【後日談】善子「スクールアイドル…ファイティングフェスティバル!?」 after
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先日立てたSSスレの後日談になります
スレを落としてしまったので新たにスレを立てさせていただきました
申し訳ありません
短いのでこまめに分けての投下になります
前スレURL
善子「スクールアイドル…ファイティングフェスティバル!?」
https://fate.5ch.net/test/read.cgi/lovelive/1518277117/ ===============
東京、秋葉原駅
多種多様の人々が行き交う広大な駅だ
平日の午前中である、朝の出勤ラッシュは終わりようやく満員電車の波から解放される時刻だったが
それでも人の多いことに変わりはない
急ぎ足のスーツ姿の人間の横をキャリーバッグをひく観光客の群れがすれ違い
その前を夏休みの学生であろう若い集団が通る
広い通路が人波であふれている
その場所を周囲の目をひく一人の少女が人混みを縫うように歩いていた
カラスの濡れ羽色という表現が似合う艶やかな黒髪、やや小柄ながらも整った体型
容姿も鼻筋がくっきりと浮かび上がる可憐な顔立ちをしていた
しかしその顔立ちに似合わない擦り傷の跡や切り傷がその顔にはあった
そのアンバランスさが人目を引いてしまうのである
今も横を通った学生たちがちらりと少女の顔に目をやり、通り過ぎて行った
その視線に少女──津島善子が居心地悪そうに顔をしかめ、そっと右の目尻の切り傷をなでる 「こういうので視線集めるのは嫌ね…」
一人善子が呟く
昨日の試合──理亞との戦いの中で負った傷であった
あの戦いの後、結構なダメージを受けたためリングドクターに簡単な診察を受けた
脳に重いダメージを受けているようなことはなく、身体中に打撲の跡があったがほぼ軽いものだった
顔も擦り傷や切り傷はあるがヘッドギアのおかげで腫れはほとんどなかった
ただ左足が集中的にダメージを受けたせいで大きな打撲の跡があり、足首も靭帯を少し痛めていた
身体のそこらに湿布が貼られ、左足首にはテーピングがされている
そんな状態、しかも一人でわざわざこの秋葉原駅を訪れているのは目的があったからだ
ある人物と二人きりで話したかったからである
人混みを抜け、駅の出口を過ぎある店の前にたどり着く
別に特別な店ではない、全国的にも有名なチェーン店のカフェだ
目的の人物とはここで待ち合わせる予定なのである まだ昼には時間があるというのに店内はそこそこの人でにぎわっていた
善子は店内に入り、注文口のカウンターに行く前に店内を見回し、待ち合わせ相手を探す
目的の人物はまだいない様子だった
そのことにホッと胸をなでおろすと、背後で魅せの扉が開く音が聞こえた
善子が振り向くと、一人の少女が店内に足を踏み入れるところであった
赤みがかった紫の髪、善子よりも数センチ低い身長
勝気な印象を与えるやや吊り上がりながらも、大きく開かれた意思の強さを感じさせる目
顔立ちにはまだ幼さが残り、その目と合わさって瑞々しい力を感じさせる魅力的な顔をしていた
その顔に、善子と同じように擦り傷のあとがいくつか浮かんでいる
善子とその少女が眼を合わせる
すると同時に時が止まったように二人の動きが止まった
沈黙の時間が僅かに流れる
「・・・・・・えーっと・・・待たせたかしら、善子」
店に入って来た少女──鹿角理亞が、沈黙を破って口を開いた ===================
善子と理亞が、互いに向き合ってカフェの席に座っている
その前には既に注文した飲み物が置かれている
善子は苺の香りが漂う鮮やかなピンクの冷たいフラペチーノ
上に乗ったクリームに苺のソースがかけられていて見栄えのよい一品だ
理亞も同じく冷たいフラペチーノを頼んだが、イチゴ味ではなくキャラメル風味のものを頼んでいる
しかし既にプラスチックのカップに滴っている水滴が流れ落ち、テーブルの上に輪が作られていた
手を付けられていないまま時間が経っているのである 「・・・あー、その・・・」
善子が口を開いた
今回、理亞に会いたいと言ったのは善子であった
とにかく理亞が函館に帰る前に一度話したいと思ったからである
そも勝者から敗者に声をかけさせるわけにもいかない
という訳で理亞を昨夜誘い、今日ここで待ち合わせたのである
しかし、いざ実際に顔を合わせてみると不思議なほどに言葉が出てこない
昨日の戦いで言葉は使わず全てを伝えてしまった気がするし、それでも足りない気もしていた
まず何を言えばいいのか
全く頭が回らない
口を開いたはいいが言葉が纏まらず、言葉が詰まる 「・・・と、とりあえず飲みましょうよ、ぬるくなっちゃうし」
「あ、ええ・・・そうね、飲もっか」
困った挙句そんな言葉が出てくる
理亞も何を言っていいのかわからないらしく、とりあえず頷いた
善子がカップを手に取って口を運び、少し遅れて理亞がカップを持ち上げる
すると同時に──
「「痛ッ!?」」
同じ声が響いた
善子は顎を押さえ、理亞は右肘を押さえた
その声を聞いて互いが目を丸くし、二人がカップを置いて相手の顔を見つめる 「あー、理亞、その右肘って・・・」
「そうよ、あんたの飛び付き腕十字でやられたのがまだ結構痛むの!」
「やっぱり?」
理亞が声を荒げ、善子が苦笑いを浮かべる
その様子を見て理亞が目を尖らせた
「で、善子・・・あんたのその顎は?」
「決まってるじゃない、誰かさんがしこたま叩いたから口開けるだけで痛いのよ!」
「うん、覚えがあるわ、たっくさんね」
今度は善子が声を荒げる番だった
その言葉に理亞が少しだけ得意気に頷き、善子が目を尖らせる 「ていうか、滅茶苦茶痛かったのよ!特にボディ!何回息できなくなったと思ってんの!?」
「はぁ!?そんなこと言いながらボディを餌にしてアキレス腱狙ったの誰よ!!」
「私よ!」
「分かってるわよ!」
二人が声を荒げながら言い争う
しかし言い争いながらもその内容は相手を貶すような言葉ではなく
むしろ裏では相手を称えるような、そんな言葉だった 「それと理亞!あんたのローキックめちゃ痛いのよ!今もちょっと左足引きずってんだからね!」
「あのねぇ・・・善子、私だってあのアキレス腱固めでまだ足首痛いのよ!」
「で、あの逆立ち蹴りなんなのよ!?あれからちょっと記憶飛んでんのよ!」
「それでも寝技に行ったらマウントとってきたじゃない!どんな根性してんのよ!」
「理亞だって何回も極めにいったのにギリッギリで耐えてたじゃない、めちゃ悔しいのよあれ!」
「もう根性しかないわよあんなの!怖かったんだからね!本当に・・・本当に・・・」
理亞が言葉を詰まらせた、善子もその様子に口をつぐむ
小さく身体が震えている
震えを抑えるように息をついて理亞が自分の右肘を押さえる 「・・・恐かったわ、善子」
「理亞・・・」
「あんたが恐かった、何度殴っても蹴っても前にくる善子、あんたが恐かった」
「・・・」
「強かったわ、最後の判定・・・私が負──」
「止めなさい、理亞」
理亞の言葉を善子が遮った
そしてジッと強い力を籠めた瞳で理亞の目を見つめる
「その言葉は嬉しいけど昨日の試合は私の負けよ、判定だとかそんなの関係ない、負けなのよ」
「善子・・・」
そう言葉にしながら、心を落ち着かせるように善子が目の前に置かれている飲み物を口に含む
多少顎が痛むが今は気にならなかった
心地よい冷たさと苺の酸味がスッと喉を通り、幾分か心が落ち着く
そしてカップを置き、ゆっくりと口を開く 「私も恐かったのよ。理亞、あんたが心底恐かったの」
「・・・」
「本当に崖っぷちだったのよ、本気で殺されるんじゃないかと錯覚したわ、戦ってる間に
あんたがライオンみたいな獣に見えたもの」
「・・・そう、だよね、ごめん善子」
「謝らなくていいわよ、言ったでしょ、理亞の言葉は嬉しいけどって」
俯いて謝る理亞に対し、善子が微笑みながら言った
そして俯いている理亞に対し、その目の前に置かれているカップをそっと指で押す 「・・・善子?」
「いいからちょっとは飲みなさいよ、これじゃどっちが勝ったんだかわかんないじゃない」
善子が自分のカップを手に取り、ストローをくわえながらそう言った
理亞が言われるがままにキャラメル色のソースがかかったカップをそっと手に取り
ストローをくわえ少し口に含んで小さく喉を鳴らした 「・・・美味しい」
甘いキャラメルの風味が漂う味に、理亞が小さく微笑む
その落ち着いた様子を見て善子がホッと息をついた
さっきとはうってかわって、じっくりとした沈黙が二人を包んだ
昨日互いに身体を通して伝えあったことの一部を、言葉で確かめ合うことができた
それでもう満足だった
お互いに同じ気持ちだったということがわかったのならそれ以上はもう必要ない
互いの身体に刻まれた無数の戦いの跡が、全てを語っていると言っても良かった
「・・・ねぇ、理亞」
「どうしたの、善子」
そう思いながらも善子が口を開いた
まだ一つだけ、昨日の戦いについて伝えておきたい言葉があったのである 「楽しかったわ、ありがとう」
穏やかな笑みを浮かべ、そう伝える
これだけは言葉にのせて、しっかりと伝えたかった
思い返してみれば、これだけを理亞に伝えたかったのかもしれない
この言葉は勝利者の理亞に言わせるわけにはいかなかった
負けた自分だからこそ、伝えられる言葉がある
その為に善子は理亞に会いたかったのだと、今理解した 理亞が善子の想いの籠った言葉を受け、静かに頷く
そしてようやく言えるとでもいったように、スッキリとした表情で口を開いた
「私もよ、善子・・・楽しかった」
「そっか・・・」
善子が小さく頷く
その後は沈黙が続いた
カップの中身が無くなるまで、二人はじっくりと味わうようにその沈黙を保っていた
そして二人のカップが空になった時、善子が席から立ち上がった
気が付けば店内の客が増えていた
いつのまにやら時間が経って時計の針も十二時を差そうとしている 「出ましょっか」
「ええ」
理亞が空のカップを手に立ち上がる
込んできたカウンター前に人波をくぐり空のカップを捨て、店を出た
冷房の効いた店内から出るとほぼ真上に上った太陽の光が降り注ぎ
コンクリートの熱気が地面からも立ち上ってくる
「そうだ理亞、あんたこれから予定あるの?」
「ふふっ、これから友達と秋葉めぐるつもりよ、これから合流するの」
「あー、じゃあ、その・・・花丸とルビィも呼んで、みんなで一緒に巡らない?」
「一応友達に聞いてみる、ま、オッケーだと思うけどね、むしろ喜ばれるかも」
楽しげに理亞が笑った
昨日の試合中の笑みとは違う、年相応の可愛らしい笑みだった 「あ、そうだ・・・理亞、その前に一つ宣言しとくわね」
「どうしたのよ?」
首をかしげる理亞に、ニヤリと善子が笑い
いつもの堕天使ポーズを決めながらビシっと理亞に向かって指を差す
「昨日私は負けました、ですが、次のラブライブではこの堕天使ヨハネが勝利してみせる!」
力強く、善子が宣言する
理亞がその宣言に善子と同じくニヤリと笑って、答える 「受けて立つわ・・・残念だけど、次に勝つのもこの私、鹿角理亞よ!善子!」
「だからヨハネ!最後くらいヨハネって言いなさいよ!」
人々が行き交う駅前、その喧騒を引き裂く善子の声が響き渡る
多くの少女たちが戦いを繰り広げた格闘の祭典
ある者は夢破れた過去を、ある者は何も見えない未来を
それぞれ胸の中にある堪えられない思いを胸にリングに立ち
そしてそれぞれ何かを掴み、自分たちの生活に帰って行った
少女たちは新たに未来を見据え、歩き出し、自分たちの戦う場所へと進む
その戦いの果てになにがあるのか分からない
しかし昨日の短い戦いの果てに見た景色が少女たちの心に焼き付いていた 以上で終了になります
色々と手際の悪いところがあり申し訳ありませんでした
読んで下さった方々本当にありがとうございます
これからabemaTVなんかでラブライブを見るついでにちょろっと
格闘チャンネルなんかを覗いて興味もってくださると嬉しいです ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています