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 韓国の文大統領は、わが国を「重要な隣国」と指摘した。これまで重視してきた反日的な姿勢を弱め、対日関係の修復を目指さなければならないほど、文氏の経済運営は厳しい局面を迎えつつあるようだ。その裏には、日本以上に深刻な韓国の人口問題が垣間見える。(法政大学大学院教授 真壁昭夫)

● 統計開始以来初めて 韓国の人口が減少へ

 韓国統計庁が公表した2020年の韓国の人口統計(速報値)によると、出生数27万2400人に対して、死亡者数は30万5100人。2020年、1970年の統計開始以来初めて、韓国の人口が減少に転じた。

 人口減少の要因となっているのは、合計特殊出生率(女性1人が一生に生む子どもの推計数)の低下だ。また、コロナショックによる経済格差の深刻化や経済の二極分化(K字型の景気回復)への懸念もその要因になり得る。それに加えて、韓国の株価や不動産価格の調整も人口の減少に拍車をかける恐れがある。

 長期的な視点で考えると、韓国の人口はこのまま減少傾向をたどる可能性があり、わが国以上に厳しい人口問題に直面するとみる経済の専門家もいる。

● 鮮明化する韓国の 出生率の低下傾向

 データの推移を確認すると、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の政権発足後、時間の経過とともに出生率は低下している。文氏の経済政策などが出生率低下にどう影響したか冷静な分析が求められるが、文政権が人々にゆとりある暮らしを提供することが難しい状況が続きそうだ。

 韓国の人口問題の現状を把握するために、まずは時系列でデータを確認していこう。

 2001〜2005年までの5年間、および2006〜2010年までの5年間、それぞれの韓国の平均出生率は「1.19」だった。2011〜2015年までの5年間の平均出生率は「1.23」に上昇した。

 しかし、2016〜2020年までの5年間の平均出生率は「0.99」へと低下した。文政権が発足して以降の出生率は、2017年が「1.05」、2018年が「0.98」、2019年が「0.92」、2020年が「0.84」だ。わが国の出生率(2019年で1.36)と比べても、韓国の出生率低下のペースは深刻となっている。

 それに加えて、韓国では高齢化問題も深刻だ。「高齢化社会」(人口の7%が65歳以上)から「高齢社会」(人口の14%が65歳以上)への移行に要した期間は、わが国で24年だった。それに対して韓国は18年と、急速に高齢化が進んでいる。韓国の出生率低下は、高齢化も加速させているのだ。

 韓国では高齢者の生活環境が厳しい。OECD(経済協力開発機構)のデータによると、2018年、韓国の66歳以上の世代の相対的貧困率(所得が中央値の半分に満たない人の割合)は、43.4%だった。同年のデータが取得できるOECD加盟国の中で、その水準は最高だ。

 韓国において出生率の低下が加速化していること、そして、高齢者がゆとりある生活を目指すことが難しいことが、以上のデータから確認できる。

 そのため、若年層など現役世代は将来への不安、予備的動機(将来の予期せぬ事態に備えて、予備的に貨幣を保有すること)を強める傾向にあると考えられる。子どもを育てつつ自らのキャリアを追求することが難しいと感じる若年層も増えているようだ。

 文政権下では、そうした社会心理は一段と強くなり、その結果として出生率が低下し、人口の減少と高齢化に拍車がかかっているようにみえる。


(略)