地方の首長選で自民党の苦杯、苦戦が続いている。「コロナ禍」の中、地方選が大きく報じられないので目立たないが、選挙により地元組織が深刻な分裂状態になっているところもある。「後遺症」が続けば、今秋までに行われる衆院選に向けて深刻な懸念材料になる――。

■注目の「1.24」で、山形は惨敗 岐阜は分裂

注目の「1.24」は自民党にとっては、ほろ苦いものになった。この日、岐阜県と山形県で知事選が行われたからだ。
山形県では4選を目指す吉村美栄子氏が圧勝した。午後8時、投票が終わると同時にマスコミ各社は吉村氏の「当選確実」を一斉に報じた。自民党は、元県議の大内理加氏を推したが、得票は吉村氏の半分にも及ばなかった。大内氏は「政権与党との連携」を繰り返し訴えたが、肝心の菅政権の支持が急落している現状では、効果は乏しかった。
一方の岐阜は、現職で5選を目指す古田肇氏が、新人の江崎禎英氏に競り勝った。県選出国会議員の大半は古田氏を推したが、県連を仕切る県議たちの相当数が江崎氏につき、絵に描いたような自民分裂の選挙となった。古田氏を推した野田聖子党幹事長代行は、選挙には勝ったが、分裂選挙になった責任を取り「1つにまとめることができなかった。選挙結果を乗り越え、党が結束して新しい政治を行うため、人事を刷新したい」と述べ、自身の県連会長辞任を表明。県連人事を刷新すべきだとの考えもにじませた。
片方は大敗し、もう一方は党が真っ二つになる。自民党としては深刻な事態である。

■「保守王国で負ける要素はゼロだったのだが……」

「1.24」だけではない。1週間前の17日には沖縄県宮古市長選で、自民、公明が推す現職が、国政野党勢力の推す新人に苦杯をなめた。昨年10月25日には富山県知事選で自民党県連が推す現職が、新人に5選を阻まれた。さらに7月にさかのぼれば鹿児島県知事選で、自民、公明両党が推す現職が新人に敗れている。
鹿児島、富山の両知事選は構図が似ている。戦前は現職が盤石と見られたが、保守分裂により自民支持層が分散。新人に票が流れ、番狂わせが起こったのだ。
自民党幹部の1人は「鹿児島も富山も保守王国。落ち着いて構えていたら負ける要素はゼロだったのだが……」と唇をかむ。

■コロナ禍の選挙は投票率が「高い」

地方選で想定外の展開は、なぜ起きているのか。コロナ禍と無関係ではない。
昨年春、新型コロナウイルス感染の第1波の頃、コロナ禍の地方選の見通しについて「自民系現職が圧倒的に有利」との見方が支配的だった。
報道はコロナ報道ばかりで選挙報道は脇に追いやられる。
街頭など聴衆に訴える運動は難しくなる。感染を恐れる有権者は投票に行くのを控え、投票率は下がる。
その結果、自民党など強固な組織に囲まれた候補が圧倒的に有利になる――。こういう姿を政治のプロたちは予測していた。ところが、実際は違った。
確かにマスコミの選挙報道は従来よりも抑制的になり、選挙戦も「密」を避けるものとなった。そこまでは予想通りだ。
しかし、投票率は下がっていない。岐阜県知事選の投票率は4年前より11.65ポイントも高い48.04%。山形は、前回選挙をわずかに下回ったが62.57%と高率だった。富山では25.33ポイントも高い60.67%。それぞれ地域事情はあるものの、投票率は十分高い。

■SNS中心の選挙で、若者が関心を持ち始めた

この現象はなぜ起こったのか。地方の選挙担当者や取材にあたったジャーナリストの話を総合すると、こうなる。
コロナ禍は、国民1人1人の命を蝕む恐れのある未曾有の事態だ。そこで自分たちの自治体や、国のリーダーがどういう対応をしているか、国民はいつになく関心を持つようになった。
選挙戦でも、候補者の訴えに耳を傾けるようになる。
現職首長がとった対応に不満があれば、批判票を突きつける。
候補者が、インターネット,SNSを通じた選挙運動に軸足を置いたことで、これまで選挙に関わりの少なかった若者が選挙に関心を持つようになったことを理由にあげる有識者もいる。
コロナ禍で「組織選挙が有利になる」はずが、「組織されない浮動票が掘り起こされた」と言い換えてもいい。だとすれば、自民党が思わぬ苦戦を繰り返すのも合点がいく。

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https://president.jp/articles/amp/42735