花丸「紅い唇」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/05(日) 23:47:28.25ID:rpEihqQk
「―――ふぅ」

読み終えた小説をぱたんと閉じて、マルは一息。


この本―――浦女の図書室の最後の購入リストの中にあった、1冊なんだ。

もう廃校になっちゃうから―――図書室の購入リクエストも、これでおしまい。

浦女が無くなっちゃうのも、もちろん寂しいけど。


この図書室の本棚には、もう―――本が増えることも無い。


ううん、むしろ―――

最近置かれたばっかりの本棚も、もう古くなって歪んじゃった本棚も―――

そこに住む本たちも、それを読む生徒も、みんな――――

ここから、いなくなっちゃう。


実際、もう学校の備品は少しずつ片付けられていて―――

図書室も例外じゃない。
0002名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/05(日) 23:49:22.62ID:rpEihqQk
いくつかの本棚は、もう空になった。

そこに居た本たちは、生徒たちが貰っていった。


オラたちは、統合した学校に行くことになるけれど―――

貰われていった本たちは、生徒たちが大切にしてくれるけれど。

じゃあ、居場所のなくなった本たちは、どこに行くんだろう?

ふと、そんな考えが頭をよぎった。


きっとオラたちの行く学校の図書室でまた会える本は、ほんの少しで―――

沼津の図書館や他の学校の図書室に行く本もいれば―――

処分されて、二度と誰にも読んでもらえない本もいる。


そう思うと、マルは寂しくて、寂しくて仕方なくて。

居ても立っても居られなくて―――

今まで読んだことのなかった本も、苦手で遠ざけていた本も、全部読んでみようって。

そう決めたオラは、暇さえあれば図書室に引きこもるようになったのでした。
0003名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/05(日) 23:52:01.75ID:rpEihqQk
えっと、それで―――

この本は、ちょっと前に流行ったネットの小説が、本になったもの、みたいで。

オラ、そういうのはあんまり読まないんだけど―――


その、えぇっと―――すごく、は、恥ずかしい、描写が、あって―――。

えっと―――その、男女のそういうシーンなら、他の本でもたまに目にはしていたんだけど。


この小説の主人公は女の子で、ヒロインも女の子で。

最後に―――


「マル〜〜?」

「ひゃあ!!」


がらっと、突然勢いよく開いたドアに―――マルはおかしな声をあげてしまいました。
0004名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/05(日) 23:55:12.87ID:rpEihqQk
「わっ―――」


ドアを開けたのは、ヨハネちゃんでした。

オラの声にびっくりしたヨハネちゃんは、転んで、机に頭をぶつけて―――

あっ!

その机の上には、積まれた本が――――


どさどさどさ―――。


倒れたヨハネちゃんの上に、何冊も本がのしかかる。


「うぅ……」


ヨハネちゃん―――本当に、小説の登場人物みたいな不幸ぶりずら……。
0005名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/05(日) 23:58:11.87ID:rpEihqQk
「ふぅ―――変なとこぶつけなくて済んでよかったわ」

「よっちゃん、大丈夫?」

「ええ、大丈夫。もう―――いくら読むのに夢中だったからって、本を積んでおくのはやめてよね」

「うん、ごめんなさい……」

「そ―――そんなに落ち込まないでよ。マルちゃんのせいじゃないし―――それで、今日は何読んでたの?」

「えっ!?え、っと―――」

「―――あ、これこれ!映画がすごく私好みだったから、本になってるのを知って探してたのよ♪」


ヨハネちゃんは、マルがさっきまで読んでいた本を手に取って―――

上機嫌で、貸出カードに名前を書いている。


「これ―――読んでたの?」

「えっ――――と、その……うん、さっき読み終わった、ところで―――」

「へえ、意外―――マルちゃんって、こういうの読まないと思ってたのに」
0006名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:00:54.83ID:L8Flrlaf
「ねえ、ところで―――」

「な、なに?」


「この小説の主人公とヒロイン、マルちゃんとルビィに似てなかった?」


「な、なななな――――――」


顔が、かぁっと熱くなるのがわかった。


そう、この小説の主人公と、ヒロインは―――


「弱気な女の子がふたり、お互いに引っ張り合って―――なんて、

映画を観てる時からマルとルビィみたいだって思ってたのよ。

でもまさか、最後があんなことになるなんて思わなかったけれどね。女の子同士で―――――」


「わあああああああ!!!」


オラは耳をふさいで大声を上げてしまって―――


「ちょ、ちょっとどうしたの?大丈夫?」


わああああああああ、聞こえない、聞こえない――――!
0007名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:03:25.70ID:L8Flrlaf
……その、ね。


この小説は、気弱な女の子ふたりが力を合わせて困難を乗り越えていくお話、なんだけど。

マルはビルドゥングスロマンは好きだし(成長物語のことずら)

文章も読みやすくて、スラスラ読めたんだぁ。


そ、それでね。

主人公もヒロインも、お互いのことを大切に想っていて―――

最後の、シーンで―――――

2人は、お互いの気持ちを確かめ合って、き、きき、―――――


キスを、するの。


ヨハネちゃんが言う通り、小説の主人公は、なんだかオラに似てて―――

ヒロインの子は、ルビィちゃんに似てるなって、思ってて。
0008名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:07:36.07ID:L8Flrlaf
マルはいつも、本を読むと夢中になって―――

主人公がオラと似ているから、余計に、物語の中に居るように錯覚して。


頭の中で、ルビィちゃんと――――


「ねえ、マルちゃん」

「ひゃああああ――――あ、よ、よっちゃん」

「ホントに大丈夫?……これ、カードにハンコ、押してくれる?」

「あ、わ、わかったずら」


カードに日付の入ったハンコを押して、ヨハネちゃんに返す。


「はい、お待たせ……」
0010名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:12:31.18ID:L8Flrlaf
「ん、ありがと。今日は練習無いけど―――マルちゃんは、まだ図書室に残ってるの?」


うん―――って声を出したつもりだったんだけど、ヨハネちゃんは首をかしげている。

こくり、と頷いて意思を示す。


「顔も赤いし―――帰った方がいいんじゃない?今日のマルちゃん、ちょっと変よ?」

「でも、ルビィちゃんを待ってないといけないし、図書室の当番も、もう少し残ってないとだから―――」

「だったら私が待ってるわ。ルビィには伝えておくから―――
それに、当番って言っても、ハンコ押すだけでしょ?」

「でも―――」


でも。

たしかに、今、ルビィちゃんを見たら――――


ううん。


見れない、気がするずら……。
0011名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:19:07.69ID:L8Flrlaf
「じゃあ―――お願い、してもいい……?」

「いいって言ってるでしょ。本は読まないで、早く寝るのよ?」

「ありがとう、ヨハネちゃん―――ヨハネちゃんは、堕天使なのに、優しいよね」

「ほら、今はいいから―――早く帰りなさいよ」


ちょっとだけ赤くなったヨハネちゃんは、マルの代わりに席に座ってくれた。


優しい堕天使のヨハネちゃんに後を託して―――


マルはふらふらと、帰路につくのでした。
0012名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:20:35.75ID:L8Flrlaf
―――その紅い果実は、この世の何よりも甘美なものだった。

―――いつも手と手を重ねていたように、唇をそっと重ねるだけで。

―――この身で、これ以上ないくらいに、たしかに彼女の存在を感じられた。


「うぅ……」


帰ってから寝るまで―――ううん、寝て起きても。

あの小説のキスシーンは、マルの頭の中をず〜〜〜っと、ぐるぐるしていた。


教室の前まで来て、ドアにかけた手が止まる。


もしも――――――


あ。


オラ―――今、なんて酷いことを考えたんだろう。
0013名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:25:36.35ID:L8Flrlaf
"ルビィちゃんが居たらどうしよう"


そんなことを、思ってしまった。

この世界で一番大切な、マルのお友達。

そんなルビィちゃんを―――


「―――最低ずら」


「何が?」

「きゃああ!!」

「わっ、ちょ―――まだ治ってないの?」


マルが悲鳴を上げて振り向くと、そこにいたのはヨハネちゃん。
0015名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:27:16.83ID:L8Flrlaf
「よっちゃん……その―――昨日はありがとう」

「それは別にいいんだけど―――大丈夫?」

「大丈夫って―――なにが?」

「いや、なにが?じゃなくて―――昨日と何も変わってないように見えるけど」

「う―――」


図星―――ヨハネちゃん、鋭いずら……。


「―――あら? 2人揃って、教室の前で何をしているの?」


不思議そうに声をかけてきたのは、ダイヤちゃんでした。
0016名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:31:21.10ID:L8Flrlaf
「あぁ、そういえば―――マルちゃん、具合が悪かったの?」

「え?」

「ルビィも昨日心配していたわ。大丈夫?」

「う、うん―――」

「ならいいけど。無理しないようにしてね」

「ありがとう……」

「そういえばルビィは?教室にも居なかったけど」

「あの子ならまた寝坊よ」

「ふぅん―――」


「は、はぁ、はぁ―――ま、間に合ったぁ!」


その声を聞いて、オラの身体はびくん、と跳ねた。
0017名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:36:17.22ID:L8Flrlaf
「あら、今日は間に合ったのね」

「お姉ちゃん、酷いよぉ―――なんで、いつも、先に行っちゃうの」

「今日も3回起こしたわ。起きなかったのはルビィのほうでしょ?」

「そ、そうだけど―――」

「―――あ、わたくし、朝の放送があるから行くわね。マルちゃん、お大事に」

「は、はい―――」

「お、お姉ちゃぁん……」


一挙一動が美しいダイヤちゃんを見送ったあと―――


マルは恐る恐る、視線をずらした。
0018名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:38:24.42ID:L8Flrlaf
その紅い髪は、いつもと違って結われることなく垂れている。

幼さの残る彼女の顔は、走ってきたおかげか、紅潮していて―――

姉に冷たくあしらわれ、目には涙が溜まっている。


「はぁ、はぁ―――あ、お、おはよう、よっちゃん、マルちゃん」


私に向けてくれる純粋な笑顔にも、色気を感じさせた。

赤い、紅い唇から零れる微かな吐息も。


いつもは何とも思わないのに―――


今日は、とても甘く。


―――吐き気すら覚えるほどに、甘く感じた。
0019名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:43:04.39ID:L8Flrlaf
「おはよう、ルビィ」

「お、おはよう―――ルビィちゃん」

「うん♪―――あ、そうだ!マルちゃん、大丈夫?調子悪かったんだよね?」


突然手をぎゅっと握られる。

またオラの身体は、びくんと跳ねる。


「え、っと―――うん。大丈夫、ずら」


無理矢理笑顔を作って―――そっと、ほんの少しだけ、手を握り返す。


「そっか!よかったぁ―――ルビィ、すっごく心配したんだよ?」

「ごめんね、ルビィちゃん……」

「いいよいいよぉ、マルちゃんが元気ならそれで!」

「ルビィ、髪すごいことになってるわよ?結んであげようか?」

「いいの?ありがとう、よっちゃん!」

「マル?―――マルちゃん?ほら、教室入るわよ?」

「あ―――うん」


このもやもやをどうすればいいのかわからなくて―――

マルは大きく、溜息をつくしかありませんでした。
0021名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:51:42.21ID:L8Flrlaf
オラは気づけば、ルビィちゃんをぼーっと眺めていました。

ヨハネちゃんが髪を持ち上げると、ルビィちゃんの綺麗な首筋が見えて―――

目を、逸らしてしまう。

いつも―――小さいころからずっと。

なんなら、お風呂にだって一緒に入ったりして―――

ルビィちゃんのことを、ずっと見ていたはずなのに。

ドキドキが、止まらない。


でも、気になって、またちらりと、ルビィちゃんを見る。


「あ―――エヘヘ♡」


目が合ってしまって―――

硬直したマルに、ルビィちゃんは優しく微笑みかけてくれる。

オラもなんとか、笑顔を返した――――つもり。

どんな顔をしていたかは、わからない。


マルは―――

いつもは嬉しい、大好きなルビィちゃんの優しさが。

もやもやと、心を覆うようで。

胸をちくちくと刺してくるようで―――


とても、辛かった。
0022名無しで叶える物語(風靡く断層)
垢版 |
2017/11/06(月) 00:57:46.15ID:L8Flrlaf
お昼休み。

教室に、鞠莉ちゃんがやってきた。


「ハァイ! Lunchの途中にごめんね?今日の練習の事だけど―――」


ダイヤちゃんが、オラの体調を案じて、練習を休みにするって決めたみたい。


「マル、大丈夫?顔色はいつもと変わらないけど―――」


ずずい、と顔を近づけてくる鞠莉ちゃん。

鞠莉ちゃんはハーフで、海外の人っぽいところがあって―――人との距離感が近いずら。


「もしかして―――好きな人でもできたとか♡」

「え――――?」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ニューススポーツなんでも実況