目の前の交渉相手を傷つける無神経な言葉

 もしあなたが交渉相手と向かい合っている時、相手がこんなことを言ったらどう感じるだろうか?

 「あなたは話を理解していますか?」

 そんなことが実際に起きた。言ったのは財務省近畿財務局の職員。言われたのは赤木雅子さん(49歳)。財務省の公文書改ざん事件で職員だった夫を亡くし、国などを相手に裁判を起こしている。

 夫はなぜ死に追い込まれたのか? どのように改ざんをさせられたのか? 改ざんを引き起こした森友学園への国有地値引きは正しかったのか? 真相を裁判で解明したいと望んでいる。その裁判の参考にするため、夫の公務災害認定の個人情報開示を求めている。

 その交渉で9月29日、赤木さんは代理人の弁護士2人とともに財務省近畿財務局を訪れた。そこで応対した職員からこんな風に問いかけられた。

「赤木さん、弁護士さんの話をすべて理解しているということでよろしいですか?」

 赤木さんは戸惑いながらも「はい、いいですよ」と答えた。すると職員はたたみかけるように、「もしもご自身と認識が違うところがあったら言ってください」

 これには赤木さんもさすがにあきれた。私が話を理解できないと思っているのか?

「あなたに言われる必要ないです。失礼です。目の前にいるんですよ?」

 個人情報の開示は原則として本人か法定代理人(親や後見人)しか手続きができない。だから本人が理解しているか念押しで確認したかったのだろう。でも、この言い方はないでしょう。

夫を亡くした妻は何もできないと思っている

 そういえば以前、こんなことがあった。夫が亡くなって、財務省の事務次官が自宅に弔問に訪れた時のこと。付き添いの職員が言った。

「一番偉い人ですよ。わかってます?」

 財務省の人たちは、赤木さんを何だと思っているのだろう? 夫を亡くした妻は、一人では何もわからない、何もできないと馬鹿にしているんだろうか? そうに違いない。だから赤木さんがどんなに「夫の死の真相を調べてほしい。改ざんについて再調査してほしい」と言っても、聞いてくれない。裁判でもまともに答えないし資料を出そうとしない。この日の交渉でも財務局は、赤木さんや弁護士が何を尋ねてもほとんどゼロ回答だった。

 夫(赤木俊夫さん)は近畿財務局で30年間勤めた。しかし妻の赤木雅子さんが夫の職場に入ったのは、結婚以来この日が初めてだった。だからせめて夫の机があった部屋を一目見せてほしい、という願いも受け入れられなかった。要望は何一つかなわなかった。

帰り際の一言でグサリ反撃

 「今日は改ざんの現場に踏み込んだので気持ちが重かったです。この建物で夫は改ざんしたんやなあって。この建物に改ざんを命令した上司の人たちがいるんやなあって。その人たちは毎日どんな気持ちで過ごしてるんやろうって。でも夫はここで30年働いてくれたんやって感謝します。働かせてくれた近畿財務局にも感謝してます。だから思うんです。改ざん自体は認めているのに、今更何をこんなに隠そうとしてるのか? 夫が亡くなって2年と半年以上が経っても、何も変わりません」

 帰る間際、赤木さんは見送りに出た財務局の職員に告げた。夫の直属の上司だった池田靖さんのこと。改ざんのため休日だった夫を職場に呼び出した上司のことを。

「池田さん、まだこの職場にいらっしゃいますよね。お元気ですか? 夫がお世話になりましたと、よろしくお伝えください」

 職員はこわばった表情を見せながらも、この要望には「わかりました。お伝えします」と答えたという。赤木さんは彼らのことも思いやった。

「あの人たちもまじめな公務員やと思うんですよ。夫もそうでした。まじめに上司の言うこときいていると、おかしくなるよって教えてあげたいです。まじめな公務員がおかしくなるような役所を変えてほしいです」

 赤木雅子さんの国との闘いは続く。次の裁判は10月14日、大阪地裁の大法廷で行われる。

ハーバービジネスオンライン
2020.10.03
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