石じじいの話です。

じじいが朝鮮にいたときの話です。
山を歩いていると、一匹の犬がどこからともなくあらわれて距離をあけてついてきたそうです。
野犬の群れか?と思い緊張して身構えましたが他に犬はいませんでした。
こちらが立ち止まると、犬も止まる。
あまり気にしてもしかたがないので、歩きつづけましたが犬はついてきます。
いっしょに歩いていたらだんだん恐怖心は失せていったそうです。
腹が空いたので、ひとやすみして昼食にすることにしました。
朝、宿屋で弁当をたのでおいたのですが、宿の飯炊きが間違って二人分どころか三人分ほどの量を作っていました。
必要な分だけ持って、あとはおいておこうとしたのですが、「なにかあるかもしれないし、邪魔にはならないから」と彼女が言うので、それもそうかと思い携行していたのです。
しかし、やはり重い。
この犬にも、少し分けてやろうと思いました。
飯を少し投げてやると、犬は少し逃げる。
見ていると警戒して食べないので、じじいは無視して自分の弁当を食べ始めました。
すると、犬は、おそるおそる近づいてきて、それを食べ始めたそうです。
じじいは、また少し投げてやりました。さっきより近いところに。
犬は、おそるおそるよってきて食べました。
それを繰り返していると、犬も警戒心をといたのか、かなり近くまでよってきたそうです。
そして、そこへちょこんと座りました。
そこへ飯を投げてやっても、もう逃げない。美味しそうにそれを食べました。
犬は腹が空いていたのか、たくさん食べたそうです。
じじいは、なにげなく犬に話しかけたそうです。
「犬よ、おまえは一人か?」朝鮮語で。
「アア」犬がこたえました。朝鮮語で。
[つづく]