凶弾に倒れた安倍元首相の「四十九日」が過ぎ、国葬(9月27日実施)に向けた準備が本格化している。岸田政権は26日、費用を閣議決定。その額は全額国費負担で約2億5000万円に上る。首相経験者の葬儀に対する史上最高額の公金投入で、今年度予算の一般予備費から支出。もっとも、警備費は含まれておらず、“過少申告”の疑いもある。国民の異論は無視、財政民主主義はないがしろ。一般の弔意はしぼむ一方だ。

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 戦後、首相経験者の国葬は1967年の吉田茂氏以来となる2例目。日本武道館で行われた吉田国葬には皇太子夫妻をはじめ、与野党の国会議員や72カ国の大使ら6500人が参列したという。当時の式典経費は1810万円。現在の貨幣価値にすると、7500万円あまりだ。安倍国葬の会場は同じ武道館で、参列者数の想定は同規模の6400人。新型コロナウイルス対策費がかかるにしても、3倍超は盛りすぎじゃないか。

 米国のオバマ元大統領やハリス副大統領、フランスのマクロン大統領などの海外要人の参列が見込まれているとはいえ、警備費は別勘定。実際のコストはさらに膨らむこと必至だ。そもそも、米国は自前警護が基本だし、元首相の銃殺を許すような治安機関の警備はハナから期待していないだろう。

 世論の大半が安倍国葬に反対。衝撃の死去から日が経つにつれ、反発の声は強まっているだけに、2.5億円の公金投入すら、予算を低く抑えようとした「見せかけ予算」と勘繰りたくなる。

世論の大半を占める「反対」意見を無視

オンラインサイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で展開中の署名活動「安倍元首相の『国葬』中止を求めます」への賛同は5万人を突破。呼びかけ人のひとりの高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。

「法的根拠がない国葬に税金を使うのはいかがなものか。岸田政権は内閣府設置法を根拠としていますが、この法律によって実施できるのは内閣府葬まで。前提に問題がある上、国民の声にも野党の要求にも耳を傾けず、国会審議から逃げている。岸田政権は憲法の要諦である財政民主主義をもないがしろにしています」

 第2次安倍政権下で権勢を振るった二階元幹事長は「当たり前のことですよ。やらなかったらバカ」「もう安倍さんは帰ってこないのだから、みんなで気持ちよく送ってあげたらいいんじゃないんですか」とか言っていたが、すでに葬儀は営まれている。何が何でも華々しく、かつ気持ちよく送りたいなら、前例踏襲で内閣・自民党合同葬に切り替えればいい。

 20年10月にグランドプリンスホテル新高輪で実施された中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬には、葬儀委員長の菅前首相ら644人が参列。費用は感染対策などで約2800万円増額され、総額約1億9200万円だった。政府は半額にあたる約9600万円の経費を負担した。

 記録がある首相経験者の内閣・自民党合同葬の政府負担分は、80年の大平正芳氏=約3640万円▽87年の岸信介氏=約4500万円▽95年の福田赳夫氏=約7330万円▽00年の小渕恵三氏=約7550万円▽04年の鈴木善幸氏=約5440万円▽06年の橋本龍太郎氏=約7700万円▽07年の宮沢喜一氏=約7690万円──。安倍国葬の破格ぶりは歴然だ。

 今からでも遅くない。岸田首相は真の「決断と実行」をすれば、世間の見る目も変わるはずだ。

日刊ゲンダイ
8/26(金) 14:00
https://news.yahoo.co.jp/articles/1b6ace3e3eedc514c27b418b1b3865675387f42d