新型コロナウイルスの高齢者へのワクチン接種をめぐる国の全国調査で、「7月末に完了できない」と回答していた兵庫県内の複数の市町に対し、国や県が強い働きかけをして完了時期を変更させていたことが神戸新聞の取材で分かった。国の12日の発表では、県内の全41市町が「7月末に完了」と回答しているが、実現に疑問を抱く市町も多く、調査の信頼性が問われる。

 菅義偉首相が65歳以上のワクチン接種の「7月末完了」を掲げたことを受け、政府は4月下旬、7月末への前倒しを依頼するとともに、都道府県を通じて各市町村への調査を依頼。その時点で「7月末」と回答した自治体は全国で半数に満たず、県内でも多数の市町が「8月」「9月」などと答えていたとみられる。

 政府は5月に入り、再び終了時期の調査を依頼。県は今月7日を締め切りとして各市町に回答を求めた。神戸新聞社が県内各市町に取材したところ、その時点で、少なくとも6市町が「7月末」ではなく、「8月」や「9月」などと答えていた。

 だがその後、「7月末」と回答していない市町には、荒木一聡副知事ら県の上層部や総務省などから市町の幹部に直接連絡があり、担当部署にも県などから電話やメールがあった。ある市では副市長に電話で「7月末に収まるように、どうにかならないか」と働きかけがあり、回答を変更したという。

 別の市は「8月です」と県に回答したところ、県から「国からやんわり言われたので、なんとかならないか」と電話があり、「意向をくんでください。努力目標でもいい。計画だけでも」と言われ、回答を変えた。担当者は「『努力目標でいい』と言われたのに、このような形で発表されるなら『7月末』と答えなかった。市民に誤解を生むのがつらい」と話した。

 さらに別の市では、総務省から「7月末までに計画を前倒ししてほしい。できない理由は何か」と迫られたという。その自治体は国による医師の人材確保や財政的な支援などを条件に「7月末」と回答を変えた。だが、国への要望については確約の回答がないまま「7月末完了見込み」だけが発表された。

 4月末以降の国や県の働きかけにより、5月7日時点で「7月末」と回答を変更した自治体もある。ある市の担当者は「『(7月中に)できる』と言わないと、何度も県を通じて国から連絡や調査が来た。職員は過労死寸前で、住民からの風当たりは強くなる一方。政治に巻き込まないでほしい」と訴えた。

 総務省の担当者は神戸新聞の取材に「政府の取り組みを紹介した上で、『どうですか』と聞いた」とし、「あくまで市区町村が接種の主体。コミュニケーションを取りながら、政府として課題改善に向けて努力している」とする。

 県の担当者は、接種会場の開設時間延長や医療機関との再調整などの検討を、県の幹部と担当者から市町に依頼したことを認め、「全市町が7月末までの接種完了に変更した。早期に接種が終えられるよう、市町にどんなサポートができるかをしっかり検討したい」とした。

 総務、厚生労働両省の12日の発表では、全国の自治体の85・6%が「7月末に完了見込み」とし、「8月中」は10・6%、「9月以降」は3・8%だった。(高田康夫、小谷千穂、藤井伸哉)

神戸新聞
2021/5/14 05:00
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202105/0014324711.shtml