曜「最後の日」
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曜「また来年の夏休みが遠いなぁ…」
千歌「そうだねぇ…」
曜「また1年近くお父さんとお別れかぁー」
千歌「…おとーさん?」
曜「え?」
千歌「おとーさんって…なんだっけ…?」キョトン
曜「やだなぁ千歌ちゃん!船乗りのお父さんのことだよ!」
千歌「船乗りはわかるけど… お父さん…?」ウーン
曜「もう、からかわないでよ千歌ちゃん」
千歌「からかってるのは曜ちゃんの方じゃん!」
振り返れば去年の秋のこの会話もおかしかったんだ
幼馴染みの千歌ちゃんが私のお父さんを忘れるはずもない
かといって私をからかっているようには見えなかった ―――
それから時が過ぎ、私が高校2年生になって暫くたった頃
明らかにおかしいと感じる出来事が目に見えて増えていった
鞠莉「廃校阻止は無理よ、何度も上に掛け合ったけど…」
ダイヤ「理事長の鞠莉さんが言ってもダメなら仕方ないですわね…」
曜「娘の鞠莉さんですらダメなら仕方ないね…」
鞠莉「…」
鞠莉「むす…め…?」
果南「曜?何言ってるの?鞠莉と経営者は親子なんかじゃないよ」
曜「えっ!?」
鞠莉さんのお父さんが経営者だったはずなのに誰もそれを覚えていなかった
鞠莉さんの大親友の果南ちゃんでさえも ―――
それから私はこの世界の異常に気が付いた
千歌「曜ちゃん!今日もお疲れ様!」
曜「ありがとう、千歌ちゃん」
梨子「あんな高いところから飛び込むの、怖くないの?」
曜「小さい頃からやってるから… もう慣れっこだよ」
曜「あ、ちょっとトイレ寄るね」
千歌梨子「はーい!」
タタッ
曜「…!?」
男子トイレが無い
浦の星女学院は女子校で校内の男子トイレは少なかったから気にも留めなかった
でもここは市営のプール
確かに男子トイレもあったはずだったのに 曜(ただの…壁…?)ペタ
男子トイレがあった場所はまるで何もなかったかのような壁だった
千歌「あ!曜ちゃん!」
梨子「おかえりなさい」
曜「おまたせ!」
曜「ちょっと忘れ物しちゃったみたいだから更衣室に戻るね!」
曜「待たせるのも悪いから二人は先に帰ってて!」
千歌「そっかぁ残念」
梨子「それじゃぁまた明日♪」フリフリ
曜「うん、また明日」フリフリ
千歌「じゃあね!曜ちゃん!」フリフリ
曜(…更衣室も無いのかな?)タタッ 忘れ物なんて勿論ウソ
男子更衣室も無かったのかどうしても確認がしたかった
曜(…!)
曜(ない…!男子更衣室もない…!!)
女子更衣室と対称に配置されていたはずの男子更衣室もただの壁だった
私は確信した
この世界に"男"は居ないんだ…! ―――
曜「…」ピポパポ
\この電話番号は現在使われておりません/
曜(お父さん…)ウルッ
そして私の不安は的中した
私のお父さんだって"男"だから
お父さんの電話番号もLINEも全部スマホから消えていて
私の記憶の中にしかお父さんの電話番号はなかった ―――
曜「ねぇ千歌ちゃん、赤ちゃんはどこから来ると思う?」
千歌「えっ!」
千歌「そりゃあお母さんのお腹の中から…」
曜「赤ちゃんはどうやってつくる?」
千歌「えっと…」
千歌「卵子に精子がくっついて…」
曜「精子はどこからくるの?」
千歌「つくってもらうんだよ!お医者さんに!」
曜「…そっか」
違う、そんなの自然じゃない
私はお父さんの精子とお母さんの卵子から産まれたはずなんだ ―――
絵里 『私、綾瀬絵里と…』
希『私、東條希は…』
のぞえり『入籍することとなりました』ペコリ
パシャパシャパシャパシャ
記者『プロポーズの言葉は!?どちらから!?』
絵里『私からよ』ドヤァ
希『えりち、緊張して噛んでたんよ♡』
絵里『なっ!それは秘密にしておいてよー!』
\アハハハハ/
キャスター『それでは次のニュースです。人気爆発中の矢澤4姉妹が…』
曜(記者会見か…)
曜(ダイヤさん今ごろどんな顔してるかな…) おかしいのは私の周りだけではなかった
有名人も次々と女同士で結婚をしはじめた
千歌ちゃんや梨子ちゃん、果南ちゃんにも少しずつお父さんの話をしてみたけど
誰も取り合ってくれなかった
梨子ちゃんに至っては心の病気の心配までされてしまった
曜(私だけ…)
曜(おかしいのは私なのかもしれない…)
曜(お父さんなんて…)
曜(いなかったのかも…)
ピロリン 曜「?」
曜(鞠莉さんからのLINE…?)
鞠莉『ねえ』
鞠莉『私が経営者の娘って話』
鞠莉『詳しく聞かせてくれない?』
曜「…!」
私に娘と言われたあの日から、鞠莉さんはずっと心にひっかかるものを感じていたらしい
鞠莉さんのお父さんについて知っていたこと、鞠莉さんが今までしていたこと、全てを文字に変えて送信した
不安と期待を込めて
鞠莉『長々とありがとう』
鞠莉『明日少し直接話をしたいんだけど』
鞠莉『予定はどう?』 ―――
曜「…おはヨーソロー!」
空元気って、きっとこういうことなんだな
鞠莉「シャイニー☆」
鞠莉さんはいつも通り…かな
鞠莉「本題に入る前にちょっと買い物付き合ってくれない?」
曜「いいですよ」
鞠莉「よーし!それじゃあ乗って!」
曜「うわぁ…絶対高い車だこれ…!」
顔を会わせるやいなやすぐに鞠莉さんのペースに引きずり込まれてしまった
沼津で買い物をして、ランチして、また買い物をして…
最後に海辺で夕日を眺めた
きっとお父さんもこの海のどこかに…
それから空が真っ暗になるまでずっと鞠莉さんと話をした
いつの間にか私は鞠莉さんの胸で泣いていた 鞠莉「"お父さん"というものがどういうものなのか、マリーにはよくわからないけれど」
鞠莉「曜が嘘をついているとは思わない」
鞠莉「曜の話はリアリティーに溢れていたもの」
曜「鞠莉さん…!」ウルッ
鞠莉「あと、ちょっとだけね…」
鞠莉「"パパ"という言葉に不思議な温かさを感じるの」
鞠莉「私は曜を信じたい、いや、信じてる」
鞠莉「なんてね☆」テヘペロ
曜「うぅっ…」グズッ 鞠莉「とにかく!」
鞠莉「真実も原因もわからないけど、それを突き止める努力はしようと思う」
鞠莉「曜のことも心配だし!」
曜「ありがとうございます…」グズッ
鞠莉「だからそんな顔しないの!」ワシワシッ
曜「うひゃぁ//// どこ触ってるんですか////」
鞠莉「パイオツデーース!」
曜「ふふ、あははは」
鞠莉「やっと笑った♪」 ニッ
曜「…っ!」ドキン 少し話すだけ、なんて言って誘われたのに1日も鞠莉さんと一緒にいた
鞠莉さんと過ごす時間はとっても楽しくて、本当に一瞬のように感じた
なんだろう、この気持ち
私自身この気持ちの正体も何もかもがわかっていたけれど、自分に嘘をついた
鞠莉さんのことは、先輩として、好きなんだ
ただの先輩だ ―――――
―――
プルルルル プルルルル
曜「はい、渡辺です」
千歌「よーちゃん!」
曜「あ、千歌ちゃん!ヨーソロー!」
千歌「波の音だ… また港?」
曜「うん、まあね」
千歌「風邪引かないようにね!」
曜「ありがとう」
曜「…で、用件は?」
千歌「曜ちゃんだけに…!」
曜「………」
千歌「あ、あのね…」
千歌「いい曲ができたからはやくお披露目したくって」
千歌「衣装も考えて欲しいから!」
曜「そっか」
曜「もう少しだけ待って、夜には行くから」
千歌「…うん」
千歌「待ってるね!」
曜「うん」
ツー… ツー… 夏休みの半分が過ぎた
勿論いつもみたいにお父さんからの連絡はなかったけど
毎日毎日お父さんの帰りを待ち続けた
スクールアイドルの活動と飛び込みの練習以外はずっと港で過ごした
でもなぜか頭に浮かぶのは鞠莉さんの笑顔と温もりと…
お父さんよりもずっと… ―――
鞠莉「曜!シャイニー!」
曜「あわわっ!鞠莉さん!」
鞠莉「もう、何よそんなに慌てて」ハハッ
曜「ちょっとビックリしちゃって」テヘヘ
曜「それで… 大事な話って?」
鞠莉「"男"について… いや、この世界についてと言うべきね」
鞠莉「わかったことがあるの」
鞠莉「まさかμ'sのあの人が手がかりになるなんてね…」 言われなき暴論にわろた
かずおのアナルは俺が責任をもって塞いでおくから許してやってくれ 鞠莉さんが言うには、
この世界は"あにめ"と呼ばれるものの干渉を受けていて、前回干渉が観測されたのが約6年前らしい
その時に、私のように異常に気が付いたのは「高坂穂乃果」
曜「あの穂乃果ちゃん…が…?」
鞠莉「そうよ、突然父親の顔がわからず声も聞こえなくなってしまったのだそうよ」
曜「…!」
鞠莉「少しずつ干渉が強くなったのか、穂乃果さんが確認できる"男"も徐々に減っていったのだとか」
曜「でも、それだけなんですね…」
鞠莉「そうね、今回の曜の話よりもずーっと軽度ね」 鞠莉さんの話からすると、今の世界は"あにめ"の干渉を多大に受けていることになる
どうして私だけが干渉を受けずに過ごしているのか…
いや、違う
私の鞠莉さんへの気持ちは"あにめ"の干渉のせいだ
鞠莉「曜?」
曜「!」ハッ
鞠莉「んもー…難しい顔しちゃって!」ツンツン
曜「あっ// ごめんなさい…//」
鞠莉「大切なのはここからよ」
曜「はい…」ゴクリ 鞠莉「前回の"あにめ"の干渉は3月31日に自然に止んだらしいの」
鞠莉「だから今回も時間が解決してくれるんじゃないかしら?」
曜「ということはそんなに不安がることはないんですね」ホッ
曜「でも裏を返せばただ待つことしかできないってことですよね」
鞠莉「そうね」
鞠莉「それからもうひとつ」
鞠莉「穂乃果さんの証言を聞いた限りでは、"あにめ"による干渉は記憶の操作にまで及ぶらしいの」
鞠莉「穂乃果さん自身は"あにめ"による干渉の違和感をハッキリと覚えている」
鞠莉「対して干渉を受けていた友人たちは何の変哲もなく4月1日以降の日々を過ごしていたんですって」
曜「ということは…」
鞠莉「曜はこの出来ごとを忘れない、といったところかしらね」
曜「そうなんですね…」
曜「…」
曜「でも…」 鞠莉のお父さんってどうしてもペガサス・J・クロフォードが頭に浮かんでしまう 曜「私も少しずつ"あにめ"の干渉を受けているんです」
鞠莉「それは…どうして?」
曜「そ、それは… なんとなくです」ハハッ
ごまかした
こんなタイミングで鞠莉さんに想いを伝えることなんてできなかった
"あにめ"のせいで好きになった
こんなこと言っちゃダメだと思った ―――
"あにめ"の話をした日から数週間後、私と鞠莉さんは付き合い始めた
お父さんのことは勿論不安だったけど
でもそれを忘れてしまうほど楽しい日々を過ごした
でも
それももう終わり
――― ―――――
―――
鞠莉「とうとう来たわね、3月31日が」
曜「そうだね」
鞠莉「ねぇ、曜は楽しかった?」
曜「勿論!」
鞠莉「ついこの間まで虚ろな目をしていたのが嘘みたいね!」フフッ
曜「鞠莉のお陰だよ」チュッ
鞠莉「っ///」カァァアッ
曜「可愛い」
鞠莉「んもぅ!いきなりはずるい///」
曜「ごめんごめん」アハハ
鞠莉「…」
曜「…」 鞠莉「夕陽、綺麗ね」
曜「そうだね」
鞠莉「…」
曜「…」
鞠莉「ねぇ」
曜「なに?」
鞠莉「私たち、今日で終わりなのよね?」
曜「多分、そうだね」
鞠莉「…」
曜「…寂しい?」
鞠莉「…」 鞠莉「勿論寂しいわ…でも嬉しいの」
曜「嬉しい?」
鞠莉「だって私たちだけよ?こんな素敵な最後の日を過ごしているのは」
曜「確かにそうだね」ハハッ
鞠莉「この一年と数か月の間育んできた愛が明日には消えてしまう」
鞠莉「それを知っているのも覚えているのも私たちだけ」
鞠莉「素敵だと思わない?」フフッ
曜「そうだね」
鞠莉「曜、好きよ」
曜「…私も」
鞠莉「"あにめ"の干渉の気の迷いだったとしても」
鞠莉「愛してる」
曜「私も…」
曜「愛してるよ、鞠莉」 ―――――
―――
チュンチュン
曜(ん… 朝か…)
曜(…)ギュルルル
曜(ごはん…)ウトウト
曜ママ「あら、おはよう」ニコッ
曜パパ「ヨーソロー!」
曜「おはよー… ん?」
曜「…?」ゴシゴシ
曜「お父さん!?本物!?」
曜パパ「失礼なやつだなぁ!本物だよ!」
曜ママ「アクシデントで急遽戻れたんですって」フフッ
曜「お、お父さん…!」ウルッ
曜ママ「あら、ちょっと何泣いてるのよ」フフッ
曜「なんでもないよ!」グズッ
曜「泣いてない!」フキフキ
曜「おかえり、おとーさん!」ニコッ ―――
"あにめ"の事件が終わってから約1週間
私は3年生になって、鞠莉…さんは卒業してしまった
一応浦の星の理事長だけど本業は大学生だからか、滅多に見かけることはない
結局、私の鞠莉さんへの想いは"あにめ"の影響なんかではなくて…
優しいハグも、手の温もりも、湿った肌でふれあった感触も、甘い吐息も、唇も…
何もかも私だけは覚えたままだった
鞠莉、愛してたよ
【おわり】 【おまけ】
鞠莉「ソーリー、今日も浦女のお仕事があるからディナーには顔を出せないの」
鞠莉「また誘ってね!それじゃ!」タッ
鞠莉(さすがに4コマ講義を受けてからの仕事はso hard ね…)
鞠莉(…)
鞠莉(曜…元気かな…)
結局、"最後の日"にも言い出せなかった
「覚えているのも私 た ち だけ」
この言葉に曜が気付いたら言おう、なんて…
ずるかったわよね
パパを覚えていない、わからないなんて全部嘘
私も曜と同じ、"あにめ"の干渉を受けなかった人間だったもの
まさか曜への恋心が"あにめ"のせいじゃなかったなんて思わなかったけど
でもやっぱり言わなくて良かったのかも知れないわね
だってきっと曜の気持ちはもう…
それでも私は愛してるわ、曜
【おわり】 乙
素晴らしかった!
アニメじゃない、素敵な気持ち(ボソッ とてもよかったが、かずおへのヘイトが更に溜まったのを感じたよ… パパコンビ素晴らしい
てか矢澤4姉妹って虎太郎が女カウントなのか細かいな ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています