけ出せた。 真姫「梨子」
息を切らした私の姿を、心配そうに見つめる真姫ちゃん。
梨子「ご、ごめんなさい、遅くなって」
真姫「もう、急がなくてもよかったのに」
梨子「でも、あんまり遅れると――ん?」
机の上、広がっているのは、五線譜?
梨子「これは?」
真姫「ああ、作曲よ」
梨子「真姫ちゃん、曲作れるの?」
真姫「そりゃそうでしょ。ピアノが弾けるんだから」 梨子「……私、たぶん作れないよ」
形作ることはできても、ちゃんとした曲にはならないだろうし……。
真姫「あらそうなの?」
梨子「作ったことないから、分からないけど……」
真姫「それなら今度教えてあげるわよ。コツとか簡単にだけど」
梨子「いいの?」
真姫「ええ、時間がある時にだけどね」
サラッというけど、やっぱり真姫ちゃんは凄いな。 梨子「でも真姫ちゃん、どうして作曲を?」
梨子「趣味? それとも作曲の仕事をしているとか?」
プロではないって、言っていたとは思うけど。
真姫「まあ、色々」
梨子「色々?」
真姫「……とりあえず、座ったら?」
梨子「う、うん」
確かにいつまでも立っているのは変だもんね。 真姫「……ねえ、笑わないって約束できる?」
梨子「笑う?」
真姫「私が作曲している理由、聞いても」
梨子「わ、笑わないよ」
変わった理由なのかな?
でも私が、真姫ちゃんのことを嘲笑するなんてあり得ないよね。
真姫「あのね」
梨子「うん」 真姫「私、アイドルなのよ」
梨子「アイドル?」
真姫「スクールアイドルをやっているの」
真姫「それで、自分たちのグループで歌うための曲を作っているのよ」
梨子「真姫ちゃんが、アイドル……」
まきちゃん?(みんなー、今日は来てくれてありがと〜)
梨子「ふふっ」クスッ
真姫「あ、笑ったわね!」
梨子「ご、ごめんなさい」
うう、しまった。
あまりにも普段のイメージとかけ離れていたから、つい笑っちゃった。 真姫「もう、分かっているわよ、ガラじゃないことぐらい」
梨子「そ、そんなことはないと思うよ」
実際はたぶん私が想像したのとは違うタイプのアイドルだろうし。
真姫「私はあなたみたいに可愛いタイプじゃないもの」
梨子「わ、私?」
真姫「あなたならアイドルっぽいわよね、私と違って」
梨子「そ、そんなことないよ」
地味な私がアイドルなんてあり得ない。
真姫ちゃんの容姿なら、十分すぎるんだろうけど……。 梨子「だけど凄いね、作曲まで自分でするなんて」
真姫「まあ、そういう決まりがあるからね」
梨子「作曲できる人、世の中にはたくさんいるんだ……」
私とそんなに変わらない年齢の人もいるはずなのに。
ちょっと自信喪失。
真姫「まあ、普通の人は音楽教師や専門家に手伝ってもらっているらしいから」
梨子「真姫ちゃんは違うの?」
真姫「ええ、作詞は別に担当がいるけど、作曲は全部自分でこなしているわ」
梨子「はぁ……」
サラッと言い放つから格好いいなぁ。 梨子「でもアイドルかぁ」
梨子「地味な私には、想像もできない世界だよ、やっぱり」
真姫「そう? スクールアイドルの素質はありそうだけど」
梨子「無理だよ、私なんて全然、地味だし」
真姫「別に本職のアイドルじゃないんだから、資格なんて必要ないのよ」
真姫「歌が上手い、ピアノも弾けて作曲も勉強すればできる」
真姫「それに可愛いじゃない、さっきも言ったけど」
梨子「そ、そうかな」
敵わないなぁ、真姫ちゃんには。 >>40
昨日の投稿分までが以前落としてしまった際に書いていた部分です。
>>41
それです
またよろしくお願いします 梨子「ちなみに、真姫ちゃんが書いた曲、聴けたりする?」
真姫「興味あるの?」
梨子「……少し」
真姫「少しだけ?」
梨子「……かなり、かな?」
だって、あんまり想像できないもん。
真姫ちゃんのアイドル曲。 真姫「なら、少しだけよ」
差し出される音楽プレーヤーとイヤホン。
梨子「使っていいの?」
真姫「ええ。これはアイドル部用だから、適当に再生すれば聴けるわよ」
押される再生ボタン。
【〜♪】
そこから流れる音。
どこかで、聞き覚えのある……。 梨子「これ、もしかして、みゅーず?」
真姫「あら、知っているの?」
梨子「ううん」
梨子「でも、ニューヨークでライブしたって、一度だけテレビで観たことがあって」
真姫「ああ、なるほどね」
確か日本一のスクールアイドルだっけ。
梨子「有名人だったんだ、真姫ちゃん」
真姫「別に私はそこまでじゃないわよ。μ’s自体、もう解散しているし」 梨子「本当に何でもできるんだね、真姫ちゃんは」
真姫「ま、まあ、このぐらい楽勝よ」
梨子「でも真姫ちゃんは、どうしてアイドルを始めようと思ったの?」
梨子「音楽をするにしても、他に選択肢もあったよね」
真姫「ある人がね、見つけ出してくれたの」
真姫「くすぶっていた私を明るい世界へ引っ張り上げてくれた」
真姫「その人が目指していたのがスクールアイドルだった、それだけ」
梨子「ある人って?」
真姫「説明すると長くなるか、今度ね」
梨子「えー」 真姫「とにかく、私は部活のおかげで楽しい高校生活を送れた」
真姫「おすすめよ、スクールアイドル」
梨子「でも私、アイドルのことほとんど知らないよ」
真姫「でしょうね」
真姫「だけど私もね、元々はアイドルに縁がない人間だったの」
真姫「それでも先輩に誘われて、スクールアイドル部に入って」
真姫「毎日が楽しくて、後悔なんて一度もしたことがないわ」
本当に楽しそうに、アイドルについて語る。 ああ、なんだろう。
梨子「真姫ちゃんは、本当にスクールアイドルが好きなんだね」
真姫「別に、普通よ」
梨子「そんなことないよ」
梨子「だってアイドルの話をしている時、ピアノを弾いているときと同じぐらい、笑顔だもん」
真姫「えっ」
梨子「真姫ちゃんの笑顔、演奏中しか見たことがなかったのに」
真姫「私、そんなに不愛想かしら」
梨子「え、えっと」
真姫「ふっ、ちょっとからかっただけよ」
梨子「ま、真姫ちゃん!」
真姫「ごめんね、梨子をからかうと可愛いから」 真姫「梨子は、私が演奏中以外笑わないって言ったけどね」
真姫「これでも表情を崩しているのよ、あなたの前では、いつも」
梨子「そうなの?」
真姫「私ね、隠し事ができないタイプだから、あなたみたいな好きな相手の前ではね」
梨子「……本当に?」
真姫「ええ、ゆるゆるよ、ゆるゆる」
そっちじゃなくて。
好きな相手って。 変な意味じゃないって、理解はしているけど。
なんだろう、ドキドキする。
ピアノを聴いている時とは違う種類の、ドキドキ。
素直になれない人じゃなかったっけ。
私の前だから違う? それとも年下だから?
真姫「どうしたの?」
梨子「な、なんでも」
真姫「変な子……」
ズルい、真姫ちゃんはズルい。
どうしてこう、私の心を的確に突いてくるんだろう。 真姫「さて、そろそろ出ましょうか」
真姫「今日はどこへ行く予定なの?」
梨子「え、えっとね」
もう、せっかく遊びに誘えたのに。
今日は普通に過ごせる気がしない。
真姫ちゃんの顔を直視できない。
きっとこの高鳴りは収まらないや。
真姫ちゃんが横にいる限り、永遠に。 アカとか桜内梨子は共産主義者かよ
ますますクソだな桜内梨子は レクイエムの更新ずっと待ってたから帰ってきてくれてありがたい
楽しみにしてる これルビまるが心中する話の続きだと思ってたんだけどどうだったのかな ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています