花丸「ねぇ、運命ってあると思う?」
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〜あらすじ〜
善子の態度の変化に違和感を覚えた花丸は
ダイヤの協力で善子が花丸を殺さないために一週間を繰り返していることを聞き出すことに成功する
しかし、運命から逃れるための情報も手立ても用意できないまま時間だけが過ぎていく
そんな中、切っ掛けを作るべきだと考えたダイヤは
その命を代償として花丸を生存させることに成功する
ダイヤの賭けにより生き残ることに成功した花丸は
ダイヤを死なせない正しい終わり方を迎えるために善子と協力し
人形呪術が怪しいと考え【人形蔵】で【人形による世界】が形成されている可能性を見つける
そしてその情報と、果南との合言葉を胸に二人は次の世界(一週間前)に向かう
戻った花丸たちは人形蔵のことを確認し、
花丸自身も知らない【誰か】と幼少期に一緒に人形蔵にいたという情報を入手する
調査による遅刻の通学路でルビィと出会ったことをきっかけに
果南達三年生そしてルビィの協力を得て、
一緒に居た誰かがルビィであること、今生きている世界が【ルビィの世界】であることを知る
そして、【ルビィの世界】は花丸を救うために作られ、
戻るには人形を依り代としたルビィを殺す必要があるとルビィ自身から言われた善子は
葛藤の末に【ルビィの世界】を破壊したのだった ――――――――
――――――
―――
善子(赤く、紅く塗りつぶされた世界)
善子(滴の落ちる水たまりのような音が聞こえる)
善子(座り込む私の前に、横たわるルビィは動かない)
善子(私が、殺した)
善子(そうしないといけないから)
善子(そうしなければ花丸を救えないから)
善子(だから……殺したんだ)
善子(後戻りはできない)
善子(なにがあっても、なにがなんでも)
善子(私は――)
ルビィ「ただの、人殺しだよ」
善子「!?」 ――――
――――――
――――――――
善子「!?」
花丸「ずらっ!?」
善子「っ………」
善子「ぁ……」
善子(机の上から転がり落ちたシャーペン)
善子(ただ事じゃない鈍痛が染みる右膝)
善子(学校の自分の席にいるのはすぐに分かった)
善子「なんで」
善子「なんで……家じゃない……」
善子「っ」
善子(横目に見えた黒板の日直部分)
善子(鞄の中から携帯を引っ張り出して、適当なボタンを押す)
善子(ロック画面に表示される時間は放課後になって間もなくて)
善子(月曜日ではなく、水曜日を表示している) 花丸「いたた……」
善子「はな、まる……?」
花丸「オラがそれ以外の誰かに見えるずら?」
花丸「急に起きるからびっくりしたずら」
善子「ねぇ、今は何曜日?」
花丸「水曜日。寝ぼけてるずら?」
善子「……いや、確認したくて」
善子(黒板だけなら誤字もある)
善子(明日の曜日をかいていただけの可能性もある)
善子(それでも……月曜日の朝じゃない)
善子(一週間のやり直しは何曜日にやっても月曜日に戻ってきていた)
善子(でも、今回は水曜日の夕方)
善子(時間も曜日もめちゃくちゃ)
善子(ルビィの世界を壊すのと、一週間のやり直しは全部が全部同じわけじゃない……)
善子「時間がない」
花丸「部室行くずら? もう遅刻だけど」
善子「……そう、ね」
善子(確かめないといけないこともある) 花丸「遅くなっちゃったずらっ」
千歌「マルちゃん、ヨハネちゃん遅いよ〜っ」
善子「えっ」
花丸「ヨハネちゃんが眠りこけてたせいずら」
果南「大丈夫? 無理そうなら今日は休んでてもいいよ?」
善子「わた……えっ?」
善子(ヨハネ、ちゃん?)
善子「ねぇ、私のこと今なんて……」
曜「んー? ヨハネってやつ? ヨハネ……じゃなかった。善子ちゃんがそう呼んでって言ったんじゃなかったっけ」
千歌「もしかして本当はよっちゃんの方が良かった? なんだー言ってくれればよっちゃんって呼ぶのに〜」
花丸「単に寝ぼけてるだけずら。何曜日とか聞いてきたり、ちょっと寝坊助さんなんだ」
善子(みんながヨハネを受け入れてるとか……やっぱり違う)
善子(私のいた世界は私と花丸が幼馴染だった)
善子(でも、この世界では私はそうじゃない……そのレベルの違いがある) _人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> バーリバーリバリィ〜〜〜〜〜!! <
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 ̄了イ ! { } { rく⌒ヽ
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 ̄人 \ / `广¨´ _人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> バーリバーリバリィ〜〜〜〜〜!! <
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> バーリバーリバリィ〜〜〜〜〜!! <
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 ̄了イ ! { } { rく⌒ヽ
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 ̄人 \ / `广¨´ 善子(……寝ぼけてるでどこまで通用するか)
善子(鞠莉達もまだいないけど)
善子(私の考えが正しければ……この世界から消えたのは)
善子「ねぇ、ルビィは? 黒澤ルビィはどこ?」
千歌「ルビィ……?」
花丸「ダイヤちゃんの妹?」
果南「妹はいないし、親戚とかじゃない? いやーでも聞いたことないけど 」
善子「……知らないのね」
曜「ヨハネちゃんは知ってるの?」
善子「夢で、聞いたんだけど……」
ダイヤ「あら、夢に出てきた私は居眠りを叱ったりしなかったのね」
善子「!」
ダイヤ「そんな怯えなくても今更叱ったりしませんわ」
ダイヤ「生徒会の方で遅くなったと思ったのだけど、問題なかったかしら」
鞠莉「なんだか不思議な空気ね」
果南「寝ぼけてるんだってさ」
善子(私は呪術を壊しただけ……ただそれだけ)
善子(呪術の発動自体を阻止していない以上、その代償としてのルビィの命は奪われたままだ) 花丸「ダイヤちゃんはルビィって知ってる?」
ダイヤ「ルビィ? 宝石ではなく?」
曜「黒澤ルビィだってヨハネちゃんは言ってたけど」
ダイヤ「黒澤ルビィ?」
善子(ダイヤは考えて、考える)
善子(夢の話だと分かっているだろうけど)
善子(なぜか本気に考えてくれて……眉をしかめた)
ダイヤ「いえ、記憶にないわ」
ダイヤ「記憶にある親類縁者の中にそのようなお名前の人はいません」
善子「そりゃそうでしょ」
善子「夢の中の話だし」
善子(ルビィの話の通りなら)
善子(この世界から消えているはずのルビィの名前を出せば何か反応があると思ったけど)
善子(訳知りな感じの反応はなかった)
善子(もし、Aqoursの外のやつだったら……厄介だわ) .: + ...:. ..:...:.. :. +
. ..: .. . + .. : .. .
.. + ..:. .. ..
+ :. . +..
. : .. + .. .
.. :.. __ ..
