国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が広島訪問した際の警備費用について、広島県と広島市が負担することが判明して大きな反響を呼んでいる。

 バッハ氏は東京五輪開幕に先立ち、緊急事態宣言が出ていた7月16日に滞在先の東京から広島を日帰り訪問。多くの関係者を引き連れ、組織委の橋本聖子会長も同行した。平和記念公園にある原爆死没者慰霊碑に献花し、被爆者とも面会した。

 スピーチでは「(東京五輪が)より平和な未来への希望の光になる」と呼びかけたが、核兵器廃絶には触れなかった。同公園内の一部への市民らの立ち入りが約3時間制限され、公園周辺ではバッハ会長の広島訪問や東京五輪に反対する数十人が「Get Out(出ていけ)バッハ!」、「バッハは広島を利用するな!」、「命より金の五輪は中止しろ!」などシュプレヒコールを行い、一時騒然となった。

 報道によると、訪問時の同公園周辺の警備を民間会社に委託。IOCや大会組織委員会側に対して委託費用379万円を支払うように交渉したが拒否されたため、県と市が半額ずつ負担することを決定したという。

「広島県、市がバッハ会長に来て欲しいと呼びかけたのか、バッハ会長が本人の意思で来たのかによって認識が変わってきます。広島県、市が呼んだのならば警備代を支払うのは自然だと思います。バッハ会長が自らの意思で来たのならば、大会組織委員会が負担すべきです。そもそもの問題は、このような案件を事前にすり合わせられなかったかということです。支払われている費用は県民の税金なんですから」(広島のテレビ局関係者)

 SNS、ネット上でも批判のコメントが相次いだ。

「広島は負担に不満があろうはずはない。当時、広島は自治体としてバッハを受け入れた。はっきりと拒否しなかったし、費用負担も言い出さなかった。何を今になって騒ぎ立てるのか。広島の体面か、くだらない」

「そういう事は先に決めておいた方が良かったんじゃないか?それによって状況も状況だし、広島はIOCを受け入れない選択だって出来たんだから」

 広島、県がバッハ会長に来広を依頼したのならば、自治体が警備代を支払うというのは自然に思える。では、なぜ、IOC、大会組織委員会側に支払いの交渉をしたのか。広島県、市はトップが今回の経緯について説明責任を果たすべきだろう。

 そもそもバッハ会長の評判はお世辞にも良いとは言えない。日本国内や海外で五輪中止の声が高まっていた5月、米有力紙ワシントン・ポスト(電子版)がバッハ会長を「ぼったくり男爵」と命名。

 五輪開催の目的が金であることを指摘し、五輪の中止は「苦痛を伴うが、浄化になる」と訴えた。来日後に橋本会長と公開で行われた会談の際には、日本国民に安全を訴えるつもりが、「最も大事なのはチャイニーズピープル…」とまさかの言い間違え。すぐに「ジャパニーズピープルの安全安心です」と言い直したが、日本人の感情を逆撫でするような発言で大会関係者を呆れさせた。

 また、開会式では猛暑の中で13分もスピーチし、各国の選手団は途中で寝っ転がる選手が続出する事態となった。五輪閉幕翌日(9日)にはまさかの“銀ブラ”。悠々と東京・銀座の街を散策している姿が目撃され、ツイッターで動画や写真が拡散された。

 大会関係者は入国後14日間を過ぎると行動制限はなくなるが、IOCは選手たちに大会中の観光を厳しく禁じただけに批判の声が相次いだ。しかし、丸川珠代五輪担当相はバッハ会長の”銀ブラ”に対し、「不要不急であるかはご本人がしっかり判断すること」とスル―。加藤勝信官房長官も政府として問題視しない考えを強調した。

「ぼったくり男爵」にやりたい放題されても、請求書も出せず、なすすべもない日本のトップたちの姿は国民にどう映るだろうか。
(牧忠則)

AERA
2021.8.12 18:00
https://dot.asahi.com/dot/2021081200065.html