絵里「怪盗のことだったら」ことり「μ'sにお任せ♪」雪穂「ですっ!」 第三話
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カチャカチャ…
雪穂「えっと…最初に金属を伸ばして、鍵穴に入れた後で形を変えていく…」
ことり「そうだよぉ、いい感じいい感じ♪」
雪穂「ここから…右と下の空間を触った感じで鍵の種類を探知して…」
ことり「うんうん。パターンは?」
雪穂「えっと…H、かなぁ?」
ことり「せいかぁい♪ だいぶ早くなってきたんじゃない?」
雪穂「えへへ…///」 雪穂「次に…パターンがHの場合は、金属をY字にして…更に先端を…」
カパ
雪穂「開いたっ!」
ことり「おめでとう雪穂ちゃん♪」
雪穂「タイムは!?」クル
ことり「えーっと、4分23秒…。うん、上出来上出来ぃ♪」
雪穂「4分、かぁ…。はぁー…やっぱり4分切るのは難しいね」
ことり「しょうがないよぉ〜。あのA-RISEの鍵開け担当のあんじゅちゃんだって、4分はかかっちゃうんだし〜」
雪穂「えぇ!? そうなの!?」
ことり「そうだよぉ〜。むしろ、この短期間であんじゅちゃんと同じレベルに来たんだから凄いんだよ〜?」 雪穂「パターンHなんて、並の怪盗なら4分を切るのが当たり前よ」キリ
雪穂「…とか、さらっと絵里お姉ちゃん言ってたけど嘘だったのっ!?」
ことり「ちょ…雪穂ちゃ…今の…絵里ちゃんの真似…? そっくり…あはは…っ!」
雪穂「…///」カァー
ことり「も、もう一回…! お願い、今のもう一回やって…っ!」
雪穂「やんない!///」
ことり「あはは…ふふふ…っ! 雪穂ちゃん…最高だよぉ…♪」クスクス
雪穂「…ふんっ!///」プイ ことり「くすくす…♪ あー、おかしかったぁ…」
雪穂「…」ムー
ことり「…まぁまぁ雪穂ちゃん、絵里ちゃんの嘘のおかげでここまで上達できたんだからいいじゃない?」
雪穂「それは…そうだけど…」
ことり「大体、このレベルの解錠を4分切れる怪盗なんて、絵里ちゃんを覗いたらほんの一部くらいなんだからぁ」
雪穂「ちょっと待って、絵里お姉ちゃんは本気で4分切れるの…?」
ことり「絵里ちゃんが速いのは足だけじゃないよぉ? むしろ解錠の方が得意技かも♪」
雪穂「」 ことり「でも本当に凄いなぁ、こんなに短期間で…。絵里ちゃんったら、教えるのも上手なんだからぁ…♪」
雪穂「得意…どうかなぁ…。最近絵里お姉ちゃんスパルタ過ぎて…」
ことり「くすくす♪ 絵里ちゃんったら、雪穂ちゃんのこと気に入ったのかかなぁ?」
雪穂「えぇー!? 絶対そんなことないよ! いっつも私に厳しいもん! ちょっと間違えただけですぐ怒るし…!」
ことり「それだけ雪穂ちゃんのことを気にかけてる証拠だよ〜。興味ないものには見向きもしない性格なんだからぁ」
雪穂「そう…なのかな」
ことり「この間の件で少し認識を変えたのかなぁ? まぁ…あの絵里ちゃんのつめた〜い視線は、それはそれで癖になるんだけどぉ〜…♡」ハァハァ
雪穂「…」 ことり「ん? どうしたの雪穂ちゃん〜?」
雪穂「…あんまり分からないや、絵里お姉ちゃんのことは」
ことり「え〜、姉妹なのにそれはヒドイんじゃない?」
雪穂「だって…絵里お姉ちゃんはあんまり話してくれないし、それに怪盗の仕事でいつも忙しそうだったから…」
ことり「そうねぇ〜…絵里ちゃんはいつだって真面目に仕事に取り組んでくれているけど、遊びが足りないのかもねぇ」
雪穂「遊び…?」
ことり「うん、遊び。いつも眉を吊り上げてコワーイ目つきばかりだもん、もっといつでも笑ってるような心の余裕がないと♪」
雪穂「あはは…絵里お姉ちゃんが笑っている姿なんて、想像できないや…」
ことり「そうかも♪ まぁ、最近は絵里ちゃんも少しは変わってきたような気がするけど…」
雪穂「そう、なの…?」 ことり「前は後輩の子が出来ても、本当に辛く当たるだけだったんだからぁ」
雪穂「へぇ…。そういえば、お姉ちゃんたち以外の怪盗って…」
ことり「昔は何人もいたんだけどねぇ、みーんな辞めて行っちゃった」
雪穂「そうだったんだ…」
ことり「ちなみに、その何人かの辞めた原因の一つは絵里ちゃんだよぉ」
雪穂「そ、それって、もしかして次に辞めさせられるのは私なんじゃ…!?」
ことり「うーん、大丈夫だと思うけどぉ…」
雪穂「で、でも…!」ハラハラ
ことり「だって〜あの頃の絵里ちゃんの怖さは、今の絵里ちゃんの比じゃなかったよぉ〜? 歩くナイフってああいう感じのことを言うんじゃ無いかなぁ」
雪穂「歩く…ナイフ…」ガタガタ ことり「だぁーから、雪穂ちゃんは大丈夫だよぉ、多分♪」
雪穂「…っ」ガクガク
ことり「うふふ、ちょっと怖がらせ過ぎちゃったかなぁ? あの頃の絵里ちゃん、生で見せてあげたかったなぁ〜♪」
雪穂「〜〜っ!」ブンブン
ことり「くすくす♪ …まぁ、辞めた原因はそれだけじゃないんだけど…」
雪穂「〜〜…?」
ことり「…それはまた今度話してあげる♪」
雪穂「うん…」
ことり「それじゃあ今日の特訓はおしまい! 帰ってお昼ご飯にしよう♪」
雪穂「はぁ〜い」
……。
絵里「怪盗のことなら」ことり「μ'sにお任せ♪」雪穂「ですっ!」
絵里「μ'sとは、私達が働いている会社の名前よ」
絵里「私達は依頼があれば、どんなところからでも華麗にお宝を奪ってくる怪盗なの」
絵里「メンバーは、私の姉であり、経営も怪盗もどんなことも天才的にこなしてしまう完璧超人、南ことり…」
ことり「はーい♪ 南ことりでぇーす☆ 趣味はぁ〜可愛い女の子を観察することでぇ〜、特技はぁ〜…」
絵里「時間がないから次に行くわね」
ことり「ちょっとぉー! 絵里ちゃーん!?」プンプン 絵里「…次に、現役女子高生怪盗として名を馳せているこの私、南絵里」
ことり「はいはーい! 絵里ちゃんはね〜本当に大人気の怪盗なんだよぉ〜? 毎日ポストにラブレターは当たり前…♪ 月に数回はプレゼントが家に届くし…TV出演だってもう常連なんだからぁ♪ それにそれにぃ〜…」
絵里「これも長くなりそうだから、次に行くわよ」
ことり「もぉー! もっと喋らせてよ絵里ちゃーんっ!!」プリプリ
絵里「最後に…私の妹、まだまだ新米で動きもトロければ3回に1回は失敗してしまうようなひよっこ怪盗の、南雪穂」
雪穂「あーっ! 私の紹介台詞取った上に、悪口言ってるー!! 絵里お姉ちゃーん!?」
絵里「遅いのが悪いのよ」
雪穂「そんなぁ…! ことりお姉ちゃぁ〜ん!!」
ことり「よしよ〜し、絵里ちゃんは怖かったよねぇ〜…♡」ナデナデ 絵里「…全く、どうしようもなく出来の悪い妹だけど…自慢の妹でもあるの。まだ中学生ということもあるし、これからの活躍に期待…してもいいかもしれないわね」
絵里「…? そうね、肝心なことを忘れていたわ」
絵里「私達の国では、必要なスキルさえ備わっていれば誰でも怪盗になることができるの。それこそ、私のような女子高生だってね」
絵里「勿論、その必要なスキルはおいそれと習得できる代物ではないわ。だからこそ、私達怪盗…μ'sが重宝されるの」
絵里「…今日も変わらず怪盗の依頼は舞い込んできているわ。どんなお宝でも、私達の手で必ず怪盗してみせる」
絵里「…」
絵里「ふぁ、ファイト…よ///」
……。
絵里「…」
雪穂「…」チラ
絵里「…なに?」
雪穂「あ、い、いや…。ことりお姉ちゃん遅いね」アセアセ
絵里「全くね…。何を手間取ってるのかしら」
雪穂「…つ、次の任務ってどんな感じだろうー…?」
絵里「さぁね。でもどんな任務でも変わらないわ。丁寧、且つ、迅速に任務をこなすだけよ」
雪穂「うん…」
絵里「…」
雪穂(二人きりだと話続かないし…そもそも何話して良いか全く分からないよぉ…)
雪穂(好きな食べ物の話…とか振っても、どうせ「特にないわ」とか返されそうだしなぁ…)
雪穂(それどころか「その話、今必要ある?」とか睨まれそうだよ…)
雪穂(うぅ…やっぱり絵里お姉ちゃん怖いよぉ…)
絵里「…?」
ガチャ
ことり「ごめんごめん〜お待たせぇ〜☆」
雪穂「ことりお姉ちゃん〜! 待ってたよぉ〜!!」ダキ
ことり「え、えぇ〜? どうしたの雪穂ちゃん、急に抱きついてきてぇ〜…♡」ハァハァ
絵里「ことり姉さん遅いわよ。何かあったの?」
ことり「あ、うん、ちょっとね〜。次の任務の資料をまとめるのに時間掛かって…」
絵里「そんなに…?」
ことり「雪穂ちゃん、抱きついてくれるのは気持ちい…じゃなかった、嬉しいけどぉ、ちょっとお仕事するから離れてね?」
雪穂「あ、う、うん」
ガサ
雪穂「うわぁ…凄い量」
絵里「これだけ入念な下準備が必要ということは、相当な大物ね」
ことり「集めるのに苦労したんだよぉ」
絵里「ターゲットは…」パラ
絵里「――っ!?」
雪穂「えっと…何々…。西木野財閥…?」
絵里「西木野…」
ことり「…♪」
絵里「…本気?」
ことり「うん、本気だよ♪」
絵里「…」
雪穂「え? え? この西木野財閥って…そんなに凄いの…?」
絵里「凄いなんてもんじゃない。西木野財閥の屋敷からお宝を怪盗するのは、Sランク怪盗でも困難を極めるという話よ」
雪穂「ふぇ!? え、Sランク怪盗って、つまり…」チラ
ことり「ふふ」 雪穂「ことりお姉ちゃんでも難しいってことだよね…!?」
ことり「うーん…実は以前、一度だけ西木野財閥の館に忍び込んだことがあるんだけどねぇ…」
雪穂「え…ど、どうだったの…?」
ことり「うふふ…♪ しっぽ巻いて逃げ出しちゃった☆」
雪穂「失敗じゃん! 噂っていうか体験談じゃん!!」
絵里「むしろよく逃げ出せたというべきよ。Sランクであることり姉さんだからこそ助かった。…普通なら警察の独房行きか、もしくは…」
雪穂「もしくは…?」
絵里「この世に帰って来れなくなるらしい」
雪穂「え!? そ、それって…死…!?」 ことり「その辺の真相は分からないけどねぇ〜。でも、西木野財閥の屋敷に潜入した怪盗が帰ってこなかったという事例が何件かあるのは事実なの」
絵里「殺されたのか、はたまた、何かの理由で屋敷の中に幽閉されているのか…。全てが謎に包まれているの」
雪穂「そ、そんなところへ怪盗しに行こうっていうの…!?」
ことり「うん♪」
雪穂「うん♪ ってちょっと軽くない!? ねぇ軽くない!?」
ことり「だってお客様の依頼だしぃ〜」
絵里「お客…? 私が依頼の履歴を見たときにはそんな案件…」
ことり「…匿名希望の割り込み客でねぇ、ついこの間依頼を受けたんだぁ」
雪穂「匿名希望…?」 絵里「ことり姉さん、それってつまり…滑り込みの客の依頼を他案件より先に回したということ?」
ことり「あーえっとぉ…」
絵里「どんな依頼でも順序は守らなくちゃダメよ。特例は認められない。信用問題に関わるから」
雪穂「わ…厳しい…」
絵里「厳しい…?」ジロ
雪穂「ひっ…」ビク 絵里「これは仕事として基本中の基本よ。お客様の依頼は絶対だし、選り好みもしない。お友達感覚で受けてこなすのとは違うのよ。これで厳しいなんて言っていたら今後怪盗なんてつとまらないわよ? いい?」
雪穂「は、はぁい…」
絵里「で、模範とならなければいけないことり姉さんがどうしてそのルールを破るのかしら?」チラ
ことり「…"Angelic Angel"」
絵里「!?」
雪穂「へ…? エンジェリックエンジェル…? なに…?」
ことり「今回の依頼主から怪盗を頼まれているお宝の名前…。それが"Angelic Angel"」
絵里「…」
ことり「まさかこのお宝を西木野財閥が手にしているなんて思わなかったよ〜」
絵里「…こ、ことり姉さん…」
ことり「――ねぇ、絵里ちゃん?」
ことり「怪盗したいよねぇ――…?」
絵里「…っ」
雪穂「絵里…お姉ちゃん…?」
ことり「ふふっ、このお宝はね…凄い貴重なお宝なんだぁ〜。だから、西木野財閥の屋敷からなんとしてでも怪盗しないといけないんだよ」
雪穂「そうなの…?」
ことり「ね、絵里ちゃん?」
絵里「…ええ、そうね…」
雪穂「…?」
ことり「くすくす♪」 絵里「…でも、現実問題としてどうやって怪盗するの? 相手は西木野財閥なのよ?」
ことり「だからこうやって時間掛けて下準備してるんだよ♪」
雪穂「で、でも、ことりお姉ちゃんでも逃げてくるような屋敷って…」
ことり「その時は割に合わなかったから、ね」
雪穂「割に合わなかった…?」
ことり「うん。労力に見合わない…って感じかなぁ?」
雪穂「そう、なの…?」
ことり「でも、今回はそうじゃない。全力を賭してでも怪盗しなければいけないお宝がある」
絵里「…」 ことり「それに今回は私一人じゃない…。絵里ちゃんもいるし、雪穂ちゃんもいる♪」
雪穂「私!?」
絵里「雪穂…?」
ことり「私たち三姉妹の力にかかれば、西木野財閥だって余裕のよっちゃんだよぉ♪」
雪穂「ど、どうかなぁ…? 私はまだ新米だし…力になるかな…」アハハ
ことり「大丈夫だよ♪ この間のエキシビジョンマッチだって頑張っていたし、特訓も頑張ってるし…ね?」
絵里「…っ」
スタスタ…
雪穂「あ、絵里お姉ちゃん!」 ことり「もぅーまだ話が途中なのに〜、絵里ちゃんったら相変わらずなんだからぁ」
雪穂「…」
ことり「…でも久しぶりに絵里ちゃんの冷徹な目、ゾクゾクしたぁ〜…♡」
雪穂「…ことりお姉ちゃん、本当に大丈夫なの…?」
ことり「次の任務のこと? 大丈夫大丈夫〜♪ ことりお姉ちゃんに任せて♪」
雪穂「…それも、だけど」
ことり「どうしたの?」
雪穂「その…」チラ
ことり「…ふふ、追ってみたら?」
雪穂「ん…」
……。
カツカツ…
絵里「…っ」
絵里(まさか、西木野財閥の館にAngelic Angelが眠っているなんて…! 今まで、そんな情報は一切出回っていなかった…)
絵里(く…っ! 依頼主は誰…? 匿名と言っていたけれど…)
絵里(あのお宝の存在を知っている人間は少ない筈…! 一体何が狙いなの…!?)
絵里(…)
絵里(Angelic Angelは…私がなんとしてでもこの手で…)グ…
絵里(しかし…仕事である以上、私怨を挟む訳には…!)
絵里(だけど――…っ!)
ことり『怪盗したいよねぇ――…?』
絵里「当たり前よ…ッ!」ドン!
雪穂「ひっ!?」
絵里「ぁ…ゆ、雪穂」
雪穂「あ、そ、その…」オロオロ
絵里「何か用…?」
雪穂「用って訳じゃないけど…。えっと…心配で…」
絵里「っ…」
雪穂「大丈夫、絵里お姉ちゃん…?」
絵里「少し、取り乱したわ…。もう大丈夫よ」
雪穂「本当に…?」
絵里「ええ。だから雪穂が心配する必要ないわ」
雪穂「…"Angelic Angel"」
絵里「っ」
雪穂「Angelic Angelって、何…? お姉ちゃんにとって、そんなに大切なお宝なの…?」
絵里「雪穂には関係ないわ」
雪穂「関係無いって…わ、私だってμ'sの一員なんだよ…?」
絵里「それは…」
雪穂「これから怪盗するお宝のことなら…私にだって知る権利があるよ!」
絵里「…っ」
雪穂「それに絵里お姉ちゃん、いつも言ってたじゃん。怪盗するなら常に情報は頭に叩き込んでおけって…!」
絵里「そうね…」
雪穂「だったら私にも教えてよ…! Angelic Angelのこと…!」
絵里「…」
絵里「"Angelic Angel"は…私たちのお祖母様の家宝よ」
雪穂「お祖母様…?」
絵里「雪穂は覚えてないかしら? ロシアにいるお祖母様のこと。小さい頃はよくことり姉さんと雪穂と私の三人で遊びに行っていたのだけれど…」
雪穂「私は…あんまり覚えてないかも…」
絵里「そう…。まぁ、雪穂は小さかったから仕方がないかもね」
雪穂「うん…」
絵里「お祖母様の家にはね、古くから伝わるお宝があったの…」
絵里「何代も継がれてきた由緒正しい代物で、私はお祖母様からそのお宝の言い伝えをよく聞かせて貰っていたわ」
雪穂「言い伝え…?」
絵里「…その昔、この地に災害や疫病が流行っていたとされる時代に、奇跡を起こすために舞い降りた天使がいたらしいの」
雪穂「天使…」
絵里「天使は自身が持っていた不思議な力を使い、人々の病を治し、その地に平穏をもたらした…」
絵里「そして人々に感謝されながら、天使は空に帰って行ったというわ」
絵里「その際に、天使は一枚の"羽根"を地上に残していったの」
絵里「不思議と淡く光りを放つ白い羽根…。それこそがお祖母様の家に伝わるお宝――…」
雪穂「…"Angelic Angel"」
絵里「そうよ…。私も直に見せて貰うことがあったから覚えているわ。あの不思議な光は一度見たら忘れられない…」
雪穂「…」
絵里「Angelic Angelには、天使が持つ奇跡の力が宿ると信じられていたらしいわ」
雪穂「奇跡の力って…人々の病を治したっていう…?」
絵里「それよりももっと凄い力よ」
雪穂「もっと…?」
絵里「それは…どんな願いでも叶えてくれるという奇跡…」
雪穂「どんな願いでも…!? 何それ…本当に奇跡じゃん…!」
絵里「それが本当ならね」
雪穂「へ?」 絵里「お祖母様に見せて貰ったときに私も願ってみたけれど…そんな奇跡は一つも起きなかったわ」
雪穂「な、なんだぁ…」
絵里「お祖母様には信じれば必ず叶うと言われたけれど…まぁ、精神論よね、そんなもの」
雪穂「夢が無いなぁ…」
絵里「昔の人はそんな儚い夢を信じたんでしょうね。その羽根…Angelic Angelを天使の代わりとして崇め祀り、その羽根を手にしたお祖母様の先祖が代々受け継ぎ、今まで守ってきたの」
雪穂「へぇ…」
絵里「…」
雪穂「…あれ? そんなお祖母様のお宝がなんで依頼で…?」
絵里「――ある時、Angelic Angelは誰かに盗まれてしまったの」
雪穂「盗まれた…!? そ、それは…怪盗ってこと…!?」
絵里「…分からないわ」
雪穂「分からないって…怪盗だったら、予告状も出すし…誰かが依頼するから…」
絵里「その通りよ。原則的に、怪盗は事前に予告状を出すのがルール。怪盗する相手側にも、警察にもね」
雪穂「だよね…」
絵里「盗まれた後、どこの怪盗会社に問い合わせても、警察に確認しても…お祖母様の家に予告状を出したという事実は確認できなかった…」
雪穂「そ、それじゃあつまり…」
絵里「正当なルールに基づいて行われない怪盗はただの盗み…。醜く汚い、悪しき塊…」ギリ
雪穂「っ…」ビク
絵里「…Angelic Angelは、お祖母様にとっての大切なお宝だったの。お祖母様はいつだって嬉しそうに私にその言い伝えを話してくれたわ」
絵里「…でもAngelic Angelは奪われ、お祖母様からも笑顔が失われてしまった」
絵里「いつもあんなに優しく微笑みかけてくれていたお祖母様だったのに、今はただ虚空を見つめるだけ…」
絵里「…っ」
雪穂「絵里お姉ちゃん・・・」
絵里「…だから私は、どこにいる誰かも分からないヤツの手からAngelic Angelを取り戻すために怪盗になったの…!」
雪穂「え…」
絵里「同じ怪盗になれば、何れ…手がかりが掴めるんじゃないかと思ったの」
絵里「西木野財閥…そんなところにお祖母様のお宝が眠っていたとはね…」
絵里「まさか、μ'sに仕事として以来が来るとは…夢にも思っていなかったわ」
雪穂「それって、お姉ちゃん以外にもAngelic Angelを狙っている人がいるってこと…?」
絵里「そんなバカなことがあるわけないわ…ッ!」ドン
雪穂「っ!」ビク
絵里「ぁ…」
雪穂「…」ドキドキ
絵里「…っ」
絵里「…私はなんとしてでも、Angelic Angelを怪盗しなければいけないの…!」
雪穂「で、でも…仕事として怪盗するってことは…」
絵里「分かっているわ…。私の物になる訳じゃない。そんなことは百も承知よ」
絵里「それでも私は…この手で――…っ」
雪穂「…」
絵里「…だから今回の任務…失敗は許されないわ…」
絵里「必ず、西園寺財閥から怪盗してみせる…!」キッ
カツカツ…
雪穂「ぁ…」
雪穂「…」
雪穂「…」ハァ
雪穂「あんな風に怒ってる絵里お姉ちゃん、初めてみた…」
ことり「――くす♪」
……。
希「…」
希「えりち…」
希「…」グ…
ツバサ「東条希さん――よね?」
希「っ!?」バッ
希「…こっわ、急に後から声かけんといてくれる?」
ツバサ「ごめんなさい、癖で」クス
希「あんたは綺羅ツバサ…」
ツバサ「あら? 私の名前を知ってくれてるとは光栄ね」
希「そら知っとるよ…アンタ達のことはよーく知っとる」
ツバサ「へぇ…。まぁ、なんだかんだ言って私たちもそこそこ有名人だからね、知っていても不思議ではないけれど」
希「…ふふ、μ'sを目の敵にするも全く追いつくことのできない美人三人組怪盗…やったっけ?」
ツバサ「ぐ…最初の説明は余計よ」 希「…で、その美人三人組怪盗のリーダーさんがウチに何の用や?」
ツバサ「単刀直入に言わせて貰うわ」
ツバサ「――μ'sについて、教えて貰いたいことがあるの」
希「…」
……。
パラ…
雪穂「西木野**。西木野財閥現当主。西木野総合病院の理事長でありながら、世界の至る所を渡り歩き、あらゆるお宝を収集する冒険家のようなこともしている。お宝を手に入れるためには時に非常な手段に訴えることもあり、その危険度はかなり高い…」
雪穂「西木野財閥の屋敷に怪盗を依頼する人間も数多く存在するが、未だかつて怪盗が成功した事例はなく、担当した怪盗グループは失踪してしまうとされている。この件は警察も介入してはいるが、何れも罰則するには値しないとされ、現在も対処されることはないままである」
雪穂「うぅ…調べれば調べるほど、西木野財閥が恐ろしいって事実しか出てこないんだけど」
雪穂「西木野財閥って、そんなにヤバイところだったんだ…」
雪穂「…こんなところからお宝を怪盗するなんて…絶対無理だよぉ…」
絵里『必ず、西園寺財閥から怪盗してみせる…!』キッ
雪穂「…」
雪穂「絵里お姉ちゃん…凄い怖い目してたな…」
雪穂「いつも私に怒ってるときの目も怖いけど…そういうのとはまた別な…。ことりお姉ちゃんが言ってた昔の絵里お姉ちゃん…なのかな…」
雪穂「…なんというか、あんな絵里お姉ちゃん…見たくないな…」
雪穂「それに、Angelic Angelを取り戻すために怪盗になったって言っていたけど、本当なのかなぁ…」
雪穂「でも、それって…」
雪穂「…」
雪穂「今の絵里お姉ちゃんはただ怖いだけで…私の好きな――…」
亜里沙「ゆーきほっ!」
雪穂「わひゃいっ!?」
亜里沙「――び、びっくりしたぁ…」
雪穂「そ、それはこっちのセリフだよ! いいきなり後から声かけないでよ亜里沙!」 亜里沙「だってー、雪穂が図書室で勉強なんかしてるの珍しかったからー」
雪穂「驚かす理由になってないでしょ! …っていうか、勉強するの珍しいってバカにしてる…?」
亜里沙「バカになんてしてないよー。でも図書室で勉強なんてしたことないでしょー?」
雪穂「う…まぁ、その通りだけど…」
亜里沙「雪穂、急に真面目だね! エライエライ♪」
雪穂「うぅぅ…やっぱりなんかバカにされてる気がするーっ!!」
「あの…図書室では静かに…」オロオロ
雪穂「す、すいません…」ペコペコ
亜里沙「めっ! だよ、雪穂ー」プンプン
雪穂「亜里沙のせいでしょっ…!」 亜里沙「それよりー、何の勉強してるのー?」
雪穂「それよりって…。あー…えっと、怪盗のことについてなんだけど…」
亜里沙「わぁ、凄い量の資料だね」
雪穂「あはは…だよねぇ…」
亜里沙「にしきのざいばつ…? 次のお仕事ー?」パラ
雪穂「あ、ダメだよ勝手に読んだらー。一応仕事の資料だから、他人に見られちゃダメなんだって」
亜里沙「むー、ちょっとぐらい見せてくれてもいいのにぃ−」
雪穂「だーめ! …私も立派なμ'sの怪盗なんだから、そういうルールは守らなくちゃ行けないの!」
亜里沙「えー…?」 雪穂「大変なんだよー? ちょっとのミスで違約金とか払ったりしなくちゃいけなくもなるし、信用がなくなってお仕事がなくなっちゃたりもするんだから…! お姉ちゃん達に迷惑はかけられないし、規則は絶対守らなくダメなんだよ?」
亜里沙「ほぇー…」
雪穂「な、なに…? そんなヘンな顔して…」
亜里沙「むー…ヘンな顔なんてしてないよ!」
雪穂「いや、ほぇーって口でいうぐらいにはヘンだったよ…」
亜里沙「…だって雪穂、本当に真面目になったから。少し前とは大違い」
雪穂「え…そうかな…?」
亜里沙「やっぱり、お姉さんみたいになりたくて努力してるから…なのかなぁ?」
雪穂「ぁ…」 亜里沙「ずーっと言ってたもんね、雪穂。お姉さんと一緒に怪盗したいって」
雪穂「うん…」
亜里沙「そっかぁ…雪穂も立派な怪盗さんになったんだねぇ…」
亜里沙「夢が叶って良かったね、雪穂♪」
雪穂「…うん♪」
亜里沙「ふふ…♪」
亜里沙「雪穂が羨ましいなぁ――…」ボソ
雪穂「ぇ…?」
亜里沙「んー? どうしたのヘンな顔してー?」
雪穂「あ、いや…。って、ヘンな顔なんてしてないよ!」
亜里沙「ふふふー、さっきのお返しー!」
雪穂「もう…!」
亜里沙「それじゃ亜里沙は先に帰るね!」
雪穂「あ…一緒に帰るつもりで来てくれたんじゃ無かったの? いいよ、帰る準備するよ」
亜里沙「ううん、折角努力してる雪穂の邪魔したくないもん」
雪穂「そこまで気使わなくて良いのに…///」
亜里沙「それじゃあ怪盗の勉強、頑張ってねー♪」フリフリ
雪穂「ありがとうー」フリフリ
タッタッタッタ…
雪穂「…」
雪穂「変わった、か――…」
雪穂「少しずつだけど、私も怪盗に近付いてるんだ…」
雪穂「…っ」
雪穂「お姉ちゃんの為にも、西木野財閥の怪盗…成功させなきゃ…!」
雪穂「それには少しでも勉強しないと…だね」
雪穂「ファイト、だよっ!」
「あの…ですから…」オロオロ
雪穂「すいません…」
……。
タッタッタッタッタ…!
雪穂「はぁ…はぁ…。調子に乗って調べてたらすっかり遅くなっちゃった。お姉ちゃん達に怒られちゃう…!」
雪穂「特に今の絵里お姉ちゃんに怒られたらひとたまりもなさそうだし…うぅ…」
雪穂「急がないと…っ!」
ドン!
雪穂「わぷ…っ!」
穂乃果「あっと…」
ドサ…
雪穂「いててて…」
穂乃果「だ、大丈夫? って…」
雪穂「あ…急にごめんなさい…! って、あれ…?」
穂乃果「あー! μ'sの雪穂ちゃんだーっ!」
雪穂「うぇ!? 警察の人ー!? に、逃げなきゃ…!!」カサカサ
穂乃果「あ、ちょ、待った…!」ガシ
雪穂「ひぃー!!」
穂乃果「うふふ…♪ 怪盗が警察のお姉さんの前に前方不注意でぶつかって来て、ただで済むと思ってるのぉ〜…?」
雪穂「あわわわわ…!」
穂乃果「この間は見逃してあげたけど、今度こそ独房行きかなぁ…。ねぇ――?」
雪穂「〜〜!」ブンブン
穂乃果「わぁ、雪穂ちゃんいい匂いだなぁ…♪」スンスン
雪穂「〜〜っ!?」ガタガタ
穂乃果「そんなに怯えなくても大丈夫だよ〜。お姉さんが優しくしてア・ゲ・ル…♡」フー
雪穂(お、終わったー! 私の怪盗人生ーっ!!///)
ポンポン
雪穂「…ふぇ?」
穂乃果「あっはは♪ なーんもしないよー、今日は穂乃果非番だから捕まえる権限もないし〜」ナデナデ
雪穂「あぅ…///」
穂乃果「それにお仕事外で手出しするのはルール違反。怪盗がお仕事でしか盗めないのと一緒で、私たちもお仕事の中でしか捕まえられないんだよ?」
雪穂「そ、そうなんですか…?」
穂乃果「そーう。結構厳しいんだよー? 特に決まりを破ると鬼警部がうるさいんだぁ〜…」
雪穂「鬼…」
穂乃果「警察たるもの、規則は絶対です! 法に則った手段で裁かなければ、我々も下劣な犯罪者と同等な存在になってしまいます! あっ、こら! 聞いていますか? 穂乃果!! って…」
雪穂(今のモノマネかな…凄い鬼気迫る感じだったけど…)
穂乃果「そんなわけだから、今の私と貴方は対等な存在だよ♪」ポンポン
雪穂「…///」 穂乃果「それにしても可愛いよね雪穂ちゃん〜。そっかぁ、まだ中学生だもんねー」ナデナデ
雪穂「むかっ、子供扱いしないで下さい…!」
穂乃果「そういう反応が子供っぽいんだけどねぇ〜」クスクス
雪穂「むー…!」
穂乃果「まぁでも、この間はカッコ良かったよ♪ A-RISEのツバサさんに勝っちゃうなんてねぇ」
雪穂「あ、あれは…警察のお姉さんが手助けしてくれたからで…」
穂乃果「――穂乃果」
雪穂「へ…?」
穂乃果「私の名前、穂乃果って言うの。って、何度も自分で名前言ってたと思うけど…。名前で呼んでくれると嬉しいな♪」
雪穂「じゃ、じゃあ穂乃果…さん」
穂乃果「はーい♪ ふふ、なんだか若い女の子に名前で呼んでもらえるのっていいね♪」 雪穂「若いって…穂乃果さんも随分若いように見えますけど、いくつですか…?」
穂乃果「あー、大人の女性に年齢なんて聞いちゃダメだぞー?」
雪穂「あ、ご、ごめんなさい…」
穂乃果「なーんて♪ 大人と言っても、まだまだ社会に出たての若造なんだけどねぇ」テヘ
雪穂「はぁ…」
穂乃果「確か、雪穂ちゃんのお姉さんのことりちゃんと同じぐらいだったかなぁ…?」
雪穂「それって…にじゅうむぐっ」
穂乃果「だからぁ、口にしちゃめっ♪」ニコニコ
雪穂「ふぁい…」 穂乃果「でも穂乃果…μ'sのことりちゃんみたいにしっかりしてないから、比べられると困っちゃうかもなぁ」
雪穂「そそ、そんなことないですよ…! さっきも言いましたけど、私のこと助けてくれましたし…!」
穂乃果「それがしっかりしてない部分の一つだったりするんだけどぉ…」アハハ
雪穂「そうなんですか…?」
穂乃果「あの後、さっき言ってた鬼警部にこってりしぼられちゃったよ…。警察が好き嫌いで仕事するんじゃありません! って…」
雪穂「な、なんかごめんなさい…」
穂乃果「ああ、別に雪穂ちゃんが謝ることじゃないよ〜。穂乃果が好き勝手やってることだしさ」
雪穂「はぁ…」
穂乃果「…警察の仕事もね〜、色々と大変なんだぁ」
雪穂「怪盗を捕まえることがですか…?」
穂乃果「うーん…まぁざっくり言うとね。怪盗を捕まえるって一口に言っても、本当に難しいんだよ? なんでもかんでも、警察の力で捕まえられればいいんだけど…そうもいかないんだよねぇ」
雪穂「…」
穂乃果「――特にμ'sぐらい大物になると、尚更…ね?」
雪穂「μ'sだと難しい…?」
穂乃果「…ふふ、雪穂ちゃんにはまだ早かったかな?」
雪穂「…」
穂乃果「まぁ雪穂ちゃんには関係ない話だと思うから、気にしないでいいよ〜」
雪穂「…関係ないって、なんですか…?」
穂乃果「へ?」
雪穂「子供だからですか…? 私がまだまだお姉ちゃん達のような怪盗じゃないからですか?」
穂乃果「え、ちょ…」
雪穂「バカにしないで下さい! 私だってどんどん怪盗の力をつけてるんですから! 立派なμ'sの一員なんです!!」
穂乃果「雪穂ちゃん…」
雪穂「…」キッ 穂乃果「…ふふ、あははっ♪」
雪穂「わ、笑わないで下さい…!」
穂乃果「ごめんごめん、別にバカにしてるわけじゃないよ…♪ ただ急に噛みついてくるから面食らってただけ」
雪穂「むー…!」
穂乃果「穂乃果が大変だと思ってるのはまた別なことだし、今の雪穂ちゃんには関係ない…。それは子供だからとか、そういうのとは違くて…知らなくて良いことだから」
雪穂「知らなくて良い…?」
穂乃果「そ、知らなくて良い。知る必要の無いこと。…仮に知ったところでプラスになることなんて何一つないよ」
雪穂「そんなの知ってみなくちゃ…」
穂乃果「みんな大人になるに連れて、自然と知っていく痛みみたいなものなんだよ。私たち女の子の生理みたいなもの」
雪穂「せ、生理…!?///」
穂乃果「あはは、可愛い反応♪ まぁ中学生じゃそんなもんかなぁ…」クスクス
雪穂「///」
穂乃果「まぁそのうち、嫌でも知ることになるよ。時期がきたら――ね?」
雪穂「…」 穂乃果「って、こんなところで引き留めて話し込んじゃったけど、雪穂ちゃん時間大丈夫?」
雪穂「あ、そういえば…!」
穂乃果「あははごめんね、お姉ちゃん達心配してるんじゃない?」
雪穂「し、心配…というか、怒ってるかも…!」
穂乃果「あちゃあ…。ほらほら、それじゃあ早く帰った方が良いよ」
雪穂「は、はい! 穂乃果さん、失礼します…!」
タッタッタッタッタ…!
穂乃果「気をつけてね〜」フリフリ
穂乃果「…」
穂乃果「雪穂ちゃん、かぁ…。あの敵意剥き出しの視線と良い、やっぱり良いよねぇ…」クス
穂乃果「今度の西木野邸の怪盗、本気で捕まえちゃおっかなぁ♪」
……。
ガチャ…
雪穂「た、ただいまぁ〜…」ソー
雪穂「…」
雪穂「誰もいない…?」キョロキョロ…
雪穂「二人とも、仕事で遅いのかな…?」
雪穂「ほっ…」
ドウイウコトナンダ…!
雪穂「っ!?」ビックゥ
雪穂「っごめんなさいごめんなさいごめんなさい…! これには深い事情が…!」ペコペコ…!
雪穂「…って、あれ? いない…」
雪穂「絵里お姉ちゃんの声…だよね…」
雪穂「リビングから…?」
雪穂「…」ソー
絵里「ことり姉さん…!」
ことり「絵里ちゃん、声大きいよぉ。雪穂ちゃんが帰ってきたらどうするの…?」
絵里「今はそんなことどうだっていいわ…! それより、今回の怪盗…依頼人の素性を明かせないというのは何故なの…!?」
ことり「依頼人さんは私にのみ、情報を明かすという条件でこの話を持ってきたの。だから、絵里ちゃんにも明かせないんだよ」
絵里「そんなバカなことないわ…! 怪盗に依頼するという時点で、相手や警察に情報が流れるのは承知の筈よ。一体、何を隠そうというの…!?」
ことり「絵里ちゃんこそ、何をそんなに依頼人さんに拘るの?」
絵里「っ…」
ことり「私たちはお宝を怪盗して、依頼人さんに渡すだけ。ただそれだけのお仕事。そういう契約」
絵里「…」
ことり「依頼人さんの事情なんて私たちには関係ないし、私たちの事情も依頼人さんには何の関係もない…」
絵里「そんなこと、分かっているわ…」
ことり「本当に? 分かっているなら、何故依頼人のことを探ろうとするの?」
絵里「それは…っ、し、仕事を円滑に進めるための情報を――…」
ことり「嘘だね」
絵里「っ」 ことり「…絵里ちゃんの付く嘘は、相変わらず分かりやすいなぁ」
絵里「嘘なんて…!」
ことり「いつも冷静な絵里ちゃんがそんな曖昧な言葉を言う筈ないもの。…絵里ちゃんも、まだまだだよねぇ♡」
絵里「く…っ」
ことり「ふふっ、拘る理由はお祖母様の家宝がターゲットだから?」
絵里「…」
ことり「あれ? 今度はだんまりぃ?」
絵里「…」
ことり「Angelic Angel――あの日、お祖母様に一緒に見せてもらったよねぇ。キレイだったなぁ…♪」
絵里「…」
ことり「そのお宝が盗まれるなんて夢にも思わなかったけど、まさか今になって姿を現すなんてねぇ」 ことり「これは運命なんじゃないかなぁ。ねぇ、絵里ちゃん?」
絵里「…っ」
ことり「――取り戻したいよねぇ?」
絵里「く…」
ことり「でも、怪盗してもその後は依頼人さんに渡すだけ…。それが契約」
絵里「…」
ことり「絵里ちゃん」
ことり「依頼人さんに渡したお宝をどうするつもり――…?」
絵里「…」
ことり「…」
絵里「…――どうもしない」
絵里「怪盗したお宝を受け渡した時点で、私の任務は完了する」
絵里「それ以上は…ない」
ことり「…」
ことり「…くすっ」
ことり「さっすが絵里ちゃん♪ 私が指摘したから、しっかりその癖を隠して上手く誤魔化してる♡」
ことり「いつものクールで、カッコイイ、女子高生の憧れであるカリスマ怪盗、南絵里だよぉ♪」
ことり「――でも」ス…
絵里「っ」ビク
ことり「私には無理して強がってるのが分かるよぉ…♡」
絵里「…っ」
ことり「ね? 臆病者の弱虫絵里ちゃん…♡」
絵里「…〜〜やめてッ!」パシ
ことり「きゃんっ!」ドサ
絵里「ぁ…っ」
ことり「…痛いなぁ…///」ハァハァ
絵里「…ことり…姉さんが悪いのよ…」
ことり「ふふ…。まぁ、今の絵里ちゃんならそんな無茶はしないと思うけどぉ…」
絵里「…」
ことり「ちゃんと、"理解"しておいてね?」
ことり「――怪盗としての役割」
絵里「…分かってるわ」
ことり「ほんとうかなぁ…」クスクス ことり「理解できなければ、絵里ちゃんだけじゃない…雪穂ちゃんにも迷惑がかかるんだよぉ?」
絵里「雪穂…っ」
雪穂「…っ」ガタ
絵里「っ! 誰…!?」
雪穂(やば…! か、隠れなきゃ…!)
タッタッタッタ…!
絵里「っ!?」ガチャ!
絵里「…?」
絵里「誰もいない…気のせいか」
ことり(へぇ…♪)
絵里「…」
ことり「雪穂ちゃんが気になる――?」
絵里「っ…なにを…」
ことり「はい、動揺したぁ♪」
絵里「く…」 ことり「へぇ…絵里ちゃんにとって、雪穂ちゃんってそんなに特別なんだぁ…」
絵里「…」
ことり「今まで別にそんなことは無かったと思うんだけど…どんな心境の変化があったのかなぁ?」
絵里「別に…今も昔も、変わらないわ」
ことり「んー…」
ことり「それじゃあ、変わったのは雪穂ちゃんの方かぁ――…」
絵里「雪穂が…?」
ことり「雪穂ちゃん、絵里ちゃんのことが好きなんだよぉ?」クスクス
絵里「そんなバカな…雪穂は私のことを嫌っているわ…」
ことり「またそんなこと言ってぇ〜…」
絵里「…」
ことり「ねぇ絵里ちゃん」
ことり「絵里ちゃんは、雪穂ちゃんの見本にならなきゃダメなんだよ?」
ことり「それは怪盗だからとか、そんなのは関係無しに…"姉妹"として」
ことり「"姉妹"の役割も、ちゃーんと理解するんだよ…?」
絵里「…」
絵里「…頭を冷やしてくるわ」
…バタン
ことり「…くす♪ ちょっとやり過ぎちゃった…♡」
ことり「でーも…Angelic Angelを取り戻すのには必要なことだから、ねぇ――…♪」
……。
雪穂「はぁ…はぁ…」
雪穂「はぁー…」
雪穂「なんか…凄い話聞いちゃった気がする…」
雪穂「ことりお姉ちゃんがあんな風に絵里お姉ちゃんを虐めてるとこ、初めて見ちゃった…」
雪穂「ずっと、仲良いだけじゃないとは思ってたけど…」
雪穂「…」
雪穂「Angelic Angelって、そんなに大切なお宝なのかな…」
雪穂「…本当に、お祖母様の家宝ってだけ…?」
雪穂「…なんか、引っ掛かる…」
絵里「雪穂…?」
雪穂「ふぇ!?」ビックゥ
雪穂(全然気が付かなかったぁぁぁぁっ!?)
絵里「…こんなところでどうしたの? 今帰り…?」
雪穂「あ、う、うん…。えへへ、遅くなっちゃった…」
絵里「そう…」
雪穂(そうって…それだけ!?)
雪穂(いつもだったら、なんでこんなに遅くなったの!? って、詰め寄られてるとこなんだけど…)
雪穂(それに…さっきの話、盗み聞きしてたことも気付いてない…?)
絵里「…」ハァ
雪穂(溜息ついてるだけで何にも言ってこない…! 奇跡だよ…!)
絵里「…どうして遅くなったの?」
雪穂「へ!? あ、あー…その、ちょっと怪盗のことを勉強してたらつい夢中になっちゃって…」
絵里「怪盗の勉強…? 雪穂が? 珍しいこともあるのね」
雪穂「むっ…」
絵里「そう、雪穂も努力しているのよね…」
雪穂「そうだよっ! 私だってちゃんとやる時はやるんだよ…!」
絵里「へぇ…」
雪穂「こ、これでも一応…μ'sのメンバーなんだし…!」
絵里「…ふふ、そうだったわね」ポン
雪穂「あ…///」 絵里「…」ナデナデ
雪穂「〜〜?///」
絵里「…雪穂、これから少し特訓をしない?」
雪穂「え? こ、これから…?」
絵里「ええ」
雪穂「もう遅いし、早く帰らないとことりお姉ちゃんが心配するよ…?」
絵里「…ことり姉さんは…仕事が忙しくなるってまだ帰ってきてないわ」
雪穂「ぁ…」
絵里「だから、大丈夫よ」
雪穂「そ…っか」
絵里「…」
雪穂「…うん、分かった。特訓、しよ?」
……。
カチコチ…カチコチ…
ことり「…」
ことり「…」
ことり「…ふふっ♪」
ことり「…」
ことり「…」
ことり「雪穂ちゃん遅いぃぃぃぃ――――っ!!」ビターン
ことり「いつになったら帰ってくるのぉぉぉ――――!!?」
ことり「てっきり、すぐに戻ってくると思ったのにぃぃぃぃ――――!!」
ことり「あっ!! もしかして絵里ちゃんったら抜け駆けして…!!」
ことり「うぅぅ〜〜〜〜!! 雪穂ちゃんを独り占めは許さないよぉ〜〜〜〜!!」
ちゅーん…!!
……。
雪穂「っ!?」ビク
絵里「…どうしたの?」
雪穂「い、いや…今なんか私を呼ぶ声が聞こえたような…」
絵里「…何も聞こえないわよ。気のせいじゃない?」
雪穂「だ、だといいけど…」ブル
絵里「ほらほら手が止まってるわよ、解錠を続けなさい」
雪穂「うん…」
雪穂(あんなことがあった後だっていうのに、相変わらず絵里お姉ちゃんの特訓は厳しい…)
雪穂(私…こんな時間に何やってんだろ…)ハァ
カチャカチャ…
雪穂「えっと、鍵のパターンは…Hかな」
絵里「ふむ…」
雪穂「Hの場合は金属をY字にして…奥を…」
カパ
雪穂「やった、成功!」
絵里「へぇ…早いわね。慣れてきたんじゃない?」
雪穂「まぁね、毎日練習させら――してるし…」
絵里「ふむ、これで基礎は大体出来上がってきたわね。次は…」
雪穂「え!? 今までのが基礎!?」
絵里「何を驚いているの? これまでのは実践の為の地力を付けるための練習みたいなものよ」
雪穂「うぇぇ…」 絵里「それとも何? 今の力が実践で通用するとでも?」
雪穂「あー…」
ツバサ『――お生憎様』トッ
雪穂『っ!!?』バッ
ツバサ『1分なんかあげられないわ』
雪穂『…っ!』
雪穂「無理かも…」
絵里「でしょうね。実践というのは様々な妨害や緊張もあるし、練習とは違った側面からのアプローチが必要になる場合もある。…この間のA-RISEとの対決が正にそれだったわね」
雪穂「うん…。簡単な解錠だったけど、それを許してくれなかったよ…」
絵里「特に相手があのツバサじゃあ、それも仕方ないわ」
雪穂「…」
絵里「落ち込む必要はないわよ」
雪穂「え…?」
絵里「互角じゃないとはいえ、あのツバサと対等に渡り合えたのよ? 充分過ぎる程の成果だわ」
雪穂「そうなのかな…」
絵里「そして何より、あの戦いがあったからこそ…今の雪穂は自分の実力を計れるようになったの。前の雪穂だったら、ムキになって言い返していたでしょうね」
雪穂「そ、そんなこと――…!」 雪穂「あるかも…」
絵里「ふふ…それは間違いなく成長よ。それに…」カチャ
雪穂「…?」
絵里「今回の解錠。タイムは、3分58秒…」
雪穂「わ…」
絵里「おめでとう、4分切ってるわよ」
雪穂「やったぁぁ…! ようやくだよぉ…」ヘナ
絵里「まぁこれぐらいで喜ばれていてもしょうがないんだけど…。でも、頑張ったわね」
雪穂「ありがとう〜…って、絵里お姉ちゃんが褒めるなんて珍しい…」
絵里「な…わ、私だって褒めるときぐらいあるわよ…///」
雪穂「えー、そんなことな――…」
絵里「…///」ジロ
雪穂「くなくないよ。うんうん、絵里お姉ちゃんいつも褒めてる」
絵里「///」プイ
雪穂(…最近一緒に特訓するようになってきて分かったけど、絵里お姉ちゃんって実は結構可愛いところあるよね)
雪穂(特に恥ずかしがってるところがやたら可愛い)
雪穂(これはあれだよね、いわゆるギャップ萌えというやつだよね…)
雪穂(正直、怖い面9割って感じだから安易に可愛いって言えないのが残念だけど)
絵里「…?///」
雪穂(――でも…)
ことり『ね? 臆病者の弱虫絵里ちゃん…♡』
雪穂(…臆病者って、ことりお姉ちゃん言ってた…)
雪穂(私と一緒にいる時は、そんな一面…見せたことない…)
雪穂(…)
雪穂(私…お姉ちゃんのこと、なんにも知らないや――…)
雪穂(…そりゃそうだよね)
雪穂(今まで、全然会話らしい会話、してこなかったんだし…)
雪穂(怪盗のお仕事で、忙しかったから…)
雪穂(…)
雪穂(…今なら)
雪穂(μ'sの怪盗の一員になれた、私なら――)
雪穂「絵里、お姉ちゃん…」
絵里「…何?」
雪穂「――私、もっと絵里お姉ちゃんのことが知りたい」
……。
ことり「ゆ、雪穂…ダメよ急に…! そんな、こと…///」ハァハァ
ことり「ダメだなんて嘘…絵里お姉ちゃん、動揺してるよぉ…?」クスクス
ことり「こ、これはその、違う…! 私は別に…///」
ことり「いいからぁ、私に任せて…絵里お姉ちゃんの全て、知り尽くしてあげる…♡」
ことり「雪穂…っ!///」
ことり「なーんて展開になってたりしてぇぇぇぇぇぇ!!!?」
ことり「ちょ、ま、雪穂ちゃん強引すぎぃぃ〜〜〜〜〜〜♡♡」ハァハァ
ことり「って、そうじゃなくてぇぇ〜〜!!」バン!
ことり「いいから二人とも早く帰ってきてぇ〜〜〜!! 妄想が捗るぅぅぅ〜〜〜〜!!!」
……。
絵里「…私のことが、知りたいって…どういうこと…?」
雪穂「あ、その…特別何が知りたいって訳じゃないんだけど…。ただ、ね? お姉ちゃんと、もっとお話がしたい…かも」
絵里「お話…?」
雪穂「最近起きた出来事や、学校での他愛のないこと…は、怪盗で忙しいからないのかな…。あ、でもでも、そんな些細なことが知りたいの」
絵里「…知って、どうするの?」
雪穂「…どうもしないよ」
絵里「どうもしないって…だったら、そんな話することに意味なんて…」
雪穂「意味が無くちゃ…ダメなのかな?」
絵里「え…」 雪穂「姉妹でする他愛のない会話に、理由とか…必要?」
絵里「そ、それは…」
雪穂「私は…絵里お姉ちゃんと、お仕事や特訓とは全然関係ない、ただの姉妹同士の会話がしたい…」
絵里「雪穂…」
雪穂「そうじゃなきゃ…私は絵里お姉ちゃんのこと、よく分からないから」
絵里「…」
雪穂「お仕事してる時のクールな絵里お姉ちゃんも…怖いけど、好き」
雪穂「けれど、私が本当に好きになりたいのは…そうじゃない」
雪穂「ちょっと照れたりする時に見せる可愛い表情の絵里お姉ちゃんを…好きになりたい」
絵里「…な、なによ、それ…///」
雪穂「あ、それ、そういうの」
絵里「あ、う…///」 雪穂「…絵里お姉ちゃんって実は攻めに弱いよね」
絵里「攻めって…何言ってるのよ…!///」
雪穂「あははっ、顔真っ赤だよ…?」
絵里「///」
雪穂(…割と、押し倒せば唇くらいなら奪えそうな程動揺してる…。いや、しないけど…)
雪穂(なるほど、本当に臆病者…なのかな)
雪穂(あれ? 臆病者ってそういうこと…? なんか、違うような…)
絵里「も、もう…冗談はやめて頂戴…!」
雪穂「は〜い♪」
絵里「全く…///」 雪穂「…でも、言ったことは本当だよ?」
雪穂「私はお姉ちゃんのこともっと知って、お姉ちゃんのことを好きになりたい」
絵里「ゆ、雪穂…///」
雪穂「ねぇ、今度の怪盗の任務終わったらさ…一緒にどこかに遊びに行こうよ?」
絵里「遊びに…?」
雪穂「うん。お買い物でも散歩でも、何でも良いからさ。一緒に…♪」
絵里「…そ、それはいいけれど…私となんて退屈だと思うわよ…?」
雪穂「そーんなことないよ。絵里お姉ちゃんとだったらどこへ行っても楽しいよ」
絵里「そうかしら…///」
雪穂「怪盗のお仕事は自信満々なのに、そういうのは全然なんだね」
絵里「…しょうがないじゃない、あんまり…遊びになんて行ったことないんだから…」
雪穂「そっか…」
絵里「…///」 雪穂「ふふ、そしたら怪盗の特訓とは違って、遊びは私が教えてあげる♪」
絵里「遊びを教えるって…」
雪穂「そういうことだったら任せてー♪ 若い女の子なりの充実した生活は送ってきたつもりですから」
絵里「…ふふ、なんだかおかしいわね」
雪穂「あー、バカにしてるー…?」
絵里「そんなことないわよ。ただ…正反対だなと思ってね」
雪穂「正反対…?」
絵里「ええ。…性格というか、人間性というか、ね」
雪穂「…なんだかよくわからないけど、やっぱり褒められてる気はしない…」
絵里「まぁ、褒めてはいないけれど…」
雪穂「むぅ…」
絵里「でも――女の子先輩の雪穂に、普通の遊びを特訓してもらおうかしら…?」
雪穂「ぁ…」 雪穂「…うん! ビシバシ特訓してあげるよ! 絵里お姉ちゃん!」
絵里「…楽しみにしてるわ」
雪穂「…だからさ、今度の怪盗の任務…絶対成功させようね?」
絵里「…」
ギュッ
絵里「!?///」
雪穂「…絵里お姉ちゃんは、"怪盗"だよね…?」
絵里「雪穂…」
雪穂「大丈夫だよね…?」
絵里「…」
雪穂「…絵里お姉ちゃん、約束だよ」
雪穂「一緒に帰って、遊びに行くんだからね…?」
絵里「…」
雪穂「ね?」ギュ…
絵里「…ええ。約束するわ」
絵里「私は、雪穂と一緒に――…」
……。
えりちの中の人はIQ1,300,000,000の超天才美少女刑事 とりあえずはここまで…長くて申し訳ない
前回アップした時は時期も時期で、うっかりスレ落としちゃいました
書き溜めは終わっているので、少しずつあげていきます 絵里の余裕ない感じ心配だったけど雪穂のおかげで大丈夫そう、かな
続きが楽しみ げ…西園寺って…
西木野財閥ですね、普通に間違えた…
【西木野邸・ホール】
バン!
海未「いいですか貴方達!! 今日は正念場ですよ!!」
海未「μ'sから予告状が、ここ、西木野財閥の屋敷に届きました!」
海未「事前に情報を通達済みではありますが、改めて彼女等と屋敷の情報を頭に叩き込んでおくように!」
警察「はっ!!」ザッ
凛「海未ちゃん、いつにも増して気合いが入ってるにゃ〜」
穂乃果「しょうがないよ〜、噂の西木野財閥の怪盗なんだし…」
凛「でも相手はμ'sだし、どうせ無理だよね」
海未「こら凛! 聞こえてますよ! やる気を出しなさい! それと海未ちゃんじゃありません、警部と呼びなさい!!」
凛「もー! うるさいにゃー! 言うことを一つに絞るにゃーっ!」 真姫「…本当にこんなのに任せて大丈夫なの?」クルクル
凛「むっ…」
海未「ご心配無用ですよ、西木野さん! 我々警察の力にかかれば、μ'sの一つや二つ、一捻りですよ!!」
凛「あんなのが二つもいたら嫌だにゃ…」
真姫「へぇ…。あの有名なμ'sには、警察も手も足も出ないって聞くけれど?」
海未「そ、それは…」
真姫「別に私はあんた達にはこれっぽっちも期待してないの。ただ、できれば…西木野財閥の"力"を使いたくはないのよねぇ…。なんとかしてくれないかしら?」
海未「ですから、その為にこれだけの精鋭を…!」
真姫「…にしてはやる気なさそうだけど、その子」
凛「…」プイ
海未「り、凛…! そっぽを向くんじゃありません…!」アワアワ 真姫「はぁ。ダメダメね、その様子じゃ。今回も警察はいいところ無く、μ'sにお宝を盗まれてしまった――なんて明日にはネットに書かれているかしらね?」
海未「うぅ…」
真姫「特にそこの小さい警察さんはお仕事サボって遊んでた…なんて書かれるかもねぇ…?」
凛「っ!」
真姫「はぁ…こんな使えない警察じゃしょうがないか…。早いとこ手を打った方が賢明かしら――…」
凛「うるさいよ」
真姫「はぁ…?」
凛「凛たちの実力、まるで見たことない癖に勝手なこと言わないでよ!!」キッ
海未「凛…」 真姫「実力、ねぇ…。そこまで言うからには、結果…見せてくれるんでしょうね?」
凛「いいよ、見せてあげる…。凛の力を…ッ!」
真姫「面白いわね…」
バチバチ
海未「あわわわ…凛のやる気がおかしな方向に…」
穂乃果「あははっ、凛ちゃんってばスイッチ入ると見境なくなっちゃうからねぇ」
海未「って、穂乃果! 貴方は何をしていたんですか…! 凛をなだめるのは貴方の役目でしょう!?」
穂乃果「いやぁ、いつもはそうなんだけど…その必要はないかなぁって」
海未「ど、どういうことです…?」
穂乃果「――だって、本気で捕まえるにはその方が好都合じゃん♪」
……。
【西木野邸外壁・木の上】
ガサ…
ことり「うわぁ〜…さすがに警察が多いねぇ〜…」
絵里「通常の警護の五倍…いや、十倍はいるかしら」
ことり「さすが西木野財閥ってとこかな…?」クス
絵里「…雪穂?」
雪穂「…あ、あの中を潜り抜けなきゃいけないんだ」ブル
ことり「…怖い?」
雪穂「怖い…けど、やるよ…!」
ことり「ふふ、良い返事♪」 絵里「雪穂、肩の力を抜きなさい」
雪穂「絵里お姉ちゃん…」
絵里「強張っていたら出せる力も出せなくなるわ。怪盗の三箇条その一」
雪穂「常に…冷静沈着であること…」
絵里「そう。どんな相手だろうと、常に平常心を持ちなさい」
雪穂「――うん」スゥ
ことり「わぁ…♪」
絵里「ふふ…心のコントロールも上手くなってきたわね。それでいいの」
雪穂「…」
絵里(雪穂はこんなにも成長している…。私もいつまでも弱いままではダメね…)
雪穂「――絵里お姉ちゃんも、ね?」ギュ
絵里「っ…」
雪穂「…」
絵里「…ふふ、仕事の場で私を心配するなんて、十年早いんじゃないかしら?」ポン
雪穂「あははっ、そうだね…♪」
ことり「…」ジー
雪穂「わっ! ど、どうしたのことりお姉ちゃん…じっと睨んで…」
ことり「…なんか、この間から二人とも…ちょっと様子がおかしくない?」
雪穂「え…」
絵里「おかしいことなんて何もないわよ」
ことり「えー…本当ー…? なんだか距離が近すぎる気がするんだけどぉ…」
雪穂「…///」 絵里「そんなの普通じゃない」
雪穂「絵里お姉ちゃん…?」
絵里「――だって、姉妹なんだから…ね?」
雪穂「あ…」
ことり「それがおかしいって言ってるんだけどぉ…」ボソ
絵里「今はそんなことどうだっていいでしょ。ほら、最終確認するわよ」
ことり「はぁーい…」
雪穂「くすくす♪」
バサ
絵里「改めて、これが屋敷の見取り図よ。どう? ちゃんと頭に入ってるかしら?」
雪穂「うん…。私たちが今いるのが…ここ、屋敷の入り口にある木の上」
ことり「うんうん♪ 本当に大きな敷地だよねぇ…ここからじゃ全然お屋敷が見えないもん」
雪穂「それが、第一関門…だよね?」
絵里「そう。そしてそれが最大の関門でもあるわ。逆に言えば、この関門さえ突破して屋敷に近づけさえすれば…勝機が見えたも同然ということ」
雪穂「…」ゴクリ
絵里「とにかく屋敷までの距離が広く、見通しが余りにも良すぎる。隠れる場所なんてものは本当に極僅か。最早無いと考えた方がいいわ。普通に進もうものなら捕まえてくれと言っているようなものね」
ことり「向こうもバカじゃないだろうし、この中央広場に警察の本体を張って置くだろうね」
絵里「…その警察部隊を、どう突破する?」 雪穂「絵里お姉ちゃんが撹乱する…?」
ことり「うーん、その答えだと50点かなぁ…」
雪穂「それじゃあ…えっと…ことりお姉ちゃんがお宝を盗まないといけないから…私が…?」
ことり「違うよぉ〜♪」
絵里「ことり姉さんが陽動し、私が撹乱する、よ」
雪穂「え、あれ…? ことりお姉ちゃんが陽動…? あれ? それじゃもしかして…」
ことり「勿論、正面突破は雪穂ちゃん一人、だよ♪」
雪穂「えぇぇぇぇぇぇッ!!?」
ことり「ちょ、雪穂ちゃん声大きいよぉ…!」
雪穂「むぐ…っ」 絵里「…なんだ、やっぱり分かってなかったのね。妙に落ち着いていると思ったら…」
雪穂「だ、だって、そんなの私、聞いてないよ!?」
絵里「聞いてない? 最初に渡された資料に、役割分担等が細かく指示されていたはずだけど…」チラ
雪穂「資料に…!?」チラ
ことり「てへぺろ♪」
絵里「ことり姉さん…?」
雪穂「ことりお姉ちゃん!?」
ことり「いやぁん、二人して声大きいよぉ…!」
雪穂「声大きいじゃないよ! なんで私に教えてくれなかったの!?」
絵里「…どういうつもり? 小さなミスが命取りになるような任務なのよ? 動き出す前からこれではお話にならないわ」
雪穂「〜〜!」ウンウン
ことり「…だからだよ♪」 絵里「だから…?」
ことり「…きっとこの任務は、本当にギリギリの力を使って成功させるのがやっと…。今のままの雪穂ちゃんじゃ、恐らくまだ足りない…」
雪穂「それは…」
ことり「私が提案する計画に沿った行動を取れば、最低限の動きをしてくれるまでの基礎力は備わったと思うけど、欲しているのはそうじゃない。私や絵里ちゃんをも驚かせてくれるほどの、力…」
絵里「そんな高望みをしてどうする! 雪穂はまだ…!」
ことり「――それは雪穂ちゃんを過小評価してるよ?」
絵里「〜〜…」
雪穂「過小評価って…。逆に、過大評価しすぎだよ…!」
ことり「私はそう思わないけどなぁ?」クスクス
雪穂「ことりお姉ちゃん…!」 ことり「だからね、私はこの任務中の雪穂ちゃんの成長に期待しているの。雪穂ちゃんの底力…私に見せて頂戴♪」
雪穂「そ、そんな…。絵里お姉ちゃんもなんとか言ってよ…!」
絵里「成長、ね――…それには私も期待してるわ」
雪穂「そうそう、期待してる…って、ええぇぇ!?」
ことり「絵里ちゃん、気が合うー♪」
雪穂「絵里お姉ちゃーん!?」
絵里「ことり姉さんのやり方は強引すぎる。それ自体は怒って然るべきだと思うわ」
ことり「えー…」
絵里「ただ、雪穂の潜在能力自体は…私も気になっていた」
雪穂「潜在能力って…そんな大した力、私には…」
絵里「以前の私なら、雪穂如きに――なんて一蹴していたかもしれない。けど、今は違う」
雪穂「…」 絵里「その幼さでしっかり私たちに食らい付き、先日のA-RISEとの対決も一人で立派に戦い抜いたわ」
ことり「うんうん♪」
絵里「だから今回も、一人で切り抜けられるはずよ。…雪穂、自分を信じなさい?」
雪穂「自分を…?」
ことり「そう、自分を信じることが一人前の怪盗への一番の近道だよ♪ 自信が無ければこんなこと、出来る訳ないんだから♪」
雪穂「自信…」グッ
絵里「それに、一人でとは言っても全てをやれと言っているわけじゃ無いわ。私とことり姉さんが全力でサポートする」
ことり「そ♪ 陽動は任せて〜!」
雪穂「お姉ちゃん…」
絵里「だから雪穂…」
雪穂「…」ギュ…
雪穂「分かったよ…! 一人で突破してみる…!」
……。
【西木野邸・中庭 中央広場】
警察1「…それにしても、μ'sの奴ら本気かぁ? 西木野邸なんて物騒なところをターゲットにするような頭の悪い連中じゃ無いと思ったんだけどなぁ」
警察2「怪盗に入ったら生きて帰って来れない噂っすか? 眉唾なんじゃないっすかぁー?」
警察3「いやいや、本当らしいぞ。ついこの間もBランクのイキった怪盗が無謀にも館に入って、その後の姿を見た者はいないとのことだ」
警察2「うぇーくわばらくわばら」
警察1「いくらSランク怪盗って言ってもなぁ、他に成功した例が無い以上無謀だとしか思えないがなぁ」
警察2「ってことは、ことりちゃんや絵里ちゃん、今日で見納めってことっすかぁ!?」
警察3「まぁ…そうなる可能性は大であるなぁ」
警察2「おいおい勘弁して下さいよぉ、俺の生きがいなんですよ…! ことりちゃん見るだけで一日やる気がみなぎるってのに…!」
警察3「ふむ、私も絵里さんを拝めなくなるのは辛いのぅ…」
警察1「おいおい、お前等警察失格じゃねぇか…。かく言う俺も、新米の雪穂ちゃんに期待してたんだけどなぁ」
警察2「ロリコンじゃねぇか!」
警察3「ロリコンではないか!」
トッ…
ことり「はぁ〜い、警察のみなさぁーん♪」フリフリ
警察3「あ、あれは――!」
警察1「μ's…!!」
警察2「むっはぁぁ―――っ!!」
ことり「ことりはここですよぉ〜! 捕まえてみてくださぁ〜〜い♪」
警察2「はぁぁぁ――――い!!」
警察3「バカモノ! 罠に決まっておるだろう!」
ことり「ことりを捕まえられた警察さんにはぁ〜…とっておきのご褒美、あげちゃいますよ♡」チュ
警察2「ばっか…! 行くしかねぇじゃん…!」ダッ
警察3「あ、こら、待て!」
警察1「ったく、これだから年増好きは…」
ことり「」ピク
タタタタタタ…!
警察2「動きが止まって見える…! ことりちゃんのご褒美頂き――ッ!」バッ
ことり「ふふ――♪」ユラリ
スッ
警察2「――あ、あれ? いない…?」
警察1「何やってんだ、逃がしてんじゃねぇか」
警察3「だから罠だって言ったろう…」
警察2「お、おかしいな…確かに正確に捉えたと思ったんすけど…」
ヒュッ
警察3「…むっ!? 後ろだ――!!」
警察1「へ?」クル
ことり「――年増なんていう礼儀知らずはぁ…♪」
警察1「ひぃ…っ!?」
ことり「消えよっか♡」
ガッ!
ことり「――ッ!?」ズザァァァ!
警察1「〜〜!」
警察2「な、なんだ…? ことりちゃんが吹き飛んだぞ…?」
警察3「あ、あれは――!」
トッ
凛「フー…ッ!」
警察2「凛ちゃんっすよ!」
警察1「え…? 凛ちゃん? 警察の?」
凛「みんな、邪魔だから下がってなよ…。μ'sは凛が捕まえるから」
ことり「…っ」ヨロ
警察3「あの凛が、久しぶりに本気モードになっておるな…」
警察2「あ、あんな鋭い視線の凛ちゃん、初めて見ましたよ…!」
警察1「ほ、本気モードの凛ちゃん…可愛い…」
凛「悪いけど、今日は手加減抜きでアンタ達を捕まえていけないの。凛の面子にかけて」
ことり「…手加減、ねぇ。今までも何回か対峙してきたと思うけど、これまでは本気じゃなかったってことなんだぁ?」
凛「うん、そうだよ」
ことり「へぇ…」
凛「凛はね、怪盗なんてどうだっていいと思ってるから。別に捕まえる気なんて元々ないんだよ」
ことり「あはは、おかしなこと言うんだね。…怪盗を捕まえる。これが警察の"役割"なんじゃないのかなぁ?」
凛「そんなの知らないよ。凛は自分の腕を買われて警察に引き抜かれただけだもん。強引にね」
ことり「ふぅん…。さっきの跳んできた身のこなし…。元はサーカスとか雑技団とかぁ?」
凛「ご想像にお任せするよ」 ことり「…くすくす」
凛「…?」
ことり「ふふふ、あはは…っ! あはははははっ♪」
凛「…」
ことり「なにそれぇ…! 最高に面白いよぉ…♪ まさかこんな近くにワクワクする相手がいたなんてぇ…♡」
凛「キモ…」
ことり「ああ…っ♡ その眼! いいよぉ…! さっきの鋭い眼も、蔑んだその眼も、どっちも最高…ッ♡」
凛「どうやら…さっさと捕まえてその口塞いだ方が良さそうだね…ッ」キッ
ことり「…あははっ」
ことり「――捕まえられるなら捕まえてごらん…♡」
ヒュッ
凛「――しッ!」
ザァァァーーーーッ!
凛「…?」
警察1「い、いない…?」
警察3「後ろだ――ッ!!」
凛「ッ!?」バッ!
トッ!
ことり「あぁ…いい反応…♡ まだまだそんなもんじゃないよねぇ――?」スッ
凛「早い…っ!」キッ
シュッ!
ガッ!
ブォン!
ことり「こっちだよぉ…♪」
凛「待て…ッ!」
警察1「み、見えねぇ…これがSランク怪盗の力ってやつか…」
警察3「それに付いていける凛もさすがであるな…」
警察2「あー、ことりちゃんと戦えていいっすなぁ…」
警察1「いや、お前何見てたんだよ、殺されるぞ…」
警察2「や、それならそれで本望っつーか…」
警察3「何を血迷っておるのだ…」
絵里「――本望ならば、そのまま死んで貰えるとありがたいわね」
シューーー!!
警察3「はっ、そのお声は絵里さん…!」
警察1「バカ! 催涙ガスだぞ…!」
警察2「げほっ! げほっ! い、一旦退避しましょうっ!!」
警察1「死んで本望だったんじゃねーのかよ…!」
警察2「そりゃことりちゃんが相手だった時の話っすよ…!」
警察3「絵里さぁぁぁぁん…!」
タッタッタッタッタ…
絵里「ふぅ…。もう、ことり姉さんは楽しみ出すと見境ないんだから…」
絵里「しかし、あの子にあんな力があったなんてね」
絵里「今まで手加減してた、か…」
絵里「――あの速さ…私に抑えきれるかしら…?」
絵里「…」
絵里「…そういう意味では、ことり姉さんが受け持ってくれて助かったと言えるけれど」
絵里「…いや、考えるだけ無駄ね」フルフル
絵里「さて…引き続き、他の警察の撹乱をしなくちゃ」
絵里「予定外の介入のせいで予定が狂ってしまったから、完全にコチラに引き付けることは難しそうだけれど…」
絵里「この分だと、予定の三分の二といったところね…」
絵里「雪穂…」
絵里「――いえ、私たちのことを信頼して一人立ち向かう決心をしたのに、私が信じなくてどうするの」
絵里「だから私も、信じているわよ」
スッ
……。
【西木野邸・入り口付近】
ピィーーーーー!!
パンパン!
ガガガガガガガ…!
雪穂「始まった…。色んなところから音と気配を感じる…!」
アッチダーー!!
ズドォォォォン!!
タイヒーーー!!
雪穂「随分派手だなぁ…。なんとなく、ことりお姉ちゃんがやってる気がする」
雪穂「絵里お姉ちゃんなら、もっとスマートにって言うと思うし…」
雪穂「…」クス
雪穂「なんだか、この短い期間で段々とお姉ちゃんたちのことが分かってきた気がする」
雪穂「嬉しいな…♪」
雪穂「…」
雪穂「――っ」キッ
トッ!
タッ!
バッ!
タタタタタタ…!
雪穂(まずは…屋敷まで辿り着かないと…っ)
雪穂(事前の見取り図で確認はしていたけれど、改めて見ても広すぎるよね…)
雪穂(でも、配置されている警察の大部分はお姉ちゃんたちが惹きつけてくれてる…)
雪穂(だから、私は可能な限り全速力で前へ、前へ…走る…ッ!)
――ワンワンワンッ!
雪穂「っ!?」バッ
警察4「どうしたハリー、怪盗か!?」
グルルルゥ…!
雪穂(はぁ…っ、はぁ…っ、まだ残ってる…! どうしよう…)
雪穂(お姉ちゃん…完全に引き付けてくれるんじゃなかったの…!?)
警察4「…そこの木の陰が怪しいな…ハリー!」
ガウガウガウガウガウ!
雪穂(マズイ…見通しが良すぎるよぉ…)
雪穂(うぅ…どうしよう…! 見つかっちゃう…!)
雪穂(でも、ここで見つかるわけには…)
ザッザッザッ…
警察4「…っ」
雪穂(〜〜!)
雪穂(まだ…諦めたくない…!)
雪穂(ほんの少し…)
雪穂(一瞬の隙さえ突ければ――…っ)
警察4「出てこい…怪盗めっ!」
絵里「――それは私のことかしら?」
ワンワンワンワン!!
警察4「むっ! そっちにもか! 調度良い、二人ともまとめて捕まえてくれるわ!」
ピィィィ―――――!!
アッチダー!
カイトウガイタゾー!!
絵里「ふ…」
スッ
警察4「さぁ、そっちの木の陰に隠れてるヤツも観念…ッ!」バッ!
ヒュゥゥゥゥ…
警察4「――あ、あれ? いない…」
グルルルゥ…
警察4「おいハリー、怪盗の匂いは辿れるか?」
クゥン…
警察4「警察一の番犬と名高いお前が匂いを辿れないとは…」
警察4「いや、元からいなかったのか…?」
ドンドン!
シュゥゥゥゥ!!
警察4「って、考えてる暇はない…! ハリー! 向こうの怪盗を追うぞッ!」
ガウガウ!
……。
タタタタタタタタッ!
警察3「いたぞー! なんとしてでも怪盗を捕らえるのだーッ!」
パン!パン!
ガガガガガッ!
絵里(捕らえる…ね。とても牽制射撃とは思えないけれどね…)
絵里(――西木野邸に入った怪盗は生きて帰れない)
絵里(ふふ、噂通りということかしらね)
絵里(相手にとって、不足は無い――…!)
警察3「ありったけの火力を注ぎ込めー!」
警察2「い、いくら何でも本気過ぎやしないっすか…? 後々文句言われるのはウチらなんじゃ…?」
警察1「んなこと言ったって、警部直々の命令なんだからしゃーないだろ?」
警察2「ほ、あの鬼警部がっすか…?」
警察3「――生死は、問わないそうだ」
警察2「こりゃまた…。くわばらくわばら」
ドドドドド!
絵里(5割…いや、6割と言ったところ…?)
絵里(まだよ…! 7割…いえ、8割はコチラに注意を引きつけないと…!)
ガウガウガウガウガウ!
警察4「待て――――ッ!!」
絵里(いいわよ…こっちに来なさい…! それが私の望むべき展開よ…!)
絵里(そうすれば雪穂が、道を開いてくれる筈…!)
タタタタタタ…!
絵里(ふふ、それにしてもさっきの雪穂、あの一瞬で警察の手から逃れるとはね…)
絵里(ひたすら足を鍛えさせた甲斐があったというものよ)
絵里(それに、痕跡も残さずになんて――どこで覚えたのかしらね?)
絵里(…ことり姉さんの言うとおり、あの子の成長は今宵の勝負に必要不可欠かもしれないわ)
ガガガガガガガガ!!
絵里(…っ!)バッ
絵里(ふぅ、危なかったわ…)
絵里(…)
絵里(…さて、どこまで持つかしらね――?)
……。
【西木野邸・中庭 中央広場】
タタタタタ…!
雪穂(あ、危なかったぁ…!)
雪穂(間一髪…。お姉ちゃんが注意を引き付けてくれなかったら捕まってたよ…)
雪穂(…あはは、でもやっぱり絵里お姉ちゃんだ)
雪穂(ちょっとでも疑った私が恥ずかしい…)
雪穂(…)
雪穂(今日のここでの怪盗は、一瞬の気の迷いが生死を分ける――)
雪穂(それを改めて認識しないと…!)
ピィィ――――――!!
ガガガガガガガ!!
ドドドドドド!
雪穂(色んなところで衝突してる音が聞こえる…)
雪穂(…ちょっと前の私なら、怯えて立ち竦んでいたかも知れないな)
雪穂(でも、私が進む先に障害は――無い!)
雪穂(このまま…屋敷まで辿り着いてみせる…!)
穂乃果「…♪」
雪穂(――ってまたぁ!?)キィ!
バッ!
雪穂(あ、あれは…穂乃果さん…?)
穂乃果「ふわぁ〜あ…眠い…」
穂乃果「うーん…! お腹空いたぁ…」
雪穂(ひ、一人…? まさか…)
雪穂(でも…他の警察や番犬もいない…)
ズドドドドド!!
カイトウヲトラエロ――――!!
雪穂(この騒ぎの中でお姉ちゃんたちを追いもしない…)
雪穂(それってつまり…サボり!?)
穂乃果「凛ちゃん、頑張ってるかなぁー♪」
雪穂(…はぁ。この間の時といい、いい加減なんだから…)
雪穂(こんなことで警察が務まるのかなぁ…)
雪穂(…って、敵の心配なんてしてる場合じゃない…!)
雪穂(急に出てきたからびっくりしたけど、今は相手してる暇はないもんね)
雪穂(少し迂回すれば気付かれずに突破できるはず…!)
雪穂(…この間は良くして貰ったけど、今は敵同士だし…)
雪穂(今日は遊んでる暇はないよ、穂乃果さん――!)
バッ!
タタタタタタ…!
穂乃果「ふわぁ〜あ…」
穂乃果「んー…♪」
……。
【西木野邸・中庭 外壁】
ガッ!
バキッ!
―ダンッ!!
ことり「…ッ!」ズザァ
凛「ふぅ――」キュッ
ことり「…ふふっ」ゲホッ
凛「もう…どんだけタフなの…」
ことり「いくら女の子同士の戦いでも、そんなにお腹をぽんぽん叩くのは感心しないなぁ…」
凛「だって、逃げるし。本当なら気絶させてやりたいんだけど」
ことり「こわぁーい…♪」クスクス
凛「これだけ追い詰められても笑えるなんて…本当キモすぎ」
ことり「えー…? だってぇ、全然追い詰められてるなんて思ってないもーん♪」
凛「――ッ!」シュッ
ドゴッ!
ことり「ッ…かは…!」ドサ
凛「そういう減らず口は癇に障るよ。アイツと同じで…!」
ことり「…くすくす…凄いなぁ…容赦ないなぁ…♡」
凛「…これだけやっても気絶しないし、むしろ感じてるし、ホンっと最悪だよ…」
ことり「あはは…凛ちゃん、だっけぇ…?」
凛「気安く名前で呼ばないでよ」
ことり「こんなところで"私の相手"なんてしてていいのぉ…?」
凛「…何?」 ことり「私の今日の役割は、盗むことじゃなくて、陽動…。つまり、凛ちゃんを私に注目させてるだけで私の勝ちなんだよぉ…♪」
凛「…」
ことり「ふふっ…♪」
凛「――知ってるよ、そんなことぐらい」
ことり「…」
凛「今日の一番の脅威は凛。凛さえなんとかできれば後はどうとでもなる――」
凛「…とでも思った? Sランク怪盗さん」
……。
【西木野邸・中庭 中央広場】
タタタタタタ…!
雪穂(穂乃果さんは難なくかわせたし、後は屋敷までひたすら走るのみ――…!)
雪穂(辿り着ける…!)
雪穂(あと、少し――ッ!!)
穂乃果「――よっ、と」トッ
雪穂「ふぇぇぇッ!?」キュッ
穂乃果「…」クル
穂乃果「やっほー、雪穂ちゃん♪」
雪穂「〜〜…!」
穂乃果「やー、やっぱり雪穂ちゃん早いねぇ…さすがことりちゃんたちの妹さんだけあるよ♪」
雪穂「なななな、なんでぇ…!?」
穂乃果「え、なんで? さっき私がいた道、遠回りしながら走って行ったでしょー? 追いかけるに決まってるじゃーん。警察なんだしー」
雪穂「い、いやいや、そうじゃなくって! だ、だって私気付かれないように気配も消してたし、速さだって…!」
穂乃果「うんうん、本当凄い凄い。全く気配感じなかったし、まともに逃げられてたら追いつけなかったんじゃ無いかな」
雪穂「だだだ、だったら何で!?」
穂乃果「――ふふっ♪」
ジリジリ…
ギュッ
雪穂「っ!?///」
穂乃果「〜〜っ」スー
穂乃果「はぁ〜〜〜♡」
雪穂「ちょ…な、何してるんですか…!!///」
穂乃果「――気配は消せても…」
穂乃果「雪穂ちゃんの匂いは…しーっかり覚えちゃったんだなぁ♡」スンスン
雪穂「に、匂い!?///」
穂乃果「そっ♪ いやぁ、案外人の匂いっていうのは消せないもんなんだよねぇ…♡」
雪穂「い、意味分かんないし! っていうかいつ!? どこで私の匂いなんて!?///」
穂乃果「えー? わかんないー? この間たっぷり嗅がせて貰ったのにぃー」クスクス
雪穂「この間って…あ!」
穂乃果『わぁ、雪穂ちゃんいい匂いだなぁ…♪』スンスン
雪穂『〜〜っ!?』ガタガタ
穂乃果『そんなに怯えなくても大丈夫だよ〜。お姉さんが優しくしてア・ゲ・ル…♡』フー
雪穂(まさか、あの時に…!?///)
穂乃果「あははっ、雪穂ちゃん、怪盗ならどんな時でも油断しちゃダメだよー…?」
雪穂「だ、だって、仕事の時以外は捕まえられないからって…」
穂乃果「うん、だからぁ、警察の権限は何も使わなかったでしょ? でも…匂いを覚えちゃダメなんて、警部にも止められてないし――♪」
雪穂「そんな…っ」
穂乃果「まぁ雪穂ちゃんも頑張っていると思うけど…やっぱりまだまだ爪が甘いかもね?」クスクス
穂乃果「この間は手伝ってあげたけど、今日は違うよぉ…?」
穂乃果「雪穂ちゃんを独房送りにして、私の好きにさせてもらうんだぁ…♡」
雪穂「…っ」
雪穂(…くっ、本当に油断してた…!)
雪穂(まさか穂乃果さんに…に、匂いなんて覚えられるなんて…///)
雪穂(いや、っていうか匂いって!? そんなの防げる訳ないじゃん…!!///)
雪穂(大体そんなのヘンタイだよ…! 人の匂い辿ってくるとか…!///)チラ
穂乃果「〜〜♡」スンスン
雪穂「///」
雪穂(あの人はヘンタイなんだね…そうなんだね…)
雪穂(いい人なんて少しでも思った私がバカだったよ…。そもそも敵なんだから当たり前だよね…)ハハハ
雪穂(っていうか私の匂いってどんななの…? く、臭いってことなのかな…?)
雪穂(…///)クンクン
雪穂(って、そんなことしてる場合じゃないし…!///)
雪穂(あと少し…! あと少しで屋敷に辿り着けるのに…ッ!)
雪穂(どうしよう…助けを呼ぶ…!?)
雪穂(いや…お姉ちゃんたちもそれぞれ別の場所で戦ってる…助けは無理…!)
雪穂(それに、お姉ちゃん達は私を信頼してくれてた…)
絵里『だから今回も、一人で切り抜けられるはずよ。…雪穂、自分を信じなさい?』
雪穂(私は、なんとしてでも自分の力で…この場を切り抜けないと…ッ!)
穂乃果「ほらほらぁ、どうしたのー? おいでおいでー♪」
雪穂(…とにかく、今の私にある武器は…この足!)
雪穂(敵は複数じゃなくて、あくまでも穂乃果さん一人…だったらッ!)シュッ!
タタタタタ…!
穂乃果「うん、それが正解だね♪ いくら私でも、本気の雪穂ちゃんの足には敵わないなぁ」
穂乃果「――でも、匂いが分かるからね、どこを目指してるかとか大体分かるんだよねぇ」
穂乃果「だから、私は先回りするだけなんだよー♪」
トッ!
トッ!
雪穂「っ!」ヒュッ
穂乃果「待てー♪」スンスン
バッ!
クルン!
雪穂「くっ!」シュッ
穂乃果「ほらほらー♪」クンクン
トトトトト…!
タタタタタ…!
雪穂「ぅぅ…!」ザァ!
穂乃果「捕まえちゃうよー♪」スーハー
雪穂「〜〜あーもう…っ! 匂いなんて辿ってこないでよこのヘンタイッ!!///」
穂乃果「だってぇー♪」スンスン
雪穂(匂いなんて覚えられてたらどうしようもないじゃん…! 最ッ低!)
……。
【西木野邸・応接室】
海未「了解しました。ご苦労さま、引き続き怪盗を追って下さい――」ピッ
真姫「…ふふ、順調みたいじゃない?」
海未「…」
真姫「まさか警察がここまで健闘してくれるとは思っていなかったわ。この分なら、西木野財閥の力を使わなくても済みそうねぇ」
海未「〜〜…」
真姫「どうしたのよ?」
海未「〜〜あっはっはっはっはっはっ!!」
真姫「ヴェェ!?」ビク
海未「穂乃果、凛、いい調子ですよぉ…! 今度こそ怪盗を捕まえてやりますよぉ…!!」
真姫「ちょっと、キモチワルイんですけど…」
海未「はっ!? こ、これは失礼致しました、西木野さん…。ですが、この調子なら怪盗が我が警察に捕まるのも時間の問題…。ええ、時間の問題ですともっ! あはははははっ!!」
真姫「イミワカンナイ…」
……。
生死問わずか…財閥の力で消されないように捕まえようとしてくれてるってわけでもなさそうだ
雪穂ちゃんがどうやって切り抜けるのか期待
【西木野邸・中庭 外壁】
凛「今頃、穂乃果ちゃんが怪盗を追い詰めてると思うよ」
ことり「…」
凛「穂乃果ちゃん、鼻が本当利くんだよね…。凛もよく嗅がれて迷惑してるし」
ことり「へぇ…」
凛「…さてと、このままアンタを捕らえて西木野に突き出すことにするけど、悪く思わないでね?」
ことり「…匂い、かぁ――」
凛「ふん、Sランク怪盗も大したことないもんだよね」グイ
ことり「すー…はー…♡」
凛「!?///」バッ
ことり「ふみゃっ!」ドサッ
凛「ちょ、急に人の匂い嗅がないでよヘンタイ…!///」
ことり「もぅ…女の子はもっと丁寧に扱わないとダメだよぉ…?///」ハァハァ
凛「っ…あーもう、調子狂う…!」
ことり「でも――…」
ことり「これで凛ちゃんの匂いは覚えちゃったよぉ…♡」ペロ
凛「…っ」ゾク
ことり「ううん、穂乃果ちゃんかぁ…。匂いを覚えるなんて素敵だなぁ、私好みだなぁ…♪」
凛「…ふ、ふん! 同じヘンタイ同士気が合うのかもしれないけど、匂い覚えたからってなんなの! 私から逃れるなんてできないよ!?」
ことり「まぁ、穂乃果ちゃんはただ匂いを覚えられるだけかもしれないけど――私を舐めてもらっちゃ困るなぁ…」
凛「――しッ!」ヒュッ!
ダンーーッ!
ことり「――」
凛「…」フー
ガシ
凛「!?」
ことり「――あれぇ、間合いが足りなかったんじゃない?」
凛「…ッ」ビク
バッ
ことり「…♪」ペロ
凛(そ、そんな…完璧にみぞおちに入れた筈なのに…! なんで倒れないの!?)
凛(ズラされた…? でも…どうやって…!?)
ことり「――凛ちゃん、昨日…生理だったでしょ♡」
凛「なっ!?///」
ことり「それも随分重かったんじゃないかなぁ…? うーん、女の子は辛いよねぇ…」
凛「ちょ、な、ななななんでアンタがそんなこと…!///」
ことり「血の匂いがキツイんだけど、それがまたいいよぉ…♡」スンスン
凛「や、やめて! ヘンタイ! キモイ! 最低ッ!!///」カァー
ことり「――だから凛ちゃん、股関節を庇って動きが鈍くなってるんじゃないかなぁ…?」
凛「――っ!?」ビク
ことり「図星、だね…♪」
凛「…」
ことり「それで間合いが足りなかったんだと思うよぉ? 私はその動きに合わせてズラしただけ♪」
凛「…そ、そんな些細な変化で…凛の攻撃を…?」
ことり「些細な変化こそ、窮地においての最大の変化なんだよ…? それを見逃すようじゃ、Sランクとは言えないんじゃ無いかなぁ…?」クスクス
凛「くっ…」
ことり「まぁ、私は窮地だなんて思ってはいないんだけど――…」
凛「はっ、一撃凌いだぐらいで調子に乗らないでよね…!」
ことり「一撃? 本当に一撃なの?」
凛「な、なに言ってるの…? さっきから何度も凛の攻撃喰らってる癖に…!」
ことり「だって凛ちゃん、私を"気絶"させるつもりで攻撃してたんでしょ――?」
凛「っ!?」 ことり「ほら♪ 私はこの通り、ピンピンしてるよ♪ ちょっとお腹痛いけど…」ペロ
凛「そ、それは、アンタがタフだからで…!」ワナワナ
ことり「幾ら私でも凛ちゃんの攻撃まともに食らったら気絶しちゃってると思うなぁ。…だって、怪盗って別に格闘家じゃないし、腹筋バッキバキに鍛えてる訳じゃ無いんだよぉ? ねぇ…?」チラ
凛「み、見せなくていいにゃ!!///」プイ
ことり「あ、いつもの凛ちゃんの口癖が出たぁ♪ ふふ、かーわいい…♡」
凛「〜〜!///」
ことり「今日はねぇ、ずーっと凛ちゃんの実力を測っていたんだよ…?」
凛「ずっと…?」
ことり「恥ずかしながら、私も一対一の勝負はそんなに慣れていないんだぁ。ほとんど場合は一対多数。大勢を相手にするのが怪盗の常だからね♪」
凛「…」 ことり「だから凛ちゃんが物凄い速さで間合いを詰めてきた時はびっくりしちゃったぁ…。さすがに初手の一撃は私もかわしきれなかったよ」
凛「…立ち上がっておいてよく言うよ」
ことり「くすくす♪ それで凛ちゃんが脅威になると思ったから、他の警察さんから離してどういう風な動きをするか見定めてたの♪」
凛「脅威…。そう、凛は脅威だよね? ここでSランク怪盗の南ことり様を足止めしてるんだからさ!」
ことり「うんうん、凄い凄い♪ 凛ちゃんは凄いと思うよぉ♪」パチパチ
凛「くっ、バカにしてるの…!? 脅威なんでしょ! 凛が! もう大人しく凛に捕まりなよ――ッ!」
ことり「――あれぇ? 私は脅威だなんて思ってないよぉ?」
凛「な…アンタ、頭は大丈夫なの!? 今、自分の口で…!」
ことり「あははっ♪ 勘違いさせたらごめんねぇ。確かに凛ちゃんは脅威だと思ってるけど――それは私じゃ無いよ」
凛「は…?」 ことり「さっき言った通り、私はこの局面を窮地だとも思ってないし、凛ちゃんのことを脅威だなんてこれっぽっちも思ってない――…」
凛「――しッ!」シュッ
フッ
凛「!?」
ことり「こっちこっちー♪」フリフリ
凛(まさか…速すぎる…!? さっきまであんな速さ…!)
トッ
ことり「…ね? 窮地でも何でもないでしょ? 理解できたぁ?」クスクス
凛「…っ!」
ことり「私が言ってる脅威になるっていうのは、私じゃ無くてぇ…雪穂ちゃんだよ♪」
凛「雪穂ちゃん…?」
ことり「そーう。さすがに雪穂ちゃんには、まだ凛ちゃんの相手は荷が重すぎるかなぁ」
凛「…」
ことり「絵里ちゃんも…負けはしないだろうと思うけど、他の警察さんとまとめて相手だと怖いかもねぇ」
凛「…あはは、舐められたもんだね」
ことり「ううん、とんでもないよぉ! 私だけSランク怪盗だからって勘違いされがちだけど、絵里ちゃんも凄い怪盗さんなんだからね! そんな絵里ちゃん一人じゃ勝てないかもって言ってるんだから、凛ちゃんは凄いと思うよぉ…!」ウンウン
凛「それが舐めてるって言ってるの――ッ!!」ドン!
ことり「――…」
凛「凄い怪盗…? はっ、調子に乗らないでよね!」
ことり「…」
凛「本気の凛がμ's如きに遅れは取らないよ…ッ! 特に、足手まといの三女がいるようなチームにはね…!」
ことり「…ふぅん」
凛「アンタも…! 次期Sランクの絵里も…! 私のプライドにかけて捕まえてやる…! それが私の"役割"だから…!」
ことり「…どっちが舐めてるんだか」
ヒュ…
凛(背後に…!?)ゾワ
ことり「ねぇ、凛ちゃん」
凛「…っ?」
ことり「確かに今の段階の雪穂ちゃんじゃ凛ちゃんは脅威かもしれない…。けど――」
ことり「――次に対面する時は立場が逆転してるかもね?」クス
凛「…!」ゾク
バッ!
タン!
トン!
凛「〜〜…」ハァハァ
ことり「あははっ、殺られたと思った…?」
凛「はぁ…っ、はぁ…っ」
ことり「さっすが、いい反応だよねぇ…♪」
凛(か、完全に…背後を取られて…殺されたかと思った…。それぐらいの、殺気を放っていた…)
凛(で、でも…なんで…? なんで何もしなかったの…!?)
ことり「なんで何もしなかった、って考えてるだろうけど…そう考えてるってところがまだまだなんだよねぇ――」
凛「ど、どういうこと…!?」
ことり「冷静に考えよっか? 何もしなかったんじゃなくて、何もできなかったとしたら――?」
凛「…? はっ、まさか!?」
シュッ!!
凛「――――しッ!!」
フッ
凛「消えた…。やはり、幻…!?」
ことり『ちょーっと違うけど、大体せいかぁい♪ 本物の私は既に遠くにいるよー』
凛「くそ…いつの間に…!」
ことり『ふふ、戦闘中に目を離しちゃダ・メ』
凛「め、目を離す…?」
ことり『幾ら私でも凛ちゃんの攻撃まともに食らったら気絶しちゃってると思うなぁ。…だって、怪盗って別に格闘家じゃないし、腹筋バッキバキに鍛えてる訳じゃ無いんだよぉ? ねぇ…?』チラ
凛『み、見せなくていいにゃ!!///』プイ
凛「あ、あの時…!?///」
ことり『あっははっ、凛ちゃんかーわいいー♪』
凛「そんな…一瞬の間で…!」
ことり『わかったでしょー? 凛ちゃんじゃ私には敵わないよぉ〜?』
凛「…ッ」キッ
ことり『ふふ、いい眼してるよぉ…♡」
凛「どこにいるの…!? そこまでバカにして、タダで済むと思わないでよね…!!」
ことり『うーん、本当はもっと相手してあげたいんだけどぉ…そろそろ雪穂ちゃんのところに行ってあげないと♪』
凛「凛を足止めしておかないこと、後悔するよ…!」
ことり『あははっ、もう十分足止めされてくれたでしょー? それで十分だよ、ありがとう凛ちゃん♪』
凛「く…ッ! どこまで人をコケにして…!!」
ことり『…悔しかったら追ってきたらぁ? 私は逃げも隠れもしないよ。…負ける気なんて全くないけどね♪』
凛「…待ってなよ南ことりッ! 絶対アンタは凛が捕まえるから…ッ!」
……。
【西木野邸・中庭 中央広場】
タタタタタ…!
ことり(くす…♪ 威勢がいいなぁ…やっぱり敵はこうでなくちゃ♪)
ことり(それにしても、警察も面白い人材手に入れたもんだよねぇ…)
ことり(凛ちゃんを挑発する為にああ言ったけど、さすがに何発も食らったからお腹痛いなぁ…。気絶するほどじゃないけれど…)ゴホ
ことり(…とりあえずは私に矛先が向いてくれれば良し。さすがに雪穂ちゃんにはまだ荷が重そうだからね…)
ことり(まぁ、こんな痛みも久しぶりだし、これはこれで快感…♡)
ドドドドドドド!!
ガガガガガガガッ!!
ムコウニイッタゾーー!!
ことり(向こうでは絵里ちゃんが頑張ってるみたい…)
ことり(くす、あの数相手にさすがだなぁ…)
ことり(実力だけなら私と同格…だと思うんだけどねぇ)
ことり(絵里ちゃん甘いからなぁ…。まぁ、そんなところが可愛いんだけど♡)クスクス
モウスコシデオイツメラレルゾ!!
ウォォォーーーー!!
ことり(うーん、さすがに助けに入ったほうがいいかなぁ…?)
ことり(――なんて、そんな甘いことは言わないよ♪)
ことり(絵里ちゃんなら、一人で頑張れるよねぇ…♡)
トッ…
……。
【西木野邸・中庭 入り口付近】
トッ!
トッ!
ガガガガガッ!
絵里「く…ッ! 次から次へと…ッ!」ピンッ
カランカラン…
バシュゥゥゥゥゥーーーーーッ!!
警察3「退避――――ッ!!」
警察1「げほ…っ! げほ…っ! ったく、一体どんだけ武装隠し持ってんだよあの人…!」
警察2「Aランクとは行っても、時期Sランクって言われてる怪盗すっからね…一筋縄じゃいかないっすよ」
警察3「しかし100人超は警察を動員しているのだ、捕まるのも時間の問題であろう…!」
警察1「一人相手にこれだけって、規格外すぎるだろ…」
警察2「それでも他にまだμ'sはいるんすけどね…」
警察4「ハリー! 行けッ!!」
グルルルゥゥゥゥ!!
絵里「――ッ!?」ガッ
バッ!
トン…!
警察4「ち、逃げられたか…!」
警察3「…や、待つのだ、血の跡がある。どうやら手負いにはできたらしいぞ」
警察1「お…! マジか! やれやれ、ようやく捕まえられんのか…」
警察2「うっひょー! 絵里さん捕まえられたらあんなことやこんなこと…ムフフ」
警察3「バカなことを言うでない! 全く…」
警察4「よしよし、よくやったハリー」
グルルルルゥ…
警察3「よぉーし、これでμ'sのカリスマ、南絵里は討ち取ったも同然! 我に続けぇ―――ッ!!」
ウォォォォオーーーー!!
警察1「なんで武士風なんだよ…」
……。
【西木野邸・中庭 外壁】
トットッ…トット…
絵里(…思いの外、出血の量が酷いわね…)
絵里(血の痕跡は隠しながら逃げてきたから、すぐに追いつかれるとは思わないけど…それも時間の問題ね)
絵里(根本的に、相手にしている数が多すぎる…)
絵里(ふふ…今更泣き言を言っても始まらないわね…)
絵里(私自身が引き受けたのだから、結果どうなろうとそれは私の責任)
絵里(ここで捕まってしまうのも、私の運命ということね…)
絵里(ふぅ―…)
絵里(これで、Sランク昇格は大分遠のいてしまったわな…)
絵里(別に、Sランクに拘りがある訳では無いけれど…目的が遠ざかってしまうのもまた事実…)
絵里(…いや、私の目的ならばそこにあるじゃない)
絵里(この屋敷に――…!)
絵里(…Sランクになれば、それだけ難度の高い依頼が舞い込んでくるようになる)
絵里(そうなれば、そのうちにお祖母様のお宝に辿り着くと思い、ひたすらにここまで頑張ってきたのだけれど…)
絵里(ふふ…まさかこんな偶然が起きるなんてね)
絵里(…)
絵里(偶然、ね…。本当にそんなことがあるのかしら)
絵里(今まで、あらゆる手を尽くしてもお祖母様のお宝の所在は明らかにできなかった…)
絵里(それが、こんな唐突に…しかも匿名の人間からの依頼なんて…)
絵里(――西木野財閥)
絵里(考えてみれば、たかが一つの屋敷を警護させるのにこの人数はおかしい)
絵里(警察も、いつもなら捕まえるための牽制はしてくるが、本気に命を取りに来ることはそうそうない…)
ドロ…
絵里(あの番犬も、恐らく軍用の特殊な訓練を受けている犬ね…。まさか遅れを取るとは思わなかったわ)
絵里(…何か)
絵里(何かがおかしい気がする…)
ことり『その辺の真相は分からないけどねぇ〜。でも、西木野財閥の屋敷に潜入した怪盗が帰ってこなかったという事例が何件かあるのは事実なの』
絵里『殺されたのか、はたまた、何かの理由で屋敷の中に幽閉されているのか…。全てが謎に包まれているの』
絵里(ここに――…)
絵里(西木野財閥に、一体何があるというの…?)
ガルルゥゥ!!
コッチダゾ!
ココガネングノオサメドキーーー!!
絵里(…とはいえ、その謎を暴く前に私はここで脱落のようね)
絵里(さすがにもう、武装も何一つとして残っていない…)
絵里(生きて帰れるなら、再び舞い戻ってきたいものだけれど…はてさて、無事に帰れるのかしらね?)
絵里(…)
絵里(ことり姉さん、雪穂…)
絵里(後は頼んだわよ――)
パン!パン!
ガガガガガガガガ!!
ムコウニニゲタゾー!!
ドウイウコトダ!?
ヤツハテオイノハズダゾ!!
絵里(…?)
絵里(誰か、助けに来た…? ことり姉さん…?)
絵里(まさか…。こんな時、非常に徹することり姉さんがそんな選択を取るはずが無い)
絵里(仮に助けられる状況だとしても、雪穂の方に向かう筈よ…)
絵里(それじゃあ…一体…?)
バサッ!
「――♪」
絵里「あれは――」
バッ!
クルン
「わぷっ!」ベチャ
絵里「…」
……。
本気のことり恐ろしや…
誰が助けに来てくれたのかなー
【西木野邸・中庭 玄関付近】
タタタタタタ…!
雪穂(はぁ…! はぁ…っ!)
雪穂(く…そ…っ! いくら振り切っても追いつかれる…!)
雪穂(このまま屋敷に逃げ込んだとしても、動きが制限される屋敷内じゃ圧倒的に不利…!)
雪穂(どうにかして痕跡を消さないと、怪盗なんてとてもじゃないけど無理だよ…!)
雪穂(でも匂いなんて…どうすればいいの…!?///)
雪穂(匂い…匂い…!)
雪穂(匂いってつまり…私の体臭、ってことだよね…?)
雪穂(うぅ…女の子が言う台詞じゃないよぉ…)
雪穂(私のこの匂いを消さないと、穂乃果さんを匂いを辿ってやってきちゃう…)
雪穂(でも、私の匂いって…)クンクン
雪穂(自分じゃ分からないしなぁ…臭いのか良い匂いなのかもわかんない)ハァ
雪穂(…臭くはないよね)クンクン
雪穂(ぅー…)
雪穂(…でも、辿れるぐらいに強い匂いってことは…)
雪穂(つまり…それ以上の強烈な匂いを別の場所に残せるなら、誤魔化せるかも…?)
雪穂(そんな匂いの元、作れるかな…)
雪穂(…)
雪穂「…っ」
雪穂「〜〜っ!!///」
雪穂(だ、ダメダメダメダメ!! なんてこと考えてんのアタシ!!///)ブンブン
雪穂(第一、そんなことしたって本当に釣られてくれるか分からないし、そもそも釣られたとしてもその後を嗅がれる訳だし…いやだいやだいやだっ!!///)
雪穂(こんなところでヘンタイになんてなりたくないよぉ…! もっとまともな方法…!!///)
穂乃果「…雪穂ちゃーん〜〜…♪」
雪穂(げ、もう来た…!)
雪穂(…っていうか、あの人捕まえるとか言っておきながら絶対遊んでるよね…)
雪穂(くっそぉ…弄ばれてばっかりで悔しい〜…!)
雪穂(あの人の手なんて借りずに…そして、追い越すぐらいじゃないと、お姉ちゃん達のような怪盗になんかなれないよ…)
雪穂(だから、なんとしてでも…!)
雪穂(…)
雪穂(お姉ちゃん達に追いつくには…手段なんか選んでちゃダメなんだ…)
雪穂(…)
雪穂(///)
ゴソ…
……。
タタタタタタ…!
穂乃果「あはは、やっぱり怪盗との追いかけっこは楽しいなぁ♪」
穂乃果「凛ちゃんの方はどうなったかなぁ? 本気の凛ちゃんだったらことりちゃん相手でも遅れを取らないとは思うけど…万が一っていうこともあるしねぇ」
穂乃果「まぁでもそれは、雪穂ちゃんを捕まえてから考えればいいや♪」
穂乃果「ふふ、そんな簡単には終わらせないけどねぇ〜♡」
穂乃果「雪穂ちゃーん! そろそろ追いついちゃうよぉ〜♪」
穂乃果「…♪」スンスン
穂乃果「あれれ? もう観念しちゃったのかなぁ? まるで動きがないけど…」
穂乃果「うーん…それはつまんないなぁ」
穂乃果「もっともっと逃げ惑ってくれないと、捕まえたときの快感が足りないんだよねぇ…♡」
穂乃果「…っていうか、なんか雪穂ちゃんの匂いが強くなった気がするけど…?」スンスン
穂乃果「…」
タタタタタタ…!
穂乃果「――っ!」ザッ
穂乃果「――いない…?」
穂乃果「でも、匂いはここから…」スンスン
穂乃果「…あっ」
穂乃果「〜〜」スゥー
穂乃果「…あははっ」
穂乃果「あははははははっ!」
穂乃果「すっごい…! 雪穂ちゃんすっごいよぉ…!」
穂乃果「まさか誤魔化すために、この僅かな時間でこんなこと…!」
穂乃果「うわぁ…かんっぜんにしてやられちゃったよ…! これじゃしばらくは匂いを追跡できなさそう…」
穂乃果「ああ…っ、でもこの匂い…濃くていいなぁ…♡」スンスン
穂乃果「…///」
穂乃果「――って、ダメダメ、こんなところでしてたら鬼警部に何言われるかわかったもんじゃないや」
穂乃果「今日のおかずに取っておこーっと…♪」
穂乃果「さて、ここからが本当の戦いってことだね…! 絶対捕まえてあげるんだから…♪」
タン!
トン!
……。
ことり「――」
ことり「――――」
ことり「まさか…」
ことり「雪穂ちゃんが…こんなこと…」
ことり「〜〜」ワナワナ
ことり「…――さいっこうッッ♡」
ことり「そんな…そんな選択肢をとれるなんて…っ! 予想以上の成長っぷりだよぉ…ッ!」
ことり「やっぱり、雪穂ちゃんは実践でもっともっと追い込まないと…っ」
ことり「私の想像を超える方向に成長していってくれる…! 最高すぎるよ雪穂ちゃん…!!」
ことり「はぁ――…っ♡」
ことり「ダメ…もう、ことり、我慢できない――…♡」
ことり「ん…♡」クチュ
……。
「いたたたぁー…やっぱり一回転しての着地は難しいです…」
絵里「…」
「助けに来ましたのです!」
絵里「…」
「私が来たからにはもう安心です! 今のうちに逃げるです!」
絵里「…」
「どうしました? 早くしないと警察が来ちゃいますよ?」
絵里「…」
絵里「…」ハァ
絵里「――怪盗の三ヶ条、その三」
「同業者とは目を合わせない! ですね!」
絵里「…分かってるじゃない」
絵里「貴方のその行為は違反行為になるけれど…それも理解しているのかしら?」
「同じ依頼に二組の怪盗は原則、禁止…」
絵里「そうよ」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないのです! 助かりたくないのですか?」
絵里「いくらこんな状況だからって、ルールを破ってまで助かろうなんて思わないわ」
「むぅ…」
絵里「貴方、一体どこの怪盗?」
「それは…秘密ですよ☆」
絵里「…そ。興味も無いわね。どうせロクでもない低ランクの怪盗なんでしょうけど」
「ロクでもなくなんかないですよっ! 私だって立派な怪盗ですよ!」
絵里「立派な怪盗ならばこそ、相応のプライドは持っているはずよ。貴方にそれがあるとは思えない」
「ひどいです! あり…じゃなかった、私にだってプライドぐらいありますっ!」
絵里「へぇ」
「興味無さそうな返事…! いいんですか? 助けてあげませんよ!?」
絵里「別に頼んでいないわ」
「むぅ…強情ですね…」
絵里「…」
「別に助けてあげなくたっていいですけど…いいんですか?」
「このままだとお姉さん、間違いなく…」
「――死んじゃいますよ?」
絵里「…」
絵里「…この屋敷のこと、何か知っているの?」
ピト
絵里「っ」
「それは、助かったら教えてあげますです☆」
絵里「…」
「ふふ♪」
絵里「…指をどけなさい」
「はーい♪」
絵里「…」
「助かる気になったですか?」
絵里「…そうね。真実かどうかはさておいて、流石に死ぬと宣告されたまま待つほど愚かでは無いわ」
「うんうん♪ 人間素直が一番です♪」
絵里「…私には生きる目的がある。それを達成するまでは…死ぬわけにはいかないの」
「プライドを捨ててでもですか?」
絵里「…」ギロ
「あ、うそうそ、そんな怖い顔しないで下さい…!」 絵里「…まぁ、でも貴方の言う通りね。今はプライドを捨ててでも助かりたいと思う…」
「ふぅん…」
絵里「…何?」
「なんでもないですよ!」
絵里「ふん…」
トッ
「それじゃ私は警察の注意を引き付けてきますです! お姉さんは今のうちに逃げるですよ!」
絵里「…逃げる? まさか、妹を置いて逃げるわけにはいかないわ」
「えぇ…!? それじゃ、あり…じゃなかった、私が警察の相手する意味が…」
絵里「それだけで充分よ。幾ら手負いとは言え、貴方が注意を引き付けてくれるなら問題ないわ」
「ふぇ…さすがμ'sの怪盗なのです…」
絵里「それと――そのまま警察に捕まりでもしたら厄介だし、私の衣装を着て行きなさい」バサ
「捕まりませんよぉ…!」プンスカ
絵里「あと、私と同じ金髪なんだし…後ろで縛っておきなさい。それで警察は私と見間違える筈よ」
「それぐらいで勘違いしてくれますかねぇ…?」ギュ…
絵里「…男なんて、そんなものよ」
「なるほど…」ウンウン
絵里「別に、そんな頷かれても困るけれど…」
「――よし、できました☆」
絵里「うん…背は足りないけど、私にそっくりね」
「一言余計なのです!」
絵里「助かったわ」
「それは生きて脱出できた時に言って下さいです…♪」
絵里「それもそうね…」クス
「くすくす♪」
絵里「貴方の名前…聞いて良いのかしら?」
「…それは」
「――秘密なのです☆」
バッ!
イタゾー!!
カイトウダー!!
ガガガガガガガガ!!
コッチナノデスヨー!
ベチャ
絵里「…危なかったしい怪盗だこと」
絵里「さて、私も雪穂の元へ急がないと…!」
トッ…
……。
【西木野邸・応接室】
海未「――」ピッ
真姫「…状況はどうなってるの? そろそろ怪盗は捕まりそうかしら?」
海未「…」
真姫「あれだけ威勢良く期待してろなんて言ったんですから、まさか失敗したなんて言わないわよね?」クスクス
海未「…〜〜」
真姫「?」
海未「えぇぇぇぇ――――――い!! 何やってるんですかぁぁぁぁぁ!!」
真姫「ヴェェ!?」ビックゥ
海未「なんで捕まえられないんですか貴方達はぁ――――――ッ!!」
真姫「…」
海未「こうなったら私が行くしかありませんっ…! μ'sの怪盗、首を洗って待っていなさぁぁぁ――――いッ!!」
バタァン!
タタタタタタタ…!!
真姫「…何あの人、情緒不安定なのかしら」クルクル
真姫「はぁ…」
真姫「結局、あの小娘も大したこと無かったし、所詮は警察ってことね」
真姫「…仕方ないわねぇ」
真姫「パパの力、使うしかないじゃない――…」ニヤ
……。
【西木野邸・玄関】
ガチャ
雪穂「お邪魔しまぁーす…」
雪穂「…なんてね」
雪穂(こんな真っ正面から入るなんて、正直バカみたいに思うけど…)
雪穂(西木野邸の現主、西木野真姫はプライドが高くて、姑息な手を嫌う…)
雪穂(って、ことりお姉ちゃんが言ってたからね。きっと、罠はないはず――…)
雪穂(それに…あんなことまでしたんだもん…///)カァァ
雪穂(恐れることなんて何もないよ…!///)
トッ…
トッ…
雪穂(…うん、やっぱり罠の反応はどこにもない)
雪穂(それに警察を一人も配置しないなんて、すっごい自信…。中庭の部隊が全てということ…?)
雪穂(いや、でも…)
雪穂(油断だけはしちゃダメだよね…。ことりお姉ちゃんだって、一度失敗してる訳だし…)
ドドドドドド…!
雪穂(っ!?)サッ
海未「怪盗めぇぇぇ―――――! 今行きますよぉぉぉぉぉ―――――!!」
ドドドドドド…
雪穂「…な、なにあれ…? 走り去って行っちゃったけど…」
雪穂「ま、まぁいなくなってくれる分にはいっか…」
雪穂「…」
雪穂「…さて、お宝は地下の宝物庫だった筈」
雪穂「急がないと穂乃果さんに追いつかれちゃう…!」
タタタタタタタ…!
……。
【西木野邸・地下宝物庫】
ギィ…
雪穂「…わ、広…」
雪穂「ここが地下宝物庫…声がやたら響くな…」
雪穂「〜〜」
雪穂「なんか、あちらこちらにお宝と思えるような絵画やら剣やらが置いてあるけど…本物だよね…?」
雪穂「…すっご」
雪穂「――っ」ゾワ
雪穂(な、なに…? なんか嫌な気配を感じるけど…)チラ
雪穂(…何も、いない…よね…?)
雪穂「…」
雪穂「ここに、Angelic Angelがあるんだよね…?」
真姫「――その通りよ」
雪穂「っ!?」
トコトコ…
真姫「Angelic Angelはこの宝物庫の奥の宝箱に大切に仕舞っているわ」
雪穂「…っ」バッ
真姫「…初めまして、μ'sの怪盗さん♪」ニコ
雪穂「あ、あなたが…西木野財閥の主、西木野真姫…さん…?」
真姫「ええ、そうよ。あの警察達の包囲網を抜けて、よくここまで辿り着けたわね。褒めてあげるわ♪」
雪穂「あ、ありがとうございます…」
真姫「…あははっ、なによそれ」
雪穂「え」
真姫「まさか素直にお礼を言われるとは思わなかったわ。面白い怪盗さんなのね」
雪穂「む…」 真姫「貴方、名前は?」
雪穂「わ、私は――」
雪穂「μ'sの三姉妹怪盗、三女、南雪穂…!」
真姫「へぇ…。雪穂ちゃんね、覚えておこうかしら」
雪穂(…この部屋、見通しが良すぎる…)
真姫「まぁ、それも意味ないでしょうけど…」
雪穂(隠れる場所もロクにないし、向こうにどんな攻撃手段があるかわからないけど、これじゃ避けきれない…)
真姫「何故なら、貴方はここで散る運命だからよ…ッ!」
雪穂「――――っ!?」
……。
【西木野邸・中庭 中央広場】
トトトト…!
絵里(く…っ、さすがに足をやられていては急ぐに急げないわね…)
絵里(あの子の前ではああ言ったけど、この出血量は危険ね…。我が身のことを考えれば脱出が最優先…)
絵里(でも雪穂を置いてそれはできないわ…)
絵里(あの子のことだ、無事だとは思うけれど…ここでは何が起こるか分からない…)
絵里(ことり姉さんが上手くやってくれればいいけど、それだって当てになるか分からないわ)
絵里(ことり姉さんは暴走するから、万が一ということもある…!)
ことり[見せられないよ!]
絵里(…雪穂、今行くわ…!)
トトトト…!
……。
雪穂ちゃんパンツでも置いてったのかな?
そしてあり…ちゃんも怪盗デビュー
単に憧れてなのか別の事情があるのか気になるところ
ドドドドドドドド!!
ガガガガガガガ!!
バシュ!
バシュ!!
ドォォォォーーーーン!!
真姫「…ふふ、やったかしら?」クルクル
真姫「どうー? 西木野財閥の力…思い知ったかしら?」
雪穂「――よっ…と」トッ
真姫「ヴェェ!?」ビックゥ
雪穂「…あれ、もう終わりですか?」
真姫「〜〜」
雪穂「なんだ…もっととんでも無い量の攻撃を食らうのかと思ってましたけど、意外と大したことないんですね」
真姫「ナ、ナニソレ! イミワカンナイ!!」
雪穂(…休まずあの攻撃が続くのなら、この部屋は隠れる所もないしジリ貧になるところだったけど…)
雪穂(これなら、穂乃果さんに追われる方がよっぽどキツかったな…色んな意味で)
真姫「く…っ! パパの用意してくれた罠や武装はこれだけじゃないんだから…! 見てなさい――っ!!」
雪穂「――」スゥ
真姫「あ、あれ…!? 消えた…!?」
雪穂(そんな口上を述べる暇があるんなら――)ヒュッ
真姫「――後ろ!?」
雪穂(とっとと攻撃すればいいのにね…)ガッ
真姫「――っ」
ドサ…
雪穂「ふぅ…」
雪穂「まぁ、なんにしても大将自ら前に出てきちゃダメだよね…」
真姫「〜〜」(←目回してる)
雪穂「西木野真姫…。本当に凄い人なのかなぁ…?」
雪穂「さて、肝心のお宝はっと…」
雪穂「奥の宝箱に仕舞っているとか言ってたけど、そんな簡単に言って良いのかなぁ」
雪穂「もしかして罠…?」チラ
真姫「〜〜」(←目回してる)
雪穂「うん、まぁ、大丈夫かな」
雪穂(…それよりも、なんだかさっきからずっと妙な気配が漂っているんだよね…)
雪穂(最初は西木野さんかと思ったけど、どうやらそれも違うみたいだし…)
雪穂(…一体、なんなの…?)ゾワ
コツコツ…
雪穂(…こんなところで戦ったら大変だろうな)
雪穂(逃げ道はさっき来た入り口だけだし…あんまり助かる気がしない…)
雪穂(そういう意味で敵がバカで良かったって思うけど…)
雪穂「…ん? あの奥にある宝箱…あれかな?」
トッ!
雪穂「うん…これだ、しっかり鍵が掛けられてる」
雪穂「この中に…Angelic Angelが…!」
雪穂「ふー…」
雪穂(ここまで大変だったけれど、ようやくお宝まで辿り着いた…)
雪穂(…でも、感慨に浸っている場合じゃないよね。穂乃果さんのことだからすぐ追いついてくるだろうし…急がなくちゃ!)
雪穂(目標は4分以内…)
雪穂(解錠はお姉ちゃん達に徹底的に鍛えられてるから余裕…!)
雪穂(…なんて、焦っちゃダメダメ…)
雪穂(怪盗の三ヶ条、その二。丁寧かつ迅速であること…だね)
カチャカチャ
雪穂(それじゃまずは、鍵のパターンを調べて…)
雪穂(えっと…このパターンは…)
雪穂(…)
雪穂(あれ…?)
カチャカチャ
カパ
雪穂「開いた――…」
👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)
雪穂「…」
雪穂「…なんで」
雪穂「なんでこの宝箱から――…」
グォン!
雪穂「――ッ!?」ゾクッ
バッ!
雪穂「な、何…!? 今の気配…」
ドンッ!ドンッ!
ガンッ!ガンッ!
雪穂「あ、あっちの宝箱から…?」
ドゴッ!ドゴッ!
ゴゴォ!グゴォ!
雪穂「な、なんかやば――…」
ドリュゥゥゥゥゥゥーーーーーー!!
雪穂「ふぇッ!?」バッ!
タン!
トン!
雪穂「…な、なにこれ…? 黒い…生命体…? めっちゃ色んな方向に伸びてるんだけど…」
シャァァァアーーーーー!!
雪穂「ひっ!?」
ズドォォン…!
雪穂「か、確実に私狙ってるよね…あの、触手…?」
雪穂「なんか男の子の読んでる漫画とかで見たことある…」
ウジュルウジュル…
雪穂「よく分かんないけど、これ…捕まったらアレだ…!」
雪穂「なんか[自主規制]とか[自主規制]とかされちゃうヤツだ…!///」
雪穂「やばいやばい…! それだけは回避しなくちゃ! 色んな意味で!!///」
雪穂「なんでこの屋敷にこんなものが…」
ジュルルルルゥゥゥーーーーーー!!
雪穂「わっ!?」
トッ
雪穂「と、とにかく今はお宝を持って逃げなきゃ…!」
キラ…
雪穂「これがAngelic Angel…」
雪穂「お姉ちゃん達が言ってた通り綺麗な羽根…吸い込まれそう…」
雪穂「って、今は見とれてる場合じゃない…!」フルフル
雪穂「よし…っ」ギュ
タタタタタタ…!
ジュラァァァァ!!
ブリュゥゥゥゥ!!
雪穂「ひぃー! どんどん増えて襲ってくるぅぅ――ッ!!」
真姫「〜〜」(気絶してる)
雪穂「…っ」
グイ
雪穂「よっ…と!」
グリユゥゥゥゥゥゥ!!
雪穂「く…ッ! 全く、なんでこんな危険な状況の中敵を助けてるんだか…!」
真姫「〜〜」
雪穂「…でも、見捨てておいたら間違いなく[自主規制]られそうだしね///」
グジュルルルゥゥゥーーーーー!!!
雪穂「うわっ!?」
ズドォォォーーーーン!!
雪穂「む、無茶苦茶だ…建物ごと破壊する気…!?」
ジュルジュルジュル…
雪穂(…っていうかこの黒い物体、本当になんなの…?)
雪穂(別の宝箱に仕舞われていたけれど…これも、西木野財閥が集めたお宝ってことだよね…?)
雪穂(お宝にしちゃ、悪趣味すぎるけど…。いや、でも金持ちの考えなんてわからないしなぁ…)チラ
真姫「〜〜」
雪穂(暴れまわる目的は何…? 狙いは私? それとも――…)
グリュウゥゥゥゥーーーー!!
雪穂「わわっ!」バッ
雪穂「もうっ! ゆっくり考えることもできないよぉ〜〜!!」
真姫「〜〜」
雪穂「っていうか西木野さん! 起きて! あの触手が何なのか教えてよ!!」
真姫「〜〜」(全然目を覚まさない)
雪穂「何のんきに寝てるの!? 緊急事態なんだよ!!」ペチペチペチ
雪穂「って、気絶させたのあたしじゃん!!」ゴーン
真姫「〜〜」ピヨピヨ
雪穂「あ〜…解錠するまでの時間が欲しかったから、最低でも4分は起きない位に眠らせちゃったからなぁ…」
雪穂「もうっ、役立たずっ!」
真姫「〜〜」クルクル
雪穂「あんたなんて触手に[自主規制]させろ!!」
ジュルルルルゥゥゥゥゥーーーー!!!
雪穂「やっぱめっちゃ狙われてるぅぅぅ――!! 犯されるぅぅぅ〜〜〜〜!!///」
穂乃果「あー…! 雪穂ちゃんみーっけ〜〜♡」
雪穂「げっ! 穂乃果さん!? あ、いや、ナイスタイミング!!」
穂乃果「もー、雪穂ちゃんったら大胆なんだからぁー、お姉さんすっかり興奮しちゃったよー///」
雪穂「バ、バカ! ヘンタイ!! そんなこと本人の前で言うな!///」
穂乃果「えー、だってぇー…///」
雪穂「って、そんな呑気に言い合いしてる場合じゃなかった…!」
穂乃果「あれー? そういえば西木野さん抱えてどうしたのー? もう勝負はついちゃったのかな? それにその後ろの黒いのはー…?」
雪穂「あ、い、いや、その、説明は後!! 今は――」
ズドォォォーーーーン!!
穂乃果「へ?」
雪穂「あれ、なんとかして下さいッ!」
穂乃果「なんとかって――」
ジュルルルゥゥゥウーーーーーー!!
穂乃果「うひゃぁぁぁぁぁ!!!」
雪穂「わぁぁぁ! 穂乃果さぁぁーーーーん!!」
ジュルジュルジュル…
穂乃果「わ…ちょ、やめ…! あ…♡ ん…♡」
穂乃果「こらっ! どこ触って…! わぁぁ、服が溶け…! んん…っ♡」
ア…ン…!
雪穂「…ぁぁぁ///」
雪穂(…やっぱ逃げておいて正解だった――っ!)
穂乃果「ゆ、雪穂ちゃん! 見てないで助け…あんっ♡」
雪穂「だ、だって、私もどうすればいいのか…!」
穂乃果「こ、このままじゃ穂乃果…っ♡」
穂乃果「[自主規制]されちゃうよぉぉ――――!! あん♡」
雪穂「…なんか少し悦んでいる気がするのは気のせいですか…?」
ドリュゥゥゥゥゥーーーーー!!
雪穂「ふぇぇ!! このままじゃ私も犯されるぅぅ――――!!」ダッ
穂乃果「雪穂ちゃぁぁぁぁん!! ひぅっ♡」
雪穂(どうしよう…このまま避け続けても消耗するだけだし…かと言って、止める方法もわからない…)
雪穂(戦う…? どうやって? 怪盗の私がアレを止められるの…?)
雪穂(うぅ…怪盗は隠れて行動するのが基本なのに…これじゃ本末転倒だよ…)
穂乃果「んんっ♡ ひぅ…っ♡」
雪穂(このまま逃げるのが正解だろうけど…それじゃ穂乃果さんが…!)
雪穂(でも穂乃果さんは警察だよ? 別に私が助ける義理は…)
雪穂(――いやいや、私だってこの前助けてもらったし! 第一、こんなの怪盗も警察も関係ない、非常事態だよ…!)
穂乃果「あん…っ♡ そこ…っ♡」
雪穂(〜〜〜〜っ!///)
雪穂「ほ、穂乃果さん! 何ですかその反応!///」
雪穂「こっちは真剣に助ける方法考えてるって言うのに! もっと緊張感持ってくださいっ!」
穂乃果「だ、だって…! 割と気持ちいいというか…ん♡ だんだんと力が…あん…♡」
雪穂「ち、力が…?」
穂乃果「…♡」
雪穂「穂乃果さん…!?」
穂乃果「――」
雪穂(意識失った――…?)
雪穂(…え、ちょ…それっと…やば…)
雪穂(だ、だってそれって…)
雪穂(死ぬ――…ってことだよね…?)
雪穂(……)
雪穂(…そんなの…)
雪穂(そんなのダメだよ…!)
ブジュルルルゥゥゥゥゥーーーーーー!!
雪穂「あ、やば…っ!」バッ
ジャァァァァァァァァーーーーーー!!
雪穂「しまっ――…!」ガシ
ウジュルウジュル…
雪穂「や…! ちょ…! くすぐった…あんっ♡」
雪穂(やば…本当にヘンな声出る…///)
雪穂(っていうか、ちょっと気持ちいいし…あっ♡)
真姫「〜〜」
雪穂「も、もう…! この人はこんな状態でも…起きな…ひぅっ♡」
ウジュルウジュル…
雪穂「穂乃果さん…は…? あぐ…っ♡」
穂乃果「――」
雪穂(…ここからじゃ…大丈夫かどうかも…わからない…)
雪穂(…って、私も捕まったんじゃ…話にならないよ…)
雪穂(私も穂乃果さんも…死んじゃう…のかな…?)
雪穂「ん…っ♡ ふぅッ…♡」
雪穂(はぅ…っ♡ あ…ダメ…なんか、だんだん意識がフワフワしてきた…///)
雪穂(ぅぅ…最悪…こんな触手に…気持ちよくされられるなんて…)
雪穂(で、でも…貞操だけは守れそうだから…良かった…)
雪穂(はぁ――…♡)
雪穂(…折角お宝は手に入れたのに、これじゃ任務失敗だなぁ…)
雪穂(絵里お姉ちゃんの為に…頑張ってたのに…ごめん…)
雪穂(お姉ちゃんの物にはなる訳じゃないけど…もう一度Angelic Angelを、見せてあげたかったなぁ…)
雪穂(すっごい綺麗だったもんね…あの光…)
雪穂(お姉ちゃんと一緒に、ゆっくり眺めたかったよ…)
雪穂(Angelic Angel…って、何なんだろう…)
雪穂(お祖母様の家宝…絶対にそれだけじゃないよね…)
雪穂(西木野財閥にある理由だって分からないし、この黒い物体のことだってよく分からない…)
雪穂(それに、さっきの宝箱――…)
雪穂(あの宝箱からは間違いなく――…)
雪穂(あー…気持ちいい――…♡)
雪穂(考えるのなんてバカらしいや――…)
雪穂(そっかぁ…考えないってこんなに気持ちいーのかぁ…♡)
雪穂(お姉ちゃんのことも…何もかも…全部…)
雪穂(お姉ちゃん――…)
雪穂(…)
雪穂(信頼してくれてたのに…ごめん――…)
ウジュルウジュル…
雪穂「――」
ズガァァァアアアァァァァンッッ!!
トッ…
ことり「…」
ことり「…はぁー…♡」
ことり「…下から雪穂ちゃんをより強く感じると思えば…♡」ペロ
ウジュルウジュル…
ことり「やっぱりこの子が出てきちゃったかぁ…」
ことり「だから、割に合わないんだよねぇ」
穂乃果「――」
雪穂「――」
ことり「まぁ、美味しいものが二つも見れたからいっか…♪」
ドリュゥゥゥゥゥゥーーーーーー!!
ことり「っ!」
トン
ことり「…全くもう、私のことは随分前に味わったでしょぉー?」
ことり「よっ――と」
ズバッ!
雪穂「――」ドサ
ことり「お帰り、雪穂ちゃん♡」
雪穂「…ぅ…」
ことり「あ、目が覚めた?」クス
雪穂「ことり…お姉ちゃん…?」
ことり「大変だったみたいだねぇ…ごめんね、さすがに今回の任務は雪穂ちゃんには辛かったみたい」
雪穂「そんな…こと…わ…私の…せいで…」
ことり「ううん、雪穂ちゃんのせいじゃないよ。だから――…」トン
雪穂「ぁ――」
ことり「今はゆっくりお休み♪」
雪穂「――」
ことり「…こんなに傷だらけで、服もボロボロになっちゃって」ナデナデ
ことり「本当に悪趣味だこと…♡」
ことり「ねぇ――真姫ちゃん?」
真姫「…――相変わらず」
真姫「人の邪魔をするのが好きみたいね、ことり…」ムクリ
ことり「それはお互い様だよぉ。…趣味の悪さも含めて、ね♡」
真姫「ふん…」
……。
ことりちゃんも経験済みとな?
そして真姫ちゃんはやられたふりして堪能してたのか…いい趣味してるな
【西木野邸・中庭 中央広場】
トトトト…!
ヒュッ!
絵里(…ん? 何かくる…!)
凛「――しッ」シュ!
ズザァァーッ!
絵里「くっ…!」バッ
凛「ふー…っ」クル
絵里(しまった、足が…)ズキ
凛「…アンタは…μ'sの南絵里…」
絵里(さっき、ことり姉さんと戦っていた警察…。マズイわね…)
絵里(この足で相手にするのは流石に無茶が過ぎるかしら…?)
凛「…」
絵里「…ことり姉さんはどうしたの? 一緒じゃないのかしら?」
凛「…知らないよ」キッ
絵里(…どうやらあの様子じゃ、ことり姉さんが一枚上手だったみたいね)
絵里(さすが…と言いたいところだけど、この子の足止めをせずにことり姉さんはどこへ…?)
絵里(順当に考えれば、雪穂の元へ向かったということでしょうけど…)
凛「――っ」グ…
絵里(何にしても、今この子の相手はできない…!)
絵里(とにかく、逃げることだけを考えなければ…)
絵里「ぐっ…」ズキ
凛「…?」
絵里(情けないわね…これぐらいのキズで弱気なことを…)
絵里(しかし、一度助けられた命…無駄にできないわ…!)
凛「…」
凛「――」プイ
絵里「っ…? 私を捕まえないの…?」
凛「…凛の相手はアンタじゃないよ。少なくとも、今は」
絵里「…私もμ'sの怪盗なのよ? いいのかしら?」
ーーダンッ!
凛「…凛の相手は南ことり、ただ一人だよ…ッ!」キッ
絵里「…」
絵里(…随分とまぁ、恨みを買ったものね…)
絵里(ことり姉さんらしいと言えばらしいけれど…)
絵里(…そんなことばかりしてると、そのうち足をすくわれるわよ――…?)
凛「…アンタ、南ことりの居場所は知ってるの?」
絵里「お生憎様。私も今、ことり姉さんと妹の雪穂を探しているの」
凛「…良かった、アンタはまともな人間なんだね」
絵里「まとも? 何のことかしら…?」
凛「///」
絵里「?」
凛「な、なんでもないよ!」ギュ…
絵里「何があったのかは分からないけれど…。ことり姉さんのことだから、ヘンに弄ばれたってとこかしら?」
凛「も、弄ばれ…///」カァー 絵里「敵の私が言うのもヘンな話だけれど、気にしないことね。あの人とまともに付き合っていたら身が持たないわよ」
凛「な、なにそれ…? アンタに何が分かるって言うの…!」
絵里「分かるわよ…姉妹なんだから」
凛「姉妹…」
絵里「ことり姉さんは持ち前の怪盗の能力を活かして、全力で人の弱みを握ってくるからね。一つ握られたら終わりよ、一生それでからかわれるわ」
凛「うぇ…なにそれ、最悪…」
絵里「それでいて実力も才能も折り紙付き、その上、口で勝てる人間を見たことないわね」
凛「確かに…とんでもない実力だったよ…色んな意味で…」
絵里「分かった? あんなのを敵として相手にするのがどれだけ大変かを。味方だって手を焼くんだから同情するわよ…」ハァ
凛「…あんなお姉さんを持って、アンタも大変だね…」
絵里「…全くね」
凛「くすくす…♪」
絵里「…ふふ」
絵里「――まぁそれでも、私の大好きな姉には変わりないのだけれど…」
凛「…」
…ゴゴゴゴゴゴ
凛「っ!?」
絵里「な、なにこの地鳴りは…!?」
ドォォォォォン…!
絵里「屋敷の方から…!? 雪穂…ッ!」ダッ
凛「あ…凛も行くよ…ッ!」ダッ
トト…トト…!
絵里(ぐ…っ! そろそろ限界が…!)ズキ
凛「…」
絵里(けど、何か胸騒ぎがする…! 早く屋敷に向かわないと…!)
凛「捕まって」バッ
絵里「え、あ…こら…っ!///」
タタタタタタタ…!!
凛「あ、意外に軽い」
絵里「軽いって…/// わ、私は敵よ…!」
凛「今はそんなこと気にしなくて良いよ。手負いの怪盗捕まえるほど、凛は卑怯じゃないもん」
絵里「…随分甘い考えを持ってるのね」
凛「別に、凛はただ怪盗を捕まえたいだけじゃないし」
絵里「…そう」
凛「納得するの…?」
絵里「それならそれでいいんじゃない。私も…助かるし」
凛「…♪」
凛「…それにしても大っきいにゃ…」
絵里「な…!?///」
……。
【西木野邸・玄関周辺】
バチバチ…!
ゴゴォ…ン…!
絵里「あ、あれは…!!」
トッ…
絵里「屋敷が燃えてる…」
凛「…な、何があったの…?」
絵里「〜〜ッ!!」
絵里(予定通りなら雪穂が既に中にいるはず…!)
絵里「雪穂…ッ!」ダッ
凛「あ、ちょ…! 無理しちゃダメだよ…!」グイ
絵里「だけど! 中に雪穂が…! 妹がいるかもしれないのよ…!!」
凛「そんなこと言ったって、この火の海の中飛び込んだらアンタが丸焦げになっちゃうよ!」
絵里「く…ッ!」
凛「…っ」
凛(でも…海未ちゃんや穂乃果ちゃんも中にいるはずだよね…。どうしよう…っ)
ゥゥ…
凛「…?」
穂乃果「ぅぅ…」
雪穂「――」
凛「ぁ…! 穂乃果ちゃん!」ダッ
絵里「雪穂!?」
穂乃果「り…ん…ちゃん…?」
凛「穂乃果ちゃん! 穂乃果ちゃん! 大丈夫!?」ユサユサ
穂乃果「…あ、あれぇ…? ここは…?」
凛「屋敷の外だよ…! 穂乃果ちゃん、中にいたの…?」
穂乃果「屋敷…? んー…何が…あったんだっけ…?」
凛「覚えて…ないの…?」
穂乃果「うんー…。あーでも…雪穂ちゃんが助けてくれようとしたのは…なんとなく覚えてるような…」
凛「μ'sの…雪穂ちゃんが…?」
穂乃果「…それにしても、気持ちよかったなぁ…♡」
凛「っていうか、何で制服ボロボロ…。え、これ、溶けてる…?」
凛「そ、それに…ほとんど見えてるよ穂乃果ちゃん…///」
穂乃果「ふぇー…? 凛ちゃんのえっちぃー…♡」
ゴン!
絵里「雪穂…! しっかりして…! 雪穂…ッ!」ユサユサ
雪穂「――…ぅ」
絵里「あ…雪穂! 気が付いたのね!」
雪穂「…え…り…お姉ちゃん…?」
絵里「そうよ…! 雪穂…大丈夫? なんともない…?」
雪穂「…う…ん…」
絵里「…良かった…っ!」ギュ
雪穂「ぁ…///」
絵里「雪穂…屋敷の中に入ったのよね…?」
雪穂「中――…?」
絵里「一体、中で何があったの…?」
雪穂「…屋敷の…中…」
雪穂「ことり…お姉ちゃんが…」
絵里「ことり姉さん…? どういうこと? もしかして、この屋敷の中にことり姉さんがいるの…!?」
雪穂「Angelic Angelを――…」
絵里「Angelic Angel…? Angelic Angelを手に入れることができたの…?」
雪穂「――…」
絵里「雪穂…!」
雪穂「…」スースー
絵里「…良かった、寝ているだけか…」
ズゥゥゥゥゥン…!!
絵里「…屋敷が!」
凛「これじゃもう、中に人がいても助からないよ…」
絵里「ことり姉さん…!!」
海未「…りぃぃ―――――――ん!!」
凛「あ、海未ちゃん…! 良かった、無事だったんだね!」
海未「はぁ…! はぁ…! これは一体何事です…!? 屋敷が…! 西木野さんは…!?」
凛「あ、そういえば…アイツもいないんだ…」
海未「私が出ている間に、一体何が…。む…っ?」クル
絵里「…くっ」
海未「そ、そこにいるのは怪盗…! μ'sの南絵里じゃないですか!!」
絵里(…しまった、この状況はマズイ…!)
絵里(私も傷を負っている上、雪穂も気を失っている…)
絵里(到底逃げられる状況じゃない…。それに――)
ガガァ…ン…!
海未「お手柄じゃないですか凛! さすが、本気の貴方は違いますね!」
凛「あ、いや…それは…」チラ
絵里「…っ」
海未「三女の雪穂もいるようですが…肝心のμ'sのリーダー、Sランク怪盗の南ことりはいないのですか…?」
凛「南ことりは…」
絵里「――――恐らく、この屋敷の中よ…」
海未「なんですって…!?」
凛「…」
海未「それでは、この屋敷の火の原因は南ことり…?」
絵里「それは、分からないけれど――…」
海未「ふむ…」
海未「…とにかく、本隊を戻して消火活動と屋敷内の探索をしないといけませんね」
海未「南ことりのこともそうですが、西木野真姫と他の生存者についても調べなければなりません」
凛「そうだね…」
絵里(これで良い…。こうなった以上、屋敷の中のことは警察に任せるしかない…)
絵里(後は――…)
海未「それと…μ'sの南絵里、南雪穂」
絵里「両名は今回の怪盗任務、不達成とし、警察がその身柄を拘束させて頂きます!」
絵里(この状況に"甘んじていいものかどうか"――…)
『このままだとお姉さん、間違いなく…』
『――死んじゃいますよ?』
絵里(…足掻けるなら、足掻きたい…が…)
雪穂「――」スースー
絵里(雪穂のことを考えるならば…その全てではない…!)
絵里(それが私の…)
絵里(姉妹としての役割…っ!)
凛「…海未ちゃん、話があるんだけど」
海未「改まってどうしたんですか凛? 貴方が珍しいですね」
凛「一言余計だよ」
絵里「…?」
凛「あのね…今日はこの二人、見逃してあげることはできないかな?」
絵里「…!?」
海未「り、凛! 何を言っているのですか! 怪盗が目の前に! しかも無防備で我々の前に曝け出しているのですよ!」
海未「これを捕まえなかったら、我々は警察失格です!」
凛「それは、分かってるけど。でもね…そこの雪穂ちゃんが、穂乃果ちゃんを助けてくれたらしいんだ」
海未「穂乃果を…? っていうか、穂乃果は一体何を…」
凛「状況はよくわからないけど、なんか異常事態だしさ。凛はこんな形でμ'sとの決着は付けたくはないよ」
絵里「凛…」
凛「それに…凛が本当に決着を付けたい相手は…この火の中かもしれないし…っ!」
海未「…」
凛「だから、μ'sとの決着はまた次回ってことに…」
海未「――それは行けませんよ凛」
凛「海未ちゃん…」
海未「我々に、怪盗側に、どんな不測の事態が起きようともお互いにすべきことは一つなのです」
海未「怪盗はお宝を盗み、警察は怪盗を捕まえる――」
海未「それだけです」
海未「だからその役割を放棄するということは、警察という肩書きを放棄することと同然なのです」
凛「…」
海未「凛の境遇は少し特殊かもしれませんが、貴方も警察という組織に組み込まれている以上…その役割は絶対です」
海未「故に、ここで貴方達μ'sを逃す訳には行きません。ルールに基づいて、怪盗を捕まえさせて頂きます」
海未「安心して下さい。屋敷の中の探索は責任を持って行います」
海未「南ことりの所在…生きていればの話ではありますが、発見でき次第報告させて頂きましょう」
海未「無論、警察で身柄は確保させて頂きますが」
海未「…いいですね? μ'sの怪盗、南絵里」
絵里「…御高説、痛み入るわね」
海未「…」
絵里「結構よ。私達も怪盗として生きている以上、相応の覚悟を持って臨んでいるからね。ジタバタと無駄な足掻きはするつもりはない…」
凛「…」
絵里「…凛、と言ったかしら? ありがとう。その気持ちだけ受け取っておくわ」
凛「…礼なんて、いらないよ。敵なんだから…」
絵里「ふふ、そうね」
絵里「…それに、貴方達にこの身を預けるならば、命の保証くらいはしてくれそうだものね…?」
海未「勿論です。命まで取ってしまったら、それこそ警察失格ですよ」
凛「…」
絵里(…それにしては、本気で命を奪いに来ていたように思えるけれど…)
絵里(この警部が指示を出していた訳じゃない…?)
絵里(まぁ…なんにしても、この二人は信用しても良さそうね)
絵里(…雪穂も心配だし…ここは大人しく捕まるしか無さそうだわ)
絵里(それよりも――…)
絵里「ことり姉さん…」
バチバチ…
ドオォォォォォン…
海未「それよりも、穂乃果はなんで半裸なんですか!?///」
穂乃果「えへへ…海未ちゃんのえっちぃー…♡」
……。
【西木野邸・外壁】
ツバサ「…どうやら捕まったようね」
希「っ…」
ツバサ「さすがに絵里さんまで捕まるとは思わなかったけれど、ことりがいなければそれもしょうがないか――…」
希「さすがに相手が悪かった、ってこと…?」
ツバサ「どうかしらね? まぁ色んな要因が重なってのことだろうけれど、μ'sが捕まるなんてよっぽどのことよ」
希「…」
ツバサ「…どの道μ'sが捕まってしまったら、私達の出番はないわね」
希「えりちに…悪いことしちゃったな…」
ツバサ「仕方ないでしょう? 相手はあの西木野財閥なんだから。貴方だって、それは知ってて依頼したんじゃないの?」
希「…ううん。そんな凄いなんて知らんよ…。あ、いや、財力が凄いってことぐらいは知ってるけど…」
ツバサ「ふぅん…? まぁいいわ」
希「…」
トッ…
「ただいま戻りましたです!」
ツバサ「お帰り、亜里沙ちゃん…♪」
亜里沙「なんとか絵里さんを助け出しましたですよ! 危なかったですー…!」
ツバサ「捕まったわよ」
亜里沙「へ?」
ツバサ「絵里さんなら雪穂ちゃんと共に捕まったわ」
亜里沙「えぇ!? それじゃ亜里沙が手助けした意味…!」
ツバサ「意味はあったわよ。――命は無事なんだから」
希「…亜里沙ちゃん、ありがとう…♪」
亜里沙「あ、と、とんでもない…っ! 希さんが喜んでくれて良かったですよ…♪」
希「ふふ…♪」 ツバサ「それにしても、中々いい動きじゃない? 急に怪盗になりたい何て言うから、どの程度かと思ったのだけれど…」
亜里沙「ふふっ♪ 亜里沙を舐めちゃ行けないのです…!」
ツバサ「それだけの実力があるならちゃんと怪盗協会の試験受けて、正式に怪盗になればいいと思うのだけれど…」
亜里沙「ぁ…それだけは…」
ツバサ「訳あり――…なんでしょ? 分かってるわよ」
亜里沙「はい…」
希「…」 ツバサ「ま、詮索はしないわ。その代わり、しっかり働いて貰うわよ?」
亜里沙「…はい! 望むところなのです!」
希「…」クス
ツバサ「ふふ…♪」
ツバサ「さぁ…これから忙しくなるわよ――!」
バサ!
亜里沙「…」
亜里沙「雪穂――…」
絵里『あと、私と同じ金髪なんだし…後ろで縛っておきなさい。それで警察は私と見間違える筈よ』
『それぐらいで勘違いしてくれますかねぇ…?』ギュ…
亜里沙「…っ」
亜里沙「――絵里…"お姉ちゃん"…」
バサ
―――――――――――――――■第三話「Angelic Angel」終
なんだかやたら長くて申し訳ない…
ここまで来ると流石に読んでいる人も少ないとは思いますが、お付き合い頂けた方はありがとうございます
例によって次は未定ですけど、しっかり終わらせられるように頑張ります 乙です
ここから姉妹交換?の謎?が明らかになるのかな、楽しみにしてます おつおつ
えりゆき捕まっちゃったかーでも色々裏がありそうだしむしろ安全?
亜里沙ちゃんがやっぱり本当の妹で南三姉妹は……ってことなのかな
ことりの行方も気になるし続き楽しみに待ってます おもしろけりゃ長くても最後までちゃんと読むから心配しないで書いてくれ 長さの割にすらすら読めるから結構読者はいると思うぞ
今回も乙でした ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています