新型コロナウイルスの影響で延期された東京オリンピックは23日で開幕半年前を迎える。急ピッチで準備を進める時期だが、世界的に感染拡大が続き、国内では緊急事態宣言が再発令された。スポーツ界は混乱の中にあり、中止論も高まる。国際オリンピック委員会(IOC)は世論の行方に神経をとがらせている。

3月25日がデッドラインか

 風向きをどう変えるか、招致段階から東京五輪に深く関わってきた政府関係者は思案していた。今月中旬、開催を危ぶむ声は日に日に高まっていた。「私見だが『無観客ならできる』と早く言うべきだ。IOCがどう動くかは分からないが、日本側として無観客というカードは早く切らざるを得ないのではないか」。無観客での開催なら経済効果は激減するが、感染リスクは抑えられる。吹き荒れる中止論の後手に回れば、取り返しがつかないとの危機感がにじんでいた。

 五輪は7月の開幕に向けてレールが敷かれたはずだった。IOCのトーマス・バッハ会長が昨年11月に来日し、菅義偉首相と感染対策を万全に施して開催することで合意。政府は春までに海外客の受け入れや観客数の上限を決め、準備を本格化させる方針だった。

 だが状況は一変した。世界各地で感染力が強いとされる変異株が確認され、国内では政府の緊急事態宣言が11都府県を対象に再発令された。今月上旬の共同通信社の世論調査では、今夏の開催を求める割合が14・1%で昨年12月の前回調査の31・6%から急落した。再延期44・8%と中止35・3%を合わせ、8割超が計画見直しを求めた。

 大会には多額の公費を投じるため、IOCは円滑な運営に民意の後押しは不可欠として大会支持率に敏感だ。バッハ氏は年頭メッセージで「(大会は)トンネルの終わりの光となる」と開催への決意を改めて示したが、一方で委員からは世論を探る動きが出ている。

 副会長などを歴任した78歳の最古参委員で「ご意見番」的立場のディック・パウンド氏(カナダ)が今月上旬、英BBC放送(電子版)に五輪開催について「私は確信が持てない。誰も語りたがらないがウイルスは急増中だ」と述べた。同氏は昨年の延期決定前も、状況によっては中止も選択肢となることに早々と言及して議論を活性化させる役回りを演じた。五輪専門誌「アラウンド・ザ・リングス」のエド・フーラ編集長は「正確に物事を見通せる人物。バッハ氏とも考えは近い」と評する。

毎日新聞
2021年1月19日 21時06分
https://mainichi.jp/articles/20210119/k00/00m/050/225000c