梨子「たったふたつの愛」
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曜「・・・」
梨子「・・・」
曜「梨子ちゃん、あなたは何をしたの?」
さざ波が音を立てる。内浦の海は真っ暗だ
真夜中の浜辺で私は告白する あの人は私を殺さなかった。だから今回も私を狙っていない
でも曜ちゃんを殺す可能性はなくはない。私が曜ちゃんを好きなことをあの人は知っているんだ
だから私を絶望させるために曜ちゃんを殺す可能性はあるんだ
思考が混乱している。頭が割れそうなぐらい沸騰している
梨子「曜ちゃん・・・どこなの!?どこにいるの!?」
もぬけの殻になった病室を必死に探す
ベッドを乱暴に動かす。布団をめちゃくちゃに荒らす。まるで空き巣のように部屋中を荒らした
だけどいない。曜ちゃんはどこへ___
梨子「まさか・・・」
連れ去られた?あの殺人鬼に? いや、それはない。病室を出てからは私と一緒にいたんだ。そんなのありえない
ありえない?本当にありえないの?
あの人の仲間が窓から連れ去らった可能性は?
梨子「曜ちゃん!!」
ガララッ
曜「梨子ちゃん!?どうしたの!?」
梨子「っ!!」
バッと振り返るとそこには驚いて眼を丸くしている彼女と、その彼女を車イスで補助する看護師さんがいた
梨子「曜・・・ちゃん・・・どこにいたの?」
曜「検査の時間だったから検査室に行っていたんだけど・・・梨子ちゃんこそどうしたの!?」
梨子「・・・身体は!身体はなんともない!?」
曜「えっ!?う、うん・・・?」
梨子「気分が悪いとか・・・!」
曜「別にないけど・・・本当にどうしたの?」
よかった、何もなかった・・・安堵した私はギュっと曜ちゃんを抱きしめた
梨子「よかった・・・曜ちゃんが無事で・・・」
曜「あははっ、梨子ちゃんも寂しがり屋なのかな?」 無事を確認できた私は部屋を荒らしたことについて謝罪をして病院を出ていく
あの人はもういない。おそらく先に帰ったのだろう
梨子「・・・」
梨子「やっぱり、ダメだ。一人じゃ曜ちゃんを護れない・・・」
向こうには仲間がいる。あの夜も車から出てきたのは使用人だと言っていた
他にも仲間はきっといるはず。もしかするとAqoursのメンバーにも懐柔された人がいるかもしれない
梨子「・・・行くしか、ない」
梨子「もう一度」
恐れよりも覚悟が上回った今、私の足は重りが外れたように弾んでいた 時刻は21時。内浦の海岸に私は立っていた
何故そこにいるのか。それは待ち人を待っていたから。そしてその人は___
梨子「・・・来てくれたんですね」
私の前に現れたその人は自慢の長髪をなびかせ、真剣なまなざしでこちらを見つめている
梨子「ダイヤさん」
ダイヤ「こんな時間に呼び出すなど・・・失礼極まりありませんわよ」
梨子「すみません、だけどダイヤさんを選んだことには理由があります」
梨子「ひとつは私のことを信じてくれると思ったから」
梨子「もうひとつは頭が良くて感情的に判断しないから」
梨子「だからダイヤさんを選びました」
ダイヤ「信頼してくださるのはありがたいことですわね」
ダイヤ「・・・だけど、それだけではないでしょう?」
ダイヤ「言っておきますが、黒澤家の力を頼ろうとしているのなら・・・」
ダイヤ「それ相応の理由が必要だと肝に銘じなさい」 梨子「やっぱり・・・ダイヤさんは頭がいいですね」
梨子「そうです、私はもしものときは黒澤家の力もお借りしたいと思っています」
梨子「そしてそれ相応の理由もあります」
ダイヤ「・・・」
梨子「この内浦には殺人鬼が潜んでいる」
ダイヤ「・・・は?」
梨子「前に私が夜の海で溺れていたことは覚えていますよね?」
ダイヤ「えぇ、覚えています」
梨子「あれはその殺人鬼から逃げている途中に飛び込んだのです」
ダイヤ「・・・」
ダイヤ「その殺人鬼の情報や、行方不明の情報などは一切耳にしていませんが」
梨子「車で人を運んでいるのを見ました。被害者は内浦の人じゃない可能性もありえます」
ダイヤ「・・・犯人の顔を見たのですか?」
梨子「はい、その犯人の身柄も把握しています」
ダイヤ「そこまで言うのならお教えなさい」
梨子「言いません」
ダイヤ「はい?」
梨子「実際に殺人の瞬間を見てもらいます」
ダイヤ「そんな危険なことにわたくしを巻き込むつもり?」
梨子「見たほうが早いです。お願いします」
ダイヤ「警察に任せなさい」
梨子「それじゃダメなんです!!!」 私は声を荒げた。波が二人の足を濡らす
梨子「あの人には・・・強力な組織がついているんですよ・・・」
梨子「きっともみ消されるだけ!それに!」
梨子「下手な動きをみせると私たちに何をしてくるかわからないんです!」
梨子「曜ちゃんが危険な目に遭う可能性もあるんですよ!」
ダイヤ「曜さんが・・・?」
ダイヤ「まさか、あなたがいう殺人鬼とは・・・」
ダイヤ「・・・」
ダイヤ「はぁ・・・あなたの迫力に負けましたわ」
梨子「えっ?」
ダイヤ「わたくしを連れて行ってください」
ダイヤ「梨子さんがそこまで言うのなら、力にならないわけにはいきませんわ」
梨子「ダイヤさん・・・」
梨子「ありがとうございます・・・」
大きな前進だ。ダイヤさんが仲間になってくれたんだ。私は思わず涙をこぼす
これで戦える。頼もしい味方がいれば怖くない
これで、きっと___ 23時、内浦のとある辺境地。私はあの時と同じように隠れていた
ただ、あの時と違うのは
隣に味方がいること。そして身体の震えがないことだ
ただ、それでも怖いものは怖い。慎重に行動する必要がある
梨子「・・・」
ダイヤ「・・・誰も来ませんわね」
今日は来るのだろうか。ひょっとしたら待ちぼうけになるかもしれない
私に知られたから場所を変えたのかもしれない
来い・・・来い・・・私はそう祈っていた
ここでダイヤさんに現場を見せられたら一気に進展するだろう
だからこそ、今日は何としても・・・
二度と見たくない光景を、こんなにも見たくなるのは初めてだ
ガタンッ
梨子「・・・!!」 ダイヤ「あれは・・・車?」
きた・・・ついにこの時がきた
あの中から降りてくるはずだ、私は額から垂れる汗をぬぐってじっと見つめた
あの車から降りて___
鞠莉「二人とも、何してるの?」
梨子「っ・・・!」
ダイヤ「ピギャッ!?」
ダイヤ「ま、鞠莉さん・・・驚かさないでください」
鞠莉「ごめんごめん、でも私も驚いちゃったのよ」
鞠莉「こんな時間に人がいることに・・・ね」
車から出てくる、それはただの思い込みだった
なんと、その殺人鬼は私たちの背後から現れたのだ 梨子「あっ・・・ひっ・・・」
殺される?いや、それはない
隣にはダイヤさんがいる。私に手を出すとは考えにくい
ダイヤ「・・・」
ダイヤ「そういう鞠莉さんはどうしてここに来たのですか?」
鞠莉「私?星を見に来たの」
ダイヤ「星?」
鞠莉「そっ、ここは星がよく見えるスポットなのよ♪」
梨子「う・・・そだ・・・」
梨子「だったら、あそこの車は何ですか!?」
鞠莉「あぁ、あれは帰るとき用に手配してもらった車よ。使用人にお願いしたの」
梨子「・・・鞠莉さんはどうやってここまで来たんですか?」
鞠莉「ん?歩いてきたんだけど」
鞠莉「星って自分の足で歩いて見に行くほうがロマンティックだと思わない?」
ダイヤ「そういうものなのでしょうか?」
鞠莉「そういうものよ!ダイヤたちはどうしてここに?」
ダイヤ「それはですね」
梨子「車の中を見せてください」 鞠莉「え?」
ダイヤ「梨子さん?」
梨子「その車の中に・・・見られたくないものがあるんですよね?」
ダイヤ「っ・・・!」
ダイヤさんは察してくれたようだ
そうだ、あの車の中には死体があるはず。もしくは監禁されている生きた人間が・・・
それを見たらダイヤさんも信じてくれる
そしたらこの殺人鬼をどこかに隔離してもらって、そうすれば・・・
曜ちゃんを護れるんだ
鞠莉「ん〜よくわかんないけど」
鞠莉「いいわ、見せてあげる」
梨子「・・・!!」
そう答えた殺人鬼は車の方に向かって歩いていく
私たちは距離をとりながら後ろをついていく
梨子「・・・」
ダイヤ「・・・」 車に近づいた瞬間に捕らわれる可能性は十分ある
私たちは距離を置きつつ少しずつ近づいた。すると・・・
鞠莉「梨子が言ってるのってこれのことかしら?」
ドサッ
梨子「!!」
ダイヤ「これは・・・人形?」
彼女が床に置いたものは想定外の物だった
そう、「人間」ではなかった
人間そっくりなドール、いわゆる「人形」だった
鞠莉「最近はよく星を見に来るんだけど、いっつも一人で来てるのよ」
鞠莉「誰かを誘ってもよかったんだけど、なんか・・・」
鞠莉「星を見に行こうって誘いづらいし・・・それに時間も夜遅くになっちゃうからね・・・」
鞠莉「でも一人だと寂しいじゃない?だからこのお人形と一緒に、こうやって・・・」
人形を仰向けに寝させた殺人鬼はその隣で仰向けになり・・・
まるで二人で星を見ている光景を作り出したのだ
ダイヤ「・・・はぁ」 大きなため息が聞こえた。そのため息からは呆れたというメッセージが伝わってきた
梨子「ち、ちがう!こんなのおかしい!」
ダイヤ「鞠莉さんに限って・・・とは思いましたがね」
ダイヤ「まぁ、何事もなかったのなら良かったですわ」
鞠莉「そうだ!せっかくだし一緒に星を見ましょ?」
鞠莉「ほらダイヤもこっち来て!」
ダイヤ「はいはい、少しだけですよ?」
梨子「っ・・・!」
梨子「ダイヤさん、早く離れて!なにをされるかわからないのよ!」
私の味方であるダイヤさんはあろうことか、殺人鬼の隣で仰向けに寝転んでしまった
まずい、このままだとダイヤさんが危ない!隙をみて殺すつもりなんだ!
鞠莉「何かされるって・・・こういうこと?」
ダイヤ「っ・・・!」
ダイヤ「雰囲気があってもこれはブッブーですわ!」
鞠莉「あら、残念。でも離しはしないのね」
おかしい。どうして殺人鬼と手を繋げるの
私が必死に訴えているのに、どうして私の言葉に聞く耳を持ってくれないの 鞠莉「梨子も一緒に星でも見ましょ?」
鞠莉「綺麗な星が見えるわよ・・・クスクスッ」
ダイヤ「梨子さんも星を見て心を落ち着かせるといいですわ」
梨子「・・・!」
梨子「どうして・・・!!」
ダッ
悔しい、信じてもらえないのが悔しい
私はその場から走り去った
ダイヤ「梨子さん!?」
鞠莉「・・・そっとしておいてあげましょ」
鞠莉「曜のことで・・・きっと心が参ってるんだと思うの」
鞠莉「最近の梨子は意味のわからない言動が多かったりするし・・・」
鞠莉「心の傷は簡単には治らない。だからこそ」
鞠莉「私たちが見守ってあげないとね」
ダイヤ「・・・そのようですね」 ___
梨子「はぁっ・・・はぁっ・・・」
梨子「ダイヤさん、どうして・・・」
梨子「・・・車の中、ちゃんと見れていなかった」
梨子「そうよ、トランクの中に隠していたのよ・・・」
梨子「あの人形は私たちを騙すための物に違いない」
山を駆け下りてどのぐらい時間が経ったのだろう
戻って確かめたい気持ちもある。だけど・・・
それ以上の不信感が私をいっそう考えさせる
梨子「おかしい、ダイヤさんほどの人が・・・」
梨子「あんな簡単に殺人鬼に取り込まれるなんて・・・」
ダイヤさんは賢いはずだ。あんな簡単に殺人鬼の隣に近づいて
おまけに手を繋ぐなど、普通のダイヤさんならありえない
梨子「・・・まさか」
ドクン そっか、そういうことだったのね
なるほど、私は見事にハメられたんだね
梨子「ははっ・・・」
梨子「そっか・・・」
梨子「既にあの殺人鬼に懐柔されていたのね・・・そうに違いないわ・・・」
ザバーンと波が音を出す
パリンッと私の心が割れる音が聞こえる
梨子「・・・どこに敵がいるかわからないなら」
梨子「やっぱり・・・一人で戦うしかない」
梨子「ははっ・・・あははっ・・・」
梨子「あははははっ!!!」 私は大声で笑う。その笑い声は波の音にあっさりとかき消される
私はちっぽけな存在かもしれない
そのちっぽけな私が巨大な闇に立ち向かおうとしている
梨子「・・・安心して、曜ちゃん」
梨子「私がついているからね」
ちっぽけな私は闇夜に飛び込む。次なる行動を起こすために___ 梨子「・・・」
ブツブツ
千歌「梨子ちゃん?何書いてるの?」
梨子「・・・気にしないで」
千歌「そう言われると気になる」
梨子「千歌ちゃんには言えないことなの」
千歌「ん〜残念」
梨子「・・・」
ブツブツ
千歌「何か独り言ブツブツ言ってるし・・・変な梨子ちゃん」
何とでも言いなさい。絶対千歌ちゃんには教えない
だって千歌ちゃんも「あいつ」の仲間かもしれないから
梨子「どうする。どうやってこの街から追い出す・・・」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b) 私は考えた。あの殺人鬼をこの街に放置するのは危険だ
だけど曜ちゃんがあいつを好きになってしまっている。ただ追い出すだけではダメだ
梨子「理想としては・・・」
曜ちゃんがあいつを嫌うように仕向けつつ、あいつをこの街から追い出す・・・
梨子「だけど私の仕業だと曜ちゃんにバレてはいけない」
梨子「そんなことがバレたら私が曜ちゃんに嫌われるどころか・・・」
曜ちゃんの生きる希望を完全に絶ってしまう可能性もある
梨子「・・・それに、あまりあの人を刺激したらあの殺人鬼は何をしてくるかわからない」
梨子「上手くやらないとすべてが壊されてしまう・・・」
そもそもあの人を街から追い出すってどうすればいいの
梨子「あーもう!」
山積みの課題に私の頭がショートしそうになる
梨子「・・・いや、そもそも追い出す必要なんてないじゃない!」
梨子「あの人はあと3か月たてば勝手に旅立つわ!」 そうだ、すっかり忘れていた。あの人は海外に行くんだ
だから無理に追い出す必要はない
梨子「つまり、今の私がするべきことは・・・」
あと3か月の間、曜ちゃんと自分の身を護ること
曜ちゃんに本当の幸運を与えてあげること
梨子「何よ、簡単なことじゃない」
ガタッとイスから立ち上がる
目標の見えた私は真っ先に病院に足を運んだ___ 〜〜〜
曜「あっ、梨子ちゃん!」
梨子「曜ちゃん、調子はどう?」
曜「うん!良い感じだよ!」
梨子「そっか、よかった」
梨子「今日は鞠莉さんは来たの?」
曜「ううん、来てないよ」
梨子「そっか」
曜「・・・」
梨子「曜ちゃん?どうしたの?」
曜「私ね、ちょっと悩んでいるんだ」
梨子「私でよければ聞くわよ?」
曜「ありがとう・・・」
梨子「曜ちゃんは私の大事なお友達だもの!気にしないで」
曜「うん・・・あのね」
曜「最近、ちょっと疑ってしまうんだ」
梨子「・・・誰を?」
曜「鞠莉ちゃんだよ」 これは好展開だ、曜ちゃんも異変に気付いたのなら都合が良い
曜「だってさ、鞠莉ちゃんって海外に行っちゃうでしょ」
曜「それなのに、こんな・・・歩くこともできない私の告白をオッケーしてくれるなんて」
曜「何か・・・同情で付き合ってくれているのかなって・・・怖くなってきちゃった」
梨子「・・・」
梨子「鞠莉さんは、きっと曜ちゃ」
曜「私、やっぱり死んだほうがいいのかな」
梨子「・・・!」
梨子「ダメよ、早まらないで」
曜「私、鞠莉ちゃんの邪魔になってるかもしれないもん」
梨子「そんな・・・ことないわよ」
曜「だって、海外に行くんだよ?いろんな準備もあるはずなのにさ」
曜「私の一方的な気持ちがそれを邪魔してる感じがして・・・」
曜「怖くなってきちゃった」
言いそうになった。ならばあいつと別れて私と付き合ってほしいと
でも・・・そんなことを言える雰囲気ではなかった
曜ちゃんはまだ幸運を手に入れてないんだ
それなのに死んじゃうなんてそんなの・・・
私が許せない 梨子「・・・」
曜「・・・梨子ちゃんもさ、ほぼ毎日会いに来てくれているけど」
曜「私は鞠莉ちゃんだけじゃなく、梨子ちゃんの時間も奪っている気がして・・・」
梨子「曜ちゃん!!」
つい大声をあげてしまう。ダメよ、今の彼女はとてもナイーブになっている
あと一歩で本当に命を絶ってしまいそうな眼をしている
そんなの許せない。私が曜ちゃんを幸せにしてあげるまでは
私が曜ちゃんの生きる希望になれるまでは死なせたりしないわ
梨子「私にとって曜ちゃんは、とっても大事なお友達なの」
梨子「だからそんな悲しいこと言わないで」
曜「梨子ちゃん・・・」
曜「うぅっ・・・グスン・・・」
梨子「いいわよ、私の胸で思いっきり泣いても」
曜「・・・ありが」
ガララッ 鞠莉「曜、来たわよ・・・って、あら?」
梨子「っ・・・!」
鞠莉「梨子が泣かせたの?」
ブルッと身震いがした。私はもう恐れない
だけど私の身体はまだ、あの狂気による恐怖を忘れていなかった
曜「ま、鞠莉ちゃん・・・ち、ちがうの。これは・・・」
鞠莉「曜・・・辛いのね」
鞠莉「私は曜の味方だから、安心して」
鞠莉「私があなたを幸せにしてあげるから・・・」
ギュッ
曜「鞠莉ちゃん・・・ありがとう」
曜「私、鞠莉ちゃんのおかげで幸せだよ」 心が激しく締め付けられる
私の胸で泣くよりもあいつの胸で泣くことを選んだの?
どうしてそんな人を愛してるの?
その人は平気で人を殺す悪魔だよ?
あなたのように足がない人間を前に薄ら笑いを浮かべる人なんだよ?
梨子「は・・・」
梨子「離れなさいよ!!!」
ドンッ
鞠莉「きゃっ」 曜「り、梨子ちゃん!?何してるの!」
梨子「はぁっ・・・はぁっ・・・」
曜「鞠莉ちゃん、大丈夫?」
鞠莉「え、えぇ・・・私は大丈夫よ」
我慢の限界だった。私はその殺人鬼に勢いよくぶつかる
抑えるつもりだったけど、感情的になってしまった
だけどやってしまったからにはもう後には退けない
これは事実上の宣戦布告___
梨子「その汚れた手で・・・」
梨子「曜ちゃんに触らないで!!!」
曜「梨子ちゃん落ち着いて!?どうしたのさ!」
鞠莉「梨子・・・頭でも打っちゃったの?」
梨子「うるさい!!」
梨子「あなたなんか・・・あなたなんか!!」
曜「梨子ちゃん!!!」
梨子「っ・・・!!」
ふと我に返った気分だ。それと同時にやってしまったという気分
彼女は私を心配そうな眼で見ていた
そしてあいつは・・・うっすらと不気味な笑みを浮かべていた 曜「梨子ちゃん、きっと疲れてるとおもうから・・・今日はもう休んだ方がいいよ」
鞠莉「そうよ、お家に帰りなさい」
梨子「わ、私は疲れてなんか・・・」
曜「・・・お願い、帰って」
梨子「・・・」
梨子「わかった、またね・・・」
居座れる空気ではなかった。あぁ、やってしまった
今からあの二人は密室で二人っきりになるんだ
だけど厄介払いされた今の私にそれは止められない
神様、お願いします
どうか曜ちゃんが無事に今日を乗りこえられますように・・・ 〜〜〜
鞠莉「いたたっ・・・」
曜「梨子ちゃん、何だったんだろう・・・」
鞠莉「きっと疲れてるのよ。学校でもたまにあるの」
曜「学校でも?」
鞠莉「えぇ、さっきみたいに意味不明なことを言いだしたりね」
曜「そうだったんだ・・・」
鞠莉「・・・ところで曜」
曜「ん?なに?」
クスクスッ・・・
鞠莉「明日、星を観に行かない?」 梨子「・・・」
病室の前で私はとどまる。昨日のことがあったから入りずらい
梨子「ふぅっ・・・」
ガチャッ
曜「あっ、梨子ちゃん。おはよう」
梨子「曜ちゃん、昨日はごめんなさい」
曜「謝るのは鞠莉ちゃんにだよ?」
鞠莉「私は気にしてないわよ」
梨子「っ・・・!」
殺人鬼は既に病室にいた。私はキッとにらみつけ乱暴に謝る
梨子「・・・昨日はごめんなさい」
鞠莉「ノープロブレム♪」
梨子「・・・」
梨子「ごめん、やっぱり帰るね」
曜「え?来たばっかりなのに?」
梨子「二人の邪魔はしたくないからね」
鞠莉「気を遣わなくていいのに」
梨子「じゃあ、また・・・」
逃げるように私は病室を出た。そしてとんでもない言葉を聞いてしまった。
病室の中からはっきりと聞こえてきた
曜「星を観に行くの楽しみだね」
鞠莉「えぇっ、今日は最高な日になるわよ」
梨子「えっ・・・」
私は乱暴に扉を開け、病室に戻った。 梨子「ダメよ!!星を観に行くのは!!」
曜「えっ!?梨子ちゃん?」
鞠莉「ぬすみ聞きはよくないわよー」
梨子「曜ちゃん!絶対に行ったらダメ!」
言葉が止まらなかった。とうとう発してしまったのだ
梨子「行ったら殺されるわ!!!」
曜「えっ・・・」
言った後に後悔する。
曜「何言ってるの・・・梨子ちゃん・・・」
鞠莉「やっぱり最近の梨子、おかしいわよ」
梨子「いや、それは・・・」
曜「鞠莉ちゃんが人を殺すって本気で思ってるのなら」
曜「私は軽蔑する・・・」
梨子「あっ、えっと・・・」
梨子「ちがうの!」
曜「何が・・・違うの・・・」
曜「出て行って・・・」
梨子「曜ちゃん、違うの!」
曜「早く出て行って!!!」
曜ちゃんから今までにないぐらいの怒りを感じる
当たり前だ。自分の恋人を殺人鬼呼ばわりされたのだから
梨子「っ・・・!」
鞠莉「クスクスッ・・・」
梨子「・・・曜ちゃん、バイバイ」 私は病室を再び出て途方に暮れていた
もう、どうしようもない
間違いない。あいつのあの雰囲気・・・今日曜ちゃんを殺すつもりだ
あの殺人鬼は私を絶望させるつもりなんだ
もう私には何も・・・
梨子「・・・やるしかない」
梨子「私が・・・やるしかない」
拳をギュっと握りしめた。覚悟を決めた。
梨子「私が全てを・・・終わらせる」 冷たい風が私を襲う。冬の夜は寒い。
私は一足先にやつが来る場所に来ていた
決着をつけるんだ。もう街から出るのを待つなんて余裕はない
鞠莉「・・・やっぱりいたのね、梨子」
梨子「鞠莉さん、あなたを待っていました」
山道に現れたのはあの殺人鬼だ
梨子「曜ちゃんはどこ」
鞠莉「今使用人が迎えに行ってるわ。もうすぐ来るんじゃないかしら」
梨子「そう、なら時間は間に合いそうですね」
私は殺人鬼に向けて鋭利な刃物を突きだした
鞠莉「やっぱり、そういう結果になっちゃうのね」 鞠莉「私は別に誰も殺すつもりはないわよ?」
梨子「嘘をつかないでください。今日、曜ちゃんを殺すつもりなんですよね?」
鞠莉「殺さないわよ」
梨子「嘘をつかないでください、この殺人鬼!」
鞠莉「・・・梨子は私を殺すの?」
梨子「えぇ、そうです」
梨子「あなたを殺して、自分も死にます」
鞠莉「そんなことしても曜は悲しむだけよ、せめて梨子は生きないと」
梨子「無理です。人殺しをしてのうのうと生きていけるメンタルはありません」
梨子「曜ちゃんの命を護るために、私は自分のすべてを賭ける」
鞠莉「ふぅん、そう・・・」
鞠莉「じゃあいいわよ、殺しなさい。私を」
梨子「・・・その前にひとつ教えてください」
鞠莉「なに?」
梨子「どうして人殺しなんてしていたのですか・・・私の知っている鞠莉さんはそんなこと!」
鞠莉「・・・」
鞠莉「曜のためよ」 梨子「えっ?」
鞠莉「小原家の新技術のひとつ、人体再生術が実験段階に入ったの」
梨子「人体再生術?」
鞠莉「そう、簡単にいえば義足を生身の足で行うようなもの」
鞠莉「死体の四肢を生きている人にくっつける技術よ」
梨子「まさか、それを曜ちゃんに・・・」
鞠莉「そう、義足がダメでもこの人体再生なら大丈夫。そう思ったのよ」
梨子「で、でも・・・それでも・・・」
梨子「やっぱり、人を殺すなんて・・・」
鞠莉「それは今の梨子も同じじゃないかしら?」
鞠莉「誰かのために人を殺す。私としていることはまったく同じよ」
梨子「ち、ちがう・・・」
鞠莉「さ、もういいでしょ。私を殺しなさい?」
鞠莉「曜の恋人である私を殺しなさい?」
梨子「ま・・・り・・・さん・・・」 どうすればいい。理由があったとしても人を殺すなんて許されることじゃない
なら、どうすればいい?
この人を生かしておくべきなの?
この人の話をどこまで信じていいの?
頭の中がグルグルと回る
梨子「私・・・は・・・」
鞠莉「まぁ、楽しかったけどね。人を殺すのは」
梨子「・・・は?」
鞠莉「クスクス・・・曜のためにって言うのはあくまで詭弁♪」
鞠莉「小原家にも黒い裏側がたくさんあってね」
鞠莉「そのせいか、人を殺すことにも慣れちゃったみたい♪」
梨子「っ・・・!」
鞠莉「ケタケタ・・・一瞬迷ったでしょ?ダメよ梨子」
鞠莉「一瞬の迷いは隙を生むんだから・・・!」
瞬間、鞠莉さんにタックルをされ私は勢いよく吹っ飛ばされた 鞠莉「クスクスッ・・・あなたはもう少し生かしてあげてもよかったんだけど」
鞠莉「やっぱり邪魔だから殺すことにするわ」
梨子「っ・・・いたっ」
梨子「はな・・・せ!」
身体を掴まれて身動きがとれない。武器としてもってきた包丁も吹き飛ばされた
鞠莉「梨子、友達でいてくれてありがとう」
鞠莉「曜と二人で、仲良くあの世に行きなさい?」 梨子「いや・・・だ・・・!」
ドカッ
鞠莉「あうっ」
死に物狂いで押しのけた私は急いで包丁を手にした
そして
梨子「あぁぁぁぁぁ!!」
グサッ
梨子「はぁっ・・・はぁっ・・・」
鞠莉「あっ・・・うっ・・・」
ドサッ
梨子「はは・・・」
梨子「やったわ、ついにやった・・・」
梨子「曜ちゃんを護れた・・・」
梨子「あははははっ!」 ついに私は目的を果たしたのだ
夜空を見上げ一人叫び声をあげていたそのとき、一台の車がやってきた
その中から降りてきたのは、車イスに乗った・・・
曜「梨子・・・ちゃん?」
梨子「あぁ、曜ちゃん」
梨子「曜ちゃん、私を褒めてくれる?私はやりとげたんだからさ」
曜「何を・・・」
暗くてよく見えていないのだろう。私は車イスを死体が見えないように誘導した
車の中には使用人らしき人がいた
梨子「お願いします、もう少しだけ時間をください」
使用人は黙って車を走らせ、山道を降りて行った 梨子「今日は天気が悪くて星が見えないから、別の場所に行こっか」
曜「それはいいけど、どうして梨子ちゃんがいるの?
梨子「・・・」
曜「どうして・・・血がついているの?」
梨子「・・・」
何度も曜ちゃんからの質問がくる。私は何も答えない
時刻は真夜中、気づけばさざ波をたてる海辺に来ていた
その真夜中の浜辺で私は告白した 梨子「私は人を殺したの」
曜「そん・・・な・・・」
曜「嘘だよ、梨子ちゃんはそんなことしない」
曜「あなたは誰なの?」
梨子「誰って、どこから見ても桜内梨子でしょ?」
曜「ちがう、ちがうよ・・・」
曜「あなたは悪魔か何かに違いない」
梨子「悪魔・・・か・・・」
梨子「そもそも、こんなことになったのは曜ちゃんのせいだから」
曜「えっ・・・」
梨子「曜ちゃんが悪魔を呼び寄せてしまったの」
梨子「私だってこんなことしたくなかったのに」
梨子「・・・でも、鞠莉さんが言っていたこと。ちょっとわかったかも」
曜「鞠莉ちゃんが・・・何て言ったの・・・?」
梨子「あの人ね、人を殺すのが楽しくなったって言ったの」 曜「鞠莉ちゃんが・・・人殺し?」
梨子「普通なら考えられない発言でしょ?」
梨子「でもね、なんだかわかっちゃった」
梨子「私ね、さっき鞠莉さんのこと殺したんだけど」
梨子「そのときの感触が忘れられないの」
梨子「生命を奪う感触が・・・クスクスッ♪」
曜「梨子・・・ちゃん・・・?」
梨子「曜ちゃんのことは大好きだったよ。本当に大好きだった」
梨子「愛しているわ。だからこそ・・・」
グサッ
曜「梨子ちゃ・・・なん・・・で」
梨子「私が楽にしてあげるわ」
梨子「愛しているからこそ、私がこの手で終わらせてあげる♪」
曜「悪・・・魔・・・」
ガタンッ 梨子「悪魔・・・か・・・」
梨子「クスクスッ・・・ケタケタ・・・」
さざ波の音とともに、悪魔は暗闇に姿を消す
その後、その姿を見た者はいない
end この板で完結させたかったのでピクシブから転載しました。
終わりです。 ようわからんけど前ここでやって埋め立てでもくらったの? 待ちきれなくて向こうで読んできてしまった
鞠莉ちゃんの殺しに比べると、梨子ちゃんの殺しはとても「愛」と呼べるものではないように思える
それに鞠莉ちゃんは梨子ちゃんを殺しておくべきだったかもしれない
梨子ちゃんが行動に出ることは読めていたはずだし、
結果としてそれが曜ちゃんのためにもなったのだから
でもそうしなかったのは、殺しを楽しんでしまっている自分を止めてほしかったからか
あるいは梨子ちゃんの曜ちゃんへの思いに気づいていて殺せなかったのか
スレタイを梨子ちゃんに言わせたのは卑怯
これが愛なのだと言われれば誰にも反論はできない
愛なんてものは所詮自己満足でしかないのだと思うと
二重の意味で心をへし折られた気がした
お疲れさま 鞠莉が殺人鬼と発覚ぐらいまでは読んでた記憶があるな
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