政府分科会の“反乱”再びか――。

 何が何でも東京五輪開催で突っ走る菅首相が、新型コロナ対策における自らのアドバイザー集団の切り捨てに走っている。1日の参院厚労委員会で野党から五輪開催の可否について分科会に諮問すべきとただされると、菅首相は「東京都と大会組織委員会などとの調整会議に感染症の専門家2人が参加し意見を伺っている」と答弁。分科会に諮問せず、“外す”考えを示唆したのだ。先月14日に、やりたくなかった緊急事態宣言の地域拡大を押し切られたことが、よほど腹に据えかねたのか。

■「このパンデミックで普通は開催はない」

 しかし、分科会の尾身会長はすぐに反撃に出た。2日、参考人として呼ばれた参院内閣委員会や参院厚労委で持論を大展開。

 東京五輪について「今の状況で普通は(開催は)ない。このパンデミックで」と言い放ち、「そういう状況でやるなら、主催者の責任として開催規模をできるだけ小さくして、管理体制を強化するのが義務だ」と苦言を呈した。さらには「そもそも五輪を、こういう状況の中で何のためにやるのか。それがないと一般の人は協力しようとしない」「(専門家としての評価を)何らかの形で伝えるのがプロフェッショナルの責務だ」とまで言ってのけた。

 この発言が報じられると、ツイッターで「尾身会長」がトレンド入り。<1万回いいねを押したい。まさに専門家の鏡たる発言><専門家は100人中100人がそう言っていたが、尾身までもが><尾身さん、責任問題になった時のために備えているようだな>などのコメントで一時沸いた。

警鐘鳴らしメンツを立てたい分科会

一部報道によれば、分科会の有志が、五輪開催のリスク評価をまとめた上で公表することを検討しているという。分科会メンバーのうち、感染症や経済の専門家の多くは、「ステージ4での開催は困難」との意見で一致。ステージ3でも、期間中か終了後に感染拡大する恐れがあると評価し、開催するとしても無観客や規模縮小の工夫が必要との認識だという。まさに、参院での尾身発言と重なる。

 世論のムード盛り上げを狙う菅首相とスポンサーの意向を最優先する大会組織委のことだから、「完全な形」に近い有観客を強行しかねない。分科会の専門家としては、警鐘を鳴らした形でメンツを立てたい思惑もあるのだろう。

「菅首相は五輪を止める気はなく、官邸も結論ありきで動いている。開催が縛られるようなことは聞きたくないので分科会に諮問しない。一方で尾身さんは、これまでは政府や厚労省に気を使ってきたものの、五輪についてはどうあがいても止められそうにないため、ならば学者としての筋を通した方が得策と考えたのでしょう。万が一、開催によって感染が拡大した時の責任回避という尾身さんなりの危機管理もある」(ジャーナリスト・山田惠資氏)

 尾身氏の反撃に慌てた菅首相は2日夜、官邸ホールで報道陣のぶら下がり取材に応じ、この感染状況でも五輪を開催する意義について、こう答えた。

「五輪はまさに平和の祭典だ。一流のアスリートが東京に集まり、スポーツの力を世界に発信していく」

 これで納得する一般の人がどれだけいるだろうか?

 6割が「五輪中止」の世論は、菅首相より分科会にエールを送るだろう。それでも菅首相は自爆するのか。

日刊ゲンダイ
2021/06/03 15:10
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/290032