知事や市長の地位を駆け引きの道具に使って、揺さぶりをかけるような政治手法は認められない。

 大阪市を廃止して東京23区のような特別区に再編する大阪都構想をめぐり、松井一郎・大阪府知事と吉村洋文・大阪市長が任期途中で辞職した上で、改めて来春の統一地方選で府市の「ダブル選」を実施する構えを見せている。

 2人が率いる地域政党・大阪維新の会は来夏の参院選に合わせて都構想の是非を問う住民投票の実施を目指している。維新だけでは府市両議会の過半数に足らず投票が実現できないため、ダブル選をちらつかせることで公明に同調を迫っている。

 統一選の府議選、市議選が迫ったため、維新側がしびれを切らし強硬措置に出た形だ。松井氏はきのう、昨年4月に維新と公明が交わした「今任期中で住民投票を実施する」とする合意書を記者会見で公表し、「約束がほごにされ続け、信頼関係がなくなった」と主張した。公明とは衆院選で選挙協力をしてきたが、一転、公明への批判を鮮明にした。

 だが、都構想については2015年5月の住民投票でいったん否決されている。これにより市長だった橋下徹氏は敗北を認め政界を引退した。なぜそれを再び持ちだそうとするのかが、はっきりしない。

 昨年から改めて始まった法定協議会では4分割の区割り案で協議が進むが、移行に伴うコストや経済効果などの認識で各会派は対立し構想案は固まっていない。

 にもかかわらず、松井氏らが強気に出ている背景には25年国際博覧会(万博)の大阪誘致の成功があるようだ。「府市一体となったからできた。これを制度にするのが都構想だ」と主張するが、万博開催とは切り分けて考えるべきだ。

 ダブル選を来春の統一選にすれば、大阪府議選、市議選も合わせて四つの選挙が重なることになる。松井氏らは注目度を高めることで府市両議会とも維新勢力で過半数確保を目指そうとするだろう。

 ただ、そもそも首長選は幅広い政策課題を検討し地域のかじ取り役を選ぶものであるはずだ。シングルイシュー(単一の争点)に対する民意を問うためのものではない。首長選挙の乱用と言わざるをえない。

毎日新聞
2018年12月27日 東京朝刊
https://mainichi.jp/articles/20181227/ddm/005/070/083000c