. + |: |
|: |
.(二二X二二O
|: | ..:+ .. ありがとう>>1・・・
∧∧ |: | 君のことは忘れないよ・・・
/⌒ヽ),_|; |,_,,
_,_,,_,〜(,, );;;;:;:;;;;:::ヽ,、
" "" """""""",, ""/;
"" ,,, """ ""/:;;
"" ,,""""" /;;;::;; 鞠莉「ん〜」
善子「なに?」
鞠莉「……少し、疲れているように見えるわ」
善子「っ」
梨子「えっ!?」
善子「あっ」
善子(奥の奥まで覗くような鞠莉の目から逃れようと後退りした先で)
善子(ちょうど後ろに来ていた梨子の足を踏んで……そのまま仰向けに押し倒す)
梨子「いった……」
果南「大丈夫?」
善子「平気……ごめん、梨子」
梨子「ううん、私こそ近すぎたから……って、梨子?」
善子「?」
曜「やっぱり今日は休んだほうが良いんじゃない?」 善子(授業中もほぼ寝たきりだったらしい私のことが花丸の告げ口でバレて)
善子(無理やり帰らされることになった)
善子(一人では心配だからとバスの中、果南が隣の席に座る)
果南「まさか授業まるまる寝てたとは」
善子(私だって意味不明よ、そんなの)
果南「病気とかじゃないんだよね?」
善子「仮にそうだったとして、素直に言えると思う?」
果南「言ってくれないと困るよ」
善子「………」
善子(みんな、私の知ってるみんなじゃない)
善子(どんな関係だったのか記憶になさすぎる)
善子(リリーとか私呼んだ覚えないし、マリーとか知らない)
善子(そもそもヨハネを受け入れてるって何、意味わかんない……)
善子「ねぇ、果南」
果南「どうかした?」
善子「三人で星は見れた?」
果南「えっと……何の話?」 善子「……そっか」
果南「?」
果南「あれ、もしかして私達何か約束してた?」
善子「ううん……」
善子(前回の世界でのキーワードはダメか)
善子(ルビィがいないなら人形蔵での件もない)
善子(一歩進んで振り出し……なんて)
善子(まるで同じ主人公なのにゲームの続編で初期状態になってるような感じね)
善子「……夢のさ、話なんだけど」
善子「もし、私が本来の津島善子じゃないって言ったら信じる?」
果南「どこからどう見てもヨハネちゃんだけど……」
果南「そうだね。言動は普段より大人っぽいと言うか、大人しいね」
果南「その点で言えばヨハネちゃんは本来のヨハネちゃんじゃないかな」 果南「夢の中ではダイヤの代わりにルビィって子がいたの?」
善子「ううん、二人ともいた」
善子「夢の中では花丸が必ず死ぬ。事故でも事件でもなんでも……とにかく死ぬのよ」
善子「ダイヤは、その花丸を庇って死んだ」
善子「ルビィは、花丸の為に自分の命を使って世界を変えた」
果南「……嫌な夢だね」
善子「ほんと、本当に」
善子「でさ、もしもこの世界も夢だったらどうする?」
善子「これは明晰夢。夢だと分かり切った夢」
善子「分かっているから目を覚まさない」
果南「……鵜呑みには出来ないけど、もし仮にそうだとして」
果南「どうやったら目を覚ませるの?」
善子「やるべきことをやるの」
善子「この世界でも花丸が死ぬ」
善子「それを何としてでも阻止する」
果南「マルちゃんが死ぬ……冗談でも笑えないよ?」
善子「冗談だったら言わないわよ」 果南「突拍子がないし不謹慎」
果南「でもだからこそ、冗談じゃないか」
果南「普段のヨハネちゃんらしくもないし……」
善子「信じられないなら信じなくてもいい」
善子「でも、力を貸してほしいのよ」
果南「マルちゃんが死ぬって、ヨハネちゃんは本気で?」
善子「本気で思ってる」
果南「………」
善子(果南は考え込む)
善子(その時間を与えようとしてか、信号でバスが停まる)
果南「正直、信じたくない話なんだけど」
果南「ヨハネちゃんが本気で言ってるなら……手を貸すべきだね」
善子「ふざけたこと言わないようにって、怒らないわけ?」
果南「怒ってどうにかなるように見えないんだよね……今のヨハネちゃんは」
果南「冗談を言っているようには見えないし、普段のヨハネちゃんらしくない」 善子「普段の私らしくないって何度も言われるとちょっと傷つくんだけど」
善子(まぁ……事実よね)
善子(みんなが私の知らないみんななんじゃない)
善子(私がみんなの知らない私なのよ)
善子(ここは、そういう世界)
善子「信じろとは言わない。でも、手伝ってくれない?」
果南「マルちゃんの傍に居ればいいの?」
善子「それと、私みたいにらしくない人を探してほしいのよ」
善子「私のほかに、この世界が夢だって分かってるやつがいるはずなの」
果南「範囲が広すぎない?」
善子「そのほか大勢は私が見るから、果南はAqoursのみんなをお願い」
果南「なんか、みんなを疑うみたいであれだけど……私は平気なの?」
善子「平気よ。多分ね」
善子(みんなのルビィへの反応を信じるなら、Aqoursの梨子以外は違う)
善子(その点で言えば果南も平気とは言い切れない)
善子(でも、今は味方が欲しい)
善子(一人で悩んでも無駄だから)
善子(それに、巻き込めばぼろを出してくれるかもしれないし)
善子(なんて……言えないわね) 善子(せっかくならと家に誘ったけれど)
善子(花丸のこともあってか、果南は学校に戻ると言って帰って一人)
善子(私の家は何も変わってない)
善子(部屋の中も、変らず堕天使ヨハネの存在するごちゃごちゃ感)
善子(……ルビィの電話番号)
善子(グループは8人だし、ルビィの連絡先は丸々消失してる)
善子「電話は……」
善子(覚えてるルビィの携帯番号にかけても使われていないと言う機械的な声が流れてくる)
善子(写真にもいない)
善子(本当に、完全に、黒澤ルビィの存在が消えた世界)
善子「ルビィが呪術を使ったという起点自体は消滅せずに残っている」
善子「ルビィが向こうの世界で私の繰り返しを感知していたように感知出来ているなら」
善子「この世界を作った誰かもルビィの消失を感知してるはず」
善子(いや、黒澤ルビィが消えたってはっきりとは感知していないかもしれない)
善子(ルビィだって、何かがあった。くらいにしか感じてなかったみたいだし) 善子(正直、Aqoursの外に関係者がいるとは思えない)
善子(でも、誰が関係者なのかは分からない)
善子(今のところ、一番怪しい感じがしたのは鞠莉だけど)
善子(それはあくまで私が知らない鞠莉だから)
善子(だからこそ、果南に見極めて貰わないといけない)
善子(ダイヤにも手を貸して貰った方がいい?)
善子(花丸は?)
善子(自分が死ぬかもしれないと言う話をきかされて、今度も信じてくれるの?)
善子(死ぬと言う話を伏せれば……)
善子「なんとか、なんとか近づきたい」
善子(でも、私はこの世界の津島善子を知らない)
善子(その状態では……私もみんなも普通に見えない)
善子(余計にややこしくなるだけ) 善子(ふと……携帯が震える)
善子(相手の名前は黒澤ダイヤ)
善子(夢に見たのがダイヤたちだって話になっているせいね……)
善子(話せることなんて、無いのに)
善子「……もしもし」
ダイヤ『あぁヨハネちゃん……と、呼んでも?』
善子「別に好きでいいわよ。それで?」
ダイヤ『夢に見たわたくし達のことです』
ダイヤ『黒澤ルビィという名前について……家に確認しました』
善子「なんで、そんなこと」
ダイヤ『気になったからです』
ダイヤ『昨日のヨハネちゃんはいつもの明るい方でしたが』
ダイヤ『今日はまるで人が変わったよう』
ダイヤ『ただ事ではないような予感がしたので、確認くらいはと』
ダイヤ『その結果、もしも妹が出ていたら……と言われました』
ダイヤ『ヨハネ……いえ、善子さん、教えてください』
ダイヤ『あなたは、何者ですか?』 ダイヤ『偶然ですか?』
善子「偶然って言えば、信じてくれるの?」
ダイヤ『出来過ぎた偶然ではありますが、絶対にありえないとは言えませんので』
善子「……そう」
善子(気になったから親に聞くって何それ)
善子(親も親でなんで素直に答えてるのよ……)
善子(でも……ちょうどいい)
善子「私、実は別の世界から来たのよ」
善子「ダイヤは妹がいて、それがルビィって名前だった」
善子「私と同年代……というか、同じクラス」
善子「Aqoursにも入ってた」
ダイヤ『……別の世界ですか』
善子「鼻で笑ってくれてもいいわよ」
善子「信じるか信じないかはダイヤ次第」
善子「でも、下らないこと気にしてくれるダイヤなら……聞いてくれると思って」 善子「ダイヤはどう思う?」
善子「私、頭おかしい?」
ダイヤ『何とも言えません』
ダイヤ『突然、別世界から来たという話を聞かされても』
ダイヤ『それを証明する方法がない以上どうとでもいえます』
ダイヤ『ただ、善子さんは黒澤ルビィという名前を出すことが出来た』
ダイヤ『その違和感のみに焦点を当てれば……何かがあるのかもしれないと』
ダイヤ『ほんの少し、思ってもいいのかもしれません』
善子(そこで信じるじゃなく)
善子(少しだけって言うのが、ほんと)
ダイヤ『では仮に、貴女が別の世界の善子さんだとして』
ダイヤ『本来のヨハネちゃんはどこにいるのですか?』
善子「普通に考えれば、私と入れ替わってるか、私の中にいるか」
善子「悪いけどそこに自信は持てない」
善子「でも一つ絶対に言えるのは、目的を達成しない限り私はいなくならないと言うことよ」
善子(なんか、私が悪い寄生虫みたいだけど……仕方がない) ダイヤ『なるほど……つまり、貴女は貴女の意志ではないのね』
ダイヤ『なりたくて、ヨハネちゃんの居場所に収まったわけではないのね?』
善子(……そう来るか)
ダイヤ『その目的を達成させてあげれば』
ダイヤ『貴女は元に戻れるし、ヨハネちゃんも帰ってくる』
ダイヤ『で、あれば』
ダイヤ『善子さんもヨハネちゃんも』
ダイヤ『けして、悪事に加担することがないことを信じて、手を貸します』
善子「……眉唾な話なのに」
ダイヤ『聊か、不審な点も多いですが』
ダイヤ『それは津島善子というわたくしの友人のためならば、目を瞑りましょう』
善子(津島善子……)
善子(私と、この世界に生きていた本来の私)
善子(どっちに対しても……)
ダイヤ『善子さん』
善子「嫌じゃなければヨハネって呼んでくれていいわ」
善子「私も、一応それを名乗っていたから」
ダイヤ『貴女がそれでいいのでしたらそうしましょう。ヨハネちゃん』
ダイヤ『その目的、わたくしに教えてください』 善子(ダイヤは終始何も言わずに話を聞いてくれる)
善子(時々、なるほど……とか、何かを書いているような音は聞こえていたから)
善子(聞いていない、寝ている。なんて不安は一切なかった)
善子(全部を話し終えたと言うと、一息つくちょっとだけ艶っぽい吐息が電話の奥に聞こえた)
ダイヤ『……眉唾というか夢というか』
ダイヤ『信憑性を度外視しなければ聞いていられないような話だわ』
ダイヤ『人の命を軽んじているし、冗談だとしたら許されない』
善子「そうね」
ダイヤ『ですが、だからこそヨハネちゃんだったらここまでの冗談は言わないと思う』
ダイヤ『ヨハネちゃん、まずは一つ教えて欲しいのだけど』
ダイヤ『ヨハネちゃんの世界と今の世界は、どのように違いがあるの?』
ダイヤ『こういうことには疎いのだけど……この話が真実だとしたら』
ダイヤ『妹であるルビィの存在が消えてしまうほどの違いがあると考えて良いのかしら』 善子「そこに関しては特例と思って欲しいわ」
善子「私はルビィを殺すことで呪術を壊してこっちの世界に来たって言ったでしょ?」
善子「呪術を壊したって言っても呪術の発動自体を阻止したわけじゃないのよ」
善子「その結果、呪術の代償としてルビィの魂が使われた"原因"は継続してるんだと思う」
善子「そのせいでこの世界からはルビィの存在自体が消えることになったのよ」
善子(ただ、それがなければダイヤが消えてた可能性はある)
善子(ルビィの言ってたこと全部が全部、ダイヤに邪魔させないための嘘とは思えない)
善子(ルビィかダイヤかって点だけの違いだと思ってた方が良い)
ダイヤ『ということはルビィがいるのが正しい世界なの?』
善子「私はそう思ってる」
ダイヤ『……そう』
善子(私もダイヤもそこは同じか)
善子(ダイヤにとっては、知りもしない妹がいるだなんて思いたくないし)
善子(私にとっては、いるはずの友人がいないだなんて思いたくない)
善子(どっちが正しい世界であって欲しいかなんて、話すだけ無駄ね)
善子「何か他に気になることある?」 ヨハネ呼びを喜ばない善子
ルビィのことを聞いて反応の薄いダイヤ
ぶつかられて怒鳴らず自分が悪いと謝る梨子
違和感しかない なんとなく分かってたけど今度は語り部が善子になるのか >>38
その害フォンあらゆるSSをディスってる半コテだから触れない方がいいと思う なんかダイヤさんG'sともアニメともつかない感じだな やっぱ違和感あるよな呼び方的にはGsか?アニメではないな
疑ってたからか電話だから固いのかルビィがいないからか途中の世界だからか 文句あるなら読まなきゃいいのに
前スレからずーっといるよね ダイヤ『そうね……一番気になっているのが一週間の繰り返しと今回のやり直しについて』
ダイヤ『一週間のやり直しは黒魔術なのよね?』
善子「ん、そうよ」
ダイヤ『それとルビィが使った呪術はどちらも贄を用いる黒魔術という言い方で相違はないと思うのだけど』
ダイヤ『何となく、ヨハネちゃんが使っていたのは"洋式"』
ダイヤ『そして、ルビィが使っていたのは"和式"』
ダイヤ『そんな違いがあるように感じるわ』
ダイヤ『日本人形を使っているからっていうのもあるかもしれないけれど……』
善子「和式と洋式……?」
ダイヤ『ええ』
ダイヤ『黒魔術は、そうね。わたくしからもヨハネちゃんのイメージがある』
ダイヤ『けれど、和と洋で区別するのなら話が変わるわ』
ダイヤ『個人的な意見だけど、和はやっぱりマルちゃんのような気がする』
ダイヤ『ルビィという子が存在して、ルビィがヨハネちゃん達と親しい間柄だったとして』
ダイヤ『ルビィにその知識を与えたのは、マルちゃんだと思う』
善子「………」
ダイヤ『もし、貴女が言うようにこの世界がもう一つ上書きされた世界であるのだと仮定するならば』
ダイヤ『それを行ったのはマルちゃん。ないし、マルちゃんからその知識を得られる人物だと思うわ』 善子「……確かにね」
善子(言われてみればごくごく当たり前の考えだと思ってしまう)
善子(私がやっていたのだって和洋どちらかと言えば和製英語のようなものではあるけど)
善子(ルビィのそれは間違いなく日本の呪術)
善子(花丸が協力していたことは分かっていたけど……思えば、少し変だ)
善子(ルビィだって繰り返しを行っていたはずなのに)
善子(花丸に助けられたと言いつつ、私に助けられたとは一言も言わなかった)
善子(単純に考えるなら、繰り返しの方法ですら頼ったのは花丸ということになる)
善子「花丸は自分が死ぬと言われても動じなかったって言ってた。運命だって受け入れてたって」
善子「……でも、それじゃ変なのよ」
善子「花丸が起点にこの世界が作られたことはありえない」
善子「花丸が死ぬ運命にある世界で花丸が起点に世界が作られるなんておかしい」
善子「ルビィは、死ぬ運命にある花丸が戻ると因果的に悪影響があるって言ってた」
善子(その結果、私の世界では梨子が死んだ状態だったし)
善子「だから……もし、仮に」
善子(ない、それはない)
善子「そう、仮に……花丸がこの世界を作った張本人なら本当に死ぬのは花丸じゃない可能性がある」
ダイヤ『ヨハネちゃん……勘違いかもしれませんが』
ダイヤ『呪術を用いて回帰できるのが関係者のみだと言うのが、本当にその通りであるならば……』
善子「ありえない。あったらいけない……それは、勘違いよ」
善子(だってルビィと花丸を除いたら――私しかいない) 戻れるかどうか試してないからあれだがダイヤも関係者では?
現状解ってる中で確実に戻れるのはあと善子だけか ダイヤ『ヨハネ。落ち着いて』
善子「ダイヤ……」
ダイヤ『あくまでその可能性があると言うだけの話』
ダイヤ『何をもってして関係があり、関係がないのか』
ダイヤ『そこがあいまいだからどうとでも考えられるわ』
ダイヤ『少なくとも、ルビィが関係者だと言う部分は確信が持てますが』
ダイヤ『"貴女"が関係者というのは、世界線的に言えば後付けのようなものでしょう?』
善子「それこそ、希望的観測かもしれないじゃない」
ダイヤ『ええ。そうかもしれない』
ダイヤ『けれど、最悪だけに目を向けていたら何もできないでしょう?』
ダイヤ『言ってしまえば、試してみればいい』
善子「は……?」
ダイヤ『無関係な人間が、本当に戻れないのか。どこかに行ってしまうのか。それを試してみればいい』
善子「何言ってんのよ」
善子「もしどこかに行っちゃうなら取り返しがつかないのよ?」
ダイヤ『貴女の世界で梨子ちゃんが失われ、この世界でルビィが消えている』
ダイヤ『けれど、梨子ちゃんはこの世界に居て、貴女の世界にはルビィがいた』
ダイヤ『どちらも取り返しがつかないことだけれど、結果だけ見れば取り戻す方法があると思うわ』
ダイヤ『本当にマルちゃんが死なない世界を取り戻したいのなら、踏み込んでいかないと』 善子(何が言いたいのか、容易に察しが付く)
善子(何を考えているのか……手に取るようにわかる)
善子「ダイヤ、本気?」
善子「ルビィの世界ではダイヤが消えていたって話なのに」
ダイヤ『わたくしはここにいるので』
善子(話を信じれば、たとえ消えたとしても)
善子(世界線が変われば取り戻すことが出来ると言うことは証明されていると言ってもいい)
善子(問題は、無関係な人が繰り返した結果の消滅じゃないこと)
善子(花丸の場合は運命に囚われているということもあって多少、保証されてたけど……)
ダイヤ『もし仮に失敗してわたくしが消滅するのなら、無関係な人間が繰り返すことは出来ないと言う証明になる』
ダイヤ『もし成功し、月曜日からやり直すことが出来たら"津島善子"は死の運命にはない可能性が出てくる』
ダイヤ『そして、わたくしは全身全霊を持って事に当たれる。なにより、Aqoursのみんなでやり直して対処もできるかもしれない』
善子「眉唾な話を鵜呑みにして、命を賭けるとか」
善子「……なんで、そう簡単にできるのよ」
善子(頭がいかれたような話なのに)
善子(鼻で笑ってあしらうべき話なのに)
善子(なんで……前々回も、今回も)
ダイヤ『答えは簡単』
ダイヤ『話が信じられずとも、ヨハネちゃんを信じているから。ただそれだけ』
ダイヤ『なにより、ここまで来て冗談だと言わずに泣きそうな声になる時点で疑う余地はない』
ダイヤ『貴女を信じれば貴女の世界の黒澤ダイヤは命を賭けた。そうするべき問題であると判断した』
ダイヤ『きっと、これがマルちゃんが死の運命にある世界でのわたくしが出来る最大限の協力でしょう』 ダイヤ『どうしても不安ならこう考えて』
ダイヤ『わたくしは呪術などと言うものの存在自体を信じていない』
ダイヤ『だからそもそも、過去に戻るなんてことが出来るとはこれっぽっちも思っていないって』
善子「……何言ってんのよ」
善子(そんなの、今更考えられない)
善子(ダイヤは私を信じてくれる。助けてくれる)
善子(それがもはや拠所のようになってきてる)
善子「あ〜あ……ダイヤがルビィの姉じゃなく兄ならよかったのに」
ダイヤ『どうして?』
善子「それなら、非化学も極まってヒロインとそれを救ってくれるイケメンみたいになるから」
善子(それだと最終的に私とダイヤが恋愛に発展することになるけど)
善子(ダイヤが同性じゃなく異性だったならそれも悪くはなかったかなとは思う)
善子(そんな、花丸思考に逃避してため息一つ)
善子「ダイヤ、もし失敗してダイヤがどこかに行ったとしても絶対に助けるわ」
善子「だから……協力して」
ダイヤ『――信じるわ』 善子(もしも失敗してダイヤが消えた場合)
善子(私達が考えてきた"関係者のみ"という仮説が証明されてしまう)
善子(その場合、私が本来死ぬ運命にある可能性が出てくる)
善子(……でも、私だけが助かればいいわけじゃない)
善子(みんなが助からなきゃ意味がない)
善子(花丸を助けるために繰り返して)
善子(ダイヤを助けるために繰り返して)
善子(ルビィを助けるために繰り返して)
ダイヤ『それで? 今日すぐに行うの?』
善子「いや、果南に協力頼んでるからその話を聞いてからにする」
善子(明日は木曜日だし、花丸が死ぬまでにはもう時間がない)
善子(一日だけでどれだけ情報が手に入るか分からないけど、それを集めた上で花丸が死ぬ前にもう一回月曜日からやり直す)
善子(もう、花丸が死ぬのは見たくない) 善子(木曜日……まだ花丸が生きている日)
善子(いつものバス停には、前回のルビィのようになぜか花丸がいる)
善子(本来ならいないはずの花丸は近づく私を見て、笑う)
花丸「ちゃんと、来れたずらね」
善子「心配だったなら家まで来てくれたっていいと思うんだけど」
花丸「人が変わったみたいだったから、迷っちゃって」
善子(まぁ……頭がおかしくなったと思われても仕方ない)
善子(いもしない人の名前を出して……)
善子「それなのにここまでは来てくれたのね」
花丸「結局行かなかったから、意味ないよ」
花丸「……人が変わった。そう言われて怒りもしないんだね」
善子「自覚はあるから」
善子「………」
善子(時間はない)
善子(だからこそ……攻めていく)
善子「ねぇ花丸……何か知ってるんじゃないの?」 花丸「何か……?」
花丸「その、ルビィ? ちゃん? のことについて?」
善子「それもあるし、私が頭おかしくなったこととか」
花丸「自分で頭おかしいって言うのはどうかと思うけど……」
花丸「悪いけど、ルビィちゃんなんて知らないよ」
花丸「みんなが言ってたけど、聞き覚えも何もない」
善子(花丸は平然と言う)
善子(花丸が普段から嘘つきならともかく、そうじゃないのに)
善子(まったく嘘をついている様子はない)
善子(本当に……花丸は知らない?)
善子(ルビィが何となく感じ取るだけだったように)
善子(花丸も、何となく。という程度にしか感じられていないとしたら……)
善子(攻めるしかない)
善子「じゃぁ……そうね。繰り返しの呪術とか知ってる?」
花丸「………」
花丸「……なるほど。そういう話ずらか」
善子(花丸は変わらない雰囲気のまま、私を見上げる)
善子(でもその目は、悲しそうに見えた) 花丸「善子ちゃんは、それをどこかのマルから聞いたの?」
花丸「それを使って、今のマルに会いに来た?」
善子「花丸、あんた……」
善子(花丸は自分の考えを整理するように呟く)
善子(私から聞くことなんてなさそうな呟きは)
善子(花丸が、関係者であると言う証明に他ならない)
花丸「そのために、ルビィちゃんを使ったんだね?」
花丸「あるいは、善子ちゃんの前はルビィちゃんがその役目を担っていたか」
花丸「ルビィちゃんが消えたのなら、それは失敗したってことずら」
花丸「だから、ルビィちゃんのように消えたくなければ、やめた方が良いよ」
花丸「マルは死ぬ。それは変わらない」
花丸「絶対に変えることは出来ないずら」 善子「やっぱり、自分が死ぬ運命だってことも知ってんのね」
花丸「もちろん、そうなる運命だから」
善子「……ルビィには話さなかったのね」
花丸「今のマルにその記憶はないから分からない」
花丸「ルビィちゃんが善子ちゃんに話さなかっただけかもしれないし」
花丸「本当に話していないのかもしれない」
花丸「でも――今はそんなこと関係ないよね?」
善子「………」
善子(乗るべきバスが、目の前に停まる)
善子(花丸はバスを一瞥すると、私を見て薄く笑みを浮かべる)
善子(どうするの? そう、問われた気がした)
善子「行くわよ」
善子「果南とダイヤに協力頼んでるから、話すわ」
花丸「……そう」
善子(含みを持たせた呟きを残してバスに乗る花丸を追って乗ると)
善子(私達を待っていたかのように、バスはドアを閉めてさっさと動き出した) 善子(バスの中では大した話もなく、時間だけが過ぎて学校へと着く)
善子(校門の前にはダイヤが立っていた)
ダイヤ「おはようございます。善子さん、花丸さん」
善子(友人ではなく、生徒会長としての声)
花丸「おはよう、ダイヤちゃん」
善子「おはよ……今週って服装検査か何かあったっけ」
ダイヤ「いえ、生徒指導の先生が所用があるからとお願いされたのよ」
善子「それでダイヤが遅刻したらどうするのかとか考えてんの?」
ダイヤ「担任の先生にはお話してくださっているので問題ないわ」
花丸「お昼休みで良いずらか?」
善子(他愛もない話の最中に、花丸の声が割り込む)
善子(のんびりとしつつ、棘を感じそうな声色にすぐに反応できなかった私の前で)
善子(私を一瞥したダイヤが花丸を見る)
ダイヤ「お話はしたのね……ええ。そうしましょう」
花丸「あと果南ちゃんにも声をかけておいて欲しいずら」
花丸「鞠莉ちゃんは……二人に任せるよ」
善子「は――」
花丸「マルは先に行くね」 ダイヤ「……あっさりしてるわね」
善子「死ぬこと、花丸は自覚してるのよ」
善子「無駄だから、運命だからって」
善子(ルビィが言ってた通りだった)
善子(花丸は助かる気なんて毛頭ない)
善子(私がいた世界の花丸と違って、この花丸は死ぬ気だ)
善子「話は聞いてくれるし答えてくれそうだけど」
善子「ダイヤみたいに一緒に来てくれるなんてことはなさそう」
ダイヤ「厳しいわね」
ダイヤ「続きはお昼休みに話しましょう」
善子「鞠莉はどうする?」
ダイヤ「力を借りる必要がありそうですか?」
善子「……学校の屋上で儀式やるのが今までの私だったけど」
善子「毎回忍び込んでた」
ダイヤ「ふふっ」
ダイヤ「では、下手に巻き込むのもあれだから今回もそれで行きましょう」 ダイヤなら忍び込むのを止めるだろ
命を軽く見すぎだし >>66
毎回うるせー茸だな
出てけよ、いらないから 善子(ルビィのいない教室)
善子(そもそも生まれていないと言う状況のせいか)
善子(机の並びに違和感はないし、不自然な空席もない)
善子(もちろん、誰も気にしていない)
花丸「善子ちゃん、ルビィちゃんのことを考えてるずら?」
善子「……まぁね」
花丸「今、ここにルビィちゃんがいないのは呪術の影響だよね」
花丸「……だとしたら、マルが教えたのは人形を使った疑似的に世界を構築するものかな」
花丸「輪廻を巡る魂を依り代として、人形による箱庭の構築」
花丸「その結びを断ち切ったことでルビィちゃんの魂は世界から消失した」
花丸「……だと、思ってるけど」
花丸「本当にルビィちゃんって子がいたかどうか知らないし、いたとしてもどうしようもない」
善子「取り戻す方法はあるでしょ」
善子「例えば、ルビィがそれを使う必要のない世界に戻るとか」
花丸「原因そのものをなかったことにする? 簡単なことじゃないよ」
花丸「ルビィちゃんがなぜそれを使ったのかは分かってるのかもしれないけど、それと同じ状況を作るのは簡単じゃない」 花丸「世界そのものを書き換えようとしたと言うことは」
花丸「そうしないといけないほどの理由があったんだとマルは思ってるけど、どう?」
善子「その通り。花丸が死ぬのもそうだけどダイヤがいなくなったって」
花丸「そっか」
善子(花丸は困ったように答えて、笑うこともなくため息をつく)
善子(ルビィが言ってたように、協力的ではあるけれど……否定的に感じる)
花丸「ダイヤちゃんがいなくなった状況を後天的に発生させても意味がない」
花丸「先天的にダイヤちゃんがいない状況を発生させないといけないずら」
花丸「この世界でダイヤちゃんを殺そうが、誰を殺そうがそれでは意味がない」
花丸「以前いたルビィちゃんがいなくなったその因果を繰り返そうと、同じ状況に至るとも限らない」
花丸「その代わりとしてルビィちゃん以外の誰かが失われるかもしれないけど」
花丸「結局、誰かが失われたという状況が変わることはない」
花丸「だから、誰かを失わなくちゃいけなくなる前にやめておくべきだったんだよ」
花丸「マルが死ぬんでしょ? 別に良いずら」
花丸「それが運命なのだから、抗うことなく受け入れるのが人間のすべきことだよ」 善子「アンタは……助かる気がないのね」
花丸「ないよ」
善子「………」
善子(花丸は明言する)
善子(それも、笑顔で……本心で)
善子(花丸は自分が死ぬことを、絶対に阻止しようとは考えてない)
善子(それが、本当は自分以外の誰かが死ぬことを阻止した結果だとしたら)
善子(それが、私を護るためだったとしたら……)
善子(聞くのは、昼休みにダイヤたちがいるときの方が良いか)
善子「ルビィがいなくなったことは何とも思わないわけ?」
花丸「今のマルはそのルビィちゃんを知らないから」
花丸「でも、本当に失われたとしたら……悲しいね」
善子(そう言って見せた表情は陰りがある)
善子(本当に悲しいと思っているように感じてしまうそれはすぐに、教室の喧騒にかき消された) >>72
なんやかんや文句言いつつ毎日のようにレスして保守してるのかわいいな 善子(前々からの授業と大差のない時間が流れていく)
善子(水曜日のテストを受けていないせいか、少しこんがらがったけれど変わりはない)
善子(四限目までの授業が早々に終わって昼休み)
善子(四限が始まる前に来ていた連絡をもう一度確認すると、花丸が振り返る)
花丸「いこっか」
善子「……ん」
善子(花丸は今朝から特に変わった様子はない)
善子(いつ死ぬのかまでは知らないはずなのに)
善子(そんなこと関係ないと言うような毅然とした態度)
花丸「鞠莉ちゃんもいるずら?」
善子「いないわよ」
善子「関係あった?」
花丸「ううん、なんにも」
善子「……」
善子(鞠莉は関係者じゃない……?)
善子(いや、断定はまだできない) 善子(部室じゃなく、生徒会室に集まる)
善子(部室は千歌達が来る可能性があるけれど)
善子(生徒会室ならそんなことはないから。という理由で)
善子(昼休みに生徒会長としての役割を請け負うことはそうそうないらしく)
善子(したがって、生徒会室なら邪魔も入らないだろう……とのことだった)
善子(生徒会室には私と花丸が来る前にダイヤと果南がいた)
果南「ダイヤからも話は聞いてるよ」
ダイヤ「ある程度は話し合っているので、マルちゃん。先に話を聞いて良いかしら」
花丸「……うん。わかった」
花丸「と言っても、マルが話せることはそんなにないよ」
花丸「善子ちゃんと違って、ルビィちゃんとやらも聞き覚えがないし」
花丸「だから、善子ちゃんの話を聞いたうえでの想定になるけど」
善子(花丸はそう言うと、私に話したのと同じような話を繰り返す)
善子(救われる気がないと言うことも……はっきりと) 善子(この世界には本来、黒澤ルビィという子がいた可能性)
善子(花丸を救うための呪術を用いた可能性)
善子(それの代償によって消滅することになってしまっている可能性)
善子(可能性を前提に話した花丸は)
善子(けれど、自分が死ぬと言うことに関しては断言した)
善子(ルビィについては花丸も覚えていない存在だけれど、それだけは絶対だと)
花丸「あらかじめ言っておくずら」
花丸「マルは助かろうとは思ってない」
花丸「ルビィちゃんが本当に居たとしたなら、その存在が消えてしまったことは気の毒だとは思うけど」
花丸「その呪術を教えたであろうマルはその代償も教えておいたはず」
花丸「不謹慎というか、過ぎた言葉のような気もするけど――自業自得ずら」
善子「っ……」
善子(言いすぎだ)
善子(でも、花丸はそれが分かってる)
善子(感情的になったって、なんにもならない)
善子(そう自分を抑える私をよそに、ダイヤが手を上げた) ダイヤ「マルちゃんに聞きたいことがあるの」
花丸「なぁに?」
ダイヤ「マルちゃんは、その、ルビィと同じ呪術を使っていないの?」
ダイヤ「その結果、代償としてマルちゃんの命が奪われる運命になっているのでは?」
ダイヤ「だから、マルちゃんは自分の死を受け入れようとしているのでは?」
善子(ダイヤは、私の代わりというように聞きたいことを率直に聞く)
善子(そうであって欲しいのか欲しくないのか)
善子(ダイヤの表情からは読み取れない)
善子(そのすぐ隣の果南は、目を閉じていた)
花丸「……なるほど」
花丸「どうしてそう考えたずら?」
ダイヤ「ルビィに協力したのがマルちゃんだから」
ダイヤ「繰り返しの呪術など、普通は知っているはずがありません」
ダイヤ「ヨハネのように、かねてからそう言うことに興味を持っている」
ダイヤ「あるいは――それを知る必要がない限り」
ダイヤ「マルちゃんはそれを知る必要があったのでは?」
ダイヤ「ルビィでも、自分でもない誰かを救うために」
ダイヤ「自分の命を代わりとして、誰かの運命を捻じ曲げる必要があったのでは?」 ダイヤ「どう?」
花丸「……否定、する意味もなさそうだね」
善子(花丸はダイヤから視線を落とす)
善子(すぐ傍に居る私にだけ見える下ろされた握り拳の震え)
善子(死ぬことを受け入れるくらいに守り通したかったこと……)
善子(その確信を、ダイヤは私の代わりに突いた)
善子(私が悪くならないよう、自分の考察として)
花丸「そのルビィちゃんについて、マル……私がどう考えていたのは知りようがないけど」
花丸「それ以外の人を救う目的があったのは事実ずら」
花丸「……どうせ、気付いてるんでしょ?」
善子「花丸……」
善子(花丸の悲しそうな笑顔に言葉が詰まる)
善子(気づいてた……そう言ってどうなるのか)
善子(気づかなかったなんて嘯いて意味があるのか)
花丸「そっか」 タイトルのセリフが善子ではなく花丸になってるのって今後の展開を示してるんよな?
続きはよ 花丸「そう、私は善子ちゃんを助けるために呪術を用いた」
花丸「突然だった、本当、これが運命なんだって……」
花丸「宿命なんだって強く印象付けるかのような、呆気なさだった」
花丸「交通事故だよ」
花丸「善子ちゃんは、マルの目の前で車に轢かれたんだ」
ダイヤ「……なぜ、そこで救おうと動いたの?」
ダイヤ「交通事故なんて、突然起きるのはいつだって誰にだってそう」
ダイヤ「今だって、世界のどこかで――」
花丸「そのくらい解ってるずら!」
花丸「解ってる……解ってても、諦められないことだってある」
花丸「私はそこで諦められなくて、諦めなくて済む方法を見つけちゃっただけ」
善子「花丸……」
花丸「その結果、私がその身代わりになるのだとしても」
花丸「善子ちゃんが無事でいてくれるなら……それでよかった」
花丸「なのに、私の呪術の先で、そのルビィちゃんって女の子がさらに壁を作ったのに」
花丸「善子ちゃんは……」
花丸「ここから先は地獄だよ」
花丸「私の世界の善子ちゃんは、呪術なしに死の運命を背負うほどに運がない」
花丸「それでも、私を助けたいって思う?」
善子「……聞くまでもないことでしょ」 善子「私が死ぬ運命だったなら、それでいい。そこまで戻る」
善子「そうすれば、花丸は助かるんでしょ?」
花丸「助からない。善子ちゃんを喪うなら、国木田花丸を救うことなんて出来ない!」
善子(この世界の花丸を見たのは短い記憶)
善子(けれど、果南達の驚いた表情が、それが意外なことだと示す)
善子(感情的な花丸は、泣きそうだった)
善子(それはそうだ。せっかく助けた私が、結局死のうと言うんだから)
善子(でも、それは花丸も同じなのよ)
善子(助けて、助けて、それでも失って)
善子(ようやく手がかりを掴んで辿り着いたこの世界で、花丸は死んでも良いって言う)
善子「私だって、花丸がいない世界なんて考えられない」
善子「ほかの世界で私がどうだったのかは知らない」
善子「でも、この私は花丸がいたからAqoursに入ることが出来た」
善子「多少乱暴な時もあったけど、私のおふざけに付き合ってくれてた」
善子「もう終わりだと思ってた高校生活が、凄く賑やかになって、楽しくなった」
善子「それは全部、花丸がいたから得られたのよ」
善子「これは意地、これは恩返し」
善子「私は花丸を諦めない。その結果が私の死なら、受け入れるわ」
善子「もちろん、出来れば死にたくないけどね?」 善子(花丸は複雑な表情で私を見る)
善子(言いたいことを抑え込むように、手を震わせる)
善子(でも、花丸は何も言わずに顔を伏せて)
善子(首を横に振って……それでも何も言わなくて)
善子(静かになった部屋に、果南の重い声が鳴った)
果南「これは、本来部外者である私達ではなく、二人がしっかりと決めることだね」
果南「この世界に留まるか、この世界から出ていくのか」
果南「善子ちゃんは出ていこうとしてる。マルちゃんはどうする?」
花丸「私が言いたいことは言ったずら」
善子(果南から戻った私の目に見える花丸は、俯かず震えてもいない)
花丸「それでも、行くと言うのなら私はもう止めない」
花丸「私が善子ちゃんを助けたいのと同じように、善子ちゃんは私を助けたい」
花丸「100年話し込んだって何も変わらない平行線なのは目に見えてる」
花丸「だったら、変化をもたらしてくれるかもしれない善子ちゃん達に譲るずら」
花丸「良いよ。頑張ってみると良い」
善子「あっさりね……」
花丸「どうせ、失敗したらその世界の国木田花丸が呪術を探し当ててここに戻ってくることになるから」 善子「それも、運命だと?」
花丸「私が諦めない限り、私が呪術を探し求めることはもはや宿命なんだ」
花丸「それを変えたければ、私が産まれるよりも前に戻って何かを変えなくちゃいけない」
花丸「例えば、私が浦の星女学院に通えないよう、男の子として産まれてくるようにするとか」
善子「そんなの――」
花丸「無理。だから、私は必ずここに戻ってくる」
花丸「その時、善子ちゃんは今ある記憶のすべてを持っていない」
花丸「だから……そう、もしかしたら私達の子のやり取りだって、初めてじゃないかもしれない」
花丸「もう何十回、何百回と繰り返したうえでのことなのかもしれない」
ダイヤ「だとしても。今ここにいるわたくしたちは、これが最初で最後の勝負です」
花丸「………」
花丸「それもそうだね」
花丸「向こうの世界でダイヤちゃんに協力して貰っていたら、もっと違う変化があったのかもしれないと思うと、ちょっと悔やまれるずら」
ダイヤ「わたくしはそれほど大きな変化をもたらせるとは思っていません」
花丸「だとしても、わずかな違いが大きな変化になることもある」
花丸「投げた小石の波紋は小さくても、その湖の中で大きな魚が動くかもしれない」
花丸「……ふぅ」
善子(花丸は大きく息を吐いて、私を見る)
善子(おっとりとしている大きな瞳は今日ばかりは真剣さを持って、まっすぐ私に向けられている)
善子(いつもとは違う花丸。けれど、花丸)
花丸「そしたら、私の世界に戻る方法を教えるね」
花丸「と言っても、方法は簡単」
花丸「マルの作った呪術の結界そのものを破壊すればいい」
花丸「善子ちゃんはもう知ってるよね? 人形蔵」
善子「……知ってる」 花丸「そんな怖がらなくていいよ」
花丸「ルビィちゃんの時は、私が自分の結界を壊されないために」
花丸「確実に単一の呪術破壊を目的とした方法を話してたはずだから」
果南「どうしてそう言い切れるの?」
花丸「それを話したのが私以外の私だから。私だったらこうする。それが、その私がする行動ずら」
善子「じゃぁ、私は花丸を殺さなくていいのね?」
花丸「それが確実だから、そうするのが一番ずら」
善子「その言い方なら、ほかの方法がある」
花丸「……結界に利用してる人形の破壊」
花丸「最も簡潔に言えば、蔵自体を破壊したらいいと思う。焼却とか」
善子「いやいやいやいや!」
善子「焼却はないでしょ!」
花丸「どうせ燃えたところでこの世界は終わるし」
善子「だとしても――」
ダイヤ「待って」
ダイヤ「この世界が終わる。というのは、善子さんが観測しなくなるというわけではなく」
ダイヤ「この世界の存在そのものが消滅する。ということ?」
ダイヤ「例えば、テレビの電源を消すだけ……ではない?」
花丸「今はテレビというより、夢の方が近いずら」
花丸「夢だからこそ、それを形成している存在が失われれば崩壊して消えてなくなる」
花丸「だから、世界は終わる。と言ったんだ」 ダイヤ「夢……」
花丸「そう。夢」
花丸「だから別に蔵を焼却されたところで、次……というか、以前の世界には何も影響がないよ」
善子「じゃぁ、私がルビィを殺した世界も……」
花丸「その時点で世界の崩壊現象を感じたはずだよ」
果南「崩壊現象?」
花丸「私がそう呼んでるだけずら」
花丸「意識が遠のくというか、持っていかれるというか……まぁ、夢から醒める。みたいな感覚だね」
果南「気になるのは、その時に私達がどうなるかなんだよ」
果南「途方もない話ではあるけど、世界が崩壊する。それは前提としよう」
果南「そのうえで、無関係であろう私達はどうなるの」
花丸「それは……さすがに私も未経験だから分からないかな」
果南「未経験で答えられないと、前提が崩れるんじゃ――」
善子「一週間のやり直しを花丸は経験してるからそこからの推測でしょ?」 善子「一週間のやり直しを何度もしてるけど」
善子「それも多分そこまでの世界を崩壊させて、また戻してる感じ……になるでしょ?」
花丸「それは詳しくないかな。そこは善子ちゃんの感覚に委ねるよ」
花丸「ただ、それに似た感覚を私は感じてきた」
花丸「だから、崩壊現象としてる」
善子(なるほど……私の黒魔術と呪術はほぼ同一の現象とみて良いわね)
善子(もっとも、影響範囲と供物が比にならないほど重いけど……)
善子(でも、もしもそうだとしたら……)
善子「もしかしたらだけど、無関係な人も記憶を持つ可能性はあるかもしれない」
善子「以前の世界の話だけど、ルビィはともかく花丸も時々記憶を継承してるような言動をしていることがあったのよ」
善子「そこからの推測だから……というか、花丸が関わっていた以上眉唾な話にはなるんだけど」
善子「別世界のさらに別世界の状態でもおぼろげながら記憶継承出来ていたっぽいから」
善子「果南とダイヤも次の世界に記憶を持ち越せる……かもしれない」
善子(ちょっとした希望的観測)
善子(可能であればどうであって欲しいという願い)
善子(でも、それを花丸は当たり前のように否定する)
花丸「それは無理じゃないかな」 花丸「善子ちゃんの期待は分かるんだけど、まず無理だよ」
花丸「1週間のやり直しは、やり直し地点までの世界を断絶することにはなるけど」
花丸「あくまで、そのやり直し地点までの世界は継続されることになる」
花丸「……なんて言ったらいいかな」
花丸「Aがルビィちゃんの世界、Bが私の世界だとして」
花丸「善子ちゃんのやり直しは、AからA.5まで進んだ世界からAに戻っているに過ぎない」
花丸「だから、世界の構造自体に変化はないせいで、所謂デジャヴュというものが発生しやすくなっているずら」
花丸「一方で、AからBに世界が移動する際は、Aの世界が崩壊することになる」
花丸「当然ながら、Aに居たダイヤちゃん達とBに居るダイヤちゃん達は似ているとはいえ、すべてが違う」
花丸「世界の構造自体が似て非なるものである以上、デジャヴュのような回帰現象はまず怒らないと思うべきずら」
ダイヤ「では、ヨハネ――善子さんがこちらの世界に来たうえで記憶を持っている理由は?」
花丸「それは世界の構築に根本的に関わっているから」
花丸「さっき言ったけど、本来死ぬ運命にあるのは善子ちゃんなんだ」
花丸「それをマルは、世界の構築と言う強引な手で死ぬ運命を回避させた……」
花丸「つまり、世界の因果に津島善子という主軸が立てられている状態」
花丸「そのせいで、善子ちゃんは一週間のやり直しが出来てその記憶の保持も出来て、さらには世界を超えて記憶を持ち越せてしまう」 花丸「だから言っておくけど、善子ちゃんはともかくほかの誰かが世界を超えようものなら、存在の保証は出来ないよ」
ダイヤ「存在の保証が出来ない。とは、つまりルビィのように消滅するということで良いの?」
花丸「世界から、Aダイヤちゃんが異物として弾かれる際に、Bダイヤちゃんも一緒に弾かれてしまう可能性がある」
花丸「ルビィちゃんに関しては呪術的な問題だから話が違うね」
ダイヤ「……ですが、あくまでその可能性がある。というだけでしょう?」
花丸「私の周囲でそれを試した人はいないからそうなる」
花丸「でもどんな影響があるかわからないずら」
善子(ダイヤにはもう、それを話してある)
善子(だから、ダイヤは驚かない。怯まない)
善子(翠玉の瞳で花丸を見つめる)
ダイヤ「それで結構です」
ダイヤ「果南……貴女には言ってませんでしたが今回のヨハネ――善子さんに同行しようと思っています」
果南「同行って……別の世界にってこと!?」
ダイヤ「ええ」
果南「消える可能性があるのに、やるの?」
ダイヤ「それが、黒澤ダイヤのなすべきことだと思っています」 果南「黒澤ダイヤのって……」
花丸「ダイヤちゃんがその気なら、ルビィちゃんにもそうだったように止める気はないよ」
花丸「残念だけど、どうせ私は消えることになるからね」
花丸「もし向こうの世界でダイヤちゃんがいないとしても」
花丸「向こうの私はダイヤちゃんがいないってこと自体認識できないから」
果南「そんな薄情なこと、よく平気で言えるね」
花丸「止めても無駄……そういう顔をしてるからね」
花丸「私は死ぬためにここにいるんだよ?」
花丸「死ぬ覚悟のある私が、死ぬ覚悟をしてることくらい分からないわけがないずら」
花丸「ダイヤちゃんは冗談でもお遊びでも軽い気持ちでもない」
花丸「本気で、そうなっても良いって考えの上で善子ちゃんに付き添おうとしてる」
花丸「だったら私は止めない。私がそうしてここにいる以上、私には止められない」 花丸「ただ一つだけ」
花丸「善子ちゃんから聞いた話が全て真実なら、ダイヤちゃんは一度世界から消滅してる」
花丸「でも、ルビィちゃんの消滅によってダイヤちゃんが消滅するという原因そのものが取り除かれた」
花丸「だからある意味、今ここにいるダイヤちゃんは"本来存在しない"と考えて良いと思う」
善子「は……?」
果南「待って、ちょっと整理させて」
善子(果南はそう言ってダイヤに適当な紙とペンを借りて、何かを書く)
善子(悩ましそうな果南は、ペンのキャップで自分の唇を押し上げて呻いた)
果南「さっきの例を借りるけど、つまりここはAからBではなく、AからCに移動したようなもの……って認識で良い?」
果南「本来いないはずのダイヤがいる世界……C世界」
花丸「ううん、それも違う」
花丸「ここは間違いなく、Bの世界」
花丸「なんでかって言うと、マルの世界であるBの中にいるから」
花丸「もし仮にここがCの世界なら、私以外の誰かが管理者としての記憶を持っているはず」
花丸「ダイヤちゃんは、Bルビィという存在が呪術によって消滅した空席に座らされたいわば代理人」
花丸「だからこそ、"いないはずの存在"と言うべきなんだ」 善子「ねぇ花丸。本来ならルビィもダイヤもいるはずでしょ?」
善子「それに、ルビィの繰り返しによってダイヤがいなくなったってだけで」
善子「おおもとであるB自体にはルビィもダイヤもいるのが普通なんじゃないの?」
花丸「そうなんだけど……BだろうとB.1だろうとB.5だろうと」
花丸「そのどこかで呪術や魔術によって、黒澤ダイヤという存在が世界そのものから弾かれた場合」
花丸「B世界そのものに影響があるんだと思う」
花丸「さすがに、私もそこまで詳しい知識はないけれど、そう言うことだって思ってる」
花丸「実際、私は黒澤ルビィという女の子を知らないけれど」
花丸「善子ちゃんのことを信じれば、私は知っていて当然のはず」
花丸「でもBの私がルビィちゃんを送り出し、Aの世界でルビィちゃんが消滅した」
花丸「呪術の起点がBである以上、Bにおいて黒澤ルビィと言う存在が消失する」
花丸「でも、黒澤ダイヤと黒澤ルビィの二人の消失は、世界構造そのものを揺るがす重大な欠陥なんだろうね」
花丸「そうしてルビィちゃんが消えて、代わりにダイヤちゃんが入った……って思ってる」
善子「……なるほどって言って良いのか分からないけど、そう思っておくべきね」
善子「呪術も魔術も100%の理解なんて出来やしないんだから」 果南「ちょっと複雑になってきてるみたいだし……仕切り直しでもう一ついい?」
花丸「うん」
果南「ダイヤが"代理人"と言うのはそれでいい。理解は出来てないけど妥協するよ」
果南「それでその場合、ダイヤが本来の世界にたどり着けることへの影響はどの程度ある?」
果南「さっきの口ぶりから察するに、本来ならヨハネちゃんのみ可能でほかは保証できないけれど」
果南「ダイヤが"代理人"なら別って思えたんだけど……どう?」
花丸「今更だけど言っておくと、私が話せるのはあくまで推測の域を出ないものでしかない」
花丸「だから、ダイヤちゃんが"代理人"だったとして、どれほどの影響があるのかも想像になる」
花丸「でも"いないはずの存在"ということは、このB世界にへの繋がりが希薄だともいえる」
花丸「その状態なら、世界の崩壊の引力に巻き込まれずに消滅しないで辿りつくことが出来るかもしれない」
花丸「私の……ううん、国木田花丸の希望としては、そう答えたい」
ダイヤ「では、果南は……」
花丸「ダイヤちゃん以上に高確率で失敗する。その場合、もう一つの世界でどうなるかは分からないよ」
ダイヤ「なるほど……ではやはり、予定通りわたくしとヨハネ。二人で行いましょう」 果南「どうせ消えるなら私もって言いたいけど……ダイヤ以上にダメだって言うならやめた方がいいのかな」
善子「そうね……消えるリスクは低い方が良い」
善子(実際は、ダイヤの力も借りなくて済むのが一番かもしれない)
善子(でも花丸が希望と言ったように)
善子(結末を変えるためには、何らかの変化が必要になってくると思う)
善子(……花丸は、期待してる)
善子(私とダイヤが本当の世界に戻ることで)
善子(ここにいる花丸の、津島善子が生き残ることを)
善子(……津島善子。私じゃない、私)
善子「ダイヤ、本当に良いのね?」
ダイヤ「二言はないわ」
善子「……なら、いい」
善子「花丸。一つ確認なんだけど、私が必ず戻れることは保証されている。これは絶対で良い?」
花丸「そのはずだよ」
善子「なら、私とダイヤの繋がりをもっと深くできれば、ダイヤが戻れる可能性も上がる……と思っていい?」
花丸「そこまでは……」
善子(保証できない)
善子(それは当然……だけど、でも少しでも確実にするために)
善子「ダイヤ、私と黒魔術の契約をしてくれない?」 善子「絶対に効果があるって保証は出来ないし、少し痛いこともする」
善子「でも、やらないよりはやっておきたい」
ダイヤ「黒魔術の契約……言葉だけ聞けば、非常に怪しいものに感じるのだけど」
ダイヤ「その方法と効果はもう分かっているの?」
善子「方法は、自分と相手の血液を白いハンカチ……布でもいいんだけどそれに垂らす」
善子「その布で互いの左手薬指を結んで、中指に銀の指輪をする」
善子「ハシバミの枝で南東向きに三角形を作って」
善子「その方角に左手を向けて"ベレト、ベレト、わが王。どうか我らに導きを"これを2回唱える」
善子「最後に、薬指の布を解いて半分に切ってそれを左手の親指に巻く」
果南「結構面倒な感じだね……というか、本格的?」
善子「私が普段やってるようなお遊びとは違う、本当に本気の黒魔術。それも、悪魔に呼びかける系」
善子「ただ、だからこそ、効果は保証されると言ってもいい」
善子(でも……その効果が……)
果南「効果ってどんな?」
善子(心情なんてつゆ知らず、普通に聞いてくる果南からダイヤへと目を向ける)
善子(やるかやらないかは、任せよう。そう決めて、口を開く)
善子「……恋愛成就。それも、来世でもまた出逢えますように。的なレベルの」 ダイヤ「なるほど……ただ、左手の薬指を結ぶというのは少し難しいのでは?」
ダイヤ「多少無理をすれば不可能ではないけれど……」
善子「そこを突っ込まれても困る。調べた結果の手順だし」
善子(だからこそ、それ自体がガセネタの可能性もないとは言い切れない)
善子(悪魔召喚だから効果は高い可能性がある)
善子(でも、絶対の保証はない……なにより、効果があったらあったで恋愛って……)
善子(再会だのなんだのの縁と言えば恋愛関係だから仕方がないと言えば仕方がないんだけど)
善子(……背に腹は代えられない)
善子「もしかしたらダイヤと私の関係が歪なものになっちゃうかもしれない」
善子「でも、ダイヤが消えるくらいなら、私はそうなってもいいと思ってる」
善子「花丸を助けるためにはダイヤの力がいる……と、思ってるし」
善子「花丸を助けた代わりにダイヤが消えました。なんてなるのはごめんだわ」
善子「もちろん、こんなことしなくてもダイヤが無事に辿り着く可能性はあるから」
善子「どうするかは、任せる」 ダイヤ「……ヨハネ、いえ善子さんは万全を期したいと」
ダイヤ「悪魔崇拝の気持ちはわたくしにはないのだけど、大丈夫?」
善子「私だって100%信じてるわけじゃ……」
善子「そもそも、ガセネタの可能性もあるし」
善子(ダイヤは考える)
善子(私も花丸も果南も見ずに考え込んで、不意に顔を上げた)
ダイヤ「梟盧一擲……思い切りも大事かしら」
ダイヤ「その黒魔術の契約、やってみましょう」
善子(悩みは抜けていない様子ではあるけど)
善子(けれど、ダイヤはそう言った)
ダイヤ「人の命がかかっているのだから、やっておけばよかったという後悔がないようにしましょう」 ダイヤ「……善子さんは歪な関係になってしまうかもしれないというけれど」
ダイヤ「それはあくまで、わたくしたちが儀式の記憶がない場合であって」
ダイヤ「互いにそうなることへの心構えをしておけば、たとえ恋愛感情を抱いてしまっても修正は可能なはず」
ダイヤ「来世に向けての契り、その強制力がいかほどかは分かりかねますが」
ダイヤ「同性の情であることを考えれば、辛くとも自然――いえ、少なくとも黒澤の長女として別たれるのが道理」
ダイヤ「失恋の一つや二つ、わたくしは問題ありません」
善子(ダイヤは淡々とそう語った)
善子(別に間違ってはいない)
善子(尊敬して入るもの、恋心かと言われればNOで返す私としてもそれが道理だと思える)
善子(ただ、花丸が死ぬ運命の強制力が恋愛に働いたとして)
善子(はたして、私は平然としていられるだろうか)
ダイヤ「大丈夫?」
善子「ん……大丈夫」
善子「悪魔の力がマジものだったとしたら、私……失恋の余波で自殺か事故死する可能性もあるかもって思っただけ」
善子「もちろん、死ぬ運命っていうのを重ね合わせたうえでだけど」
善子「もっとも、付き合えたら付き合えたで浮かれた挙句事故死するんだろうけどね。みっともないったらないわ」 善子(努めて笑う)
善子(死ぬか生きるかの話だから、笑い話ではないのだろうけど)
善子(でも、失恋と……何だったか。花丸が言うには得恋だったっけ?)
善子(失恋か得恋どっちにせよそれで自分が死ぬとか正直想像がつかない)
善子(恋も何もしてこなかった人生だしね……それもそうか)
善子(だからこそ、みっともないと思うのね……)
ダイヤ「その場合、付き合う方が良いかしら?」
善子「へ?」
ダイヤ「どちらにせよ、善子さんの隙が大きくなって事故に遭うのなら」
ダイヤ「傍に居て守ることのできる恋人になる方が良いと思うのだけど、どう?」
善子「どうって……えっ、いや、正気!?」
果南「今は同性とかそういうの気にしてる場合じゃないよ」
果南「ヨハネちゃんがダイヤのこと好きになっちゃってた場合のこと考えないと」
善子「……それはそうだけど、躊躇なさすぎでしょ」
花丸「それだけ、善子ちゃんのことを大事に思ってるってことだよ」
善子「十分知ってるわよ」 善子(花丸を庇って死ぬくらいにやばい奴だってことくらい良く分かってる)
善子(だから、恋人になるくらいもどうってことないのも分かってる)
善子(けどいくらなんでも軽すぎるわよ……助かるけど)
善子「ダイヤがそれでいいのなら付き合いましょ」
善子「私の性格的に、失恋相手が追いかけてきたら全力疾走で逃げるし多分それで死ぬから」
善子(交差点のバイクかトラックか乗用車かの交通事故)
善子(あるいはたまたまあいてたマンホールからの垂直落下)
善子(あとは落下物とか飛来物とか……碌な死に方しなそう)
善子(不登校も再発しかねないし)
善子(まぁ、そこは私の記憶があれば避けられるか……)
花丸「ほかに決めておくことはない? 」
善子「合言葉」
善子「今の私とダイヤだけが知ってる、それを言われたら、言えたらちゃんと記憶があるって証明になるなにか」
ダイヤ「この後行う黒魔術の悪魔の名前はどうでしょう?」
善子「ダイヤはそれでいいけど、私は駄目。確実に分かるから合言葉にはならない」
果南「じゃぁいっそA世界の黒澤ダイヤとA世界の津島善子って合言葉はだめ?」
果南「知らずに急に言われたらはぁ? って絶対なるだろうし」 ダイヤ「……そうね。確かに」
善子「A世界の津島善子じゃなくて、Aの善子。Aのダイヤでどう?」
善子「私がAの善子って言ったらダイヤはAのダイヤって返す。逆も同じ」
善子「Aのダイヤなんてトランプっぽいから知らなければそっちが先に出ることになるでしょ?」
花丸「ヨハネじゃなくていいの?」
善子「別にいいわよ」
善子(今はヨハネだの善子だのなんてどうだって良い)
善子(このふざけた運命とやらを突っ撥ねて生き残る)
善子(そのために……ルビィだってこの手で殺したんだから)
花丸「善子ちゃん、儀式はすぐにできる?」
善子「家に帰れば道具があるはず」
善子「今日ほど、自分で堕天使だのなんだの騙っててよかったと思う日はないと思うわ」
花丸「解った」
花丸「じゃぁ、とりあえず善子ちゃんとダイヤちゃんの二人は善子ちゃんの家に行って儀式を執り行う」
花丸「私――マルは、果南ちゃんと一緒に家に帰って二人が後で来るってことにしておけばいいかな?」
果南「花丸ちゃんが事故に遭わないようについて行けばいいんだね? 任せといて」
善子「油断しないで。ほんと……いろんな要素が殺しに来るから」
善子(真剣な顔で分かった。と果南は言う)
善子(それでも不安は拭えないまま昼休みが終わり、気付けば放課後になって――私達はそれぞれ別れることになった) ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています