国債を活用してコロナ経済危機を乗り越える

 長引くコロナ禍での経済の落ち込みが、緊急事態宣言によってさらに深刻なものとなることが危惧されている。そんな中で、人々が熱望しているのが10万円の定額給付金の再給付。だが、菅政権は再給付に否定的だ。その背景には、麻生財務大臣の会見での発言にもあるように「国の借金を増やしてはいけない」という財政規律を求める財務省の意向があるのだろう。

 財政規律は果たして絶対的なものなのだろうか。気鋭の経済学者、井上智洋・駒沢大学経済学部准教授と日本ベーシックインカム学会理事の小野盛司氏は、共著『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』(扶桑社)の中で、「財政規律の常識」にとらわれず、「国債を活用してコロナ経済危機を乗り越える」ことの重要性を訴えている。


「国の借金を増やしてはいけない」は、財務省とマスコミによる刷り込み

「(定額給付金は)政府の借金(国債)でやっている。後世の借金をさらに増やすのか」

 1月22日の会見で、定額給付金の再給付について質問を受けた麻生財務大臣は、「財政規律」を理由に再給付を否定した。「国の借金を増やしてはいけない」というのは、財務省やその影響を受けたマスメディアが繰り返してきた脅し文句であり、多くの人々に刷り込まれた強迫観念だ。井上智洋・駒沢大学経済学部准教授はその矛盾を指摘する。

「これは財務省のウェブサイトに掲載されているのですが、2002年に外国の格付け会社が日本の国債の格付けを下げた際、『日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルト(債務不履行)は考えられない。デフォルトとしていかなる事態を想定しているのか』と反論しているのです」(井上氏)

 つまり自国通貨を持ち、通貨を刷ることのできる日本は、国債を大量に発行してもそれ自体で破綻するリスクは極めて小さいということだ。

「国債は発行すればいずれ返済しないといけない時期が来ますが、そのお金を返すためにさらに国債を発行したら良いのです。これを借換債(かりかえさい)と言うのですが、借り換えている間に金利が上がるリスクはあります。ですから、私はマネタイゼーション(国債を金利のない貨幣にすること)を、どんどんやるべきだと考えています。

 そうすれば安心ですし、あとはインフレにならなければ問題ありません。『国債の発行はいずれ行き詰まる』という発想は、今の日本では“常識的”なのでしょうが、その“常識”が間違っているのです」(同)

 実は、大量に発行された国債のマネタイゼーションは、日本銀行(日銀)が民間銀行から国債を買い入れることで実際に行われていると井上氏は語る。

「『買いオペ』と呼ばれていて、中央銀行である日銀が民間銀行にお金を渡して、国債を吸収しているのです。それによって、国債を貨幣と交換することが行われています」(井上氏)


日本は過去に、国債を大量に発行して経済危機を乗り越えた

 日本の近代史を振り返ってみても、国債を大量に発行し、経済危機を乗り越えた実例があると井上氏は言う。

「1929年にアメリカから世界大恐慌が始まりました。そのあおりを受けて、日本も『昭和恐慌』と言われる経済的なピンチに陥ったのです。それを救ったのが高橋是清です。

 1931年、当時の犬養毅首相に請われて大蔵大臣になった高橋は、日本の景気を良くするために貨幣のばらまきのようなことをしました。国債を政府が発行して日銀に買わせ、それを財源として支出に充てたのです。それによって景気がものすごく良くなりました。

 高橋財政下での経済成長率は6.1%と、高度経済成長期に匹敵する勢いでした。ただし、高橋財政によってデフレ不況は払拭されましたが、政府支出が国民の生活の豊かさとは関係ないほうにどんどん使われてしまいました。そちらにリソースが取られていたため、経済は回復したものの、戦時中の人々の生活は困難なものとなってしまったのです」

 井上氏は「国債の日銀直接引き受けという、今では“禁じ手”とされていることが健全に使われるのならば、むしろ国を豊かにするために活用することができると思います」と語る。

 国債を日銀が直接引き受けることは、現状では財政法5条で禁止されているものの、同法では「特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない」との例外規定がある。


毎月10万円、広く継続的な給付で日本経済を立て直せ
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<文/志葉玲>
HARBOR BUISINESS Online 2021.02.10
https://hbol.jp/238893