先進7カ国(G7)首脳が19日、史上初めてそろって被爆地・広島を訪問し、原爆資料館を視察した。ただ、視察の様子は完全非公開で、日本政府はメディアの館内取材を認めず、首脳らが見た展示品の詳細を明らかにしない姿勢に徹した。核兵器保有国の米英仏に対する配慮が際立った。 (川田篤志、曽田晋太郎)

◆オバマ氏は10分間だった
 「G7首脳に被爆の実相を見てもらう」。岸田文雄首相は昨年に広島でのサミット開催を決定して以降、何度も繰り返してきた。
 脳裏には7年前の経験がある。当時のオバマ米大統領が現職大統領として広島を初訪問した際、外相として案内役を務めたのが首相。原爆を投下した側の大統領が被爆地で演説し「核兵器なき世界」の追求を訴え、被爆者と抱擁した歴史的な出来事だった。だが、原爆資料館の滞在は入り口のある東館の玄関ロビーでの10分間にとどまり、館側が用意した折り鶴など数点の収蔵品を見ただけだった。
 広島サミットでは、視察のテーマにずばり「被爆の実相」を掲げ、犠牲者の写真や遺品などが並び、それを最も感じられる本館での展示品を見てもらうことが必要だと考えていた。

◆「センシティブな問題」慎重だった米仏
 だが、各国との調整は難航。外務省関係者によると、米国とフランスが特に慎重だったという。
 フランスは1月、核兵器を「防衛の要」と位置付けた中期国防計画の骨格を発表。マクロン大統領は「抑止力がこれほど必要と思われたことは、かつてない」と核抑止への傾倒を強めている。広島で核兵器がもたらす「負」の側面に焦点が当たりすぎると、抑止力を強める立場と矛盾するとの論理が働いていると日本政府関係者はみる。
 米国の場合、「戦争終結のために原爆投下は必要だった」との国内世論が根強いことが影響しているという。バイデン大統領が資料館をじっくり視察すれば、国内で反省していると受け取られて批判を浴びる可能性があり、日本の外務省幹部は「米側は見学の様子は見せたくない。センシティブな問題だ」と漏らす。
 ぎりぎりの調整で、日本政府としてG7首脳が館内をどう回り、本館に足を運んだのかも明らかにしない対応に行き着いた。滞在はオバマ氏より長い40分間だったが、首相は19日夜も記者団に詳しい内容を説明せず「準備の過程で非公開にすることになった」と話した。館内でのG7首脳と被爆者の面会も非公開で、被爆の実相に触れてもらったとしても発信は抑制的になった。
 上智大学の前嶋和弘教授(米国政治外交)は取材に「G7首脳が訪問したのはすごいことだと思うが、本館に行ったかどうかを含めて公開していいはず。核なき世界を訴える機会としては残念だった」と指摘。「核廃絶がG7の優先順位のトップに行かない難しさが、今回の中途半端さにつながった」と分析している。

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東京新聞
2023年5月20日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/251120