昨年12月26日に放送されたNHK―BS1スペシャル「河瀬直美が見つめた東京五輪」後編の字幕の一部に不確かな内容があったとして、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は9日、「重大な放送倫理違反があった」とする意見を公表した。

 この番組は、東京五輪の公式映画監督である河瀨直美氏と映画製作チームが密着取材して制作したドキュメンタリーで、男性を取材した場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて伝えた。

 だが放送後、視聴者から字幕の内容が事実であるかの問い合わせが相次ぎ、NHKが男性に確認したところ、実際に五輪反対デモに参加していた事実を確認できず、字幕の内容が不確かだったことが分かったという。

 同委員会は審議を重ねる中で、次のとおり事実を認定した。

 ①番組は五輪反対デモに参加していない男性を参加したかのように描くもの。②男性のその他の発言についても事実の確証は得られていない。③別のデモに関する男性の発言を五輪反対デモに関するものであるかのように編集した。④男性に対し適切な説明をしなかった。

 放送した結果、番組はデモの参加者はお金で動員されており、主催者の主張を繰り返す主体性のない人々であるかのような印象を視聴者に与え、デモの価値を貶めたという問題も生じた。同委員会は、放送倫理基本綱領、NHK放送ガイドラインに反しているとして、重大な放送倫理違反があったと判断したとしている。

 ただ東京五輪をめぐっては、組織委員会元理事の高橋治之容疑者が、大会スポンサーの紳士服大手AOKIホールディングス(HD)側から5100万円を受け取ったとして、東京地検特捜部に受託収賄の疑いで逮捕されるなど、汚職事件に発展。9日には、大会組織委員会会長を務めた森喜朗元首相が参考人として任意で事情聴取されたことも分かった。

「河瀬直美が見つめた東京五輪」では、反対デモに参加しているという男性がお金をもらって動員されたと放送したが、大会の1年後には、実際に不正な金をもらっていたのは運営側だったことが発覚するとは何とも皮肉だ。

東スポ
9/9(金) 16:44
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