SSのネタを書くから誰か書いてくれないか
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主人公は梨子
ある日ダイヤから紅葉狩りに行きませんか?と言われ山奥に紅葉を見に行くがその日から周囲で不可思議な事が起こり始める なんや心霊系にしたいんか?それとも精神おかしい系にしたいんか?どっちや? >>2
いや、本当は11月に書きたかったんだけどね
逢田さんネタでもいいんだけど >>3
心霊系かな
女が当主の代の黒澤家はヤベー儀式に手を染めないといけないとかなんとかで 適当に考えてた感じだと本編の男が基本的出ない描写を逆手に取って内浦は昔から漁村、農村でありながら男日照りに悩まされる土地って設定なのよ そこまで考えていたのなら君自分で書けるよ!!
あとは勇気を持って一歩を踏み出すだけだよ! ところが土地一帯を納める黒澤家は割と女系の家庭
そこで黒澤の当主は男を産ませるためにヤベー儀式に手を染めだす
それが赤ちゃんの手にも例えられる紅葉の葉を他所者にうんぬんかんぬんして、一人の女を生贄に次代の黒澤は確実に男児が産まれる呪いのようなモノを生み出す的な >>7
いや、文章力ないのもなんだけどなんか面倒くさくてさ 女に生まれたダイヤさんは責任感から梨子を標的に儀式を始めるも、仲間故の葛藤or伝承が不十分(これはどっちでも良い)
不完全な儀式で終わってしまったゆえに梨子にも対抗の余地は残っており、霊障的な何かに立ち向かいながら自分に振りかかった災いの真相を解き明かす
的なストーリーです >>10
いや、なんだ面倒くさくて
>>12
1ミリでも面白そうと思ったなら書いてくれ いま手元にある怪談と民俗学の本読んで話を膨らませてるからちょっと待ってね
今は無理でも気が向いたらスレ建てて書くかも もう一つは特定の主人公は居ないけど、内浦で人が死んでしまう類の都市伝説の様な噂話が急に立ちだす
しまいにはメンバーまでも神隠しにあったり実際に死んでいき…ってお話 こっちは精神イカれた人間の話なんだけど中盤までは本当に呪いかのように話が進んでいく
当然自分にそんな描写力はない
さっきのレスで主人公いないって書いたけど軸は鞠莉だわ ちょうど手に取った本、山怪実話大全ってのに黒沢小僧って言う怪談話載ってたわw
紅葉の話の男子が生まれない理由を土地神や山神からの祟りって解釈してるってちょっと変えてもいい? >>20
見かけたらネタ使ってくれてありがとうくらいは言うかな
その人がオリジナル主張してるなら引っ込んどくけど >>21
任せるよ
どう読んでもらいたいかにもよるだろうから 一本目のネタここで書かせていただきます。
ネタ集めしたり、ほかのss書いたりするのでしばらく間を空けてしまうかもしれません。 っていうか
ここまで展開縛られたら書く気せんわ
1の段階だけならちょっとやろうかと思った >>26
適当に変えてくれてもいいよ
縛るつもりはないからお好きに 2つ目の話で当然浦の星でも噂話は蔓延するんだけど、鞠莉が理事長として生徒達の不安を鎮めるため奔走
徐々に神隠しの様なオカルト現象から明確な殺意が見え隠れするように
最初は動物や見知らぬ人がターゲットだったのか段々自らの近しい人になっていってると気付いた鞠莉は…的な これも結局噂話を回せるほど影響力あるのは黒澤家でダイヤさんは小さい頃に親友を半ば取られて怨みの芽が出て黒澤に問答無用で商売初める小原を怨み、母校の廃校が決定で周囲を巻き込み鞠莉の抹殺実行って話なんだけど
なんで黒幕ダイヤさんにしちゃうんだろうね
ダイヤさん好きなんだけど て言うか地域表示よく変わるから原案て主張するの無意味な気がしてきたわ 食べ過ぎてお寺のボットン便所溢れるほど出した花丸がみんなの家にトイレ借りにいくSSください 文章書くのって推敲も含めるとアホみたいに時間食うからなあ
余程いいネタじゃないの他人のアイデアを書く気はしないわ >>33
書きたいって言うよりこういう話読みたいから誰か書いてって感じ
>>34
まあごもっともで
>>35
昨日の人かな気長に待ってるよ
ていうか地域表示変わってなきゃいいけど 地域表示がしうまいかららかっせいになってしまった!! ・・・未だ内浦が、小さな村であったころの話。小さな漁村といえど、伊豆方面と富士方面から来る、人の往来が激しかった。
秋も深まってきたあるころ、一人の老婆がこの漁村を訪れた。
老婆の身なりはみすぼらしく、においもひどい。ゆく先々で水やら食糧やらを求める。どうやらこの老婆は宿を探しているらしい。
しかし、住民は老婆を気味悪がり、家には上げなかった。最終的に老婆は長者の屋敷へと向かう。
この長者はたいそう気が短い男で、敷地内に老婆が来るのを嫌がり、老婆を見た瞬間、ひっ捕らえ、むち打ちにし、木に縛り付けてしまった。
翌日、長者が老婆の様子を見に行くと老婆がいない。
すると空から、「我は、孔雀明王の化身であった。現世へと出向き、どのようなものか見回ったが、お主らの悪行しかと見届けた。我は、衆生と利益をつかさどる。お主らに罰を与えよう」と聞こえてきた。
以降、長者の家は傾き、この漁村では男が生まれにくくなり、さびれてしまった時期があったそうな・・・・・・・
沼津市編纂民俗宇治拾遺より一部抜粋 ________
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「・・・番号札3番でお待ちの黒澤さん、診察室へどうぞ」
「・・・どうですか調子は?」
「エコー取りますね・・・ちょっとひんやりしますよ・・・・」
「この前より、だいぶ良くなってます・・・」
「・・・このまま安静にしてればなくなるでしょう」
「お薬の量、少なめにしときますね・・・」
「・・・それではお大事に・・・」
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_____
__ 最近、変なものを見るんです。
ふとした瞬間の、視界の端とか、そんな時に・・・
グロテスクなものではないです。ただ、挙動がおかしかったり、身体のパーツがずれている動物とか、あるはずのないものがそこにあったり・・・・
もっと具体的にですか?
うーん・・・あっ、証明写真機ってわかりますか?あれって、表にサンプルのポスターだったり、液晶画面があるじゃないですか。
それは液晶画面のタイプだってんですけど、私が通りかかった瞬間、画面がゆがんで、サンプルの顔が、急に真っ黒に塗りつぶされたんです。
えっ・・・まぁ確率的にはあるかもしれないって?
それはその通りですけど・・・でもおかしいんです。
その、見えてるのが・・・私だけみたいなので・・・
怪異とかは信じたくないので、一応相談にと病院を紹介してもらったんです。
はぁ、特に異常はないんですね・・・
ありがとうございました・・・ 急に長文とかみねーからなんかあるならスレたててやれ 梨子「私、知らない間につかれてるのかな?」
梨子「んーっ!何か気分転換できる物ないかな?」
梨子「そういえば、この病院の裏の小山、ダイヤさんに誘われたところだったな・・・」
梨子「あの時、ダイヤさん珍しく集合場所に遅れてきたんだっけ・・・」
スタスタスタ・・・・
-山の中腹-
梨子「もう、紅葉なんて枯れてると思ったけど、まだ見ごろなのね。綺麗」
梨子「あれ?こんなところにお堂なんてあったんだ」
梨子「怪奇現象が治るようにお祈りしましょ」
チャリーン パンパン
ふと、梨子は目線を上にあげた。その屋根裏に、びっしりと札が張られていた。
梨子「ひっ!?」
一瞬たじろいだが、よく目を凝らしてみると、安産祈願の文字が見える。
梨子「地域的な信仰か何かかしら?もう、驚かせないでよ・・・」
梨子「えーっと今何時?わわっ!?もうバスの時間!乗り遅れちゃう!!」
タッタッタッタッ
「まって〜乗ります〜」 梨子「バスを乗り過ごして酷い目にあったわ」
梨子「ご飯もお風呂も済ませたことだし、もう寝ましょ」
ニャァ...ニャア...ニャア....
梨子「...?子猫かしら?音の方向的にこっちにいるのかな?」
梨子「でもここ、押入れだし...まさか、入り混んでいるとかないわよね...?」スーッ
鳴き声「...」
梨子「あら、逃げちゃったかしら?まあいいわ。寝ましょ」
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__________
梨子「んー」パチッ
梨子(目冷めちゃった。どうしよう)
梨子(とりあえず時間確認しよ)
時計の針は4時近くを指していた。まだ日は上がらず、豆電球の薄暗い、頼りない光がゆらゆらと揺れている。
....ニア...ニア...ニア...
梨子(またさっきの猫かしら)
梨子(さっきと違っていろんな所から聞こえて切る。押入れから脱出できたのかな?)
梨子(あれ?そもそもなんで猫が家の中にいるの?)
ギャァ...ギャァ...ギャァ
梨子(さっきより声が大きくなってる...)
梨子(本当に一匹だけ...?何匹もいるように聞こえる...でもそんな事ってありえない...!) ガサガサ
ふすまを漁る音がする。
ガタガガタ・・・オギャァ・・・オギャァ・・・・
ガタガタガタガタ・・ヒタヒタ
何かが床を這っている
梨子「(襖から脱出したのかしら?早く出てってほしいわ)」
ズリ、ズリ、ズリ、
床をするような音が聞こえる。
梨子「(足が悪いのかしら?かわいそうね。それよりも早く出てってほしいわ)」
梨子「(ってこっちに近づいてきてるじゃない・・・)」
梨子「(もうちょっとこっちに来たら、捕まえて外に出してあげよう)」
ギャァ・・・ギャァ・・・
梨子「(だいぶこっちまで近づいてきたわね・・・)」すくっ
梨子「クスクス・・・こっちおいで・・・」
オギャァ・・・オギャァ・・・
もそもそとした黒い物体が暗闇の中、梨子に近づいてくる。 ムニュ
梨子「捕まえた!結構おっきいわね・・・今外に出してあげるからね」
ギャァ!ギャァ!ギャァ!
鳴き声は勢いを増してゆく。
梨子「ちょっと待ってね、今、電気つけて準備するから」パチッ
梨子「きゃああああああああ!!!!!!」
梨子は思わず手を離した。猫だと思った物体は、頭が異様に大きく、体がやせ細った不気味な物体だった。
「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」
手を放して、床にたたきつけられてなおも鳴き声は響く。
ドタドタドタ
「梨子!!どうした!?」
梨子「お父さん!!さっき、ここに!ここに!!」
梨子「人間の赤ちゃんみたいなのが!!」
梨子父「きっと悪い夢でも見たんだな・・・ココアでも淹れてあげるからリビングに来なさい」
梨子「・・・・」
梨子「・・・うん」
梨子「(あれは絶対見間違いじゃない。だって感触もあったし)」スタスタ
梨子「(どうしよう・・・もう自分の部屋じゃ寝られない・・・)」 父「ほら、ココアが出来上がったぞ」
父「冷めないうちに飲みなさい」
梨子「ありがとう。いただきます。」ごくごく
父「ところでどんな夢を見たんだ?」
梨子「・・・・」
梨子「・・・家の中に猫がいて、だんだん近づいてきたの」
父「それで?猫がってさっき言ってたな」
梨子「猫だと思って、外に出してあげようとして、捕まえたら、猫じゃなかった」
梨子「人間の赤ちゃんみたいだった。頭が大きくて、体がやせてた」
父「その赤ちゃんはどんなだった?」
梨子「・・・一瞬だったからよく覚えてないの」
父「オギャアオギャアって鳴いてた?赤黒かった?鳴くたびに大きくなったり、小さくなったりしてた?ちょうどこのティッシュぐらいの大きさだったでしょ。あれってね、栄養失調の赤ちゃんがそうなるんだよ!
骨が浮き出てたでしょ!!!!あははははっははははっははは!!!!!」
梨子「ひっ・・・!」
父親が言い終わると同時に口の中がムズムズする。
梨子「うっ・・・!けほっつけほっつ!」
梨子「いやあああああ」
ぼとぼとと口の中から蛆が垂れる。渡されたココアに目をくべると、もぞもぞとうごめく蛆の山が出来上がっていた。 父「あははははははははは!!!!」
梨子「来ないで!来ないで!」
壁際に追い込まれ強く目をつむった。
リリリリリリリリ
梨子「パチッ」
梨子「夢?」
冷や汗が背中を伝う。心臓もバクバクと、聞こえるぐらいに音を立て、不規則な動悸を刻む。
梨子「夢でよかった・・・」
梨子「早くしないと学校に遅れちゃう。シャキッとしないと・・・」
梨子「おはよう〜」
梨子母「梨子!コップ使ったら使いっぱなしにしないの!お母さんだって、いつもやってあげるわけじゃないんだからね!」
梨子「えっ?私使ってないよ・・・?お父さんじゃないの?」
母「お父さんは昨日出張でかえって来ないって言ってたじゃない!言い訳はよして」
昨日の夢のことがフラッシュバックする
梨子「(うっ・・・!)」
胃に何も入っていないので、粘度の薄い唾がだらだらと湧き出てきた。
梨子「・・・っ」
母「どうしたの?調子悪いの・・・?今日休む?」
梨子「大丈夫、大丈夫だから気にしないで。あと、今日、私、朝食要らないから」
母「そ、そう、でも具合悪かったらちゃんと言いなさいよ・・・」 中川菜々ちゃんの子宮を俺の大好きでいっぱいにしてあげたい 梨子「(昨日のはきっと悪い夢・・・)」
梨子「(コップを出しっぱなしにして、そのまま寝てしまったのよ・・・)」
千歌「梨子ちゃんおはよう〜!」
梨子「千歌ちゃんおはよう・・」
千歌「元気ないね?どうしたの?」
梨子「なんでもないわ。大丈夫よ」
千歌「昨日の夜、真夜中に大声で叫んでたよね?キャーって」
梨子「・・・っ!!」ビクッ
梨子「ちょっと、変な、夢を見ただけ、それだけよ。気にしないで・・・」
千歌「でも、何か来ないでって言ってたよね」バスプシュー
梨子「ほ、ほら、バス来たわよ。乗りましょ!」
曜「二人ともおはヨーソロー!」
千歌「おはヨーソロー!」
梨子「おはよう・・・」ニコ
千歌「もう梨子ちゃんったら乗り悪いな〜」
梨子「あはは、そうかな」
二人は学校までにつく間、ぺちゃくちゃと他愛もないおしゃべりをしていた。私は、昨日のことがあって、軽く相槌を打つことしかできなかった。 しばらく車窓を眺める。いつもと変わらない風景がそこにもあった。
バス「赤信号です。しばらく止まります」プシュー
砂浜と堤防が奥に見える。
梨子「(あれ、あんなところに人がいる、珍しい。)」
顔は、黒塗りにされたかのようにうまく見えない。人影は体をぐにゃぐにゃさせたかと思うと、服を着たまま海へ歩いて行った。
梨子「こんな寒い時期なのに、変な人もいるのね」
千歌「ん?梨子ちゃんどうしたの?」
梨子「ちょっと、海に入ってく人が見えたの・・・ヒッ」
梨子「(一瞬千歌ちゃんの顔が黒塗りに見えたような気がする・・・ほんと、どうしちゃったのよ、私・・・)」
曜「二人とも、もうすぐ学校に着くよ。準備しなきゃ」
梨子「・・うん」
梨子「(定期券、定期券・・・)」ゴソゴソ
梨子「(あれ?定期どこやったかしら?触ってないから家に忘れてきたわけでもないし・・・)」
梨子「(ああ、あった!)」
梨子「(ん?これは?この前紅葉を見に行った時、ダイヤさんからもらった赤いお守り・・・)」
梨子「(変なことがなくなりますように・・・)」
バス「次止まります」ピンポーン ◆◆◆◆
教師「えー、閉塞的な場所や実験では、マウスの染色体に異常が出る場合があります。これらは・・・」
梨子「カキカキ」
千歌・曜「ウトウト」
梨子「(あ、ルーズリーフ切れちゃった)」
梨子「(机の中に予備あったかな)」ゴソゴソ
ムニュっと、得体の知れない感覚が手先を襲う。
梨子「(なんかしら?)」
机の中を覗く。机の中の何者かとパチッと目が合った。
梨子「〜〜〜〜!!!!」
梨子「きゃあああああああ!!!」
千歌・曜「ビク!?」
教師「!!桜内さん!どうしました!?」
もう一度机を覗く。そこには何もいなかった。
梨子「・・・」
梨子「なんでもないです・・・虫が居ました・・・」
梨子「すみません、気分悪いので保健室行ってきます・・・」
教師「・・・ええ、お大事に・・・」 〜保健室〜
梨子「失礼します・・・」
梨子「先生は留守みたいね。名前だけ書いて、ベットで休ませてもらおう」
梨子「(横になったらだんだん眠くなってきた。昨日あんな夢見たから、よく眠れなかったのかな)」ウオウト
梨子「スヤァ・・」
パタパタ
梨子「ん?なんの音・・?」
梨子「(先生、帰ってきたのかな?)」
梨子「二年の桜内です!気分が悪いので、ベット使わせてもらってます!」
「・・・・」シーン
梨子「先生じゃなかったのかしら?恥ずかしい事、したかも」
「きゃっつ!きゃっつ!」
「まて〜」
「あはははは」
梨子「子供・・・?」ゾクッ
声のする方、廊下を見る。
そこには、確かに小学生ぐらいの子供が走りまわっていた。
少し古めかしい恰好をしている。 「おーい待て待て!」
梨子「どうなってるの・・?」
梨子「ここ、どこ・・・?」
目覚めたその先に見えたのは、コンクリートつくりの校舎ではなく、木造造りの小さな校舎であった。
サイレン「ウーーーーーーーーー ウーーーーーーーー」
「わわっつ!!逃げろ!!」
子供たちは、蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げていく。しばらくすると、遠くで爆発音がした。
梨子「!?」
梨子「何なの?何なの!?」
だんだんと爆発音は近づいてくる。梨子は、その場でうずくまることしかできなかった。
「ドッカーン」「バラバラ」「ドン、ドン、」「タタタタタタタ」「パン、パン」
梨子「やめてっつ!やめってってばぁ」
「怖いよぉ・・」
「苦しいよぉ・・・お父さん、おかぁさん・・・」
梨子「これは夢、これは夢、これは夢、これは夢・・・」
「ドッカーン」
大きな爆弾が近くで炸裂した。その音の大きさに、鼓膜が破れそうになる。
「ぎゃあああああ」
「痛い!いたい!」
「うううう・・・」
梨子「やめてってばぁ!これは夢なんだから!!!」
「そこにいるのは誰ずら?どうしてこんな所にいるずら?」 「そんなところに潜ってるのは、誰ですか?」
梨子「花丸、ちゃん・・・?」
花丸「何だ、梨子さんか。どうして用具入れに頭なんか突っ込んでるの?」
梨子「いやっ、その、これは・・・」
爆発で倒壊した瓦礫は消えていた。気づくと、元のコンクリート造りの校舎に戻ってる。
梨子「・・・なんでもないわ。虫が出たのよ。それだけよ」
花丸「大丈夫?なんか苦しそうだったけど・・・?」
梨子「ええ、大丈夫よ。花丸ちゃんはどうしてここに?」
花丸「用務室に用があって。箒壊れちゃったから時に来たの」
梨子「・・・花丸ちゃん、今何時?」
花丸「ええっと・・・今は掃除の時間だけど・・・」
梨子「まずいわね・・・」
梨子「(大体5時間ぐらい過ぎてる。先生と千歌ちゃんたちにどうやって言い訳しよう・・・)」
花丸「あの、どうかしたずら?」
梨子「なんでもないわ」ニコ
花丸「(梨子さん、無理に笑ってる・・・)」
花丸「あのっ!もし困ったことがあったら、なんでも言ってほしいずら!オラが相談に乗るから・・・」
梨子「・・・急にどうしたの?でも、ありがとう」ニコ 梨子「(あれからいろいろと、説明は大変だった)」
梨子「(でも、保険の先生が寝ている姿を目撃していたらしくて、どうにかなった)」
梨子「(途中で抜け出して、なかなか帰ってこなかったら、千歌ちゃんと曜ちゃんはすごく心配してた。申し訳ないわ・・)」
梨子「大事をとって、練習を休むことになったけど、家に帰りたくない・・」トボトボ
学校の前の坂を下り、バス停へと向かう。その先に見覚えのある姿が見えた。
梨子「あれ?あれってダイヤさんじゃ?」
遠目で眺めているうちに、別方向行きのバスが到着した。そのバスにダイヤは乗り込む。
梨子「(最近ダイヤさんは練習を休むことが多い。どうしてだろう、理由は隠してるみたい)」
梨子「(ルビィちゃんもダイヤさんが休んで何をしてるか知らないって言ってた。そういえば、休むようになったのって、いつからだっけ・・・?)」
トボトボと、いろいろな考え事をしているうちにバス停に着く。遠くから、自分の乗るバスが近づいてきているのが見えた。
バス「プワァン」プシュー
梨子「・・・」
梨子「(本当は家に帰りたくないから乗りたくないんだけなぁ・・)」
梨子「(でも、これ逃したら、一時間後だし・・)」 梨子「結局乗っちゃった・・・」
いつものように車窓を眺める。
両親は、日が明るいうちは留守にしているので、それまで帰りたくなかった。
しかし無情にも、目的地はどんどん近づく。
梨子「はぁ・・・」
バス「次止まります」ピンポーン
梨子「定期定期っと!」
その時、何かが下に落ちた。朝方見つけた赤いお守り。
梨子「お守りなんて、本当に意味あるのかしら?」
なんとなく、お守りを触ってみる。木の枝か何かが入ってるのだろうか、少し硬く、ぐにゃっと曲がった感触が布越しに伝わる。
梨子「変なのがなくなりますように・・・」
再度お守りに祈りを重ねる。ほどなく、家の近くのバス停に到着した。 しばらく、家の中に入れず、砂浜や桟橋のあたりをぐるぐるしていた。
梨子「どうしてあんな夢を2度も見たんだろう・・」
梨子「あれは本当に夢だったの?」
梨子「夢とうつつの境界が分からない。これも怪異なの?」
梨子「どうして私ばっかり、私ばっかりこんな目に合わないといけないの?」
梨子「本当に、私はどうなっちゃったの・・・」グスン
空は赤身色を帯び、日は傾き始めていた。ふと、時計を確認する。母親が帰ってくるまで、あともう少し。
梨子「(だんだん寒くなってきたし、入りたくないけど家に帰らなきゃ)」
梨子「大丈夫、全部、見間違いと夢。ちょっと疲れてるだけだから・・・」
おぼつかない足取りで帰路に就く。いくら言葉で奮い立たせようとも、胸の中は不安と焦燥でいっぱいだった。 しばらく、家の中に入れず、砂浜や桟橋のあたりをぐるぐるしていた。
梨子「どうしてあんな夢を2度も見たんだろう・・」
梨子「あれは本当に夢だったの?」
梨子「夢とうつつの境界が分からない。これも怪異なの?」
梨子「どうして私ばっかり、私ばっかりこんな目に合わないといけないの?」
梨子「本当に、私はどうなっちゃったの・・・」グスン
空は赤身色を帯び、日は傾き始めていた。ふと、時計を確認する。母親が帰ってくるまで、あともう少し。
梨子「(だんだん寒くなってきたし、入りたくないけど家に帰らなきゃ)」
梨子「大丈夫、全部、見間違いと夢。ちょっと疲れてるだけだから・・・」
おぼつかない足取りで帰路に就く。いくら言葉で奮い立たせようとも、胸の中は不安と焦燥でいっぱいだった。 梨子「ただいま〜」
「・・・・」
梨子「誰もいないよね・・」
梨子「(自分の部屋に戻りたくない・・・何かいたら嫌だし・・・)」
梨子「(お母さんが帰ってくるまでリビングに居よう・・・)」
梨子「喉が渇いたし、何か飲もうかしら?」
昨日のコップが真っ先に視界に入る。
梨子「・・・っ」
梨子「別のにしよう・・・」
棚から紅茶を取り出した。お湯を沸かし、静かにコップに湯を注ぐ。
梨子「テレビでも見ようかしら」ピッ
TV「・・続きまして、女性の病気、子宮筋腫の話ですが・・・」
TV「子宮全摘が昔は一般的でした。しかし、今は腹腔鏡やピル投与などいろいろあります」
TV「若いうちに発症となると手術や、小さいものだと投薬治療が中心となります」
TV「初期症状には、生理不順、おりものの量が多い、生理痛がひどいなどがあります・・・」
梨子「ふーん、こんな病気もあるのね・・・」
梨子「大変そう・・」ピッ
TV「・・次のニュースです。今年も豊穣と多産を祝うお祭りが・・・」
梨子「・・・」ウトウト
梨子「少し横になろう・・」
梨子「・・・」スヤスヤ 夢を見ていた。
先月、ダイヤさんと一緒に、紅葉を見に行った時の夢だった。
自分とダイヤさんが話す姿が見える。私は私を見ていた。とても不思議な気持ちになる。
ダイヤ「すみません、遅くなりました」
梨子「いえ、大丈夫ですよ。私も今来たところなので。ダイヤさんが遅刻なんて珍しいですね」ニコ
ダイヤ「ええ、ここに来る前に用事がありまして、それで手間取ってしまって。遅れてしまって申し訳ございません」
梨子「そんな謝ることじゃないですよ、それよりも紅葉狩りしましょ」
ダイヤ「そうですわね。この山、普段は私の親戚が管理していますの。私有地ですが、きれいな紅葉をみんなに見てほしいということで、遊歩道の整理や休憩所がありますのよ」
梨子「へぇ〜そうなんですか、私、こういうところ来るの、初めてなのでわくわくします!」
ダイヤ「遊歩道の奥まで行くと、小さな滝があります。ほら、ここまで来る途中に小川がありましたでしょ。そこに繋がってますの」
ダイヤ「もし道に迷っても、小川を下ってくれば戻ってこられます」
ダイヤ「さあ、行きましょう・・」
ダイヤさんに連れられて山中に入る。林道は多くの針葉樹に覆われ、紅葉こそしていなかったものの、心地よく吹く風、小鳥のさえずり、遠くから聞こえる水の音、そのすべてに心が洗われる。 しばらく歩くと、開けた場所に出た。
四方の紅葉が、あたり一面を深紅に染め上げていた。
少し肌寒い風が山々を吹き抜けるたびに、紅葉は、はらりと散ってゆく。
散った紅葉は淀みのない小川へと着水し、さら、さら、さらと一瞥もくれずに流れていく。
梨子「綺麗・・・・」
ダイヤ「ちはやぶる 神代も聞かず 龍田川 から紅に 水くくるとは・・・」
梨子「それって、在原業平の有名な句ですよね!たしかそれも、紅葉の美しさを読んだ歌でしたよね」
梨子「こんな美しい景色を見ていると、歌人の気持ちがわかるような気がします」
ダイヤ「龍田川のように、流れは緩やかではありませんが、それでもこの美しさには心打たれるものがありますわね」ニコ
梨子「(ドキッ・・・)」
梨子「その、質問、なんですけど、どうして私を誘ってくれたんですか?」
ダイヤ「・・ふふっ、秘密ですわ。でも、強いて言えば梨子さんが美しいからでしょうか?」
梨子「・・・///そんな冗談はよしてください・・・///」
ダイヤ「事実を言ったまでです。梨子さんはもっと自分に自信を持ってください・・・」
しばらく談笑を楽しんでいたと思う。私は私とダイヤさんを遠くから眺めていた。
とても不思議な夢。記憶を繰り返しているだけのよくある夢。あの時まではそうだった。 しばらく歩くと、開けた場所に出た。
四方の紅葉が、あたり一面を深紅に染め上げていた。
少し肌寒い風が山々を吹き抜けるたびに、紅葉は、はらりと散ってゆく。
散った紅葉は淀みのない小川へと着水し、さら、さら、さらと一瞥もくれずに流れていく。
梨子「綺麗・・・・」
ダイヤ「ちはやぶる 神代も聞かず 龍田川 から紅に 水くくるとは・・・」
梨子「それって、在原業平の有名な句ですよね!たしかそれも、紅葉の美しさを読んだ歌でしたよね」
梨子「こんな美しい景色を見ていると、歌人の気持ちがわかるような気がします」
ダイヤ「龍田川のように、流れは緩やかではありませんが、それでもこの美しさには心打たれるものがありますわね」ニコ
梨子「(ドキッ・・・)」
梨子「その、質問、なんですけど、どうして私を誘ってくれたんですか?」
ダイヤ「・・ふふっ、秘密ですわ。でも、強いて言えば梨子さんが美しいからでしょうか?」
梨子「・・・///そんな冗談はよしてください・・・///」
ダイヤ「事実を言ったまでです。梨子さんはもっと自分に自信を持ってください・・・」
しばらく談笑を楽しんでいたと思う。私は私とダイヤさんを遠くから眺めていた。
とても不思議な夢。記憶を繰り返しているだけのよくある夢。あの時まではそうだった。 鮒寿司に変わったけどスレ立てたたこやきだよ
応援してる ダイヤ「・・・風吹きて ちりに帰りぬ 秋の葉よ 悪しき前には 人も同じか」
梨子「???」
ズズッ・・ズズズズッ・・ブツン
アナログテレビや古いゲーム機を起動したときのように画面が揺らぐ。
ダイヤ「梨子さん、山頂を目指しませんか?ここから大体15分ぐらい歩けばつきます。ここよりとても景色がいいんですの。一緒に行きませんか?」
梨子「ええ、いいですよ。一緒に行きましょう!」 ダイヤ「ああ、そうだ忘れていましたわ!この山に小さな神社がありますの。その神社のお守りをたくさんもらいまして、一つ梨子さんにも分けて差し上げますわ」
そう言って、ダイヤさんは赤いお守りを私に渡した。
梨子「ありがとうございます。」
ダイヤ「健康祈願のお守りだそうですわよ・・・」
ここまでは、覚えている記憶そのままだった。
山頂を目指すため、しばらくダイヤさんの後をついていく。
一歩、また一歩と足を踏み出すにつれ、記憶にヒビが入るように、揺らぎはひどくなっていった。
ダイヤ「はぁ、はぁ、」
梨子「大丈夫ですか?もう少し行った先に小さな東屋が見えます。そこで休憩しませんか?」
ダイヤ「いえ、お気になさらず。大丈夫ですから・・・」
梨子「無理しないでください、休みましょ、ね?」
ダイヤ「いえ!もうすぐですから!大丈夫なんですってば!」
梨子「!!」
ダイヤ「すみません・・・声を荒らげててしまいました。ゆっくり歩いて向かいましょう」
梨子「・・・はい」
梨子「(どうしたんだろう・・・)」
ダイヤ「はぁ、はぁ・・・」 梨子「(そういえば、3カ月ぐらい前から、ダイヤさんは月に4,5回練習を見学する・・・)」
梨子「(曜日と連続で休むから、生理重いのかなと思ってたけど)」
梨子「(この前、練習中に倒れそうになってた。大丈夫なのかな?)」
梨子「(本人に聞いても、おなか痛いとしか言わないし、)」
梨子「(練習見学してても、冷や汗かいてるのが分かるほど顔色悪いし、)」
梨子「(みんなに心配をかけたくないのはわかるけど、それでも自分の体を最優先してほしい・・・)」
もやもやとした気持ちを抱えながら歩く。しかし、いくら歩いても山頂に着く気配がない。
梨子「ダイヤさん、本当に道、こっちであってますか・・・?」
ダイヤ「でも看板はこちらを指していましたよ?たぶんこちらであっていると思うのですが」
そのままスマホを取り出す。電波がつながる範囲であったようで、地図アプリが自分たちの居場所を示した。
どうやら、目的の山の山頂ではなく、隣の山の山頂へ続く小径へと迷い込んでしまったらしい。 梨子「どうしましょう?このまま引き返しますか?」
ダイヤ「・・・・」
ダイヤ「引き返しましょう。地図によれば、この近くに滝つぼと、そこに繋がる小径があるみたいです。たぶんこちらですわ」
ダイヤさんは、けもの道をスタスタと下っていく。何も迷いなく、まるで初めからこの山のすべてを知っていたように。
梨子「あ、待ってください」
雑草など気にも留めないようで、スタスタと下っていく。先ほどまで疲れていたダイヤさんはそこにはいなかった。
画面の揺らぎがひどくなっていく。私の記憶が正しければ、この後、滝つぼとその周囲の紅葉を見学し、写真に収めた。紅葉の大きな老木が印象に残っている。そし梨子「どうしましょう?このまま引き返しますか?」
ダイヤ「・・・・」
ダイヤ「引き返しましょう。地図によれば、この近くに滝つぼと、そこに繋がる小径があるみたいです。たぶんこちらですわ」
ダイヤさんは、けもの道をスタスタと下っていく。何も迷いなく、まるで初めからこの山のすべてを知っていたように。
梨子「あ、待ってください」
雑草など気にも留めないようで、スタスタと下っていく。先ほどまで疲れていたダイヤさんはそこにはいなかった。
ザザザザ・・・ズズズズッ・・・・
画面の揺らぎがひどくなっていく。
私の記憶が正しければ、この後、滝つぼとその周囲の紅葉を見学し、写真に収め下山したはずだ。
ひときわ大きな紅葉の老木があったことを覚えている。
そしてダイヤさんと一緒にバスに乗って家へ帰ったはずだった。 投稿ミスが多いorz
これも怪異だったりするのかな...? >>90訂正
梨子「どうしましょう?このまま引き返しますか?」
ダイヤ「・・・・」
ダイヤ「引き返しましょう。地図によれば、この近くに滝つぼと、そこに繋がる小径があるみたいです。たぶんこちらですわ」
ダイヤさんは、けもの道をスタスタと下っていく。何も迷いなく、まるで初めからこの山のすべてを知っていたように。
梨子「あ、待ってください」
雑草など気にも留めないようで、スタスタと下っていく。先ほどまで疲れていたダイヤさんはそこにはいなかった。
画面の揺らぎがひどくなっていく。私の記憶が正しければ、この後、滝つぼとその周囲の紅葉を見学し、写真に収め下山したはずだ。
ひときわ大きい紅葉の老木が印象に残っている。
そしてダイヤさんと一緒に帰路に就いた、はずだった。 記憶では、もっと緩やかな斜面を下って行ったはずだ。しかし、この夢の中では、目で見てわかるほど、地形が変わっていた。
崖のように斜面の勾配がきつい。所々、岩が顔を出している。
ダイヤさんはその岩に足をかけ、飛ぶように下っていった。
梨子「まって・・・待ってください」
その声は届かない。
ズズズッ・・・ゾゾ・・・
画面のヒビは増々ひどくなっていく。
梨子「まって・・・あっ・・・」ズルッ
ぬかるみを踏み抜くも、何とか近くの木に手をかけ、滑るのを免れた。
ふと、前を見る。
梨子「・・・・・」
その景色に一瞬息をのむ。
奥に小さな滝と控えめな滝つぼが見える。その横の岩盤に紅葉の老木が威厳を湛えながら佇んでいた。周囲の針葉樹が一層紅葉の色を際立たせる。 梨子「こんなところがあったなんて・・・」
梨子「ダイヤさん・・・?・・・いない?」
梨子「ダイヤさん!どこにいるんですか?」
ふと、老木の影に、人の気配がした。
梨子「そんなところに隠れて、私を驚かす気ですか?」
梨子「髪の毛見えてますよ」スタスタ
老木の生えている岩盤に歩み寄る。どうやらこの老木は、岩盤と岩盤の隙間に根をはって生きているようだ。そのため、表面には根がうねる様に這いつくばり、少し歩きづらい。
老木の前に立つ。足場が不安定なため、木に手をついて後ろを確認する。
梨子「そんなところに隠れてないで・・・・」
梨子「・・・・居ない?」ドン!! 誰かが私の背中を押した。わずかな力であったが、私の足は揺らめき、地を這う根に躓き、バランスを崩してゆく。
梨子「わわっ!!」
何かにつかまろうと手を伸ばすも虚空を切る。
そのまま後ろに倒れ、滝つぼへと落ちていった。
滝つぼに落ちるまでの刹那、人影を目視する。
梨子「ダイヤ・・・さん?」
秋風に棚引く黒髪は、間違いなくダイヤさんのものだった。
ザアアアアアア・・・・ブツン・・・
画面が完全に真っ黒になる。暗闇に取り残されたように、私はこの空間に取り残されてしまった。 夢の中だというのに、意味不明な事柄が展開されず、そのまま闇の中に取り残されていた。
梨子「・・・・」
梨子「・・・」
そのまま暗闇の中に立ち尽くしていた。
何分経っただろうか。何も起こらない。夢を見ているはずなのに。
自分自身が悪夢を見ていることを自覚する。
夢から覚醒することを願い続けて、それでもなお目覚めずにいた。
ぴと・・・ぱしゃ・・・
目の前に何かが落ちた。 梨子「・・・なにこれ、冷たい・・・水・・・?」
一滴、また一滴と水は落ちてくる。
天を見上げるが、そこには暗闇が支配するのみである。
梨子「・・・・」
落ちてくる水滴を凝視する。そのうち、周囲の景色が変わっていることに気がついた。
梨子「どこここ?洞窟・・・?」
洞窟の奥から明かりが漏れる。その明かりに、虫のように引き寄せられてしまった。
梨子「どうしてこんなところに蝋燭があるのかしら?
蝋燭の奥に子供ぐらいの立像があることに気が付いた。
揺らめく蝋燭の光でうまく見えない。
梨子「仏像?こんな形の仏像なんてあるんだ」
梨子「立っているけど、顔がよく見えない。象?なのかな?」
梨子「剣とかいろいろ持ってるし・・・なにこれ?」 ふと目の前の蝋燭を見る。
不安定な岩の上に、小さいのが2本、その間に大きい蝋燭が1本、計3本立っている。
そのうちの大きい一本を、どうしても吹き消したくなった。
梨子「ふーっ」
小さな蝋燭の炎は消えた。
梨子母「そんなところで寝てたら風邪ひくわよ。起きなさい」
梨子「んん、なに・・?」
母「ほらまた疲れたからって制服のままで寝てる。皺になるから脱いでらっしゃい。皺になってたら明日の朝アイロン掛けるからね」
梨子「んん、わかった」
梨子「(あれ?さっきまで夢見てた気がする。どんな夢だっけ・・?)」
母「もうちょっとしたらご飯できるから。その時は呼ぶから待ってなさい」
梨子「はーい」 梨子「ごちそうさまでした」スタスタ
母「さっき、すごくうなされてたけど、大丈夫?」
梨子「なんの話?」
母「お母さんが帰ってきたとき、あなた寝てたじゃない。その時、すごくうなされてたわよ」
母「練習とかきつかったら、休むことも必要だからね」
梨子「ううん、大丈夫だよ。だって練習楽しいもん」
母「梨子に何かあったら心配だわ。最近ビクビクしてるように見えるし・・・」
母「ちゃんと体をいたわるのよ」
梨子「わかってるって、大丈夫だよ?」
梨子「じゃあ、あとはお風呂に入って、宿題やるだけだから、部屋に戻るね」
母「ええ、ちょっと早いけど、おやすみなさい」
梨子「おやすみなさい」 梨子「ふう、宿題も終わったし、もういい時間ね」
梨子「明日の準備もできたし、もう寝ましょ」
ゴソゴソとかばんをまさぐってお守りを探す。
梨子「なんとなくだけど、このお守りを見ると、心が安らぐ気がする・・・」
梨子「よくわからないことが、終わりますように・・・」スイッチポチ
梨子「おやすみなさい・・・」 今日は何度も睡眠を挟んだにも関わらず、すんなりと寝入ってしまった。
梨子「スヤァ・・・」
リリリリリリ
梨子「ん〜」
梨子「もう朝か・・・」
うたた寝と同じで、見た夢なんて覚えていない。
梨子「着替えなきゃ・・・」
視界の端に赤いお守りが目に入った。
梨子「今日も一日何もなく終わりますように・・・」 今日は何度も睡眠を挟んだにも関わらず、すんなりと寝入ってしまった。
梨子「スヤァ・・・」
リリリリリリ
梨子「ん〜」
梨子「もう朝か・・・」
うたた寝と同じで、見た夢なんて覚えていない。
梨子「着替えなきゃ・・・」
視界の端に赤いお守りが目に入った。
梨子「今日も一日何もなく終わりますように・・・」 梨子母「おはよう」
梨子「おはよう」
母「お父さん今日遅くに帰ってくるって」
梨子「そっか」
________
_____
___
教師「〜であるからして、民俗学の祖である柳田国男は、近代化とともに、消えゆく日本の原風景を惜しみ、地域の民話を本にしてまとめました・・・」
キーンコーンカーンコーン
教師「では、今日の授業はここまで。再来週それぞれ哲学者や思想家のポスター発表をしてもらいます。課題を忘れないように」
「起立、気を付け、礼」
「ありがとうございました」
今日はお守りのおかげか、“変なもの”には一度も遭遇していない。
望んでいた日常がそこにはあった。
スマホを確認し、自分の教室へと戻る。さっきの授業は選択授業であった。
梨子「今、6限目終わったから、次は数Uね」スタスタ
梨子「ん、あれって・・・?」 遠くでダイヤさんと3年生の担任教師が話していた。遠目にでもわかるぐらい、深刻そうな話をしていた。
梨子「何話してるんだろう?」
梨子「って、このままじゃ時間が間に合わないわ!!」スタスタ
________
______
____
千歌「よし、今日も練習頑張っていくよ!」
千歌「と、その前に、次のライブに向けてアイデアが欲しいから、ユニットごとに分かれてミーティングしよう!大体1時間もあれば十分かな?」
鞠莉「じゃあ、私たちはこの空き教室を使いましょ」
善子「せっかくだし、私は何か飲み物を買ってくるわ。二人とも、何がいいかしら?」
鞠莉「じゃあ私はコーヒーかしら」
梨子「そんな気を使わなくても。適当でいいよ」
善子「じゃあ買ってくるわね。お金は後で請求するわ」パタパタ 梨子「次のライブ、どうしますか?」
鞠莉「うーん、スパイものってのはどうかしら?」
鞠莉「開幕ドラマをやるの。私たちは高校に通う優秀なスパイよ。いろいろあって、最終的にはヘリコプターから飛び降りて、そのまま会場に現れるの」
梨子「そんな、ロンドン五輪じゃないですし、やりませんよ」ニコニコ
鞠莉「ふふっ、ようやく笑ったわね」
梨子「???」
鞠莉「梨子ったら、最近無理してない?笑顔もめっきり減って、やつれてる雰囲気あったから」
梨子「・・・・そうですか?」
梨子「そんな事・・・ないですよ?」
善子「戻ったわよ。はいこれ、コーヒーと、リリーのはこっち」
梨子「えっ・・・何この混合ガソリンみたいな色した飲み物は・・・?」
善子「いいから飲んでみなさい。おいしいのよこれ」
梨子「本当?・・・ごくごく」
梨子「・・・う・・・まず!!」
梨子「よくも私の事騙したわね!!この〜」
善子「え、そんなつもりじゃ!私はおいしいと思って・・・」
ワイワイガヤガヤ その日は何もなく、練習を終えた。
梨子「ただいま〜」
母「おかえりなさい」
母「今日は寒いからシチュー作ってるわ。ご飯できたら呼ぶから早く制服着替えてらっしゃい」
梨子「はーい」
梨子「ふぅ、勉強終わり」
梨子「今日は何もなく過ごせたわ。お守りのおかげかしら?イワシの頭もってやつね」
紙ピラ〜
梨子「ん?何かしら・・・?」
梨子「いけない!倫理の課題忘れるところだった。確か、私は・・・」
母「ご飯できたわよ〜」
梨子「はーい!今行く!」
梨子「明日図書館に行って早めに課題仕上げようかな・・・」 次の日の昼休み
千歌「梨子ちゃん、お昼食べよう!」
曜「今日は中庭とかどうでありますか?」
梨子「ごめんね、今日はやらなきゃいけない課題があって、お昼一緒に食べれないや」
千歌「課題?何の?」
梨子「選択授業の倫理の課題。ほら、ポスター発表のが廊下に飾ってあったでしょ?」
千歌「ああ、あれか!梨子ちゃん頑張って!」
曜「それじゃあ、お先にお昼食べさせて貰うであります!」
曜「邪魔にならないうちに、中庭行くね!梨子ちゃん頑張って!」
梨子「うん、ありがとう」 梨子「スマホで一応調べたけど、図書館にでも行って資料集めよう...」スタスタ
図書館
梨子「こんにちは〜」
花丸「ああ、梨子さん。こんにちは」
梨子「今日は花丸ちゃんが当番なんだね。何読んでるの?」
花丸「京極夏彦先生の魍魎の匣」
梨子「難しそうなの読んでるね...面白い?」
花丸「まだわからないかな...途中だし、面白いかどうかは読み終わってからわかるよ」
梨子「ところで、倫理の授業に必要な資料を集めに来たんだけど、これ関連の本がある棚ってどこかな?」
花丸「うーん、多分こっちかなぁ」
花丸「民俗学と国学関連のは確かここに...」
花丸「あったずら!」
梨子「ありがとう。助かるわ!」 梨子「それにしても、こんなにたくさんあるのね」
花丸「聞いた話だけど、先先代の理事長が民俗学とか、地域の信仰に理解のある人だったらしいよ。それでこんなに集めてたみたい」
梨子「なるほど、これでこんなにたくさん」
梨子「お陰で順調に課題は進みそうだわ。ありがとう、花丸ちゃん」
花丸「どういたしましてずら!」
梨子「えーっと、この本と、この本と」
梨子「色々あるのね。神話系譜教典とかよっちゃん好きそう」ホンクイッ
本「ドサドサ」
梨子「あわわ、落としちゃった!」
梨子「大日本呪術全書...?」
異様に古ぼけた表紙、仰々しいフォントは取るに足りないオカルト雑誌の類に見えた。
梨子「(こんな二流品?も置いてあるんだ。でもこんなに分厚い。)」
梨子は何の気なしにページをめくる。 パラパラとめくって行くうち、あるページが目に留まった。
梨子「大聖歓喜天?」
頭が象の人間がそこには載っていた。その象男は刀や蓮華を手に持っている。
いわゆる富を得るための邪法の一種であるようだ。
梨子「(うーん、どこかで見たことあるような...)」
梨子「うっ!」キーン
途端に頭が痛くなる。
梨子「...洞窟...?」
見に覚えのない情景が頭に浮かぶ。
洞窟の中で、ゆらゆらと揺らめくロウソクの炎。
梨子「ほかの本探そう...」
頭痛はまだ続いている。
パタリと本を閉じた。本棚に戻し、また別の本を探す。 頭の中にポスター、もとい模造紙の大きさを思い出してみる。
人物の生い立ち、偉業、思想を散りばめてもあともう少しだけ空白の箇所ができてしまう。
梨子「何か面白い話ないかしら...」
梨子「...」キョロキョロ
梨子「これ何かしら?」
梨子「地域の民話を編纂したもの?そんなものまで揃ってるのね」
キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴る。急がなくては。
梨子「ごめんなさい、これとこれお願い」
花丸「了解ずら」
気づけば借りるつもりのない民話集まで手に取っていた。 〜放課後〜
千歌「ジャーン!これなんでしょう?!」
ルビィ「籤か何かかなぁ?」
千歌「正解!そんなルビィちゃんには飴を進ぜよう!」
ルビィ「わぁ!ありがとうございます!」
善子「で?それで何しようっての?王様ゲームでもやるつもり?」
千歌「ぶっぶー!違います!善子ちゃんには残念賞のみかんあげる!はいどーぞ」
善子「食べれないわよ!ていうかヨハネ!」
曜「冗談はさておき、今日はペア練習なんてどうかなって。籤で相手を決めるの。1組だけ三人練習になっちゃうけど」
果南「なるほど、そういう事か。じゃあ私から籤選んでいい?」
ガヤガヤ
アーイッショダネ!
エッ!?ワタシコノフタリトイッショ!?? 籤の先には、赤く数字の二が書かれていた。
梨子「2番の籤の人〜」
ダイヤ「はい、私ですが...」
梨子「今日はよろしくお願いします!」
ダイヤ「ええ、こちらこそよろしくお願いいたしますわ」
ズキリと一瞬、紅葉の情景と痛みが頭部に走る。
梨子「うっ...」
ダイヤ「...!」
ダイヤ「...梨子さん、大丈夫ですか?」
梨子「ええ、ちょっと目眩がしただけですよ」
ダイヤは梨子に心配そうに駆け寄る。しかし、ダイヤの目線は梨子ではない方を向いていた。
ダイヤ「保健室で休んだ方がいいのでは?」
梨子「そんな大げさな。大丈夫です。練習始めましょう」
ダイヤ「.....」
ダイヤ「わかりました。無理はしないでくださいね」 梨子「じゃあ先にわたしから」
ダイヤ「いきますわよ。1-2-3-4!2-2-3-4!3-2-3-4!4-2-3-4!ラスト!フィニッシュ!」パンパン
梨子「はぁはぁ。最後のステップどうでしたか?うまく決まってましたか?」
ダイヤ「ちょっとおぼつかなかったですわ。大きく動くので、重心移動を心がけたらいかがでしょうか?」
梨子「そしたらもっとキレが出ますか?」
ダイヤ「歌うことも忘れないでくださいね。いくらキレが良くても、息切れしてしまっては意味がないですわ」
梨子「はい」ショボン
ダイヤ「では次わたくしがやりますわね」
梨子「掛け声は任せてください。いきますよ!せーの!」
1-2-3-4!2-2-3-4!3-2-3-4!... 掛け声を増すごとに、最初はしっかりとしていたダイヤの足取りが縺れ始めた。
梨子「4-2-3-4!ラスト!あっ!!」
ダイヤ「きゃっ!?」
足は絡まり、すとん、と尻餅をついた。
ダイヤ「はぁはぁ...」
梨子「大丈夫ですか?少し休みましょう」
そう言って手を伸ばす。いつもならこんなステップを楽々こなすはずだ。
梨子「足とか捻ってないですか?」
ダイヤ「ええ、大丈夫ですわ」
しかし、ダイヤはなかなか立ち上がろうとしない。
梨子「手貸しますよ。ほら」
ダイヤ「いえ、大丈夫ですわ」はぁはぁ
梨子「でも」
ダイヤ「だから大丈夫ですってば!」
梨子「ビクッ!」
ダイヤ「すみません、声を荒らげてしまいました。本当になんともないですわ...」
そう言いながら、ヨレヨレと立ち上がった。
その後の練習は気まずくなり、基礎的な練習をしてその場をしのいだ。 気まずさの所為もあり、練習はいつもより長く感じられた。しかしいつかは終わりを迎え、今日もバスに乗り、薄暗い中帰宅する。
梨子「ただいま〜」
家の鍵は空いていた。誰か中にいるようだ。母だろうか?
「お帰り〜」
家の奥の方から声がする。顔を確認すべく、声のした方へと向かった。
確かこの辺りから聞こえた筈だ。洗面台がうんともすんとも言わずに鎮座している。
梨子「んーおかしいなぁ。何処にいるんだろう」
探すと、リビングに母はいた。が、頭を机に突っ伏して寝ていた。揺すっても起きないぐらいには熟睡している。
梨子「起きて!起きてってば〜」
母「ん、梨子か。おはよう」
梨子「もうおはようじゃなくて、こんばんわの時間だよ!夕食間に合ってるの?そうじゃなかったら手伝うけど」
母「後もうちょっとで終わるから大丈夫よ。できたら呼ぶから、着替えてらっしゃい」
梨子「わかったわ。夕ご飯待ってるからね」 梨子「さて、倫理の課題進めちゃいましょ」
机の上に大きな模造紙を広げ、レイアウトを決めていく。ネットから仕入れた情報と資料を交互に見比べながら進めていく。
_____ 村落の氏神社への信仰や祖先崇拝といった、従来、人びとが日常レベルで慣れ親しんできた信仰に、記紀神話の再編にもとづくスケールの大きい宇宙論を結びつけ、さらに幽冥界での死後安心の世界を提示した______
_______ 現実の習俗などから類推して、死者の魂が異界へおもむくのは間違いないが、その異界は現世のあらゆる場所に遍在しているとし、神々が神社に鎮座しているように、死者の魂は墓上に留まるものだとした_________
_______現世からはその幽界をみることはできないが、死者の魂はこの世から離れても、人々の身近なところにある幽界にいて、現世のことをみており、祭祀を通じて生者と交流し、永遠に近親者・縁者を見守って行くのだという______ ______つまり生者と死者は、黄泉の国を代表とするような空間的に区切られているのではなく、重なっており、現代で例えるならば電磁波のようなものであるという。
我々は電磁波を見ることができないが、ラジオを通して捉える事ができる。死者の魂や残滓はまだある方法やきっかけがあれば見る事ができるのだ_____ 梨子「...」
梨子「長すぎて、何処をどうやって纏めればいいかわからないわね...」
梨子「とりあえず、国学者ってところは必ず入れて、彼の思想が後の尊王攘夷に影響を与えたってぐらいでいいか」
梨子「ふぅ、一息つこう」ノビー
梨子「んーってあれ?この本って?」
梨子「民俗...うじしゅうい?であってるのかしら?」
梨子「今の本まとめ終わったら、一緒に返しに行こう」
「ご飯よ〜」
「はーい、今行く!」 「ご飯よ〜」
再度、間延びした母の声がする。答える間も無く、部屋を後にして。
階段を下っている最中も、「ご飯よ〜」としつこく聞こえた。
リビングに降りると、母が怪訝そうな顔をしていた。
母「まだ呼んでないのに、どうして戻ってきたの?」
梨子「だってさっき、ご飯よ〜って呼んだじゃない」
母「?」
母「まだ一言も呼んでないよ。ちょうど今できたところだからいいけどさ」
梨子「え?何回も呼んだじゃない」
この言葉を吐いた後、梨子は鳥肌が立った。
人には声の抑揚がある。それは毎回異なるものだが、先程聞いた声は、機械のように、同じ抑揚を繰り返していた。
梨子「いや、ただの空耳よ。なんでもないわ...」
母「じゃいただきましょ」
梨子「...うん」 とこに着く前、お守りをもぞもぞとバッグから取り出した。
心なしか朱い色は薄らいでいるように見える。
梨子「もうそんな事終わったと思ったのに」
お守りは冷たく、何も喋らない。
ゴツゴツとした枝の様な感覚が布越しに伝わる。
この中には一体何が詰まっているのだろうか。
梨子「気にしても仕方ないか」
梨子「きっと空耳よ。明日が来れば、何もかもが良くなるわ」
梨子「はぁ、結局倫理の課題終わらなかった。空白も出きっちゃったし、何書けばいいんだろう。」
梨子「もう遅いから寝て、これも明日やろう」
梨子「....」ウトウト
梨子「....」スヤァ 夢を見ていた。
行き交う人々は、皆、着物を着崩した古めかしい格好をしている。笠や脚絆を身につけた姿が印象に残る。
そしてその中に、墨染の袈裟を羽織った坊主が一人。
海の近くであるようだ。人々の喧騒に混じって、波の音と磯の香りが鼻先をくすぐる。
漁村であろうか?
家々は海岸間近に迫った山の裾に、しがみつく様に広がっている。
津波を受けたら、一溜まりもないだろう、とふと思った。
シャン、シャン、と杖を突く度に鈴が揺れる。
坊主は何処へとも口を開くことは無かったが、なぜか長者の家へ向かっているのを直感的に理解した。
なぜだろう。私はこの道を知っている。
浜を抜けて、崖沿いの細い道を抜けて、坊主は長者の家を目指す。 坊主は、杖とは逆の手で印を結び、何も喋らずスタスタと歩いて行く。
やがて長者の家が見えてきた。
私は間違いなくこの家を知っている。この家はおそらく...
いつも見慣れた長屋門ではなく、大きな二つの柱と、その間に一本梁を通したかの様な質素な大門が見えてきた。
しばらく坊主は門の前に立ち止まり、今度はもごもごと何かを呟いている。
一呼吸付き終わる度に、手の印の形は変わっていく。
いつから来たのだろう、使用人と思しき男が、柱の横から顔を出している。
坊主「@#%*¥&〜!!!」
大きな声を荒らげると、坊主は読経ともなんとも取れない不思議な声を辞めた。 「ようこそいらっしゃいました」
その声に驚き、前方を向く。
息を呑むほどに綺麗な女の人が立っていた。
凛とした佇まい、緑の黒髪は前髪がぱつんと切られ、その奥から研ぎ澄まされたつり目が覗く。
目尻、唇には紅が差され、ひときわ白く透き通った肌とのコントラストが美しい。
女「さぁ中へいらしてください」
坊主は使用人に一瞥もくれず、ずかずかと敷地に入っていった。
私に視線も坊主と女を追いかける。 -------,,,ノノ
/;,丿'''"""´´´`彡
/ ,ミ::::: 闇 iミ
|ミミシ:::::: / ,,,〜,,\!
_,-'' )シ::: ,,(/*;)、 /★)| ,,・ ∴.'
∧sw∧ , -' (.__,-''し::::: ) ))' ´i |`⌒i
( #゚Д゚) .,-'~ ,- ' ミミ:::::ヽ f o o)、i
/⌒ )ヽ(w i .,-'~ ,-'~ , ),・ヽ::::::::| ))-=三=-∵・∵
.,/ / ヽヽヽ ,-/'~ ,ノ ,、', __/ヽヽ:::: ゛゛ノ ;’``゙.ー--,, ・,
/ ^)' l ゝ _)-'~ ,-'~ / ヽ`ー-‐'  ̄ ̄ヽ
/ /' ヽ ^ ̄ ,-'~ / / ) ノ  ̄ \
(vvvつ ヽ / (⌒`──'\ / ///酒井ノ /\
| / ゙────/71/ / /かずお|\/\ 'ヽ
l、_ / / // // \ \
俺達やGODが作り上げたラブライブ!サンシャイン!!をゴミ糞バカアニメに改悪するな!!
CYaRon!の名付け親のにこっぱなのおっさんも草葉の陰で泣いているぞ!
Aqoursのキャラをテメーのくだらん自己満足のために改悪した挙げ句おもちゃにしやがって・・・
お前のやっていることはどう考えても原作レイプだということをいい加減に理解しろッッ!!
サンシャイン!!の劇場版が終わったらとっととこの業界から失せろ!!
この中村負広と並ぶセンスダサすぎ(笑)、器小さすぎ(笑)の自己満足オナニード低脳無能暗黒監督がっ!! 一応保険までに
落ちたり埋められたらしたらばで初めから書き直します
タイトルの案ください 坊主と美女は屋敷の中へ入って行く。
奥まった屋敷の中の、何処をどう歩いたかわからない。一室のみ、御簾の降りている部屋の前に着いた。
「ここでございます。さあこちらへ」
美女は御簾を上げ、坊主に中へ入るよう誘導する。
坊主はコクリと頷くと、体を米粒の様に小さくして中へ入る。
中は四畳半より少し小さいくらいの大きさであった。
祭壇だろうか?暗闇に控えめに輝く黄金が見え隠れする。
昼行灯が必要なぐらい薄暗い。
美女と坊主は互いに向き合うと何か語り出した。 「ご覧の通り、この地域では...に悩まされています」
「そこでなんでも..が叶う...邪...を給わる為に....」
近くで聞いているはずなのに、なぜか全てを聞き取れない。
「これは...天という神であり....」
「...者の願いを全て....邪神....ある」
「まぐわう姿で.....が、一体の場合は更に霊力を増す」
「これと...紅葉の邪...を其方に....」
「必ず.....贄を....」
部分的に推測するに、なんだか物騒な話をしている様だ。
更に坊主と美女の話は苛烈を増し、悍ましい話が繰り広げられて行く。
私はこの空間から離れたくなった。
そうだ、あの御簾から逃げよう、そう思い、御簾に手をかける。
御簾「ガタガタ」
開こうとしたら何故か音が鳴った。
美女と坊主はこちらを見る。目があった。
坊主「誰だ貴様は!!」
坊主がこちらへジリジリと歩み寄る。足が竦むで動けない。 「これ以上聞かれたら、誰とは知らぬが容赦せん!覚悟!」
坊主の懐から刃がきらめく。咄嗟に私は目を瞑った。
リリリリリリ!!!
目覚まし時計の音で目がさめる。嫌に現実的な夢を見たようだ。御簾の感覚をまだ手が覚えている。
梨子「......はぁ」
梨子「もう、朝からなんなのよ」
げんなりしながら起き上がる。あの夢は一体何なのだろうか。最近の出来事と関係がない様には思えない。
数回、息を深く吐いたり、浅く吐いたりして呼吸を整える。
梨子「大丈夫、大丈夫だから」
そう自分に言い聞かせる。着替えて朝食を食べに下へ向かおう。
その前に、机の上に置いたお守りを見た。
おかしい。
昨日よりも色が随分と変わっている。数十年もの経年劣化を経た様な色褪せ方である。
梨子「....!」
途端に鳥肌が立った。
しかし、気のせいだと言い聞かせて一階へ向かう。 このお守りの色が落ちた後、また、得体の知れぬ何かが自分を襲うのでは、と不安になった。
それからというものの、授業と練習中以外は肌身離さず、お守りを持ち歩いていた。
梨子「そんな事ない。大丈夫だから。ね?」ギュッ
お守りが壊れてしまうのではないかと思うぐらいの、強い力で握りしめる。
一人になる度、大丈夫だ、と、心の中で呟く。
異変に気付いてから3日が経った。
無情な事に、朱の色は、あと2、3日程で淡く消えてしまいそうなほどに薄らいでしまっている。
何か別の事をしていても、お守りが気になってしまう。
女教師「えー、皆さんは子宮頸がんワクチンをもう既に接種していましたね。子宮の病気には自分の将来が関わってきます...」
梨子「(しばらく見なかったのに、また変な物を見だした様な気がする)」
梨子「(視界の端や、ふとした拍子に、黒い靄が見えだした)」
梨子「もうやめてよ...何で私だけなの...」 女教師「これは私の知り合いの話ですが、高校3年生の女子生徒が、この歳で子宮の病気になってしまったそうです。今も学校に通いながら闘病を続けています。病気は怖いですね....」
梨子「(そういえば、ダイヤさんの症状は、教科書に書かれているこの症状に似ている...まさかね...?)」
スッと窓の外を何かが横切る。
梨子「...?」
自然に視線がそちらへ向かった。
梨子「_____ッ!!!!」
理解するのに何秒もかかった。校庭の端で誰かが首をつっていたのだ。
鳥肌が立ち、あまりの異常さに声も出せない。
その異様さに釘付けになり、目を離せなくなる。
梨子「______」パクパク
キーンコーンカーンコーン
梨子「....!」ハッ
チャイムで我に帰る。その後、もう一度同じ場所を見たが、首をつった人などどこにもいなかった。 きっと見間違いだ。服でも掛かっていたのだろう。
何度もそう繰り返す。
気を紛らわす為に、教科書を何度も何度も入れたり出したりを繰り返す。
千歌「りーこちゃん!」
梨子「きゃあ!」
千歌「もう、そんな声出さなくてもいいいじゃん。ただ後ろから声掛けただけだよ?」
千歌「梨子ちゃん、最近ビクビクしてるよね?どうしたの?」
梨子「あぁ....その、ちょっと寝不足みたいで、変な物を見たりしちゃったり、動悸が激しいみたいで...」
千歌「それって幻覚って事?ヤバイよそれは。休みなよ!」
梨子「...う、うん」モゴモゴ
千歌「....」
千歌「ところで、ルーズリーフ貸してくれる?さっきの授業で切れちゃったみたい」
梨子「ええ、良いわよ。はいどーぞ」
千歌「わー!ありがとう!」 〜放課後〜
千歌「梨子ちゃんお家帰って休んでもいいんだよ?」
梨子「でも、ライブも近いし一応見学だけはさせて。お願い」
千歌「いいよ。でもそんな悲しい顔はしないで。何か悩み事があったら相談に乗るよ」
梨子「ええ、ありがとう。じゃあちょっと練習着取りに行ってくるわ」
千歌「わかった!行ってらっしゃい!」
梨子「(家に帰っても、何か変な物に会うかもしれない...)」
梨子「(それなら誰かと一緒にいた方がいい...)」
梨子「(お願い。私を守って)」お守りギュッ
梨子「(ロッカールーム、電気ついてる。誰かいるのかしら?)」 ロッカールームにおずおずと入る。一人で居る事、それだけでとても不安に思う。
梨子「入るわよ〜」
梨子「...!」
中で誰かが泣いていた。違う学年の生徒であるようだ。タイの色が緑だ。
生徒「....っ!.....ぐす.....!」
しゃくり上げが激しい。相当嫌な事があったのだろう。顔を隠すように三角座りをし、泣きじゃくって居る。
梨子「(気まずい...)」
梨子「(早く荷物取って出よう...)」
荷物は取り終わった。後はこの気まずい空間を脱出するのみである。 出入り口の前で立ち止まり、ドアに手をかけ、開けた。
目線をどこにやればいいのかわからないので、とりあえず床を見る。
梨子「失礼しま...!」
そう言いかけた時、急に生徒が立ち上がりこちらへツカツカと歩いてくる。
顔はよく見えない。見たくなかった。
ドン!
肩と肩がぶつかる。そのまま強引に生徒は出て行ってしまった。
梨子「(もうなんなのよ...)」
少しうんざりしながら廊下を歩く。
「ねぇ...ちょっと...」
「声掛けた方がいいのかしら...?」
後ろからザワザワと声が聞こえる。何事だろうか? 背中に視線を浴びながら教室へ戻る。
曜「梨子ちゃんお帰り。千歌ちゃん、ダイヤさんに呼ばれて先...行ってる..って...ってうわ!なにそれ!?肩どうしたの?怪我!?」
梨子「怪我なんてしてないわよ..?ん?」
肩を見る。ちょうど死界になるあたりに、赤い液体がこびり付いていた。
梨子「なにこれ!?さっきまで無かったはずなのに!」
液体は少ししっとりとしていて、鮮度を失った血液の様に少しどす黒い。
梨子「どうしよう!?どうしたらいい!?」ウルウル
曜「まずは落ち着こう。深呼吸して」
曜「大丈夫?落ち着いた?じゃあ着替えて制服の肩洗おっか。クリーニングが必要かもだけど、ね?」
曜「大丈夫だから泣かないで梨子ちゃん。一人でできる?」
梨子「...うん。わかったわ。でも怖いから一人にしないで」ウルウル
曜「わかったよ。ラインで遅れる事伝えておくから、一緒に洗面台行こう?」
梨子「うん」ウルウル 冷たい水に手を浸けて洗う。上は練習着に着替えたため、少し肌寒い。
バシャバシャと音を立てながら、液体はスルスルと薄らいでいった。
曜「さっきも見たけど、本当に怪我じゃないみたいだね」
梨子「そんな怪我なんかしてたら、すぐにわかるわ。だって痛いもの」
曜「そうだよね。じゃあ、なんか心当たりある?」
梨子「さっきロッカールームで三年生にあったの。その時に肩がぶつかったから、それかもしれない」
曜「大丈夫なのかなぁ、そのぶつかった人も。でもとりあえず、汚れ落ちそうでよかったね!」
梨子「...うん。そうね...」
梨子「(でも、ぶつかった時に付いたはずなら、あの三年生の肩とか、手とかに液体が付いていたはず)」
梨子「(でも、一瞬とはいえ、手や肩に何も付着していなかった。あの人は本当になんだったの?)」 結局部活には30分ぐらい遅れてしまった。
皆が練習する中、一人だけ見学するのは少々後ろめたさがあった。一人になりたくないエゴなんじゃないかと悶々とする。
曲を流したり、録画したり、細々とした作業を手伝う。
「じゃあ始めます!」
「せーの!いち!に!さん!し!....」
一通り練習をした後、休憩を挟む。
千歌「梨子ちゃん!梨子ちゃん!今日ね、お家からお茶持ってきたの。最近寒いでしょ?だから、保温付きのに入れてきて、みんなに配ろうと思って!」
梨子「わぁ、ありがとう。いただくわ」
香りからして、緑茶ではないようだ。
千歌からお茶をいただく。
梨子「ゴク...」
口につけた瞬間、違和感があった。 ぬるぬるとした舌触り、少ししょっぱく、鉄のような臭いが鼻をすり抜ける。
梨子「...!!」
慌ててコップを覗き込む。コップの中はお茶ではなく、赤い液体に満たされていた。
梨子「きゃああああああ!!!」
思わずコップを放り投げた。
梨子「いてっ!」
気が動転して尻餅をつく。ぞろぞろと、皆梨子の方へ駆け寄ってくるのがわかった。
梨子「きゃああああああ!!」
再び悲鳴をあげた。
梨子「来ないで!!来ないで!!」
ある者は顔が無い、またある者は、目がドス黒く空洞になっている、ポタ、ポタと何かが落ちる。
それはうねうねと蠢いた。
凝視する。
それは蛆だった。 梨子「もぉやめてぇ!来ないで!許してくださぁい!!」
地獄の釜が鳴り響く様な声と共に、亡者達は近づいてくる。
いつもの優しい仲間達の姿は、もうそこにはなかった。
「うはぁはぁは〜」
「むぅううう」
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
ぼた、ぼた、と肉とも汁とも、ましてや蛆とも区別のつかない何かを落としながら、8人の異形は梨子に迫る。
梨子「これは夢、これは夢、これは夢....!」
腰を抜かしたまま、這々の体で逃げる。
梨子「...!」がしゃん
梨子「(フェンス!行き止まり!)」
逃走も虚しく、フェンスにぶつかる。前方には亡者、後方にはフェンス。もはや逃げ場などどこにもなかった。 梨子「やめてください...やめてください」
目を瞑り、蚊の鳴くような、か細い声で何度も何度も繰り返す。
梨子「...?」
一瞬、亡者達の声が止んだ。少しの安堵感と安心感を得るために、下を向いたまま、目を薄く開く。
梨子「...!?」
梨子「誰もいない..?」
梨子「夢だったのかしら...?」
安堵感を得て、顔を上にあげた。
すると、そこには。
梨子「きゃあああああ!!!」バタン
間近に亡者の顔があった。目からは蛆が垂れ、ぬちゃぬちゃと肉を食い散らかしている。
唇と歯茎の境界線がなくなった口から、だらだらと体液が流れ出ていた。モゾモゾと口を動かしている。
「り...こ...ちゃ..ん?」
薄れゆく意識の中で、誰かがその様に呟くのが聞こえた。 梨子「...」パチ
梨子「...ここ、どこ?」
梨子「(白い遮蔽カーテンに薬品の匂い。保健室かな?)」
誰かが周りで話をしている様だ。ボソボソと声が聞こえる。声の聞こえる方向に意識を向ける。
「...そうです。急に何かに怯える様に...言い方は悪いんですけど、発狂したみたいに暴れ出して...」
「私達、なだめようとして近づいたんですが、そしたら気を失ってしまったみたいなんです...」
梨子「(そうだ、私は...!)」
肉の腐った、少し甘ったるい臭いを思い出す。
梨子「げほっ!げほっ!」
胃に何も入っていないので、サラサラとした唾が込み上げてくる。
梨子「ゴホッ!ゴホッ!ンハッ!」
「...!」
「梨子ちゃん!起きたの!今行く!」 白いカーテンが、少し強引に開かれた。
千歌「梨子ちゃん、やっと起きた。心配したんだよ」ウルウル
梨子「そんなに抱きつかないで...苦しいわ...」
梨子「その、練習中に、私は気を失ってしまったって事でいいのかしら...?」
千歌「そうだよ。急に気を失っちゃったんだもん、驚いたよ...」
千歌「先生呼んで、みんなでここまで運んできたの」
梨子「...」
梨子「他のみんなは?」
千歌「さっきまでいたよ。ダイヤさんが一番最後まで残ってたかな...?練習は今日はもうおしまい。」
千歌「私だけ残って、後はみんな帰ってもらった」ウツムキ
千歌「梨子ちゃんのお家に連絡したけど、留守だったみたい。だから、付き添う人が必要で、私が残ったの」
千歌「今日はうちの車出すから、一緒に帰ろう?」
梨子「でも...!」
千歌「でもじゃない!梨子ちゃんの事、本当に心配なの!最近調子おかしいみたいだし、昼間の事だってあるんだよ?ね?一緒に帰ろう?」
梨子「..,わかったわ」 千歌「着いた!梨子ちゃん、歩ける?」
梨子「えぇ、大丈夫よ。一人で歩けるわ」
千歌「梨子ちゃん、お父さんとお母さん帰ってくるまで一人でしょ?帰ってくるまで、千歌が一緒にいるね!」
大丈夫だよ、という言葉が喉まで出かかった。しかし、あんな物を見た後では、一人は心細い。だが、千歌が一緒にいても、怪異に遭遇するのでは?という二重の不安が梨子を襲う。
千歌「ね!何かあったらなんでも言って。梨子ちゃんは休んでて」
しばらく返事を返せず黙っていたが、千歌に押されて結局は家の中へ招き入れてしまった。
千歌「お茶でも飲もっか?」
梨子「...!」
梨子「...遠慮しとくわ」
梨子「(正直、何も飲みたくないし、食べたくもない)」
「ただいま〜」
千歌「あっ!梨子ちゃんのお母さん、こんばんは。今日はお伺いしてます...」 「お邪魔しました〜」
母「本当に、貴方大丈夫?明日念のため病院行くわよ?」
梨子「...うん」
母「千歌ちゃんから話あったけど、貴方練習はしばらくお休み。次のライブも休んだ方がいいわ」
梨子「...うん」ウルウル
母「ご飯できたら部屋まで持ってくわ。それまで休んでらっしゃい」
梨子「やだ」ウルウル
母「?」
梨子「ここに居ていい?」
母「いいけど、どうしたの..?」
梨子「...っう...うわーん」
母「どうしたの!急に泣いて!?」
梨子「ひっぐ...うぅ...!」
梨子「もう嫌だよぉ...なんで私だけなの...!」 母「何があったかわからないけど、大丈夫よ」ギュッ
梨子「うわーん」
梨子「(それからはあまり覚えていない。ご飯を食べて、寝て、気づいたら次の日になってた)」
母「起きなさい。順番取らなきゃいけないから早く行くわよ」
梨子「...まだ眠いよ」
母「洗濯したやつここに置いておくから、早く下きてご飯食べちゃいなさいよ」バタン
梨子「うん」
梨子「...!」 お守りはすでに真っ白になっていた。
途方も無い絶望が梨子を襲う。
それからというものの、朝食も何もうまく喉を通らず、ぼーっとしているのみであった。
母「着いたわね...」
母「今日は神経内科と心療内科回るからね?」
梨子「うん...」
母「心療内科は混んでるから、先に順番とっときましょう」
梨子「うん...」
病院に来るまで、幾度か黒い人影を見た気がする。
見た、と断定はしたくなかった。自分がおかしいことを受け入れる様で嫌だったからだ。 中規模都市の中枢を担う、大きな総合病院。
おそらく、この周辺の地域に住まう者は、この病院で生まれ、そして看取られるのだろう。
梨子「(さっきから変な人ばかりいる)」
梨子「(廊下に立っていたり、蹲ってたり、みんな虚ろな目をしている)」
梨子「(そういう精神系の病棟だからかな?気のせいよね...)」スタスタ
____________
________
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受付「それではスキャンはこちらで受けられますので、13時までお待ちください」
梨子「わかりました」
母「それまで暇ね。病院内のカフェでお茶でもしない?」
梨子「...うん」
母「そんな暗い顔しないの。大丈夫、梨子はきっとなんともないわ。ただ疲れているだけなのよ」
梨子「...そうだといいね」
母「あっ...!」
母「ねぇ、あれって貴方の高校の制服じゃない?」 遠目に薄いベージュの色をした、いつもの見慣れた制服が見えた。
緑髪の凛とした佇まい。その後ろ姿は、間違いなく。
梨子「ダイヤ...さん?」
母「何?そういえば、貴方の部活の先輩に似てるわね。三年生の子よね?」
梨子「うん。そうだけど...」
母「あっ、曲がった。あっちって確か婦人科よね。何か大変そうね...」
梨子「...そうだね」
梨子「(最近休んでる事と何か関係ありそう...でも詮索はしないでおこう...)」
母「カフェ、混む前に早く行くわよ」
梨子「うん...」 __________
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____
母「結局、なんともなかったわね。お母さん、安心したわ」
梨子「...うん、よかったね」
母「もう、せっかくなんともない事がわかったんだから、そんな悲しい顔しないの!」
梨子「ごめん」
母「今日はケーキでも買って帰りましょ」
梨子「...うん」
____________
________
______ 夕食を終え、ベットに横になる。
天井をただ見つめ続けていた。
改めて自分の異常性が解ってしまった事に悲しみを隠せない。
梨子「(こんな変なの、いつまで続くのかな...)」
梨子「(一生こんなのを見なきゃいけないのかな...)」
梨子「(脳とか、そういう異常だったらよかったのに...)」
梨子「(もう普通に生きていけないのかもしれない...)」
寝返りを打つ。机の上に、山積みになった、倫理の授業の為の本が見える。
梨子「(あっ...本返さなきゃ。あともうちょっとで期限切れちゃう...)」
梨子「(明日も学校行かなきゃいけないのか...)」
梨子「(正直、どこにも行きたくないし、何もしたくない)」
梨子「(でも、アレに会わない安全な場所ってどこにあるんだろう...)」ウトウト
もう一つ、机の上にあるものが目に着く。
梨子「(お守り...もう白くなっちゃった。持ってても、意味、あるのかな...)」ウトウト
____________
_______
____ リリリリリリ
梨子「...ん、朝か...」パチリ
梨子「(胸のあたりが重い...ん?猫...?)」
胸の上に、黒猫がぽつんと乗っかっていた。
梨子「(かわいい黒猫ちゃんね...触っても大丈夫かな...?)」
梨子「(ちょっと目がショボショボする)」ゴシゴシ
もう一度目を開ける。猫の姿はどこにもなかった。
梨子「...?」
梨子「寝ぼけてたのかしら...?」
梨子「ってこんな時間。早くしないと、バスに間に合わない!!」 千歌「おっはよ〜梨子ちゃん!今日もいい天気だね!」
梨子「千歌ちゃん、おはよう。でも少し寒いわね」
千歌「今日はバス停来るのちょっと遅かったね?なんかあったの?」
梨子「ううん、ちょっと寝すぎちゃっただけ。なんともないわよ」
千歌「そっか、じゃあよかった。あ、バスきたよ!」
いつもの様にバスに乗り込む。不安な気持ちを、少しでも紛らわす為になるべく会話を続けていたい。
一応お守りは持ってきてある。
曜「千歌ちゃん、梨子ちゃん、おはヨーソロー」
千歌「曜ちゃん、おはよう!隣いいかな?」
曜「いいであります!こっちおいで!」 曜は一番奥の横広な席に腰掛けていた。
曜の隣には、何故だか見知らぬ男性が何食わぬ顔顔で、ぴったりと座っている。
その男性の膝の上に、腰掛けるかのように、千歌は移動し始めた。
梨子「えっ!?そこに座るの!?」
千歌「ん?どうしたの梨子ちゃん?目が泳いでるけど..?」
梨子「だって..ひと...」
そこまで言いかけてやめた。おそらく、この男性は梨子にしか見えていない。
梨子「なんでもないわ...私、前の席に座るわね」
千歌「...そっかぁ」ストン
梨子「...!」
男性と同じ位置に千歌が座る。男性と千歌が重なり合って、二十線を描いた。
男性は虚空を見つめ続けている。千歌はおしゃべりに夢中な様だ。
なるべく男性の顔を見ないように、二人の顔を見ながら、会話を聞いている風を装う。 バス「ピンポーン、次止まります」
曜「もう着いちゃった。早いね!」
梨子「そうね...」
バスから降りる。千歌と重なり合った男性が気になる。
梨子「(そのまま降りてきたらどうしよう..)」
千歌「どうしたの梨子ちゃん!早く行くよ!」
梨子「ええ、今行くわ!」
不安は杞憂に終わった。男性は何をするわけでもなく、ただずっと虚空を見つめるばかりだ。
それから、なるべく会話を途切らせないように、二人の顔以外を見ないように、校舎を目指した。
梨子「(さっきの人は一体なんだったんだろう?)」
梨子「(車窓からチラホラ、虚空を見つめてたり、道の途中で蹲ってたりした人が見えたけど、もしかして、アレだったのかしら...)」 昼前まで、移動授業がなかったので、自分達の教室で過ごす。
教室の内外では特に変わった事は起きていない。
キーンコーンカーンコーン
千歌「ふぅ..授業終わり!」
曜「授業お疲れ様であります!」
曜「今日は購買行かない?パン屋さん来てるらしいよ!」
千歌「いいねぇ!行こう行こう!」
梨子「あっ、ごめんなさい...今日はちょっと図書室に本返しに行かなきゃいけないの。だから遠慮しとくわ」
千歌「そっかぁ、もしかして、この前の課題?」
梨子「ええ、そうよ」
曜「じゃあ邪魔はできないね!梨子ちゃんガンバ!」
梨子「ありがとう。じゃあ行ってくるわね」スクッ 廊下を歩いている最中、なにかが前を横切った。
梨子「なにかしら...あれ..」
気になりつつ、教室の角を曲がる。
梨子「!!」
梨子「なんだ、猫か...」
海が近くのこの地域では、東京に比べ野良猫をよく見る。当然、校内に猫や小動物が侵入してくるのも、珍しいことではなかった。
梨子「どうして校舎内に猫がいるのかしら?外に出してあげないと」
梨子「そのままじっとしててね」
猫は梨子の様子を見るかの様に、廊下の真ん中にちょこんと座っている。 梨子「(この猫、朝寝ぼけて見た黒猫みたいだな。真っ黒だし、かわいい)」テクテク
梨子「(近づいても逃げないわね...随分と人馴れしてるみたい)」ソーッ
猫はこちらを見ながら、頭と姿勢を低く下げる。
梨子「いい子だねー、って...あっ!」
梨子「逃げないで〜!」
梨子「待って、そっち行っちゃダメだよ!」
とっさに猫を追いかける。そっちは図書室の方で、扉はいつも閉められているから行き止まりだ。
梨子「はぁはぁ...行き止まりだから、なんとか誘導して外に出してあげないと...」
梨子「あれ...?居ない...?」
ここまでの道は一本道。更に空いている窓やドアはなかった。もし猫が引き返したとしても、必ず目に付くはずだ。 ひとまず猫の事は忘れ、図書室の扉を開ける。
梨子「こんにちは〜」
「こんにちは」
梨子「ああ、今日の当番も花丸ちゃんだったんだ」
梨子「この前借りてた本、返しに来たわ」
花丸「ありがとう。うん、確かにこの前借りてた本受け取りました」
花丸が作業を済ませている間、なんとなくあたりを見回す。
梨子「...!!」
図書室には似つかわしくない物体が、机の上に。
そこには、先ほどの黒猫がちょこんと乗っていた。
梨子「花丸ちゃん!猫!猫だよ!早く外に出してあげないと!!」
花丸「え...梨子さん、もしかして、その猫が見えるの...?」 梨子「言ってる事がよく理解できないんだけど、とりあえず外に出すわよ!花丸ちゃん、手伝って!」
梨子「私窓開けるから、花丸ちゃん、誘導お願い」
花丸「ああ、でもその猫は...」
猫は先ほどとは打って変わって、リラックスしているようだ。机の上で、くねくねと体を動かし、腹を上に向けている。
梨子「もしかして、今が外に出すチャンス?」
梨子は机に駆け寄り、猫に向かってそーっと手を伸ばした。
梨子「....」
手が触れるか触れないかの距離。とても緊張するが、意を決して猫をつかもうとした。
梨子「えいっ!」
梨子「!?!?!?」 伸ばした手は、スカッと手は虚空を切る。確かに猫を捕まえようと手を伸ばしたはずだ。
梨子「...え?え?どうなってるの...?」
花丸「その猫、絶対に触る事が出来ないみたいなの。さらに言うなら、猫自体を見える人もあまりいないみたい...」
猫は相変わらず、机の上でくねくねと体を動かしている。
花丸「信じてもらえないかもだけど、それ、猫の幽霊みたい、なんで..す」
梨子「...うそ」
花丸「特に人に危害を加えたりしない無害な存在みたいで」
花丸「この学校とかその周辺をウロウロしてるみたい。でも、昼休みになると、その机の上でゴロゴロし出すの」
花丸は少し変わった動物を見るかのような、また、困ったような顔を梨子に向けた。
花丸「でもこの前は見えてなかったのにどうして...」
梨子「....」 花丸「梨子さん、今からちょっと丸についてきてほしいずら」ガシ
梨子「え..図書委員の仕事はいいの?」
花丸「どうせ誰もこないよ。放課後だったら人来るけど...」
花丸に手を掴まれ、扉を抜け、廊下を抜け、とある教室へと辿り着いた。
長年誰も使ってないようだ。物が乱雑に床に置かれ、埃をかぶっている。それにカビ臭い。早くここから出たい。
花丸「梨子さん、教室の真ん中に何が見える...? 」
そう言いながら、花丸は自分の顔の前に手を持ってきて、狐の窓を作った。
梨子「...!」
教室の中央を凝視する。何か置いてあるようだが、その手前に箱などが置いてあって認識しずらい。
梨子「...?」
梨子「.........?」
梨子「.....!!!!」 人が床から生えていた。
それしか言い表す言葉がない。
梨子「...!!...何、あれ...」
梨子「花丸ちゃん!早く逃げなきゃ!!」
花丸「大丈夫、あれは無害なやつ」
梨子「でも!!」
花丸「オラを信じて!...大丈夫だから、お願い!」
梨子「...」
梨子「...わかったわ」
花丸「梨子さん、何が見える?」
梨子「...床から、人の上半身が生えてる。男性かしら?顔はよく見えないけど、上を見てる見たい」
花丸「それで、服装は」
梨子「少し時代ががったシャツを着てるわ。暗くてよく見えないけど、ベージュみたいな色してるかも」
花丸「そっか」
梨子「そっかって何よ!本当に大丈夫なの!?ねぇ!」ユサユサ 花丸「揺すらないで...!今のは見える強さを確かめただけだから!」
梨子「それってどういう事?」
花丸「見える人にもいろいろあるの。力の弱い人は、オラみたく、何か動作をしなきゃ見えない」
花丸「でも梨子さんは、動作なしにあれを見る事が出来た」
花丸「この前まで猫すら見えなかったのにどうして...?」
梨子「...」
梨子「それはわからないわ...」
花丸「もしかして、最近調子が悪かったり、この前の練習のアレと何か、関係、あるんです...か..?」
梨子「...!?」
梨子「...」ウルウル
梨子「...正直に言って良いのかしら...?」グスン 梨子は目に大きな涙を湛えた。
花丸「そんな泣かないで」
梨子「だって、今まで相談出来る相手がいなかったから...それで、それで...」
花丸「じゃ、じゃあ、調子が悪いのも、この前の練習の件も、みんな霊的なものの仕業だったっていうこと、です..ね?」
梨子「うん...」
梨子「1ヶ月ぐらい前から、急に見え出して...」
梨子「それでも一時期は見えなくなったんだけど...」
梨子「最近また見え始めて、それがこの前の練習で...」
梨子「正直、私の体がおかしくなったんだと、ずっと思ってたけど、そうじゃなくて...」
花丸「うん、うん、辛かった...ですね...」
花丸「大丈夫です。きっと、元に戻りますよ...」
梨子はその後、予鈴が鳴り響くまで、花丸の胸の中でワンワン泣いた。
不安と安堵が入り混じった、よくわからない涙だった。 教室に戻る前、泣き止んだ梨子に向かって、花丸は以下のように説明した。
はじめに、見える人にも色々ある事。
次に見えるものの多くは無害である事。
これについては、梨子は半ば信じなかった。
最後に、見ても見なかったフリをする事。奴らになんらかのリアクションを示してしまうと、余計に状況が悪化するようだ。
今日は花丸は練習を休み、梨子の相談に乗ってくれるという。つまり、それまで、この怪異がウヨウヨした中で過ごさなければならない。
梨子「...はぁ」
教師「沼津の地理についてですが、富士山麓からの湧水や水源を生かし、パルプ工場などが作られました。昭和初期になると、これらの工場からの水質汚濁により...」
少し気分は憂鬱だ。早く放課後になる事を梨子は待ち望んでいた。 「ニャオン」
梨子「...はっ!?」
授業に見合わない、気の抜けた声がした。
教室の壁を、ゲームのバグか何かの様に、猫がぬるりと抜けてきた。
少し前なら、この場面を見ただけで発狂していただろう。
梨子「...」
なるべく平然を装う。先ほどの図書室で会った猫であろうか、全身が真っ黒だ。
梨子「(見えてないフリ...見えてないフリ...)」
梨子「...」チラッ
黒猫は少し遠い教壇の上で寝転んでいた。
教師が板書を書き直すたびに、その足が猫をかすめる。しかし、猫はお構いなしの様だ。
梨子「(なんかちょっと可愛いかも...)」
猫「ニャー」ぱちっ
梨子「...!」
梨子「(やばい!目があちゃった!!)」 猫「ニャー」テトテト
梨子「(こっちきてる!)」
梨子「(お願い、あっち行って!!)」
猫「ニャー」ストン
梨子「机の上に乗ってきちゃった!?」
そのまま猫は梨子の机の上で寛ぎ出した。
気が動転して、ノートを書くどころではない。
梨子「(平常心...平常心...)」
香箱座りをする猫と慌てる梨子の心をよそに、授業は続いていく。あと20分ぐらいだろうか?
手元が猫で見えない為、猫を避ける様にして再びノートを取り出した。
猫は梨子の努力も知りもしないまま、あくびをしたり、体勢を変えたりしてリラックスしている。
梨子「(じっとしててくれる分には無害なんだけどな...)」
猫は再びすくっと立ち上がった。そのままノビをし、三角に座り直す。
どうやらノートを取っている手元が気になる様だ。 梨子「(授業に集中したいけど、どうしても視界に猫が入ってくる...」)」
梨子「(...あっ)」
猫の首元に大きな傷が見えた。そこから肉が赤く覗く。
梨子「...うっ」
梨子「(そうだった。この子はもう...)」
教師「...水質汚濁と公害の歴史についてですが、四大公害が有名ですね。それでは桜内さん、そのうちの一つでいいので答えてくださいますか?」
梨子「っはい!!」ビク
梨子「えーっと、えーっと、水俣病です!」
教師「はい、その通り。そのほかイタイタイ病、四日市喘息、新潟水俣病がありますね...」
梨子「...ふぅ」
梨子「(急に指されてびっくりした...)」
猫「ウー!!フシャー!!」
梨子「(今度は何!?)」 猫は梨子の方を向いて威嚇し出した。
梨子「(本当になんなの...)」
手を動かして猫を払う動作をする。しかし、手は猫をすり抜ける。
猫「フゥウウウ!!ホワアアアア!!」
気にせず授業に集中する。
視界の上部に、前髪を下ろした時の様な、黒く、横一列になった暖簾の様なものが見える。
梨子「(あれ?前髪は分けてとめてるはずなのに...?)」
思わずおでこを触る。いつも通り前髪はまとめられていた。
猫は相変わらず、毛並みを逆立て、威嚇を続けていた。
梨子「(なんだろう...?)」
そのままその黒くて長いものを目で追ってしまった。
梨子「(前髪じゃなくて、前に何か垂れ下がってる...?」
梨子「....!!」 顔があった。
その顔から、長い髪が垂れ、梨子の視界の一部を塞いでいたのだ。
梨子「....!?!?!」
動悸が止まらない。冷や汗が出た。
梨子「(見てない見てない見てない見てない)」
素早く視界を黒板に戻し、何も見てない風を装う。
猫は威嚇をやめない。
時折、髪の毛がパラパラと動く。
おそらく天井の顔も動いているのだろう。
猫「フニャー!シャー!」
猫の威嚇の回数が多くなって行く。それに比例して、髪の毛がだんだん降りて来ている事に気付いた。
梨子「(誰か助けて誰か助けて....)」
見なかったふりをしてやり過ごすしかない。やり過ごせるかどうかもわからない。 それまで少ししかなかった髪の毛が、急にガクンと垂れ下がり、視界の半分を占めた。
猫「シャー!!シャー!!」
猫は威嚇を続ける。威嚇の声以外に、何か別の声が混ざっている事に気付いた。
「@#%〜@#%#*〜」
梨子「(見てない見てない見てない!!)」
恐怖心のあまり目を瞑る。本当は耳を塞ぎたいが、奴に気づかれてしまうだろう。
「...」シーン
猫の威嚇、教師の声がしなくなり、あたりが急に静かになる。
梨子「....?」
目をゆっくり開ける。
威嚇と教師の声が止んだのがたまたま重なり、沈黙を生み出した様だ。
「....@#%#*」
先ほどより、おそらく、天井の壁がつぶやいている声がはっきりと聞こえる。
無意識のうちに、梨子はその声に耳を向けてしまった。 梨子「!!」
冷や汗が背中を伝う。動悸がますます激しくなる。
梨子「(来ないでこないでこないで!!)」
一刻も早くこの場から逃げ出したい。
全身を強張らせ、目をぎゅっと瞑る。
「...さん...らうちさん!....桜内さん!!」
梨子「...はっ!?」
モブ「桜内さん、大丈夫?これ、プリント、後ろに回して」
梨子「...う、うん」
恐る恐るプリントを後ろに回す。
長い髪が一瞬見える。
モブ「授業も終わったのに、ずっと席について縮こまっているんだもん。どうしたの?」
梨子「...」
モブ「最近練習休んでるんでしょ。体調管理、気をつけてね!」
梨子「ありがとう...」
そういうと、梨子は素早く席を立ち、教室を離れた。 階段の踊り場まで来た。
あたりを見回す。視界の端には何もない。
梨子「(ついてこなかったみたい。)」
梨子「(ほっ....)」
梨子「(とりあえず、花丸ちゃんにライン飛ばそう...)」ピコピコ
下の階から人が上がってくるのが見えた。タイの色からして一年生だろう。
梨子「(移動教室なのかな...?)」
梨子「(私もそろそろ移動しないと...)」
一年生は、そのまま梨子の脇を通り過ぎていった。
移動しようと足を動かす。
梨子「...!?」
黒い塊が梨子の足に絡みついていた。
一瞬、姿を確認できず凍りつくが、すぐさま先ほどの黒猫である事がわかった。
梨子「もうなんなのよ...」
梨子「(でも、この子がいなかったら、あれにやられてたかもしれない...」
梨子「さっきはありがとうね...」
頭を撫でようと手を伸ばしたが、それも虚しくすり抜けて行った。 次の授業、その次の授業も、猫は梨子に寄り添うかの様について来た。
そのおかげか、変な物にはあれ以来遭遇してない。
担任「...今日も一日お疲れ様でした。それでは皆さんさようなら」
一同「さようなら〜」
梨子「千歌ちゃん、曜ちゃん、練習頑張ってね!」
曜「梨子ちゃんも元気でね。また明日!」
千歌「うん、じゃあまた明日!」
二人に挨拶を告げ、校門へ向かう。花丸と落ち合う予定になっているからだ。
廊下を抜け、校門まで猫はついて来た。
尻尾をピンと上にあげ、なんだか上機嫌な様だ。
梨子「あなたはどうして私についてくるの...?」
そう尋ねても、猫はニャアと鳴くばかりだった。 花丸「おーい、梨子さん!!」
遠くから花丸の声がする。
猫は花丸の姿を少し見つめた後、スタスタとどこかへ行ってしまった。
花丸「ライン見たけど、梨子さん、大丈夫!?」
梨子「ええ、何もついて来てないといいんだけど、とりあえずなんともないわ...」
花丸は再び狐の窓を作り、あたりを見渡す。
花丸「何もいないみたいずら。とりあえず、おらの家で話そう。そこは安全だから」
梨子「ええ、そうしましょう」
そのままバスに乗り込む。
その道中でも、道にうずくまる人、何か遠くを見つめる人など、沢山の何かを見たが、話さないことにした。
バス「次止まります」プシュー 花丸「こっちずら」
梨子「うん...」
少し歩くと、威厳を湛えた山門が見えてきた。
梨子「立派ね...」
花丸「そんなの、見た目だけで後は何も面白いものないよ」
梨子「すごい、古くて、立派なお家ね」
花丸「広いだけで、夏は虫が湧くし、冬は隙間風だらけで住むのには不便だよ。今日は本堂に案内するね」
梨子「ええ、わかったわ」
梨子は先ほどから、ピリピリした空気の違いの様な物を感じていた。
宗教的なものか、浄化の力なのかわからないが、黒い影やおかしなものは一切見えない。
花丸が安全な場所だと言っていた理由はこれなのか、と妙に安心した。 梨子「花丸ちゃん、質問なんだけど、どうして本堂なの...?」
花丸「それは“あれ”がオラ達を守ってくれるからずら」ガラガラ
梨子「?」
本堂の扉が開け放たれた。
少し薄暗いが、花丸は電源を探してうろちょろしている。
花丸「さ、入ってどうぞ。おら、座布団と飲み物とってくるずら」
梨子「お邪魔します...」
そのまま宿坊の方へ向かっていった。
ピリピリとした空気は一層強くなっていた。
その元をたどると、薄暗い奥の厨子から強く感じられるのだとわかった。
おそらく、あの厨子の中に秘仏が眠っているのだろう。
梨子「(守られてるって、そのまんまの意味だったんだ...)」 花丸「梨子さん、戻ってきたずら」
花丸は器用に座布団と飲み物を持って戻ってきた。
花丸「お見苦しいところを見せてごめんね」
梨子「ううん、そんな気を使わなくても大丈夫だよ」
花丸「ああ、そうだこれ、うちのお守り。梨子さん、これを離さず持っててね」
花丸「“信じる心”がなによりも大切だから」
梨子「ありがとう...」
花丸「ところで、これまでのことなんだけど、もっと詳しく聞かせてもらえないかな?」
梨子「...うん。あのね..」
梨子は今までに体験した事を詳細に語り始めた。
今まで霊障的な物に障った事がなかったのに、急に見え始めてしまった事、学校での体験、夢の話、そして今日の出来事。
いずれも嘘の様な、自分でも本当に起こったのだと信じきれない話ばかりである。しかし花丸は、その一つ一つを丁寧に聞き入っていた。 花丸「ところでさ、梨子さん。幽霊とか、その世界について、どう思ってる?」
梨子「どうしたの急に...?今まで見たのとかから言うと、見える人と見えない人がいるってぐらいしか...」
花丸「それについてだけど、おらはこうなんじゃないかと思ってるの」
花丸「幽霊や霊、神的な物と、おら達人間の住む世界は重なり合ってる。仏教の彼岸や西洋宗教の天国みたいに切り離されているものじゃない」
花丸「例えるなら、電磁波みたいなもので、普段は見ることができないけど、チャンネルを合わせたり、媒体があれば見ることができる」
花丸「今のまる達はなぜか霊的な物とのチャンネルがあっていて、“彼ら”を見ることができる。そのほかにも、儀式とか、媒体を使うことによって霊的な世界と“交信”する事が出来るんじゃないかって」
花丸「梨子さんの今の症状は、おらとは違って後天的なもの。何かチャネルを開く原因があったなら、閉じる原因もあると思うの」
梨子「それってつまり....」
花丸「そう、梨子さんの見えているものを消せるかもしれない。何か思いつく原因ってないですか?」
梨子「...ごめんなさい。わからないわ」
花丸「今は思い出せないかも知れないけど、絶対、梨子さんの症状は元に戻る。おらが戻してみせる」
梨子「どうしてそこまで手伝ってくれるの...?」
花丸「だって、Aqoursは9人じゃなきゃ。梨子さん達は、まるに居場所をくれた。だから、今度は恩返しをする番」
梨子「優しいのね、花丸ちゃんは...」 花丸「さっきまるが梨子さんに渡したお守りは、うちの御本尊がついてるから大丈夫」
梨子「そういえば、さっきから、あの厨子の中になにが入っているの?すごくピリピリした空気を感じるんだけど...?」
花丸「うちでは孔雀明王を信仰してるずら。人々の苦悩や厄災を取り除く、と言われてるらしいよ」
梨子「ヘぇ、そうなんだ...」
梨子「あ、そういえば、お守りについてなんだけど...」
梨子「ダイヤさんから、前にお守り頂いたの。元は朱色だったんだけど、私がアレを見出すのと一緒に色が一気に白くなっちゃって」
梨子「今持ってるから見せるね」ゴソゴソ
梨子「ほら、これ!」 そう言って今は白くなってしまったお守りを見せる。
花丸「見た事ない形してるね。普通はお札型とか、平たい感じなのに...」
そう言われて、梨子は初めて違和感に気づく。
梨子「そうね。普通のお守りって言ったら平たいのが多いよね。でも、これ、中に何か入ってるみたいなの」
花丸「へぇ、珍しい。普通、木の札とか、畳んだお札とかが入ってるのに...」
梨子「花丸ちゃん、詳しいんだね」
花丸「まぁうちで販売してるお札とか、全部手作りだし、よくその手伝いしてるからね...」
梨子「そうなんだ。この中身って見ていいの...?」
花丸「普通は見るべきものじゃないよ。何かたたりがあるかもしれないし...」
梨子「そっか。あとね、これ、ダイヤさんの親戚が管理する山にお社があるみたいで、そこのお守りらしいの」
梨子「場所は総合病院の裏手の山だったかな」
花丸「えっ!?」 花丸「その山、もしかしてまつが山?」
梨子「名前まではちょっと覚えてないかな...でも確かに総合病院の裏よ」
花丸「...その、言いにくいんだけど、この辺りじゃ有名な山なんだ。呪われてるって...」
梨子「...それ、どう言う意味なの...?」
花丸「その山で、行方不明者とか、じさつ者とかがよく出るの。まぁ、数年に一度って感じなんだけどね」
花丸「後、気味の悪い噂もあって」
花丸「その、言いづらいんだけど、見つからないのは、土地の管理者一族が警察に賄賂を受け渡してるだの、カルト的な物に人を捧げてるだのって、よくない噂があって...」
梨子「土地の管理者って確かダイヤさんの親戚よね」
花丸「うん、黒澤宗右衛門新宅のおじさん」
花丸「ああ、つい屋号で言っちゃった。ダイヤさんの、お父さんの兄弟。家は継げなかったけど、苗字は継いでるの。それでみんなからそう言われてる」
梨子「へぇ...田舎ってそんなシステムがあるのね...」 梨子「でも綺麗な山だったわよ。紅葉も綺麗で、そんな山だったとは思えないぐらいに」
梨子「そういえば、途中の滝壺で、綺麗な紅葉の老木を見たわ」
梨子「ダイヤさんが案内してくれたの。その後、写真撮って帰ったと記憶してるけど...」
花丸「ダイヤさんがどうしてそんな場所に...」
梨子「どうしたの...?」
花丸「さっき、あの山ではじさつ者がよく出るって言ったよね」
梨子「ええ、そうね」
花丸「みんな、その滝の近くの紅葉の老木に縄をかけて、首を吊ってしんでるんだ...」
梨子「嘘っ...!!!」
花丸「嘘じゃない。図書室に、古い新聞とか置いてあって、おら、暇な時に読んでたんだけど、どの記事も、老木に縄をかけたって...」
梨子「....」ゾッ
梨子「ダイヤさんは、一体何が目的で私を紅葉狩りに誘ったの...?」 梨子「あ、その写真についてなんだけど...」
梨子「何か映ってたら怖いから、一緒に見てもらってもいいかな...なんて」
花丸「...え。正直見たくないけど、何か梨子さんについての手がかりがあるかも知れないから...」
梨子「じゃあ、ちょっと待っててね。今見せるから」
梨子はカバンからスマホを取り出し、するするといじる。
確か、滝と老木を背後に、二人で自撮りをしたはずだ。
梨子「うーん、何処だったっけなぁ?あ、そうか1ヶ月ぐらい前だから、こっちのフォルダに移ってるんだった...」
梨子「サムネこんなのだったっけ?」
梨子「???」
梨子「...!」 2人で、笑顔で写真を撮ったはずだった。
しかし、そこに写っていたのは、笑顔の梨子と、無表情のダイヤだった。
濃い翡翠色の瞳は、残酷なまでに冷徹にこちらを見据えている。
梨子「嘘...こんな写真撮った覚えないのに!」
花丸「よくわからないけど、写真が変化したって事...?」
花丸「そういう心霊写真とかは昔よく聞いたけど、まさか実際に遭遇するなんて...」
花丸「梨子さん、ねえ、これって...」
花丸はそう言って写真の背景を指差す。
花丸がなにを指摘したかったか分かった瞬間、梨子はスマホを落としそうになった。 人だ。
多くの半透明の幽かな人が、ダイヤと同じく無表情でこちらを見ている。
老木の上や、岩の上に、何人、いや何十人という人が写り込んでいる。
梨子「...ひっ!!」
花丸「落ち着いて、ここは守られてるから大丈夫」
梨子「でも!!撮った時にこんな人いなかったわ!もうどうしたらいいの!?」
花丸「とりあえず、ダイヤさんに聞いてみよう」
花丸「ダイヤさん、ラインやってないから、遠まわしにメールでも送って、明日聞きに行こう?」
梨子「...」
梨子「....えぇ」
梨子「....」
梨子「あのね花丸ちゃん。私ね、今気づいたの」
梨子「見え出した時期と、紅葉を見に行った時期って同じぐらいだなって...」
梨子「そう思いたくないんだけど、見え出したのって、ダイヤさんのせいなのかな...」 花丸「...え?」
梨子「私だってダイヤさんの事は疑いたくない。でも、ダイヤさんと一緒に、あの山に行って紅葉狩りをして、その中で何か原因があったんじゃないかって...」
花丸「....」
花丸「おらだって、ダイヤさんを疑いたくない。もしかしたら、あの山自体が原因だったかもしれない」
花丸「...だから、だからおらは、あの山について、調べてみる。あと、ダイヤさんにメールを出すのもおらがやる」
花丸「全部、全部まるに任せて。絶対に原因とその解決策を見つけて見せるから」
梨子「....うん、ありがとう」
花丸「もう夜も遅いずら。バスで行くのもなんだから、おらの親に送って貰えるよう頼んでみるずら」
梨子「ごめんね。何から何まで...」
花丸「ちょっと呼んでくるね!」パタパタ
その後、花丸の父親に家まで送ってもらった。
途中、救急車が通りかかり、車を止める。
梨子「(だれか倒れたりでもしたのかしら...?)」
家に着き、別れ際に花丸がお守りの事を話してきた。
肌身離さず持つようにという指示であり、お礼を述べてわかれる。
その後は、不思議なものは相変わらず見えるものの、いつもと変わりなく過ごし床に着いた。 梨子「...ん」ムニャムニャ
ライン「ピロン!」
梨子が気持ちよさそうに寝息を立てる中、スマホの画面は通知で溢れ返えってゆく。 梨子「ふぁ〜よく寝た」
梨子「ん?ライン、通知いっぱい来てる。何があったんだろう」
梨子「えっ...」
ルビィ:お姉ちゃんが倒れて今救急車で運ばれてる
その後のラインも読み飛ばすが、ダイヤの状態はあまり良くないらしい。
梨子「大丈夫なのかしら...心配だわ」
大丈夫?と、それしか送る事が出来なかった。これしか今は言葉が出ない。
おそらく、近日中にルビィから連絡が来るだろう。
それを待つしかない。 今日は皆、元気がなかった。
昨晩の事を急に聞かされたら、そう思うだろう。
梨子「大丈夫なのかしら、ダイヤさん」
曜「やっぱり気になるよね。鞠莉ちゃんに確認したら、親御さんの方から入院手続きがあったって...」
千歌「ダイヤさんもそうだけど、次のライブどうしよう。欠場にした方がいいのかな」
曜「それは、今日、みんなで決めよう。梨子ちゃんも一緒に参加して」
梨子「分かったわ...」
千歌「あっ、ルビィちゃんから連絡来てる。ダイヤさん、命に別状はないけど、まだ昏睡状態が続いてるって」
曜「ルビィちゃん、今日は昼から登校するって言ってたね」
千歌「今後のライブとダイヤさんの事、全体ラインに入れとくね」
梨子「...うん」 ダイヤの事を思いながら時間が過ぎる。
山の事、紅葉の事、そして夢の事。思えばあの夢に出てきた女主人は、雰囲気がダイヤに似ていた。関係がないとは思えない。
梨子「はぁ〜」
「ニャオン」
気の抜けた声がする。気づけば、足元に例の黒猫がちょこんと座っていた。
猫「ピョン」
また机の上に乗ってきて、のの字になり、ゴロゴロと喉を鳴らしながら寝息を立て始める。
梨子「(この子は呑気でいいなぁ)」
梨子「私が貴方だったらいいのに...」
千歌「梨子ちゃんどうしたの?」
梨子「気にしないで。ただの独り言よ」
猫は気まぐれと言うけれど、もしかしたら、この猫は私の事を守ってくれているのではないかと、梨子は少しずつ思い始めた。
猫は帰りのホームルームまで一緒についてきた。
それまで、変なものを見る事は少なかった。 千歌「...みんな集まってくれてありがとう」
重苦しい雰囲気の中、ミーティングは始まる。
千歌「ラインでも流したんだけど、ダイヤさんについてと、この次のライブ、どうするかについてで...」
「.......」
皆押し黙っていた。
「.....」
その沈黙を、幼い声が終わらせる。
ルビィ「あ、あの!お姉ちゃんについてなんですけど...」
ルビィ「みんなに黙っていてごめんなさい。お姉ちゃんにずっと黙っとけって言われてて、でも!こうなっちゃったから言います」
ルビィ「....お姉ちゃん、病気なんです」 果南「それってどう言う事!?どうして早く言わなかったの!?」
鞠莉「ダイヤが最近調子悪かったのはそれが原因なのかしら...?」
ルビィ「はい...丁度1ヶ月前ぐらいだったと思います。お姉ちゃん、急に顔が青くなるぐらいの腹痛を訴えて、その日のうちに病院に行ったんです」
ルビィ「大事をとって、精密検査をしたら....そしたら、お腹に腫瘍があるってわかって...」
一同「!?」
果南「どうして!どうしてそんな大変な事誰にも言わなかったの!!」
ルビィ「ちょ、ちょっと待ってください。確かに腫瘍とは言ったけど、早期発見だったみたいで、薬の投与で治るだろうってお医者さんに言われて」
ルビィ「それで、運動も問題ないから、みんなには心配かけたくないから、黙ってろって口止めされてて...」
ルビィ「子宮筋腫って言う病気らしいです。子宮に腫瘍ができて、生理とかが重くなったり、出血量のせいで体調が悪くなる病気だって聞きました...」
ルビィ「...でも、この前エコーとったときは、大分良くなったって言ってたんです。だけど、エコーの影になる所にもう一個腫瘍があったみたいで...」
ルビィ「それが悪化して、病院に....運ばれて...」グスン ルビィ「一旦、治療の為に生理を止める薬を飲んでたみたいなんです。でも、良くなったから、その薬をやめて、おそらく生理が来た」
ルビィ「その後、一つの悪性腫瘍のせいで、出血がひどくなって、倒れちゃって、それで...」
ルビィ「色々な薬を投与されて、今は眠っています。おそらく、向こう3日は目覚めないだろうってお医者さんが言ってました」
一同「....」
ルビィ「....」
ルビィ「わ、私は!」
ルビィ「私は次のライブ出たいです!お姉ちゃんが倒れちゃって大変で、心細いけど、お姉ちゃんならきっと出ろって言うはずです」
ルビィ「だから、出なかったって言う後悔をしたくない!」
千歌「ルビィちゃん...」
千歌「そうだね...次のライブ、でよう」
千歌「みんな、次のライブ出るって事でいいかな?」
「「「「「「「うん」」」」」」」 ミーティングが終わった後、花丸と少し話す。
花丸「ダイヤさん、あんな事になってたなんて...」
梨子「本当に、大丈夫なのかしら...心配だわ」
花丸「あのね、例の山についてなんだけど、今日図書館で調べてみたんだ」
花丸「まだ本に目を通したわけじゃないから、何もわかってないんだけど...」
花丸「地理とか、そんなんじゃ云くなんて載ってないだろうと思って、編纂史とか民俗資料とか当たる事にしたの」
梨子「そうなんだ...何から何まで本当にごめんなさい。私に出来る事があったらなんでも手伝うわ」
花丸「大丈夫、まるがなんとかするずら」
梨子「優しいのね、花丸ちゃんは...」
そのまま話半ばで別れてしまった。
花丸と、その他のメンバーは、立ち位置などの再確認があるため、この後も少し話し合いを続けるそうだ。
梨子「ダイヤさん、大丈夫なのかしら...」
梨子「1ヶ月ぐらい前って確か、紅葉狩りに行った時よね。その時に、苦しそうにしてたのって、病気が原因だったのかしら...」 梨子「民俗資料か...」
ダイヤの事を心配しつつも、先ほど言った花丸の言葉と、山の事が気になる。
梨子「図書館って、確か7時までだっけ...」
この時間には生徒はとっくに帰っているものの、司書教諭の方々が本の貸し出しをしている。
梨子「...」時計チラッ
梨子「まだあと1時間ぐらいあるわね...ちょっと寄ってみよう」スタスタ 梨子「こんばんは」
司書教諭「こんばんは」
この前、倫理の授業の際に花丸に教えてもらった棚の位置を思い出す。
梨子「確かこの辺よね...」
梨子「うーん、どれ借りていけばいいのかしら?」
民俗資料といっても幅が広い。生活の道具から、人々の間に伝わる伝説の様なものまでと、様々なものがある。
梨子「(こんなに揃えてるなんて、先先代の理事長も相当物好きな人だったのね)」
梨子「(でも、そのおかげで助かってる。感謝しなきゃ)」
梨子「うーん」
梨子「あっ、これ...この前の」
古ぼけた本の表紙には“沼津市編纂民俗宇治拾遺”の文字がぼやけて書かれていた。
梨子「....」パラパラパラ
梨子「(人々の生活と民話や伝説について幅広くカバーしてるみたいね...ちょっと分厚いけど、これにしよう)」
梨子「すいませーん」貸し出しお願いしまーす」 梨子「(はぁ、なんとか帰って来れた...)」
梨子「(あのバス、無害だけど、後部座席に座ってる男の人の幽霊見るたび心臓がドキドキする...何度見ても慣れない)」
梨子「(制服も脱いだし、とりあえず明日の準備もしてあるし、ご飯までの間、本を読んでみよう...)」パラパラ
その本は、戦前に書かれた資料を1970年代に再編纂したものの様だ。その際に幾つかの新しい資料が追加された様だ。
前半は生業や生活に関わる道具で占められていた。後半部は地域の民話や伝説、伝承を寄せ集めたものが載っている。
梨子「あの山に関する事、何かないかしら...」
梨子「花丸ちゃんは、あの山の事をまつが山って言ってたけど、制式名所は別の名前だったし、どれを調べればいいのかわからない...」
目次やそれっぽいものを拾い、読み進めていくうち、内浦地区の民話が載っている章に入る。 梨子「へぇ...こんな話が地域に伝わってるのね」
梨子「あっ、これってもしかしてダイヤさん家のお話...?」
梨子「へぇ、あのお家にこんな言われがあったなんて知らなかった」ペラペラ
少しばかりおもしろくなって読み進めていく。
晩ご飯のことなんて、もうすでに頭から抜けていた。
梨子「...ん?」
_______孔雀明王と黒澤家に伝わる秘伝について_______ 孔雀明王と黒澤家、そして内浦地区には以下のような言い伝えが残っている。
古くから、この地区は男照りに悩まされていた。
その原因が以下のためであると伝わっている。
_____
___
_
未だ内浦が、小さな村であったころの話。小さな漁村といえど、伊豆方面と富士方面から来る、人の往来が激しかった。
秋も深まってきたあるころ、一人の老婆がこの漁村を訪れた。
老婆の身なりはみすぼらしく、においもひどい。ゆく先々で水やら食糧やらを求める。どうやらこの老婆は宿を探しているらしい。
しかし、住民は老婆を気味悪がり、家には上げなかった。最終的に老婆は長者の屋敷へと向かう。
この長者はたいそう気が短い男で、敷地内に老婆が来るのを嫌がり、老婆を見た瞬間、ひっ捕らえ、むち打ちにし、木に縛り付けてしまった。
翌日、長者が老婆の様子を見に行くと老婆がいない。
すると空から、「我は、孔雀明王の化身であった。現世へと出向き、どのようなものか見回ったが、お主らの悪行しかと見届けた。我は、衆生と利益をつかさどる。お主らに罰を与えよう」と聞こえてきた。
以降、長者の家は傾き、この漁村では男が生まれにくくなり、さびれてしまった時期があったそうな。 ______
____
___
これに対して、黒澤家ではある秘伝を用いて、黒澤家の当主のために男児を生ませる儀式が、江戸時代末期まで続いていた。
これは、黒澤家三男平野喜善さんより寄稿された話である。
喜善さんが、子供の頃、まだ日本が開国する前のことであった。
この時、黒澤家に伝わる秘伝が数十年ぶりに行われたのだ。そもそもの儀式の源流は、孔雀明王に赦しを乞う為のものであったが、流れの行者が秘術と秘仏の歓喜天を授け、次第にこれに祈りを捧げる様になったと言う。
内容は、次代当主となる者と、浮浪者を松ヶ山に一緒に登らせ、山の中腹にある紅葉の木に向かって何かを捧げる。
何かとは喜善さんにもわからないらしい。どうやら次代当主しか知り得ぬものだそうだ。
その儀式を行なうと、必ず次の代には男児が生まれると言う。不思議な話である。
また、歓喜天を祀る社も山の中に隠されているらしい。
喜善さんは、その位置を知っているのも当主のみであると語った。
_____
___
_ 梨子「まつが山....」
その言葉を何度も何度も反芻する。
そして黒澤家の秘伝。心あたりがないわけない。
梨子「これってもしかして...」
梨子「浮浪者は、私...?」
梨子「ダイヤさんが、私を紅葉狩りに誘ったのって...」
梨子「花丸ちゃんに相談した方がいいのかな...した方がいいよね、絶対」
「ごはんよ〜」
梨子「ビクッ!」
梨子「は、はーい、今行く!」
梨子「とりあえず、明日また会うからいいよね...」
梨子「ご飯食べてこよ」 地域変わってるだろうけど>>1だよー
ずっと見てるから頑張ってー セルフ保守
ちょっと今日は忙しいので無理です
明日たくさん投稿します 次の日の昼休み
梨子「こんにちは〜」
花丸「梨子さんこんにちは」
梨子「ちょっと話したい事があって来たの」
花丸「何?やっぱりあれの話?」
梨子「そう、それでこれなんだけど...」
花丸「一番目の話はおらも聞いたことあるずら。というか、許しを乞う為に建立されたのがまるたちのお寺って言う話も残ってるし...」
花丸「二つ目は知らなかった。でも、もしダイヤさんがこの儀式を行なったとして、疑問は二つある」
花丸「一つ目は、江戸時代に絶えて久しい儀式がなぜ現代に行われたのか」
花丸「二つ目は、紅葉に捧げたのは何か。梨子さんの記憶の中では写真撮って帰ったんでしょ?写真はああなっちゃったけど....」
梨子「うん、それもあるけど、前夢の話したでしょ」
梨子「夢の中で襲われた話。あの夢に出て来た人って、この中に書いてある、流れの行者と、その時の主人だったんじゃないかって」
梨子「でも夢は無意識が現れるって言うから、私がダイヤさんの家や門を無意識のうちに心に投影して、それを見てしまったってのもあるかも知れない」 梨子「それと、気になるんだけど、この歓喜天って言う神さま?それとも仏像なのかな?これは何?」
花丸「天ってついてるから、多分仏教だと思う。天って、四天王とかの天と同じである位を表す言葉だから...でもよくわかんないや」
花丸「ちょっと待ってね、確かこっちにそういう本があったはずだから...」テクテク
花丸「えーっと、この棚のこの本だったっけな...そうそうこの本」
そう言って花丸は古ぼけた本を持ってきた。おどろおどろしいフォントが表紙を包んでいる。
梨子「大日本呪術全書...」
花丸「表紙は二流品に見えるけど、内容は一級品ずら。民間信仰とか、呪術とか、祟り神とか、そんなニッチなものを集めた本」
花丸「多分、おらがその仏の名前を知らないって事は、密教系か、もしくは呪物とかそういう系だと思うから...」パラパラ
花丸「あったあった、よかった載ってて」 ____大聖歓喜天(聖天)の呪法_____
象頭人身の男女二体の神が抱き合っている異形の天尊、聖天は秘仏中の秘仏である。
財福はもちろん、病気平癒から何から何までと、祈れば成就しない事はないと信じられている....
....聖天を祈ればご利益がもらえるのは間違いないのだが、とにかくその代償が恐ろしいとされ、聖天だけには近づいてはならないともされる。子孫の七代までの服を一代でとるとも言われ、その代償として、子孫を絶やされたり、死後の財産はさっぱり失われるともされる....
いわゆる、狐憑きや管狐にその信仰は似ているが、“祀り続けなくては祟りがある”とまで言われ、その側面に関してはオシラ様などの祟り神に近いのかもしれない。
普通、男女二体の神で祀られるが、時に単身で祀られ、その場合は霊力が最も強く、扱うのが難しいとされる。
そのため、家から離れた所に秘仏を祀り、家には別の仏像を祀る事が多々あった。
歓喜天は赤い砂金袋で表されることもある。これを使って他者に福や呪法を授けるとされる.... 花丸「...祟り神ねぇ...」
梨子「もしかして、ダイヤさんって、それにやられたんじゃ...」
花丸「まだわからないよ...ダイヤさんが、オラたちと同じ様に、見えて、感じて、影響を受けるかどうかわかってないし、断定はできない」
梨子「そっか...でも、さっきの二つの疑問もあるし、私ももうちょっと、ここら辺の地理とか、民話について調べてみるね」
花丸「うん、本当は梨子さんに負担をかけたくないんだけど...」
花丸「あっ、そうだ。オラからもわかった事があって、一つだけだけど話すね」
花丸「梨子さんが登った山は、市民病院の裏の山だよね」
花丸「今は名前かわっちゃってるけど、オラたちはずっと古い名前で呼び続けているずら」
花丸「それで、松ヶ山についてなんだけど、名前の由来がどうも...」
そのまま花丸は口籠る。
花丸「....」
梨子「どうしたの?」
花丸「名前の由来が、古語のマガツから来てるみたいで...」
花丸「マガはそのまま漢字の禍々しいのマガ、ツは格助詞でのって意味で...訳すと禍の山って意味になるらしいの」 花丸「オラたち、地元住民の間でも、ずっと呪われてるって噂がある事、前に言ったよね?」
花丸「どうやら、オラたちが生まれる前、ううん、それよりもずーっと前からあの山は呪われていたのかもしれない」
梨子「そんな...」
花丸「オラは、もっとあの山について調べてみる。もしかしたら、あの山に蔓延る瘴気とかそんな暗い、良くない物に当てられてチャンネルが開いたのかもしれない」
花丸「もしそうだったら、御祓とかで祓えるかもしれないから...」
梨子「そこまでしてくれるだなんて...」
梨子「ありがとう。でも、絶対に無理はしないで。花丸ちゃんまで、私みたいに強く見えるようになってしまったら...」
花丸「大丈夫!いざとなったら、おらのうちの御本尊がついてるから!」
「ニャー」
梨子「きゃっ!」
梨子「っていつもの子かぁ、驚かせないでよ...」
花丸「もしかして、黒猫ちゃん?」
梨子「えぇ、そうよ。最近学校内で会うと私についてくるの。ちょっと授業の邪魔とかするけど、私を守ってくれてるみたいで」
花丸「ああ、だから通りで最近はあんまり図書室で見なかったのか」
キーンコーンカーンコーン
梨子「もうこんな時間。花丸ちゃん、一緒に戻ろ」
花丸「うん!」 梨子「(色々と気になる事がたくさんありすぎて集中できない)」
梨子「(あの山が呪われていて、私も呪われてしまったから見えるようになった...?)」
梨子「(そもそも、ダイヤさんちに伝わる秘術に巻き込まれたって言う証拠はどこにもない)」
梨子「(写真が変わっていたのがとても気になる...)」
梨子「(それと最後にお守り、さっき言われても気づかなかったけど、歓喜天?砂金袋は、ダイヤさんから貰ったお守りに似ている気がする)」
梨子「(巾着袋みたいで、普通のお守りみたく、平たくないし、そして赤かった)」
梨子「(まだあやふやだけど、いつか謎を解明できるかもしれない...)」
スマホ「ピロン」
梨子「(あっ、通知切るの忘れてた)」
行者「誰だ〜?スマホ切っとけよ〜」
梨子「すみません、今切ります」ゴソゴソ
梨子「(ライン来てる。読みたいけど、後ででいっか)」 キーンコーンカーンコーン
千歌「ふわぁ〜やっと授業終わった!」
曜「千歌ちゃん、ずっと寝てたね。テスト近くなってもノート見せてあげないよ?」
千歌「よーちゃんは甘い!睡眠学習ってのがあってだね!」
曜「千歌ちゃんのはただの睡眠でしょ?」呆れ顔
千歌「助けて梨子ちゃん!曜ちゃんがいじめる〜」
梨子「もー千歌ちゃんったら、そんな事言っても、私も見せてあげないわよ」
千歌「わーん、2人して酷い事言う!!」
スマホ「ピロン」
千歌「全体ラインに何か来てる...」
千歌「ダイヤさんが目覚めたって!!」 曜「えっ!?ほんと!?」
千歌「ルビィちゃんがお家の人から連絡があったみたいで、今日は練習に参加しないで帰るって」
梨子「本当だわ。お医者さんは3日間昏睡状態が続くだろうって言ってたけど、目覚めてよかったわ」ホッ
曜「ダイヤさん、早く良くなるといいね」
千歌「じゃあ、私たち、これから練習するから、梨子ちゃんバイバイ」
曜「お疲れ様であります」
梨子「じゃあね」
そう言って2人は部室の方に駆け出していった。
梨子「あ、そういえば、授業中にライン来てたんだった」
梨子「誰からだったかしら?」 ライン「国木田花丸がメッセージを取り消しました」
梨子「?」
梨子「何があったのかしら...」
梨子「気になる...何を送ろうとしていたのかしら。何で取り消したのかしら...」
梨子「でも、花丸ちゃんの性格だから、後で絶対説明があるはず。間違って送ったかもしれないし...」
梨子「考えすぎか...」
今日も放課後は図書館へ向かう。
調べる事は三つ。
はじめに、地域の民話について。
二つ目は、あの山について。
最後に、歓喜天について。
しかし、いくら探しても参考になる様な本は見つからない。どれもこれも似たり寄ったりな内容ばかりで、新しい発見はなかった。 梨子「はぁ」
ため息をしながら、図書館を後にした。
最近ため息が多くなったなと梨子は思う。
もしもいつものように2人が側にいたならば、幸せが逃げちゃうよと言って笑うのだろう。
明日は休みだ。学校の図書館は半日しか空いていない。
しかし、今日収穫がなかったのに、明日もあるわけないだろうな、と心の片隅で思う。
「ニャー」
可愛らしい声が隣で響く。この子は今日一日中後をついて来た。
梨子「今日もありがとうね」
頭を撫でるふりをする。
猫はそれを察してか、目を細める動作をした。
梨子「バスに乗り遅れちゃうから、それじゃあね」タタタ
ニャーと一言猫は鳴いた。 梨子「(どうしよう、何の進展もない)」
梨子「(何か、何かないかしら...)」
梨子「(一応web上に情報がないか調べて見たけど、やっぱり何もなかった)」
梨子「(はぁ)」
バス「次止まります」
梨子「(もうお家に着いちゃったわ)」
バス「プシュ〜」
梨子「あ、おります、降ります」 梨子「ただいま〜」
母「お帰りなさい」
母「梨子、アンタ明日暇?」
梨子「どうしたの急に?」
母「田中さんって覚えてる?私が押し花教室で知り合ったあの人」
母「何回かうちに来たことあって、梨子もお話ししたわよね」
梨子「ああ、あの髪の毛に赤いグラデーションがかかってる人?」
母「そうそう、その人。最近分けあって、そんな大した事じゃないんだけど入院してるみたいで」
母「あの人にちょっと用事を頼まれちゃったんだけど、私行けなくなっちゃって」
母「代わりに梨子が田中さんに荷物を届けて欲しいんだけど、いいかしら?」
梨子「いいけど...どこの病院?」
母「いつもの市民病院まで。部屋番号はここで、ちょっと早いけど、明日の11時ぐらいにお願いしたいわ」
梨子「わかったわ」
母「後これお駄賃。何か好きなのあったら買っていいわよ」
梨子「ありがとう」
母「じゃあご飯にしましょうか」
梨子「うん!」 〜次の日〜
梨子「荷物良し、財布よし!それじゃあ行ってきます!」
母「ごめんね。田中さんには事情を話してあるから、よろしく頼むわよ」
梨子「うん、じゃあお母さんも気をつけてね」
母「ええ」
少し歩いてバスに乗り込む。
病院までの道すがら、色々な物を見たが、もうすでに道端の小石程度にしか感じなくなっていた。
やがて病院に着く。
病院の至る所に蹲る人や、虚空を見つめ、不自然な角度で壁に突き刺さっている人ならざる者を見た。
梨子「確かここよね」
梨子「うん、時間もばっちり」
梨子「こんにちは〜」
田中さん「あ、梨子ちゃんこんにちは!」
しばらく談笑にふけっていた。田中さんは母に貸していた道具を返して欲しかった様だ。お大事にと挨拶をして帰ることにした。 帰り際、お菓子まで貰ってしまい、少し困惑してしまったが、素直にもらうことにした。
時刻はもうすぐ12時。お腹が空き始めた。
このお菓子を食べても良いが、お腹にはあまり貯まらず、中途半端な時間にまた食べる事になってしまう。
梨子「(カフェでも寄ろうかな...)」
お昼のピーク少し前なので、まだ人がまばらだ。
サンドイッチセットを頼み席を着く。
するとお店に見慣れた赤髪の少女がやってきた。
梨子「ルビィちゃん...?」
相手もすぐに気づいた様だ。
ルビィ「あ、梨子さんこんにちは」
注文を受け取ると、後ろの貴婦人に向かって話しかけた。そのままこちらへ寄ってくる。どうやら家族と一緒だったらしい。
梨子「(悪いことしたかも)」
ルビィは梨子の前の席に座った。
梨子「あ、ごめんなさい。家族と一緒だったのに。私1人で食べるから、ルビィちゃん戻っても良いよ?」
ルビィ「あ、気にしないでくだい。お姉ちゃんの事とか色々誰かに話したくて...」
ルビィ「梨子さんも検索とかですか?」
梨子「いいえ、ちょっとお使いを頼まれてここまで」
ルビィ「そう、なんですか...」 梨子「ところでダイヤさんは大丈夫なのかしら?」
ルビィ「とりあえず、集中治療室から出してもらえて、様子を見に行ったんですけど、疲れてたみたいで寝てました」
ルビィ「お姉ちゃん、しんじゃうんじゃないかって、ほんと心配で、心配で...」
梨子「...大丈夫よ。だってダイヤさんだもの」
ルビィ「...今はまだ寝てますけど、これから簡易的な検査を受けて、明日精密検査を受けるってお医者さんが言ってました」
ルビィ「場合によっては、もっと入院するかもって」
ルビィ「...」
梨子「ルビィちゃん、私にできることが有ればなんでも言って」
ルビィ「ありがとうございます。でも、私達は結局祈る事しかでないんです...」
そのまま気まずい空気の中、2人は食事をし始めた。 ”祈る事しかできない“その言葉に梨子は弱冠の違和感を覚える。
梨子「ルビィちゃん、祈るって、何に祈るの?」
ルビィ「?」キョトン
ルビィ「それは、もちろん....」
ルビィ「あれ?何に祈るんだっけ?」
ルビィはそのままうんうん唸り始めた。何か記憶が抜け落ちた様な、そんな印象を受ける。
ルビィ「あれ?あれ?おかしいなぁ、思い出せない」
梨子「どうしたの?」
ルビィ「いえ、よくわからないんですけど、祈るっていう言葉は急に頭に思い浮かんだんです」
ルビィ「でも、何に対して祈るとか、どこか神社やお寺的な場所に行ってた様な気もするんですけど、急に思い出せなくなっちゃって」
ルビィ「でも、親戚とか、誰かが具合悪くなったときには、いつも祈ってた様な気がするんです」
梨子「...あ、なんかごめんなさい。変なこと聞いちゃったわ」
ルビィ「いえ、おきになさらず」
その後もルビィは何か考え事をしているようで、時々顔をしかめてはふと元に戻ったりの繰り返しをしていた。
側から見ても、何か思い出せないことを無理やり思い出そうとしているのだとわかる。
梨子ルビィ「ご馳走さまでした」
ルビィはダイヤの検査に付き合う様なのでそのまま別れた。
時計を確認すると2時前である。午後も予定のない梨子は、これから何をするか考えていた。 ヒューと木枯しが吹く。
髪の毛が揺らぐ。
何故だかはわからないが、後ろを振り向いた。
そこには、一面が真っ赤に染まっている山。
梨子「(そういえばこの山は...)」
足がいつのまにか動いていた。
梨子は磁石の様にその山に引き寄せられられ、山道を登って行った。 紅葉も枯れ始め、山から吹く木枯らしは寒さを届ける。
梨子「はぁはぁ」
梨子「練習休んでるからかしら?ちょっと疲れるかも」
整備された山道の途中で、獣道の様な、人の歩いた形跡があるような細い道を確認する。
検査を受ける前、初めて心療内科を受診した後、この山に登ったのを覚えている。
その時もこの細道が気になり、奥で小さな社を見つけたのだった。
梨子「そういえばこの道は...」
ふと頭に本の内容がよぎる。
梨子は、この前見た社は歓喜天を祀ったものではないかと思い始めた。
梨子「行ってみよう...」 なんてことはない、小さな細道だ。
整備こそされてないものの、ほかの地面と比べ人が往来したように踏み固められている。
梨子「ふぅふぅ」
梨子「(少し寒かったけど、体があったまってきたわね)」
そのまま10分も歩かないうちに、少し開けた場所に出る。
梨子「あった」
朱の色で塗られた小さな社。
その背面には岩肌が露出し、崖のようになっている。
梨子「この社は何を祀っているのかしら...」
神仏に対し、失礼だという気持ちも心の片隅にあるが、覗いてみる。
梨子「....」
梨子「暗くてよく見えないわ」
梨子「スマホのライトを使ったら見えるかしら?」ライトピカ
すると、そこには...。 梨子「何もない...?」
梨子「どうして?」
この角度からは見えないのかと思い、社の横や裏手へと回る。
しかし、側面は全て板張りで、正面の様にガラス戸が置かれているわけではない。隙間も何もない。
梨子「(ただの普通の社だったみたい)」
梨子「(失礼なことをしたわ)」
来た道を戻ろうとした時、ある事に気がついた。
道が更に奥に続いているのだ。
梨子「(奥から何かピリピリした物を感じる)」
梨子「(奥に何があるのかしら?)」
梨子は歩き始めた。先ほどより道が狭く、横から岩が迫り出しているので、少し危ない。
社から50mも歩きもしなかっただろう。
梨子「...これは!?」
梨子「こんな所に、こんなものがあるなんて...」 洞窟が大きく口を開けていたのだ。
梨子は固唾を飲む。先ほどから感じていたピリピリしたものが、この洞窟からますます強く感じていたからだ。
梨子「(この感じ、花丸ちゃんのお寺の本堂で感じたものと似ている)」
梨子「(もしかしたら、この奥に何かがあるのかもしれない)」
梨子は再度スマホを取り出す。
そのままライトをつけて、洞窟の中へ入っていった。 梨子「....」
梨子「(あまり広くもないし、風も感じられないから、中はさほど広くはないのかも)」
梨子「(引っ越してきた時、千歌ちゃんがこの近くに防空壕の跡があるんだよって言って、案内してくれた事があったな)」
梨子「(雰囲気はそれに近いかも。あの時はゲジゲジを見つけて絶叫して帰ったけど..)」
梨子「ここは山の中なのに何もいないみたい...)」
足下を写すが生き物の気配はない。
洞窟の壁は、当たり前だが岩が剥き出しになっている。
しかし床面はおそらく外から流れ込んできた堆積物や落ち葉などで比較的平坦であり、進むのは容易であった。
入り口から30mぐらい歩いたであろうか。
かろうじて入り口からの光が見える。
その光と、スマホのライトは奥に異様な影を映し出した。 梨子「何、これ...」
岩が四角く切り出されており、仏壇を彷彿とさせる。
周りに金色の蓮の花や葉の形をした装飾品が飾られている。
梨子「祭壇...なのかしら...」
梨子「これは...蝋燭?」
三本の蝋燭が、祭壇の手前に置かれていた。
完全に燃え切っておらず、おそらく元の大きさの半分ほどで消えてしまったのだろう。
梨子「もう少し近づいてみよう」
仏壇の様な印象を受ける祭壇だが、扉はついてない。
何かが祀られているようだが、その姿は見えない。
梨子は、奥に隠れていて見えないだけだと思い、そのまま祭壇に近づき始めた。 ライトを掲げ近づく。
この奥にきっと歓喜天がいるのだろう。今度こそそうに違いない。梨子はそう思っていた。
梨子「(この奥に何か手がかりがあるのかもしれない)」
梨子「(暗くてよく見えないから、ライトで照らそう)」
梨子「...?」
予想は外れた。
祭壇の上は空だった。
しかし、おそらく仏像が乗っていたのであろう。
蓮台と仏像を支える穴がポカリと空いている。
梨子「(何もない..?)」
梨子「(でも、台座があるってことは、誰かが持ち去ったとか?)」
梨子「(そもそも、この空間は一体なんなの?)」
梨子「(改めて冷静になると、ここは異様な空間ね)」
梨子「(寒気がしてきた。早く戻ろう)」パキ
梨子「(ひっ!?なんか踏んだ!)」
先ほどまで気にならなかったが、足下を見ると、祭儀に使用したのであろうか、かわらけや磁器類が落ちている。
梨子「(うわぁ...骨とか落ちてないわよね...)」
梨子「(早く出よう)」
そのまま早足で山道に戻った。 山道に戻ると急に動悸が激しくなってきた。
先ほどまでは興奮で恐怖がかき消されていたが、後になってあの空間の意味不明さが梨子を襲う。
梨子「(おそらくあの場所は、本に書いてあった歓喜天の祭壇に間違いないわ..)」
梨子「(でも、中に何もなかった。どうしてかしら...)」
梨子「(ここは地域の人はあまり近づかないって花丸ちゃんが言ってたし、あの道に気づく人も、洞窟を見つけられる人もいないはず)」
梨子「(ルビィちゃんが言ってた祈る場所は、あそこ?でもルビィちゃんは何か思い出せないみたいだった)」
梨子「(あの仏様に本当に力が、なんでも叶える力があるのなら、ルビィちゃんの記憶を消すことも可能なのかもしれない...)」
梨子「ふぅふぅ」
梨子「この山で、木になるのは後もう一つ」
梨子「あの紅葉の老木...」
梨子「正直写真の事もあるから気がひけるけど、もう見えてるし、呪われてるのだから、これ以上悪くなっても変わらないわよね...」
梨子「よし、行くわよ!」
梨子は自分を奮い立たせるともう一度歩き始めた。 梨子「はぁはぁ...」
梨子「道はこっちね。看板があってよかったわ」
梨子「ふぅふぅ...」
梨子「はぁはぁ...着いた」
それなりの大きさの滝と立派な紅葉の老木。
その美しさに圧倒される。
梨子「(何もいないわよね...)」
極々自然に、彼らに見られていないか確かめるために、周りを眺めた。
写真とは違い、人影も、おかしな物も何もない。
梨子「よかった..」
梨子「あの木に縄をかけて...」
正直気持ちの良いところではない。
梨子はその木を遠目から眺めるだけにした。
苔むす老木の根本に、何か白い物が見える。
梨子「なんだろう...?」
近づきたくはないので、同じ位置から凝視する。
梨子「お皿..?」
梨子「なんでお皿?」 梨子「さっき洞窟の中で見た物と似てるかも」
梨子「本に、紅葉の木に何かを捧げるって書いてあったけど、まさかここじゃないよね...」
梨子は色々な事を思い出す。
この山の中で行方不明や不審死が相次いでいる事、黒澤家の秘儀、そして先ほどの洞窟とこの紅葉の木。
全てがバラバラの様な、それとも繋がっているのかすらわからない。
梨子「...寒気がする...」
梨子「勢いでここまできちゃったけど、来るべきじゃなかったのかも...」
梨子「早く戻ろう...」
山を降る。
帰りも何もなく、何者にも遭遇する事なく安全に帰れた。
梨子は背中に悪寒を感じながら元の世界に帰る。
梨子「結局怖い思いをしただけだったわ」
梨子「早くバスに乗って帰りましょう...」 バス「発車します」
梨子「はぁ」
深いため息ばかり出る。結局何も掴めなかった。
梨子「(本に書いてあったことは、どこまでが事実だったのかしら?)」
梨子「(情報提供者が黒澤家の人だったし、もしかしてガセの情報を書いたとか?)」
梨子「(でも、それっぽいのを見つけてしまったし、もしかしたら一部が嘘の情報なのかも...)」
梨子「ふぅ...」
明日も休日だ。しかし何もやる事がない。
最近は練習続きだったので、それが無くなってしまい、他に何をしようか思いつかない。
梨子「(何もやる事ないかも...)」
バス「ピンポーン、次止まります」 乗客が次々と乗り込んでくる。
梨子はなんとなく顔を上げた。
梨子「(もうこの停留所か...)」
梨子「(あれ?外どうなってるの?)」
バスの周囲には霧が立ち込めていた。
それはもう、10m先も見えないぐらいに。
梨子「(さっきまでこんな事になってなかったのに)」
梨子「(冬だから寒暖差のせい?)」
梨子「(不思議な事もあるのね...)」
霧の中をバスは進んでいく。
バス「次止まります」
梨子「(次で降りなきゃ...)」
バス「プシュー」
バスから降りても、あたり一面は霧に包まれたままだった。
道や標識を頼りになんとか家まで辿り着く。
梨子「ただいまー」 梨子母「お帰りなさい」
母「荷物ちゃんと届けられた?」
梨子「うん、ちゃんと届けたわよ。あとね、田中さんからお菓子貰っちゃった」
母「あら、ちゃんとお礼した?」
梨子「うん、ちゃんとしたよ」
梨子「そういえばね、帰り道すごい霧がかかってて、ここまで歩いてくるの大変だった」
母「霧?」
梨子「そう、霧。もう先10mも見えないぐらいに濃い霧がかかっててね」
母「あなたなに言ってるの?」
梨子「へ?」
母「あなた、さっき帰ってきたのよね?窓見たけど、霧なんてどこにもかかってないわよ」
梨子「え?」
慌てて窓の外を確認する。先程までかかっていた濃い霧は、初めから何も無かったかのように、天気は晴天だった。
梨子「嘘...」
母「寝ぼけてたんじゃないの?」
梨子「そ、そうかもね...」 少し不思議な体験をしただけだと梨子は思っていた。
食事を済ませる頃にはその事は忘れていた。
梨子「もう寝る時間ね。明日はピアノでも弾いて時間を潰そう...」
梨子「何時に起きようかしら。ちょっとぐらい遅めに起きてもいいよね」
梨子「あ、そうだ。この前花丸ちゃんからのライン、どうして消しちゃったのか聞いとこう」
梨子「この前の削除したメッセージなに?っと」ピロン
梨子「送信完了!多分もう寝ちゃってるから、明日返事届くかな?」
梨子「私ももう寝よう...」電気パチ 梨子「zzz」
ライン「ピロン」
国木田花丸:メッセージって何ですか?
国木田花丸:最近梨子さんに個別ラインした覚えがないんですが...
国木田花丸:それよりも体調大丈夫ですか? 梨子「んん〜よく寝た」
梨子「あ、花丸ちゃんからライン届いてる」
梨子「ん?私の見間違いだったのかしら...?」
梨子「とりあえず、返事しとこう」
梨子「えーっと、昨日松ヶ山に行ってきた」
梨子「何か手がかりになる物見つけたかもしれない」
梨子「明日話すねっと。これでよし」
梨子「よし、今日は部屋片付けて、ピアノの練習して、それから...」 梨子「お腹空いたわ」
梨子「もうお昼か。なに食べようかしら?」ピロン
梨子「あ、花丸ちゃんから返信来てる」
国木田花丸:どうしたんですか?急に?
国木田花丸:松ヶ山って病院の裏の山のことですよね?
梨子「(花丸ちゃん、なんかおかしいな)」
梨子「返信しとこ」
りこ:そうだけど、どうしたの?
りこ:これからの事で相談したい事があるから、明日会えるかな?
梨子「あ、既読ついた」
国木田花丸:いいですけど、これからの事ってなんですか?
梨子「ん?花丸ちゃん、どうしちゃったのかしら?」 りこ:幽霊とか、松ヶ山についてだけど覚えてない?
りこ:忘れちゃった?
梨子「(流石にこれ言えばわかるわよね...)」
そのあと、既読は付いたが返信は返ってくる事はなかった。
梨子「きっと練習が忙しいのよ」
梨子「午後はなにしようかしら?」
梨子「いくつかデモテープでも作っておこっかな...」
________
_____
___ 〜次の日〜
梨子「こんにちは〜」
梨子「花丸ちゃんいる〜?」
花丸「...こんにちは、梨子さん」
梨子「どうしたの、そんな暗い顔して」
花丸「梨子さんは、オラの事、どこまで知ってるんですか...?」
梨子「どういう事..?」
花丸「幽霊の事、どこまで知ってるんですか?」
梨子「...え?」
梨子「だってこの前花丸ちゃんから話してくれたじゃない」
花丸「へ...?」
梨子「ほら、黒猫の事とか、今後ろについてきてるよ?」
花丸「どうしてそんな事まで...」
梨子「花丸ちゃん、どうしちゃったの?」 梨子は花丸に色々と事情を説明する。
これまでの経緯、追っている怪異、そして黒澤家の事。
しかし、花丸は初めて聞くような顔をして聞き入っていた。むしろ困惑している。
梨子「って言う事なんだけど、どう?思い出した?」
花丸「いえ...何も...」
梨子「そっか...」
梨子「(この感じ、確かルビィちゃんも同じようになってた。もしかして、ルビィちゃんと同じ原因で記憶がなくなってしまったのかしら...)」
梨子「(でももしそうなら、記憶を消したのは誰?)」
梨子「(黒澤家の人が消したなら、身内の記憶を消すメリットは何?口を滑らせないため..?)」
梨子「(この事は花丸ちゃんに知らせない方がいいかも)」
梨子「(こうなったら、全部自分で調べるしかない...)」
梨子「ところで、花丸ちゃん、いつも新聞とか調べてたって言ってたけど、その場所ってどこ?」
花丸「それならこっちずら」テクテク 花丸「確かこっちに...あったあった」
花丸「ん?付箋が所々貼ってある。みんなの共有物なのにこんな事するのは誰ずら?」
花丸「はい梨子さんどーぞ。おらはこの付箋剥がしていくずら」
梨子「ありがとう。借りてきたい資料かどうか確認させて」パラパラ
付箋が付いているページで手が止まった。
この文字には見覚えがある。
隣の花丸を横目で確認すると、花丸は凍り付いていた。
花丸「...何これ」
花丸「まる、こんな所に付箋貼った覚えないし、こんな手紙挟んだ記憶もないのに...」
梨子「やっぱりこれ、花丸ちゃんの字、よね...」
記憶を失う前の花丸は、新聞の隙間に例の山や黒澤家についての資料をまとめていたらしい。
花丸は他人から見ても分かる様に動揺していた。
花丸「おら、やっぱり」
記憶が抜けているという事実をようやく受け入れた様だ。 花丸「梨子さん、記憶が無いって言ってたのは本当だったんだね」
花丸「さっき言ってた、山とか怪異についてまとめてあるみたい」
花丸「今のおらは記憶がないから、すべてを理解出来ないけど、このメモとかを辿ってけば、求めている真実に到達できるんじゃないかな?」
梨子「....そうかもしれないわ」
気づけば2人とも霧中になって資料を漁っていた。
断片的ではあるが、ある共通点に気づく。
梨子「(あの山では数年に一度、行方位不明者が出てる)」
梨子「(その翌年か翌々年は必ず、黒澤家に男児が生まれている)」
梨子「(黒澤家は地方紙に掲載されるぐらい有名なのね...)」
梨子「(あの山に捧げられてるものって、もしかして人間..?)」
梨子は想像する。そういえば、カルト的な物に人間を捧げているから行方不明者が見つからないという噂もあった。
梨子「(だとしたら、今生きているのはなぜ?ダイヤさんは何を捧げたの...?)」
悶々としながら資料を漁る。
突然、携帯の着信音が鳴った。 スマホを確認する。ルビィからだ。
ルビィ:お姉ちゃん、調子良くなったので、面会大丈夫になりました。
ルビィ:あと、腫瘍摘出為に手術をするそうです。
ルビィ:リハビリも含めて、1ヶ月は安静にと言われたので、その次のライブも無理そうです。
梨子「大変そうね...」
花丸「ダイヤさん、大丈夫なのかなぁ...」
すぐさま、全体ラインにも連絡が入る。
果南:お見舞い行っても大丈夫って事だよね?
ルビィ:そうです
ルビィ:あ、近々手術するみたいなので、早めに来た方がいいです。
マリー:沼津の市民病院よね?
ルビィ:はい
マリー:今日、夜に行くわ。伝えておいてもらえるかしら?
ルビィ:わかりました
千歌:明日の練習、休みにしてダイヤさんのお見舞い行かない?
曜:賛成
_______
____
__
一同賛成した様だ。明日はダイヤのお見舞いに行く事に決まった。
梨子「(ダイヤさんには聞きたい事が沢山ある)」
梨子「(ルビィちゃんは知らない、いや記憶を失くした様だったし、多分聞いてもわからない)」
梨子「(でも、この件に関して、簡単に喋ってくれるのかしら...?)」 キーンコーンカーンコーン
梨子「あっ、もうこんな時間」
花丸「ちょっと資料引っ張り出しすぎちゃった。早く片付けないと」アセアセ
花丸「ふぅ...なんとか収まった。じゃあ教室に戻ろうか」
梨子「花丸ちゃん、ありがとうね」
花丸「不思議な話だったけど、本当だったみたい。じゃあね梨子さん、また明日」
_______
____
__ 千歌「はぁー今日も授業終わった〜」
曜「数学小テストあるって言ってたね。全然わからないんだけどどうしよう」ジー
梨子「もう、しょうがないわね。明日でいいかしら?」
曜「やったぁ!梨子ちゃんまじ天使」
千歌「ほんと!?ありがとう!」
千歌「おっとっと、こんな時間だ。早く練習行かなきゃ」
曜「じゃあ梨子ちゃんまた明日!」パタパタ
梨子「ええ、また明日」
梨子「(2人とも元気ね...)」
梨子「(今日は図書館寄らないでそのまま帰りましょ)」
梨子「(家に帰ってもやる事ないから、久々に歩いて帰ろうかな...)」テクテク
校門を抜けて、坂を下り街道に出る。
家に着くまでおそらく30分も有れば十分だ。
梨子「(海の音が今日も綺麗ね)」
梨子「(寒いからかしら?海の方から霧が迫ってきてる...)」
梨子が気付いてから5分も経たないうちに、視界は濃い霧で閉ざされた。 梨子「全く前が見えないわ...」
梨子「道こっちであってるわよね?」
10m先も見えないぐらいの濃さだ。かろうじて音で車が近づいてきているのがわかる。
梨子「危ないなぁ」
梨子「車運転する人も大変そうね」
梨子「確かここらへん曲がれば」
梨子「よし、こっちであってる」
梨子「あともうちょっとで家に着く」
梨子「ただいま〜」
梨子「閉まってる。今日はお母さんいないのね」ガチャガチャ
そのまま二階に上がり、自分の部屋に着く。
制服を脱ぎながら梨子は外を眺めた。
段々と濃い霧が晴れていく。それも驚異的なスピードで。
梨子「(山から風でも吹いてきてるのかな?)」
梨子「(さっきは凪の時間だったから、あんな霧が出たのかしら?)」 梨子「それにしても今日はおかしな事だらけだったわ」
梨子「まさか花丸ちゃんがあんな事になるなんて...」
梨子「(状況を整理しなきゃ...)」
梨子「はじめに、黒澤家は男児を得る為に秘儀を行なっている」カキカキ
梨子「その秘儀は、江戸時代に絶えたが、現代に蘇った」
梨子「おそらく人の命を捧げている」
梨子「次に、私はそれに巻き込まれた」
梨子「でも私はまだ生きている」
梨子「最後に、ルビィちゃんは秘儀についての記憶を失っている様だ」
梨子「花丸ちゃんも同様に記憶を失った」
梨子「もう一つの疑問。どうしてダイヤさんは私を選んだの...」
梨子「よそ者だから?」ガチャ
母「ただいま〜」
梨子「あっ、お母さん帰ってきた。お帰り〜」
いくら悩んでも答えは出なかった。たとえ出たとしてもそれが正しいと言う証拠はどこにもない。 梨子「明日また図書館に行けば何かあるかもしれない」
梨子「ご飯も宿題も済ませたし、もう寝ましょう」
....夢を見た。
ダイヤさんと紅葉狩りに行く夢だ。
もうあれから1ヶ月とちょっと経っただろうか。
あの時の記憶と同じ様に、道を間違えてルートを変更し、滝壺へ向かう。
崖の様な斜面を、ダイヤさんは飛ぶ様に降りてゆく。
私は置いていかれるのが嫌で精一杯ついていこうとした。
突然景色が開け、滝壺と紅葉の老木が目に入る。
しばらく見惚れていたが、ダイヤさんがいない事に気付いた。
どうやら木の影に隠れているつもりみたい。
私はダイヤさんに近づく。
でも木の影にはいなかった。
突然誰かが私の背中を押す。
一瞬だけ、見えた。私の背中を押したのはダイヤさんだった。
私はそのまま滝壺に落ちていった。 梨子「...はっ!?」
梨子「嫌な夢を見たわ...妙にリアルな夢ね。でもちょっと記憶と違う様な...」
梨子「(突き落とされた時の浮遊感もまだ体に残ってる)」
梨子「(気持ち悪い)」
梨子「今は7時前...」
気持ち悪さを体に残したまま支度をする。
午前中の授業はそのせいで身が入らなかった。
軽く昼食を済まし、今日も図書館へ向かう。
梨子「こんにちは〜」
モブ「こんにちは」
梨子「(今日は花丸ちゃんじゃないんだ...)」
梨子は早速新聞置き場に向かう。
梨子「よし!今日もやるわよ」
梨子「....?あれ?」 梨子「付箋がなくなってる...どうして?」
梨子「花丸ちゃんが取ったってわけじゃ無さそうだし...」
梨子「先生もこの資料は触れないみたいだったのに急にどうして?」
梨子「でも、日付覚えてるから大丈夫よね」
そう言って梨子は新聞を手に取る。
昨日読みかけだった新聞を日付を頼りに探す。
確かあの山で行方不明が出たとかそんな記事だった。
梨子「....」ペラペラ
梨子「....」ペラペラ
梨子「....」ペラペラ
梨子「あれ?どこにもない...」
梨子「おっかしいなぁ、日付ちゃんと覚えてたのに...」
別の新聞を手に取り、記事を探す。
今度の新聞は記事の場所まで覚えていたから間違えないはずだ。
梨子「....」
梨子「.....嘘、なにこれ...」 そこには行方不明者の呼びかけの記事が載っていた筈だ。
だが、初めからなにも書かれていなかった様に空白だった。
梨子「どうして...?」
慌てて他の記事も確認する。同様に空白、又は別の記事に書き換わっていた。
梨子「どう言う事なの...」
梨子「誰かの悪戯じゃないわよね..」
梨子「もしかして、これも怪異なの?」
キーンコーンカーンコーン
梨子「予鈴...戻らなきゃ」
悶々としながら授業を受ける。
もはや授業の内容など頭に入ってこない。 ちょっとこの後の展開が思いつかないので明日書きます。
あともうちょっとで終わります。 キーンコーンカーンコーン
教師「それでは今日の授業はここまで」
曜「はぁーようやく終わった」
千歌「今日はダイヤさんのお見舞い行く日だね」
梨子「ええ、そうね」
千歌「バスの時間もあるから、一回集まってからにしよっか」
曜「さんせー」
千歌「じゃあ部室にレッツゴー」
スタスタ 千歌がラインに連絡を入れる。
しばらくすると皆部室に集まってくる。
その中でルビィは少し安堵したような、それでも不安の残る表情をしていた。
善子「ルビィ、あんた大丈夫?」
ルビィ「大丈夫だよ。ただ、お姉ちゃん、今日も起きてるかなって」
善子「それってそういう事?」
ルビィ「目覚めはしたんだけどね、最近寝てることが多いみたいなの。薬もきちんとしたの飲んでるし、検査もしてどこにも異常はないらしいんだけど...」
ルビィ「無理に起こすのも悪いから、どうしようもないんだけど」
鞠莉「そうだったのね。私が昨日様子見に行った時も寝てたわ」
善子「早く良くなるといいわね、ダイヤ」
ルビィ「ありがとう」
しばらく談笑した後、バスに乗り込む。
会話は弾まない。
次のライブどうしようか、などと話し始めても、二言三言で終わってしまう。そんな気まずい雰囲気の中、病院に着いた。 ルビィ「こっちです」
ルビィの後をついていく。
綺麗な、小ぢんまりとした個室についた。
ルビィ「コンコン、お姉ちゃん、入るね〜」
返事はなかった。
ルビィ「あはは、今日も寝ちゃってるみたいです」
果南「病気してるんだから当然だよ。今は寝かせておいてあげよう」
鞠莉「ダイヤ、寝てる姿もso cuteね。いつも働きすぎなのよ。休んだっていいじゃない」
ルビィ「ごめんなさい。せっかく来てもらったのに、こんなんで」
千歌「ううん、大丈夫だよ。ルビィちゃん、困ったことがあったら何でも言って。私たちはいつでも助けになるから」
ルビィ「ありがとうございます」
結局、そのまま解散となった。
果南と鞠莉はしたの購買で買った花と置き手紙を残す。 スマホ「ピロン」
梨子「ん?」
梨子「あ、お母さんからだ」
母:悪いけど、スーパー寄って醤油と油買ってきてくれない?
梨子「はぁ、全くもうしょうがないわね」
梨子「いいよっと」
千歌「どうしたの?」
梨子「お母さんからね、お使い頼まれちゃって」
梨子「ごめんなさい、ちょっと一緒には帰れないわ」
千歌「そっか残念」
梨子「じゃあね、また明日」
千歌「また明日!」 もう少しで日が落ちる。
あたりは少し暗くなってきた。
それと同じ頃から、あたりが白くなっていく。
梨子「(何かしらこれ)」
梨子「(...霧?)」
梨子「(最近霧が多いわね。寒暖差が激しいからかしら?)」
黄昏時を迎える頃には、あたりは白く包まれ、ネオンの光がぼんやりと輝く。
梨子「(最終バスの時間までまだまだ十分余裕があるわね)」
梨子「(さてと、早く用事を済ませちゃいましょう)」
適当にそこら辺のスーパーに入って目的のものを買う。
スーパーから出た後も霧は濃いままだった。
梨子「(これじゃ前が見えないわ)」
バス停を探し出すのに苦労した。
しかし街の人々は、霧など関係なしにスタスタと歩いている。
梨子「(やっぱり地元の人は慣れてるのかなぁ)」プワン
梨子「(あ、バスだ。乗らなきゃ)」
バスは霧の中を進む。 梨子「ただいま〜」
家に帰る頃には霧は薄くなっていた。
そのおかげで迷わずに家までたどり着けた。
母「お帰りなさい、色々とありがとね」
梨子「どういたしまして。はいこれ」
夕飯を済ませる。
田舎は都会に比べて、物が買える場所が少ないとかなんだとか話してその日は床に着く。
梨子「今日はダイヤさんに会えなかったな」
梨子「いつか会って話ができる日が来るのかな」
梨子「はぁ。寝よ」パチン 〜次の日〜
千歌「梨子ちゃんおっはよう〜」
梨子「千歌ちゃんおはよう」
今日もバス停で待ち合わせをする。
しかし梨子の顔は少し浮かない顔をしていた。
梨子「(今日もあの幽霊の男が乗ってるバスに乗らないといけないのか...)」
千歌「最近梨子ちゃんバス乗ってるとき顔色悪いよね?どうしたの?」
梨子「なんでもないわ。それよりバス、きたわよ」プワン
曜「おはよーソロー!」
千歌「おはよーソロー!」
梨子「おはよう」
そう言いながら梨子はあたりを見回す。
一番奥の席にいるはずの、虚な目をした男の幽霊は今日はいない。 梨子「(今日のバスは違うバスなのかしら?)」
梨子「(なにはともあれ朝から変なものを見ずに済んだわ)」
学校に着く。
門を抜け、靴箱をあけた。
いつもならこの辺りから黒猫の姿が見える筈だ。
梨子「(あれ?今日は来ないのかしら...?)」
少し不思議に思いながら授業を受ける。
最近は黒猫が近くにいる事に安心感を覚えていたせいで居ないという現実に少しソワソワし始めた。
梨子「(何かあったのかな?)」
梨子「(もう結構な時間が経つけど、まだ来ないのね)」
キーンコーンカーンコーン
梨子「んー授業疲れた〜」ピロン
梨子「ん?何かしら?」 母:ごめん、用事頼んでいい?
梨子「何かしら..なにっと」
母:お使いなんだけど、田中さんから道具をもらってきて欲しい
りこ:いつ?
母:できれば今日中に。貸してた道具が必要になって。でも取りにいく暇がないからお願いできる?
りこ:いいよ。学校終わったら田中さんのところ行くね
梨子「病院か...」
梨子「(運が良かったらダイヤさんに会えるかも)」
そう思いながら授業を受け、気づけば昼だ。
今日も資料を漁りに行く。
梨子「こんにちは〜」
花丸「こんにちは梨子さん」
梨子「今日も1人?」
花丸「今日は1人じゃないよ。黒猫ちゃんがきてるよ」
梨子「え?どこ?」
花丸「机の上、見えない?」
そう言って花丸は顔の前に狐の窓を作る。
花丸「ほら、真ん中の机の上」
梨子「?」
梨子は何度も目を凝らすが猫の姿は見えなかった。 梨子「あ、そうね、可愛いわね」
逆に見えない事に動揺した。
梨子「あ、花丸ちゃん、新聞の置いてある資料室なんだけど、そこに入ったり、資料いじったりした?」
動揺を隠しきれないので、他の話を振る。
花丸「オラは資料室に入った事“一度も”ないずらよ」
その言葉に違和感を覚える。
梨子「(この前みたく記憶が飛んでいる..?)」
梨子「(やっぱり最近なにかおかしい)」
梨子「資料室使ってもいいかしら?」
花丸「別にいいけど、そんな所誰も使わないのに珍しいずら」
梨子は資料室に入って行った。
新聞を漁る。花丸のメモも、新聞の記事も、初めからそこになにもなかったかのようになっていた。
梨子「おかしい。どうして?」
梨子「花丸ちゃんはおそらく、完全にあの山と追っている怪異、黒澤家の記憶を失っている」
梨子「それと同時にあの山に関する記録が消えた」
梨子「そして私は怪異を見えなくなってきている」
梨子「(本当に怪異が見えなくなってるのか、鐘が鳴る前に確かめないと)」
梨子「失礼しました。花丸ちゃん、お疲れ様」
花丸「お疲れ様ずら」 梨子はとある教室に向かって歩いていた。
“見える”ことを告白したとき花丸に連れてこられた教室。
埃臭くて、荷物が乱雑に置かれて、カーテンの隙間から差し込む光が不気味さを加速させている。
梨子「....」ガラガラ
梨子「(確かこの真ん中に)」
梨子「....」
梨子「........」
梨子「(なにも見えないわね)」
なんとなく、梨子は顔の前で狐の窓を作った。
梨子「きゃっ!?」
男の顔が目の前にあった。
即座に狐の窓をほどき、後ろに後退りする。
梨子「(完全に見えなくなったわけじゃなくて、力が弱まってるって事なのかな..)」
梨子「(とりあえず、教室戻ろう...)」
それから放課後まではあっという間だった。
ダイヤのことを考え、心がふわふわしていた事も原因だろう。
2人と別れ、病院へ向かう。 田中「ありがとね〜」
梨子「いえいえ、それでは失礼します」ニコ
別れを告げ、田中さんの病室を後にした。
梨子「(さて、どうしましょう...)」
時間を確認する。まだ面会時間に余裕はある。
梨子「(行って、居なかったらまた明日。とりあえず行ってみよう)」スタスタ
病棟を跨ぎ、昨日訪れたあの病室へと向かう。
708号室:黒澤ダイヤ
梨子「(来ちゃった)」
梨子「(アポイントもなしに来てしまったけど、大丈夫かしら...)」
ノックをするためにドアに手を伸ばす。それまでの瞬間がとても長く感じた。
ドア「コンコン」
「はい、何方でしょう?」 梨子「(良かった。起きてたみたい)」
梨子「私です。梨子です。たまたま病院に寄ったのでお見舞いに来ました。突然にすみません」ガラガラ
ダイヤ「ああ、梨子さんでしたか。お待ちしていましたよ。近々いらっしゃると思ってました」
ダイヤは本を読んでいる様であった。
紺色の病衣は儚げなダイヤの姿を更に引き立て、その場の空気に飲み込まれ、当初の目的なんて忘れてしまいそうだった。
きっと彼女の美しさに惚れているからだ。女同士なのに。
梨子「あ、あの体調大丈夫ですか?」
無難な、こんな言葉しか出ない。勇気を振り絞って本題に入らないと。
ダイヤ「ええ、大丈夫ですわ。昨日皆さんでお見舞いに来てくださった様ですが、相手が出来ずごめんなさい。」
梨子「い、いえ大丈夫ですよ。ダイヤさんの無事な姿が見れて良かったです」
「...」
「...」
次の言葉が思い浮かばず、お互い口を噤んでしまった。 ダイヤ「梨子さん」
そう言われてハッと気がつく。ダイヤは妖美なそれでもなお、聖母の様に似合いに満ちた笑みをこちらに向けた。
ダイヤ「おそらく梨子さんがここに来たのは、何か不思議な物が見えたり、体験しているからではありませんか?」
梨子「はい」
なんの躊躇いも、考えもなく返事をしてしまった。
ダイヤ「やはりそうでしたか。梨子さんには大変御迷惑をおかけしました。それらはもうすぐ止みます」
ダイヤ「黒澤家の長きに渡る軛がやっともうすぐ終わるのです。それまでの辛抱です」
梨子「...?」
ダイヤ「私はもうすぐ腫瘍摘出の手術をすることに表向きはなっています」
ダイヤ「しかし本当は別の手術をするのです」
ダイヤ「腫瘍は大きくなりすぎてしまいました。その為子宮を全摘出するのです」
梨子「....?!」
梨子「それって将来子供産めないってことじゃ...」
ダイヤ「その前に私の子宮はあちら側に持っていかれます。それまでの辛抱です。どうかご容赦を」
梨子「どういうことですか..?全く話が見えてこないんですが...」
ダイヤ「おそらく、梨子さんは今、すべてを忘れているのです。これまでのことを、すべて今からお話しいたします」 おそらく梨子さんはすでに知っていますでしょう。黒澤家と、あの山について。
黒澤家は、かつて神仏に背く施しを行いました。それによってもたらされたのは男児が生まれないという罰。
それに対し、私たちのご先祖様はある方法で対抗しようとしました。それがあの邪神と紅葉の邪法です。
あの邪神は、願いをすべて叶えます。そのかわり、願った人の財や名誉、果ては次の輪廻さえ操るとまで言われている恐ろしい邪神です。
祟れば妖怪、祀れば神という言葉があります。
その通り、怖い神ではありますが、祀ればなんでも願いを叶えてくれるのです。私たちは贄を捧げ、あの神に、自分たち一族の繁栄と栄華を祈り続けたのです。
贄は...すでにお察しの通り、生きた人間です。
私たちの栄華と繁栄は、人々の生き血の上に成り立ち、絢爛豪華な住まいは金ではなく血で黒々と光っていたのです。
これが、長きに渡る黒澤家の軛です。
私たちは何かを犠牲にしてまで自分たちの事ばかり考えていました。罪に償いを行うのではなく、罪に罪を重ねて行ってしまったのです。
積み重なった罪はいずれ誰かが精算しなくてはなりません。
それが私なのです。 一つ気になるでしょう。
なぜ祀るのをやめなかったのかと。
一度、儀式を取りやめた時期があったそうです。
これからは罪の精算を行おうと、そう生きていこうと決めた時期があったそうです。
しかし、それを期に、一族の誰かが、1人また1人と亡くなっていきました。
その時の当主の夢枕に、例の邪神が立ち、再度自分を祀らねばこの先未来はないと預言したそうです。
1人、また1人と死んでいく中、当主は悟りました。
これが私たちの生き方なのだと。邪神は恐ろしいほどに嫉妬深かったのです。
梨子さんには大変御迷惑をおかけしました。
梨子さんはおそらく覚えていないでしょう。
あの時の紅葉狩りの事を。
いえ、思い出さなくていいのです。
もう全てが、世界の全てが変わってしまったのですから。
ああ、今日も霧が出ていますね。
あの霧が辺りを包むと、次の日には皆忘れてしまうのです。
だから心配しないでください。
梨子さんはいずれ全ての事を忘れます。事の顛末を覚えているのは私だけ。それでいいのですわ。 霧が濃くなってきましたね。
梨子さんがすべてを忘れる前にお話しします。
おそらく途中まで覚えているでしょう。あの日の紅葉狩りの事を。
あの日渡したお守りを覚えていますでしょうか?
そう身構えないでください。あのお守りは梨子さんを守るものです。
願いを込めた紅葉の枝を詰めて相手に渡す。そうするとあの邪神が相手に幸福や運を授けてくれるそうです。
はじめに、あの儀式を行ったのは私の意思でも、両親の意思でもないのです。
一族というのは大きな木の様なもので、私達本家の人間は幹に例えられますでしょうか?
その枝葉の先に、分家や家から離れた人たちがいると思ってください。
幹を切られたら、枝葉は枯れてしまいます。
逆に枝葉は自分たちを切ってでも幹を守ろうとするのです。
枝葉は私たちを、いえ、黒澤家という形のみを守ろうとしました。それが今回の始まりなのです。
私の両親は儀式を行いませんでした。その結果が私達姉妹。もしかしたら枝葉は自分の死を恐れていたのかもしれません。 ...長くなりましたね。
あの日私たちは途中で道に迷い、滝壺へ向かいましたね。
あの忌まわしい紅葉の老木は過去に何人もの罪のない人々の命が捧げられました。
枝葉は、梨子さんを老木へ捧げようと工面をしていました。今回も行方不明で済ませるために。
おそらく梨子さんが選ばれたのは、この土地の者では無いから、そして内面に抱えた憂鬱のせいだと思います。
儀式を行う為に、私は老木の影に隠れました。
本当ならば、ここで梨子さんを殺めたのでしょう。
ですが私にとって梨子さんは大切な人です。
そんな事は絶対できません。
しかし枝葉の監視の目があります。
カモフラージュの意味も込めて、梨子さんを滝壺へと突き落としました。
滝壺へ沈んでいく梨子さんを見届けながら、私は儀式を行いました。
贄は私自身です。
私の将来と財産、そして次の輪廻すべてを捧げて祈りました。 全てを叶えてくれる邪神です。私はこの願いに全てを委ねました。
祖先の神仏への無礼と、それから連なる一切の出来事をなかった事にして欲しいと。
とたんに世界が反転しました。
なんと言ったらいいのでしょう、黒く染まっていったのです。
気付いたら、私は梨子さんと一緒に山を下っていました。
自分でも訳がわかりませんでした。
おそらく、願いは聞き入られたのでしょう。
だから滝壺に突き落としたはずの梨子さんも隣で笑っていましたから。
ですが誤算だった事は、梨子さんの何かが開き怪異を見れるようになってしまったこと。
これはおそらく、儀式に巻き込まれた代償だと思われます。それか、私がお守りを渡したからか。全ては神のみぞというのでしょうか。
梨子さんは紅葉狩りの、本当の記憶を覚えていないようですね。
病魔は元々私の身を蝕んでいましたが、これは両親の咎だと思います。邪神は嫉妬深い性格ですから、元々あちら側へ体が引っ張られていたのでしょう。贄として自分を捧げても捧げなくても私の行末はきっと同じだったのです。
邪神に願いを捧げても何も変化がない様に思えました。
ですが日に日に、邪神に関わる記憶が失われていることが分かったのです。はじめに枝葉の末端からそれは始まり、最近は幹の方でも起こり始めました。
様子を見るに、あと1、2回ほど霧がかかれば皆全てを忘れてしまうのではないでしょうか?
もうこの事を知っているのは、私と梨子さんだけなのかもしれませんね。 ダイヤ「これが事の顛末ですわ。梨子さん、私たちは貴方にとんでもない事をしました。心からお詫び申し上げます」
そう言ってダイヤは頭を下げた。
梨子「....」
梨子「ダイヤさんは、それでいいんですか?」
梨子「殺されそうになった事は事実ですが、自分の将来とか、不安はないんですか...」
ダイヤ「先ほども言いました様に、罪はいずれ誰かが清算をしなくてはなりません。それに、私たちは新しい生き方を模索すべきです」
ダイヤ「古い体制を作り出しているのは、私達自身。脱皮の時だった。それだけですわ」
梨子「...そうですか」
梨子「正直、今までの出来事は、悪夢の中にいる様な、そんな感じでした」
梨子「ダイヤさんの話を聞いて、納得した様な、してない様な、自分でもよくわからないふわふわした感じがあります」
梨子「怒りも、悲しみも湧いてきません。でも、こんな日々が終わると思うと少し安堵してる自分がいるんです。ダイヤさんがこんな事になってるのに..」 「.....」
ダイヤ「梨子さんは優しいのですね」
ダイヤ「私は大丈夫ですわ。きっと、この先も自分たちの力で切り開いて見せますわ」
梨子「...」
ダイヤ「さあもう遅いですわ。霧が深くなる前にお帰りなさいな」
梨子「...はい」
ダイヤは終始にこやかに、穏やかに話していた。
これから苦難の道を歩むはずなのに、どうしてあんなに冷静でいられるのか、梨子は理解ができなかった。
病室を抜けて、正面玄関に着く。
辺り一層の濃い霧の中、街の街頭がぼんやりと浮かんでいた。
バスに乗る。
乗客は梨子1人だけだった。
憂鬱を乗せながら、バスは動き出す。
梨子は今までの事を反芻しながら、車窓を眺めていた。
当然何も見えない。遠くから磯の香りがしてきた。
それをただぼんやりと眺める。
濃い霧の中を、バスは割きながら進んで行った。 あら、昨日ぶりですわね。
え?一昨日きたけど、“昨日”は来ていない?
うふふ、そうですか、失礼しましたわ。
ええ、私は大丈夫ですわ。”一昨日“より動けるようになりましたの。ほら!
ふふ、お土産もこんなにありがとうございます。
え?ルビィについてですか?
ええ、聞いていますよ。あんなことがあったなんて、家に帰ったらお説教ですわ。
私ですか?日中はあまり暇じゃないんですの。
ほら、検査とかがありますでしょう?だからくたびれてしまうんですの。
初日に比べたら、ある程度暇な時間も出来たんですけどね。
え?窓の外?
ああ、本当ですね。霧がかかってきましたね。
最近霧がかかることが多いですわね“どうして”でしょうか?
え?時計?あらまあもうこんな時間。
そうですね、霧が濃くなる前に帰りなさいな。
それではさようなら、梨子さん、また明日。
終わり 長々と駄文に付き合っていただきありがとうございました。保守してくださった皆様に感謝を申し上げます。
たこやきもとい鮒鮨様、私の稚拙な文章ではこれが限界でした。どうかご容赦ください。
最後にもう一度、この文章を読んでいただき有り難うございました。 やっぱり自分を犠牲にしてたのか……こういう役回りほんと似合うなダイヤさん
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