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【小説】スナック眞緒物語2【日向坂応援】
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0001走り出す名無し(東京都)
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2020/01/10(金) 22:44:54.99ID:U0+3vSxe0
宮田愛萌さんのブログや「ひらがな推し」やでネタにされている架空空間「スナック眞緒」を舞台とした小説のスレです。

なお、「ひらがな推し」や宮田ブログでの「スナック真緒」での井口真緒さんと宮田愛萌さんはひらがなメンバーとは別人格という設定ですが、
ここではひらがなメンバーであるのかないのかというのは曖昧にします。
タイトルと冒頭と末尾の文は、宮田愛萌さんがブログで書いているのをテンプレとして使いました。
原案や参照にしたものがある場合には、その小説が完了したとき必ず明記します。

前スレ 【小説】スナック眞緒物語【けやき坂応援】
https://rio2016.5ch.net/test/read.cgi/keyakizaka46/1548508699/
0002走り出す名無し(東京都)
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2020/01/10(金) 22:51:15.89ID:U0+3vSxe0
新作はageて、リライトしたものはsageて書くことを基本とします。
0003走り出す名無し(東京都)
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2020/01/10(金) 22:52:13.87ID:U0+3vSxe0
前スレのメンバー別のリンクをスレ維持のため貼っていきます。
0023走り出す名無し(東京都)
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2020/01/11(土) 21:37:23.46ID:4jTeTA6X0
ゴン物語(その1)
普通、妄想を他人に打ち明けるということはまずやらない。
睡眠中の夢ならわりと人は積極的に話したがるが、妄想は胸に秘めたままで他人には隠しておこうとする。
夢は無意識であるが、妄想はみずから呼び起こし、都合のいいように手を加えているのをハズいと思うからだろう。
河田陽菜は妄想するのが好きで、ゴンというキャラをつくりあげた。
しかも、何ら恥ずかしがることなく人前でそのキャラのことを話したり、デザインしたそのキャラの画を見せるたり、
そのキャラになり切って演じたりする。
「俺はゴンだゴン。好きなものはみたらし団子だゴン。
一人が好きだからあまり話しかけないでゴン。写真も苦手だゴン。
僕はカメラを向けられると怒るゴン」
さらに、その好きが高じて、自らデザインした画を着ぐるみ制作専門に持っていき、ゴンの着ぐるみを完全オーダーメイドで注文した。
その注文品を受け取り、その後に仕事に向かったが、早く来すぎて楽屋には誰もいない。
暇だったので、着ぐるみの包装を解き、椅子の上に座らせた。
当たり前だが、着ぐるみはじっとして動かない。
暇に耐え切れず、陽菜はいったん楽屋を出て、部屋の外をうろついた。(続く)
0024走り出す名無し(東京都)
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2020/01/12(日) 21:56:58.88ID:TrjGczL40
ゴン物語(その2)
楽屋に戻ってきて、テーブルを挟んでゴンの対面となる椅子に陽菜は座った。
「ああ、退屈だな。ねえ、ゴン、何かしゃべって」と陽菜は独り言を言う。
「僕の名前、ゴンというの?」と着ぐるみが突然話しかけてきた。
陽菜は驚いて、目を大きく見開き、座ったままで椅子とともに後ずさりする。
「お願いだから、そんなに驚かないでゴン」
「えぇぇぇぇ・・・・、驚くなと言われても・・・・」
「頼みがあるのゴン」
「なに?」と陽菜はおそるおそる答える。
「歩きたいけど、歩けないの。でも、陽菜ちゃんが『歩いて』と言ってくれたら、僕は歩けるようになるのゴン」
素直な陽菜は「歩いて!」と言う。
ゴンは椅子から立ち上がり、歩き出す。
陽菜が呆然としていると、ゴンが話しかける。
「ありがとう、陽菜ちゃん。今度は僕がお返しするゴン。
陽菜ちゃんには何か望みとかないのゴン?」
「語彙力がなくて、みんなによく馬鹿にされるの。だから語彙力を付けたいの。
できれば、英語とかその他の外国語も喋れるようになりたいし、いろんな知識も身に付けたい」
「ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴン。語彙力や知識が陽菜ちゃんに身に付くようになるゴン!」(続く)
0025走り出す名無し(東京都)
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2020/01/13(月) 18:46:36.01ID:sYwmg3He0
ゴン物語(その3)
楽屋に富田鈴花が入ってくる。
「ねえ、鈴花、オーダーメイドしていた着ぐるみを今日受け取ったんだけど、話したり歩いたりして変なのよ。本当に着ぐるみかな?」
鈴花は回り込んで着ぐるみを凝視する。
「オーダーメイドなの?Made in Lebanonっていうタグがあるよ。でも、ただの着ぐるみだよ。
陽菜が見ていないときに誰かが中に入ったんだよ。たぶん、美玖あたりじゃない」
楽屋のドアをちょうど開けた金村美玖が「呼んだ?」と言う。
「ほら、美玖じゃないよ」と陽菜が言う。
「じゃあ、他にそんなことをして陽菜をからかいそうなのは史帆姐さんかあやちぇり姐さんあたりかな?」
そのとき、メンバーが一斉に入って来て、その中に加藤史帆も高本彩佳もいる。
「あれ?全員いる?」とは鈴花は驚く。
「どうしたの?」と美穂が尋ねる。
「この着ぐるみの中に誰か入っているようなんだけど、でもメンバーは全員いるんだよね」
「え!?だったら不法侵入者じゃない。誰か早く警察に通報して!」(続く)
0026走り出す名無し(東京都)
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2020/01/13(月) 18:53:27.42ID:sYwmg3He0
ゴン物語(その4)
「待って!待って!中に入っているのが関係者ということもあるから、無暗に荒立てるのはよくない」と佐々木久美が収めようとする。
「じゃあ、どうしたら?」と鈴花は戸惑う。
「とりあえず中に誰が入っているかを確かめましょう。
鈴花と美玖で片手を押さえつけておいて。私が頭部を引っ剥がすから」
二人は言われた通りにする。
「あれ?おかしいな。引っこ抜けない。それにこの着ぐるみ何かちょっと変なのよね」
久美は力いっぱい引っ張る。
「痛いゴン。痛いゴン」と着ぐるみは泣き叫ぶ。
「ちょっと待って!この着ぐるみ、目から涙を流している。
陽菜、オーダーするとき、そういうオプションは付けた?」と鈴花が訊く。
「いえ、まったくそんなことは頼んでないよ」
気持ち悪がって、着ぐるみからメンバー全員が遠ざかる。
「イジメの次はシカトなの?僕が醜い怪物だから?人間に復讐してやるゴン」
そう言いながら着ぐるみは部屋から逃亡した。(続く)
0027走り出す名無し(東京都)
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2020/01/13(月) 18:54:49.16ID:sYwmg3He0
ゴン物語(その5)
ゴンがいなくなってから、数か月経過し、ゴンのことはすっかり忘れていた陽菜だが、久しぶりにその姿を見た。
N自動車会社の最高執行責任者に就任している様子がテレビで放映されていた。
危機的状況にあったN社を大胆な改革でV字回復させたという。
ゴンの活躍はめまぐるしいもので、さらにその数か月後には会長に就任し、名誉も地位も金も手に入れた。
「アメリカ国外にいる10人の最強の事業家の一人」とゴンをフォーチュン誌は讃えた。
「立派になったね、ゴン」と陽菜は感涙にむせいだ。
ところが、失脚し、落ちぶれるのも急であった。
ゴンは東京地検特捜部によって4回逮捕され、金融商品取引法違反で起訴された。
しかも、あろうことかその保釈中に15億円の保釈金を捨ててまでレバノンのベイルートに逃亡した。
そこで記者会見を開くということを聞き、生みの親である陽菜は責任を果たそうと思い、そこに向かった。(続く)
0028走り出す名無し(東京都)
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2020/01/13(月) 21:04:12.51ID:sYwmg3He0
ゴン物語(その6)
ゴンは最初の30分はフリーで喋り、日本の刑事司法制度に対して、その問題点を荒ぶって指摘した。
基本的人権が守られていない。99.4%の有罪率で、最初から有罪が決まっている。
信じられないくらい過酷で非道な長期の拘留をされ、そのあげく自白をすれば返してやると言われた。
「その様子は録音されているので、その部分はぜひ見てほしいゴン。
正義から逃げたのではないゴン。不正義から逃げたゴン。だから、逃亡は正当なことだゴン」
日本のメディアは検察の手先であるという言い分で記者会見には日本のメディアをゴンは入れなかった。
ただし、陽菜を含めた二人の日本人だけが例外として入ることができた。
ゴンは英語の他にフランス語とアラビア語を駆使して会見を行った。
どの言語も満足にヒアリングはできないはずの陽菜だったが、不思議なことに全てを聞き取ることができた。
さらに、日本の検察の人質司法の問題点もなぜか陽菜は理解しているのだった。(続く)
0029走り出す名無し(東京都)
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2020/01/13(月) 21:05:52.32ID:sYwmg3He0
ゴン物語(その7)
フリーで喋った後は質疑応答に入った。
密出国の疑いを何人もの記者からゴンは質された。
秘匿性が高く、ラウンジからすぐに搭乗口へ向かうことができるプライベートジェット専用施設を使ったのではないのか?
大きな箱は音響機器が入っているという嘘の申告をして、税関職員を欺いたのではないのか?
だが、「どうやって日本から出国したのかは話せないゴン」とゴンは繰り返すだけで堂々巡りとなった。
陽菜以外のもう一人の日本人が質問した。
あれ?この人、どこかで見たことがあると陽菜は思った。
「ハイ〜ッ!密出国のとき、あなたが入った箱というのはとても大きかったそうじゃないですか。
ああ情けない、私なら、その十分の一のサイズでも入ることができますよ」
ああ、思い出した。この人、エスパー伊東さんだ!と陽菜は膝を打った。(続く)
0030走り出す名無し(東京都)
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2020/01/13(月) 21:07:47.34ID:sYwmg3He0
ゴン物語(その8)
負けず嫌いのゴンはムキになって言い返した。
「僕は、あなたが言う十分の一のサイズの箱のさらに十分の一のサイズの箱にだって入ることができるゴン。
なにせ、僕は元々は着ぐるみだったからだゴン」
「ハイ〜ッ!じゃあ、なぜ、あなたはそんな大きな箱を使ったんですか?」
ゴンは密出国の様子を自慢げに語りだした。
「まず、監視体制がゆるくなりがちな年の瀬の間隙を狙ったゴン。さらにどの空港が検査が甘いかを調べたゴン。
そしたら、関西国際空港が非常に甘いということが分かったゴン」
「ハイ〜ッ!関空の検査が甘いということとあなたが大きな箱を使ったということは関係ないんじゃないですか?」
「最後まで話は聞くゴン。関西空港には特に注目すべき欠点があったゴン。
関西空港の検査の機械には大きな荷物は入らないゴン。だから、あえて大きな箱を用いたというわけだゴン」
「ハイ〜ッ!引っ掛かりましたね。結局、あなたは不法に密出国したことを自白しましたね」
その場にいた記者全員から拍手が起こった。(続く)
0031走り出す名無し(東京都)
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2020/01/13(月) 22:58:33.70ID:sYwmg3He0
ゴン物語(その9)
陽菜も質問した。
「プライベートジェットは薬物や金塊を運ぶという社会悪の温床になっているのよ。
ノーブレス・オブリージという言葉があるでしょ。あなたも社会の成功者として尊敬を集めたいのなら、
正義に反する人たちと同じようなことをしたのをどう思っているの?」
あれ?なんで、そんな難しいことを私は知っているの?と陽菜は自分自身を疑う。
「正義に反しているのは日本の検察だゴン」
「人質司法と呼ばれる日本の司法が問題だらけなのはたしかよ。
自白をすれば早く身柄が解放され、しなければ拘束が解かれないというあり様は100年も遅れている。
でもね、だからと言って、保釈条件を破って密出国という犯罪をおかして海外に行ったことは正当化できるものではないのよ!」
あれ?私の口から私の知らない言葉が勝手に出ているのはなぜ?と陽菜は再び訝しがる。
「えぇぇぇぇぇん、陽菜ちゃんだけは味方だと思っていたのに、なぜ僕を追いつめるゴン」(続く)
0032走り出す名無し(東京都)
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2020/01/13(月) 23:00:12.56ID:sYwmg3He0
ゴン物語(その10)
「わたしがあなたをつくったから、わたしがあなたの生みの親だから厳しいことを言うの」
「じゃあ、起訴されたら99.4%有罪とされるのは人権侵害だと陽菜ちゃんは思わないの?」
「それはね、少しでも冤罪の恐れがある場合には、不起訴にしているからよ。
むしろ慎重に起訴している日本の検察権の運用のほうが人権に配慮しているとも言える」
「僕は英雄だゴン。フォーチュン誌も僕を褒めたたえているゴン」
「N社のV字回復の手腕を賞賛する声もあるけど、2万千人もの末端の社員を切り捨てることで達成できただけじゃないの。
新自由主義的な筋からだけの一面的な賞賛にそれはすぎないの。
もし、日本人が最高責任者としてそういう手腕をふるっていたら、世間の批判を浴びるので、到底できなかった。
あなたがそういうことをできたのは、あなたが日本にとって異端者だからなのよ。
あなたは優秀でも何でもなく、単に異物としてN社の上層部から利用されただけなの」
大好きな陽菜からきつい言葉を言われて、傷心のままゴンは記者会見を終えた。(続く)
0033走り出す名無し(東京都)
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2020/01/13(月) 23:01:52.54ID:sYwmg3He0
ゴン物語(その11)
ゴンはレバノン政府から出国禁止にされ、ベイルートに留まらざるを得なかった。
その間、ゴンは手記を出版した。
いろんな国の言語で出版される予定だったが、英語版がいち早く出版された。
その本が陽菜にも献本された。
レバノンから届いた郵送物を陽菜は開けた。
その本のタイトルは「Gon is gone」だった。
えーっと、goのような発着往来の動詞で現在完了を表す場合には、haveの代わりにbe動詞を使ってもよかったんだった。
だから、hasの代わりにisをつかっているのね。
タイトル名の意味は、「ゴンは去ってしまった」か。
古語風にすると、「去る」の連用形は「去り」だから、完了の助動詞「ぬ」を後に付けて、「ゴンは去りぬ」となるわ。
日本から去ってしまったということなの?それとも、私の元から去ってしまったということなの?
そういうことを思いながら、400ページもある英語の本を30分くらいで陽菜は一気に読み終えた。(続く)
0034走り出す名無し(東京都)
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2020/01/13(月) 23:03:56.44ID:sYwmg3He0
ゴン物語(その12)
レバノン出身であるゴンはレバノンに多額の寄付をしたり、学校をつくったり、インフラを整備したりしていた。
そういうこともあって、レバノンの市民全員が歓迎するものとゴンは高をくくっていた。
ところが、政府の汚職体質や経済低迷に市民が反発し、レバノンでは反政府デモが続いていた。
「金と権力を使い特権階級だからゴンは戻って来られた」
「ゴンは成功者だが英雄ではない」
ゴンに対する反発も起こり、居住区の8割が危険地帯であるというベイルートで、ゴンの住まいが襲われたのは当然の成り行きだった。
暴徒がゴンに襲い掛かろうとしたとき、中身は消え、着ぐるみだけが残されていた。
ゴンが消え去った後には、陽菜は語彙力も知識も失っていた。
献本された本のタイトルを見ても、なぜgoが受動態になっているの?という間抜けな勘違いをする元の陽菜に戻っていた。
もちろん本の内容もすべて忘れていた。
ときどきゴンのことを思い出しては、あれはいったい何だったんだろうと陽菜は不思議に思うだけだった。(了)
0035走り出す名無し(東京都)
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2020/01/14(火) 22:00:33.51ID:FL1jAbhn0
参照にしたのは2019.5.28と2019.9.3に放送された「HINABINGO!」。
前者は、ゴンのキャラを河田が発表した回。
後者は、ぬいぐるみが喋るというドッキリを金村が河田に仕掛けた回。
0037走り出す名無し(東京都)
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2020/01/22(水) 21:55:03.93ID:rwTYm+gV0
スナック眞緒物語♯9(その1)
いつも賑わっているスナック眞緒だが、今日は客がいない。
「ママ、あの編集者さん、来る予定ないかな?教えてほしいことがあるのだけど」
「正月の休み明けで今は忙しいみたいだから、当面は来ないんじゃないかしら。教えてほしいいことって何?」
「本を読んでいて今は幸せなんだけど、本を読み続けることでその先に何が見えてくるのかが分からなくて。それをお伺いしたいの」
「そういうことだったら、源さんがいるじゃないの」
「誰ですか、その人?」
「芥川賞の候補にもなった人よ。愛萌もよく会っているじゃない」
「えっ!そんな人いたんだ!でも、私、会ったことないですよ」
「ほら、酔っぱらって愛萌によく絡んでくる人よ」
「そういう人は何人か心当たりはあるけど、でもやっぱり私は会ったことはないですよ」
「会ったことあるって。イケオヤさんと同じアパートに住んでいて、いまアルコール依存症で入院している人よ」
「えっ?あの人のことですか?あんな人が芥川賞の候補になったなんて嘘でしょう」(続く)
0038走り出す名無し(東京都)
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2020/01/23(木) 23:21:05.90ID:ZgRuJF+I0
スナック眞緒物語♯9(その2)
「本当よ!それに、あの人、自分の知り合いを連れてきてくれて、このお店におおいに貢献してくれているのよ」と眞緒ママは言う。
「へ〜、たとえば誰ですか?」と愛萌は尋ねる。
「あの美大生の人とか」
ああ、分かる、分かる、類友というやつね。
「もちろんイケオヤさんも」
余計なことを!
「それに天文学者の先生だって」
ん?つながりが見えない。
「天文学者の先生とはどういう関係なんですか?」
「ほら、源さんって、東大の仏文科卒でしょう。そこで知り合ったらしいわよ」
え!?あの人が東大卒?本当なら世も末だ。
「でも、ママ、先生は理系でしょ。文系の仏文科の人がどうやって知り合うんですか?」
「東大って前期課程では、文理を越境した科目の履修が必要だし、文理を横断するような講義もあるらしいから」
「けど、先生のほうがだいぶお若いんじゃないですか?」
「源さんも30代の半ば過ぎくらいよ」
「えっ!その年齢であんな老けてうらぶれているんだ。放蕩と不摂生の限りを尽くせばああなるの?」
「こら、こら、愛萌、お客さんが一人もいなくてもお店でそんなこと口にするのはダメでしょ」(続く)
0039走り出す名無し(東京都)
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2020/01/24(金) 23:06:50.84ID:LYwx6+2T0
スナック眞緒物語♯9(その3)
店のドアのベルが鳴り、源が入ってくる。
「噂をすれば何とやらだわ。源さん、ちょうどあなたのことを話していたの」
「よう、ママ、久しぶりだな。愛萌、オメーもいたのか。
ブラジルに男と二人で旅行に行って、揉まれてオッパイがデカくなったんだってな。どれ、俺にも揉ませろ」
愛萌はシカトする。
やっぱりこんな人が東大卒で芥川賞候補なんて信じらんない。それにしても、あの美大生、適当なことばかり言って!
「あれ、でも、源さん、アルコール依存症で入院中じゃなかったの?」とママが尋ねる。
「家族の同意による強制入院だと外出は禁止だが、俺の場合は自分の意思による任意入院だから自由だ。
まあ、家でおとなしくしておこうと思ったんだが、イケオヤの奴が・・・」
「何かあったんですか?」と眞緒ママが訊く。
「ほら、俺らが住んでいるボロアパートの6室の電源供給は共通で、しかも30アンペアしかないんだ」
「6部屋に住人がいて、たったの30アンペア!いまどきそんなアパートなんてあるんですか?」と眞緒ママは驚く。(続く)
0040走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/01/25(土) 22:04:08.67ID:R65HeUDG0
スナック眞緒物語♯9(その4)
「で、な、俺らのアパートの前がゴミ捨て場で、イケオヤの奴、そこから電子レンジを拾ってきたんだ」
それって占有離脱物横領じゃないの?と愛萌ま思う。
「まあ、それはどうでもいいんだけどな。
電子レンジのように大量の電力を瞬間的に消費する電荷製品を使う場合は、
必ず窓を開けて、『今から使う』と大声で叫んで他の住人に知らせるのが決まりになっている。
イケオヤの奴、まともな電荷製品を持っていなかったから、有頂天になって、叫ばずに使って、ブレーカーが落ちたというわけだ。
すぐに誰かがブレーカーを戻して、電気は復旧したわけだが、興ざめしたから外出したんだ。
ああ、そんなことより、酒、酒。ウィスキーをダブルでくれ」
「いいんですか?」とママは心配する。
「ああ、医者の許可は下りてる」
愛萌が運んできたものを一気に飲むと、源は七転八倒しながら苦しみ出す。
「どうしたんですか?」と愛萌は蒼ざめる。
「愛萌、救急車を呼んで!」というママの叫びに、「救急車はダメだ。痛みが引いたら説明するから、ちょっと待ってな」と源は止める。
眞緒ママが源のそばに寄ろうとしたとき、「こんにちは」の声ともに店に業者が入ってきた。
「愛萌、お店の看板をリニューアルすることにしたから、業者さんに付き添うため外に出なくちゃいけない。
私の代わりに源さんの様子見しておいてね。何かあったら急いで知らせてちょうだい。
ご無事に回復なさったなら、聞きたかったことを源さんから教えてもらったらいいわ」(続く)
0041走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/01/26(日) 22:36:26.30ID:b/KGcIt90
スナック眞緒物語♯9(その5)
しばらくして落ち着きを取り戻した源が言う。
「シアナマイドを服用したせいだ」
「何ですか、それ?まさか危ないクスリでもやっているんですか?」と愛萌は訊く。
「馬鹿言え、アル中用のただの薬だ。
肥料工場の労働者が酒に弱くなることから発見され、石灰窒素に含まれるカルシウムであるシアナミドからつくられる。
アセトアルデヒド脱水酵素の働きをブロックするため、酒を飲んだ後にそれを飲むと死ぬほどの苦しみを受けるらしい」
「らしい・・・って、今、ご自分で体験されたんでしょ。
それにお酒を飲んでもいいというお医者様の許可が下りていたなんて嘘なんでしょ。
苦しむというのが分かっていながら、どうして?」
「ああ、何事も自分で直に経験しなければ、分からないからな。そうじゃないと読み手の感情は揺り動かせない」
へ〜、頭の中は下卑た冗談だけで埋まっていると思っていたけど、作家らしく物事に真摯に向き合うこともするんだ。(続く)
0042走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/01/27(月) 22:53:23.44ID:LdqipeCV0
スナック眞緒物語♯9(その6)
源のヤジを契機にして編集者と会話したときのことを思い出し、源を試すかのような質問を愛萌は投げかける。
「出元は同じではないけれど、偶然に似たようなお話になるというものってあるんですかね?」
「なんだ、オメー、唐突に。そんなもんいくらでもあんだろ」
「たとえば?」
「めんどくせー奴だな。なんでそんなこと知りたがる?まあ、いい、教えてやる。
井原西鶴の『好色一代男』の中には聖書のアポクリファの『スザンナの水浴』という話に似たものがある」
この人の口から『聖書』という言葉が飛び出すとは・・・。
「その聖書の外典のお話とはどういうものですか?」
「スザンナという絶世の美女が水浴びしていると、覗き見した老人から『ヤラせないと、男と密会していたことをチクるぞ』と脅されるんだ」
うわ〜、この人にかかれば、聖書の話でもここまで下品な話になるんだ。(続く)
0043走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/01/28(火) 22:39:50.17ID:e2I7N2yq0
スナック眞緒物語♯9(その7)
話を聞くのも嫌になっているが、自分から話を振った手前、「それに似た西鶴のお話はどういうものですか?」と愛萌は儀礼的に尋ねる。
「『好色一代男』の中の話だけどな。
女中が水浴びしていると、覗き見していた7歳の世之介から『ヤラせないと秘密をチクるぞ』と脅されるんだ」
「その女中さんに秘密は何かあったんですか?」と愛萌は無造作に質問してしまう。
「育ちのいい俺はあからさまに言いたくなくてぼかしたんだけどな」と源は意味ありげな薄ら笑いを浮かべる。
嫌な予感がした愛萌は質問したことを後悔し、黙り込んでしまう。
「オメーがよくやっていることだ」
「そんなこと言われても何のことか分かりませんが」
「水浴びしているときオナってたんだ」
「私、そんなことしたことは一度もありません!」と愛萌は顔を真っ赤にする。
「うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、嘘つきめ」
相手にしていられないと思って、その場を離れようと思うが、
眞緒ママから源の様子見を頼まれたのを思い出し、愛萌は留まるしかない。(続く)
0044走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/01/29(水) 21:37:33.54ID:WkqqamzT0NIKU
スナック眞緒物語♯9(その8)
愛萌は話題を変えようとする。
「以前に仰っていたことで、『約束のネバーランド』は『私を話さないで』のパクリだいう見解でしたよね。
偶然に似たのではなく意図して真似たと思われるものは他にもあるんですか?」
「そんなもんもいくらでもあんだろ。たとえば、モーホー折口が書いた『死者の書』なんかは意図的にパクっているな」
「私の大学の偉大な先達に対し、そういう言い方をしないでください」
「だったら、『死者の書』はもちろん読破くらいしているんだな」
愛萌は黙り込んでしまう。
「なんだ、読んでないのか」
「どういうお話なんですか?」
「謀反の罪を疑われた男が、刑死場で自分に同情した女を見て、その女への思いに囚われる。
この世に何の後も残していないという執着から、死人になっても、その女の血筋の女に呼びかけるというストーリーだ」
「なんか切ない物語ですね。でも登場人物には名前がないんですか?」
「バッキャーロー、読んでいないオメーに負担にならないようにわざと言わなかったんだ。
男の名前は滋賀津彦で、同情した女の名前は耳面刀自で、耳面刀自の血筋の女は藤原南家の郎女だ」(続く)
0045走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/01/30(木) 22:03:47.09ID:M2ZimasY0
スナック眞緒物語♯9(その9)
源の勘に触る物言いに愛萌はムっとするが、興味惹かれる話だとも思う。
「折口先生が『死者の書』を書くにあたって、参照にされたのは何なんですか?」
「エジプトの古代書の同名の『死者の書』だな。
エジプト古代書でバラバラに切断された神オシリスが妻であり妹である女神イシスによって冥界の神として復活するというのを、
滋賀津彦が郎女によって再生されるという具合にパクっている」
「そう聞いただけでは、意図的に真似たとは思えませんね」
「『死者の書』の副題に『エジプトもどき』と付けたことからも分かるように、折口自身も表明しているんだ。
それに随所にエジプト古代書の影響が見られる。
たとえば、折口の『死者の書』の第2章の中にエジプトの古代書の89章に影響を受けた箇所がある。
前者の『こう。こう。お出でなされ。藤原南家郎女の御魂。こんな奥山に、迷うて居るものではない。早く、もとの身に戻れ。こう。こう』は、
後者の『おお連れてこられる者よ、飛び回る者よ。神の社にまします者よ。どこにいようとわが魂が私の元に連れてこられますように』に影響を受けている」(続く)
0046走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/01/31(金) 22:37:13.93ID:ml9jLEV10
スナック眞緒物語♯9(その10)
「折口先生が意図的に真似されたというのは分かりました。
そのように判断されれば、やはり評価は下がるものなのですか?」
「そんなことはねえ。個人の才能というのは文学の伝統の中で花開くべきだと主張した大家もいた。
先学を尊敬するあまり真似た箇所も必然的に出てくるというわけだ。ただし、上っ面だけの猿真似はいかんけどな」
「その折口先生の『死者の書』はどういう評価をされているんですか?」
「明治期以降の日本に近現代文学で最高峰と評価する者も多い。
さらに、近年になってもその研究論文は増える一方だ。
そして、古代エジプトの話を古代日本の話に換骨奪胎したことでその死生観の普遍性を見事に表現し、
模倣の域を超えた独創的な芸術作品という評価がなされている」
「そんなすごい本なら、いずれ読んでみたいと思います。それにしても、ディテールまでよく空で言えますね」
「まあな、俺も滋賀津彦と同様にこの世にまだ跡を残していないという思いがあるからからな」(続く)
0047走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/02/02(日) 22:55:43.72ID:nPORwb2p0
スナック眞緒物語♯9(その11)
「それは候補にはなったけれど、芥川賞を取れなかったということですか?」
「バッキャーロー、芥川賞なんて相手にもしてねえ。あんな盆暗な選考委員どもじゃ俺の小説の真価が分かりゃあしねえんだ」
「じゃあ、なぜ跡を残していないって言ったんですか?」
「滋賀津彦は自分の子も殺され、この世に子種を残していないことにも悔いを残していた。
『子を産んでくれ。俺の子を』と郎女に懇願する。子供がいない俺もそういう思いだ」
子供がいないという前に、相手にしてくれる女性もいないのでは?と愛萌は思うが、さすがにそのまんま口にはしない。
「そういう女性はいるんですか?」
「おうよ。俺が思っているのは愛萌、オメーだ。
俺が死んだ後、オメーの枕元に現れて、『俺の子を産んでくれ』と化けて出てやるからな」
うわ〜勘弁して。生きていても気持ち悪いのに、この人が死んだ後に私に執着するなんて耐えられない。
「お願いですから、そんな冗談、やめてください」と愛萌は顔をしかめる。(続く)
0048走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/02/02(日) 22:59:02.82ID:nPORwb2p0
スナック眞緒物語♯9(その12)
「何言ってんだ、子供をつくって、人類を繁栄させるというのは女の大切な仕事だろ。
トルストイの『クロイツェル・ソナタ』の後書きにこんなんがある。
『純潔が尻軽に優るということは、誰ひとり非難することはない。だが、その純潔が完全に実行されれば、人類は滅亡しなければならない』
オメーも人類存続に貢献すべきだ。俺と子づくりをしろ」
冗談で言っているんだろうけど、万が一本気だったら怖い。ここははっきりと意思表示しなければ!
「そりゃあ私だっていずれは好きな人の子供を産みたいとは思っていますよ。でも、それはあなたではありません!
だいいち私とあなたじゃ一回り以上も離れているから、そんな対象にはならないでしょ」と愛萌は毅然とはねつける。
「俺は気にしてないぞ、そんなの」
「ちょっと待ってくださいよ。年齢差を気にするかどうかというのは若い方の私にあるということを言ってるんですよ」
「俺のほうが年下かもそれんぞ」
「また訳の分からないことを」
「実は、なあ、俺はプロジェリアなんだ」
「なんですか、そのプロジェリアって?」
「早老症というやつだ。ソウロウといっても、オメーの嫌いな早く漏らすという早漏ではなく、早く老けるという早老だぞ」(続く)
0049走り出す名無し(東京都)
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2020/02/03(月) 22:44:32.62ID:VVu7g2mD0
スナック眞緒物語♯9(その13)
愛萌は絶句する。
「うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、早漏の意味が分かるのか。
まあ、正しいことだ。純潔だけじゃ大人にはなれねえつぅもんだ」
「あなたのように傍若無人に下品なことを放言するのが大人ならば、私は大人にはなりたくもありませんよ」
「話を聞いてねえ奴だな、早老症だとさっき言っただろ。俺は、実は、まだ5歳なんだ」
そんな無理な設定なんかしなくても、そのままでも実年齢より見た目はずっと老けているんですけど。
そう口を滑らせようとするが、寸でのところで言葉を呑み込み、愛萌は黙っている。
「だから、『愛萌お姉ちゃん、僕にオッパイ飲まちて』と俺が言っても、5歳児を相手にしているんだから、怒るんじゃねえぞ」
「卑猥なことをそんなにもよく知っている5歳児なんていませんよ。
それにそういう病気で苦しんでいる人もいらっしゃるというのに、ギャグにすべきことじゃないですよ。
ともかく死んだ後に私にストーカーすると言うのは、冗談にしても止めてください」(続く)
0050走り出す名無し(東京都)
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2020/02/04(火) 23:37:06.10ID:3szFVKIE0
スナック眞緒物語♯9(その14)
「でも、オメーはすでに死者にストーカーされているかもしんねえぞ」
「唐突になんですか?また訳の分からないことを」
「唐突ついでに訊くが『イケオヤ』というのは何の省略語が知っているか?」
「知りませんし、知りたいとも思いません」
「そう言わずにクイズだと思って、考えてみろ」
愛萌は沈思黙考する振りをするが、どうでもいいと思っている。
「出てこねえか?かなりの難問だったみたいだな。
実は、『イケオヤ』というのは『イケメンオヤジ』を省略してんだ」
「はあ?イケメン?推測できる訳がないですよ。『食パン』の語源が『主食用パン』であると推し量るより難しいですよ」
「うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、面白いな、オメー」
「そんなことで褒められても嬉しくありません。で、それは何の前振りなのですか?」
「『死者の書』の第18章には『滋賀津彦は極みなく美しいお人でおざりましたがよ』とある。
だが、死後、塚の中で朽ち果てその肉体は醜くなった」
また、何を言い出すのかしら?まさか・・・と愛萌は嫌な予感がする。(続く)
0051走り出す名無し(東京都)
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2020/02/05(水) 23:14:58.64ID:b80B09C30
スナック眞緒物語♯9(その15)
「また、『死者の書』の第4章には、『その耳面刀自と申すは、郎女の祖父君南家太政大臣には、叔母君にお当りになってでおざりまする』とある。
つまり郎女から三代遡った直系の祖先の女兄弟が耳面刀自で、その耳面刀自が滋賀津彦に同情したつぅうわけだ」
「もう後はだいたい予想がつくので、その話の続きは聞かなくてもいいですよ」
「そう言うなって。最後まで話しさせろ。
イケオヤは無実の罪で死刑となり、その処刑を見て同情したのがオメーの三代遡った直系の祖先の女兄弟だったつぅうわけだ。
イケオヤがオメーに執着する理由もこれで分かっただろ。
そして生きているときにはイケメンだったが、この世への未練から、朽ち果てた肉体のままで甦ったから今はブサメンなんだ」
「私の家系図で勝手に遊ばないでくださいよ。
だいいち三代遡ってもせいぜい百年前くらいでしょ。明治の終わりか、大正の始まりくらいですよ。
公開処刑なんてその頃にまだあったんですか?
その上、その設定だと、私はイケオヤ氏の姪ということにはならないじゃないですか。なにもかも無理すぎます」(続く)
0052走り出す名無し(東京都)
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2020/02/06(木) 22:05:47.17ID:gkKuseuz0
スナック眞緒物語♯9(その16)
「なぬ!オメー、本当にイケオヤの姪っ子だったかのか!」
「違います。違います。違いますよ。あの人が私に対してしている間違った思い込みが姪であるということです」
「なんだ、そういうことか。あんまりびっくりさせんな」
「驚いたのはこっちですよ。どうやったらそんな曲解するんですか」
「でも、オメー、イケオヤが姪っ子だと思い込んでいることに安堵してねえか?」
「冗談じゃないですよ!姪っ子と思われるだけで屈辱ものですよ!」
「でもよ、彗星がやってきたら、イケオヤの気持ちも変わるかもしれんぞ」
また、何言いだすんだろう?心臓に悪い。
「はあ?スイセイですか?水の星のほうですか?ほうき星のほうのですか?」
「ほうき星のほうだ。その彗星は英語で何というか知ってるか?」
「cometですよね」
「正解だが、オメーのおっぱいがCカップからDカップへと大きくなったのを記念して、頭文字CではなくDから始まる英語で彗星を答えてみろ」
はあ・・・、あの美大生とこの人は陰で私のことを面白おかしくあることないことネタにしているんだろうな。
そう思うと愛萌は憂鬱な気分となり、強張った表情をほぐすためにため息を深くついた後で、「分かりません」とだけ言う。(続く)
0053走り出す名無し(東京都)
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2020/02/07(金) 22:15:55.67ID:Ls2V3JYg0
スナック眞緒物語♯9(その17)
「disasterだ。disとasterに分ければ、disは否定の接頭語で、asterは星を意味している。asteriskなら星型を意味するのは知ってるよな。
だから、disasterは『悪い星』を意味している。
その昔、突然現れる彗星は予測不可能だったので、天の秩序を乱す忌まわしいものだと信じられてたんだ。
そこから、彗星のことをdisasterと呼んだんだな」
「disasterって大惨事という意味があるのは知っていたのですが、彗星という意味もあったんですね」
「おそらく彗星のほうが先で大惨事というのは後から付け加わったと思うが、今ではそちらがメインとなってるな」
「日本でも、たしか『太平記』でしたかね、彗星を妖霊星と呼んで、不吉な予兆であるというのがありましたね」
「『天下まさに乱れんとするとき、妖霊星という悪星下って災ひを成す』のとこだな。
アリストテレスの時代から20世紀初頭くらいまでのヨーロッパのほうが、彗星=悪い星という固定観念はずっと強固だったんだがな。
そういう迷信に背いて、彗星を希望の象徴のようかにあつかったトルストイの小説があるが、その作品名は分かるか?」
「読んだことないですけど、トルストイの小説で最も有名な『戦争と平和』ですか?」
「当たりだ」
「今の私たちの感受性から見れば、そちらのほうが腑に落ちますね」
「ああ、美しく輝く彗星が不吉なものであるわけがないと一流の文学者の直観は見抜いたんだな」
え!?この人にも美しいと感じる心はあったの?(続く)
0054走り出す名無し(東京都)
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2020/02/08(土) 21:43:29.22ID:PN9+Ezoj0
スナック眞緒物語♯9(その18)
「『戦争と平和』の中では、突然現れた彗星によって登場人物の男の心が変わる。
それまでナターシャを妹のように思っていたピエールは、窮地に陥って涙を流しているのを見て、いじらしく感じ愛するようになる。
突然、現れた彗星によって変化した夜空とナターシャに対する自分の心の変化をオーバーラップさせるんだ」
「ロマンティックなお話ですね」
「それまで自分の本当の気持ちに気づかなかった男が、彗星を見たことで急にオメーを愛するようになったとしたらどうだ?」
「とても素敵です」
「うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ」
悪い予感・・・・。あっ!しまった!
「それまでオメーを姪っ子のように思っていたイケオヤが、彗星を見てオメーを女として愛するようになってもか?」
「お願いですから、やめてください。そんな話、聞いただけで、私は悪夢にうなされそうです」
「うひゃ、うひゃ、うひゃ、うひゃ、正直な奴め。
まあ、彗星というのは一種の表象だな。他のささいな出来事でも人の心は変わるかもしんねえ。
たとえばブレーカーが落ちたその瞬間に、オメーがブラジルまで行ったことを思い出し、
そこまでして姪っ子であることを拒否するのは女として意識してほしいからだと勘違いして、その“愛”に応えようとしているかもしんねえぞ」
「お願いですから、そんな話、本当にやめてください」と愛萌は叫ぶ。
暖房が効いている店内なのに、愛萌は体全身が鳥肌になる。(続く)
0055走り出す名無し(東京都)
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2020/02/10(月) 22:22:41.08ID:4qWne3V+0
スナック眞緒物語♯9(その19)
いくつかの視線が自分に注がれているのを愛萌は感じ恥ずかしくなる。いつの間にか客が入っていて、先ほどの叫び声に注目が集まったようだ。
眞緒ママも少しびっくりして奥で愛萌を見ている。
「油を売っていちゃダメですね」と言って、次から次に変な話を聞かされて疲弊している愛萌はこれ幸いに場を離れようとする。
「ちょっと待て、オメーが俺に聞きたかったというのは偶然に似た作品とか意図して真似た作品とかいうことじゃなく、別のことだろ」
「ええ。でも、他にお客様がいらっしゃっているようですから」
二人のやり取りを聞いていた眞緒ママが近くにきて言う。
「愛萌、今いらっしゃるお客様がご注文なさった品はすべて配膳したから大丈夫よ」
「でも・・・」
「これからは愛萌に頼りっきりになるかもしれないから、今日くらいは自分の疑問を解消させることを優先させなさい」
眞緒ママにそこまで言われては、愛萌も従わざるを得なく、愛萌はしぶしぶ源に尋ねる。
「本を読み続けることでその先に何が見えてくるのかが分からないんです」(続く)
0056走り出す名無し(東京都)
垢版 |
2020/02/10(月) 22:24:45.51ID:4qWne3V+0
スナック眞緒物語♯9(その20)
「なんだそういうことか。でも
、オメー自身もある程度は思うところがあんだろ。それを先に述べてみろ」
「まず、一点目は、本を読むことで語彙力とか知識とかは身に着きますが、それが目標じゃないような気がするということです。
次に、二点目は、趣味や娯楽の延長線上で本を読むことが最も効率よく感化されやすいと思っているんですが、それが正しいのかどうか。
最後に、三点目は、もしそうだとすれば、その先にあるものは、本というのは人の趣味にだけ影響するということになります。
それが正しいかどうかということです」
「一点目は正しい。博学多識となることだけを目標として本を読む奴はクソだ。
二点目も正しい。ただし、自分の好みの本だけを読むというのはいずれ成長の限界がやってくる。
もっとも、オメーの場合は現代日本文学だけでなく、古典も読んでいるようだから問題はないだろう。
三点目は間違っている。本というのは趣味趣向だけでなく、人の全人格に影響する。以上だ!」
「えっ!それだけですか?もっと具体的に教えてもらえないんですか?」
先ほどまでこの場から離れたかったのに、自分でも意外な言葉が飛び出したことに愛萌は驚く。
「ほう、オメーが心底聞きたいという目で俺に質問するのは初めてだな。だが、長くてつまらん話になるから聞くのはやめとけ」
「ぜひお願いします」(続く)
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