安倍首相が具体的な検討作業に入ることを表明した「9月入学」の学校制度。

そもそもの出発点は、新型コロナウイルス感染拡大による休校長期化のおそれから、新学期を9月開始にせざるを得ないという教育現場の悲鳴だった。しかしその後、一部知事や政府、マスコミや評論家が「9月入学で今こそグローバル化」と旗を振り始めたことで、教育現場の声を置き去りにした議論が続いている。

いま子どもたちに必要なのは、1ヶ月以上にわたる休校で失った「学びの保障」だ。「性急な9月入学論はちょっと待って頂きたい」と語る東京工業大学の益一哉学長に緊急インタビューをした。

■「性急な9月入学論はちょっと待って頂きたい」

東京工業大学(以下、東工大)をはじめとした多くの大学では現在、講義をオンライン化することで学生の学修の機会を確保している。今年度の学事は来年3月で修了させることが基本で、3月以降に卒業時期を遅らせるという発想は大学側にはない。東工大においても現在、オンライン講義などで対応し、夏休みにも学生実験などの一部を開講することで今年度の学びは維持する予定だ。

ーー東工大では現在、4月と9月の入学制度がありますね?

益一哉氏:
はい。東工大では各学年、学士課程は約1100名、修士課程1800名、博士500名弱です。総数は1万人強ですが、去年9月に入学した学生は大学院を中心に約500名、卒業・修了したのは400名です。日本人もいますが、多くは留学生です。

ーーでは9月入学制度は賛成ですね。

益一哉氏:
まず、日本社会として9月入学をどう考えるのか議論が出来ていない状態で、東工大として賛成か反対かの意思表示は出来ません。今回取材を受けたのは、現実論的な対応策の1つを提示したいからです。新型コロナウイルス感染拡大下での性急な9月入学論は、ちょっと待って頂きたいということです。

■来年の大学・高校受験生と保護者は不安を感じている

ーー9月入学は今の社会システム自体を根本から変えることになりますが、議論が性急すぎて社会全体に理解が深まっているように見えません。

益一哉氏:
日本の社会システムに4月開始が定着していることを鑑みると、9月入学にするためには社会全体のコンセンサスが必要です。小中高校の休校があったからといって、すぐさまに9月入学へ舵を切るのは問題が多すぎます。今年から9月入学制度を導入するのは、まず誰を対象にしているのか不明ですし、今の高校3年生の大学入学を考えると土台無理な話です。これは中学3年生も同様と思われます。

ーー今回、9月入学を最初にツイッターで主張したのは都内の高校3年生でした。その後拡散され、大阪の高校3年生が署名運動も行いました。

益一哉氏:
来年の大学・高校の受験生には、授業もない中で自分達はどうなるのだろうとの不安があり、同様に保護者の方々も不安を抱えていると思います。その気持ちは痛いほど分かります。最近、大学では種々の観点から入学者を選抜するAO入試もありますが、能力評価の機会が限定されそうな中で、高校生は当然不安になっているのではないでしょうか。

また、今年度からセンター試験が共通テストに変わります。英語試験や記述式試験がどうなるかというのは、多くの受験生の気になるところであり、さらにコロナ禍の影響で本当に来年1月に共通テストが開催されるのか、仮に開催されるとしても、その出題範囲は前年度と同じ範囲が出題されるのかといった不安もあります。

2に続く

FNN
2020年5月18日 月曜 午後5:30
https://www.fnn.jp/articles/-/43170