「夫を失った一人の女性」対「オール国家権力」の闘い

 森友学園への国有地値引きをめぐる公文書の改ざんを命じられ、その後、命を絶った、財務省近畿財務局の上席国有財産管理官、赤木俊夫さん(享年54)。その妻、雅子さん(49)が今年3月、国などを相手に起こした裁判が、いよいよ7月15日に始まる。

 この裁判の原告は、もちろん赤木雅子さん。訴えられた被告は国と佐川宣寿元財務省理財局長なのだが、国が被告となる場合、必ずその代表者として時の法務大臣の名前を記すことになっている。訴状に書いてある今の法務大臣の名は「三好雅子」。それを見ながら私は赤木雅子さんに話しかけた。「雅子対雅子ですね」

 赤木雅子さんは「えっ」と驚いて尋ねた。「法務大臣は森まさこさんじゃないんですか? 名前はひらがなですよね」

 確かに法務大臣は「森まさこ」さん。だがこれは政治家が使う、いわゆる通称だ。法律上の文書には戸籍上の本名を使う。だから訴状には本名の「三好雅子」さんの名が書いてある。

 「でも、前の訴状には森まさこって書いてありましたよ?」と、さらに尋ねる雅子さん。雅子さんは提訴の2か月ほど前に弁護士を変えている。前の弁護士が用意した訴状の素案には確かに「森まさこ」と書いてある。本名を調べていなかったのだろうか? そこはよくわからない。だがこの裁判は間違いなく「雅子対雅子」の闘いだ。

 もちろん法務大臣が自ら法廷に立つわけではない。国が被告の裁判で国の代理人を務めるのは「訟務検事」で、実際に検事が務めることが多い。つまりこの裁判は「夫を失った一人の女性」対「国・財務省・検察のオール国家権力」の闘いなのだ。

雅子対雅子の裁判 再び提訴

 そしてきょう6日、「雅子対雅子」の裁判が再び火蓋を切った。赤木雅子さんが国を相手に新たに提訴したのだ。近畿財務局が情報開示の決定をしないのは違法だとして開示決定を求める裁判である。

 赤木雅子さんの夫、俊夫さんが亡くなったのは公務が原因の公務災害と認定されている。では、どうして公務災害と認定されたのか? 雅子さんは今年4月、近畿財務局に対し、公務災害補償通知書にかかわるすべての文書の開示を請求した。その文書を見れば、公務災害と認定された理由が改ざんにあるとわかり、3月に起こした裁判に役立つと考えたからだ。

 開示請求に対しては原則として30日以内に決定を出すと定められている。ところが近畿財務局は5月、新型コロナウイルスの影響を理由に、決定を1年先に延ばすと通知してきた。

 「それはあまりにも原則を逸脱してひどい。裁判対策で引き延ばしているとしか思えない」と赤木雅子さんと弁護団は受けとめ、今回、決定を1年も先延ばししたのは違法だとして、すみやかに決定を出すよう求める裁判を起こした。この裁判も「原告 赤木雅子、被告 国、代表者法務大臣 三好雅子」と記されている。雅子対雅子の闘い再び、である。

近畿財務局は「相当に悪質」「甚だ不誠実」

 今回の訴状には、別の裁判の判決が引用されている。森友学園への国有地巨額値引きに関する文書の開示請求に対し、近畿財務局が217件もの文書を開示しなかったことをめぐる裁判で、大阪地裁は今年6月、国に賠償を命じる原告勝訴の判決を言い渡した。その判決理由は国を厳しく断罪している。

「近畿財務局が保有していた行政文書を意図的に存在しないものとして扱い、本件処分(=不開示)を行ったというほかなく」

「国会審議において更なる質問につながり得る材料を極力少なくするという、国民主権の概念に反するともいうべき極めて不適切な動機の下で森友学園案件に関する応接録が廃棄されていた中で(中略)情報公開法の目的に反して意図的にこれら文書を不開示としたのであり、その違法行為の内容・態様は、相当に悪質であるといわざるを得ない」

「近畿財務局長の対応や被告(国)の応訴態度については、甚だ不誠実であったとの批判を免れない」

 裁判所がこれほど強い表現で国の対応を非難することはめったにない。きょう提出した訴状ではこれらの判決理由をすべて引用し、「本件も森友学園案件に関する情報開示請求という点で共通していることから、(開示決定を先延ばしする)理由が正当なものか否か疑わしい」と指摘している。


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相澤冬樹 | 大阪日日新聞編集局長・記者(元NHK記者)
7/6(月) 20:18
https://news.yahoo.co.jp/byline/aizawafuyuki/20200706-00186886/