自民党総裁選は、安倍晋三首相の26日の出馬表明を受け、6年ぶりの選挙戦になることが決まった。2012年に石破茂元幹事長に勝利し、無投票だった15年をまたいで5年8カ月の長期政権を築いた安倍首相を識者らはどう評価するのか。総裁選を前に、その手腕を採点してもらった。

 12年12月に政権奪還した安倍首相は「アベノミクス」を掲げ、大胆な金融緩和政策などによって株高を実現し、有効求人倍率などの指標を好転させた。一方で、安全保障関連法の整備は憲法解釈変更も含めて強硬に進め、今年の通常国会でも働き方改革関連法などを強引な採決で成立させた。森友、加計学園を巡る問題では昨年来、「お友達優遇」などと厳しい批判を浴びた。

 こうした手法を問題視する旧自治省出身で元総務相の片山善博・早稲田大大学院教授(政治学)は100点満点で20点を付けた。「安倍政権下で官僚が萎縮し、事なかれ主義に陥ってしまった」と厳しい。「日銀の独立性が失われ、かつては重みのあった内閣法制局の言葉も信頼されなくなった。国民に信頼される要素が、政治や行政の現場からどんどん失われている」と話した。

 精神科医の香山リカさんも15点と辛口評価。「問題が起きても『国民が忘れてくれる』という態度で閣僚や官僚が責任を取らない。政権批判をすれば、(政権支持者らからインターネット上などで)『非国民』『反日』などと、かつては使われなかった言葉で攻撃されるようになってしまった。良い面を考慮してもあまりある悪影響が社会に起きている」と懸念した。

 これに対し、子育て問題解決に取り組むNPO法人「フローレンス」代表理事の駒崎弘樹さんは70点の高評価。「女性の就労が経済成長につながるとして保育政策に力を入れてきた点は評価できる。待機児童解消も進めている」と話す。ただ、性的少数者(LGBTなど)を「生産性がない」とした杉田水脈衆院議員の発言などを例に、「人権や女性活躍から距離のある発言が与党から出ていることは残念」とした。

 世代・トレンド評論家の牛窪恵さんは50点と採点。「若い世代の就職率が上向き、若者の気持ちに余裕が芽生え、希望を持てるようになった」と評価。一方で、「社会保障への将来不安に抜本的な対策を取らず、長期政権なのに成長戦略として大胆な経済政策が取られていない」とした。首相が意欲を燃やす憲法改正にも「改正の先にどのような国を目指すかという理念が見えない」と語った。

 総裁選にはどのような論戦が望まれるだろうか。片山さんは「安倍政権のガバナンス(組織統治)能力の検証。首相への信頼度も争点」とし、駒崎さんは「人口減少社会で、現実的かつ未来に希望を持てるビジョンについての議論を期待したい」と述べた。【杉本修作】

毎日新聞
2018年8月26日 23時48分
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