花丸「紅い唇」
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「―――ふぅ」
読み終えた小説をぱたんと閉じて、マルは一息。
この本―――浦女の図書室の最後の購入リストの中にあった、1冊なんだ。
もう廃校になっちゃうから―――図書室の購入リクエストも、これでおしまい。
浦女が無くなっちゃうのも、もちろん寂しいけど。
この図書室の本棚には、もう―――本が増えることも無い。
ううん、むしろ―――
最近置かれたばっかりの本棚も、もう古くなって歪んじゃった本棚も―――
そこに住む本たちも、それを読む生徒も、みんな――――
ここから、いなくなっちゃう。
実際、もう学校の備品は少しずつ片付けられていて―――
図書室も例外じゃない。 「すっ―――」
「好きな人ぉ!?」
鞠莉ちゃんの一言で、ルビィちゃんとヨハネちゃんが立ち上がる。
「ウ、ウソでしょマル!?」
「ど、どんな人!?ルビィも会ってみたい―――あ、でも男の人は苦手だから、えっと―――」
2人の声が頭に入ってこない。
耳たぶが熱くなるのを感じる。
「って――――もしかして、本当に―――?」
鞠莉ちゃんの笑顔が少し引きつる。
「そ、そうだわマル!ちょっと来てくれる?」
鞠莉ちゃんに腕を引っ張られて、マルは教室を飛び出した。 鞠莉ちゃんに連れられてやってきたのは、屋上だった。
太陽の光を浴びて、キラキラ光る駿河湾がまぶしい。
「――ごめん、マル。冗談のつもりだったんだけど―――まさか本当に、恋しちゃってるなんて」
恋。
本の中では、何度も経験してきた。
物語の世界の恋なら、熟知している。
Aqoursの曲で恋の歌も、そんな物語の世界の恋を想像しながら歌ってた。
でも、現実の世界の恋は――――知らない。
「恋、なのかな」
「……ん?どういうこと?」 「オラ、恋なんてしたことないから、本当に恋かわからないんだぁ」
「う〜ん」
「それに―――」
「それに?」
「―――鞠莉ちゃん、誰にも言わない?」
「もちろん!マリーは味方よ♪」
「……じゃあ、お話、聞いてほしいずら」
オラは、ルビィちゃんの名前を出すのは伏せたけど―――
あの小説を読んでからのことを、鞠莉ちゃんに話した。
「そ、そっか―――ええと」
いつも飄々と、ハキハキとしている鞠莉ちゃんが―――珍しく、言い淀んでいる。 「それはきっと―――恋に、"なってしまった"のかもね」
「なってしまった……?」
「マルはその友達のこと、ずっと大切だったんでしょう?」
「うん」
「きっとそれは―――その気持ちは、friendship…"友情"だったんだと思うの」
「でも、小説がきっかけで、それはlove―――"愛情"に変わったんだわ―――なんてね☆」
鞠莉ちゃんの言葉を聞いて、なんとなく――――
はっきりしたような、気がした。
「あ、えっと―――マル?」
「そうかも、しれないずら」
「え?」
「マル、このもやもやが何かわかって、ちょっとだけスッキリしたずら」
「え、ええ!それならよかったわ!」
「お話聞いてくれてありがとう、鞠莉ちゃん」
マルは屋上を後にした。
「あれってゼッタイ―――ルビィのことよねぇ……」 この厨ニ表示…前にG's設定の短編集書いてた人かな?
