千葉県を中心に大きな爪痕を残した台風15号の発生から1週間以上が経過したが、県内ではいまだ約3万戸(19日午前9時現在)が停電。被災者からは「もう限界」といった声が上がっている。政府の初動対応は妥当だったか――菅官房長官は「適切だ」と言い張るが、政権幹部の動静を追うと、多くは台風そっちのけだった。初動の遅れが原因で、「天災」が「人災」となったのは間違いない。

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 日刊ゲンダイは、台風が首都圏に上陸した9日から、経産省が「停電被害対策本部」を設置した13日までの安倍首相や閣僚、党幹部の行動をSNSなどでチェック。最もヒドイのが、安倍首相だった。

 安倍首相は9日午前中に気象庁長官と5分程度、面会しているが、以降は特段、災害対応とおぼしき動きはない。組閣当日の11日は関連式典に追われ、翌12日夜は日本歯科医師会のパーティーに出席。連日午後6時から8時半ごろには私邸に戻っている。唯一、午後11時すぎと遅い帰宅となった13日夜は、都内の高級ピザ店で秘書官と食事。災害対応の陣頭指揮を執った形跡は全く見られない。

■下村選対委員長は自著宣伝

 党役員人事で選対委員長に就任した下村博文氏はこの間、SNSなどで台風関連の発信は一切なかった。一方、役員人事が正式に決まる前日の10日、フェイスブックに〈先ほど安倍総理から電話をいただき党の選対委員長につくことになりました〉と“フライング”報告し、物議を醸した。12日には、公式ホームページで自著を宣伝。いかに自分のことしか考えていないかがよく分かる。

 外相から防衛相へ横滑りした河野太郎氏は9日、〈河野太郎さんなんでそんなにかっこいいん?〉との一般人のツイートに〈生まれつき〉と返答。どこで何をやっていたのか知らないが、随分と余裕をこいている。一方、防衛相就任後の11日以降、「台風情報」を連続投稿。いかにも不自然だ。幹事長代行に就いた稲田朋美氏は10日、北海道の利尻島で早朝ジョギングで一汗。防災担当の内閣府副大臣を経て官房副長官になったはずの西村康稔経済再生相に至っては、SNSで台風被害に初言及したのは13日のこと。内閣改造での“昇格”がよほどうれしかったのか、11日は大臣就任について連投するありさまだ。

 台風そっちのけだったのは明らかだが、菅官房長官は17日の会見で「(初動対応は)迅速かつ適切に行われた」と強弁。一方、東電が停電からの復旧見通しを二転三転させたことについてだけは、「復旧プロセスを厳格に検証すべき」と強調。まるで、「悪いのは東電」と言わんばかりなのだ。

「菅長官の発言は東電への責任転嫁と取られても仕方がありません。大規模災害でインフラが寸断された際、最終的には国をはじめとした行政が対応をしなければならないことは、東日本大震災などから学んできたはずです。私邸にこもりきりだった安倍首相など、政府の初動は明らかに遅く、組閣に夢中だったようにしか見えません」(高千穂大教授・五野井郁夫氏=国際政治学)

 検証すべきは政府の初動対応のズサンさだ。

日刊ゲンダイ
19/09/19 15:00
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/262050/