【SS】一目貴女を見た日から
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電話帳から善子さんを呼び出し、発信する。
ねっとりと聞こえる呼出音が、このまま終わらなければいい。
お父様にあんな風に言われて、私は、
――ダイヤ『そ…れ、は…』
――ダイヤ『お父様のおっしゃる通り、お迎えが必要かどうか検討してみます。ですから、やはりしばらくは結構です…』
そう返すことしかできなかった。 善子さんのことを好いていないのではない。
為になるのかどうかを考えなさいとの言葉も本心だろう。
けれど最も懸念しているのは、
――黒澤父『ダイヤ。おまえは、善子さんと特別な仲なのではないだろうね――――?』
ダイヤ ブルッ…
それは黒澤家の娘であることを自覚せよという言外の責と、それ以上に、善子さんが女性であることをわかっているだろうなという絶対的な圧で。 ダイヤ「………っく」
善子『も、もしもし?』
ダイヤ「………!」
ダイヤ「…よしこさん……」
善子『うん。どしたの?珍しいわね、電話してくるなんて』
戸惑う声の中に嬉しそうな弾みが見えるのは、私の思い違いだろうか。
言わなければならないこと、その弾みを奪うこと――
ダイヤ「…明日は朝練だけど、迎えにはいけないわ」
善子『…………え…』
ダイヤ「し、七月は生徒会のお仕事が忙しくてね。なかなか練習に出られる時間が取れなさそうなの」
善子『…そう、なの…』
ダイヤ「……ええ」
貴女とお話しすることが、こんなにも楽しくないなんて。
翌日、善子さんは、一人でも遅れることなく朝練へと顔を出した。
‐‐‐
一週間ほどそんな日が続いた。
朝とお昼と放課後と、生徒会やお稽古がどうこうと理由を付けて善子さんとの二人の時間を取らない日が。
伝えるとき、善子さんは決まって悲しそうな表情を浮かべるけれど、それきりで。
食い下がって引き留めてくることは一度もなかった。
日常の過ごし方が元に戻っただけで、なにも変なことはない。
むしろ最近の方が異常、常とは異なっていたのだから。
もしかすると、なんだかしつこい先輩との時間が減って、善子さんとしては肩の荷が降りたのかもしれない。
それならそれでいい。
元々私は周りの方々と同じリズムで日々を送っていたわけではないのだから。
立場と責務を思い出すだけだ。
『今日も善子さんのこと、』
入力しかけたメッセージを全て削除して、生徒会室へと足を向けた。
………………
……… 「この三通、確認してもらってもいい?」
ダイヤ「はい」
先生からプリントを受け取り、そのまま隣で目を通す。
『夏期休暇中の学校開放について』
仕事をしているうちは余計なことを考えずに済む。
お稽古も同じ。
『××年度卒業見込中学生向け 学校説明会について』
部活動に打ち込むのでもそれは変わらないけれど、ふとした拍子に善子さんの表情を見咎めてしまうから。
正直、こうしている方が幾分か気が楽だ。
やがて、もう一度慣れる日が来るはずだから――
『内浦小学校開催 内浦こども祭りについて』
ダイヤ「…………っ」
――このままで、いいんだ。
………………
……… 「…うん、毎度のことながら完璧ですね。遅くまでありがとう」
ダイヤ「いえ。これが職務ですから」
鞄を手にし、先生にお辞儀をする。
窓の外はとっぷりと暮れつつあり、校内には灯りも音も残っていない。
私は、
――黒澤父『ダイヤ。おまえは、善子さんと特別な仲なのではないだろうね――――?』
あのとき、なぜはっきりとそんなことはないと言えなかったのだろう。
そう言っていれば、今頃、隣には変わらず彼女の笑顔があったはずなのに。 一言、そのような関係ではない、と言えば。
部全体のためにも遅刻をされては絶対に困るのだとでも言えば、それでお父様は納得してくださったに違いないのに。
わかっていたのに、
――善子『あ、は、初めましてっ。私は津島善子です』
――善子『あのね、私、たくさん頑張るから。だから、ちゃんと見ててね』
――善子『やりましょう、スクールアイドル部。一緒に』
その一言は、どうしても言えなかった。
ダイヤ「…それでは下校いたします。さようなら」
善子「ダイヤ」 ダイヤ「ヨハネ…!?」
職員室を出ると、目の前に善子さんがいた。
ダイヤ「てっきりみんなもう帰ったものだと…」
最終バスの時間は過ぎている。
部内の伝達事でもあった?
グループラインでも電話でもよかったのでは。
部長の果南さんでもチームリーダーの千歌ちゃんでもよかったのでは。
どうして、なぜ、今、ここに、貴女が――
善子「ダイヤ」 しかし、拡がっていくそんな戸惑いにも似た思考は、あっさりと蹴破られて。
善子「私、あなたが好き。好きなの。朝もお昼も放課後も、土曜日も日曜日も一緒にいたい。私をあなたの、隣にいさせて」
よくできていると自負していた私のおつむは、なに一つだって考えられなくなってしまった。
ただ、
ダイヤ「やっと言ってくれましたか」
ダイヤ「明朝から、またお迎えにあがりますわ」
そんな言葉を吐き出すだけで精いっぱいだった。
‐‐‐
それから私たちは、それまで以上に一緒に過ごす時間が増えた。
お父様に改めてお願いをして朝の時間を取り戻したし、お昼はほとんど毎日一緒に食べたし、放課後はお母様の帰りが遅いという善子さんが我が家へ寄ることもあった。
すぐに夏期休暇に入ったから、お互い時間を工面して二人で出掛けることなんかもあった。
お誕生日のケーキを作ってみたり、善子さんの生放送とやらへご一緒してみたり、内浦こども祭りさえも共に過ごすことができたり。
そうして想い出を積み重ねていった私達は、
『××高等学校 編入に関する説明会 詳細案内』
『日時:8月22日(金) 13時より』
善子さんのささやかな秘め事が露呈したことで、大きな決断をしなければならなくなったのだった。
──
────
────── ルビィ「おねいちゃん、お母さんが呼んでるよ」ヒョコ
ダイヤ「――え?」
ルビィ「考え事してたの?」
ダイヤ「ああ…うん。久し振りに会う皆さんのことをね」
ルビィ「えへへ、楽しみだね」
ダイヤ「そうね。とっても」
立ち上がり、すれ違い様に頭を撫でていく。
ダイヤ「お母様は居間?」
ルビィ「うん。お茶のんでる」
ダイヤ「少し早いけれど、お話が終わったら買い物に出ましょうか。支度をしていなさいな」
ルビィ「はーい!」
ルビィの頭から消えたツインテールに、時間は流れるものね…と呟いてみた。
◇◇◇ ***
千歌「えー、本日はお日柄もいい中、えー…」
梨子「できないならそんな定型文組み込もうとしなきゃいいのに…」
花丸「身の丈に合った言葉を選ぶ方が自然ずら」
千歌「もー、いーじゃん!私だってカッコよく挨拶してみたいのー!」
梨子「すでにできてないから」
プシッ
果南「曜、ビールでいい?」
曜「果南ちゃんのお好きなよーに!なんでも付き合うよ!」ゞ
ダイヤ「お酒はいつ開けますか?」
果南「ごはんの後にしようよ」
ダイヤ「はぁい…」
ルビィ「おねいちゃんビール嫌いだから…」
千歌「こらそこー!私達ほったらかしてフライングしなーい!」
花丸「善子ちゃん呑めるんだっけ」
善子「そこそこ」
梨子「あんまり強そうなイメージないけどね。無理しないのよ」
善子「ふっ…笑止。格の違いを見せつけてあげるわ!」
千歌「あーーーもーーーっ!!」
千歌「乾っっっ杯!!」
「「「かんぱーーーい!!」」」 ルビィ「見て〜、千歌ちゃんおねいちゃんにお手紙くれたんだよ」つハガキ
ダイヤ「!? なぜ持ってきたのですか!?」
曜「おー、かわいいことするねーちかちゃん」
千歌「えへへ〜。ダイヤちゃんなんかこーゆーの忘れてそうだなーって思って」
ダイヤ「はあ!!?」
ルビィ「ぷふっ」
曜「あー、わかる。ちょいちょい抜けてるよねダイヤちゃん」
ダイヤ「誰が抜けているというの!忘れるわけがないでしょう、こんな大切な集まりを!」
ルビィ「そういえばおねいちゃん、鞠莉ちゃんは結局来られなかったの?」
ダイヤ「へ?お断りがあったのでしょう?」
千歌「えー?あったけど、その後ダイヤちゃんからもっかい聞いてみてくれるって言ってたやつでしょ?」
ダイヤ「え…?」
曜「あれ、まさかダイヤちゃん…それ忘れてたんじゃ…」
ダイヤ「え?え…??」サーッ…
ルビィ「…w」
千歌「…ふふっ」
曜「…あんまりやっちゃ可哀想かな」
ダイヤ「?? ……………!」ハッ
ダイヤ「あーなーたーたーち〜〜〜〜!!」
ちかようルビ「「「きゃーーーーっ!」」」キャッキャ 果南「善子どうよ、会社は」
善子「なんで会うたび聞くのそれ」
果南「私らがいなくて周りとちゃんとやれてるのか心配だなーってね」
花丸「その気持ちはわからんでもないずら」
善子「大丈夫よ、やれてるってば。もう二年目になるのよ?あなた達よりよっぽど社会人できてるんだから」
果南「ほーー、言うじゃん。その言葉に嘘がないか確かめないとね」
善子「え?」
果南「まる、ダイヤのお酒持ってきて」
花丸「ここに」スイッ
善子「だああああっなしなしなし!そういうのヤだ私!」
果南「え〜」
花丸「そこそこ呑めるって言ったのに〜」
果南「いいよーだ、じゃあまるとやっちゃうもんねー」
花丸「果南ちゃん、おらまだ19歳だよ」
果南「え〜」
善子「え〜じゃないわよ」 曜「梨子ちゃんはこっちに来る前に住んでたとこに戻ったんだよねー…って、あれ?梨子ちゃんは?」
ルビィ「さっきまでいたと思うけど…」キョロ…
ドタドタドタドタ
「ちょっ待っ引っ張らないで…!」
曜「梨子ちゃんの声だ」
ルビィ「誰かと一緒みたい、すごい足音…」
スパーーーンッ
鞠莉「チャオーーーッ!☆」
千歌「うわー鞠莉ちゃんだー!」
果南「おー、鞠莉じゃん。来れないのかと思ってたよ」
鞠莉「ワガママ言って抜けてきちゃった!」
ダイヤ「ワガママを自称する形で抜け出してきたの…」
花丸「まーまー、カタイこと言いっこなしだよダイヤちゃん」
善子「その引き摺ってるやつなに?」
鞠莉「梨子よ!そこまで迎えにきてもらったの!」ブイッ
梨子「」チーン
善子「どう見てもそっちが連れてこられてるじゃないのよ」
鞠莉「梨子ってば。寝てないで!マリーが来たんだからここからまだまだ盛り上がれるわよね!?みんなでシャイニーするわよーーーっ!」
「「「おーーーーーーっ!!」」」
梨子「ぉ……ぉ〜…」ピクピク…
ルビィ「む、無理しないで…」
………………
……… 鞠莉「マリーの wine が飲めないってゆーの!?」
果南「鞠莉こそ!私の酒が飲めないっての!?」
鞠莉「そんな smell プンプンのもの飲ーまーなーいぃぃ!!」
果南「ブドウジュースでイキってるなんてお子ちゃまじゃん!」
鞠莉「ンマーーーーッ!Italian の叡知をバカにしたわね!」
果南「エイチってなにさ!意味わかんないこと言わないでよ!」
鞠莉「やるってのー!?」
果南「臨むところだよ!」
梨子「ちょ、ちょっと二人とも…ケンカは…」
鞠莉「ちかっちー!そのクサい水を注いでちょーだい!」
千歌「あっハイ」
果南「曜!ブドウジュース持ってきて!」
曜「ああ、うん」
梨子「まだ飲むのぉ〜〜っ!?」
ルビまる スヤァ… ワーワー ギャーギャー
ダイヤ「他のお客さんの迷惑にならないのかしら」
善子「昼の間に千歌さんが一組一組お話ししておいたんだって。常連ばっかりだから『賑やかでいい』なんて言われたらしいわよ」
ダイヤ「だとしても騒ぎ過ぎでしょう…」
善子「ま、どうしてもまずかったら美渡さんが止めにくるんじゃないの?それまでは好きにさせときましょ」
ダイヤ ムムー…
善子「へたに口出すと巻き込まれかねないわよ。中心があの二人なんだから、あなたは特にね」
ダイヤ「ぅ……それもそうね。やめておきましょうか」
善子「それが賢明だと思う」
ダイヤ「まだ飲みますか?」
善子「ダイヤが飲むなら付き合うわ」
ダイヤ「ではあと一杯だけ」トプ
善子「三回目よ、それ言うの」
ダイヤ「本当に、意外と飲めるわね」
善子「体質かな」トプ
ダイよし「「かんぱい」」 ダイヤ「…ではITリーダーになったのね。二年目なのに凄いことですわ」
善子「リーダーなんて名ばかりよ。ちょっとパソコンとかに詳しいからって、面倒な役を若手に押し付けただけなんだから」
ダイヤ「そうだとしても、信頼していない人に任せたりはしないものよ。胸を張りなさいな」
善子 グイ
善子「…ぷぁ」
ダイヤ「随分一気に行きましたね」
善子「あなたは人をその気にさせるのが上手いわよね」
ダイヤ「え?」
善子「昔からそう。嫌味なく誉めてくれるから、なんだかとっても嬉しくて…頑張ろうって、思わされる」
ダイヤ「そうかしら…」
善子「その代わり、自分のことになった途端に要領は最悪になるけどね」
ダイヤ「そんなことはありません」
善子「……上手くやれてるの?」
ダイヤ「……お陰様で」
善子「そう」
善子「なら、いいわ」グイ
*** ***
翌日。
『沼津駅』
ダイヤ「昨日も伊豆長岡だったのでしょう?」
善子「うん。ま、そっちのが近いし」
ダイヤ「久し振りに沼津へ来たくなったのですか?」クス
善子「…そんなとこ」
善子「悪いわね、わざわざ駅まで付き合ってもらって」
ダイヤ「いえ、わたくしが好きでしていることですから」
善子「ありがとう。………じゃ、改札くぐるわ」ス…
ダイヤ「はい……」
――善子『それじゃ、改札くぐるわ…』
ダイヤ「――――――――っ!」
ダイヤ「善子さん!!」ガシッ
善子「…っ!」 善子「な、…なに?」
ダイヤ「あ、いえ…その…」
善子「…電車、来ちゃうから……」
ダイヤ「そうね、そうね…」
善子「うん…」
ダイヤ「……」
善子「……」
ダイヤ「もう、こちらには…戻ってこないの…?」
善子「…あっちで就職しちゃったし」
ダイヤ「善子さんなら、どこでだって上手くやっていけますわ…」
善子「…家族も向こうにいるし」
ダイヤ「でも、でも…こちらには果南さんや千歌ちゃんや、曜ちゃんとか…休みにはルビィだって帰ってくるし、それに――わたくしも――」
善子「ダイヤ」
ダイヤ ビクッ…
善子「その話はさ、もう、たくさんしたじゃない――」ニコ… ダイヤ「ぁ……ぁぅ、でも…でも……ッ」
――善子『またいつかこっちに戻ってこられたら、ねえ、また…私と…』
ダイヤ「わた、わたくしはっ……」
――ダイヤ『今は、前だけを向いて歩き出しなさいな』
ダイヤ「善子さんの枷にならないようにと、本当は、ずっと…貴女と……」
――善子『ダイヤ、夏休み会いにいってもいい?』
――ダイヤ『大切な時期でしょう。もう少し落ち着いてからになさい』
ダイヤ「貴女が…あな、た…がっ……」
――『三日前』
――善子『今夜電話できない?』
――ダイヤ『……………っ』グッ…
善子「私を強く送り出してくれたのは、他でもない。あなたじゃないの」スッ
――黒澤父『ダイヤ。おまえは、善子さんと特別な仲なのではないだろうね――――?』
ダイヤ「わた、し…っ」
――善子『私っ、わた… 内浦を出たくない…!ダイヤっ、ダイヤぁ……離れたくないよぉ…っ』
ダイヤ「わたくしだって――離れたくなんか、なかったのに……っ!!」
ダイヤ「――――――ヨハネぇっ!!!」
善子 ……ピタ
善子 クルッ
善子「善子よ。」
ダイヤ「ぁ……ぁあっ…」
ダイヤ「ぁぁぁぁぁあああああ………っっ」
【SS】一目貴女を見た日から 終わり
以上です。
長いことお付き合いいただきありがとうございました
Hi-Fi CAMP の『恋』を元に書いてみましたが、正直、ダイよしは手に余り、扱いきれませんでした…
参考
https://youtu.be/ioMNNpMr870 部屋の中で呻いてる
書いてくれてありがとう
最高だったよまた書いてくれ 手透きの時間に少しずつ書き溜めるので完成は遅くなると思いますが、次なにかカプの希望などあるでしょうか よしルビ、ちかよし、かなよし…あたりですね
最近μ'sの同人誌を読んで若干そっちに気持ちが揺れている部分もあるのですが、無印はもうあまり需要なさそうですか? うみにこ、ことぱな、ダイせい…なるほど
にこ推しなのですが、好き過ぎて上手く扱えなかったりしてこれまであまり触れてきませんでしたね
ダイせいはややギャグに寄りそうですが、普通に二人暮らしの日常モノを書くのもいいですね μ'sならことまき
Aqoursならようダイが見たいです
マイナーだし難しいかもだが おお…そこで終わるのか
悲恋で終わるのは悲しいなあ ほのぱな、よしルビ、ようまる、ようダイ
などが見てみたさあります >>382
カプものだと、まるりあ、ちかよし、かなりこ、あたりです こうして見ると、やっぱり様々なカプ需要があるものなのですね
無限に時間があればどれも書いてみたいですが、そうもいかないのが悔しいです…
ご意見ありがとうございます 序盤で高校1年生の間って書いてたり鳥の描写を重ねてたり凄いな
伏線も描写も丁寧で鮮やか
素晴らしいSSをありがとう 作者さんがまだ見てるか分からないけど
にこにーのカプならうみにこ、ことにこが見たいです
無印もサンシャインも読みたい このラスト凄い
ヨハネと呼びかけて、善子よ、と返す
堕天使であるヨハネに心を奪われたダイヤの想い、過去と決別する善子の姿が浮かんで泣きそうになった
だからヨハネよ!が印象深いだけになおさら ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています