コロナショック脱出のため、日本は財政赤字削減への執着を完全に捨て去らなければならない――。『財政赤字の神話 MMTと国民のための経済の誕生』を著した経済学者のステファニー・ケルトンが提言する。


日本人は幾度も危機を経験してきた。ここ20〜30年だけでも「バブル経済」の崩壊、原子力発電所のメルトダウン、大型台風、世界金融危機があり、そして今、グローバルなパンデミック(感染症の大流行)が引き起こした経済危機に直面している。

深刻な事態が起こるたびに、政策当局は財政政策(首相、財務相、国会議員による対応)と金融政策(中央銀行である日本銀行の対応)を組み合わせて対処してきた。今回もそうだが、日銀と政府が実質的に手を組み、強力なワンツーパンチを繰り出して経済を救おうとすることもある。

■日銀が貨幣を創造して景気を刺激せよ
1つ目のパンチは財政刺激策だ。景気をテコ入れするために、政府が支出を増やすと約束するのである。今回のコロナ禍では大幅な支出増加が必要だ。現代の資本主義経済を動かすのは、基本的に売り上げだ。新型コロナウイルス感染症の流行によって売り上げはとくに打撃を受けている。海外からの観光客は激減し、国内の居住者は外出自粛でショッピングモールやレストラン、バーなどでお金を落とさなくなっている。

売り上げ不振とは、企業から顧客、そして利益が消えていくことを意味する。まっとうな売り上げを維持するだけの顧客がいなければ、雇用主は従業員を解雇する、あるいは廃業するケースも出てくる。消費需要の低迷が長引けば、失業が増加し、最終的に経済は長く深刻な不況に陥る可能性もある。政府がコロナ対策に支出するのは、そうした事態が起こるのを防ぐためだ。

日本は景気後退に入り、しかもすでに先進国で最も多くの借金を抱えているのに、政府はどうやってそれだけの支出を賄うのか、と思うかもしれない。莫大な資金はどこから出てくるのか、と。

日本政府の銀行、つまり日銀が貨幣を創造するというのがその答えだ。政府による財政政策という1つ目のパンチを後押しするために、日銀は日本国債(およびその他の金融資産)を大量に買い入れ、金利を過去最低水準に維持してきた。そのおかげで政府は調達コストを気にすることなく、資金を必要なだけ確保できる。日本にそれが可能なのは高いレベルの「通貨主権」があるからだ。

日本政府は主権通貨(円)の「発行者」であるため、コロナ危機からの景気回復を支えるのに必要な財政支援策をすべて「賄える」だろうか、と心配する必要はまったくない。必要だと思う分だけ支出を確約できる。資金が枯渇することはありえない。また、必要な支出を賄うために徴税する、あるいは誰かから日本円を借り入れる必要も一切ない。

政府が課税によって経済から吸い上げる金額よりも支出する金額のほうが多いと、政府は「財政赤字」を出したと言われる。憂慮すべき事態に思えるかもしれないが、政府が赤字を出すのは悪いことではない。

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以下続きの見出し
■財政赤字は危機を脱する唯一の道
■MMTは日本ですでに現実になっている
■MMTを活用すれば、日本は

東洋経済 2020/10/19 8:20
https://toyokeizai.net/articles/-/381264