SSのネタを書くから誰か書いてくれないか
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主人公は梨子
ある日ダイヤから紅葉狩りに行きませんか?と言われ山奥に紅葉を見に行くがその日から周囲で不可思議な事が起こり始める ひとまず猫の事は忘れ、図書室の扉を開ける。
梨子「こんにちは〜」
「こんにちは」
梨子「ああ、今日の当番も花丸ちゃんだったんだ」
梨子「この前借りてた本、返しに来たわ」
花丸「ありがとう。うん、確かにこの前借りてた本受け取りました」
花丸が作業を済ませている間、なんとなくあたりを見回す。
梨子「...!!」
図書室には似つかわしくない物体が、机の上に。
そこには、先ほどの黒猫がちょこんと乗っていた。
梨子「花丸ちゃん!猫!猫だよ!早く外に出してあげないと!!」
花丸「え...梨子さん、もしかして、その猫が見えるの...?」 梨子「言ってる事がよく理解できないんだけど、とりあえず外に出すわよ!花丸ちゃん、手伝って!」
梨子「私窓開けるから、花丸ちゃん、誘導お願い」
花丸「ああ、でもその猫は...」
猫は先ほどとは打って変わって、リラックスしているようだ。机の上で、くねくねと体を動かし、腹を上に向けている。
梨子「もしかして、今が外に出すチャンス?」
梨子は机に駆け寄り、猫に向かってそーっと手を伸ばした。
梨子「....」
手が触れるか触れないかの距離。とても緊張するが、意を決して猫をつかもうとした。
梨子「えいっ!」
梨子「!?!?!?」 伸ばした手は、スカッと手は虚空を切る。確かに猫を捕まえようと手を伸ばしたはずだ。
梨子「...え?え?どうなってるの...?」
花丸「その猫、絶対に触る事が出来ないみたいなの。さらに言うなら、猫自体を見える人もあまりいないみたい...」
猫は相変わらず、机の上でくねくねと体を動かしている。
花丸「信じてもらえないかもだけど、それ、猫の幽霊みたい、なんで..す」
梨子「...うそ」
花丸「特に人に危害を加えたりしない無害な存在みたいで」
花丸「この学校とかその周辺をウロウロしてるみたい。でも、昼休みになると、その机の上でゴロゴロし出すの」
花丸は少し変わった動物を見るかのような、また、困ったような顔を梨子に向けた。
花丸「でもこの前は見えてなかったのにどうして...」
梨子「....」 花丸「梨子さん、今からちょっと丸についてきてほしいずら」ガシ
梨子「え..図書委員の仕事はいいの?」
花丸「どうせ誰もこないよ。放課後だったら人来るけど...」
花丸に手を掴まれ、扉を抜け、廊下を抜け、とある教室へと辿り着いた。
長年誰も使ってないようだ。物が乱雑に床に置かれ、埃をかぶっている。それにカビ臭い。早くここから出たい。
花丸「梨子さん、教室の真ん中に何が見える...? 」
そう言いながら、花丸は自分の顔の前に手を持ってきて、狐の窓を作った。
梨子「...!」
教室の中央を凝視する。何か置いてあるようだが、その手前に箱などが置いてあって認識しずらい。
梨子「...?」
梨子「.........?」
梨子「.....!!!!」 人が床から生えていた。
それしか言い表す言葉がない。
梨子「...!!...何、あれ...」
梨子「花丸ちゃん!早く逃げなきゃ!!」
花丸「大丈夫、あれは無害なやつ」
梨子「でも!!」
花丸「オラを信じて!...大丈夫だから、お願い!」
梨子「...」
梨子「...わかったわ」
花丸「梨子さん、何が見える?」
梨子「...床から、人の上半身が生えてる。男性かしら?顔はよく見えないけど、上を見てる見たい」
花丸「それで、服装は」
梨子「少し時代ががったシャツを着てるわ。暗くてよく見えないけど、ベージュみたいな色してるかも」
花丸「そっか」
梨子「そっかって何よ!本当に大丈夫なの!?ねぇ!」ユサユサ 花丸「揺すらないで...!今のは見える強さを確かめただけだから!」
梨子「それってどういう事?」
花丸「見える人にもいろいろあるの。力の弱い人は、オラみたく、何か動作をしなきゃ見えない」
花丸「でも梨子さんは、動作なしにあれを見る事が出来た」
花丸「この前まで猫すら見えなかったのにどうして...?」
梨子「...」
梨子「それはわからないわ...」
花丸「もしかして、最近調子が悪かったり、この前の練習のアレと何か、関係、あるんです...か..?」
梨子「...!?」
梨子「...」ウルウル
梨子「...正直に言って良いのかしら...?」グスン 梨子は目に大きな涙を湛えた。
花丸「そんな泣かないで」
梨子「だって、今まで相談出来る相手がいなかったから...それで、それで...」
花丸「じゃ、じゃあ、調子が悪いのも、この前の練習の件も、みんな霊的なものの仕業だったっていうこと、です..ね?」
梨子「うん...」
梨子「1ヶ月ぐらい前から、急に見え出して...」
梨子「それでも一時期は見えなくなったんだけど...」
梨子「最近また見え始めて、それがこの前の練習で...」
梨子「正直、私の体がおかしくなったんだと、ずっと思ってたけど、そうじゃなくて...」
花丸「うん、うん、辛かった...ですね...」
花丸「大丈夫です。きっと、元に戻りますよ...」
梨子はその後、予鈴が鳴り響くまで、花丸の胸の中でワンワン泣いた。
不安と安堵が入り混じった、よくわからない涙だった。 教室に戻る前、泣き止んだ梨子に向かって、花丸は以下のように説明した。
はじめに、見える人にも色々ある事。
次に見えるものの多くは無害である事。
これについては、梨子は半ば信じなかった。
最後に、見ても見なかったフリをする事。奴らになんらかのリアクションを示してしまうと、余計に状況が悪化するようだ。
今日は花丸は練習を休み、梨子の相談に乗ってくれるという。つまり、それまで、この怪異がウヨウヨした中で過ごさなければならない。
梨子「...はぁ」
教師「沼津の地理についてですが、富士山麓からの湧水や水源を生かし、パルプ工場などが作られました。昭和初期になると、これらの工場からの水質汚濁により...」
少し気分は憂鬱だ。早く放課後になる事を梨子は待ち望んでいた。 「ニャオン」
梨子「...はっ!?」
授業に見合わない、気の抜けた声がした。
教室の壁を、ゲームのバグか何かの様に、猫がぬるりと抜けてきた。
少し前なら、この場面を見ただけで発狂していただろう。
梨子「...」
なるべく平然を装う。先ほどの図書室で会った猫であろうか、全身が真っ黒だ。
梨子「(見えてないフリ...見えてないフリ...)」
梨子「...」チラッ
黒猫は少し遠い教壇の上で寝転んでいた。
教師が板書を書き直すたびに、その足が猫をかすめる。しかし、猫はお構いなしの様だ。
梨子「(なんかちょっと可愛いかも...)」
猫「ニャー」ぱちっ
梨子「...!」
梨子「(やばい!目があちゃった!!)」 猫「ニャー」テトテト
梨子「(こっちきてる!)」
梨子「(お願い、あっち行って!!)」
猫「ニャー」ストン
梨子「机の上に乗ってきちゃった!?」
そのまま猫は梨子の机の上で寛ぎ出した。
気が動転して、ノートを書くどころではない。
梨子「(平常心...平常心...)」
香箱座りをする猫と慌てる梨子の心をよそに、授業は続いていく。あと20分ぐらいだろうか?
手元が猫で見えない為、猫を避ける様にして再びノートを取り出した。
猫は梨子の努力も知りもしないまま、あくびをしたり、体勢を変えたりしてリラックスしている。
梨子「(じっとしててくれる分には無害なんだけどな...)」
猫は再びすくっと立ち上がった。そのままノビをし、三角に座り直す。
どうやらノートを取っている手元が気になる様だ。 梨子「(授業に集中したいけど、どうしても視界に猫が入ってくる...」)」
梨子「(...あっ)」
猫の首元に大きな傷が見えた。そこから肉が赤く覗く。
梨子「...うっ」
梨子「(そうだった。この子はもう...)」
教師「...水質汚濁と公害の歴史についてですが、四大公害が有名ですね。それでは桜内さん、そのうちの一つでいいので答えてくださいますか?」
梨子「っはい!!」ビク
梨子「えーっと、えーっと、水俣病です!」
教師「はい、その通り。そのほかイタイタイ病、四日市喘息、新潟水俣病がありますね...」
梨子「...ふぅ」
梨子「(急に指されてびっくりした...)」
猫「ウー!!フシャー!!」
梨子「(今度は何!?)」 猫は梨子の方を向いて威嚇し出した。
梨子「(本当になんなの...)」
手を動かして猫を払う動作をする。しかし、手は猫をすり抜ける。
猫「フゥウウウ!!ホワアアアア!!」
気にせず授業に集中する。
視界の上部に、前髪を下ろした時の様な、黒く、横一列になった暖簾の様なものが見える。
梨子「(あれ?前髪は分けてとめてるはずなのに...?)」
思わずおでこを触る。いつも通り前髪はまとめられていた。
猫は相変わらず、毛並みを逆立て、威嚇を続けていた。
梨子「(なんだろう...?)」
そのままその黒くて長いものを目で追ってしまった。
梨子「(前髪じゃなくて、前に何か垂れ下がってる...?」
梨子「....!!」 顔があった。
その顔から、長い髪が垂れ、梨子の視界の一部を塞いでいたのだ。
梨子「....!?!?!」
動悸が止まらない。冷や汗が出た。
梨子「(見てない見てない見てない見てない)」
素早く視界を黒板に戻し、何も見てない風を装う。
猫は威嚇をやめない。
時折、髪の毛がパラパラと動く。
おそらく天井の顔も動いているのだろう。
猫「フニャー!シャー!」
猫の威嚇の回数が多くなって行く。それに比例して、髪の毛がだんだん降りて来ている事に気付いた。
梨子「(誰か助けて誰か助けて....)」
見なかったふりをしてやり過ごすしかない。やり過ごせるかどうかもわからない。 それまで少ししかなかった髪の毛が、急にガクンと垂れ下がり、視界の半分を占めた。
猫「シャー!!シャー!!」
猫は威嚇を続ける。威嚇の声以外に、何か別の声が混ざっている事に気付いた。
「@#%〜@#%#*〜」
梨子「(見てない見てない見てない!!)」
恐怖心のあまり目を瞑る。本当は耳を塞ぎたいが、奴に気づかれてしまうだろう。
「...」シーン
猫の威嚇、教師の声がしなくなり、あたりが急に静かになる。
梨子「....?」
目をゆっくり開ける。
威嚇と教師の声が止んだのがたまたま重なり、沈黙を生み出した様だ。
「....@#%#*」
先ほどより、おそらく、天井の壁がつぶやいている声がはっきりと聞こえる。
無意識のうちに、梨子はその声に耳を向けてしまった。 梨子「!!」
冷や汗が背中を伝う。動悸がますます激しくなる。
梨子「(来ないでこないでこないで!!)」
一刻も早くこの場から逃げ出したい。
全身を強張らせ、目をぎゅっと瞑る。
「...さん...らうちさん!....桜内さん!!」
梨子「...はっ!?」
モブ「桜内さん、大丈夫?これ、プリント、後ろに回して」
梨子「...う、うん」
恐る恐るプリントを後ろに回す。
長い髪が一瞬見える。
モブ「授業も終わったのに、ずっと席について縮こまっているんだもん。どうしたの?」
梨子「...」
モブ「最近練習休んでるんでしょ。体調管理、気をつけてね!」
梨子「ありがとう...」
そういうと、梨子は素早く席を立ち、教室を離れた。 階段の踊り場まで来た。
あたりを見回す。視界の端には何もない。
梨子「(ついてこなかったみたい。)」
梨子「(ほっ....)」
梨子「(とりあえず、花丸ちゃんにライン飛ばそう...)」ピコピコ
下の階から人が上がってくるのが見えた。タイの色からして一年生だろう。
梨子「(移動教室なのかな...?)」
梨子「(私もそろそろ移動しないと...)」
一年生は、そのまま梨子の脇を通り過ぎていった。
移動しようと足を動かす。
梨子「...!?」
黒い塊が梨子の足に絡みついていた。
一瞬、姿を確認できず凍りつくが、すぐさま先ほどの黒猫である事がわかった。
梨子「もうなんなのよ...」
梨子「(でも、この子がいなかったら、あれにやられてたかもしれない...」
梨子「さっきはありがとうね...」
頭を撫でようと手を伸ばしたが、それも虚しくすり抜けて行った。 次の授業、その次の授業も、猫は梨子に寄り添うかの様について来た。
そのおかげか、変な物にはあれ以来遭遇してない。
担任「...今日も一日お疲れ様でした。それでは皆さんさようなら」
一同「さようなら〜」
梨子「千歌ちゃん、曜ちゃん、練習頑張ってね!」
曜「梨子ちゃんも元気でね。また明日!」
千歌「うん、じゃあまた明日!」
二人に挨拶を告げ、校門へ向かう。花丸と落ち合う予定になっているからだ。
廊下を抜け、校門まで猫はついて来た。
尻尾をピンと上にあげ、なんだか上機嫌な様だ。
梨子「あなたはどうして私についてくるの...?」
そう尋ねても、猫はニャアと鳴くばかりだった。 花丸「おーい、梨子さん!!」
遠くから花丸の声がする。
猫は花丸の姿を少し見つめた後、スタスタとどこかへ行ってしまった。
花丸「ライン見たけど、梨子さん、大丈夫!?」
梨子「ええ、何もついて来てないといいんだけど、とりあえずなんともないわ...」
花丸は再び狐の窓を作り、あたりを見渡す。
花丸「何もいないみたいずら。とりあえず、おらの家で話そう。そこは安全だから」
梨子「ええ、そうしましょう」
そのままバスに乗り込む。
その道中でも、道にうずくまる人、何か遠くを見つめる人など、沢山の何かを見たが、話さないことにした。
バス「次止まります」プシュー 花丸「こっちずら」
梨子「うん...」
少し歩くと、威厳を湛えた山門が見えてきた。
梨子「立派ね...」
花丸「そんなの、見た目だけで後は何も面白いものないよ」
梨子「すごい、古くて、立派なお家ね」
花丸「広いだけで、夏は虫が湧くし、冬は隙間風だらけで住むのには不便だよ。今日は本堂に案内するね」
梨子「ええ、わかったわ」
梨子は先ほどから、ピリピリした空気の違いの様な物を感じていた。
宗教的なものか、浄化の力なのかわからないが、黒い影やおかしなものは一切見えない。
花丸が安全な場所だと言っていた理由はこれなのか、と妙に安心した。 梨子「花丸ちゃん、質問なんだけど、どうして本堂なの...?」
花丸「それは“あれ”がオラ達を守ってくれるからずら」ガラガラ
梨子「?」
本堂の扉が開け放たれた。
少し薄暗いが、花丸は電源を探してうろちょろしている。
花丸「さ、入ってどうぞ。おら、座布団と飲み物とってくるずら」
梨子「お邪魔します...」
そのまま宿坊の方へ向かっていった。
ピリピリとした空気は一層強くなっていた。
その元をたどると、薄暗い奥の厨子から強く感じられるのだとわかった。
おそらく、あの厨子の中に秘仏が眠っているのだろう。
梨子「(守られてるって、そのまんまの意味だったんだ...)」 花丸「梨子さん、戻ってきたずら」
花丸は器用に座布団と飲み物を持って戻ってきた。
花丸「お見苦しいところを見せてごめんね」
梨子「ううん、そんな気を使わなくても大丈夫だよ」
花丸「ああ、そうだこれ、うちのお守り。梨子さん、これを離さず持っててね」
花丸「“信じる心”がなによりも大切だから」
梨子「ありがとう...」
花丸「ところで、これまでのことなんだけど、もっと詳しく聞かせてもらえないかな?」
梨子「...うん。あのね..」
梨子は今までに体験した事を詳細に語り始めた。
今まで霊障的な物に障った事がなかったのに、急に見え始めてしまった事、学校での体験、夢の話、そして今日の出来事。
いずれも嘘の様な、自分でも本当に起こったのだと信じきれない話ばかりである。しかし花丸は、その一つ一つを丁寧に聞き入っていた。 花丸「ところでさ、梨子さん。幽霊とか、その世界について、どう思ってる?」
梨子「どうしたの急に...?今まで見たのとかから言うと、見える人と見えない人がいるってぐらいしか...」
花丸「それについてだけど、おらはこうなんじゃないかと思ってるの」
花丸「幽霊や霊、神的な物と、おら達人間の住む世界は重なり合ってる。仏教の彼岸や西洋宗教の天国みたいに切り離されているものじゃない」
花丸「例えるなら、電磁波みたいなもので、普段は見ることができないけど、チャンネルを合わせたり、媒体があれば見ることができる」
花丸「今のまる達はなぜか霊的な物とのチャンネルがあっていて、“彼ら”を見ることができる。そのほかにも、儀式とか、媒体を使うことによって霊的な世界と“交信”する事が出来るんじゃないかって」
花丸「梨子さんの今の症状は、おらとは違って後天的なもの。何かチャネルを開く原因があったなら、閉じる原因もあると思うの」
梨子「それってつまり....」
花丸「そう、梨子さんの見えているものを消せるかもしれない。何か思いつく原因ってないですか?」
梨子「...ごめんなさい。わからないわ」
花丸「今は思い出せないかも知れないけど、絶対、梨子さんの症状は元に戻る。おらが戻してみせる」
梨子「どうしてそこまで手伝ってくれるの...?」
花丸「だって、Aqoursは9人じゃなきゃ。梨子さん達は、まるに居場所をくれた。だから、今度は恩返しをする番」
梨子「優しいのね、花丸ちゃんは...」 花丸「さっきまるが梨子さんに渡したお守りは、うちの御本尊がついてるから大丈夫」
梨子「そういえば、さっきから、あの厨子の中になにが入っているの?すごくピリピリした空気を感じるんだけど...?」
花丸「うちでは孔雀明王を信仰してるずら。人々の苦悩や厄災を取り除く、と言われてるらしいよ」
梨子「ヘぇ、そうなんだ...」
梨子「あ、そういえば、お守りについてなんだけど...」
梨子「ダイヤさんから、前にお守り頂いたの。元は朱色だったんだけど、私がアレを見出すのと一緒に色が一気に白くなっちゃって」
梨子「今持ってるから見せるね」ゴソゴソ
梨子「ほら、これ!」 そう言って今は白くなってしまったお守りを見せる。
花丸「見た事ない形してるね。普通はお札型とか、平たい感じなのに...」
そう言われて、梨子は初めて違和感に気づく。
梨子「そうね。普通のお守りって言ったら平たいのが多いよね。でも、これ、中に何か入ってるみたいなの」
花丸「へぇ、珍しい。普通、木の札とか、畳んだお札とかが入ってるのに...」
梨子「花丸ちゃん、詳しいんだね」
花丸「まぁうちで販売してるお札とか、全部手作りだし、よくその手伝いしてるからね...」
梨子「そうなんだ。この中身って見ていいの...?」
花丸「普通は見るべきものじゃないよ。何かたたりがあるかもしれないし...」
梨子「そっか。あとね、これ、ダイヤさんの親戚が管理する山にお社があるみたいで、そこのお守りらしいの」
梨子「場所は総合病院の裏手の山だったかな」
花丸「えっ!?」 花丸「その山、もしかしてまつが山?」
梨子「名前まではちょっと覚えてないかな...でも確かに総合病院の裏よ」
花丸「...その、言いにくいんだけど、この辺りじゃ有名な山なんだ。呪われてるって...」
梨子「...それ、どう言う意味なの...?」
花丸「その山で、行方不明者とか、じさつ者とかがよく出るの。まぁ、数年に一度って感じなんだけどね」
花丸「後、気味の悪い噂もあって」
花丸「その、言いづらいんだけど、見つからないのは、土地の管理者一族が警察に賄賂を受け渡してるだの、カルト的な物に人を捧げてるだのって、よくない噂があって...」
梨子「土地の管理者って確かダイヤさんの親戚よね」
花丸「うん、黒澤宗右衛門新宅のおじさん」
花丸「ああ、つい屋号で言っちゃった。ダイヤさんの、お父さんの兄弟。家は継げなかったけど、苗字は継いでるの。それでみんなからそう言われてる」
梨子「へぇ...田舎ってそんなシステムがあるのね...」 梨子「でも綺麗な山だったわよ。紅葉も綺麗で、そんな山だったとは思えないぐらいに」
梨子「そういえば、途中の滝壺で、綺麗な紅葉の老木を見たわ」
梨子「ダイヤさんが案内してくれたの。その後、写真撮って帰ったと記憶してるけど...」
花丸「ダイヤさんがどうしてそんな場所に...」
梨子「どうしたの...?」
花丸「さっき、あの山ではじさつ者がよく出るって言ったよね」
梨子「ええ、そうね」
花丸「みんな、その滝の近くの紅葉の老木に縄をかけて、首を吊ってしんでるんだ...」
梨子「嘘っ...!!!」
花丸「嘘じゃない。図書室に、古い新聞とか置いてあって、おら、暇な時に読んでたんだけど、どの記事も、老木に縄をかけたって...」
梨子「....」ゾッ
梨子「ダイヤさんは、一体何が目的で私を紅葉狩りに誘ったの...?」 梨子「あ、その写真についてなんだけど...」
梨子「何か映ってたら怖いから、一緒に見てもらってもいいかな...なんて」
花丸「...え。正直見たくないけど、何か梨子さんについての手がかりがあるかも知れないから...」
梨子「じゃあ、ちょっと待っててね。今見せるから」
梨子はカバンからスマホを取り出し、するするといじる。
確か、滝と老木を背後に、二人で自撮りをしたはずだ。
梨子「うーん、何処だったっけなぁ?あ、そうか1ヶ月ぐらい前だから、こっちのフォルダに移ってるんだった...」
梨子「サムネこんなのだったっけ?」
梨子「???」
梨子「...!」 2人で、笑顔で写真を撮ったはずだった。
しかし、そこに写っていたのは、笑顔の梨子と、無表情のダイヤだった。
濃い翡翠色の瞳は、残酷なまでに冷徹にこちらを見据えている。
梨子「嘘...こんな写真撮った覚えないのに!」
花丸「よくわからないけど、写真が変化したって事...?」
花丸「そういう心霊写真とかは昔よく聞いたけど、まさか実際に遭遇するなんて...」
花丸「梨子さん、ねえ、これって...」
花丸はそう言って写真の背景を指差す。
花丸がなにを指摘したかったか分かった瞬間、梨子はスマホを落としそうになった。 人だ。
多くの半透明の幽かな人が、ダイヤと同じく無表情でこちらを見ている。
老木の上や、岩の上に、何人、いや何十人という人が写り込んでいる。
梨子「...ひっ!!」
花丸「落ち着いて、ここは守られてるから大丈夫」
梨子「でも!!撮った時にこんな人いなかったわ!もうどうしたらいいの!?」
花丸「とりあえず、ダイヤさんに聞いてみよう」
花丸「ダイヤさん、ラインやってないから、遠まわしにメールでも送って、明日聞きに行こう?」
梨子「...」
梨子「....えぇ」
梨子「....」
梨子「あのね花丸ちゃん。私ね、今気づいたの」
梨子「見え出した時期と、紅葉を見に行った時期って同じぐらいだなって...」
梨子「そう思いたくないんだけど、見え出したのって、ダイヤさんのせいなのかな...」 花丸「...え?」
梨子「私だってダイヤさんの事は疑いたくない。でも、ダイヤさんと一緒に、あの山に行って紅葉狩りをして、その中で何か原因があったんじゃないかって...」
花丸「....」
花丸「おらだって、ダイヤさんを疑いたくない。もしかしたら、あの山自体が原因だったかもしれない」
花丸「...だから、だからおらは、あの山について、調べてみる。あと、ダイヤさんにメールを出すのもおらがやる」
花丸「全部、全部まるに任せて。絶対に原因とその解決策を見つけて見せるから」
梨子「....うん、ありがとう」
花丸「もう夜も遅いずら。バスで行くのもなんだから、おらの親に送って貰えるよう頼んでみるずら」
梨子「ごめんね。何から何まで...」
花丸「ちょっと呼んでくるね!」パタパタ
その後、花丸の父親に家まで送ってもらった。
途中、救急車が通りかかり、車を止める。
梨子「(だれか倒れたりでもしたのかしら...?)」
家に着き、別れ際に花丸がお守りの事を話してきた。
肌身離さず持つようにという指示であり、お礼を述べてわかれる。
その後は、不思議なものは相変わらず見えるものの、いつもと変わりなく過ごし床に着いた。 梨子「...ん」ムニャムニャ
ライン「ピロン!」
梨子が気持ちよさそうに寝息を立てる中、スマホの画面は通知で溢れ返えってゆく。 梨子「ふぁ〜よく寝た」
梨子「ん?ライン、通知いっぱい来てる。何があったんだろう」
梨子「えっ...」
ルビィ:お姉ちゃんが倒れて今救急車で運ばれてる
その後のラインも読み飛ばすが、ダイヤの状態はあまり良くないらしい。
梨子「大丈夫なのかしら...心配だわ」
大丈夫?と、それしか送る事が出来なかった。これしか今は言葉が出ない。
おそらく、近日中にルビィから連絡が来るだろう。
それを待つしかない。 今日は皆、元気がなかった。
昨晩の事を急に聞かされたら、そう思うだろう。
梨子「大丈夫なのかしら、ダイヤさん」
曜「やっぱり気になるよね。鞠莉ちゃんに確認したら、親御さんの方から入院手続きがあったって...」
千歌「ダイヤさんもそうだけど、次のライブどうしよう。欠場にした方がいいのかな」
曜「それは、今日、みんなで決めよう。梨子ちゃんも一緒に参加して」
梨子「分かったわ...」
千歌「あっ、ルビィちゃんから連絡来てる。ダイヤさん、命に別状はないけど、まだ昏睡状態が続いてるって」
曜「ルビィちゃん、今日は昼から登校するって言ってたね」
千歌「今後のライブとダイヤさんの事、全体ラインに入れとくね」
梨子「...うん」 ダイヤの事を思いながら時間が過ぎる。
山の事、紅葉の事、そして夢の事。思えばあの夢に出てきた女主人は、雰囲気がダイヤに似ていた。関係がないとは思えない。
梨子「はぁ〜」
「ニャオン」
気の抜けた声がする。気づけば、足元に例の黒猫がちょこんと座っていた。
猫「ピョン」
また机の上に乗ってきて、のの字になり、ゴロゴロと喉を鳴らしながら寝息を立て始める。
梨子「(この子は呑気でいいなぁ)」
梨子「私が貴方だったらいいのに...」
千歌「梨子ちゃんどうしたの?」
梨子「気にしないで。ただの独り言よ」
猫は気まぐれと言うけれど、もしかしたら、この猫は私の事を守ってくれているのではないかと、梨子は少しずつ思い始めた。
猫は帰りのホームルームまで一緒についてきた。
それまで、変なものを見る事は少なかった。 千歌「...みんな集まってくれてありがとう」
重苦しい雰囲気の中、ミーティングは始まる。
千歌「ラインでも流したんだけど、ダイヤさんについてと、この次のライブ、どうするかについてで...」
「.......」
皆押し黙っていた。
「.....」
その沈黙を、幼い声が終わらせる。
ルビィ「あ、あの!お姉ちゃんについてなんですけど...」
ルビィ「みんなに黙っていてごめんなさい。お姉ちゃんにずっと黙っとけって言われてて、でも!こうなっちゃったから言います」
ルビィ「....お姉ちゃん、病気なんです」 果南「それってどう言う事!?どうして早く言わなかったの!?」
鞠莉「ダイヤが最近調子悪かったのはそれが原因なのかしら...?」
ルビィ「はい...丁度1ヶ月前ぐらいだったと思います。お姉ちゃん、急に顔が青くなるぐらいの腹痛を訴えて、その日のうちに病院に行ったんです」
ルビィ「大事をとって、精密検査をしたら....そしたら、お腹に腫瘍があるってわかって...」
一同「!?」
果南「どうして!どうしてそんな大変な事誰にも言わなかったの!!」
ルビィ「ちょ、ちょっと待ってください。確かに腫瘍とは言ったけど、早期発見だったみたいで、薬の投与で治るだろうってお医者さんに言われて」
ルビィ「それで、運動も問題ないから、みんなには心配かけたくないから、黙ってろって口止めされてて...」
ルビィ「子宮筋腫って言う病気らしいです。子宮に腫瘍ができて、生理とかが重くなったり、出血量のせいで体調が悪くなる病気だって聞きました...」
ルビィ「...でも、この前エコーとったときは、大分良くなったって言ってたんです。だけど、エコーの影になる所にもう一個腫瘍があったみたいで...」
ルビィ「それが悪化して、病院に....運ばれて...」グスン ルビィ「一旦、治療の為に生理を止める薬を飲んでたみたいなんです。でも、良くなったから、その薬をやめて、おそらく生理が来た」
ルビィ「その後、一つの悪性腫瘍のせいで、出血がひどくなって、倒れちゃって、それで...」
ルビィ「色々な薬を投与されて、今は眠っています。おそらく、向こう3日は目覚めないだろうってお医者さんが言ってました」
一同「....」
ルビィ「....」
ルビィ「わ、私は!」
ルビィ「私は次のライブ出たいです!お姉ちゃんが倒れちゃって大変で、心細いけど、お姉ちゃんならきっと出ろって言うはずです」
ルビィ「だから、出なかったって言う後悔をしたくない!」
千歌「ルビィちゃん...」
千歌「そうだね...次のライブ、でよう」
千歌「みんな、次のライブ出るって事でいいかな?」
「「「「「「「うん」」」」」」」 ミーティングが終わった後、花丸と少し話す。
花丸「ダイヤさん、あんな事になってたなんて...」
梨子「本当に、大丈夫なのかしら...心配だわ」
花丸「あのね、例の山についてなんだけど、今日図書館で調べてみたんだ」
花丸「まだ本に目を通したわけじゃないから、何もわかってないんだけど...」
花丸「地理とか、そんなんじゃ云くなんて載ってないだろうと思って、編纂史とか民俗資料とか当たる事にしたの」
梨子「そうなんだ...何から何まで本当にごめんなさい。私に出来る事があったらなんでも手伝うわ」
花丸「大丈夫、まるがなんとかするずら」
梨子「優しいのね、花丸ちゃんは...」
そのまま話半ばで別れてしまった。
花丸と、その他のメンバーは、立ち位置などの再確認があるため、この後も少し話し合いを続けるそうだ。
梨子「ダイヤさん、大丈夫なのかしら...」
梨子「1ヶ月ぐらい前って確か、紅葉狩りに行った時よね。その時に、苦しそうにしてたのって、病気が原因だったのかしら...」 梨子「民俗資料か...」
ダイヤの事を心配しつつも、先ほど言った花丸の言葉と、山の事が気になる。
梨子「図書館って、確か7時までだっけ...」
この時間には生徒はとっくに帰っているものの、司書教諭の方々が本の貸し出しをしている。
梨子「...」時計チラッ
梨子「まだあと1時間ぐらいあるわね...ちょっと寄ってみよう」スタスタ 梨子「こんばんは」
司書教諭「こんばんは」
この前、倫理の授業の際に花丸に教えてもらった棚の位置を思い出す。
梨子「確かこの辺よね...」
梨子「うーん、どれ借りていけばいいのかしら?」
民俗資料といっても幅が広い。生活の道具から、人々の間に伝わる伝説の様なものまでと、様々なものがある。
梨子「(こんなに揃えてるなんて、先先代の理事長も相当物好きな人だったのね)」
梨子「(でも、そのおかげで助かってる。感謝しなきゃ)」
梨子「うーん」
梨子「あっ、これ...この前の」
古ぼけた本の表紙には“沼津市編纂民俗宇治拾遺”の文字がぼやけて書かれていた。
梨子「....」パラパラパラ
梨子「(人々の生活と民話や伝説について幅広くカバーしてるみたいね...ちょっと分厚いけど、これにしよう)」
梨子「すいませーん」貸し出しお願いしまーす」 梨子「(はぁ、なんとか帰って来れた...)」
梨子「(あのバス、無害だけど、後部座席に座ってる男の人の幽霊見るたび心臓がドキドキする...何度見ても慣れない)」
梨子「(制服も脱いだし、とりあえず明日の準備もしてあるし、ご飯までの間、本を読んでみよう...)」パラパラ
その本は、戦前に書かれた資料を1970年代に再編纂したものの様だ。その際に幾つかの新しい資料が追加された様だ。
前半は生業や生活に関わる道具で占められていた。後半部は地域の民話や伝説、伝承を寄せ集めたものが載っている。
梨子「あの山に関する事、何かないかしら...」
梨子「花丸ちゃんは、あの山の事をまつが山って言ってたけど、制式名所は別の名前だったし、どれを調べればいいのかわからない...」
目次やそれっぽいものを拾い、読み進めていくうち、内浦地区の民話が載っている章に入る。 梨子「へぇ...こんな話が地域に伝わってるのね」
梨子「あっ、これってもしかしてダイヤさん家のお話...?」
梨子「へぇ、あのお家にこんな言われがあったなんて知らなかった」ペラペラ
少しばかりおもしろくなって読み進めていく。
晩ご飯のことなんて、もうすでに頭から抜けていた。
梨子「...ん?」
_______孔雀明王と黒澤家に伝わる秘伝について_______ 孔雀明王と黒澤家、そして内浦地区には以下のような言い伝えが残っている。
古くから、この地区は男照りに悩まされていた。
その原因が以下のためであると伝わっている。
_____
___
_
未だ内浦が、小さな村であったころの話。小さな漁村といえど、伊豆方面と富士方面から来る、人の往来が激しかった。
秋も深まってきたあるころ、一人の老婆がこの漁村を訪れた。
老婆の身なりはみすぼらしく、においもひどい。ゆく先々で水やら食糧やらを求める。どうやらこの老婆は宿を探しているらしい。
しかし、住民は老婆を気味悪がり、家には上げなかった。最終的に老婆は長者の屋敷へと向かう。
この長者はたいそう気が短い男で、敷地内に老婆が来るのを嫌がり、老婆を見た瞬間、ひっ捕らえ、むち打ちにし、木に縛り付けてしまった。
翌日、長者が老婆の様子を見に行くと老婆がいない。
すると空から、「我は、孔雀明王の化身であった。現世へと出向き、どのようなものか見回ったが、お主らの悪行しかと見届けた。我は、衆生と利益をつかさどる。お主らに罰を与えよう」と聞こえてきた。
以降、長者の家は傾き、この漁村では男が生まれにくくなり、さびれてしまった時期があったそうな。 ______
____
___
これに対して、黒澤家ではある秘伝を用いて、黒澤家の当主のために男児を生ませる儀式が、江戸時代末期まで続いていた。
これは、黒澤家三男平野喜善さんより寄稿された話である。
喜善さんが、子供の頃、まだ日本が開国する前のことであった。
この時、黒澤家に伝わる秘伝が数十年ぶりに行われたのだ。そもそもの儀式の源流は、孔雀明王に赦しを乞う為のものであったが、流れの行者が秘術と秘仏の歓喜天を授け、次第にこれに祈りを捧げる様になったと言う。
内容は、次代当主となる者と、浮浪者を松ヶ山に一緒に登らせ、山の中腹にある紅葉の木に向かって何かを捧げる。
何かとは喜善さんにもわからないらしい。どうやら次代当主しか知り得ぬものだそうだ。
その儀式を行なうと、必ず次の代には男児が生まれると言う。不思議な話である。
また、歓喜天を祀る社も山の中に隠されているらしい。
喜善さんは、その位置を知っているのも当主のみであると語った。
_____
___
_ 梨子「まつが山....」
その言葉を何度も何度も反芻する。
そして黒澤家の秘伝。心あたりがないわけない。
梨子「これってもしかして...」
梨子「浮浪者は、私...?」
梨子「ダイヤさんが、私を紅葉狩りに誘ったのって...」
梨子「花丸ちゃんに相談した方がいいのかな...した方がいいよね、絶対」
「ごはんよ〜」
梨子「ビクッ!」
梨子「は、はーい、今行く!」
梨子「とりあえず、明日また会うからいいよね...」
梨子「ご飯食べてこよ」 地域変わってるだろうけど>>1だよー
ずっと見てるから頑張ってー セルフ保守
ちょっと今日は忙しいので無理です
明日たくさん投稿します 次の日の昼休み
梨子「こんにちは〜」
花丸「梨子さんこんにちは」
梨子「ちょっと話したい事があって来たの」
花丸「何?やっぱりあれの話?」
梨子「そう、それでこれなんだけど...」
花丸「一番目の話はおらも聞いたことあるずら。というか、許しを乞う為に建立されたのがまるたちのお寺って言う話も残ってるし...」
花丸「二つ目は知らなかった。でも、もしダイヤさんがこの儀式を行なったとして、疑問は二つある」
花丸「一つ目は、江戸時代に絶えて久しい儀式がなぜ現代に行われたのか」
花丸「二つ目は、紅葉に捧げたのは何か。梨子さんの記憶の中では写真撮って帰ったんでしょ?写真はああなっちゃったけど....」
梨子「うん、それもあるけど、前夢の話したでしょ」
梨子「夢の中で襲われた話。あの夢に出て来た人って、この中に書いてある、流れの行者と、その時の主人だったんじゃないかって」
梨子「でも夢は無意識が現れるって言うから、私がダイヤさんの家や門を無意識のうちに心に投影して、それを見てしまったってのもあるかも知れない」 梨子「それと、気になるんだけど、この歓喜天って言う神さま?それとも仏像なのかな?これは何?」
花丸「天ってついてるから、多分仏教だと思う。天って、四天王とかの天と同じである位を表す言葉だから...でもよくわかんないや」
花丸「ちょっと待ってね、確かこっちにそういう本があったはずだから...」テクテク
花丸「えーっと、この棚のこの本だったっけな...そうそうこの本」
そう言って花丸は古ぼけた本を持ってきた。おどろおどろしいフォントが表紙を包んでいる。
梨子「大日本呪術全書...」
花丸「表紙は二流品に見えるけど、内容は一級品ずら。民間信仰とか、呪術とか、祟り神とか、そんなニッチなものを集めた本」
花丸「多分、おらがその仏の名前を知らないって事は、密教系か、もしくは呪物とかそういう系だと思うから...」パラパラ
花丸「あったあった、よかった載ってて」 ____大聖歓喜天(聖天)の呪法_____
象頭人身の男女二体の神が抱き合っている異形の天尊、聖天は秘仏中の秘仏である。
財福はもちろん、病気平癒から何から何までと、祈れば成就しない事はないと信じられている....
....聖天を祈ればご利益がもらえるのは間違いないのだが、とにかくその代償が恐ろしいとされ、聖天だけには近づいてはならないともされる。子孫の七代までの服を一代でとるとも言われ、その代償として、子孫を絶やされたり、死後の財産はさっぱり失われるともされる....
いわゆる、狐憑きや管狐にその信仰は似ているが、“祀り続けなくては祟りがある”とまで言われ、その側面に関してはオシラ様などの祟り神に近いのかもしれない。
普通、男女二体の神で祀られるが、時に単身で祀られ、その場合は霊力が最も強く、扱うのが難しいとされる。
そのため、家から離れた所に秘仏を祀り、家には別の仏像を祀る事が多々あった。
歓喜天は赤い砂金袋で表されることもある。これを使って他者に福や呪法を授けるとされる.... 花丸「...祟り神ねぇ...」
梨子「もしかして、ダイヤさんって、それにやられたんじゃ...」
花丸「まだわからないよ...ダイヤさんが、オラたちと同じ様に、見えて、感じて、影響を受けるかどうかわかってないし、断定はできない」
梨子「そっか...でも、さっきの二つの疑問もあるし、私ももうちょっと、ここら辺の地理とか、民話について調べてみるね」
花丸「うん、本当は梨子さんに負担をかけたくないんだけど...」
花丸「あっ、そうだ。オラからもわかった事があって、一つだけだけど話すね」
花丸「梨子さんが登った山は、市民病院の裏の山だよね」
花丸「今は名前かわっちゃってるけど、オラたちはずっと古い名前で呼び続けているずら」
花丸「それで、松ヶ山についてなんだけど、名前の由来がどうも...」
そのまま花丸は口籠る。
花丸「....」
梨子「どうしたの?」
花丸「名前の由来が、古語のマガツから来てるみたいで...」
花丸「マガはそのまま漢字の禍々しいのマガ、ツは格助詞でのって意味で...訳すと禍の山って意味になるらしいの」 花丸「オラたち、地元住民の間でも、ずっと呪われてるって噂がある事、前に言ったよね?」
花丸「どうやら、オラたちが生まれる前、ううん、それよりもずーっと前からあの山は呪われていたのかもしれない」
梨子「そんな...」
花丸「オラは、もっとあの山について調べてみる。もしかしたら、あの山に蔓延る瘴気とかそんな暗い、良くない物に当てられてチャンネルが開いたのかもしれない」
花丸「もしそうだったら、御祓とかで祓えるかもしれないから...」
梨子「そこまでしてくれるだなんて...」
梨子「ありがとう。でも、絶対に無理はしないで。花丸ちゃんまで、私みたいに強く見えるようになってしまったら...」
花丸「大丈夫!いざとなったら、おらのうちの御本尊がついてるから!」
「ニャー」
梨子「きゃっ!」
梨子「っていつもの子かぁ、驚かせないでよ...」
花丸「もしかして、黒猫ちゃん?」
梨子「えぇ、そうよ。最近学校内で会うと私についてくるの。ちょっと授業の邪魔とかするけど、私を守ってくれてるみたいで」
花丸「ああ、だから通りで最近はあんまり図書室で見なかったのか」
キーンコーンカーンコーン
梨子「もうこんな時間。花丸ちゃん、一緒に戻ろ」
花丸「うん!」 梨子「(色々と気になる事がたくさんありすぎて集中できない)」
梨子「(あの山が呪われていて、私も呪われてしまったから見えるようになった...?)」
梨子「(そもそも、ダイヤさんちに伝わる秘術に巻き込まれたって言う証拠はどこにもない)」
梨子「(写真が変わっていたのがとても気になる...)」
梨子「(それと最後にお守り、さっき言われても気づかなかったけど、歓喜天?砂金袋は、ダイヤさんから貰ったお守りに似ている気がする)」
梨子「(巾着袋みたいで、普通のお守りみたく、平たくないし、そして赤かった)」
梨子「(まだあやふやだけど、いつか謎を解明できるかもしれない...)」
スマホ「ピロン」
梨子「(あっ、通知切るの忘れてた)」
行者「誰だ〜?スマホ切っとけよ〜」
梨子「すみません、今切ります」ゴソゴソ
梨子「(ライン来てる。読みたいけど、後ででいっか)」 キーンコーンカーンコーン
千歌「ふわぁ〜やっと授業終わった!」
曜「千歌ちゃん、ずっと寝てたね。テスト近くなってもノート見せてあげないよ?」
千歌「よーちゃんは甘い!睡眠学習ってのがあってだね!」
曜「千歌ちゃんのはただの睡眠でしょ?」呆れ顔
千歌「助けて梨子ちゃん!曜ちゃんがいじめる〜」
梨子「もー千歌ちゃんったら、そんな事言っても、私も見せてあげないわよ」
千歌「わーん、2人して酷い事言う!!」
スマホ「ピロン」
千歌「全体ラインに何か来てる...」
千歌「ダイヤさんが目覚めたって!!」 曜「えっ!?ほんと!?」
千歌「ルビィちゃんがお家の人から連絡があったみたいで、今日は練習に参加しないで帰るって」
梨子「本当だわ。お医者さんは3日間昏睡状態が続くだろうって言ってたけど、目覚めてよかったわ」ホッ
曜「ダイヤさん、早く良くなるといいね」
千歌「じゃあ、私たち、これから練習するから、梨子ちゃんバイバイ」
曜「お疲れ様であります」
梨子「じゃあね」
そう言って2人は部室の方に駆け出していった。
梨子「あ、そういえば、授業中にライン来てたんだった」
梨子「誰からだったかしら?」 ライン「国木田花丸がメッセージを取り消しました」
梨子「?」
梨子「何があったのかしら...」
梨子「気になる...何を送ろうとしていたのかしら。何で取り消したのかしら...」
梨子「でも、花丸ちゃんの性格だから、後で絶対説明があるはず。間違って送ったかもしれないし...」
梨子「考えすぎか...」
今日も放課後は図書館へ向かう。
調べる事は三つ。
はじめに、地域の民話について。
二つ目は、あの山について。
最後に、歓喜天について。
しかし、いくら探しても参考になる様な本は見つからない。どれもこれも似たり寄ったりな内容ばかりで、新しい発見はなかった。 梨子「はぁ」
ため息をしながら、図書館を後にした。
最近ため息が多くなったなと梨子は思う。
もしもいつものように2人が側にいたならば、幸せが逃げちゃうよと言って笑うのだろう。
明日は休みだ。学校の図書館は半日しか空いていない。
しかし、今日収穫がなかったのに、明日もあるわけないだろうな、と心の片隅で思う。
「ニャー」
可愛らしい声が隣で響く。この子は今日一日中後をついて来た。
梨子「今日もありがとうね」
頭を撫でるふりをする。
猫はそれを察してか、目を細める動作をした。
梨子「バスに乗り遅れちゃうから、それじゃあね」タタタ
ニャーと一言猫は鳴いた。 梨子「(どうしよう、何の進展もない)」
梨子「(何か、何かないかしら...)」
梨子「(一応web上に情報がないか調べて見たけど、やっぱり何もなかった)」
梨子「(はぁ)」
バス「次止まります」
梨子「(もうお家に着いちゃったわ)」
バス「プシュ〜」
梨子「あ、おります、降ります」 梨子「ただいま〜」
母「お帰りなさい」
母「梨子、アンタ明日暇?」
梨子「どうしたの急に?」
母「田中さんって覚えてる?私が押し花教室で知り合ったあの人」
母「何回かうちに来たことあって、梨子もお話ししたわよね」
梨子「ああ、あの髪の毛に赤いグラデーションがかかってる人?」
母「そうそう、その人。最近分けあって、そんな大した事じゃないんだけど入院してるみたいで」
母「あの人にちょっと用事を頼まれちゃったんだけど、私行けなくなっちゃって」
母「代わりに梨子が田中さんに荷物を届けて欲しいんだけど、いいかしら?」
梨子「いいけど...どこの病院?」
母「いつもの市民病院まで。部屋番号はここで、ちょっと早いけど、明日の11時ぐらいにお願いしたいわ」
梨子「わかったわ」
母「後これお駄賃。何か好きなのあったら買っていいわよ」
梨子「ありがとう」
母「じゃあご飯にしましょうか」
梨子「うん!」 〜次の日〜
梨子「荷物良し、財布よし!それじゃあ行ってきます!」
母「ごめんね。田中さんには事情を話してあるから、よろしく頼むわよ」
梨子「うん、じゃあお母さんも気をつけてね」
母「ええ」
少し歩いてバスに乗り込む。
病院までの道すがら、色々な物を見たが、もうすでに道端の小石程度にしか感じなくなっていた。
やがて病院に着く。
病院の至る所に蹲る人や、虚空を見つめ、不自然な角度で壁に突き刺さっている人ならざる者を見た。
梨子「確かここよね」
梨子「うん、時間もばっちり」
梨子「こんにちは〜」
田中さん「あ、梨子ちゃんこんにちは!」
しばらく談笑にふけっていた。田中さんは母に貸していた道具を返して欲しかった様だ。お大事にと挨拶をして帰ることにした。 帰り際、お菓子まで貰ってしまい、少し困惑してしまったが、素直にもらうことにした。
時刻はもうすぐ12時。お腹が空き始めた。
このお菓子を食べても良いが、お腹にはあまり貯まらず、中途半端な時間にまた食べる事になってしまう。
梨子「(カフェでも寄ろうかな...)」
お昼のピーク少し前なので、まだ人がまばらだ。
サンドイッチセットを頼み席を着く。
するとお店に見慣れた赤髪の少女がやってきた。
梨子「ルビィちゃん...?」
相手もすぐに気づいた様だ。
ルビィ「あ、梨子さんこんにちは」
注文を受け取ると、後ろの貴婦人に向かって話しかけた。そのままこちらへ寄ってくる。どうやら家族と一緒だったらしい。
梨子「(悪いことしたかも)」
ルビィは梨子の前の席に座った。
梨子「あ、ごめんなさい。家族と一緒だったのに。私1人で食べるから、ルビィちゃん戻っても良いよ?」
ルビィ「あ、気にしないでくだい。お姉ちゃんの事とか色々誰かに話したくて...」
ルビィ「梨子さんも検索とかですか?」
梨子「いいえ、ちょっとお使いを頼まれてここまで」
ルビィ「そう、なんですか...」 梨子「ところでダイヤさんは大丈夫なのかしら?」
ルビィ「とりあえず、集中治療室から出してもらえて、様子を見に行ったんですけど、疲れてたみたいで寝てました」
ルビィ「お姉ちゃん、しんじゃうんじゃないかって、ほんと心配で、心配で...」
梨子「...大丈夫よ。だってダイヤさんだもの」
ルビィ「...今はまだ寝てますけど、これから簡易的な検査を受けて、明日精密検査を受けるってお医者さんが言ってました」
ルビィ「場合によっては、もっと入院するかもって」
ルビィ「...」
梨子「ルビィちゃん、私にできることが有ればなんでも言って」
ルビィ「ありがとうございます。でも、私達は結局祈る事しかでないんです...」
そのまま気まずい空気の中、2人は食事をし始めた。 ”祈る事しかできない“その言葉に梨子は弱冠の違和感を覚える。
梨子「ルビィちゃん、祈るって、何に祈るの?」
ルビィ「?」キョトン
ルビィ「それは、もちろん....」
ルビィ「あれ?何に祈るんだっけ?」
ルビィはそのままうんうん唸り始めた。何か記憶が抜け落ちた様な、そんな印象を受ける。
ルビィ「あれ?あれ?おかしいなぁ、思い出せない」
梨子「どうしたの?」
ルビィ「いえ、よくわからないんですけど、祈るっていう言葉は急に頭に思い浮かんだんです」
ルビィ「でも、何に対して祈るとか、どこか神社やお寺的な場所に行ってた様な気もするんですけど、急に思い出せなくなっちゃって」
ルビィ「でも、親戚とか、誰かが具合悪くなったときには、いつも祈ってた様な気がするんです」
梨子「...あ、なんかごめんなさい。変なこと聞いちゃったわ」
ルビィ「いえ、おきになさらず」
その後もルビィは何か考え事をしているようで、時々顔をしかめてはふと元に戻ったりの繰り返しをしていた。
側から見ても、何か思い出せないことを無理やり思い出そうとしているのだとわかる。
梨子ルビィ「ご馳走さまでした」
ルビィはダイヤの検査に付き合う様なのでそのまま別れた。
時計を確認すると2時前である。午後も予定のない梨子は、これから何をするか考えていた。 ヒューと木枯しが吹く。
髪の毛が揺らぐ。
何故だかはわからないが、後ろを振り向いた。
そこには、一面が真っ赤に染まっている山。
梨子「(そういえばこの山は...)」
足がいつのまにか動いていた。
梨子は磁石の様にその山に引き寄せられられ、山道を登って行った。 紅葉も枯れ始め、山から吹く木枯らしは寒さを届ける。
梨子「はぁはぁ」
梨子「練習休んでるからかしら?ちょっと疲れるかも」
整備された山道の途中で、獣道の様な、人の歩いた形跡があるような細い道を確認する。
検査を受ける前、初めて心療内科を受診した後、この山に登ったのを覚えている。
その時もこの細道が気になり、奥で小さな社を見つけたのだった。
梨子「そういえばこの道は...」
ふと頭に本の内容がよぎる。
梨子は、この前見た社は歓喜天を祀ったものではないかと思い始めた。
梨子「行ってみよう...」 なんてことはない、小さな細道だ。
整備こそされてないものの、ほかの地面と比べ人が往来したように踏み固められている。
梨子「ふぅふぅ」
梨子「(少し寒かったけど、体があったまってきたわね)」
そのまま10分も歩かないうちに、少し開けた場所に出る。
梨子「あった」
朱の色で塗られた小さな社。
その背面には岩肌が露出し、崖のようになっている。
梨子「この社は何を祀っているのかしら...」
神仏に対し、失礼だという気持ちも心の片隅にあるが、覗いてみる。
梨子「....」
梨子「暗くてよく見えないわ」
梨子「スマホのライトを使ったら見えるかしら?」ライトピカ
すると、そこには...。 梨子「何もない...?」
梨子「どうして?」
この角度からは見えないのかと思い、社の横や裏手へと回る。
しかし、側面は全て板張りで、正面の様にガラス戸が置かれているわけではない。隙間も何もない。
梨子「(ただの普通の社だったみたい)」
梨子「(失礼なことをしたわ)」
来た道を戻ろうとした時、ある事に気がついた。
道が更に奥に続いているのだ。
梨子「(奥から何かピリピリした物を感じる)」
梨子「(奥に何があるのかしら?)」
梨子は歩き始めた。先ほどより道が狭く、横から岩が迫り出しているので、少し危ない。
社から50mも歩きもしなかっただろう。
梨子「...これは!?」
梨子「こんな所に、こんなものがあるなんて...」 洞窟が大きく口を開けていたのだ。
梨子は固唾を飲む。先ほどから感じていたピリピリしたものが、この洞窟からますます強く感じていたからだ。
梨子「(この感じ、花丸ちゃんのお寺の本堂で感じたものと似ている)」
梨子「(もしかしたら、この奥に何かがあるのかもしれない)」
梨子は再度スマホを取り出す。
そのままライトをつけて、洞窟の中へ入っていった。 梨子「....」
梨子「(あまり広くもないし、風も感じられないから、中はさほど広くはないのかも)」
梨子「(引っ越してきた時、千歌ちゃんがこの近くに防空壕の跡があるんだよって言って、案内してくれた事があったな)」
梨子「(雰囲気はそれに近いかも。あの時はゲジゲジを見つけて絶叫して帰ったけど..)」
梨子「ここは山の中なのに何もいないみたい...)」
足下を写すが生き物の気配はない。
洞窟の壁は、当たり前だが岩が剥き出しになっている。
しかし床面はおそらく外から流れ込んできた堆積物や落ち葉などで比較的平坦であり、進むのは容易であった。
入り口から30mぐらい歩いたであろうか。
かろうじて入り口からの光が見える。
その光と、スマホのライトは奥に異様な影を映し出した。 梨子「何、これ...」
岩が四角く切り出されており、仏壇を彷彿とさせる。
周りに金色の蓮の花や葉の形をした装飾品が飾られている。
梨子「祭壇...なのかしら...」
梨子「これは...蝋燭?」
三本の蝋燭が、祭壇の手前に置かれていた。
完全に燃え切っておらず、おそらく元の大きさの半分ほどで消えてしまったのだろう。
梨子「もう少し近づいてみよう」
仏壇の様な印象を受ける祭壇だが、扉はついてない。
何かが祀られているようだが、その姿は見えない。
梨子は、奥に隠れていて見えないだけだと思い、そのまま祭壇に近づき始めた。 ライトを掲げ近づく。
この奥にきっと歓喜天がいるのだろう。今度こそそうに違いない。梨子はそう思っていた。
梨子「(この奥に何か手がかりがあるのかもしれない)」
梨子「(暗くてよく見えないから、ライトで照らそう)」
梨子「...?」
予想は外れた。
祭壇の上は空だった。
しかし、おそらく仏像が乗っていたのであろう。
蓮台と仏像を支える穴がポカリと空いている。
梨子「(何もない..?)」
梨子「(でも、台座があるってことは、誰かが持ち去ったとか?)」
梨子「(そもそも、この空間は一体なんなの?)」
梨子「(改めて冷静になると、ここは異様な空間ね)」
梨子「(寒気がしてきた。早く戻ろう)」パキ
梨子「(ひっ!?なんか踏んだ!)」
先ほどまで気にならなかったが、足下を見ると、祭儀に使用したのであろうか、かわらけや磁器類が落ちている。
梨子「(うわぁ...骨とか落ちてないわよね...)」
梨子「(早く出よう)」
そのまま早足で山道に戻った。 山道に戻ると急に動悸が激しくなってきた。
先ほどまでは興奮で恐怖がかき消されていたが、後になってあの空間の意味不明さが梨子を襲う。
梨子「(おそらくあの場所は、本に書いてあった歓喜天の祭壇に間違いないわ..)」
梨子「(でも、中に何もなかった。どうしてかしら...)」
梨子「(ここは地域の人はあまり近づかないって花丸ちゃんが言ってたし、あの道に気づく人も、洞窟を見つけられる人もいないはず)」
梨子「(ルビィちゃんが言ってた祈る場所は、あそこ?でもルビィちゃんは何か思い出せないみたいだった)」
梨子「(あの仏様に本当に力が、なんでも叶える力があるのなら、ルビィちゃんの記憶を消すことも可能なのかもしれない...)」
梨子「ふぅふぅ」
梨子「この山で、木になるのは後もう一つ」
梨子「あの紅葉の老木...」
梨子「正直写真の事もあるから気がひけるけど、もう見えてるし、呪われてるのだから、これ以上悪くなっても変わらないわよね...」
梨子「よし、行くわよ!」
梨子は自分を奮い立たせるともう一度歩き始めた。 梨子「はぁはぁ...」
梨子「道はこっちね。看板があってよかったわ」
梨子「ふぅふぅ...」
梨子「はぁはぁ...着いた」
それなりの大きさの滝と立派な紅葉の老木。
その美しさに圧倒される。
梨子「(何もいないわよね...)」
極々自然に、彼らに見られていないか確かめるために、周りを眺めた。
写真とは違い、人影も、おかしな物も何もない。
梨子「よかった..」
梨子「あの木に縄をかけて...」
正直気持ちの良いところではない。
梨子はその木を遠目から眺めるだけにした。
苔むす老木の根本に、何か白い物が見える。
梨子「なんだろう...?」
近づきたくはないので、同じ位置から凝視する。
梨子「お皿..?」
梨子「なんでお皿?」 梨子「さっき洞窟の中で見た物と似てるかも」
梨子「本に、紅葉の木に何かを捧げるって書いてあったけど、まさかここじゃないよね...」
梨子は色々な事を思い出す。
この山の中で行方不明や不審死が相次いでいる事、黒澤家の秘儀、そして先ほどの洞窟とこの紅葉の木。
全てがバラバラの様な、それとも繋がっているのかすらわからない。
梨子「...寒気がする...」
梨子「勢いでここまできちゃったけど、来るべきじゃなかったのかも...」
梨子「早く戻ろう...」
山を降る。
帰りも何もなく、何者にも遭遇する事なく安全に帰れた。
梨子は背中に悪寒を感じながら元の世界に帰る。
梨子「結局怖い思いをしただけだったわ」
梨子「早くバスに乗って帰りましょう...」 バス「発車します」
梨子「はぁ」
深いため息ばかり出る。結局何も掴めなかった。
梨子「(本に書いてあったことは、どこまでが事実だったのかしら?)」
梨子「(情報提供者が黒澤家の人だったし、もしかしてガセの情報を書いたとか?)」
梨子「(でも、それっぽいのを見つけてしまったし、もしかしたら一部が嘘の情報なのかも...)」
梨子「ふぅ...」
明日も休日だ。しかし何もやる事がない。
最近は練習続きだったので、それが無くなってしまい、他に何をしようか思いつかない。
梨子「(何もやる事ないかも...)」
バス「ピンポーン、次止まります」 乗客が次々と乗り込んでくる。
梨子はなんとなく顔を上げた。
梨子「(もうこの停留所か...)」
梨子「(あれ?外どうなってるの?)」
バスの周囲には霧が立ち込めていた。
それはもう、10m先も見えないぐらいに。
梨子「(さっきまでこんな事になってなかったのに)」
梨子「(冬だから寒暖差のせい?)」
梨子「(不思議な事もあるのね...)」
霧の中をバスは進んでいく。
バス「次止まります」
梨子「(次で降りなきゃ...)」
バス「プシュー」
バスから降りても、あたり一面は霧に包まれたままだった。
道や標識を頼りになんとか家まで辿り着く。
梨子「ただいまー」 梨子母「お帰りなさい」
母「荷物ちゃんと届けられた?」
梨子「うん、ちゃんと届けたわよ。あとね、田中さんからお菓子貰っちゃった」
母「あら、ちゃんとお礼した?」
梨子「うん、ちゃんとしたよ」
梨子「そういえばね、帰り道すごい霧がかかってて、ここまで歩いてくるの大変だった」
母「霧?」
梨子「そう、霧。もう先10mも見えないぐらいに濃い霧がかかっててね」
母「あなたなに言ってるの?」
梨子「へ?」
母「あなた、さっき帰ってきたのよね?窓見たけど、霧なんてどこにもかかってないわよ」
梨子「え?」
慌てて窓の外を確認する。先程までかかっていた濃い霧は、初めから何も無かったかのように、天気は晴天だった。
梨子「嘘...」
母「寝ぼけてたんじゃないの?」
梨子「そ、そうかもね...」 少し不思議な体験をしただけだと梨子は思っていた。
食事を済ませる頃にはその事は忘れていた。
梨子「もう寝る時間ね。明日はピアノでも弾いて時間を潰そう...」
梨子「何時に起きようかしら。ちょっとぐらい遅めに起きてもいいよね」
梨子「あ、そうだ。この前花丸ちゃんからのライン、どうして消しちゃったのか聞いとこう」
梨子「この前の削除したメッセージなに?っと」ピロン
梨子「送信完了!多分もう寝ちゃってるから、明日返事届くかな?」
梨子「私ももう寝よう...」電気パチ 梨子「zzz」
ライン「ピロン」
国木田花丸:メッセージって何ですか?
国木田花丸:最近梨子さんに個別ラインした覚えがないんですが...
国木田花丸:それよりも体調大丈夫ですか? 梨子「んん〜よく寝た」
梨子「あ、花丸ちゃんからライン届いてる」
梨子「ん?私の見間違いだったのかしら...?」
梨子「とりあえず、返事しとこう」
梨子「えーっと、昨日松ヶ山に行ってきた」
梨子「何か手がかりになる物見つけたかもしれない」
梨子「明日話すねっと。これでよし」
梨子「よし、今日は部屋片付けて、ピアノの練習して、それから...」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています