【検証 令和の新興宗教】#6

「イエス・キリストはここで修行をしてから国に帰ってキリスト教を広めたんですよ」

 信者がにこやかに語るのは、富士山麓の富士吉田市にある不二阿祖山太神宮。一見すると神社のような装いで、鳥居は珍しい3本足だ。

「この鳥居の下に入ると、携帯電話などから出る電磁波の悪影響を弱めることができます」(信者)

 境内には“ムー大陸の文字”なるものが記されたプレートが。2020年に筆者が取材に行くと、“平和を祈るホピ族の儀式”が行われていた。だが登場したのはホピ族とは別のネーティブ・アメリカンであるアパッチ族の羽飾りを頭につけた男性。終了後に聞くと、アパッチの祖母を持つクオーターでホピ族は関係ないという。随分テキトーだ。

 社務所には団体の機関誌と一緒にオカルト雑誌「ムー」が置かれ、ここを訪れた著名人の写真コーナーもあった。目を引いたのは、この神社の渡邉政男教祖と安倍晋三元首相の妻・昭恵氏が写ったカット(写真=撮影・藤倉善郎)だ。

 不二阿祖山太神宮は2009年に設立された新興宗教団体。200万~300万年前のこの地に天皇を頂点とする「富士王朝」(古代富士王朝)と天皇家ゆかりの「不二阿祖山太神宮」があったと主張する。

■国会議員71人を動員

 これらの王朝とも神社とも関係ない教祖が、猿人の一種であるアウストラロピテクスの時代に存在した神社を再興したというのだ。この独特の歴史観は、明治時代に発見されたとされる古文書「宮下文書」を根拠にしている。歴史家の間では“偽書”として否定されているものだ。

 不二阿祖山太神宮は14年から関連NPO法人の主催で「FUJISAN地球フェスタWA」なるイベントを年1回開催。富士王朝をテーマにしたシンポジウムなどを行い、「ムー」の編集長も登壇した。

 15年、当時首相夫人だった昭恵氏がイベントの名誉顧問に就任。同年、71人もの現役国会議員が顧問などとして関わり、9つの中央官庁、19の自治体、8つの教育委員会、計36もの行政機関が後援として名を連ねた。地元メディアと毎日新聞社のような全国メディアを含め計7社が後援。コロナ禍の21年でも58人の国会議員を動員した。

 17年にこの件を日刊ゲンダイがスクープ。すると昭恵氏の名が役員名簿から消え、現在、名誉顧問として最上位に掲載されているのは石破茂氏だ。

 不二阿祖山太神宮は、もともと「天住の会」と称する宗教法人で、山梨県都留市で設立された。「友人から宗教ではないと言われて勧誘された」と証言する人もいる。事実なら、統一教会のように宗教であることを隠した偽装勧誘だ。

 いずれにせよ、史実と異なるニセ歴史をアピールする関連イベントで、大量の国会議員が顧問を務め、教育委員会までが後援についた。いずれ問題になるのではないか。

(藤倉善郎/ジャーナリスト)

日刊ゲンダイ
8/23(火) 9:06
https://news.yahoo.co.jp/articles/ec294947300ffdb29d3c61e71fa7948de11af149