めっちゃ期待 >>1です
キーボードがお亡くなりになったため、続きは明日投下します
ほんとすみません 「あ、帰ってきた」
「マルちゃん、なんのお話だったの?」
教室に戻ると、善子ちゃんとルビィちゃんが心配そうに声を掛けてくれた。
「ねえ、好きな人ができたって本当なの?」
「よ、よっちゃん!?その話はやめようってさっき決めたよね―――」
「あっ―――ごめん」
「うーん……わからないずら」
「わからない?」
「そう。マル、恋なんてしたことなかったから。だから、まだわからないずら♪」
「ふぅん……」
「あ、そうだマルちゃん!欲しい本が出たんだけど、今日一緒にマルサン行かない?」
「えっと―――」
「―――もしかして、お寺のご用事とかある?」 「そうじゃないけど、オラ―――放課後は教室で、図書委員の集まりがあるから」
「じゃあ―――図書室で待ってるね。読みたい本あるし♡ よっちゃんは?」
「私は―――やめとく。今日は行きたいところがあるから」
「そっか」
「あの、ルビィちゃん―――」
キーン、コーン――――。
お昼休み終了のチャイムが、マルの言葉を遮った。
「ん?どしたの、マルちゃん」
「―――ううん、なんでもないずら」 「次なんだっけ?」
「古典だよ。よっちゃん、あの宿題やった?」
「やってなーい。あんな難しい問題、わかるわけないもの」
「えへへ、だよね……マルちゃんはわかった?」
「えっと―――」
ぺらぺらとノートをめくり、ふたりに見せる。
「わぁ―――すごい!さすがマルちゃん♪ねね、ちょっと見せて?」
「もちろんずら!」
「えへへ、ありがとぉ♡」
机に手をついて、ぴょんぴょんと跳ねるルビィちゃん。
飛び跳ねる度にふわりと、ルビィちゃんの匂いがする。
かわいいなぁ、ルビィちゃん。 さすが鞠莉ちゃん―――
マルのお悩みを、すぱっと解決してしまったずら。
オラの心を覆っていたもやもやは―――
胸を刺すちくちくは、今はむしろ心地良い。
さっきまで、眩しくて見えなかった彼女の笑顔も、
この世の何よりも美しく見えた。
―――そっか。
この気持ちが―――そうなんだ。
マルは、幼馴染に恋をした。 今日の図書委員の議題は、残った本の行先を決めるものだった。
生徒向けのポスターを作ったり、図書館や他の学校に電話したり。
浦女の図書室って、あんまり人は来てなかったんだけど―――
図書委員のみんなや先生たちはすごく一生懸命に活動していて。
みんな本を大事にしてくれているんだな、って―――マルは感動しました。
そのおかげで思っていたよりも時間がかかっちゃって―――日も落ち始めていた。
ルビィちゃんが待っている図書室へと向かう。
その足は軽くて―――朝、教室に入るのを躊躇っていたのがウソのようだった。
ルビィちゃんに会いたい。
今すぐ、ルビィちゃんを、感じたい。 「ルビィちゃん、お待たせ!」
がらっ、と勢いよく扉を開ける。
奥の机に、紅い髪がちらりと見えた。
―――ルビィちゃんだ♡
「ごめんねルビィちゃん、すっかり遅くなっちゃった。マルサン閉まっちゃうし、急いで―――」
と―――そこまで言って、初めて。
安らかな寝息に気づいた。
開きっぱなしの本は、ルビィちゃんの涎で濡れている。
あぁ、またやっちゃった―――。 仕方ないなぁ、とマルはハンカチを取り出して―――
口から零れ、頬まで達した涎を拭く。
枕になった本をそっと抜き出して―――
これくらいだったら、大丈夫かな。
水分をハンカチでふき取って、濡れたページにコピー用紙を挟む。
本を乾かしていたら、春のことを思い出した。
ヨハネちゃん―――あのときはまだ、善子ちゃんだったっけ。
ヨハネちゃんがリクエストしたアイドル図鑑を、ルビィちゃんが涎でべたべたにしちゃって―――
そこから、ちょっとずつ、ヨハネちゃんと話すようになって。
まだ、1年も経っていないのに―――なんだか、懐かしいな。
ページを扇風機の風に当てて、水気を飛ばす。
うん、そろそろいいかな―――
コピー用紙を新しいものに交換して本を閉じ、重しをする。
これでよし。 置きっぱなしのハンカチを仕舞おうと思って―――
涎を拭いて湿った部分に、ふと指が触れた。
…………。
う、うわあああああああ〜〜〜〜!
何を考えてるの、オラは―――!
……でも。
―――誰も、見ていない。
――――ちょっとくらい。
そう思って。
ルビィちゃんの涎を拭いた、そのハンカチを―――――
ちろりと。
舐めた。 胸のドキドキが止まらない。
ルビィちゃんへの気持ちが―――
いけないことをしている背徳感が、興奮が―――
なにもかもが、おさまらない。
「ルビィちゃん」
耳元でつぶやき、ぷにと頬をつつく。
起きない。
大丈夫。
こうなったルビィちゃんは、なかなか起きない。 ルビィちゃんのことなら―――ダイヤちゃんだって負けないくらい知っている。
かがんでルビィちゃんの顔を覗き込む。
綺麗な寝顔。
マルの世界で、一番愛おしい寝顔。
ゆっくりと――――顔を、近づける。
ほんのちょっとだけなら、いいよね。
唇を少しだけ尖らせて、目を閉じる。
ルビィちゃん、
大好き―――――――――。 頭にぴりぴりとしたものが走る。
―――――快楽。
紅玉のような彼女の唇は、私の脳を溶かしてしまうような、甘さだった。
いや――――実際、溶かされてしまったのかもしれない。
ルビィちゃんのことしか、考えられない。
愛しくてたまらない。
惜しいけれど唇を離して、そっと目を開けると―――――
「……」
ルビィちゃんと、目が合った。 慌てて飛び退いたけれど―――唇を、糸が伝っていた。
言い逃れはできない。
誰も見ていないわけがなかったんだ。
ここはミッションスクールの浦の星女学院。
マルはお寺の娘。
誰も見ていないように見えても―――神様はちゃんと見ている。
悪いことをしたら、罰が当たるずら。
「ま、マルちゃん―――」
ルビィちゃんが立ち上がった。
血の気が引くのを感じる。
近づいてくるルビィちゃんが怖くて、後ずさってしまう。 ――――怖い。
ルビィちゃんに嫌われた。
マルはいけないことをした。
勘違いしていたんだ。
あの小説の女の子に似ているからって、自分を主役だって勘違いしてた。
でも本当は違う。
オラは所詮ただの脇役で――――
主役のルビィちゃんに、触れていい人間じゃなかった。
それを履き違えて、ルビィちゃんを汚してしまった。
ルビィちゃんに嫌われた。
ルビィちゃん、
ごめんなさい――――――― えっと―――
ルビィ、マルちゃんの図書委員が終わるのを待ってる間、本を読んでたんだけど。
寝ちゃってたみたいで。
起きたらなんだか、息苦しくて。
唇がすごく熱くて。
目を開けたら、目の前にマルちゃんが居て。
何が起こってるのか、全然わからなくて――――
じーっとしてたら、マルちゃんの顔が離れて――――それと同時に、息苦しさも無くなった。
なんだか顔が真っ赤なマルちゃんを見つめていたら、ばっちり目が合って。
マルちゃんの口から、糸が引いているのが見えた。 ルビィの口も、なんだか湿っているような気がして――――
口元に手を当ててみる。
――――ルビィ、またよだれ垂らして寝てた?
じゃ――――ないよね。
いや――――そうかもしれないけど。
じゃあ、なんでマルちゃんの口から、ルビィの方に糸が伸びていたの?
……。
あの息苦しい感じ。
唇に残ってる感覚。
もしかして――――
ち、ちち――――――ちゅー、してた、とか。 ―――――あ、あわわわわわわ!!
みるみる顔が熱くなるのがわかった。
熱くて、熱くて、このまま燃えて死んじゃうんじゃないかってくらい、熱かった。
「ま、マルちゃ――――」
うまく、声が出せない。
だからマルちゃんに声が聞こえるように、近づこうとしたら――――
さっきまで真っ赤だったマルちゃんの顔は真っ青になって。
ふらふらと後ずさりして――――
「ごめんなさい――――」
ばたん―――って、糸が切れたみたいに倒れた。
「マルちゃん!?」 ぼんやりと―――意識が戻ってきた。
目を開けようとしたけれど―――
窓から差す夕焼けの眩しさに、また目を閉じてしまう。
「―――マルちゃん!」
「ルビィ、ちゃん―――」
「よかったぁ、目が覚めて―――突然倒れちゃったから、びっくりしたよぉ」
涙目のルビィちゃんが、上から覗きこんでくる。
気まずくて、ぷいと顔を逸らすと―――
目の前にあるのは、ルビィちゃんのお腹。
「あ、ごめんね。ルビィの膝じゃ、寝心地悪かったかな―――」
「ひゃあああ!」
ごん―――と。
慌てて飛び起きたら、ルビィちゃんとオラの頭が、鈍い音を立ててぶつかった。 「いたた……だ、大丈夫、マルちゃん―――」
ルビィちゃんが、オラを心配して伸ばしてくれたその手を―――払ってしまった。
「―――マル、ちゃん……?」
ルビィちゃんがまた、泣きそうになる。
「―――駄目だよ、ルビィちゃん。オラ―――ルビィちゃんに触られる資格なんて、ないずら」
あんなことをしてしまったんだから――
本来なら、もうここで―――
言葉を交わす資格すら、ない。 「そんなこと、言わないで」
ルビィちゃんは目を擦って、泣くのを必死に我慢して―――震える声でオラに話しかける。
「マルちゃん、覚えてるかな―――ルビィたちが、仲良しになったきっかけ」
「そんなの―――忘れるわけ、ないよ」
幼稚園のお泊り会の夜。
怖くておトイレに行けなかったマルに、手を差し伸べてくれたルビィちゃん。
自分だって怖くて仕方なかったのに、オラを助けてくれたルビィちゃん。
忘れたくても、忘れられない。
生まれ変わったって、絶対覚えてる。
「あの時もルビィ、こうやって手を伸ばしてたよね」
オラが払った手を、ルビィちゃんは―――再び、伸ばす。
「マルちゃんに資格が無いなら、ルビィがあげる」 「だって、マルちゃん、は―――ルビィの、一生の、大切なっ、人、だからっ……」
「ぜったい、ずっと、いっしょ、だからっ……!」
涙がぼろぼろと零れる。
オラも、つられて泣いてしまう。
「でもっ…でもオラ、ひどいことを―――」
「ひどくないよっ!!」
「マルちゃん、キスってね、っ―――大好きな人と、するんだよっ……」
「マルちゃんが、ルビィにキスしたのは、嫌いだから?」
それは―――それだけは、絶対に、違う。
「エヘヘ―――;だよね♡」 「ルビィたち、女の子同士だし―――ビックリもしたけど」
「でも、ルビィも、マルちゃんのこと―――大好きだから」
――――――――――――――――――――――――――――。
「えへへ、お返しっ♡」
「あ、あ―――」
「……な、なんて―――恥ずかしいね」
言うに事を欠いたマルは―――
「も―――もう、こんな時間ずら。早く行かないと、書店、閉まっちゃうよ」
なんて言って、誤魔化そうとした。
「いいよぉ、今度で」 「でも―――」
「本はいつでも読めるし、買えるでしょ?」
「今日はルビィ、マルちゃんとずっと一緒に居たい気分なんだぁ♪」
「―――ルビィちゃんが、そう言うなら」
「うんっ♪新しい本の代わりに―――この図書室のオススメの本、教えて?」
「でも、オラの好きな本って、ルビィちゃんにはちょっと―――」
「いいからっ!」
すくっと立ち上がったルビィちゃんはまた、手を伸ばす。
「―――いこ♡」
オラは、その手をぎゅっと握る。
「―――うんっ♡」 おわりです
グッダグダになってしまって大変申し訳ございませんでした おつおつ
すごくよかった
ルビまるのぴゅあぴゅあな恋もっと流行って いいねスタンプを連打したい
キャラがみんないい子で涙出るよ… ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています